説明

水硬性組成物用添加剤組成物

【課題】水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物において、良好なフレッシュ物性を確保しつつ、コスト面で妨げとなる練り上がり性や硬化物性を同時に満足できる添加剤組成物を提供する。
【解決手段】特定の共重合体(A)と、特定のグリコールエーテル系化合物及び特定のグリセリン誘導体系化合物から選ばれる化合物(B)とを含有し、水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物とともに用いられる、水硬性組成物用添加剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用添加剤組成物及び水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性組成物用混和剤の中で、流動性付与効果の大きい高性能減水剤と呼ばれているものがある。その代表的なものに、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物塩(ナフタレン系)、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物塩(メラミン系)、ポリオキシアルキレン鎖を有するポリカルボン酸系等がある。
【0003】
高強度水硬性組成物(以下、高強度コンクリートと表す)は、普通強度(一般強度)のコンクリートに比べ、水/水硬性粉体比(以下、水/セメント比と表す)の小さい配合組成で練り混ぜられて調製されている。かかる高強度コンクリート組成物には、その性質上一般に、練り混ぜに要する時間が長い、流動性の経時変化が大きい(時間とともに流動性が増大、低下する)、コンクリート粘性が高いなど課題がある。さらに、配合中の水硬性粉体の単位量が普通コンクリートに比べて多いため、所定の流動性を得るための高性能減水剤の添加量が必然的に多くなる。その結果、水硬性粉体の水和が遅くなり凝結などの硬化物性に大きな影響が出る。この高強度水硬性組成物を実用的に使用する場合、これらの問題の中で、特にコスト面に大きく影響するのは、生産性に関わる練混ぜ時間の増大と施工工程上律速となる硬化物性の影響の2点である。
【0004】
この練混ぜ時間や粘性増大の問題については、ポリカルボン酸系減水剤でもまだ十分解決されておらず、よりコンクリート粘性低減効果の高い添加剤が望まれている。また、硬化物性の改善に関しては、早強剤が提案されているがまだ十分ではない。
【0005】
このような背景から、特許文献1には、高鎖長のオキシアルキレン基と短鎖長のオキシアルキレン基と特定の単量体を含むビニル共重合体を必須成分とする、高強度コンクリートの粘性低減と凝結遅延の抑制に優れる混和剤が開示されている。また、特許文献2には、特定のリン酸エステル系重合体を含有する水硬性組成物用分散剤を提案している。また、特許文献3には、グリセリン又はグリセリン誘導体と特定のポリカルボン酸系共重合体とを含有するセメント用強度向上剤が開示されている。
【特許文献1】特開平11−157897号公報
【特許文献2】特開平2007−182364号公報
【特許文献3】特開平2006−282414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高強度領域のコンクリート等の水硬性組成物において、良好なフレッシュ物性を確保しつつ、コスト面で妨げとなる練り上がり性や硬化物性を同時に満足することであり、特に水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物にこのような効果を付与できる添加剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記化合物(1)、(2)及び(3)からなる群より選ばれる1種以上の共重合体(A)〔以下、(A)成分という〕と、下記一般式(B1)で表される化合物及び下記一般式(B2)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(B)〔以下、(B)成分という〕とを含有し、水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物とともに用いられる、水硬性組成物用添加剤組成物に関する。
【0008】
<化合物(1)>
下記一般式(A1)で示されるアルケニルエーテル誘導体と、下記一般式(A3)で示される単量体との共重合体またはその塩
1a(A2O)n12a (A1)
(式中、R1aは炭素数2〜4のアルケニル基、A2Oは炭素数2又は3のオキシアルキレン基、n1はA2Oの平均付加モル数であり、2〜200の数、R2aは炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0009】
【化10】

【0010】
〔式中、R5a〜R7aは、それぞれ独立に水素原子、メチル基または、(CH2p2COOM2、M1及びM2は、それぞれ独立に水素原子又は陽イオン、p2は0〜2の数を表す。〕
【0011】
<化合物(2)>
下記一般式(A2)で表される単量体(i)と、前記一般式(A3)及び下記一般式(A4)で表される化合物から選ばれる1種以上の単量体(ii)とを構成単位として含み、それらのモル比が(ii)/(i)=70/30〜95/5である共重合体。
【0012】
【化11】

【0013】
(式中、R3a及びR4aは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、p1は0〜2の数、A3Oは炭素数2又は3のオキシアルキレン基、n2はA3Oの平均付加モル数であり、100〜300の数、Xは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0014】
【化12】

【0015】
(式中、R8aは水素原子又はメチル基、Yは水素原子又は陽イオンを表す。)
【0016】
<化合物(3)>
下記一般式(A5)で表される単量体(iii)と、前記一般式(A3)及び前記一般式(A4)で表される化合物から選ばれる1種以上の単量体(ii)とを構成単位として含み、それらのモル比が(ii)/(iii)=60/40〜90/10である共重合体。
【0017】
【化13】

【0018】
(式中、R9a及びR10aは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、p3は0〜2の数、A4Oは炭素数2又は3のオキシアルキレン基、n3はA4Oの平均付加モル数であり、2〜90の数、Xは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0019】
【化14】

【0020】
(式中、R1bは、水素原子、メチル基又はエチル基であり、Zは−OH又は−O−CH2CH2−OHである。)
【0021】
【化15】

【0022】
(式中、A1Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、m1、m2及びm3は、それぞれA1Oの付加モル数を示し、m1、m2及びm3の合計の平均値は0.5〜2.5である。)
【0023】
また、本発明は、上記本発明の水硬性組成物用添加剤組成物と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有する水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物について、良好なフレッシュ物性を維持しつつ、生産性に優れた水硬性組成物硬化体、例えば高強度コンクリートが得られる、水硬性組成物用の添加剤組成物が提供される。本発明の添加剤組成物を用いると、水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物において、少ない練り時間で超高強度コンクリートが得られ、早強性に優れるため脱型時間を短縮できる、すなわち、工期の短縮にも繋がる。これらの効果により最終的には、工事のコスト削減に繋がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
<(A)成分>
(A)成分は、下記化合物(1)、(2)及び(3)からなる群より選ばれる1種以上の共重合体である。
<化合物(1)>
下記一般式(A1)で示されるアルケニルエーテル誘導体と、下記一般式(A3)で表される単量体との共重合体またはその塩
1a(A2O)n12a (A1)
(式中、R1aは炭素数2〜4のアルケニル基、A2Oは炭素数2又は3のオキシアルキレン基、n1はA2Oの平均付加モル数であり、2〜200の数、R2aは炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0026】
【化16】

【0027】
〔式中、R5a〜R7aは、それぞれ独立に水素原子、メチル基または、(CH2p2COOM2、M1及びM2は、それぞれ独立に水素原子又は陽イオン、p2は0〜2の数を表す。〕
【0028】
<化合物(2)>
下記一般式(A2)で表される単量体(i)と、前記一般式(A3)及び下記一般式(A4)で表される化合物から選ばれる1種以上の単量体(ii)とを構成単位として含み、それらのモル比が(ii)/(i)=70/30〜95/5である共重合体。
【0029】
【化17】

【0030】
(式中、R3a及びR4aは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、p1は0〜2の数、A3Oは炭素数2又は3のオキシアルキレン基、n2はA3Oの平均付加モル数であり、100〜300の数、Xは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0031】
【化18】

【0032】
(式中、R8aは水素原子又はメチル基、Yは水素原子又は陽イオンを表す。)
【0033】
<化合物(3)>
下記一般式(A5)で表される単量体(iii)と、前記一般式(A3)及び前記一般式(A4)で表される化合物から選ばれる1種以上の単量体(ii)とを構成単位として含み、それらのモル比が(ii)/(iii)=60/40〜90/10である共重合体。
【0034】
【化19】

