説明

水硬性結合剤のための凝固・硬化促進剤ならびにその調製方法

本発明は、硫酸塩、アルミニウムおよび有機酸を含み、硫酸塩に対するアルミニウムのモル比が0.83未満である、水硬性結合剤のためのフッ化物フリーの凝固・硬化促進剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性結合剤(hydraulic binder)のための凝固・硬化促進剤、水硬性結合剤のための凝固・硬化促進剤の調製方法、ならびに空中打設(air-placed)コンクリートまたは吹き付けモルタルにおける該凝固・硬化促進剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの凝固・硬化を促進する多くの既知の物質がある。例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩およびアルカリ土類金属塩化物などの強アルカリ性物質が通例である。しかし、強アルカリ性物質は、加工者にとって火傷などの望ましくない不都合を引き起こすことがあり、そして、コンクリートの最終強度および耐久性を減少させる。
【0003】
欧州特許第0 076 927 B1号は、水硬性結合剤のためのアルカリフリーの凝固促進剤を開示しており、この促進剤は、これらの欠点を回避していると言われている。セメント、石灰、水硬石灰および石膏、ならびにそれらから製造されるモルタルおよびコンクリートなどの水硬性結合剤の凝固・硬化を促進するために、この結合剤の重量に対して0.5から100重量%のアルカリフリーの凝固・硬化促進剤が、前記結合剤を含む混合物に添加され、この促進剤は水酸化アルミニウムを含んでいる。
【0004】
促進された凝固・硬化の結果、このようなモルタルおよびコンクリートは、吹き付けモルタルおよび空中打設コンクリートとして特に適している。
【0005】
欧州特許第0 946 451 B1号は、水硬性結合剤のための溶解された形態の凝固・硬化促進剤を開示しており、これらの促進剤は、コンクリートの吹き付け中にコンクリートとより容易に混合されうる。このような凝固・硬化促進剤は、とりわけ、水酸化アルミニウム、アルミニウム塩および有機カルボン酸を含む。
【0006】
国際公開第03/106375 Al号は、少なくとも硫酸アルミニウム、アルカノールアミンおよびフッ化水素酸を含む凝固・硬化促進剤を開示している。
【0007】
国際公開第2005/075381 Al号は、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウムおよび有機酸を含む凝固・硬化促進剤を記載しており、この促進剤は、0.65未満の有機酸に対するアルミニウムのモル比および0.83を上回る流酸塩に対するアルミニウムのモル比を有する。
【0008】
国際公開第00/78688A号は、空中打設コンクリートの促進のための混合物を開示しており、この混合物は、水酸化アルミニウムおよび有機酸の反応生成物、および硫酸アルミニウムおよび少なくとも1種のアルカノールアミンを含む。この混合物は、好ましくは、16〜18重量%の水酸化アルミニウムを含み、マグネシウム塩を含まない。
【0009】
調製のためには、このような既知の促進剤は、比較的大量の非晶質の水酸化アルミニウムを必要とするが、これは非常に高価である。その上、比較的大量の有機カルボン酸が、促進剤を十分に安定化させるために、このような促進剤において必要とされる。さらに、例えば、フッ化水素酸などのフッ化物含有化合物の使用は、健康および環境に有害であることがあり、従って望ましくない。このような凝固・硬化促進剤のさらなる欠点は、さらに、最初の数時間および数日における比較的低い初期強度および溶液の不十分な安定性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第0 076 927 B1号
【特許文献2】欧州特許第0 946 451 B1号
【特許文献3】国際公開第03/106375 Al号
【特許文献4】国際公開第2005/075381 Al号
【特許文献5】国際公開第00/78688A号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
最初に述べたタイプの水硬性結合剤のための凝固・硬化促進剤の場合に、可能な限り有利であり、促進剤の可能な限り長い安定期間と共に可能な限り高い強度を有する促進剤を達成することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、これは、請求項1の特徴によって達成される。
