説明

水硬性組成物用早強剤

【課題】混練後、養生なしに短期強度又は初期強度を向上させる、水硬性組成物用早強剤を提供する。
【解決手段】グリセリン等の特定の化合物(1)と、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとからなる水硬性組成物用早強剤であって、化合物(1)と無機塩Aのモル比が化合物(1)/無機塩Aで5/95〜45/55である水硬性組成物用早強剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用早強剤、水硬性組成物用添加剤組成物、水硬性組成物、水硬性組成物の製造方法、及び水硬性組成物の硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製品は、セメント、骨材、水、及び分散剤等の材料を混練し、様々な型枠に打設し、養生(硬化)工程を経て製品化される。初期材齢に高い強度を発現することは、生産性、即ち型枠の回転率の向上の観点から重要であり、そのために、(1)セメントとして早強セメントを使用する、(2)混和剤として各種ポリカルボン酸系化合物を使用してセメント組成物中の水量を減少させる、(3)養生方法として蒸気養生を行う、などの対策が講じられている。今日では、より高い生産性の要求等から、養生工程の更なる短縮化が望まれることがあり、例えば、コンクリート製品の製造において養生時間16時間で高い強度を発現することが必要な場合がある。通常、養生工程において、蒸気などの加熱作業工程など複雑な工程が組み込まれているが、これら工程の変更による初期強度の向上対策は実用的な手法とはなりにくい。そこで、工程変更を伴わずに簡単に初期強度の高いコンクリート製品が得られる方法が、製造コスト等の点から、市場では切望されている。
【0003】
また、通常、蒸気養生の養生時間の短縮化が図られているが、蒸気養生は蒸気使用に伴うエネルギーコストの高騰に繋がり、エネルギーコストの削減、即ち蒸気養生時間の短縮及び養生温度の低減の観点からも蒸気養生を行わない方法が切望されている。
【0004】
特許文献1には、鋼製の強化材の腐食を誘起又は促進することなく、低温において水硬セメント組成物の硬化時間を短縮する、硬化促進性混和剤として、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム等硬化促進剤成分、硬化促進剤成分の硬化促進性を増加させるのに有効な量で存在するC2ないしC6のグリコール成分よりなる混和剤が記載されている。特許文献2には、セメントの圧縮強さを向上させるために、1〜10重量%のアルカリ金属無機塩を含んでいる未処理グリセリンをセメント添加物として使用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−199555号公報
【特許文献2】特表2008−519752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、水硬性組成物を調製後、熱を加える養生をすることなしに調製後8時間程度でコンクリート製品等の水硬性組成物硬化体の強度を向上させる、即ち、短期早強性を向上させる水硬性組成物用早強剤を提供することであり、また、このような初期強度の向上を達成しつつ表面美観に優れたコンクリート製品等が得られる、水硬性組成物用早強剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物〔以下、化合物(1)という〕と、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとからなる水硬性組成物用早強剤であって、化合物(1)と無機塩Aのモル比が化合物(1)/無機塩Aで5/95〜45/55である水硬性組成物用早強剤に関する。
【0008】
【化1】