【0035】
(式中、R9a及びR10aは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、p3は0〜2の数、A4Oは炭素数2又は3のオキシアルキレン基、n3はA4Oの平均付加モル数であり、2〜90の数、Xは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【0036】
〔化合物(1)〕
本発明の化合物(1)を構成するアルケニルエーテル誘導体の一般式(A1)に於いて、R1aで示される炭素数2〜4のアルケニル基として好ましくは、ビニル基、アリル基、メタリル基等であるが、アリル基が汎用的でありより好ましい。A2Oは、オキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基であり、付加形態は単独、ランダム、ブロック又は交互のいずれでもよい。好ましくはオキシエチレン基である。R2aは炭素数1〜3のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。コンクリートの分散性の観点から、メチル基が好ましい。
【0037】
アルキレンオキシドの平均付加モル数n1は、2〜200の範囲であり、フレッシュコンクリートの流動性付与と低粘性付与の観点から、2〜90が好ましく、10〜70がより好ましく、10〜50が更に好ましい。
【0038】
一般式(A3)で示される単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸系単量体、無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸系単量体、又はこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基を有していてもよいモノ、ジ、トリアルキルアンモニウム塩が好ましく、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸及びこれらのアルカリ金属塩である。
【0039】
本発明の化合物(1)は、これら一般式(A1)で表される単量体と一般式(A−3)で表される単量体との共重合体、好ましくはモル比が、一般式(A1)の単量体/一般式(A3)の単量体=25/75〜50/50である共重合体又はその塩である。一般式(A3)の単量体がマレイン酸の場合は無水物であってもよい。かかる化合物(1)の製造方法としては、特開平2−163108号、特開平5−345647号記載の方法等が挙げられる。
【0040】
また、化合物(1)の好ましい重量平均分子量は、フレッシュコンクリートの安定した流動性付与の観点から、3000〜30万、更には5000〜10万である。
【0041】
化合物(1)の一例として、マリアリムEKM、マリアリムAKM(日本油脂社製)やスーパー200(電気化学社製)が挙げられる。
【0042】
〔化合物(2)〕
本発明の化合物(2)は、炭素数2又は3のアルキレンオキシドを平均付加モル数で100〜300モル付加した前記一般式(A2)で表される単量体(i)と、前記一般式(A3)及び/又は(A4)、好ましくは一般式(A3)で表される単量体(ii)とを、(ii)/(i)=70/30〜95/5のモル比で共重合して得られる。フレッシュコンクリートの安定した初期流動性付与の観点から、単量体(i)におけるアルキレンオキシドの平均付加モル数n2は100〜300の範囲であり、100〜250が好ましく、100〜200が更に好ましく、100〜150がより更に好ましい。なお、化合物(2)を得るための単量体において、n2が異なる複数の単量体(i)を用いる場合は、全単量体(i)のn2の平均値が100〜300の範囲にあるように組成を調整する。例えば、2種の単量体(i)を用いる場合、一方はn2=100〜290、他方はn2’=100〜300で、n2≠n2’かつn2’≧n2+10であることが好ましく、n2’≧n2+30であることがより好ましく、n2’≧n2+50であることがより更に好ましい。更に、本発明の効果を損なわない範囲で、n2が100未満の単量体を併用することもできる。
【0043】
一般式(A2)で表される単量体(i)としては、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル基封鎖ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物や、(メタ)アクリル酸へのEO、PO付加物が好ましく用いられる。付加形態は単独、ランダム、ブロック又は交互のいずれでもよい。より好ましくはメトキシポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物であり、エチレンオキシド平均付加モル数が100〜200のメトキシポリエチレングリコールとメタクリル酸とのエステル化物が更に好ましい。
【0044】
一般式(A3)で示される単量体で示される単量体としては、前記化合物(1)で挙げたものが使用できる。
【0045】
一般式(A4)で示される単量体としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、又はこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキルアンモニウム塩が使用される。
【0046】
好ましくは、化合物(2)は、前記一般式(A2)で表される単量体(i)と、一般式(A3)及び(A4)で表される単量体の1種以上(ii)とを合わせて50重量%以上、更には80〜100重量%以上、より更には100重量%含有する単量体混合物を重合して得られる。
【0047】
化合物(2)を構成する一般式(A2)の単量体(i)と、一般式(A3)及び/又は一般式(A4)の単量体(ii)は、(ii)/(i)=70/30〜95/5のモル比で共重合され、フレッシュコンクリートの安定した初期流動性付与の観点から、(ii)/(i)で、好ましくは75/25〜95/5、より好ましくは80/20〜95/5、より更に好ましくは85/15〜95/5のモル比で共重合される。
【0048】
化合物(2)の重量平均分子量は、フレッシュコンクリートの安定した初期流動性付与の観点から、5000〜500000の範囲が良く、20000〜100000、更に30000〜85000の範囲が、フレッシュコンクリートの初期流動性付与効果により優れる。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ法(標準物質ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算)による。
【0049】
化合物(2)は公知の方法で製造できる。例えば、特開平7−223852号公報、特開平4−209737号公報、特開昭58−74552号公報の溶液重合法が挙げられ、水や炭素数1〜4の低級アルコール中、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の重合開始剤存在下、必要なら亜硫酸水素ナトリウムやメルカプトエタノール等を添加し、50〜100℃で0.5〜10時間反応させればよい。
【0050】
化合物(2)の原料として他の共重合可能なモノマーを併用でき、具体的には、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜12)エステル、(メタ)アクリルアミド、スチレン、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0051】
〔化合物(3)〕
本発明の化合物(3)は、炭素数2又は3のアルキレンオキシドを平均付加モル数で2〜90モル付加した前記一般式(A5)で表される単量体(iii)と、前記一般式(A3)及び/又は(A4)、好ましくは一般式(A3)で表される単量体(ii)とを、(ii)/(iii)=60/40〜90/10のモル比で共重合して得られる。フレッシュコンクリートの安定した流動性付与と流動保持性付与の観点から、単量体(iii)におけるアルキレンオキシドの平均付加モル数n3は2〜90の範囲であり、5〜70が好ましく、5〜50が更に好ましく、5〜40がより更に好ましい。なお、化合物(3)を得るための単量体混合物において、n3が異なる複数の単量体(iii)を用いる場合は、全単量体(d)のn3の平均値が2〜90の範囲にあるように組成を調整する。例えば、2種の単量体(iii)を用いる場合、一方はn3=2〜87、他方はn3’=2〜90で、n3≠n3’かつn3’≧n3+3であることが好ましく、n3’≧n3+5であることがより好ましく、n3’≧n3+10であることがより更に好ましい。更に、本発明の効果を損なわない範囲で、n3が90を超える単量体を併用することもできる。
【0052】
一般式(A5)で表される単量体(iii)としては、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル基封鎖ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物や、(メタ)アクリル酸へのEO、PO付加物が好ましく用いられる。付加形態は単独、ランダム、ブロック又は交互のいずれでもよい。より好ましくはメトキシポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物であり、EO平均付加モル数が2〜90のメトキシポリエチレングリコールとメタクリル酸とのエステル化物が更に好ましい。コンクリート中の耐塩性とコンクリートの低粘性の両立という観点から、EOの平均付加モル数は4〜80が好ましく、9〜40がより好ましい。
【0053】
一般式(A3)で示される単量体及び一般式(A4)で示される単量体としては、前記化合物(1)、(2)で挙げたものが使用できる。
【0054】
好ましくは、化合物(3)は、前記一般式(A5)で表される単量体(iii)と、一般式(A3)及び(A4)で表される単量体の1種以上(ii)とを合わせて50重量%以上、更には80〜100重量%以上、より更に100重量%含有する単量体混合物を重合して得られる。
【0055】
化合物(3)を構成する一般式(A5)の単量体(iii)と、一般式(A3)及び/又は一般式(A4)の単量体(ii)は、(ii)/(iii)=60/40〜90/10のモル比で共重合され、フレッシュコンクリートの安定した流動保持性付与の観点から、(ii)/(iii)で、好ましくは65/35〜90/10、より好ましくは65/35〜85/15、より更に好ましくは65/35〜80/20のモル比で共重合される。
【0056】
化合物(3)の重量平均分子量は、フレッシュコンクリートの流動性の点より5000〜500000の範囲が良く、20000〜100000、更に30000〜85000の範囲がフレッシュコンクリートの流動性により更に優れる。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ法(標準物質ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算)による。
【0057】
化合物(3)は公知の方法で製造できる。例えば、特開平7−223852号公報、特開平4−209737号公報、特開昭58−74552号公報の溶液重合法が挙げられ、水や炭素数1〜4の低級アルコール中、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の重合開始剤存在下、必要なら亜硫酸水素ナトリウムやメルカプトエタノール等を添加し、50〜100℃で0.5〜10時間反応させればよい。
【0058】
化合物(3)の原料として他の共重合可能なモノマーを併用でき、具体的には、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜12)エステル、(メタ)アクリルアミド、スチレン、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0059】
<(B)成分>
(B)成分は、前記一般式(B1)で表される化合物及び前記一般式(B2)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物である。
【0060】
一般式(B1)において、R1bは、水素原子、メチル基又はエチル基であり、Zは−OH又は−O−CH2CH2−OHである。一般式(B1)の化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール等が挙げられ、表面美観向上の観点から、ジエチレングリコール、1,2−ブタンジオールが好ましい。
【0061】
一般式(B2)において、A1Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、好ましくは炭素数2又は3のオキシアルキレン基、更に好ましくは炭素数2のオキシアルキレン基である。
【0062】
また、一般式(B2)中のm1、m2及びm3は、それぞれA1Oの付加モル数を示し、m1、m2及びm3の合計(m1+m2+m3)の平均値は、表面美観向上の観点から、0.5〜2.5、好ましくは0.5〜2.0、更に好ましくは0.5〜1.5である。
【0063】
一般式(B2)の化合物は、グリセリン及びグリセリンのアルキレンオキシド付加体(グリセリンのアルキレンオキシド1モル付加体、同2モル付加体、同3モル付加体…)の混合物として入手できる。すなわち、下記一般式(B2’)で表される化合物の混合物を使用できる。
【0064】
【化20】