【0013】
本発明の利点は、とりわけ、促進剤溶液の高い安定性、すなわち、安定化が、本発明による促進剤によって達成されること、および高強度が、最初の数時間および数日において達成されることである。その上、本発明による促進剤は、通常の促進剤に比べてより有利である。
【0014】
本発明のさらなる有利な形態が、本明細書および従属請求項から明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
水硬性結合剤のための本発明による凝固・硬化促進剤は、フッ化物フリーであり、硫酸塩、アルミニウム、および促進剤の総重量に対して1から16重量%の有機酸を含み、流酸塩に対するアルミニウムのモル比は、0.83未満である。このような促進剤は、様々な方法で調製することができる。促進剤は、好ましくは、場合によって微細に分散された粒子を含む溶液として、または分散液として生ずることがある水ベースの促進剤である。
【0016】
本発明による促進剤は、アルカリおよび塩化物フリーである。アルカリおよび塩化物フリー促進剤は、促進剤の重量に対して、1%未満のアルカリまたはアルカリ金属または塩化物イオンを有する促進剤を意味するものと建設化学(construction chemistry)において一般的に理解されている。さらに、本発明による好ましい促進剤は、好ましくは鉱酸を含まない。
【0017】
本発明によるこのようなフッ化物フリーの凝固・硬化促進剤は、有利には、
-17から35重量%の硫酸塩、
-3.2から9.5重量%のアルミニウム(または6から18重量%のA12O3)
-1から16重量%の有機酸、
-0から6重量%のマグネシウム、
-0から10重量%のアルカノールアミン、
-0から5重量%のさらなる二価以上の金属硫酸塩、
-0から5重量%の可塑剤、
-0から35重量%の二酸化ケイ素、
-0から8重量%のグリセロール、
-および水
を含み、硫酸塩に対するアルミニウムのモル比は0.83未満である。
【0018】
上述の物質は、有利には、溶液中でイオンとして存在するが、促進剤中で、複合体でまたは溶解されないで存在することもある。これは、特に、促進剤が、場合によって細かく分散された粒子を有する溶液としてまたは分散液として存在する場合である。
【0019】
好ましい一実施形態においては、本発明による促進剤は、17から35重量%の硫酸塩、3.2から9.5重量%のアルミニウムおよび1から10重量%の有機酸を含む。一層さらに好ましいのは、促進剤の総重量に対して、24から29重量%、好ましくは24.5から27重量%、一層さらに好ましくは24.95から27重量%の硫酸塩、4から6.5重量%のアルミニウムおよび2から8重量%の有機酸を含む促進剤である。
【0020】
特に適切な促進剤は、促進剤の総重量に対して、好ましくは0.01から6重量%、特に0.4から3.1重量%の量のマグネシウムを含む。
【0021】
さらに、本発明による促進剤は、促進剤の総重量に対して、好ましくは0.1から8重量%、特に2から4重量%の量のグリセロールをさらに含んでよい。
【0022】
水硬性結合剤のための本発明によるフッ化物フリーの凝固・硬化促進剤は、促進剤の総重量に対して、例えば、少なくとも40から60重量%の硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・14H2O)および1から16重量%の有機酸から調製することができ、硫酸塩に対するアルミニウムのモル比は、0.83未満である。
【0023】
調製のために使用される硫酸アルミニウムは、異なる量の結晶水を含んでよい。典型的に使用される硫酸アルミニウムは、硫酸アルミニウム・十四水和物(Al2(SO4)3・14H2O)である。これは、17%のAl2O3を含むので17%硫酸アルミニウムとも一般的に呼ばれる。硫酸アルミニウムに関して本文献中に記載された数量データは、Al2(SO4)3・14H2Oに基づく。硫酸アルミニウムが、異なる量の結晶水を含む場合、本発明に必要である硫酸アルミニウムの量は、容易に計算することができる。従って、40から60重量%のAl2(SO4)3・14H2Oは、23から35重量%の無水Al2(SO4)3の量に相当する。
【0024】
硫酸アルミニウムは、促進剤の調製の間に水酸化アルミニウムと硫酸の反応によっても生成することができ、硫酸塩イオンは、従って水溶液中に生ずる。一般的に、硫酸アルミニウムは、塩基性アルミニウム化合物と硫酸の反応によって生成することができる。
【0025】