〔式中、Xは、ヒドロキシ基(OH)又はアミノ基(NH2)である。〕
【0009】
また、本発明は、グリセリンと、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとからなる水硬性組成物用早強剤であって、グリセリンと無機塩Aのモル比がグリセリン/無機塩Aで5/95〜45/55である水硬性組成物用早強剤に関する。
【0010】
また、本発明は、上記本発明の水硬性組成物用早強剤と分散剤とを含有する水硬性組成物用添加剤組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、上記本発明の水硬性組成物用早強剤と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有する水硬性組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、水硬性粉体に、上記化合物(1)、特にグリセリンと、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとを、化合物(1)/無機塩Aのモル比が5/95〜45/55となるように添加する工程を有する水硬性組成物の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、水硬性粉体に、骨材と、水と、上記化合物(1)特に、グリセリンと、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとを、化合物(1)/無機塩Aのモル比が5/95〜45/55となるように添加し、水硬性組成物を調製する工程と、得られた水硬性組成物を型枠に充填し硬化させる工程と、硬化した水硬性組成物を型枠から脱型する工程とを有し、水硬性組成物の調製を開始してから脱型するまでの時間が4〜10時間である水硬性組成物の硬化体の製造方法に関する。
【0014】
本発明は、化合物(1)として、Xがヒドロキシ基であるグリセリンを用いる態様と、Xがアミノ基である3−アミノ−1,2−プロパンジオールを用いる態様を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンクリートを調製後8時間程度で7N/mm2以上、好ましくは8N/mm2以上の強度を発現させる、即ち短期早強性を向上させる水硬性組成物用早強剤及びこれを用いた水硬性組成物用添加剤組成物が提供される。本発明の早強剤を用いると、短期早強性が向上し、養生時間の短縮により作業時間を短縮でき、コンクリート製品の生産性が向上する。しかも、こうした効果を、コンクリート製品製造現場の設備や工程の特別な変更なしに得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<水硬性組成物用早強剤>
本発明の水硬性組成物用早強剤は、化合物(1)とアルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとからなり、化合物(1)と無機塩Aのモル比が化合物(1)/無機塩Aで5/95〜45/55、水硬性組成物の短期早強性向上の観点から好ましくは10/90〜40/60、より好ましくは20/80〜40/60、更に好ましくは20/80〜30/70である。無機塩Aを2種以上用いる場合は、各無機塩のモル数の合計を無機塩Aのモル数としてモル比を計算する。化合物(1)と無機塩Aとをこの範囲のモル比で用いることで、養生なしに短期強度、例えばコンクリートを調製後8時間程度における水硬性組成物硬化体の強度を向上させることができる。
【0017】
無機塩Aは、水硬性組成物の短期早強性を向上の観点からアルカリ金属硫酸塩が好ましい。無機塩Aは水和物の形態をとっていても良い。水和物の形態をとっている無機塩Aを用いる場合の重量等は無水物に換算した値を用いる。塩を構成するアルカリ金属は、ナトリウム、カリウム、リチウムが挙げられ、水硬性組成物の短期早強性向上の観点からナトリウム及びリチウムが好ましい。無機塩Aとしては、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硫酸カリウム(K2SO4)、硫酸リチウム(Li2SO4)、チオ硫酸ナトリウム(Na223)、チオ硫酸カリウム(K223)、チオ硫酸リチウム(Li223)が挙げられ、水硬性組成物の短期早強性向上の観点から硫酸ナトリウム及び硫酸リチウムから選ばれる1種以上の無機塩であることが好ましく、硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0018】
本発明の効果発現の機構は不明であるが、化合物(1)と無機塩Aが相乗的に作用することで早期に強度が発現すると考えられる。具体的には、水硬性組成物の初期硬化では、該組成物中に含まれる石膏成分の溶解促進によるアルミネート(C3A)のエトリンガイトの生成と、エーライト(C3S)由来の水酸化カルシウムの生成及び析出の2種の反応が生じており、化合物(1)と無機塩Aが主として作用する反応が異なっており、化合物(1)がエトリンガイトの生成を、無機塩Aが水酸化カルシウムの生成及び析出に作用していると考えられる。これを反映して、初期強度が高い硬化体を与える、エトリンガイトの生成速度と水酸化カルシウムの生成速度に最適な比率は化合物(1)/無機塩Aのモル比によって支配されていることが観測される。
【0019】
化合物(1)としては、8時間後の強度発現の観点から、グリセリンが好ましい。
【0020】
本発明の水硬性組成物用早強剤は、硬化体の早期強度発現の観点から水硬性粉体100重量部に対する添加量が0.01〜10重量部となるように用いられることが好ましく、より好ましくは0.01〜5重量部、更に好ましくは0.05〜3重量部、より更に好ましくは0.1〜2重量部である。
【0021】
本発明の水硬性組成物用早強剤は、通常の早強剤と同様、水硬性組成物の調製時に水硬性粉体等と混合して使用できる。また、本発明の水硬性組成物用早強剤を含有させた水硬性粉体とし、これを用いて水硬性組成物を調製してもよい。
【0022】
本発明の水硬性組成物用早強剤は、リン酸エステル系重合体、ポリカルボン酸系共重合体、スルホン酸系共重合体、ナフタレン系重合体、メラミン系重合体、フェノール系重合体、リグニン系重合体等の分散剤として知られている成分と併用されることが好ましい。分散剤は他の成分を配合した混和剤であっても良い。
【0023】
本発明の水硬性組成物用早強剤は、各種セメントを始めとし、水和反応によって硬化性を示すあらゆる無機系の水硬性粉体に使用することができる。本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は粉末状でも液体状でもよい。液体状の場合は、作業性、環境負荷低減の観点から、水を溶媒ないし分散媒とするもの(水溶液等)が好ましい。
【0024】
本発明の水硬性組成物用早強剤は、取扱いを容易にする観点から、水溶液としても良い。その場合の濃度は無機塩Aの溶解性の観点から5〜50重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。
【0025】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。セメント以外の水硬性粉体として、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてよい。セメントと混合されたシリカヒュームセメントや高炉セメントを用いてもよい。
【0026】
<水硬性組成物用添加剤組成物>
本発明では、本発明の水硬性組成物用早強剤と分散剤とを含有する水硬性組成物用添加剤組成物を提供することができる。本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、化合物(1)と、無機塩Aと、分散剤とを含有し、化合物(1)と無機塩Aのモル比が化合物(1)/無機塩Aで5/95〜45/55である。化合物(1)としては、8時間後の強度発現の観点から、グリセリンが好ましい。分散剤はリン酸エステル系重合体、ポリカルボン酸系共重合体、スルホン酸系共重合体、ナフタレン系重合体、メラミン系重合体、フェノール系重合体、リグニン系重合体等の用いることができるが、水硬性組成物硬化体の短期早強性向上の観点から、リン酸エステル系重合体及びポリカルボン酸系共重合体が好ましい。
【0027】
リン酸エステル系重合体は、リン酸基を有する重合体であり、ポリオキシアルキレン基を有する重合体が好ましい。例えば、特開2006−52381に記載の化合物が挙げられる。即ち、下記一般式(C1)で表される単量体1と、下記一般式(C2)で表される単量体2と、下記一般式(C3)で表される単量体3とを、共重合して得られる重合体が挙げられる。
【0028】
【化2】

