水系リチウム−空気二次電池
【課題】ガラスセラミックス層におけるアルカリ腐食を抑制させるのに有利な水系リチウム−空気二次電池を提供する。
【解決手段】金属リチウムを有する負極1と、空気が供給される正極2と、負極1と正極2との間において負極1側から正極2側に向けて、水遮断性を有するリチウムイオン伝導材料で形成されたガラスセラミックス層3と、第1水系電解液41を備えるA部と、陽イオン交換膜102と、第2水系電解液42を備えるB部とをこの順に具備する。A部の第1水系電解液41は、リチウム塩を含有してpH12以下、pH4以上の範囲に設定されている。A部の第1水系電解液41のリチウムイオン濃度は、B部の第2水系電解液42のリチウムイオン濃度と同等または高濃度である。
【解決手段】金属リチウムを有する負極1と、空気が供給される正極2と、負極1と正極2との間において負極1側から正極2側に向けて、水遮断性を有するリチウムイオン伝導材料で形成されたガラスセラミックス層3と、第1水系電解液41を備えるA部と、陽イオン交換膜102と、第2水系電解液42を備えるB部とをこの順に具備する。A部の第1水系電解液41は、リチウム塩を含有してpH12以下、pH4以上の範囲に設定されている。A部の第1水系電解液41のリチウムイオン濃度は、B部の第2水系電解液42のリチウムイオン濃度と同等または高濃度である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系リチウム−空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術によれば、非水系Li-空気二次電池において、電解液にポリアクリロニトリル(PAN):エチレンカーボネイト(EC):プロピレンカーボネイト(PC):LiPF6 = 12:40:40:8(mass%)系高分子ゲル電解液を用いたものが知られている。更に、電解質として、疎水性常温溶融塩を用いた非水系Li-空気二次電池が知られている。更に、電解質として、プロピレンカーボネイト(PC)を用いた非水系Li-空気二次電池も知られている。
【0003】
特許文献1には、金属リチウム負極に隣接して、電解液の間に、Li1-x(M,Al,Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3の組成よりなるNASICON型の結晶構造をもつ水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミックス層(LATP)と、ガラスセラミックス層(LATP)と金属リチウムとの反応を防止する為にリチウムリン酸窒化物(LiPON)等の反応防止層からなるリチウム保護膜を備えることにより、リチウムイオンの出入りを確保しつつ、水と金属リチウムとを分離し、水溶液系電解液の利用を可能にした水系Li-空気二次電池が開示されている。
【0004】
非特許文献1には、水系Li-空気二次電池において、ガラスセラミックス層(LATP)と金属リチウムとの反応を防止する為に、PEO系のポリマー固体電解質を使用する技術が開示されている。非特許文献2には、水系Li-空気二次電池において、ガラスセラミックス層(LATP)の腐食を防止する為に、酢酸-酢酸リチウムの弱酸緩衝溶液を電解液とする技術が開示されている。非特許文献3には、水系Li-空気二次電池において、ガラスセラミックス層(LATP)の腐食を防止する為に、陽イオン交換膜を水系電解液中に挿入する技術が開示されている。非特許文献4には、水系Li-空気二次電池において、放電生成物であるLiOHがガラスセラミックス層(LATP)上に付着するのを防止する為に、ガラスセラミックス層(LATP)上に陽イオン交換膜を配置する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007-513464
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tao Zhang et al., "Li/Polymer Electrolyte/Water Stable Lithium-Conducting Glass Ceramics Composite for Lithium--Air Secondary Batteries with an Aqueous Electrolyte", J. Electrochem. Soc., vol. 155(12), pA965-A969(2008)
【非特許文献2】Tao Zhang et al., "A novel high energy density Rechargeable Lithium/Air Battery", Chem. Commun., vol. 46, p1661-1663(2010)
【非特許文献3】何平ら, "ポストリチウムイオン電池4 イオン交換膜を添加したリチウム-空気燃料電池", 第51回電池討論会,3B16(2010)
【非特許文献4】Philippe Stevens et Al., "Development of an Aqueous, Rechargeable Lithium -Air Battery Operating with Untreated Air", 217th ECS Meeting, B12, ABS #746(2010)
【0007】
Li-空気二次電池は、理論的に非常に高いエネルギー密度を有する。Li-空気二次電池は、基本的には、図1に示したように、Li金属を有する負極と、空気中の酸素を利用する為のガス拡散電極で形成された正極と、正極と負極との間に介在する電解液とを備えるセル構造を有する。ここでLi-空気二次電池は、電解液として有機溶媒やイオン液体等の非水溶媒系の電解液を用いる非水系のLi-空気二次電池(図1参照)と、電解液としてHCl、LiCl、LiOHという水溶液系電解液を用いる水系のLi-空気二次電池(図2参照)との2種類がある。ここで、非水系のLi-空気二次電池の放電生成物であるリチウム酸化物(Li2O 又はLi2O2又はその両方)は、非水系電解液中に不溶な為、正極として用いられるガス拡散電極の細孔中に析出し、その細孔を封止すると言う問題点がある。
【0008】
これに対して、水系のLi-空気二次電池では、これの放電生成物は、水酸化リチウム(LiOH)であり、LiOHは電解液の成分である水に溶解するため、非水系の場合のように、ガス拡散電極の細孔を封止する問題は軽減される。更に、水系の電解液を用いることで、非水系のLi-空気二次電池と比較して、正極における酸素の電極反応速度を非常に速くできる為、充放電の過電圧を低減できる利点が得られる。更に、多量の塩を電解液に溶解できるので、水系電解液のイオン導電率を高くでき、更に、不燃性である等といった多くの利点を有する。しかしながら水系のLi-空気二次電池では、負極に用いるLi金属が水と激しく反応する為に、水系の電解液を負極のLi金属と直接接触させることができないと言う問題点がある。これを解決する為に、特許文献1に示されるように、水遮断性のリチウムイオン伝導性をもつ固体電解質を反応防止層として用い、Li金属で形成されている負極を保護する技術が開発されている(図2参照)。Li金属を備える負極を保護する為のリチウムイオン導電性をもつ固体電解質の特性として、水の遮断性と、高いLiイオン伝導性とを両立させることが好ましい。しかし、現状では、このような特性を満足する固体電解質の候補は、非常に少ない。
【0009】
その中で、近年、NASICON型の結晶構造をもつLiおよびM(M=Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導性材料で形成されたガラスセラミックス層は、イオン伝導率が高く、水に対する遮断性が高いと言う優れた特性を有する。代表的なガラスセラミックス層としては、Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3の組成よりなるLATPが挙げられる。上記した優れた特性が得られるため、これまで報告されている水系のLi-空気電池では、そのガラスセラミックス層が、負極のLi金属を保護する保護部として主に用いられている。しかしながら、ガラスセラミックス層をLi金属と直接的に接触させると、ガラスセラミックス層の構成成分であるチタンが還元されることがあるので、図2に示したように、Li金属の負極とガラスセラミックス層との間に、リチウムリン酸窒化物(LiPON,非特許文献1)やポリマー固体電解質(非特許文献2)、有機系電解液(非特許文献3)等の反応防止層が設けられていることが好ましい。
【0010】
ところで、水系Li-空気二次電池においては、負極及び正極では、以下の電極反応により、電池反応が進行する。
負極:Li ⇔ Li+ + e- (反応式1)
正極:1/4 O2 + 1/2 H2O + Li+ + e- ⇔ LiOH (反応式2)
全体: Li + 1/4 O2 + 1/2 H2O ⇔ LiOH (反応式3)
上記した反応式2,3から見て判るように、水系-Li空気電池の放電生成物は、LiOHであり、水系電解液中に溶解して貯蔵される。その際、放電反応の進行と共に、電解液のLiOH濃度は高くなり、アルカリ側に次第にシフトして行く。更に電池の放電反応が進行し、LiOHの飽和溶解度(文献によれば、100mLの水(@25℃)に対して12.54g溶解)を超えると、LiOHの沈殿が起こり、沈殿物としてセル内に貯蔵される。
【0011】
一方、負極であるLi金属を保護する目的で使用するガラスセラミックス層(代表例:LATP)は、1M LiNO3や1M LiClといった中性溶液中では、安定なものの、強酸溶液(0.1M HCl)や、強アルカリ溶液(例えば1M LiOH(100mLの水に対して約2.4 gのLiOHが溶解)中では、不安定であることが示唆されている(参考文献1:Satoshi Hasegawa et Al., "Study on Lithium/Air secondary batteries stability of NASICON-type lithium ion conducting glass ceramics with water", JournAl of Power Sources, vol. 189(1), p371-377(2009))。その為、上記した水遮断性をイオン伝導性ガラスセラミックス層(LATP)の安定性は必ずしも充分ではない。
【0012】
その問題を回避する為に、非特許文献2に示されるように、酢酸電解液を用いる技術が提案されている。この場合、電解液中に酢酸を添加することにより、反応式3で示されたような電池全体の反応として、