好ましい一実施形態においては、少なくとも45から55重量%の硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・14H2O)が、本発明による促進剤の調製において使用される。50重量%を上回る量が、一層さらに好ましい。特に良好な結果が、それぞれの場合で促進剤の総重量に対して、51から55重量%、特に51から53重量%の硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・14H2O)で得られる。
【0026】
硫酸塩に対するアルミニウムのモル比は、すべての場合において0.83未満でなければならない。硫酸塩に対するアルミニウムのモル比は、好ましくは0.80未満、特に好ましくは0.7未満である。
【0027】
有機酸に対するアルミニウムのモル比は、好ましくは0.67を上回る。1を上回る有機酸に対するアルミニウムのモル比が、特に好ましい。
【0028】
使用される有機酸は、好ましくはカルボン酸、特に好ましくはモノカルボン酸である。ギ酸は、特に好ましいが、例えば、酢酸などの、同じ作用を有する他の有機酸を使用することも可能である。好ましくは、酸は、促進剤の総重量に対して、1から16重量%、好ましくは1から10重量%、一層さらに好ましくは2から7重量%の量で使用される。
【0029】
本発明による促進剤は、特に好ましい一実施形態において、高価な水酸化アルミニウムAl(OH)3を用いずに調製することができ、従って水酸化アルミニウムを含まないので、特に有利に調製することができる。
【0030】
好ましくは、水酸化アルミニウムは、調製時の促進剤の総重量に対して、5重量%未満、特に0から3重量%、一層さらに好ましくは1重量%未満の量で使用される。水酸化アルミニウムは、非晶質または結晶形態で使用することができる。非晶質水酸化アルミニウムが、有利に使用される。水酸化アルミニウムは、塩基性炭酸アルミニウム、アルミニウムヒドロキシスルフェートなどの形態でも使用することができる。
【0031】
有利には、水酸化アルミニウムは、本発明による促進剤の調製のために使用しない。
【0032】
長い保存寿命を有する促進剤を得るために、水酸化マグネシウムMg(OH)2が、促進剤の総重量に対して、好ましくは0.1から10重量%、特に1から5重量%の量で調製のためにさらに使用される。水酸化マグネシウムの代わりに、別のマグネシウム化合物、特にマグネシウム塩または酸化物、例えば酸化マグネシウムMgO、マグネシウムオキシヒドロキシドまたは炭酸マグネシウムの相当量を使用することも可能である。
【0033】
本発明による促進剤は、好ましくは、促進剤の総重量に対して0.1〜10重量%の量で、調製時にアルカノールアミンをさらに含んでよい。有利に使用されるアルカノールアミンは、ジエタノールアミンDEAである。
【0034】
さらに、少なくとも1種のさらなる二価以上の金属硫酸塩を、好ましくは促進剤の総重量に対して0.1〜5重量%の量で、本発明による促進剤の調製のために使用することができる。硫酸マンガン(II)は、さらなる金属硫酸塩として特に好ましい。硫酸鉄は同様に適する。
【0035】
安定な促進剤および良好な結果は、ケイ酸をさらに含む本発明による促進剤を用いても得られる。
【0036】
本文献全体において、用語「ケイ酸」は、オルトケイ酸のみならずあらゆる形態の二酸化ケイ素、すなわち、オルトケイ酸の無水物、二酸化ケイ素それ自体、ならびにコロイド状、沈降または焼成ケイ酸またはシリカフュームを含むケイ酸を意味すると理解される。本発明による促進剤に使用されるケイ酸は、従って、好ましくは、コロイド状、沈降、焼成ケイ酸または微粒子ケイ酸(microsilicic acid)(シリカフューム)またはこれらの混合物でありまたはこれらを含む。特に適切なケイ酸の例は、コロイド状ケイ酸、シリカフューム、Aerosil(登録商標)またはSipernat(登録商標)である。本発明に特に適するケイ酸は、50〜1000m2/g、特に80から500m2/gの比表面積、および4から1000nm、特に7から500nmの範囲の粒径を典型的に有する緻密粒子または多孔質粒子を有する。コロイド状ケイ酸粒子、いわゆるナノ粒子は、特に好ましい。本発明による促進剤に使用されるケイ酸粒子は、様々なサイズ分布を有してよい。従って、例えば、小さなケイ酸粒子および大きなケイ酸粒子は、促進剤中に一緒に存在してよい。本発明に適するケイ酸粒子は、例えば、二酸化ケイ素製品の化学的機械的研磨(CMP)によって得られる廃棄物であってもよい。ケイ酸粒子の表面は、化学的に修飾されていてもよい。
【0037】