【0065】
(式中、A1Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、m1’、m2’及びm3’は、それぞれA1Oの付加モル数であり、それぞれ0又は1以上の整数である。ただし、m1’、m2’及びm3’は、当該混合物におけるm1’、m2’及びm3’の合計の平均値が0.5〜2.5となる整数である。)
【0066】
その場合、当該混合物におけるグリセリンのアルキレンオキシド1〜3モル付加体(m1’、m2’及びm3’の合計が1〜3の整数である化合物)の合計の割合が、表面美観向上と製造コストの観点から、40重量%以上、更に50〜100重量%、より更に60〜100重量%であることが好ましい。また、当該混合物におけるグリセリンのアルキレンオキシド1モル付加体の割合は、同様の観点から、10重量%以上、更に20〜100重量%、更に20〜60重量%、より更に20〜40重量%が好ましく、グリセリンのアルキレンオキシド2モル付加体の割合は5重量%以上、更に10〜30重量%が好ましく、グリセリンのアルキレンオキシド3モル付加体の割合は0〜25重量%、更に0〜10重量%が好ましい。また、表面美観向上の観点から、当該混合物におけるグリセリン(アルキレンオキシド0モル付加体)の割合は、0〜60重量%、更に0〜40重量%、より更に0〜20重量%が好ましく、グリセリンのアルキレンオキシド4モル以上の付加体の割合は、0〜30重量%、更に0〜15重量%、より更に0〜5重量%が好ましく、グリセリンとグリセリンのアルキレンオキシド4モル以上の付加体の合計の割合は、60重量%以下、更に50重量%以下、より更に40重量%以下が好ましい。
【0067】
<水硬性組成物用添加剤組成物>
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物において、(A)成分の合計含有量は、有効分の濃度として、モルタル粘性の低下の観点から、5重量%以上が好ましく、また、製品の均一安定化の観点から50重量%以下が好ましい。従って、5〜50重量%が好ましく、更に好ましくは10〜40重量%、より好ましくは20〜35重量%である。
【0068】
フレッシュコンクリートの流動保持性付与の観点から、(A)成分は化合物(3)を含むことが好ましい。なかでも、化合物(3)の単独又は及び化合物(2)と化合物(3)の併用が好ましい。(A)成分中、化合物(3)が50重量%以上、更に50〜90重量%、より更に60〜80重量%であることが好ましい。また、化合物(2)は、早強性及び練り上がり性の向上と、低粘性及び流動保持性の維持の両立との観点から、(A)成分中、1〜40重量%、更に10〜35重量%、より更に20〜30重量%が好ましい。
【0069】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物において、(B)成分の含有量は、有効分の濃度として、脱型強度の向上の観点から、5重量%以上が好ましく、また、製品の均一安定化の観点から95重量%以下が好ましい。従って、5〜95重量%が好ましく、更に好ましくは10〜50重量%、更により好ましくは20〜30重量%である。
【0070】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物では、水硬性組成物の作業性と早強性の観点から、(A)成分の総量と(B)成分の総量の重量比が有効分換算で(A)/(B)=30/70〜99/1であることが好ましく、更に好ましくは45/55〜97/3、更により好ましくは50/50〜90/10である。
【0071】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物では、当該水硬性組成物用添加剤組成物の計量等、取り扱い性の観点から、(A)成分と(B)成分の合計含有量が有効分換算で10〜100重量%であることが好ましく、更に好ましくは10〜60重量%、より好ましくは15〜40重量%、より更に好ましくは20〜40重量%である。
【0072】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、水硬性組成物の作業性と早強性の観点から、水硬性粉体に対して、(A)成分(有効分)と(B)成分(有効分)の合計で0.1〜10重量%の割合で使用されることが好ましく、更に好ましくは0.2〜5重量%、より好ましくは0.2〜3重量%である。
【0073】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、水硬性組成物の流動性の観点から、水硬性粉体に対して、(A)成分(有効分)が0.01〜10重量%の割合で使用されることが好ましく、更に好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.1〜2重量%である。
【0074】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、水硬性組成物の早強性の観点から、水硬性粉体に対して、(B)成分(有効分)が0.01〜1重量%の割合で使用されることが好ましく、更に好ましくは0.05〜0.7重量%、より好ましくは0.1〜0.5重量%である。
【0075】
本発明の添加剤組成物は、水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物用の添加剤組成物であり、このような超高強度領域の水硬性組成物において初期流動性(スランプフロー値)と早硬性の両立が図れる機構は、(B)成分のセメント鉱物への吸着性と(A)成分によってコンクリートに流動性が付与されるタイミングにある。例えば、グリセリンにエチレンオキサイド(以下、EOと表記する)を付加することで水との親和性が高まり、セメントへの吸着が遅れる。そのため、(A)成分による分散効果が十分に発現したところで(B)成分がセメント鉱物に作用するため、早強性が発現したとしても大きく分散性が損われる事はない。但し、グリセリンへのEO付加モル数が大きすぎるとセメントへの吸着作用が弱まり、早強性は得られない。また、一般コンクリートは30秒程度の短い混練り時間で製造されるのに対し、本発明の対象とする水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物では、混練り時間はかなり長くなる(例えば、後述の実施例のように8分間)。こうした長時間の混練では、EOを付加しないグリセリンは、セメントへの吸着が早すぎるため、混練初期にセメントに吸着し、長時間の混練により早強性に関与するセメント鉱物の形態が変化してしまう。これらが相まって、水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物では、グリセリン本来の早強効果が弱まってしまうと考えられる。そのため、初期流動性もある程度大きくなると考えられる。
【0076】
<(C)成分>
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、上記(A)成分、(B)成分を含有するものであり、更に(C)成分として、下記一般式(C1)で表される単量体1と、下記一般式(C2)で表される単量体2と、下記一般式(C3)で表される単量体3とを、pH7以下で共重合して得られるリン酸エステル系重合体(C)を含有することができる。
【0077】
【化21】