全体: Li + CH3COOH + 1/4 O2 ⇔ CH3COOLi + 1/2 H2O (反応式4)
となり、電解液として使用する酢酸は、
CH3COOH ⇔ CH3COO- + H+ (反応式5)
の平衡反応により、緩衝溶液として働くことで、電解液のpHを常に弱酸環境に保持し、ガラスセラミックス層(LATP)の腐食を防止することが可能となる。しかしながらこの場合、反応式4に示されるように電池反応には、電池反応に寄与するLiと等量モルの酢酸が必要であり、その分、エネルギー密度を引き下げると言う問題点がある。
【0013】
その他の対策技術として、陽イオン交換膜をガラスセラミックス層(LATP)の保護膜として用いる技術(非特許文献3,4)が知られている。この技術は、図3に示したように、水系電解液中(非特許文献3)、若しくは、イオン伝導性ガラスセラミックス層の表面(非特許文献4)に陽イオン交換膜を設置し、OH-イオンのLATP表面への攻撃防止(非特許文献3)や、放電生成物であるLiOHの析出物をLATP表面に付着させないこと(非特許文献4)を目的とした技術である。しかしこれらの従来技術によれば、イオン伝導性ガラスセラミックス層におけるアルカリ腐食を抑制させるのには限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、水遮断性およびリチウムイオン伝導性を有すると共にLiおよびM(M=Al,Ga,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導材料を母材とするイオン伝導性ガラスセラミックス層におけるアルカリ腐食を抑制させ、イオン伝導性ガラスセラミックス層の安定性および耐久性を高めるのに有利な水系リチウム−空気二次電池を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明者は上記した課題のもとに水系リチウム−空気二次電池について鋭意開発を進めている。そして、図3に示すように、金属リチウムを有する負極と、空気が供給される正極と、負極と正極との間において負極側から正極側に向けて、水遮断性およびリチウムイオン伝導性を有すると共にLiおよびM(M=Al,Ga,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導材料で形成されたガラスセラミックス層と、第1水系電解液を備えるA部と、陽イオン交換膜と、第2水系電解液を備えるB部とをこの順に具備する水系リチウム−空気二次電池について本出願人等は開発を進めている。これは、負に帯電した陽イオン交換膜が静電反発により、正極の電極反応で生成したOH-イオンがB部からA部へ透過することを抑え、ガラスセラミックス層の表面がアルカリ性溶液に曝されないようにすることを狙った技術である。しかしながら、後述の本発明者の詳細な実験結果で説明するように、実際には、図6に示すように、陽イオン交換膜で隔たれた正極側のB部における水系電解液のLi+イオン濃度が上昇すると、陽イオン交換膜で隔たれたガラスセラミックス層側のA部の水系電解液におけるプロトンが陽イオン交換膜を介してイオン交換し、結果として、B部のLiイオンがA部に移動し、A部に残されたOH-イオンによりLiOHが形成され、A部の電解液が強アルカリ性となり、ガラスセラミックス層のアルカリ腐食が発生するおそれがある。本発明はこれに対処する。
【0016】
すなわち、本発明の様相1に係る水系リチウム−空気二次電池は、金属リチウムを有する負極と、空気が供給される正極と、水遮断性およびリチウムイオン伝導性を有すると共にLiおよびM(M=Al,Ga、Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導材料で形成されたガラスセラミックス層と、第1水系電解液(以下、第1電解液ともいう)を備えるA部と、陽イオン交換膜と、第2水系電解液(以下、第1電解液ともいう)を備えるB部とをこの順に具備しており、A部の第1水系電解液は、中性域のリチウム塩を含有してpH12以下、pH4以上の範囲に設定されており、且つ、A部の第1水系電解液のリチウムイオン濃度は、B部の第2水系電解液のリチウムイオン濃度と同等または高濃度であることを特徴とする。
【0017】
本発明の様相1に係る水系Li-空気二次電池によれば、水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミック層を、Li金属負極を保護する保護層として用いる。本様相によれば、放電生成物であるLiOHを水系電解液中へ溶解、沈殿させ、貯蔵出来る利点が得られる。しかしながら、ガラスセラミックス層は強いアルカリ液に接触れると、アルカリ腐食を引き起こすおそれがあるため、電解液中のLiOHの濃度をあまり高く出来ないと言う事情がある。
【0018】
そこで本発明の様相1によれば、負極と正極との間に介在する水系の電解液部を陽イオン交換膜によりA部とB部とに分離している。これにより正極の放電反応によりB部において生成したOH-イオンがA部に透過することを抑制する。このためA部の第1電解液が強アルカリになることが抑えられる。よって、アルカリに対して安定性が必ずしも充分ではないガラスセラミックス層の表面のアルカリ腐食を抑制させることができる。即ち、負に帯電した陽イオン交換膜が静電反発により、正極の電極反応で生成したOH-イオンがB部からA部へ透過することを抑え、A部の第1水系電解液中のLiOHの濃度が抑えられ、ひいてはガラスセラミックス層の表面がアルカリ性溶液に曝されないようにできる。ガラスセラミックス層の表面の安定性および耐久性が向上する。
【0019】
さらに本様相によれば、水系電解液中に陽イオン交換膜を設置してA部およびB部は分離されている。この場合、電池の放電反応において負極側のA部で生成したLi+イオンは、陽イオン交換膜を通過して、B部へ移動可能である。しかし、正極の放電反応で生成したB部の第2電解液におけるOH-イオンは、陽イオン交換膜の静電反発により、B部からA部へ移動することが制限され、B部の第2電解液におけるLiOH濃度が次第に増加する。このようにB部の第2電解液におけるLiOH濃度が次第に高くなってアルカリが強くなると、B部の第2電解液におけるLi+イオンとA部の第1水系電解液におけるH+イオンが、陽イオン交換膜を介してイオン交換し、それぞれ反対側の槽に等量移動することが考えられる(図6参照)。このためB部側では、酸性の要因となるH+イオンによるアルカリの中和反応が生じる。これに対して、A部の第1電解液側では、Li+イオン濃度が増加し、A部に残留するOH-イオンにより、LiOH濃度増加し、結果として、A部の電解液は強アルカリ性(pH値13以上)に変化し、ガラスセラミックス層の安定性が低下するものと考えられる。そこで本様相によれば、この現象を回避する為に、A部の第1電解液には中性域のLi塩が予め溶解されており、A部の第1電解液のLi+イオン濃度は、B部の第2電解液のLi+イオン濃度よりも高くされており、A部の第1電解液のpH値は4以上、12以下の範囲内の中性域付近とされている。A部の第1電解液のpH値は4以上、5以上、6以上にできる。更にpH値は11以下、10以下、9以下にできる。
【0020】
A部の第1電解液のLi+イオン濃度は、B部の第2電解液のLi+イオン濃度よりも高くされているため、B部の第2水系電解液からA部の第1水系電解液へのLi+の移動が抑制される。このためA部の第1電解液におけるLiOH濃度が高くなることが抑制され、ひいてはA部の第1電解液が強アルカリになることが抑制される。従ってガラスセラミックス層の安定性および耐久性が確保される。
【0021】
(2)本発明の様相2に係る水系リチウム−空気二次電池によれば、上記様相において、リチウムイオン伝導材料(リチウムイオン伝導層)の母材は、Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3(x=0〜0.8、y=0〜1.0)の組成式を有する。このようなガラスセラミックス層はLATPとも称される。M=Al,Ga,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種を意味する。Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3が挙げられる。xは0〜0.8の範囲、特に0.1〜0.7の範囲が好ましい。yは0〜1.0の範囲、特に0.1〜0.9の範囲が好ましい。Li1.35Ti1.75Al0.25P0.9Si0.1O12,が例示される。リチウムイオン伝導層は、NASICON型の結晶構造を有する水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつ母材(LATP)で形成されていることが好ましい。
【0022】
このガラスセラミックス層では、ガラス相がセラミックス粒子の粒界を埋めている。このようなイオン伝導性ガラスセラミックス層は、酸化物無機固体電解質である。厚み方向のイオン伝導性としては1×10−5S/cm(25℃)以上、1×10−4S/cm(25℃)以上、1×10−3S/cm(25℃)以上にできる。中性域のリチウム塩のpHとしては4〜10が例示される。イオン伝導性ガラスセラミックス層の厚みは10〜1,000μmが好ましい。
【0023】
(3)本発明の様相3に係る水系リチウム−空気二次電池によれば、上記した様相において、リチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、LiNO3のうちの少なくとも1種であることを特徴とする。A部の第1水系電解液のpH値を4〜12の範囲内の中性域付近とするのに有利である。
【0024】
(4)本発明の様相4に係る水系リチウム−空気二次電池によれば、上記様相において、負極とガラスセラミックス層との間に反応防止層が設けられていることを特徴とする。上記したガラスセラミックス層と、Li金属を備える負極と直接接触させると、リチウムが還元力が強いため、ガラスセラミックス層に影響を与えるおそれがある。具体的に、ガラスセラミックス層の構成成分であるチタンが還元されるおそれがある。そこで、Li金属を備える負極とガラスセラミックス層との間に、反応防止層が介在されている。反応防止層はリチウムイオン伝導性をもち、金属リチウムに対して安定なものが好ましい。反応防止層は、リチウムリン酸窒化物(LiPON,組成式:Li3-xPO4-yNy)、ポリマー固体電解質、有機系電解液等が挙げられる。ポリマー固体電解質としては、ポリエチレンオキサイドにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム塩を含有させたものが挙げられる。有機系電解液の溶媒としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る水系Li-空気二次電池によれば、水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミックス層をLi金属負極の保護部として用いるため、負極が保護される。