促進剤の総重量に対しての二酸化ケイ素の含有量またはケイ酸の固形分含有量は、好ましくは0.1から40重量%、好ましくは1から30重量%、一層さらに好ましくは3から20重量%、特に6から15重量%である。
【0038】
ケイ酸は、好ましくはケイ酸分散液として存在し、ケイ酸粒子を含む。使用される液体媒体は、特に水である。シリカゾルは、ケイ酸分散液として特に好ましい。シリカゾルは、好ましくは、4から1000nm、特に7から500nmの範囲の粒径を有するコロイド状ケイ酸、特に非晶質コロイド状ケイ酸を含む。典型的には、シリカゾルは、50〜700m2/g、特に80から500m2/gの比表面積を有する。シリカヒュームを含む分散液は、ケイ酸分散液として同様に特に適している。
【0039】
本発明による促進剤は、好ましくは、シリカゾルの総重量に対して、1から60重量%、特に5から50重量%、一層さらに好ましくは10から40重量%の二酸化ケイ素含有率を有するシリカゾルを含む。
【0040】
促進剤中のケイ酸分散液、特にシリカゾルの割合は、促進剤の総重量に対して好ましくは0.1から60重量%、特に5から55重量%である。特に好ましいのは、20重量%を上回るシリカゾルまたはシリカヒューム分散液の割合を有する、特に23から55重量%の割合を有する、一層さらに好ましくは25から40重量%の割合を有する促進剤である。
【0041】
本発明による促進剤は、可塑剤、特にポリカルボキシレート、または安定剤をさらに含んでよい。
【0042】
当然、本発明による促進剤は、当業者に知られたさらなる適切な混合物を含んでよい。しかし、これは、好ましくは、さらなる増粘剤またはチキソトロープ剤を含まない。
【0043】
好ましい本発明によるフッ化物フリーの凝固・硬化促進剤は、
-40〜60重量%の硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・14H2O)、
-1〜16重量%の有機酸、
-0から5重量%未満の水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、
-0.1〜10重量%の水酸化マグネシウム、
-0〜10重量%のアルカノールアミン、
-0〜5重量%のさらなる二価以上の金属硫酸塩、
-0〜35重量%の二酸化ケイ素、
-0〜8重量%のグリセロール、
-0〜5重量%の可塑剤、
-残量の水
から調製することができ(それぞれの場合で促進剤の総重量に対する重量%)、硫酸塩に対するアルミニウムのモル比は、0.83未満である。
【0044】
特に有利な凝固・硬化促進剤の調製のためには、実質的に、次のもの:
-45〜55重量%の硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・14H2O)、好ましくは51〜55重量%、
-1〜10重量%の有機酸、特に2〜7重量%、
-0〜3重量%の水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、特に0〜2重量%、
-1〜5重量%の水酸化マグネシウム、
-1〜3重量%のアルカノールアミン、
-1〜3重量%のさらなる二価以上の金属硫酸塩、特に硫酸マンガン、
-0〜20重量%の二酸化ケイ素、
-2〜4重量%のグリセロール、
-0〜3重量%の可塑剤、
-残量の水
が使用され(重量%)、硫酸塩に対するアルミニウムのモル比は、0.8未満、好ましくは0.7未満である。
【0045】
二酸化ケイ素が、例えば、ケイ酸分散液、特にシリカゾルとして存在する場合、水は、完全に最初にケイ酸分散液に導入することができ、促進剤の調製においてさらなる水を使用する必要がない。
【0046】
通常の凝固促進剤と比較して、調製時に使用される硫酸アルミニウムの量は増加され、使用される酸および特に水酸化アルミニウムの量は削減される。水酸化アルミニウムを含まない促進剤を調製することがさらに可能であり、これは、特に有利な促進剤をもたらす。特に良好な結果が、少量の、特に1重量%未満の水酸化アルミニウムを含む促進剤でも得られる。好ましくは、10%までの水酸化マグネシウムおよび/または対応する量の酸化マグネシウムを、促進剤の調製において使用する。促進剤の総量に対する純粋なMgの量は、0から6重量%、好ましくは0.4から4.2重量%、一層さらに好ましくは0.8から2.9重量%、特に1.3から2.1重量%である。
【0047】
アルミニウムと硫酸塩の比は、0.83未満、好ましくは0.8未満、特に0.7未満の値に、硫酸塩含有量の増加およびアルミニウム含有量の低減によって調製される。
【0048】