【0029】
〔式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、R3は水素原子又は−COO(AO)nX、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基又はオキシスチレン基、pは0又は1の数、nはAOの平均付加モル数であり、3〜200の数、Xは水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。〕
【0030】
【化3】

【0031】
〔式中、R4は水素原子又はメチル基、R5は炭素数2〜12のアルキレン基、m4は1〜30の数、Mは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(1/2原子)を表す。〕
【0032】
【化4】

【0033】
〔式中、R6及びR8は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、R7及びR9は、それぞれ独立に炭素数2〜12のアルキレン基、m5及びm6は、それぞれ独立に1〜30の数、Mは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(1/2原子)を表す。〕
【0034】
ポリカルボン酸系共重合体は、カルボキシル基を有する重合体であり、ポリオキシアルキレン基を有する重合体が好ましい。例えば、下記一般式(D1−1)で示される単量体(イ)と、下記一般式(D1−2)で示される単量体(ロ)とを構成単位として含む共重合体である。
【0035】
【化5】

【0036】
〔式中、
R13、R14:水素原子又は−CH3
R15:水素原子又は−COO(AO)nX
A2:炭素数2〜4のアルキレン基
X1:水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基
m’:0〜2の数
n’:2〜300の数
p’:0又は1の数
を示す。〕
【0037】
【化6】