【0026】
しかしながら、上記したガラスセラミックス層はアルカリ腐食を引き起こすおそれがあるため、電解液中のLiOHの濃度をあまり高く出来ないと言う事情がある。 その解決の為に、正極と負極との間に介在する水系電解液を陽イオン交換膜によりA部の第1水系電解液とB部の第2水系電解液とに分離することで、正極放電反応によりB部の第2水系電解液において生成するOH-イオンがA部の第1水系電解液に透過することを陽イオン交換膜により抑制し、A部の第1水系電解液においてLiOHの濃度が過剰に高くなることを抑制し、強アルカリに対して安定性が必ずしも充分ではないガラスセラミックス層の表面を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来技術に係り、非水系のリチウム−空気電池の概念を模式的に示す断面図である。
【図2】水系のリチウム−空気電池の概念を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る水系のリチウム−空気電池の概念を模式的に示す断面図である。
【図4】陽イオン交換膜のアルカリ阻止効果を評価する試験装置を模式的に示す断面図である。
【図5】陽イオン交換膜のアルカリ阻止効果についての試験結果を示すグラフである。
【図6】水系のリチウム−空気電池における問題点を模式的に示す断面図である。
【図7】水系のリチウム−空気電池におけるB槽が強アルカリであるため、B槽の水素イオン濃度が少ない状態を模式的に示す図である。
【図8】陽イオン交換膜とLiCl添加のアルカリ阻止効果についての試験結果を示すグラフである。
【図9】本発明に係る水系のリチウム−空気電池の別の形態に係る概念を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明および比較例に係り、LATPの電解液浸漬試験を示す図である。
【図11】(A)は参考文献1に開示されているデータに基づくものであり、電解液に浸漬させたLATP粉末のX線回折(XRD)測定結果を示すグラフであり、(B)は試験例において電解液に浸漬させたLATP粉末のX線回折(XRD)測定結果を示すグラフである。
【図12】(A)は電解液に浸漬させる試験例の実施前におけるLATP粉末のX線回折(XRD)測定結果を示すグラフであり、(B)は電解液に浸漬させる試験例の実施後におけるLATP粉末のXRD測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態1を説明する。図3はリチウム−空気二次電池の断面を模式的に概念図を示す。図3に示すように、金属リチウムで形成された負極1と、空気が供給される正極2と、負極1と正極2との間において負極側から正極側に向けて、水遮断性を有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス層3と、第1水系電解液42(以下、第1電解液ともいう)を備えるA槽51(A部)と、陽イオン交換膜102と、第2水系電解液42(以下、第2電解液42ともいう)を備えるB槽52(B部)とをこの順に有する。負極1は前記した反応防止層で被覆されていることが好ましい。反応防止層は、リチウムリン酸窒化物(LiPON,組成式:Li3-xPO4-yNy)、ポリマー固体電解質、有機系電解液等が例示される。
【0029】
リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス層3の母材の組成式は、Li1-x(M,Al,Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3が挙げられ、PO4を含む。xは0〜0.8、殊に0〜0.5が好ましい。yは0〜1.0、特に0.1〜0.9が好ましい。M=Al,Ga以外のNd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種が例示される。ここで、Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3が挙げられる。xは0〜0.8の範囲、特に0.1〜0.7の範囲が好ましい。yは0〜1.0の範囲、特に0.1〜0.9の範囲が好ましい。
【0030】
A部の第1電解液41は、中性域のリチウム塩を含有してpH12以下、pH4以上の範囲に設定されており、且つ、A部の第1電解液41のリチウムイオン濃度は、B槽52の第2電解液42のリチウムイオン濃度と同等または高濃度とされている。
【0031】
水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミックス層3(LATP)がLi金属負極1の保護部として用いられている。この場合、放電生成物であるLiOHを水系電解液中へ溶解、沈殿させ、貯蔵出来る利点が得られる。しかしながら、ガラスセラミックス層3(LATP)は強いアルカリ液に触れると、アルカリ腐食を引き起こすおそれがあるため、電解液中のLiOHの濃度をあまり高く出来ないと言う事情がある。そこで本実施形態によれば、図3に示すように、負極1と正極2との間に介在する水系の電解液部は、陽イオン交換膜102によりA槽51とB槽52とに分離されている。これにより正極の放電反応によりA槽51において生成したOH-イオンがB槽52に透過することを抑制する。このためA槽51の水系第1電解液41が強アルカリになることが抑えられ、アルカリに対して安定性が充分ではないガラスセラミックス層(LATP)3の表面を保護することができる。即ち、負に帯電した陽イオン交換膜102が静電反発により、正極の電極反応で生成したOH-イオンがB槽52からA槽51へ透過することを抑え、A槽51の第1電解液41中のLiOHの濃度が抑えられ、ひいてはガラスセラミックス層(LATP)3表面がアルカリ性溶液に曝されないようにできる。
【0032】
本実施形態によれば、図3に示すように、陽イオン交換膜102によりA槽51の第1電解液41およびB槽52の第2電解液42は分離されている。この場合、放電反応において負極側のA槽51で生成したLi+イオンは、陽イオン交換膜102を通過して、B槽52へ移動可能である。しかし、正極の放電反応で生成したB槽52の第2電解液42におけるOH-イオンは、陽イオン交換膜102の静電反発により、B槽52からA槽51へ移動することが制限され、結果として、B槽52の第2電解液42におけるLiOH濃度が次第に増加する。B槽52の第2電解液42におけるLiOH濃度が高くなると、B槽52の第2電解液42におけるLi+イオンとA槽51の第1電解液41におけるH+イオンが、陽イオン交換膜102を介してイオン交換し、それぞれ反対側の槽に等量移動することが考えられる。このためB槽52側では、H+イオンによるアルカリの中和反応が生じる。これに対して、A槽51側では、Li+イオン濃度が増加し、A槽51に残留するOH-イオンにより、LiOH濃度増加し、結果として、A槽51の電解液は強アルカリ性に変化し、ガラスセラミックス層3の安定性が低下するものと考えられる。この現象を回避する為に、本実施形態によれば、A槽51の第1電解液41には中性域のLi塩が予め溶解されており、A槽51の第1電解液41のpH値は4〜12の範囲内の中性域付近とされている。更に、A槽51の第1電解液41のLi+イオン濃度は、B槽52の第2電解液42のLi+イオン濃度よりも高くされている。これにより、B槽52の第2電解液42からA槽51の第1電解液41へのLi+の移動が抑制される。このためA槽51の第1電解液41におけるLiOH濃度が高くなることが抑制され、ひいてはA槽51の第1電解液41が強アルカリになることが抑制される。ひいては、強アルカリに対して安定性が充分ではないガラスセラミックス層(LATP)3の安定性が向上される。
【0033】
(試験例1)
陽イオン交換膜102におけるOH-イオンの透過防止効果を確認するために、図4に示す試験装置を用いて試験した。図4に示したように試験装置は、U字型ガラス容器100に、陽イオン交換膜102を挟み込み、U字型ガラス容器100の片側容器100A(以下、A'槽と省略)に、水とpH測定用のpHメータ106を挿入し、陽イオン交換膜102(材質:フッ素系陽イオン交換膜又は炭化水素系陽イオン交換膜)を挟み、A'槽と反対側のU字型ガラス容器100の片側容器100B内(B'槽と省略)に、LiOH水溶液を入れた。A'槽である片側容器100Aにおける水のpH値の変化をモニターする試験を行った。
【0034】
本試験における片側容器100A(A'槽)、片側容器100B(B'槽)は、図3に於けるA槽51、B槽52を模擬する。片側容器100A(A'槽)の水のpH値を測定することで、陽イオン交換膜102の効果が確認できる。即ち、片側容器100A(A'槽)において生成するOH-イオンが陽イオン交換膜102を介して片側容器100B(B'槽)に透過することを抑制する効果を確認できる。本試験では、ガラスセラミックス層(LATP)表面におけるアルカリ腐食が問題となるpH値以上に、A'槽(A槽51に相当)の第1電解液41のpH値が上昇するか否かについて評価する。
【0035】
本試験では、陽イオン交換膜102として、フッ素系陽イオン交換膜(DuPont製: Nafion 112 膜、厚さ50μm)と、炭化水素系陽イオン交換膜(アストム製: Neosepta CMB膜、厚さ210μm)とについて試験した。試験では、陽イオン交換膜102を片側容器100A(A'槽)と片側容器100B(B'槽)とで挟み込んだ。片側容器100A(A'槽)には水を入れ、片側容器100B(B'槽)には、飽和(5.23 mol/L@25℃)LiOH水溶液を入れた。試験結果を図5に示す。図5は、A’槽におけるpH値の時間変化が示す。図5の横軸は時間を示し、縦軸はpH値を示す。図5の特性線W10(▽印)は、陽イオン交換膜102としてフッ素系陽イオン交換膜を用い、水(LiClなし)を用いた場合を示す。図5の特性線W20は、陽イオン交換膜102として炭化水素系陽イオン交換膜を用い、水(LiClなし)を用いた場合を示す。図5の特性線W10,W20から理解できるように、陽イオン交換膜102として、フッ素系陽イオン交換膜(図5における特性線W10)と、炭化水素系陽イオン交換膜(図5における特性線W20)とのいずれを用いた場合においても、上昇速度の違いはあれ、片側容器100A(A'槽)のpH値は素早く上昇し、ガラスセラミックス層(LATP)におけるアルカリ腐食が発生するpH値12以上に到達してしまうことが判った。従って、陽イオン交換膜102によりA槽51とB槽52とを単に分割しただけでは充分ではない。