調製において使用されるアルミニウムの量が最高25%削減されるので、硫酸塩の安定性は増進される。これは、硫酸塩の安定性が、促進剤によって大幅に悪影響を受ける通常の促進剤と比較した利点である。アルミニウムの導入による硫酸塩の安定性減少は、特に、アルミン酸塩相が、硫酸塩に特別な親和性を有するという事実によって引き起こされる。さらなるアルミニウムは、コンクリート中のアルミン酸塩相の割合を増加し、これは、次いで、エトリンガイト形成によって硬化したコンクリートの硫酸塩の外部作用にわずかではない結晶化圧力を生じ、従って損傷をもたらす。Al2O3として示されたアルミニウム含有量は、従って、好ましくは14%未満、特に好ましくは13%未満および特に12%未満のAl2O3であることが選択される。
【0049】
水酸化マグネシウムおよび/または酸化マグネシウムが、促進剤の調製において使用される場合、混合物の温度は、水酸化マグネシウムおよび/または酸化マグネシウムと有機酸の強い反応の結果として、これらのバッチのための水が、加熱される必要がない程度に増加する。次いで、さらなる成分を、この加熱された混合物に添加する。しかし、成分を、別の任意の順序で添加してもよい。これはプロセスを簡単にし、より少ないエネルギーしか必要としない。マグネシウムの使用のさらなる利点は、マグネシウムイオンによってもたらされる促進剤の実質的により長い保存寿命である。調製時の水酸化マグネシウムのわずか1重量%の含有率において、良好な保存寿命が達成される。より高い含有率においては、保存寿命は、少なくとも3カ月である。さらに、促進剤の安定性は、アルミニウムの減少した量によって好ましい影響を受ける。硫酸塩の安定性は、アルミニウムの減少した量またはアルミニウムと硫酸塩の減少した割合によっても増加される。
【0050】
最初の数時間および数日における空中打設コンクリートの圧縮強度の発展も、非常に好ましい影響を受け、通常使用される促進剤の場合に比べて優っている。
【0051】
本発明による促進剤は、例えば、溶液もしくは分散液として、または粉末形態で存在してよく、粉末として存在する促進剤が、使用前に水に溶解されまたは分散されるならば好ましい。
【0052】
本発明は、さらに、本発明によるフッ化物フリーの凝固・硬化促進剤が、水硬性結合剤の重量に対して0.1から15重量%、特に1から10重量%の量で、水硬性結合剤を含む混合物に添加されることを特徴とする、水硬性結合剤およびこれらから製造されるモルタルまたはコンクリートの凝固・硬化を促進する方法に関する。
【0053】
本発明による促進剤は、水硬性結合剤、潜在水硬性結合剤もしくは不活性充てん剤と混合された水硬性結合剤、モルタルまたはコンクリートの凝結および硬化を促進するために使用することができる。
【0054】
好ましい使用は、乾式または湿式吹き付け法による吹き付けモルタルまたは空中打設コンクリートにおける使用であり、促進剤は、輸送管、プレウェティングノズルまたは吹き付けノズルにおいて、乾燥形態のまたは水と混合された結合剤、モルタルまたはコンクリート中に、直接に混合物中にまたは混合水中に添加されまたは計量される。好ましくは、溶液または分散液の形態の促進剤は、液体計量装置を用いて計量され、粉末促進剤は、粉末計量装置を用いて計量される。
【0055】
硬化および凝結が、本発明による促進剤または方法によって促進されうる結合剤の例は、それぞれ単独の場合での、または潜在水硬性結合剤もしくは不活性充てん剤との混合物としての、混合セメントなどのセメント、石灰、水硬石灰および石膏であり、これらの結合剤を含む混合物の例は、モルタルおよびコンクリート、特に吹き付けモルタルおよび空中打設コンクリートである。
【0056】
本発明は、さらに、結合剤を含み本発明による促進剤を含む硬化可能なまたは硬化混合物、特に本発明による促進剤を含む吹き付けモルタルおよび空中打設コンクリートに関する。
【0057】
本発明による凝固・硬化促進剤を使用することによって、対応する結合剤およびこのような結合剤を含む混合物の非常に早い凝結がもたらされ、高い初期および最終強度が達成される。本凝結および硬化促進剤は、加工者または環境のいずれにも腐食または毒性作用を有さない。
【実施例】
【0058】
本発明による促進剤の複数のサンプルを、表1に示された値に従って調製し、17%のAl2O3を含む硫酸アルミニウム、85%強度ギ酸(strength formic acid)、シリカゾルの重量に対して30重量%のシリカ粒子を含むシリカゾル、および水酸化アルミニウムとしての非晶質水酸化アルミニウムが使用され、酸を含まない比較例(B1)、16重量%を上回る酸を含む比較例(B3)および通常の促進剤(B2)と比較した。使用された通常の促進剤(B2)は、Gecedral(登録商標) F2000W(BK Giulini GmbHから入手可能)であった。