【0078】
〔式中、R1c及びR2cは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、R3cは水素原子又は−COO(AO)nX、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基又はオキシスチレン基、pは0又は1の数、nはAOの平均付加モル数であり、3〜200の数、Xは水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。〕
【0079】
【化22】

【0080】
(式中、R4cは水素原子又はメチル基、OR5cは炭素数2〜12のオキシアルキレン基、m4は1〜30の数、Mは水素原子又は陽イオンを表す。)
【0081】
【化23】

【0082】
(式中、R6c及びR8cは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、OR7c及びOR9cは、それぞれ独立に炭素数2〜12のオキシアルキレン基、m5及びm6は、それぞれ独立に1〜30の数、Mは水素原子又は陽イオンを表す。)
【0083】
本発明の(C)成分は、単量体1と、単量体2及び単量体3を含む混合単量体とを、pH7以下で共重合して得られるリン酸エステル系重合体であってもよい。
【0084】
[単量体1]
単量体1について、一般式(C1)中のR3cは水素原子が好ましく、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基が好ましく、エチレンオキシ基(以下、EO基)を含むことがより好ましく、EO基が70モル%以上、更に80モル%以上、更に90モル%以上、より更に全てがEO基であることが好ましい。また、Xは水素原子又は炭素数1〜18、更に1〜12、更に1〜4、更に1又は2のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。具体的には、ω−メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステル、ω−メトキシポリオキシアルキレンアクリル酸エステル等を挙げることができ、ω−メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステルがより好ましい。ここで、一般式(C1)中のnは、重合体の水硬性組成物に対する分散性と低粘性付与効果の点で、3〜200であり、好ましくは4〜120である。また、平均n個の繰り返し単位中にAOが異なるもので、ランダム付加又はブロック付加又はこれらの混在を含むものであっても良い。AOは、EO基以外にもプロピレンオキシ基等を含むことができる。
【0085】
[単量体2]
単量体2としては、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステル、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)アクリル酸エステル、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートアシッドリン酸エステル等が挙げられる。中でも、製造の容易さ及び製造物の品質安定性の観点から、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルが好ましい。
【0086】
[単量体3]
単量体3としては、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステル、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)アクリル酸〕エステル等が挙げられる。中でも、製造の容易さ及び製造物の品質安定性の観点から、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルが好ましい。
【0087】
単量体2及び単量体3の何れも、これらの化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などであっても良い。
【0088】
単量体2のm4並びに単量体3のm5及びm6は、(C)成分の水硬性粉体に対する吸着性の観点から、それぞれ1〜20が好ましく、1〜10が更に好ましく、1〜5がより好ましい。
【0089】
単量体2及び単量体3として、これらを含む混合単量体を用いることができる。すなわち、モノエステル体とジエステル体とを含む市販品を使用することができ、例えば、ホスマーM、ホスマーPE、ホスマーP(ユニケミカル)、JAMP514、JAMP514P、JMP100(何れも城北化学)、ライトエステルP−1M、ライトアクリレートP−1A(いずれも共栄社化学)、MR200(大八化学)、カヤマー(日本化薬)、Ethyleneglycol methacrylate phosphate(アルドリッチ試薬)などとして入手できる。
【0090】
また、単量体2及び単量体3を含む混合単量体は、例えば、一般式(C4)で表される有機ヒドロキシ化合物と無水リン酸(P25)及び水を所定の仕込み比で反応させることで、反応生成物として製造することができる。
【0091】
【化24】

【0092】
(式中、R11cは水素原子又はメチル基、OR12cは炭素数2〜12のオキシアルキレン基、m7は1〜30の数を表す。)
【0093】
一般式(C4)中のm7は、1〜20が好ましく、1〜10が更に好ましく、1〜5がより好ましい。
【0094】
単量体2及び単量体3は、不飽和結合とヒドロキシル基を有する単量体のリン酸エステル化物であり、上記の市販品や反応生成物にはモノエステル体(単量体2)とジエステル体(単量体3)以外の化合物を含んでいる事が確認されている。それらの他の化合物は、重合性、非重合性のものが混在していると考えられるが、本発明ではこのような混合物をそのまま使用することができる。
【0095】
上記の通り、工業的には、通常、リン酸エステル単量体は、モノエステル体(単量体2)とジエステル体(単量体3)を含む混合物として入手できる。このうち、ジエステル体は架橋により高分子量化(ゲル化)しやすいため、その性質を利用した分野、例えば増粘剤、接着剤、被覆剤等の用途では、このような混合物を製造上の制限をあまり受けることなく好適に使用できる。一方、水硬性組成物用の混和剤(分散剤、減水剤等)では、リン酸基を含む重合体は水硬性物質に対する吸着力に優れるため好ましいが、高分子量化すると分散性や粘性低減化効果が低下し、取り扱い性の点でも好ましくない。しかしながら、水硬性組成物の用途や経済的な性質からして、かかるリン酸エステルの混合物からモノエステル体とジエステル体とを分離して原料とすることは工業的に不利である。
【0096】
流動性及び粘性低減性の観点からは、モノエステル体を多く含有しているリン酸エステルの混合物を用いる方が良好であるが、ジエステル体を多く含有する場合でも、単量体1との共重合モル比を制御することで、流動性や粘性低減性を調整することができる。
【0097】
また、単量体2及び3として、前記一般式(C4)で表される有機ヒドロキシ化合物とリン酸化剤とを反応させて得られるリン酸エステル(Y)を用いることができる。すなわち、本発明では、(C)成分の共重合体として、以下の(X)と(Y)とを、pH7以下で共重合して得られるリン酸エステル系共重合体を用いることができる。
(X)前記一般式(C1)で表される単量体1。
(Y)前記一般式(C4)で表される有機ヒドロキシ化合物とリン酸化剤とを反応させて得られるリン酸エステル。
【0098】
このリン酸エステル(Y)は、一般式(C4)で表される有機ヒドロキシ化合物をリン酸化剤でリン酸化することで得られる。
【0099】
リン酸化剤としては、オルトリン酸、五酸化リン(無水リン酸)、ポリリン酸、オキシ塩化リン等が挙げられ、オルトリン酸、五酸化リンが好ましい。これらは単独でも2種以上を組み合わせて用いることも出来る。また、後記のリン酸化剤(Z)も好ましい。本発明において、有機ヒドロキシ化合物とリン酸化剤とを反応させる際のリン酸化剤の量は目的とするリン酸エステル組成に応じ適時決めることができる。
【0100】
リン酸エステル(Y)は、有機ヒドロキシ化合物とリン酸化剤とを、下記式(I)で定義された比率が2.0〜4.0、更に2.5〜3.5、より更に2.8〜3.2の条件下に反応させることで得られたものが好ましい。
【0101】
【数1】