【0038】
〔式中、
R16、R17、R18:同一でも異なっていてもよく、水素原子、−CH3又は(CH2)rCOOM2であり、(CH2)rCOOM2はCOOM1又は他の(CH2)rCOOM2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM1、M2は存在しない。
M1、M2:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基又は置換アルキルアンモニウム基
r:0〜2の数を示す。〕
【0039】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物において、化合物(1)及び無機塩Aの含有量の合計は、5〜95重量%が好ましく、より好ましくは10〜50重量%、更により好ましくは10〜30重量%、更により好ましくは15〜30重量%、更により好ましくは20〜30重量%である。脱型強度の向上、即ち短期早強性の向上の観点から5重量%以上が好ましく、また、製品の均一安定化の観点から95重量%以下が好ましい。
【0040】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、水硬性粉体100重量部に対して、化合物(1)及び無機塩Aの含有量の合計が0.01〜5重量部の割合で使用されることが好ましく、更に好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.1〜2重量部である。この使用量を目安として、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物中の化合物(1)及び無機塩Aの含有量を決めることができる。
【0041】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、コンクリートの流動性向上の観点から、水硬性粉体100重量部に対して、分散剤が0.01〜10重量部の割合で使用されることが好ましく、更に好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.2〜1重量部である。
【0042】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物においては、短期早強性の観点から、化合物(1)及び無機塩Aの含有量の合計と分散剤の総量の重量比が、分散剤/〔化合物(1)及び無機塩Aの含有量の合計〕=5/95〜96/4であることが好ましく、より好ましくは5/95〜65/35、更により好ましくは5/95〜50/50、更により好ましくは5/95〜30/70、更により好ましくは5/95〜20/80である。
【0043】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物においては、製品の扱いやすさの観点から、化合物(1)、無機塩A及び分散剤の合計含有量が当該組成物中10〜100重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜60重量%、更により好ましくは20〜40重量%である。
【0044】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、水硬性組成物の水硬性組成物の短期早強性向上の観点から、水硬性粉体100重量部に対して、化合物(1)、無機塩A及び分散剤の合計で0.1〜10重量部の割合で使用されることが好ましく、更に好ましくは0.2〜5重量部、より好ましくは0.2〜3重量部である。
【0045】
本発明の早強剤は、コンクリートやモルタル等に使用する水に予め溶解させて使用することができ、また予めセメント等の粉体に混合しておき使用することができ、また注水と同時に添加して使用することができ、また注水から練り上がりまでの間に添加することができ、また一旦練り上がったコンクリートもしくはモルタル等に後から添加して使用することもできる。また、本発明の早強剤を水溶性フィルム等によりコーティングした物を用い、コンクリートもしくはモルタル等を混練し、経時的に徐放させて使用することもできる。更に、本発明の早強剤を化合物(1)と無機塩Aに分け、各々を別々に添加して使用することもでき、その添加方法についても、上記のセメント粉体や使用する水等に混合するなど、必要に応じて、任意の方法で個別に使用することができる。更に、一旦練り上がったコンクリートもしくはモルタル等に後から添加する方法等、添加方法を工夫することで、初期強度発現が向上する場合もある。
【0046】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、各種セメントを始めとし、水和反応によって硬化性を示すあらゆる無機系の水硬性粉体に使用することができる。例えば、普通、早強、超早強、中庸熱、白色等のポルトランドセメントや、アルミナセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、シリカセメント等の混合セメントが挙げられる。また、フライアッシュや高炉スラグ等の潜在水硬性粉体と呼ばれる粉体にも使用することができる。更に、上記の粉体を任意の割合で2種以上併用した粉体についても使用可能である。本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は粉末状でも液体状でもよい。液体状の場合は、作業性、環境負荷低減の観点から、水を溶媒ないし分散媒とするもの(水溶液等)が好ましい。セメントは前述したものを用いることができる。
【0047】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、その他の添加剤を含有することもできる。例えば、樹脂石鹸、飽和もしくは不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、アルカンスルホネート、ポリオキシアルキレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシアルキレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステル(塩)、蛋白質材料、アルケニルコハク酸、α−オレフィンスルホネート等のAE剤;グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、クエン酸等のオキシカルボン酸系、デキストリン、単糖類、オリゴ糖類、多糖類等の糖系、糖アルコール系等の遅延剤;起泡剤;増粘剤;珪砂;塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、沃化カルシウム等の可溶性カルシウム塩、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物等、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸塩、蟻酸(塩)、アルカノールアミン等の本発明以外の早強剤又は促進剤;発泡剤;樹脂酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコーン、パラフィン、アスファルト、ワックス等の防水剤;高炉スラグ;流動化剤;ジメチルポリシロキサン系、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル系、鉱油系、油脂系、オキシアルキレン系、アルコール系、アミド系等の消泡剤;防泡剤;フライアッシュ;メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物系、アミノスルホン酸系等の高性能減水剤;シリカヒューム;亜硝酸塩、燐酸塩、酸化亜鉛等の防錆剤;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系、β−1,3−グルカン、キサンタンガム等の天然物系、ポリアクリル酸アミド、ポリエチレングリコール、オレイルアルコールのエチレンオキシド付加物もしくはこれとビニルシクロヘキセンジエポキシドとの反応物等の合成系等の水溶性高分子;(メタ)アクリル酸アルキル等の高分子エマルジョンが挙げられる。これらの成分は、水硬性組成物用分散剤に配合されていてもよい。