【0059】
【表1A】

【0060】
【表1B】

【0061】
水酸化マグネシウムを含む促進剤の調製のためには、加熱していない水を最初に導入した。水酸化マグネシウムをこの中に懸濁し、ギ酸を添加し、その結果、温度が増加した。その後、硫酸アルミニウム、存在するならば水酸化アルミニウム、および硫酸マンガンまたは硫酸鉄を添加し、高温で溶解した。最終的に、存在するならば、グリセロールおよびジエタノールアミンDEAを添加した。次いで、反応が弱まり、温度が約1時間後に約40℃に低下するまで全体を撹拌した。組成に応じて、微細に分散された粒子を有することもある溶液が生ずる。
【0062】
水酸化マグネシウムを含まない促進剤の調製のためには、予熱した水を最初に導入した。ギ酸を水に添加し、場合によって水酸化アルミニウムを次いで添加した。その後、硫酸アルミニウム、硫酸マンガンまたは硫酸鉄、グリセロールおよびジエタノールアミンを添加した。次いで、反応が弱まるまで全体を撹拌した。
【0063】
表2は、測定されたサンプルの、硫酸塩に対するアルミニウムのモル比、および有機酸(この場合、ギ酸)に対するアルミニウムのモル比を示している。有機酸に対するアルミニウムのモル比の値は0.67を上回り、硫酸塩に対するアルミニウムのモル比の値は0.83未満である。さらに、様々な実施例のアルミニウムの含有率を示す。
【0064】
【表2】

【0065】
0.1から15重量%の、特に1から10重量%の本発明による促進剤を、水硬性結合剤に添加することができる。
【0066】
実施例A1からA30による、本発明による促進剤、ならびに比較例B1、B2およびB3の促進剤の有効性の決定のために、それぞれの場合で、水硬性結合剤の含有量に対して6%の促進剤を、モルタル混合物[粒径0〜2.2mm、w/c = 0.48および1.0%のSika(登録商標) ViscoCrete(登録商標) SC305 (Sika Schweiz AGから入手可能)]と混合した。使用された水硬性結合剤はポルトランドセメントであった。針入度計(Mecmesin BFG500)を用い、プリズム(40×40×160mm)で試験を実施した。プリズムの圧縮強度を、水圧プレスを用いて測定した(表3)。
【0067】
【表3】

【0068】
驚くべきことに、数時間から数日後の強度は、水酸化アルミニウム含有量減少または水酸化アルミニウムの不存在および酸の割合低下にもかかわらず、硫酸アルミニウムおよびマグネシウムの高い割合のために、普通に知られた促進剤の場合に比べて優ることが見出された(表3を参照されたい)。特に良好な結果が、水酸化アルミニウムを含まない促進剤で得られた。より多くの水酸化アルミニウムが促進剤中に存在すればするほど、1日後または7日後の強度は多く減少する。さらに、保存寿命も減少する(実施例A24およびA25、ならびにA29およびA30を参照されたい)。
【0069】
水酸化マグネシウムを含む促進剤は特に適している。従って、特に良好な保存寿命を有する促進剤を得ることは可能であったが、水酸化マグネシウムを含まない促進剤は、良好な強度の値を有するが、わずか数日後に沈殿した(実施例A19を参照されたい)。
【0070】
適切な促進剤は、促進剤の総重量に対して、16重量%未満、特に10重量%未満のギ酸を含むことも見出された。17重量%のギ酸(または20重量%の85%強度のギ酸)を含むため、16重量%超のギ酸を含むこととなる比較例B3は、調製時に析出し、促進剤として使用することができなかった。酸を含まない比較例B1は、特に、本発明による促進剤と比較して、6時間または1日後に劣った初期強度値を示している。11.9重量%のギ酸(または14重量%の85%強度ギ酸)を含む実施例A18は、良好な強度値を示すが、わずか約1週間しか安定ではなかった。特に良好な結果が、1から7重量%のギ酸を含む促進剤で得られ、さらに良好な結果が、2から6重量%のギ酸を含む促進剤で得られた。従って、1.7重量%のギ酸(もしくは2重量%の85%強度ギ酸)または6.8重量%のギ酸(もしくは8重量%の85%強度ギ酸)を含む実施例A16およびA17は、良好な強度値を示している。4.25重量%のギ酸(または5重量%の85%強度ギ酸)を含む促進剤は、特に適切である(実施例A9を参照されたい)。これは、良好な強度値のみならず、3カ月を上回る優れた保存寿命を示している。
【0071】
促進剤におけるシリカゾルのさらなる使用は、良好な強度値(実施例A27)およびさらにより良い保存寿命(特にA17と比較した実施例A28を参照されたい)の両方を有する促進剤をもたらす。