【0102】
本発明では、式(I)においては、リン酸化剤を便宜的にP25・n(H2O)として扱うものとする。
【0103】
更に、リン酸化剤は、五酸化リン(Z−1)並びに水、リン酸及びポリリン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種(Z−2)を含むリン酸化剤〔以下、リン酸化剤(Z)という〕が好ましく、この場合も、式(I)においては、五酸化リン(Z−1)と、水、リン酸及びポリリン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種(Z−2)とを含むリン酸化剤(Z)を、便宜的にP25・n(H2O)として扱うものとする。
【0104】
また、式(I)で定義されたリン酸化剤のモル数とは、原料として反応系に導入されるリン酸化剤、なかでもリン酸化剤(Z)に由来するP25単位の量(モル)を示す。また、水のモル数とは、原料として、反応系に導入されるリン酸化剤(Z)に由来する水(H2O)の量(モル)を示す。即ち、水には、ポリリン酸を(P25・xH2O)と、オルトリン酸を〔1/2(P25・3H2O)〕として表した場合の水を含めた反応系内に存在する全ての水が含まれる。
【0105】
また、有機ヒドロキシ化合物にリン酸化剤を添加する際の温度は20〜100℃が好ましく、40〜90℃が更に好ましい。また、反応系へのリン酸化剤の添加に要する時間(添加開始から添加終了までの時間)は0.1時間〜20時間が好ましく、0.5時間〜10時間が更に好ましい。
【0106】
リン酸化剤投入後の反応系の温度は20〜100℃が好ましく、40〜90℃が更に好ましい。なお、共重合は、後述のリン酸エステル系重合体の製造方法に基づき行うことができる。
【0107】
リン酸化反応終了後は、生成したリン酸の縮合物(ピロリン酸結合を有する有機化合物やリン酸)を加水分解により低減しても良く、又加水分解を行わなくても、本発明のリン酸エステル系重合体製造用のモノマーとしては好適である。
【0108】
本発明の(C)成分であるリン酸エステル系重合体は、重量平均分子量(Mw)が10,000〜150,000であることが好ましい。また、Mw/Mnが1.0〜2.6であることが好ましい。ここでMnは数平均分子量である。分散効果の発現や粘性低減効果の観点から、Mwが10,000以上が好ましく、より好ましくは12,000以上、更に好ましくは13,000以上、更に好ましくは14,000以上、より更に好ましくは15,000以上で、架橋による高分子量化、ゲル化の抑制や性能面では分散効果や粘性低減効果の観点から、150,000以下が好ましく、より好ましくは130,000以下、更に好ましくは120,000以下、更に好ましくは110,000以下、より更に好ましくは100,000以下であり、従って、前記両者の観点から、好ましくは12,000〜130,000、より好ましくは13,000〜120,000、更に好ましくは14,000〜110,000、より更に好ましくは15,000〜100,000である。この範囲のMwを有し、かつMw/Mnが1.0〜2.6であることが好ましい。ここに、Mw/Mnの値は分子量分布の分散度を示し、1に近いほど分子量分布が単分散に近づき、1から離れる(大きくなる)ほど分子量分布が広くなることを意味する。
【0109】
上記のようなMw/Mn値を持つ本発明に係るリン酸エステル系重合体は、ジエステル構造に基づく分岐構造を有する重合体でありながら、分子量分布が非常に狭いという大きな特徴がある。このような本発明のリン酸エステル系重合体は後述する製造方法により好適に製造できる。
【0110】
上記のような本発明に係るリン酸エステル系重合体のMw/Mnは、実用的な製造容易性、分散性、粘性低減効果、及び材料、温度に対する汎用性を確保する観点から、1.0以上であり、分散性及び粘性低減効を両立する観点から、2.6以下であり、好ましくは2.4以下、より好ましくは2.2以下、更に好ましくは2.0以下、より更に好ましくは1.8以下であり、前記2点を総合した観点から、好ましくは1.0〜2.4、より好ましくは1.0〜2.2、更に好ましくは1.0〜2.0、より更に好ましくは1.0〜1.8である。
【0111】
本発明に係るリン酸エステル系重合体のMw及びMnは、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定されたものである。なお、本発明におけるリン酸エステル系重合体のMw/Mnは、該重合体のピークに基づいて算出されたものとする。
[GPC条件]
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.2mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算
【0112】
上記のようなMw/Mnを満たすリン酸エステル系重合体は、ジエステル体である単量体3による架橋を抑制することにより適度な分岐構造となり、分子内に密に吸着基が存在する構造を形成するものと考えられる。また分散度Mw/Mnを所定範囲に抑制することで同一サイズの分子が単分散した系に近づくため、吸着対象物質(例えばセメント粒子)に対する吸着量も多くすることが可能と考えられる。この両者を満足することで、セメント粒子等の吸着対象物質に密にパッキングすることが可能となり、分散性と粘性低減効果の両立に有効であると推定している。
【0113】
また、上記条件でのGPC法で得られる分子量分布を示すチャートのパターンにおいて、分子量10万以上の面積が当該チャート全体の面積の5%以下であることが、分散性(必要添加量低減)や粘性低減効果の点でより好ましい。
【0114】
なお、本発明に係るリン酸エステル系重合体は、下記条件の1H−NMRにより、単量体由来の二重結合が消失していることから、単量体1、2及び3にそれぞれ由来する構成単位を有すると推定される。
1H−NMR条件]
水に溶解した重合体を減圧乾燥したものを3〜4重量%の濃度で重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定する。二重結合の残存率は、5.5〜6.2ppmの積分値により測定される。なお、1H−NMRの測定は、Varian社製「Mercury 400 NMR」を用い、データポイント数42052、測定範囲6410.3Hz、パルス幅4.5μs、パルス待ち時間10s、測定温度25.0℃の条件で行った。
【0115】
すなわち、上記のようなMw/Mn値を持つリン酸エステル系重合体は、その構成単位として、単量体1由来の構成単位、単量体2由来の構成単位及び単量体3由来の構成単位を含む。これらの構成単位は、単量体1、2、及び3のエチレン性不飽和結合が開裂して付加重合することにより重合体中に取り込まれた各単量体由来の構成単位である。重合体中のこれら構成単位の比率は、仕込み比率に依存し、共重合に用いる単量体が単量体1〜3のみの場合、各構成単位のモル比は、単量体の仕込みモル比とほぼ一致すると考えられる。
【0116】
《リン酸エステル系重合体の製造方法》
上記本発明に係るリン酸エステル系重合体は、単量体1と、単量体2と、単量体3とを、pH7以下で共重合するリン酸エステル系重合体の製造方法によって製造することができる。また、単量体2及び単量体3を含有する混合単量体を用いることが好ましい。
【0117】
本発明に係るリン酸エステル系重合体は、前記一般式(C1)で表されるオキシアルキレン基を有する単量体1と、リン酸基を有する前記一般式(C2)で表される単量体2と、前記一般式(C3)で表される単量体3とを共重合して得られる重合物である。
【0118】
単量体1〜3の好ましいものはそれぞれ前記の通りであり、また前記した市販品や反応生成物を使用することもできる。
【0119】
単量体の共重合に際しては、単量体1と、単量体2、3とのモル比は、単量体1/(単量体2+単量体3)=5/95〜95/5、更に、10/90〜90/10が好ましい。また、単量体1と単量体2と単量体3のモル比は、単量体1/単量体2/単量体3=5〜95/3〜90/1〜80/、更に5〜96/3〜80/1〜60(ただし合計は100である)が好ましい。なお、単量体2と単量体3については、酸型の化合物に基づきモル比やモル%を算出するものとする(以下、同様)。
【0120】
また、本発明では、反応に用いる全単量体中、単量体3の比率を1〜60モル%、更に1〜30モル%とすることができる。
【0121】
また、単量体2と単量体3のモル比を、単量体2/単量体3=99/1〜4/96、更に99/1〜5/95とすることができる。
【0122】
以下、ゲル化抑制、好適分子量の調整及び分散剤としての性能設計の観点から、更に好ましい製造条件を説明する。このような観点から、本発明では、共重合の際に、単量体1〜3の合計モル数に対して4モル%以上、更に6モル%以上、より更に8モル%以上の連鎖移動剤を使用することが好ましい。また、連鎖移動剤の使用量の上限は、単量体1〜3の合計モル数に対して好ましくは100モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは30モル%以下、より更に好ましくは15モル%以下とすることができる。更に詳しくは、
(1)単量体1のnが3〜30の場合で、
(1−1)単量体2と単量体3の単量体1〜3中のモル比が50モル%以上の場合は、連鎖移動剤は、単量体1〜3に対して6〜100モル%、更に8〜60モル%を用いるのが好ましく、
(1−2)単量体2と単量体3の単量体1〜3中のモル比が50モル%未満の場合は、連鎖移動剤は、単量体1〜3に対して4〜60モル%、更に5〜30モル%を用いるのが好ましく、
(2)単量体1のnが30超の場合は、連鎖移動剤は、単量体1〜3に対して6〜50モル%、更に8〜40モル%を用いるのが好ましい。
【0123】
本発明の(C)成分を得るための製造方法においては、単量体2と3の反応率は60%以上、更に70%以上、更に80%以上、更に90%以上、更に95%以上であることが好ましく、連鎖移動剤の使用量は、この観点から選定することができる。ここに、単量体2と3の反応率は、下記の式によって算出する。
【0124】
【数2】