【0048】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、生コンクリート、コンクリート振動製品分野の外、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、石膏スラリー用、軽量又は重量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、地盤改良用、グラウト用、寒中用、空中打設コンクリートおよび、吹き付けモルタル等の種々のコンクリートの何れの分野においても有用である。
【0049】
<水硬性組成物>
本発明は、上記本発明の水硬性組成物用早強剤と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有する水硬性組成物を提供する。
【0050】
本発明の水硬性組成物は、水及び水硬性粉体(セメント)を含有する、モルタル、コンクリート等である。骨材として細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。骨材は、シリカ質鉱物(石英、クリストバライト、トリジマイト、オパール等)、ガラス(火山ガラス等)及びシリケート鉱物(雲母、粘土鉱物等)から選ばれる鉱物を含まない、もしくは含有量が少ないものが好ましい。具体的には、前記鉱物の含有量が5重量%以下、更には3重量%以下であるものが好ましい。
【0051】
該水硬性組成物は、水/水硬性粉体比〔スラリー中の水と水硬性粉体の重量百分率(%)、通常W/Pと略記されるが、粉体がセメントの場合、W/Cと略記される。〕が65重量%以下、更に60%以下、更に55%以下、より更に50%以下であることが好ましい。また、20%以上、更に30%以上が好ましい。従って、W/Pの範囲として、20〜65%、更に20〜60%、更に30〜55%、より更に30〜50%が好ましい。
【0052】
また、本発明の水硬性組成物は、必要に応じて、分散剤を含有することができる。よって、本発明の水硬性組成物は、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有する水硬性組成物であってよい。
【0053】
本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体に、化合物(1)と、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとを、化合物(1)/無機塩Aのモル比が5/95〜45/55となるように添加する工程を経て製造することができる。その場合、化合物(1)と無機塩Aの合計量が、水硬性組成物の短期早強性向上の観点から水硬性粉体100重量部に対し0.01〜10重量部であることが好ましく、0.2〜5重量部がより好ましく、0.2〜3重量部が更に好ましい。
【0054】
また、本発明では、上記本発明の水硬性組成物用早強剤と水硬性粉体と水と、更に、必要に応じて骨材及び/又は分散剤とを含有する水硬性組成物を硬化させてコンクリート製品等の水硬性組成物の硬化体を製造することができる。なかでも、早期強度の発現によって脱型時間を短くできる点で、水硬性組成物を型枠に充填し硬化させるコンクリート製品の製造に好適である。具体的な製造方法としては、水硬性粉体に、骨材と、水と、化合物(1)と、無機塩Aとを、化合物(1)/無機塩Aのモル比が5/95〜45/55、好ましくは10/90〜40/60、より好ましくは20/80〜40/60、更に好ましくは20/80〜30/70となるように添加し、水硬性組成物を調製する工程と、得られた水硬性組成物を型枠に充填し硬化させる工程と、硬化した水硬性組成物を型枠から脱型する工程とを有する水硬性組成物の硬化体の製造方法が挙げられる。本発明の早強剤を含有する水硬性組成物は、硬化を促進されるため、水硬性組成物の調製から脱型するまでの時間を短縮することが可能である。本発明では、水硬性組成物の調製を開始してから脱型するまでの時間、すなわち、水硬性粉体に水を接触させてから脱型するまでの時間は、脱型に必要な強度を得る観点と製造サイクルを向上する観点から4〜24時間が好ましく、本発明の早強剤による短期早強性の観点から4〜10時間がより好ましく、6〜10時間が更に好ましい。
【0055】
また、本発明の早強剤を含有する水硬性組成物は、硬化を促進するために蒸気加熱等のエネルギーを必要とせず、蒸気養生をしないでコンクリート製品等の水硬性組成物の硬化体を製造することも可能となる。蒸気養生をしないでコンクリート製品を製造する場合の水硬性組成物の調製で水硬性粉体に水を接触させてから脱型するまでの時間は、脱型に必要な強度を得る観点と製造サイクルを向上する観点から4〜24時間が好ましく、4〜16時間がより好ましく、4〜10時間がより好ましく、6〜10時間が更に好ましく、7〜9時間がより更に好ましい。脱型時のコンクリート製品の強度(JIS A 1108)は、脱型時の破損を生じない観点から、7N/mm2以上が好ましく、8N/mm2以上がより好ましい。
【0056】
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法は、コンクリート製品等の水硬性組成物の硬化体の生産性を向上させることから環境に対しても優れたものである。型枠を用いる水硬性組成物の硬化体としては、土木用製品では、護岸用の各種ブロック製品、ボックスカルバート製品、トンネル工事等に使用されるセグメント製品、橋脚の桁製品等が挙げられ、建築用製品では、カーテンウォール製品、柱、梁、床板に使用される建築部材製品等が挙げられる。
【実施例】
【0057】
<モルタルの調製及び評価>
(1)モルタルの調製
表1に示す配合条件で、モルタルミキサー((株)ダルトン製 万能混合撹拌機 型式:5DM-03-γ)を用いて、セメント(C)、細骨材(S)を投入し空練りを10秒行い、目標スランプ21±1cm、目標空気連行量2±1%となるよう、水硬性組成物用添加剤組成物(固形分25重量%の水溶液として用いた)を含む練り水(W)を加え、低速回転にて60秒、更に高速回転にて120秒間本混練りした。なお、早強剤と分散剤のセメント100重量部に対する添加量(重量部)は表2〜9の通りであり、表2〜9に示す添加量となるように練り水に添加して用いた。
【0058】
【表1】