【0072】
当然、本発明は、これまでに示し、説明した実施例に限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸塩、アルミニウムおよび促進剤の総重量に対して1から16重量%の有機酸を含み、硫酸塩に対するアルミニウムのモル比が0.83未満である、水硬性結合剤のためのフッ化物フリーの凝固・硬化促進剤。
【請求項2】
促進剤の総重量に対して、17から35重量%の硫酸塩、3.2から9.5重量%のアルミニウムおよび1から10重量%の有機酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載の促進剤。
【請求項3】
有機酸に対するアルミニウムのモル比が0.67を上回ることを特徴とする、請求項1または2に記載の促進剤。
【請求項4】
促進剤が、水酸化アルミニウムを含まないことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項5】
促進剤の総重量に対して、少なくとも40から60重量%の硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・14H2O)および1から16重量%の有機酸から調製することができ、硫酸塩に対するアルミニウムのモル比が0.83未満である、請求項1から4のいずれか一項に記載の水硬性結合剤のためのフッ化物フリーの凝固・硬化促進剤。
【請求項6】
それぞれの場合に促進剤の総重量に対して、少なくとも45から55重量%の硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・14H2O)および1から10重量%の有機酸が、調製時に使用されることを特徴とする、請求項5に記載の促進剤。
【請求項7】
促進剤の総重量に対して、少なくとも51から55重量%の硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3・14H2O)が、調製物中に存在することを特徴とする、請求項5または6に記載の促進剤。
【請求項8】
促進剤の総重量に対して、さらに0.1から10重量%の、特に1から5重量%の水酸化マグネシウムまたは対応する量の別のマグネシウム塩が、調製物中に存在することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項9】
硫酸塩に対するアルミニウムのモル比が、0.80未満、特に0.7未満であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項10】
0.1〜5重量%の少なくとも1種の更なる二価以上の金属硫酸塩、特に硫酸マンガン(II)および/または硫酸鉄が、調製物中に存在することを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項11】
有機酸が、ギ酸であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項12】
促進剤が、ケイ酸、特に、コロイド状、沈降もしくは焼成ケイ酸、またはシリカフュームあるいはこれらの混合物を含むことを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のフッ化物フリーの凝固・硬化促進剤が、水硬性結合剤の重量に対して0.1から15重量%の量で、水硬性結合剤を含む混合物に添加されることを特徴とする、水硬性結合剤およびこれらから製造されるモルタルまたはコンクリートの凝固・硬化を促進する方法。
【請求項14】
空中打設コンクリートまたは吹き付けモルタルにおける促進剤としての、請求項1から12のいずれか一項に記載のフッ化物フリーの凝固・硬化促進剤の使用。
【請求項15】
請求項1から12のいずれか一項に記載の促進剤を含むことを特徴とする、結合剤を含む混合物。

【公表番号】特表2010−517923(P2010−517923A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549826(P2009−549826)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/051742
【国際公開番号】WO2008/098961
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(504274505)シーカ・テクノロジー・アーゲー (227)
【Fターム(参考)】