【0125】
なお、反応開始時と反応終了時の反応系中のリン含有化合物中の単量体2と単量体3の割合(モル%)は、前記の1H−NMRの測定結果に基づき算出することができる。
【0126】
本発明に係るリン酸エステル系重合体の製造においては、上記単量体1〜3の他に、共重合可能なその他の単量体を用いることができる。共重合可能な他の単量体としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、これら何れかのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又はアミン塩を挙げることができる。また、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などのカルボン酸系単量体を挙げることができ、またこれらの何れか1種以上のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、メチルエステル、エチルエステルや無水マレイン酸などの無水化合物であっても良い。更に、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリルアミド−2−メタスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−エタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−プロパンスルホン酸、スチレン、スチレンスルホン酸などが挙げられる。全単量体中、単量体1〜3の合計の割合は、30〜100モル%、更に50〜100モル%、より更に75〜100モル%が好ましく、更に、分散剤としての性能を達成する観点からは、95モル%超〜100モル%、更に97〜100モル%、より更に100モル%とすることが好ましい。
【0127】
なお、本発明の(C)成分を得るための製造方法において、単量体1〜3の反応温度は、40〜100℃、更に60〜90℃が好ましく、反応圧力はゲージ圧で101.3〜111.5kPa(1〜1.1atm)、更に101.3〜106.4kPa(1〜1.05atm)が好ましい。
【0128】
また、適当な溶媒により調製した上記単量体2及び/又は単量体3を含有する単量体溶液を、所定量の連鎖移動剤の存在下で、他の単量体とpH7以下で共重合させることが好ましい。また、共重合可能な他の単量体や重合開始剤等を用いてもよい。
【0129】
本発明の(C)成分は、単量体1、単量体2、単量体3をpH7以下で反応させて得られる。反応途中(反応開始時〜反応終了時)で採取した反応液の20℃でのpHが7以下であればよい。通常は、反応中のpHが7以下となることが明らかな条件(単量体比率、溶媒、その他の成分等)で反応を開始すればよい。
【0130】
なお、反応系が非水系の場合は、pH測定可能な量の水を反応系に加えて測定することができる。
【0131】
[連鎖移動剤]
連鎖移動剤は、ラジカル重合における連鎖移動反応(成長しつつある重合体ラジカルが他の分子と反応してラジカル活性点の移動が起こる反応)をもたらす機能を有し、連鎖単体の移動を目的として添加される物質である。
【0132】
連鎖移動剤としては、チオール系連鎖移動剤、ハロゲン化炭化水素系連鎖移動剤等が挙げられ、チオール系連鎖移動剤が好ましい。
【0133】
チオール系連鎖移動剤としては、−SH基を有するものが好ましく、更に一般式HS−R−Eg(ただし、式中Rは炭素原子数1〜4の炭化水素由来の基を表し、Eは−OH、−COOM、−COOR’または−SO3M基を表し、Mは水素原子、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表し、R’は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、gは1又は2の整数を表す。)で表されるものが好ましく、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等が挙げられ、単量体1〜3を含む共重合反応での連鎖移動効果の観点から、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノールが好ましく、メルカプトプロピオン酸が更に好ましい。これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0134】
ハロゲン化炭化水素系連鎖移動剤としては、四塩化炭素、四臭化炭素などが挙げられる。
【0135】
その他の連鎖移動剤としては、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、2−アミノプロパン−1−オールなどを挙げることができる。連鎖移動剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0136】
[重合開始剤]
本発明の(C)成分を得るための製造方法では、重合開始剤を使用することが好ましく、単量体1〜3の合計モル数に対して重合開始剤を5モル%以上、更に7〜50モル%、より更に10〜30モル%使用することが好ましい。
【0137】
水系の重合開始剤としては、過硫酸のアンモニウム塩又はアルカリ金属塩あるいは過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート等の水溶性アゾ化合物が使用される。また、重合開始剤と併用して、亜硫酸水素ナトリウム、アミン化合物などの促進剤を使用することもできる。
【0138】
[溶媒]
本発明の(A)成分を得るための製造方法では、溶液重合法で実施することができ、その際に使用される溶媒としては、水、あるいは、水と、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールアセトン、メチルエチルケトン等とを含有する含水溶媒系の溶媒が挙げられる。取り扱いと反応設備から考慮すると、水が好ましい。なかでも水系の溶媒を用いる場合、単量体2及び/又は単量体3を含む単量体溶液をpH7以下、更に0.1〜6、より更に0.2〜4で反応に用いて共重合反応を行うことが、モノマー混液の均一性(取り扱い性)、モノマー反応率の観点や、リン酸系化合物のピロ体の加水分解により架橋を抑制する点で好ましい。
【0139】
本発明の(C)成分を得るための製造方法の一例を示す。反応容器に所定量の水を仕込み、窒素等の不活性気体で雰囲気を置換し昇温する。予め単量体1、単量体2、単量体3、連鎖移動剤を水に混合溶解したものと、重合開始剤を水に溶解したものとを用意し、0.5〜5時間かけて反応容器に滴下する。その際、各単量体、連鎖移動剤及び重合開始剤を別々に滴下してもよく、また、単量体の混合溶液を予め反応容器に仕込み、重合開始剤のみを滴下することも可能である。すなわち、連鎖移動剤、重合開始剤、その他の添加剤は、単量体溶液とは別に添加剤溶液として添加しても良いし、単量体溶液に配合して添加してもよいが、重合の安定性の観点からは、単量体溶液とは別に添加剤溶液として反応系に供給することが好ましい。何れの場合も、単量体2及び/又は単量体3を含有する溶液はpH7以下が好ましい。また、酸剤等により、pHを7以下に維持して共重合反応を行い、好ましくは所定時間の熟成を行う。なお、重合開始剤は、全量を単量体と同時に滴下しても良いし、分割して添加しても良いが、分割して添加することが未反応単量体の低減の点では好ましい。例えば、最終的に使用する重合開始剤の全量中、1/2〜2/3の重合開始剤を単量体と同時に添加し、残部を単量体滴下終了後1〜2時間熟成した後、添加することが好ましい。必要に応じ、熟成終了後に更にアルカリ剤(水酸化ナトリウム等)で中和し、本発明に係るリン酸エステル系重合体を得る。
【0140】
反応系の単量体1、2、3及び共重合可能なその他の単量体の総量は、5〜80重量%が好ましく、10〜65重量%がより好ましく、20〜50重量%がより更に好ましい。
【0141】
本発明では(C)成分は、練り上がり速度の観点から、単量体1の割合が単量体の総量中50モル%以下の共重合体であることが好ましい。
【0142】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物において、(A)成分と(C)成分の合計含有量は5〜50重量%、更に10〜40重量%が好ましい。また、(A)成分と(C)成分の重量比が有効分換算で(A)/(C)=100/1〜100/40であることが好ましい。この重量比において、(C)成分が占める上限値は(A)/(C)=100/35、更に100/30、より更に100/25が好ましい。一方、(C)成分が占める下限値は(A)/(C)=100/3、更に100/5、より更に100/10が好ましい。
【0143】
(C)成分は、分岐型構造(ハイパーブランチ)をとっているため、コンパクトなポリマー形態となっている。そのため、超高強度コンクリートのような粉体量が極端に多く、粒子間距離が狭い分酸系においても、運動性が高く、且つ、リン酸基という吸着性の強い基を有しているため、吸着速度も速いため少量でセメント粉体の濡れ性を向上させる効果がある。このため、(C)成分を用いることは、練り時間の短縮の観点から好ましい。
【0144】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、各種セメントを始めとし、水和反応によって硬化性を示すあらゆる無機系の水硬性粉体に使用することができる。本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は粉末状でも液体状でもよい。液体状の場合は、作業性、環境負荷低減の観点から、水を溶媒ないし分散媒とするもの(水溶液等)が好ましい。
【0145】
セメントとして、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。セメント以外の水硬性粉体として、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてよい。セメントと混合されたシリカヒュームセメントや高炉セメントを用いてもよい。