【0059】
・セメント(C):普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)の普通ポルトランドセメント/住友大阪セメント(株)の普通ポルトランドセメント=1/1、重量比)、密度3.16g/cm3
・細骨材(S):城陽産、山砂、FM=2.67、密度2.56g/cm3
・水(W):水道水
【0060】
(2)モルタル評価
モルタルについて、以下に示す試験法にしたがって、脱型強度、スランプフローをそれぞれ評価した。評価結果を表2〜9に示した。
【0061】
(2−1)供試体強度の評価
JIS A 1132に基づき、円柱型プラモールド(底面の直径:5cm、高さ10cm)の型枠に、二層詰め方式によりモルタルを充填し、20℃の室内にて気中(20℃)養生を行い硬化させ供試体を作製した。モルタル調製から8時間後又は24時間後に硬化した供試体を型枠から脱型し、JIS A 1108に基づいて供試体の圧縮強度を測定した。参考例2〜4は表3の条件で蒸気養生を行った。蒸気養生にはMARUI社製三連式恒温湿潤養生槽試験機を用いた。
【0062】
圧縮強度は、基準品の強度に対する相対値を強度比(%)として表2〜9に併記した。基準と示した比較品は、早強剤を添加せず、分散剤のみを添加した系であり、下記フロー試験により測定されるフロー値が190〜250mmの範囲となるように分散剤の添加量を調整した。このフロー値の範囲であれば、分散性の違いによる初期強度への影響が小さいと考えられる。比較品以外で早強剤を添加するものでは、早強剤によるモルタルフローが低下すること考慮して分散剤の添加量を増加させた。ただし、分散剤の増加は初期強度を低下させる傾向があるので、基準の添加量に0.1重量部(対セメント100重量部)増加させることを限度とした。各表内(試験例番号の枝番号の前の番号が共通するもの)では同時期の評価結果であるが、評価時期の違いにより同じ早強剤及び分散剤を用いても強度に若干の差があったので、各表間で対比できるように表3〜8では強度比で供試体強度を示した。表4と5、表6と7は同時期の評価である。
【0063】
表3〜8についての強度比の求め方を具体的に説明すると、同時期の評価で分散剤(1)のみを用いた場合を100として同時期の評価結果内で相対強度を求め、次いで基準を表2の試験例1−7に定め、これと同じ条件でグリセリン、無機塩A、分散剤(1)を用いた表3〜5中の試験例2−8、3−17、4−7、5−3の強度の測定値について、それぞれの相対強度が同じ値(354)となるような係数をそれぞれ求め、この係数を各試験例の強度の測定値に乗じたものをそれぞれの補正後の測定値とし、それらを用いて各基準品の強度の測定値に対する相対値を算出した。従って、各表中、試験例1−7と試験例2−8、3−17、4−7、5−3は、相対強度の値が同じとなっている。
【0064】
(2−2)フロー試験
前記の方法にて調製したモルタルを、JIS R 5201に基づき、直ちにフローコーンに2層詰めし、フローコーンを正しく上の方に取り去り、最大と認める方向と、これに直角な方向の長さを測定した。尚、JIS R 5201記載の落下運動は行っていない。
【0065】
【表2】