【0036】
このように陽イオン交換膜102を単に使用しても、A'槽(図3におけるA槽51に相当)のpH値が上昇することを防止できない。この理由として、図6に示したようなメカニズムが考えられる。即ち、電解液中に陽イオン交換膜102を設置することで、放電反応において負極側で生成したLi+イオンは、A槽51から陽イオン交換膜102を透過してB槽52へ移動可能である。しかし、正極の放電反応で生成したB槽52におけるOH-イオンは、陽イオン交換膜102を透過してB槽52からA槽51へ移動することが制限され、B槽52中のLiOH濃度が増加する。しかしながら、B槽52中のLiOH濃度が高くなると、B槽52中のLi+イオンとA槽51中のH+イオンが、陽イオン交換膜102を介してイオン交換し、それぞれ反対側の槽に等量移動し(図6参照)、結果として、B槽52側では、H+イオンによるアルカリの中和反応が生じる。これに対してA槽51側では、B槽52からA槽51にLi+イオンが移動するため、A槽51においてLi+イオン濃度が増加し、A槽51に残留するOH-イオンとLi+イオンとが反応し、結果として、A槽51においてLiOHが生成され、A槽51の電解液は強アルカリ性に変化するものと考えられる。
【0037】
そこで、A槽51の第1電解液41が強アルカリ性に変化する現象を回避する為に、本発明者は、A槽51中に中性のLi塩を予め溶解し、A槽51の第1電解液41のpH値を4〜12の範囲に設定した。このようにA槽51の第1電解液41におけるLi+イオン濃度をB槽52の第2電解液42におけるLi+イオン濃度よりも予め高くした。これによりB槽52からA槽51へのLi+イオンの移動を防止することが可能である。
【0038】
なお、上記したように、Li+イオン濃度をA槽51>B槽52の関係にしておくことにより、Li+イオンの濃度勾配により、Li+イオン濃度が高いA槽51から、Li+イオン濃度が低いB槽52側にLi+イオンが移動するおそれが考えられる。しかしながら、B槽52の第2電解液42をアルカリ性に維持しておけば、B槽52の第2電解液42のH+濃度が低下しており、ひいてはA槽51のLi+イオンとB槽52のH+イオンとのイオン交換が制限される。この場合、Li+イオン濃度が高いA槽51からB槽52へのLi+イオンの移動は制限されると考えられる。従ってB槽52の電解液をアルカリにすることが好ましい。B槽52の第2電解液42のpH値を8〜15の範囲内、12〜15の範囲内にすることが好ましい。
【0039】
この効果を確認する為に、図4に示すU字型ガラス容器100のA'槽に、上記の水の代りに、飽和LiOH濃度以上の非常に高濃度の12.8 MのLiCl溶液を第1電解液41として予め入れておき、B'槽に飽和LiOH溶液を第2電解液42として入れた。そしてA'槽のpH値の変化を測定した。測定結果を図8に示す。図8の横軸は時間を示し、縦軸はpH値を示す。図8の特性線W21は陽イオン交換膜102として炭化水素系陽イオン交換膜(Neosepta CMB膜)を用い、12.8M(12mol/L)のLiClを溶解させた電解液を第1電解液41として用いた場合を示す。特性線W11は陽イオン交換膜102としてフッ素系陽イオン交換膜(Nafion112膜)を用い、1M(1mol/L)のLiClを溶解させ電解液を第1電解液41として用いた場合を示す。特性線W12は陽イオン交換膜102としてフッ素系陽イオン交換膜(Nafion112膜)を用い、12.8M(12mol/L)のLiClを溶解させ電解液を第1電解液41として用いた場合を示す。図8の特性線W10,W20に示すように、A'槽が水の場合には、A'部の第1電解液41はpH値12以上となり、強アルカリとなる。
【0040】
しかしながらA'部の第1電解液41が12.8 M(12.8mol/L)の中性域のLiCl溶液である場合(特性線W21,W12)には、A'部の第1電解液41は、定常値でpH値8.5程度の中性域のpH値に保持でき、時間が経過しても第1電解液41が強アルカリ性にはならないことがわかった。これはガラスセラミックス層3の安定化に有利であることを示す。更に、A'槽に入れる中性域のLiClの濃度の効果を見るために、特性線W11と特性線W12とを比較すると、上記した12.8M(12.8mol/L)の高濃度のLiCl溶液を入れた場合には、A'槽では強アルカリに変化することが抑えられる優れた効果を確認することができた。
【0041】
以上の結果に基き、図3に示すセル構成にすることで、負極を覆うガラスセラミックス層(LATP)3におけるアルカリ腐食の問題を解決することができる。従って、A槽51の第1電解液41のLi+イオン濃度をB槽52の第2電解液42のLi+イオン濃度よりも常に高くしておく必要がある。放電反応の進行により、B槽52の第2電解液42のLiOH濃度は次第に高くなるが、B槽52のLi+イオン濃度は、沈殿により、LiOHの飽和溶液濃度を超えることは無い為、飽和LiOH濃度以上のLi+イオン濃度となるように、中性のリチウム塩をA槽51の第1電解液41に予め溶解させておくことが好ましい。
【0042】
【表1】
表1はアルカリ塩の飽和濃度を示す。表1に示したように、飽和LiOHの飽和濃度は、5.23 mol/L(25℃)である。その濃度以上に溶解可能な中性のLi塩の代表例として、図8に示したように、LiCl、LiBr、LiI、LiNO3等の少なくとも1種を含むリチウム塩が挙げられる。このようにA槽51は、充分に高いLi+イオン濃度が必要であるものの、必ずしも厚みが厚い必要は無い。実際には、図9に示す多くの実施形態のように、上記の中性のLi塩の水溶液で形成された第1電解液41を不織布等の多孔質体45に含浸して用いることが好ましい。B槽52は、A槽51からのLi+イオンの移動を防止するためにアルカリ性(pH値:12〜15)にしておくことが好ましい。この場合、LiOHを予めB槽52に添加しておくことが好ましい。
【0043】
(試験例2)
アルカリ溶液中でのガラスセラミックス層(LATP)3の腐食を加速する為に、市販のガラスセラミックス板(LATP板,オハラガラス製、厚み:150μm)をメノウ乳鉢で粉砕し、粉末状のLATPサンプルを用いて評価試験を行った。本試験では、本発明のセル構造を模擬する為に、図10に示したように、樹脂容器300に開口窓301を開け、その開口窓301に陽イオン交換膜102(Nafion 112膜)を貼り付け、シール材で固定した。その陽イオン交換膜102を設置した容器300内に10M(10mol/L)のLiCl水溶液を入れ、上記のLATP粉末250を浸漬した。このようにLATP粉末250を浸漬した容器300を、容器400内の4M(4mol/L)のLiOH水溶液中に浸漬した。この場合、陽イオン交換膜102が完全に容器400のLiOH水溶液と接触するように容器300を容器400内に浸漬した。比較例として、図10における右図に示したように、上記のLATP粉末250を4M(4mol/L)の LiOH水溶液中に直接的に浸漬させた。上記手順で調整した容器中でLATP粉末250を、室温で40日間放置し、その後、溶液からろ過して取り出し、十分な水洗浄の後、空気中で乾燥して評価サンプルとした。
【0044】
LATP粉末250の腐食状態を確認する為に、X線回折(XRD)による測定を行った。参考文献1によると、本試験と同様に、強アルカリ中で、LATP粉末を浸漬、保持を行った場合には、図11(A)に示すように、2θ=22-24°付近に新たに回折ピークが現れる。そのピークは、LATP粉末の分解生成物であるリン酸リチウム(Li3PO4)に帰属されることが報告されている。本発明者の実験においても、4MのLiOH水溶液中に浸漬、保持した比較例のLATP粉末250には、図11(B)に示すように、LATP粉末の分解生成物であるLi3PO4に帰属される新たな回折ピークが2θ=22-24°付近に観察された。
【0045】
これに対して、浸漬前の初期状態のLATP粉末250に対しては、図12(A)に示すように、Li3PO4に相当する回折ピークは、観測されないことが判った。同様に、浸漬後のLATP粉末250に対しても、図12(B)に示すように、LATP粉末の分解生成物であるLi3PO4に相当する回折ピークは、観測されないことが判った。このことから、本発明においては、比較例とは異なり、強アルカリ中でのガラスセラミックス層(LATP)の分解は観測されず、本発明の効果が確認できた。
【0046】
(その他)
A槽51の第1水系電解液41のリチウムイオン濃度は、B槽52の第2水系電解液42のリチウムイオン濃度よりも高濃度であることが好ましいが、同等でも良い。A部の第1電解液41は、中性域のリチウム塩を含有してpH12以下、pH4以上の範囲に設定されている。A部の第1電解液41のpH値は11以下、10以下、pH4以上、pH5以上でも良い。本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0047】
1は負極、2は正極、102は陽イオン交換膜、41は第1電解液、42は第2電解液、51はA槽(A部)、52はB槽(B部)を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は水系リチウム−空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術によれば、非水系Li-空気二次電池において、電解液にポリアクリロニトリル(PAN):エチレンカーボネイト(EC):プロピレンカーボネイト(PC):LiPF6 = 12:40:40:8(mass%)系高分子ゲル電解液を用いたものが知られている。更に、電解質として、疎水性常温溶融塩を用いた非水系Li-空気二次電池が知られている。更に、電解質として、プロピレンカーボネイト(PC)を用いた非水系Li-空気二次電池も知られている。
【0003】