【0146】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、その他の添加剤(材)を含有することもできる。例えば、樹脂石鹸、飽和もしくは不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、アルカンスルホネート、ポリオキシアルキレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシアルキレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステル(塩)、蛋白質材料、アルケニルコハク酸、α−オレフィンスルホネート等のAE剤;グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、クエン酸等のオキシカルボン酸系、デキストリン、単糖類、オリゴ糖類、多糖類等の糖系、糖アルコール系等の遅延剤;起泡剤;増粘剤;珪砂;AE減水剤;塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、沃化カルシウム等の可溶性カルシウム塩、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物等、硫酸塩、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸塩、チオ硫酸塩、蟻酸(塩)、アルカノールアミン等の早強剤又は促進剤;発泡剤;樹脂酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコーン、パラフィン、アスファルト、ワックス等の防水剤;高炉スラグ;流動化剤;ジメチルポリシロキサン系、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル系、鉱油系、油脂系、オキシアルキレン系、アルコール系、アミド系等の消泡剤;防泡剤;フライアッシュ;メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物系、アミノスルホン酸系等の高性能減水剤;シリカヒューム;亜硝酸塩、燐酸塩、酸化亜鉛等の防錆剤;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系、β−1,3−グルカン、キサンタンガム等の天然物系、ポリアクリル酸アミド、ポリエチレングリコール、オレイルアルコールのエチレンオキシド付加物もしくはこれとビニルシクロヘキセンジエポキシドとの反応物等の合成系等の水溶性高分子;(メタ)アクリル酸アルキル等の高分子エマルジョンが挙げられる。
【0147】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、生コンクリート、コンクリート振動製品分野の外、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、石膏スラリー用、軽量又は重量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、地盤改良用、グラウト用、寒中用等の種々のコンクリートの何れの分野においても有用である。
【0148】
<水硬性組成物>
本発明は、上記本発明の水硬性組成物用添加剤組成物と、水硬性粉体と、水とを含有する、水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物を提供する。
【0149】
本発明の水硬性組成物は、水及び水硬性粉体(セメント)を含有する、ペースト、モルタル、コンクリート等であるが、骨材を含有してもよい。骨材として細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好まし い。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
【0150】
該水硬性組成物は、セメントの水和反応に必要な水量を維持しつつ、より高強度で施工可能なコンクリートを製造する観点から、水/水硬性粉体比〔スラリー中の水と水硬性粉体の重量百分率(重量%)、通常W/Pと略記されるが、粉体がセメントの場合、W/Cと略記される。〕が20重量%未満であり、更に8〜19重量%、更に10〜17重量%、より更に12〜16重量%が好ましい。
【0151】
本発明の水硬性組成物において、水硬性粉体の単位量は、好ましくは300〜2000kg/m3、より好ましくは500〜1500kg/m3、さらに好ましくは1000〜1350kg/m3である。
【0152】
また、本発明の水硬性組成物において、水の単位量は、好ましくは120〜190kg/m3、好ましくは150〜185kg/m3、さらに好ましくは160〜170kg/m3である。
【実施例】
【0153】
<水硬性組成物用添加剤組成物の成分>
(1)(A)成分
下記の成分を(A)成分として用いた。
・A−1〔化合物(2)〕:メタノールEO(EO平均付加モル数120)付加物とメタクリル酸とのモノエステル〔一般式(A2)〕/メタクリル酸〔一般式(A3)〕=10/90(モル比)共重合体Na塩(重量平均分子量42000)
・A−2〔化合物(3)〕:メタノールEO(EO平均付加モル数23)付加物とメタクリル酸とのモノエステル〔一般式(A5)〕/メタクリル酸〔一般式(A3)〕=(30/70モル比)共重合体Na塩(重量平均分子量51000)
なお、A−1、A−2は、特開平7−223852号公報の製造例記載の方法に準じて製造した。
・A−3〔化合物(2)及び化合物(3)〕:上記A−1とA−2とを、A−1/A−2=30/70の重量比で混合した混合物
【0154】
(2)(B)成分
(B)成分として以下の化合物を用いた。
・B−1:下記製造例Bにより製造されたグリセリンEO付加物(EO平均付加モル数1)
・B−2:ジエチレングリコール
・B−3:1,2−ブタンジオール
【0155】
[製造例B]
2リットルのオートクレーブにグリセリンとKOHをぞれぞれ230.3g、1.4g仕込み、約600rpmの撹拌速度で130℃になるまで昇温した。次いで130℃、1.3kPa条件で30分間脱水を行った。その後、155℃になるまで昇温した。上記反応混合物にEOを110.1g(グリセリン1モルに対し、EO1モル相当)反応させた。この時の反応条件は温度155℃、圧力0.1〜0.3MPa(ゲージ圧)であった。反応終了後、温度を80℃まで冷却し、グリセリンEO平均1モル付加物を得た。なお本付加物のEO分布は、未反応グリセリン(EO=0モル):36%、EO=1モル付加体:37%、EO=2モル付加体:19%、EO=3モル付加体:6%、EO=4モル以上付加体:2%であった(%は重量基準)。
【0156】
(3)(B)成分の比較化合物
(B)成分の比較化合物として以下の化合物を用いた。
・B’−1:グリセリン
・B’−2:上記B−1の製造例Bに準じて製造したグリセリンEO付加物(EO平均付加モル数5)。本付加物のEO分布は、未反応グリセリン(EO=0モル):2%、EO=1モル付加体:7%、EO=2モル付加体:15%、EO=3モル付加体:17%、EO=4モル以上付加体:59%であった(%は重量基準)。
・B’−3:上記B−1の製造例Bに準じて製造したグリセリンEO付加物(EO平均付加モル数3)。本付加物のEO分布は、未反応グリセリン(EO=0モル):3%、EO=1モル付加体:11%、EO=2モル付加体:22%、EO=3モル付加体:26%、EO=4モル以上付加体:38%であった(%は重量基準)。
【0157】
(4)(C)成分
下記の成分を(C)成分として用いた。
・C−1:下記製造例Cにより製造されたリン酸エステル系共重合体
[製造例C]
撹拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水423gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数23)407g(有効分60.8%、水分35%)とリン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物であるリン酸エステル化物65.0gと3−メルカプトプロピオン酸4.1gを混合したものと過硫酸アンモニウム.7.6gを水30.4gに溶解したものの2者を、それぞれ1.5時間かけて滴下した。1時間の熟成後、過硫酸アンモニウム1.7gを水6.7gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後1.5時間同温度(80℃)で熟成した。熟成終了後に30%水酸化ナトリウム水溶液63.5gで中和し共重合体C−1(重量平均分子量34000)を得た。
【0158】
なお、本例で用いたリン酸エステル化物は、次の製法により得られたものである。反応容器中にメタクリル酸2−ヒドロキシエチル200gと85%リン酸(H3PO4)36.0gを仕込み、5酸化2リン(無水リン酸)(P25)89.1gを温度が60℃を超えないように冷却しながら徐々に添加した。終了後、反応温度を80℃に設定し、6時間反応させ、冷却後、リン酸エステル化物を得た。
【0159】
<コンクリートの調製及び評価>
表1に示す配合条件で、100Lの強制二軸ミキサーを用いて、セメント(C)、細骨材(S)を投入し空練りを30秒行った。目標スランプ60±15cm、目標空気連行量3.0%以下となるよう、添加剤組成物及び消泡剤(主成分は、脂肪酸エステル)を含む練り水(W)を加え、360秒間混練りしモルタルを調製した後、粗骨材(G)を投入し、引き続き120秒間混練りしコンクリートを排出した。なお、添加剤組成物は、表2の種類及び組成で(A)成分と(B)成分を配合したものを、対セメント重量%が表2の通りとなるように用いた。このコンクリートについて、以下に示す試験法にしたがって、スランプ値、空気量、圧縮強度(材齢7日)の測定を、それぞれ以下の方法で行った。評価結果を表2に示した。
・スランプ値:JIS−A1101に準拠して測定した。
・空気量:JIS−A1128に準拠して測定した。
・モルタル練り上がり速度:練り水を投入後、水、セメント、砂が均一に混合された状態のモルタルになるまで目視観察し、ストップウォッチで計測した。
・凝結時間:JIS−A1147に準拠して測定した。
・圧縮強度:JIS−A1108に準拠して測定した。但し、材齢については、20時間強度および7日強度の2材齢を測定した。20時間強度は、コンクリート調製後、室温20℃で静置した供試体の20時間強度とし、7日強度はコンクリート調製後24時間で脱型した供試体を70℃の蒸気養生装置中に7日間静置した強度とした。
【0160】
【表1】

