説明

水系の殺菌方法

【課題】水系において殺菌とスライムコントロールとを効率よく行うことができる技術を提供すること。
【解決手段】結合塩素と遊離塩素とを水系に存在させ、この水系における遊離塩素の濃度を0.3mg−Cl/L以上とする水系の殺菌方法。水系の殺菌を行うにあたり、結合塩素と遊離塩素を用い、遊離塩素の濃度を0.3mg−Cl/L以上とすることで、水系において殺菌とスライムコントロールとを効率よく行うことが可能となる。その結果、優れた殺菌作用を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系の殺菌方法に関する。より詳しくは、水系の殺菌を行うにあたり、遊離塩素と結合塩素を用いる殺菌技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工場のプラント冷却水系、排水処理水系、鉄鋼水系、紙パルプ水系、切削油水系等では、細菌や糸状菌や藻類等が原因となりスライムが水系内に発生する。このスライムは、熱効率の低下、通水配管等の閉塞、配管金属材質の腐食等の障害を引き起こす。
【0003】
このような障害を防ぐために、薬剤を用いて水系を殺菌する方法が行われている。殺菌方法としては、安価で殺菌効果が良好な次亜塩素酸塩等の酸化剤を用いることが一般的であるが、次亜塩素酸塩等はスライムの剥離効果が認められる濃度で使用すると、水系内の金属部材の腐食を引き起こしてしまう。
【0004】
一方で、水系内の腐食性の抑制にも関する技術として、出願人は、塩素系酸化剤に、スルファミン酸やその塩とアルカリとを含有させたスライム剥離剤等を既に提供している(特許文献1参照)。また、出願人は、塩素系酸化剤に、アゾール系化合物及びスルファミン酸若しくはその塩を含有させた殺菌殺藻剤組成物等も提供している(特許文献2参照)。
【0005】
塩素系酸化剤とスルファミン酸が少なくとも結合することにより、安定したスライム剥離性を有し、腐食性の低い処理を実施することが可能である。出願人が先に提供したこれらの技術によっても優れた効果が得られうるが、水系の殺菌技術としてより一層優れた技術の開発が各種産業界からも求められている。
【0006】
【特許文献1】特許第3915560号公報。
【特許文献2】特許第3832399号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
塩素系酸化剤は強力な酸化剤として殺菌処理等に用いられるが、消耗速度が速く、腐食性が高いために、その管理等が難しいといった問題がある。また、水系プラント等の壁面等にスライム構成物が形成されている場合には、スライム構成物の表面で酸化反応がおきてしまい、その深部まで殺菌することが難しいといった問題等がある。
【0008】
そこで、本発明は、水系において殺菌とスライムコントロールとを効率よく行うことができる水系の殺菌方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、本発明は、結合塩素と遊離塩素とを水系に存在させ、この水系における遊離塩素の濃度を0.3mg−Cl/L以上とする水系の殺菌方法を提供する。結合塩素と遊離塩素とを水系に存在させ、遊離塩素の濃度を0.3mg−Cl/L以上とすることで、結合塩素の殺菌能力等をより向上させることができる。
そして、結合塩素は、少なくとも塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを水系に添加することで生成させることができる。塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物を用いることで、結合塩素としてクロロスルファミン酸化合物とすることができる。
また、遊離塩素は、次亜塩素酸塩と亜塩素酸塩と二酸化塩素と塩素ガスの少なくともいずれか一つを水系に添加することで生成させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る殺菌方法によれば、水系において殺菌とスライムコントロールとを効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。なお、以下の説明は、本発明に係わる代表例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
本発明に係る殺菌方法は、結合塩素と遊離塩素とを水系に存在させ、遊離塩素の濃度を0.3mg−Cl/L以上とすることを少なくとも行うものである。結合塩素と遊離塩素とを水系に存在させることで、水系の各種部材表面等に形成されたスライム構成物を剥離させ、分散した菌類等を効率よく殺菌することができる。そして、殺菌剤としての消耗速度が遅く、かつ低い腐食性とすることができる。
【0013】
本発明においては、処理対象とする被処理水中に結合塩素と遊離塩素とが存在していればよく、どのようにして存在せしめるか等について限定されない。少なくとも水系内に遊離塩素を所定濃度以上残留させることで、結合塩素の殺菌能力を補強することができる。以下、これについてより詳細に説明する。
【0014】