特許文献1には、金属リチウム負極に隣接して、電解液の間に、Li1-x(M,Al,Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3の組成よりなるNASICON型の結晶構造をもつ水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミックス層(LATP)と、ガラスセラミックス層(LATP)と金属リチウムとの反応を防止する為にリチウムリン酸窒化物(LiPON)等の反応防止層からなるリチウム保護膜を備えることにより、リチウムイオンの出入りを確保しつつ、水と金属リチウムとを分離し、水溶液系電解液の利用を可能にした水系Li-空気二次電池が開示されている。
【0004】
非特許文献1には、水系Li-空気二次電池において、ガラスセラミックス層(LATP)と金属リチウムとの反応を防止する為に、PEO系のポリマー固体電解質を使用する技術が開示されている。非特許文献2には、水系Li-空気二次電池において、ガラスセラミックス層(LATP)の腐食を防止する為に、酢酸-酢酸リチウムの弱酸緩衝溶液を電解液とする技術が開示されている。非特許文献3には、水系Li-空気二次電池において、ガラスセラミックス層(LATP)の腐食を防止する為に、陽イオン交換膜を水系電解液中に挿入する技術が開示されている。非特許文献4には、水系Li-空気二次電池において、放電生成物であるLiOHがガラスセラミックス層(LATP)上に付着するのを防止する為に、ガラスセラミックス層(LATP)上に陽イオン交換膜を配置する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007-513464
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tao Zhang et al., "Li/Polymer Electrolyte/Water Stable Lithium-Conducting Glass Ceramics Composite for Lithium--Air Secondary Batteries with an Aqueous Electrolyte", J. Electrochem. Soc., vol. 155(12), pA965-A969(2008)
【非特許文献2】Tao Zhang et al., "A novel high energy density Rechargeable Lithium/Air Battery", Chem. Commun., vol. 46, p1661-1663(2010)
【非特許文献3】何平ら, "ポストリチウムイオン電池4 イオン交換膜を添加したリチウム-空気燃料電池", 第51回電池討論会,3B16(2010)
【非特許文献4】Philippe Stevens et Al., "Development of an Aqueous, Rechargeable Lithium -Air Battery Operating with Untreated Air", 217th ECS Meeting, B12, ABS #746(2010)
【0007】
Li-空気二次電池は、理論的に非常に高いエネルギー密度を有する。Li-空気二次電池は、基本的には、図1に示したように、Li金属を有する負極と、空気中の酸素を利用する為のガス拡散電極で形成された正極と、正極と負極との間に介在する電解液とを備えるセル構造を有する。ここでLi-空気二次電池は、電解液として有機溶媒やイオン液体等の非水溶媒系の電解液を用いる非水系のLi-空気二次電池(図1参照)と、電解液としてHCl、LiCl、LiOHという水溶液系電解液を用いる水系のLi-空気二次電池(図2参照)との2種類がある。ここで、非水系のLi-空気二次電池の放電生成物であるリチウム酸化物(Li2O 又はLi2O2又はその両方)は、非水系電解液中に不溶な為、正極として用いられるガス拡散電極の細孔中に析出し、その細孔を封止すると言う問題点がある。
【0008】
これに対して、水系のLi-空気二次電池では、これの放電生成物は、水酸化リチウム(LiOH)であり、LiOHは電解液の成分である水に溶解するため、非水系の場合のように、ガス拡散電極の細孔を封止する問題は軽減される。更に、水系の電解液を用いることで、非水系のLi-空気二次電池と比較して、正極における酸素の電極反応速度を非常に速くできる為、充放電の過電圧を低減できる利点が得られる。更に、多量の塩を電解液に溶解できるので、水系電解液のイオン導電率を高くでき、更に、不燃性である等といった多くの利点を有する。しかしながら水系のLi-空気二次電池では、負極に用いるLi金属が水と激しく反応する為に、水系の電解液を負極のLi金属と直接接触させることができないと言う問題点がある。これを解決する為に、特許文献1に示されるように、水遮断性のリチウムイオン伝導性をもつ固体電解質を反応防止層として用い、Li金属で形成されている負極を保護する技術が開発されている(図2参照)。Li金属を備える負極を保護する為のリチウムイオン導電性をもつ固体電解質の特性として、水の遮断性と、高いLiイオン伝導性とを両立させることが好ましい。しかし、現状では、このような特性を満足する固体電解質の候補は、非常に少ない。
【0009】
その中で、近年、NASICON型の結晶構造をもつLiおよびM(M=Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導性材料で形成されたガラスセラミックス層は、イオン伝導率が高く、水に対する遮断性が高いと言う優れた特性を有する。代表的なガラスセラミックス層としては、Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3の組成よりなるLATPが挙げられる。上記した優れた特性が得られるため、これまで報告されている水系のLi-空気電池では、そのガラスセラミックス層が、負極のLi金属を保護する保護部として主に用いられている。しかしながら、ガラスセラミックス層をLi金属と直接的に接触させると、ガラスセラミックス層の構成成分であるチタンが還元されることがあるので、図2に示したように、Li金属の負極とガラスセラミックス層との間に、リチウムリン酸窒化物(LiPON,非特許文献1)やポリマー固体電解質(非特許文献2)、有機系電解液(非特許文献3)等の反応防止層が設けられていることが好ましい。
【0010】
ところで、水系Li-空気二次電池においては、負極及び正極では、以下の電極反応により、電池反応が進行する。
負極:Li ⇔ Li+ + e- (反応式1)
正極:1/4 O2 + 1/2 H2O + Li+ + e- ⇔ LiOH (反応式2)
全体: Li + 1/4 O2 + 1/2 H2O ⇔ LiOH (反応式3)
上記した反応式2,3から見て判るように、水系-Li空気電池の放電生成物は、LiOHであり、水系電解液中に溶解して貯蔵される。その際、放電反応の進行と共に、電解液のLiOH濃度は高くなり、アルカリ側に次第にシフトして行く。更に電池の放電反応が進行し、LiOHの飽和溶解度(文献によれば、100mLの水(@25℃)に対して12.54g溶解)を超えると、LiOHの沈殿が起こり、沈殿物としてセル内に貯蔵される。
【0011】
一方、負極であるLi金属を保護する目的で使用するガラスセラミックス層(代表例:LATP)は、1M LiNO3や1M LiClといった中性溶液中では、安定なものの、強酸溶液(0.1M HCl)や、強アルカリ溶液(例えば1M LiOH(100mLの水に対して約2.4 gのLiOHが溶解)中では、不安定であることが示唆されている(参考文献1:Satoshi Hasegawa et Al., "Study on Lithium/Air secondary batteries stability of NASICON-type lithium ion conducting glass ceramics with water", JournAl of Power Sources, vol. 189(1), p371-377(2009))。その為、上記した水遮断性をイオン伝導性ガラスセラミックス層(LATP)の安定性は必ずしも充分ではない。
【0012】
その問題を回避する為に、非特許文献2に示されるように、酢酸電解液を用いる技術が提案されている。この場合、電解液中に酢酸を添加することにより、反応式3で示されたような電池全体の反応として、
全体: Li + CH3COOH + 1/4 O2 ⇔ CH3COOLi + 1/2 H2O (反応式4)
となり、電解液として使用する酢酸は、
CH3COOH ⇔ CH3COO- + H+ (反応式5)
の平衡反応により、緩衝溶液として働くことで、電解液のpHを常に弱酸環境に保持し、ガラスセラミックス層(LATP)の腐食を防止することが可能となる。しかしながらこの場合、反応式4に示されるように電池反応には、電池反応に寄与するLiと等量モルの酢酸が必要であり、その分、エネルギー密度を引き下げると言う問題点がある。
【0013】
その他の対策技術として、陽イオン交換膜をガラスセラミックス層(LATP)の保護膜として用いる技術(非特許文献3,4)が知られている。この技術は、図3に示したように、水系電解液中(非特許文献3)、若しくは、イオン伝導性ガラスセラミックス層の表面(非特許文献4)に陽イオン交換膜を設置し、OH-イオンのLATP表面への攻撃防止(非特許文献3)や、放電生成物であるLiOHの析出物をLATP表面に付着させないこと(非特許文献4)を目的とした技術である。しかしこれらの従来技術によれば、イオン伝導性ガラスセラミックス層におけるアルカリ腐食を抑制させるのには限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、水遮断性およびリチウムイオン伝導性を有すると共にLiおよびM(M=Al,Ga,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導材料を母材とするイオン伝導性ガラスセラミックス層におけるアルカリ腐食を抑制させ、イオン伝導性ガラスセラミックス層の安定性および耐久性を高めるのに有利な水系リチウム−空気二次電池を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明者は上記した課題のもとに水系リチウム−空気二次電池について鋭意開発を進めている。そして、図3に示すように、金属リチウムを有する負極と、空気が供給される正極と、負極と正極との間において負極側から正極側に向けて、水遮断性およびリチウムイオン伝導性を有すると共にLiおよびM(M=Al,Ga,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導材料で形成されたガラスセラミックス層と、第1水系電解液を備えるA部と、陽イオン交換膜と、第2水系電解液を備えるB部とをこの順に具備する水系リチウム−空気二次電池について本出願人等は開発を進めている。これは、負に帯電した陽イオン交換膜が静電反発により、正極の電極反応で生成したOH-イオンがB部からA部へ透過することを抑え、ガラスセラミックス層の表面がアルカリ性溶液に曝されないようにすることを狙った技術である。しかしながら、後述の本発明者の詳細な実験結果で説明するように、実際には、図6に示すように、陽イオン交換膜で隔たれた正極側のB部における水系電解液のLi+イオン濃度が上昇すると、陽イオン交換膜で隔たれたガラスセラミックス層側のA部の水系電解液におけるプロトンが陽イオン交換膜を介してイオン交換し、結果として、B部のLiイオンがA部に移動し、A部に残されたOH-イオンによりLiOHが形成され、A部の電解液が強アルカリ性となり、ガラスセラミックス層のアルカリ腐食が発生するおそれがある。本発明はこれに対処する。