【0161】
・水(W):上水道
・セメント(C):SFPC(登録商標)(シリカヒュームプレミックスセメント、太平洋セメント株式会社製、密度3.07g/cm3
・細骨材(S):山砂(密度2.55g/cm3
・粗骨材(G):石灰砕石(密度2.72g/cm3
【0162】
【表2】

【0163】
表2中、(A)成分、(B)成分の添加量は、対セメント重量%である。また、MSはモルタル練り上がり速度である。
【0164】
表2に示されるように、本発明の(A)成分、(B)成分を用いた実施例1〜9では、水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物に、良好なフレッシュ物性を確保しつつ、練り上がり時間の短縮と初期硬化強度の向上を同時に満足することができる。なかでも、実施例1は、比較例1に比べて、凝結時間の短縮、20時間の早期材齢強度の向上が顕著である。また、実施例2、3は、実施例1よりも(B)成分の添加量を多くしたため、凝結時間の短縮及び20時間の早期材齢強度の向上において更に良好な結果が得られている。また、実施例4のように、(A)成分としてA−1(EO付加モル数120)を混合する事により、実施例2と比べて練り上がり時間及び凝結時間がより短縮され、実施例5、7、9のようにC−1(リン酸系共重合体)を混合する事で練り上がり速度がさらに向上する。
【0165】
なお、実施例1〜9の(A)成分を化合物(1)に置き換えた場合でも、同様の凝結時間及び練り上がり時間の短縮並びに強度の向上の効果が発現する水硬性組成物用添加剤組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化合物(1)、(2)及び(3)からなる群より選ばれる1種以上の共重合体(A)と、下記一般式(B1)で表される化合物及び下記一般式(B2)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物(B)とを含有し、水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物とともに用いられる、水硬性組成物用添加剤組成物。
<化合物(1)>
下記一般式(A1)で示されるアルケニルエーテル誘導体と、下記一般式(A3)で示される単量体との共重合体またはその塩
1a(A2O)n12a (A1)
(式中、R1aは炭素数2〜4のアルケニル基、A2Oは炭素数2又は3のオキシアルキレン基、n1はA2Oの平均付加モル数であり、2〜200の数、R2aは炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【化1】


〔式中、R5a〜R7aは、それぞれ独立に水素原子、メチル基または、(CH2p2COOM2、M1及びM2は、それぞれ独立に水素原子又は陽イオン、p2は0〜2の数を表す。〕
<化合物(2)>
下記一般式(A2)で表される単量体(i)と、前記一般式(A3)及び下記一般式(A4)で表される化合物から選ばれる1種以上の単量体(ii)とを構成単位として含み、それらのモル比が(ii)/(i)=70/30〜95/5である共重合体。
【化2】


(式中、R3a及びR4aは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、p1は0〜2の数、A3Oは炭素数2又は3のオキシアルキレン基、n2はA3Oの平均付加モル数であり、100〜300の数、Xは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【化3】


(式中、R8aは水素原子又はメチル基、Yは水素原子又は陽イオンを表す。)
<化合物(3)>
下記一般式(A5)で表される単量体(iii)と、前記一般式(A3)及び前記一般式(A4)で表される化合物から選ばれる1種以上の単量体(ii)とを構成単位として含み、それらのモル比が(ii)/(iii)=60/40〜90/10である共重合体。
【化4】


(式中、R9a及びR10aは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、p3は0〜2の数、A4Oは炭素数2又は3のオキシアルキレン基、n3はA4Oの平均付加モル数であり、2〜90の数、Xは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
【化5】


(式中、R1bは、水素原子、メチル基又はエチル基であり、Zは−OH又は−O−CH2CH2−OHである。)
【化6】


(式中、A1Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、m1、m2及びm3は、それぞれA1Oの付加モル数を示し、m1、m2及びm3の合計の平均値は0.5〜2.5である。)
【請求項2】
共重合体(A)と前記化合物(B)との重量比が、(A)/(B)=30/70〜99/1である請求項1記載の水硬性組成物用添加剤組成物。
【請求項3】
さらに、下記一般式(C1)で表される単量体1と、下記一般式(C2)で表される単量体2と、下記一般式(C3)で表される単量体3とを、pH7以下で共重合して得られるリン酸エステル系重合体(C)を含有する、請求項1又は2記載の水硬性組成物用添加剤組成物。
【化7】


〔式中、R1c及びR2cは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、R3cは水素原子又は−COO(AO)nX、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基又はオキシスチレン基、pは0又は1の数、nはAOの平均付加モル数であり、3〜200の数、Xは水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。〕
【化8】


(式中、R4cは水素原子又はメチル基、OR5cは炭素数2〜12のオキシアルキレン基、m4は1〜30の数、Mは水素原子又は陽イオンを表す。)
【化9】


(式中、R6c及びR8cは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、OR7c及びOR9cは、それぞれ独立に炭素数2〜12のオキシアルキレン基、m5及びm6は、それぞれ独立に1〜30の数、Mは水素原子又は陽イオンを表す。)
【請求項4】
共重合体(A)とリン酸エステル系重合体(C)との重量比が、(A)/(C)=100/1〜100/40である請求項3記載の水硬性組成物用添加剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項記載の水硬性組成物用添加剤組成物と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有する、水/水硬性粉体比が20重量%未満の水硬性組成物。

【公開番号】特開2009−298663(P2009−298663A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156457(P2008−156457)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】