【0066】
*試験例1−5〜1−9が本発明品であり、それ以外は比較品である。
【0067】
表2は、早強剤としてグリセリンと硫酸ナトリウムを用い、添加量を一定としてグリセリンと硫酸ナトリウムのモル比を変えた場合の評価結果である。本発明の早強剤は、グリセリン又は硫酸ナトリウムを単独で使用した時よりも8時間後の強度比が大きく、グリセリンと硫酸ナトリウムの特定モル比での併用による効果が顕著であることがわかる。
【0068】
【表3】

【0069】
*試験例2−7〜2−9が本発明品であり、それ以外は比較品である。
【0070】
表3は、本発明の早強剤と、一般に早強剤として使用されている塩化ナトリウム及びチオシアン酸カルシウムとを比較した評価結果である。本発明の早強剤は、添加量1.00重量部以上で8時間後の強度比が比較品よりも大きいことがわかる。また、本発明の早強剤を2.00重量部用いると20℃8時間の養生で、参考例で示した早強剤を使用せずに蒸気養生50℃3時間に匹敵する以上の強度が得られることがわかる。
【0071】
【表4】

【0072】
*試験例3−13及び3−17が本発明品であり、それ以外は比較品である。
【0073】
【表5】

【0074】
*試験例3−29及び3−33が本発明品であり、それ以外は比較品である。
【0075】
表4及び5は、グリセリンと種々の無機塩とを組み合わせた場合の評価結果である。本発明の早強剤は、8時間後の強度比がグリセリンと本発明に用いられる無機塩A以外の無機塩との組み合わせよりも大きく、本発明の組み合わせのみが短期早強性の向上効果が高いことがわかる。
【0076】
【表6】

【0077】
*試験例4−5及び4−7が本発明品であり、それ以外は比較品である。
【0078】
【表7】

【0079】
表中のものは全て比較品である。
【0080】
表6及び7は、種々のアルコールと硫酸ナトリウムとを組み合わせた場合の評価結果である。本発明の早強剤は、8時間後の強度比がグリセリン以外のアルコールと硫酸ナトリウムの組み合わせよりも大きく、本発明の組み合わせのみが短期早強性の向上効果が高いことがわかる。
【0081】
【表8】