【0016】
すなわち、本発明の様相1に係る水系リチウム−空気二次電池は、金属リチウムを有する負極と、空気が供給される正極と、水遮断性およびリチウムイオン伝導性を有すると共にLiおよびM(M=Al,Ga、Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導材料で形成されたガラスセラミックス層と、第1水系電解液(以下、第1電解液ともいう)を備えるA部と、陽イオン交換膜と、第2水系電解液(以下、第1電解液ともいう)を備えるB部とをこの順に具備しており、A部の第1水系電解液は、中性域のリチウム塩を含有してpH12以下、pH4以上の範囲に設定されており、且つ、A部の第1水系電解液のリチウムイオン濃度は、B部の第2水系電解液のリチウムイオン濃度と同等または高濃度であることを特徴とする。
【0017】
本発明の様相1に係る水系Li-空気二次電池によれば、水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミック層を、Li金属負極を保護する保護層として用いる。本様相によれば、放電生成物であるLiOHを水系電解液中へ溶解、沈殿させ、貯蔵出来る利点が得られる。しかしながら、ガラスセラミックス層は強いアルカリ液に接触れると、アルカリ腐食を引き起こすおそれがあるため、電解液中のLiOHの濃度をあまり高く出来ないと言う事情がある。
【0018】
そこで本発明の様相1によれば、負極と正極との間に介在する水系の電解液部を陽イオン交換膜によりA部とB部とに分離している。これにより正極の放電反応によりB部において生成したOH-イオンがA部に透過することを抑制する。このためA部の第1電解液が強アルカリになることが抑えられる。よって、アルカリに対して安定性が必ずしも充分ではないガラスセラミックス層の表面のアルカリ腐食を抑制させることができる。即ち、負に帯電した陽イオン交換膜が静電反発により、正極の電極反応で生成したOH-イオンがB部からA部へ透過することを抑え、A部の第1水系電解液中のLiOHの濃度が抑えられ、ひいてはガラスセラミックス層の表面がアルカリ性溶液に曝されないようにできる。ガラスセラミックス層の表面の安定性および耐久性が向上する。
【0019】
さらに本様相によれば、水系電解液中に陽イオン交換膜を設置してA部およびB部は分離されている。この場合、電池の放電反応において負極側のA部で生成したLi+イオンは、陽イオン交換膜を通過して、B部へ移動可能である。しかし、正極の放電反応で生成したB部の第2電解液におけるOH-イオンは、陽イオン交換膜の静電反発により、B部からA部へ移動することが制限され、B部の第2電解液におけるLiOH濃度が次第に増加する。このようにB部の第2電解液におけるLiOH濃度が次第に高くなってアルカリが強くなると、B部の第2電解液におけるLi+イオンとA部の第1水系電解液におけるH+イオンが、陽イオン交換膜を介してイオン交換し、それぞれ反対側の槽に等量移動することが考えられる(図6参照)。このためB部側では、酸性の要因となるH+イオンによるアルカリの中和反応が生じる。これに対して、A部の第1電解液側では、Li+イオン濃度が増加し、A部に残留するOH-イオンにより、LiOH濃度増加し、結果として、A部の電解液は強アルカリ性(pH値13以上)に変化し、ガラスセラミックス層の安定性が低下するものと考えられる。そこで本様相によれば、この現象を回避する為に、A部の第1電解液には中性域のLi塩が予め溶解されており、A部の第1電解液のLi+イオン濃度は、B部の第2電解液のLi+イオン濃度よりも高くされており、A部の第1電解液のpH値は4以上、12以下の範囲内の中性域付近とされている。A部の第1電解液のpH値は4以上、5以上、6以上にできる。更にpH値は11以下、10以下、9以下にできる。
【0020】
A部の第1電解液のLi+イオン濃度は、B部の第2電解液のLi+イオン濃度よりも高くされているため、B部の第2水系電解液からA部の第1水系電解液へのLi+の移動が抑制される。このためA部の第1電解液におけるLiOH濃度が高くなることが抑制され、ひいてはA部の第1電解液が強アルカリになることが抑制される。従ってガラスセラミックス層の安定性および耐久性が確保される。
【0021】
(2)本発明の様相2に係る水系リチウム−空気二次電池によれば、上記様相において、リチウムイオン伝導材料(リチウムイオン伝導層)の母材は、Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3(x=0〜0.8、y=0〜1.0)の組成式を有する。このようなガラスセラミックス層はLATPとも称される。M=Al,Ga,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種を意味する。Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3が挙げられる。xは0〜0.8の範囲、特に0.1〜0.7の範囲が好ましい。yは0〜1.0の範囲、特に0.1〜0.9の範囲が好ましい。Li1.35Ti1.75Al0.25P0.9Si0.1O12,が例示される。リチウムイオン伝導層は、NASICON型の結晶構造を有する水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつ母材(LATP)で形成されていることが好ましい。
【0022】
このガラスセラミックス層では、ガラス相がセラミックス粒子の粒界を埋めている。このようなイオン伝導性ガラスセラミックス層は、酸化物無機固体電解質である。厚み方向のイオン伝導性としては1×10−5S/cm(25℃)以上、1×10−4S/cm(25℃)以上、1×10−3S/cm(25℃)以上にできる。中性域のリチウム塩のpHとしては4〜10が例示される。イオン伝導性ガラスセラミックス層の厚みは10〜1,000μmが好ましい。
【0023】
(3)本発明の様相3に係る水系リチウム−空気二次電池によれば、上記した様相において、リチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、LiNO3のうちの少なくとも1種であることを特徴とする。A部の第1水系電解液のpH値を4〜12の範囲内の中性域付近とするのに有利である。
【0024】
(4)本発明の様相4に係る水系リチウム−空気二次電池によれば、上記様相において、負極とガラスセラミックス層との間に反応防止層が設けられていることを特徴とする。上記したガラスセラミックス層と、Li金属を備える負極と直接接触させると、リチウムが還元力が強いため、ガラスセラミックス層に影響を与えるおそれがある。具体的に、ガラスセラミックス層の構成成分であるチタンが還元されるおそれがある。そこで、Li金属を備える負極とガラスセラミックス層との間に、反応防止層が介在されている。反応防止層はリチウムイオン伝導性をもち、金属リチウムに対して安定なものが好ましい。反応防止層は、リチウムリン酸窒化物(LiPON,組成式:Li3-xPO4-yNy)、ポリマー固体電解質、有機系電解液等が挙げられる。ポリマー固体電解質としては、ポリエチレンオキサイドにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム塩を含有させたものが挙げられる。有機系電解液の溶媒としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る水系Li-空気二次電池によれば、水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミックス層をLi金属負極の保護部として用いるため、負極が保護される。
【0026】
しかしながら、上記したガラスセラミックス層はアルカリ腐食を引き起こすおそれがあるため、電解液中のLiOHの濃度をあまり高く出来ないと言う事情がある。 その解決の為に、正極と負極との間に介在する水系電解液を陽イオン交換膜によりA部の第1水系電解液とB部の第2水系電解液とに分離することで、正極放電反応によりB部の第2水系電解液において生成するOH-イオンがA部の第1水系電解液に透過することを陽イオン交換膜により抑制し、A部の第1水系電解液においてLiOHの濃度が過剰に高くなることを抑制し、強アルカリに対して安定性が必ずしも充分ではないガラスセラミックス層の表面を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来技術に係り、非水系のリチウム−空気電池の概念を模式的に示す断面図である。
【図2】水系のリチウム−空気電池の概念を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る水系のリチウム−空気電池の概念を模式的に示す断面図である。
【図4】陽イオン交換膜のアルカリ阻止効果を評価する試験装置を模式的に示す断面図である。
【図5】陽イオン交換膜のアルカリ阻止効果についての試験結果を示すグラフである。
【図6】水系のリチウム−空気電池における問題点を模式的に示す断面図である。
【図7】水系のリチウム−空気電池におけるB槽が強アルカリであるため、B槽の水素イオン濃度が少ない状態を模式的に示す図である。
【図8】陽イオン交換膜とLiCl添加のアルカリ阻止効果についての試験結果を示すグラフである。