結合塩素の種類は限定されないが、例えば、クロラミン−T(N−クロロ−4−メチルベンゼンスルホンアミドのナトリウム塩)、クロラミン−B(N−クロロ−ベンゼンスルホンアミドのナトリウム塩)、N−クロロ−パラニトロベンゼンスルホンアミドのナトリウム塩、トリクロロメラミン、モノ−若しくはジ−クロロメラミンのナトリウム塩又はカリウム塩、トリクロロ−イソシアヌレート、モノ−若しくはジ−クロロイソシアヌール酸のナトリウム塩又はカリウム塩、モノ−若しくはジ−クロロスルファミン酸のナトリウム塩又はカリウム塩、モノクロロヒダントイン若しくは1,3−ジクロロヒダントイン又はその5,5−アルキル誘導体等が挙げられる。
【0015】
結合塩素は、水系に添加してもよいし、水系内で生成させてもよい。例えば、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物を水系に添加して、クロロスルファミン酸化合物等としてもよい。塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物、あるいは塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物からなるクロロスルファミン酸系結合塩素剤を被処理水に添加した場合、被処理水中における遊離塩素濃度が酸性域からアルカリ性域にわたる広範なpH範囲において大きく変化しないという特徴がある。
【0016】
本発明で用いるスルファミン酸化合物は特に限定されず、スルファミン酸又はその塩等が挙げられる。具体的には、スルファミン酸、スルファミン酸アンモニウム等を用いることができる。スルファミン酸化合物は、ヒドラジン等のように有毒ではなく、安全性が高い。
【0017】
このようなスルファミン酸化合物としては、例えば、N−メチルスルファミン酸、N,N−ジメチルスルファミン酸、N−フェニルスルファミン酸等を挙げることができる。本発明に用いるスルファミン酸化合物のうち、この化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩等の他の金属塩、アンモニウム塩及びグアニジン塩等を挙げることができ、具体的には、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸カルシウム、スルファミン酸ストロンチウム、スルファミン酸バリウム、スルファミン酸鉄、スルファミン酸亜鉛等を挙げることができる。スルファミン酸及びこれらのスルファミン酸塩は、1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
本発明で用いる塩素系酸化剤は特に限定されず、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、塩素化イソシアヌル酸又はその塩等が挙げられる。
【0019】
より具体的な塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケル等の他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等の塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等の塩素酸アルカリ土類金属塩等を挙げることができる。
【0020】
これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中で次亜塩素酸塩は取り扱いが容易であるので好適に用いることができる。
【0021】
水系内の結合塩素濃度については限定されないが、下限値は1.0mg−Cl/L以上であることが好ましく、上限値は20mg−Cl/L以下であることが好ましい。本発明において結合塩素の濃度を測定する際は、JIS K 0102に準拠したDPD(N,N-diethylphenylenediamine)法によって測定する。結合塩素濃度をこのような数値範囲とすることで、水系中の遊離塩素量をより高精度にコントロールすることができる。そして、殺菌やスライムコントロールを更に効率よく行うとともに消耗速度をより遅くできる。その結果、長期にわたり殺菌作用を維持することができる。
【0022】
遊離塩素を水系に存在させる方法としては限定されず、例えば、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、二酸化塩素、塩素ガス等を水系に薬注する方法や、食塩水や塩化カリウム水溶液等の電解反応を利用して次亜塩素酸イオンを発生させる方法等が挙げられる。
【0023】
水系内の遊離塩素濃度は0.3mg−Cl/L以上、好ましくは0.4mg−Cl/L以上、更に好ましくは0.5mg−Cl/L以上であることが望ましい。かかる遊離塩素濃度とすることで、殺菌やスライムコントロールを更に効率よく行うとともに消耗速度をより遅くできる。その結果、長期にわたり殺菌作用を維持することができる。
【0024】
水系内の遊離塩素の濃度を測定する方法としては、例えば、ポーラログラフィーや、吸光光度法や、水系内の酸化還元電位(Oxidation-reduction Potential;ORP)を測定し、この酸化還元電位に基づいて遊離塩素濃度を推定する方法等があるが、本発明ではJIS K 0102に準拠したDPD法により塩素濃度を測定する。このようにして得られた遊離塩素濃度値に基づいて、目標とする遊離塩素の濃度値となるように遊離塩素量を調節することができる。
【0025】