【0082】
*試験例5−2〜5−4が本発明品であり、それ以外は比較品である。
【0083】
表8は、本発明の早強剤と、特開平6−199555号公報(特許文献1)に開示されている混和剤とを比較した場合の評価結果である。本発明の早強剤の8時間後の強度比が特許文献1の混和剤(試験例5−12〜5−14)よりも大きく、本発明の早強剤が短期早強性の向上効果が高いことがわかる。
【0084】
【表9】

【0085】
*試験例6−4、6−6が本発明品であり、それ以外は比較品である。
【0086】
表9は、種々の化合物と硫酸ナトリウムとを組み合わせた場合の評価結果である。本発明の早強剤は、8時間後の強度比が本発明の化合物(1)以外の化合物と硫酸ナトリウムの組み合わせよりも大きく、本発明の組み合わせのみが短期早強性の向上効果が高いことがわかる。また、本発明の早強剤は、24時間後の強度比も大きくなることがわかる。
【0087】
表2〜9中、添加量は、セメント100重量部に対する各成分の有効分(固形分)に基づくモルタルへの添加量(重量部)である。また、用いた成分は以下のものである。
・グリセリン(EO1):グリセリン1モルにエチレンオキサイドを平均1モル付加した付加物
・分散剤(1):マイテイ21HP(花王(株)製、一般式(D1−1)で示される単量体と一般式(D1−2)で示される単量体とを構成単位として含むポリカルボン酸系分散剤)
【0088】
また、各化合物の分子量は以下のものを用いた。
・Na2SO4:142.04
・Li2SO4:109.95
・K2SO4:174.27
・Na223:158.11
・Na2CO3:105.989
・NaNO3:84.99
・(NH42SO4:132.14
・CaSO4:136.14
・グリセリン:92
・ジエチレングリコール:106.12
・エチレングリコール:62.07
・トリエタノールアミン:149.19
・カテコール:142.04
・グリセリン(EO1):120
・フルフリルアルコール:98.1
・グリセリン酸:106.077
・グリセロリン酸:172.074
・1,2−プロパンジオール:76.09
・3−アミノ−1,2−プロパンジオール:91.11
・3−メトキシ−1,2−プロパンジオール:106.12

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物〔以下、化合物(1)という〕と、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとからなる水硬性組成物用早強剤であって、化合物(1)と無機塩Aのモル比が化合物(1)/無機塩Aで5/95〜45/55である水硬性組成物用早強剤。
【化1】


〔式中、Xは、ヒドロキシ基又はアミノ基である。〕
【請求項2】
化合物(1)が、一般式(1)中のXがヒドロキシ基の化合物である、請求項1記載の水硬性組成物用早強剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水硬性組成物用早強剤と分散剤とを含有する水硬性組成物用添加剤組成物。
【請求項4】
請求項1又は2記載の水硬性組成物用早強剤と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有する水硬性組成物。
【請求項5】
化合物(1)と無機塩Aの合計量が、水硬性粉体100重量部に対し0.01〜10重量部である請求項4記載の水硬性組成物。
【請求項6】
水硬性粉体に、下記一般式(1)で表される化合物と、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとを、下記一般式(1)で表される化合物/無機塩Aのモル比が5/95〜45/55となるように添加する工程を有する水硬性組成物の製造方法。
【化2】


〔式中、Xは、ヒドロキシ基又はアミノ基である。〕
【請求項7】
水硬性粉体に、骨材と、水と、化合物(1)と、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとを、化合物(1)/無機塩Aのモル比が5/95〜45/55となるように添加し、水硬性組成物を調製する工程と、得られた水硬性組成物を型枠に充填し硬化させる工程と、硬化した水硬性組成物を型枠から脱型する工程とを有し、水硬性組成物の調製を開始してから脱型するまでの時間が4〜10時間である水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【化3】


〔式中、Xは、ヒドロキシ基又はアミノ基である。〕
【請求項8】
水硬性組成物を型枠に充填し硬化させる工程で、蒸気養生をしない請求項7記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。

【公開番号】特開2011−153068(P2011−153068A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289286(P2010−289286)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】