【図9】本発明に係る水系のリチウム−空気電池の別の形態に係る概念を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明および比較例に係り、LATPの電解液浸漬試験を示す図である。
【図11】(A)は参考文献1に開示されているデータに基づくものであり、電解液に浸漬させたLATP粉末のX線回折(XRD)測定結果を示すグラフであり、(B)は試験例において電解液に浸漬させたLATP粉末のX線回折(XRD)測定結果を示すグラフである。
【図12】(A)は電解液に浸漬させる試験例の実施前におけるLATP粉末のX線回折(XRD)測定結果を示すグラフであり、(B)は電解液に浸漬させる試験例の実施後におけるLATP粉末のXRD測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態1を説明する。図3はリチウム−空気二次電池の断面を模式的に概念図を示す。図3に示すように、金属リチウムで形成された負極1と、空気が供給される正極2と、負極1と正極2との間において負極側から正極側に向けて、水遮断性を有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス層3と、第1水系電解液42(以下、第1電解液ともいう)を備えるA槽51(A部)と、陽イオン交換膜102と、第2水系電解液42(以下、第2電解液42ともいう)を備えるB槽52(B部)とをこの順に有する。負極1は前記した反応防止層で被覆されていることが好ましい。反応防止層は、リチウムリン酸窒化物(LiPON,組成式:Li3-xPO4-yNy)、ポリマー固体電解質、有機系電解液等が例示される。
【0029】
リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス層3の母材の組成式は、Li1-x(M,Al,Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3が挙げられ、PO4を含む。xは0〜0.8、殊に0〜0.5が好ましい。yは0〜1.0、特に0.1〜0.9が好ましい。M=Al,Ga以外のNd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種が例示される。ここで、Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3が挙げられる。xは0〜0.8の範囲、特に0.1〜0.7の範囲が好ましい。yは0〜1.0の範囲、特に0.1〜0.9の範囲が好ましい。
【0030】
A部の第1電解液41は、中性域のリチウム塩を含有してpH12以下、pH4以上の範囲に設定されており、且つ、A部の第1電解液41のリチウムイオン濃度は、B槽52の第2電解液42のリチウムイオン濃度と同等または高濃度とされている。
【0031】
水遮断性の高リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミックス層3(LATP)がLi金属負極1の保護部として用いられている。この場合、放電生成物であるLiOHを水系電解液中へ溶解、沈殿させ、貯蔵出来る利点が得られる。しかしながら、ガラスセラミックス層3(LATP)は強いアルカリ液に触れると、アルカリ腐食を引き起こすおそれがあるため、電解液中のLiOHの濃度をあまり高く出来ないと言う事情がある。そこで本実施形態によれば、図3に示すように、負極1と正極2との間に介在する水系の電解液部は、陽イオン交換膜102によりA槽51とB槽52とに分離されている。これにより正極の放電反応によりA槽51において生成したOH-イオンがB槽52に透過することを抑制する。このためA槽51の水系第1電解液41が強アルカリになることが抑えられ、アルカリに対して安定性が充分ではないガラスセラミックス層(LATP)3の表面を保護することができる。即ち、負に帯電した陽イオン交換膜102が静電反発により、正極の電極反応で生成したOH-イオンがB槽52からA槽51へ透過することを抑え、A槽51の第1電解液41中のLiOHの濃度が抑えられ、ひいてはガラスセラミックス層(LATP)3表面がアルカリ性溶液に曝されないようにできる。
【0032】
本実施形態によれば、図3に示すように、陽イオン交換膜102によりA槽51の第1電解液41およびB槽52の第2電解液42は分離されている。この場合、放電反応において負極側のA槽51で生成したLi+イオンは、陽イオン交換膜102を通過して、B槽52へ移動可能である。しかし、正極の放電反応で生成したB槽52の第2電解液42におけるOH-イオンは、陽イオン交換膜102の静電反発により、B槽52からA槽51へ移動することが制限され、結果として、B槽52の第2電解液42におけるLiOH濃度が次第に増加する。B槽52の第2電解液42におけるLiOH濃度が高くなると、B槽52の第2電解液42におけるLi+イオンとA槽51の第1電解液41におけるH+イオンが、陽イオン交換膜102を介してイオン交換し、それぞれ反対側の槽に等量移動することが考えられる。このためB槽52側では、H+イオンによるアルカリの中和反応が生じる。これに対して、A槽51側では、Li+イオン濃度が増加し、A槽51に残留するOH-イオンにより、LiOH濃度増加し、結果として、A槽51の電解液は強アルカリ性に変化し、ガラスセラミックス層3の安定性が低下するものと考えられる。この現象を回避する為に、本実施形態によれば、A槽51の第1電解液41には中性域のLi塩が予め溶解されており、A槽51の第1電解液41のpH値は4〜12の範囲内の中性域付近とされている。更に、A槽51の第1電解液41のLi+イオン濃度は、B槽52の第2電解液42のLi+イオン濃度よりも高くされている。これにより、B槽52の第2電解液42からA槽51の第1電解液41へのLi+の移動が抑制される。このためA槽51の第1電解液41におけるLiOH濃度が高くなることが抑制され、ひいてはA槽51の第1電解液41が強アルカリになることが抑制される。ひいては、強アルカリに対して安定性が充分ではないガラスセラミックス層(LATP)3の安定性が向上される。
【0033】
(試験例1)
陽イオン交換膜102におけるOH-イオンの透過防止効果を確認するために、図4に示す試験装置を用いて試験した。図4に示したように試験装置は、U字型ガラス容器100に、陽イオン交換膜102を挟み込み、U字型ガラス容器100の片側容器100A(以下、A'槽と省略)に、水とpH測定用のpHメータ106を挿入し、陽イオン交換膜102(材質:フッ素系陽イオン交換膜又は炭化水素系陽イオン交換膜)を挟み、A'槽と反対側のU字型ガラス容器100の片側容器100B内(B'槽と省略)に、LiOH水溶液を入れた。A'槽である片側容器100Aにおける水のpH値の変化をモニターする試験を行った。
【0034】
本試験における片側容器100A(A'槽)、片側容器100B(B'槽)は、図3に於けるA槽51、B槽52を模擬する。片側容器100A(A'槽)の水のpH値を測定することで、陽イオン交換膜102の効果が確認できる。即ち、片側容器100A(A'槽)において生成するOH-イオンが陽イオン交換膜102を介して片側容器100B(B'槽)に透過することを抑制する効果を確認できる。本試験では、ガラスセラミックス層(LATP)表面におけるアルカリ腐食が問題となるpH値以上に、A'槽(A槽51に相当)の第1電解液41のpH値が上昇するか否かについて評価する。
【0035】
本試験では、陽イオン交換膜102として、フッ素系陽イオン交換膜(DuPont製: Nafion 112 膜、厚さ50μm)と、炭化水素系陽イオン交換膜(アストム製: Neosepta CMB膜、厚さ210μm)とについて試験した。試験では、陽イオン交換膜102を片側容器100A(A'槽)と片側容器100B(B'槽)とで挟み込んだ。片側容器100A(A'槽)には水を入れ、片側容器100B(B'槽)には、飽和(5.23 mol/L@25℃)LiOH水溶液を入れた。試験結果を図5に示す。図5は、A’槽におけるpH値の時間変化が示す。図5の横軸は時間を示し、縦軸はpH値を示す。図5の特性線W10(▽印)は、陽イオン交換膜102としてフッ素系陽イオン交換膜を用い、水(LiClなし)を用いた場合を示す。図5の特性線W20は、陽イオン交換膜102として炭化水素系陽イオン交換膜を用い、水(LiClなし)を用いた場合を示す。図5の特性線W10,W20から理解できるように、陽イオン交換膜102として、フッ素系陽イオン交換膜(図5における特性線W10)と、炭化水素系陽イオン交換膜(図5における特性線W20)とのいずれを用いた場合においても、上昇速度の違いはあれ、片側容器100A(A'槽)のpH値は素早く上昇し、ガラスセラミックス層(LATP)におけるアルカリ腐食が発生するpH値12以上に到達してしまうことが判った。従って、陽イオン交換膜102によりA槽51とB槽52とを単に分割しただけでは充分ではない。
【0036】
このように陽イオン交換膜102を単に使用しても、A'槽(図3におけるA槽51に相当)のpH値が上昇することを防止できない。この理由として、図6に示したようなメカニズムが考えられる。即ち、電解液中に陽イオン交換膜102を設置することで、放電反応において負極側で生成したLi+イオンは、A槽51から陽イオン交換膜102を透過してB槽52へ移動可能である。しかし、正極の放電反応で生成したB槽52におけるOH-イオンは、陽イオン交換膜102を透過してB槽52からA槽51へ移動することが制限され、B槽52中のLiOH濃度が増加する。しかしながら、B槽52中のLiOH濃度が高くなると、B槽52中のLi+イオンとA槽51中のH+イオンが、陽イオン交換膜102を介してイオン交換し、それぞれ反対側の槽に等量移動し(図6参照)、結果として、B槽52側では、H+イオンによるアルカリの中和反応が生じる。これに対してA槽51側では、B槽52からA槽51にLi+イオンが移動するため、A槽51においてLi+イオン濃度が増加し、A槽51に残留するOH-イオンとLi+イオンとが反応し、結果として、A槽51においてLiOHが生成され、A槽51の電解液は強アルカリ性に変化するものと考えられる。
【0037】
そこで、A槽51の第1電解液41が強アルカリ性に変化する現象を回避する為に、本発明者は、A槽51中に中性のLi塩を予め溶解し、A槽51の第1電解液41のpH値を4〜12の範囲に設定した。このようにA槽51の第1電解液41におけるLi+イオン濃度をB槽52の第2電解液42におけるLi+イオン濃度よりも予め高くした。これによりB槽52からA槽51へのLi+イオンの移動を防止することが可能である。