本発明では、必要に応じて、水系の遊離塩素濃度を測定し、この測定値に基づいて水系内の遊離塩素量を制御してもよい。即ち、水系の遊離塩素の濃度を測定し、この測定値に基づいて水系内の遊離塩素量を調節する制御手段を別途設けてもよい。これにより、継続的に水系の水質管理を行うことができる。この制御手段については特に限定されず、例えば、測定した塩素濃度に基づいて薬注を行うこと等によって遊離塩素量を制御することができる。
【0026】
更に、前述した水系の結合塩素濃度についても制御したい場合には、水系の結合塩素濃度も測定し、測定した遊離塩素濃度と結合塩素濃度の両方に基づいて水系内の結合塩素量を調節してもよい。遊離塩素濃度のみならず結合塩素濃度についてもモニタリングすることで、更に高精度かつ継続的に水質管理を行うことができる。
【0027】
本発明に係る殺菌方法の作用機構については、結合塩素によってスライム構成物を部材表面等から剥離したり分散させたりし、分散された病原菌等を遊離塩素によって殺菌するものと予想される。これにより、殺菌とスライムコントロールを効率よく行うことができる。これらの知見はあくまで予想に基づくものであるから、仮にこの知見以外の作用等で殺菌が行われる場合等であっても、本発明の範囲に包含されることは勿論である。
【0028】
本発明に係る殺菌方法が適用しうる処理対象としては特に限定されず、例えば、各種工場のプラント冷却水系、スクラバー、廃水処理水系、排水処理水系、鉄鋼水系、切削油水系等が挙げられ、これらの装置、通水配管等に付着したスライム構成物等を剥離できる。
【0029】
水系としては、特にスライム構成物が発生しやすい循環水系に好適に用いることができ、とりわけ、開放循環冷却水系等が好適である。例えば、レジオネラ菌等の細菌は、開放式循環冷却塔等の水温、特に冷却塔内に発生する藻類に囲まれた環境を好み、かかる条件の水系において発生しやすい。本発明は、とりわけ開放循環冷却水系等に対して効果的かつ長期にわたり殺菌作用を維持することができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するとともに、本発明の効果を検証する。
【0031】
[実施例1]
レジオネラ属菌で汚染させた空調用冷却水に対し、クロロスルファミン酸及び遊離塩素による除菌処理を行った。遊離塩素のコントロールは次亜塩素酸塩を薬注することによって行った。
冷却塔の冷凍規模は300RT、保有水量30m、濃縮倍率5倍で運転した。クロロスルファミン酸は冷却水ブロー水量に対して15mg/Lの割合で添加した。
剥離したスライムは濃縮に依存したブローによって自然排出させ、清掃等の特別な除去は実施しなかった。
遊離塩素の管理は、DPD法により残留塩素濃度を測定し、薬注量の管理を行った。遊離塩素は塩素残留計「Cl−17(HACH社製)」を用いて測定した。被処理水中のレジオネラ属菌数は、被処理水100mL中のコロニー形成単位(CFU:colony forming units)によって評価した。
その結果、遊離塩素濃度が0.2mg−Cl/Lの場合は、レジオネラ属菌数の低下はみられたものの、不検出を維持できなかった。しかし、遊離塩素濃度を0.3mg−Cl/L以上で管理した場合、レジオネラ属菌数の不検出を維持できた。特に、遊離塩素濃度を0.4mg−Cl/L以上とした2ヶ月目以降では、レジオネラ菌の発生を完全に抑制できた(図1)。
【0032】
[比較例1]
クロロスルファミン酸のみの1剤で処理をし、その他の条件は実施例1と同様にして試験した。その結果、遊離塩素濃度は0.1mg−Cl/Lを超えることなく、レジオネラ属菌数は一端消滅したが、その後再び発生した(図2)。
【0033】
[考察]
以上より、結合塩素と遊離塩素とを水系に存在させ、かつ水系における遊離塩素の濃度を少なくとも0.3mg−Cl/L以上とすることで、殺菌とスライムコントロールを効率よく行いうることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】二剤で処理した場合の遊離塩素濃度とレジオネラ属菌数と処理日数との関係を示すグラフである。
【図2】一剤のみで処理した場合の遊離塩素濃度とレジオネラ属菌数と処理日数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合塩素と遊離塩素とを水系に存在させ、該水系における遊離塩素の濃度を0.3mg−Cl/L以上とする水系の殺菌方法。
【請求項2】
前記結合塩素は、少なくとも塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを前記水系に添加することで生成されることを特徴とする請求項1記載の水系の殺菌方法。
【請求項3】
前記遊離塩素は、次亜塩素酸塩と亜塩素酸塩と二酸化塩素と塩素ガスの少なくともいずれか一つを前記水系に添加することで生成されることを特徴とする請求項1又は2記載の水系の殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−195822(P2009−195822A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39866(P2008−39866)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】