【0038】
なお、上記したように、Li+イオン濃度をA槽51>B槽52の関係にしておくことにより、Li+イオンの濃度勾配により、Li+イオン濃度が高いA槽51から、Li+イオン濃度が低いB槽52側にLi+イオンが移動するおそれが考えられる。しかしながら、B槽52の第2電解液42をアルカリ性に維持しておけば、B槽52の第2電解液42のH+濃度が低下しており、ひいてはA槽51のLi+イオンとB槽52のH+イオンとのイオン交換が制限される。この場合、Li+イオン濃度が高いA槽51からB槽52へのLi+イオンの移動は制限されると考えられる。従ってB槽52の電解液をアルカリにすることが好ましい。B槽52の第2電解液42のpH値を8〜15の範囲内、12〜15の範囲内にすることが好ましい。
【0039】
この効果を確認する為に、図4に示すU字型ガラス容器100のA'槽に、上記の水の代りに、飽和LiOH濃度以上の非常に高濃度の12.8 MのLiCl溶液を第1電解液41として予め入れておき、B'槽に飽和LiOH溶液を第2電解液42として入れた。そしてA'槽のpH値の変化を測定した。測定結果を図8に示す。図8の横軸は時間を示し、縦軸はpH値を示す。図8の特性線W21は陽イオン交換膜102として炭化水素系陽イオン交換膜(Neosepta CMB膜)を用い、12.8M(12mol/L)のLiClを溶解させた電解液を第1電解液41として用いた場合を示す。特性線W11は陽イオン交換膜102としてフッ素系陽イオン交換膜(Nafion112膜)を用い、1M(1mol/L)のLiClを溶解させ電解液を第1電解液41として用いた場合を示す。特性線W12は陽イオン交換膜102としてフッ素系陽イオン交換膜(Nafion112膜)を用い、12.8M(12mol/L)のLiClを溶解させ電解液を第1電解液41として用いた場合を示す。図8の特性線W10,W20に示すように、A'槽が水の場合には、A'部の第1電解液41はpH値12以上となり、強アルカリとなる。
【0040】
しかしながらA'部の第1電解液41が12.8 M(12.8mol/L)の中性域のLiCl溶液である場合(特性線W21,W12)には、A'部の第1電解液41は、定常値でpH値8.5程度の中性域のpH値に保持でき、時間が経過しても第1電解液41が強アルカリ性にはならないことがわかった。これはガラスセラミックス層3の安定化に有利であることを示す。更に、A'槽に入れる中性域のLiClの濃度の効果を見るために、特性線W11と特性線W12とを比較すると、上記した12.8M(12.8mol/L)の高濃度のLiCl溶液を入れた場合には、A'槽では強アルカリに変化することが抑えられる優れた効果を確認することができた。
【0041】
以上の結果に基き、図3に示すセル構成にすることで、負極を覆うガラスセラミックス層(LATP)3におけるアルカリ腐食の問題を解決することができる。従って、A槽51の第1電解液41のLi+イオン濃度をB槽52の第2電解液42のLi+イオン濃度よりも常に高くしておく必要がある。放電反応の進行により、B槽52の第2電解液42のLiOH濃度は次第に高くなるが、B槽52のLi+イオン濃度は、沈殿により、LiOHの飽和溶液濃度を超えることは無い為、飽和LiOH濃度以上のLi+イオン濃度となるように、中性のリチウム塩をA槽51の第1電解液41に予め溶解させておくことが好ましい。
【0042】
【表1】
表1はアルカリ塩の飽和濃度を示す。表1に示したように、飽和LiOHの飽和濃度は、5.23 mol/L(25℃)である。その濃度以上に溶解可能な中性のLi塩の代表例として、図8に示したように、LiCl、LiBr、LiI、LiNO3等の少なくとも1種を含むリチウム塩が挙げられる。このようにA槽51は、充分に高いLi+イオン濃度が必要であるものの、必ずしも厚みが厚い必要は無い。実際には、図9に示す多くの実施形態のように、上記の中性のLi塩の水溶液で形成された第1電解液41を不織布等の多孔質体45に含浸して用いることが好ましい。B槽52は、A槽51からのLi+イオンの移動を防止するためにアルカリ性(pH値:12〜15)にしておくことが好ましい。この場合、LiOHを予めB槽52に添加しておくことが好ましい。
【0043】
(試験例2)
アルカリ溶液中でのガラスセラミックス層(LATP)3の腐食を加速する為に、市販のガラスセラミックス板(LATP板,オハラガラス製、厚み:150μm)をメノウ乳鉢で粉砕し、粉末状のLATPサンプルを用いて評価試験を行った。本試験では、本発明のセル構造を模擬する為に、図10に示したように、樹脂容器300に開口窓301を開け、その開口窓301に陽イオン交換膜102(Nafion 112膜)を貼り付け、シール材で固定した。その陽イオン交換膜102を設置した容器300内に10M(10mol/L)のLiCl水溶液を入れ、上記のLATP粉末250を浸漬した。このようにLATP粉末250を浸漬した容器300を、容器400内の4M(4mol/L)のLiOH水溶液中に浸漬した。この場合、陽イオン交換膜102が完全に容器400のLiOH水溶液と接触するように容器300を容器400内に浸漬した。比較例として、図10における右図に示したように、上記のLATP粉末250を4M(4mol/L)の LiOH水溶液中に直接的に浸漬させた。上記手順で調整した容器中でLATP粉末250を、室温で40日間放置し、その後、溶液からろ過して取り出し、十分な水洗浄の後、空気中で乾燥して評価サンプルとした。
【0044】
LATP粉末250の腐食状態を確認する為に、X線回折(XRD)による測定を行った。参考文献1によると、本試験と同様に、強アルカリ中で、LATP粉末を浸漬、保持を行った場合には、図11(A)に示すように、2θ=22-24°付近に新たに回折ピークが現れる。そのピークは、LATP粉末の分解生成物であるリン酸リチウム(Li3PO4)に帰属されることが報告されている。本発明者の実験においても、4MのLiOH水溶液中に浸漬、保持した比較例のLATP粉末250には、図11(B)に示すように、LATP粉末の分解生成物であるLi3PO4に帰属される新たな回折ピークが2θ=22-24°付近に観察された。
【0045】
これに対して、浸漬前の初期状態のLATP粉末250に対しては、図12(A)に示すように、Li3PO4に相当する回折ピークは、観測されないことが判った。同様に、浸漬後のLATP粉末250に対しても、図12(B)に示すように、LATP粉末の分解生成物であるLi3PO4に相当する回折ピークは、観測されないことが判った。このことから、本発明においては、比較例とは異なり、強アルカリ中でのガラスセラミックス層(LATP)の分解は観測されず、本発明の効果が確認できた。
【0046】
(その他)
A槽51の第1水系電解液41のリチウムイオン濃度は、B槽52の第2水系電解液42のリチウムイオン濃度よりも高濃度であることが好ましいが、同等でも良い。A部の第1電解液41は、中性域のリチウム塩を含有してpH12以下、pH4以上の範囲に設定されている。A部の第1電解液41のpH値は11以下、10以下、pH4以上、pH5以上でも良い。本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0047】
1は負極、2は正極、102は陽イオン交換膜、41は第1電解液、42は第2電解液、51はA槽(A部)、52はB槽(B部)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属リチウムを有する負極と、
空気が供給される正極と、
前記負極と前記正極との間において前記負極側から前記正極側に向けて、水遮断性およびリチウムイオン伝導性を有すると共にLiおよびM(M=Al,Ga,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導材料で形成されたガラスセラミックス層と、第1水系電解液を備えるA部と、陽イオン交換膜と、第2水系電解液を備えるB部とをこの順に具備しており、
前記A部の前記第1水系電解液は、中性域のリチウム塩を含有してpH12以下、pH4以上の範囲に設定されており、且つ、前記A部の前記第1水系電解液のリチウムイオン濃度は、前記B部の前記第2水系電解液のリチウムイオン濃度と同等または高濃度であることを特徴とする水系リチウム−空気二次電池。
【請求項2】
請求項1において、前記リチウムイオン伝導材料の母材は、Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3(x=0〜0.8であり、y=0〜1.0であり、M=Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)の組成式を有する水系リチウム−空気二次電池。
【請求項3】
請求項1または2において、前記中性域のリチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、LiNO3のうちの少なくとも1種であることを特徴とする水系リチウム−空気二次電池。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記負極と前記ガラスセラミックス層との間に反応防止層が設けられていることを特徴とする水系リチウム−空気二次電池。
【請求項1】
金属リチウムを有する負極と、
空気が供給される正極と、
前記負極と前記正極との間において前記負極側から前記正極側に向けて、水遮断性およびリチウムイオン伝導性を有すると共にLiおよびM(M=Al,Ga,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導材料で形成されたガラスセラミックス層と、第1水系電解液を備えるA部と、陽イオン交換膜と、第2水系電解液を備えるB部とをこの順に具備しており、
前記A部の前記第1水系電解液は、中性域のリチウム塩を含有してpH12以下、pH4以上の範囲に設定されており、且つ、前記A部の前記第1水系電解液のリチウムイオン濃度は、前記B部の前記第2水系電解液のリチウムイオン濃度と同等または高濃度であることを特徴とする水系リチウム−空気二次電池。
【請求項2】
請求項1において、前記リチウムイオン伝導材料の母材は、Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3(x=0〜0.8であり、y=0〜1.0であり、M=Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)の組成式を有する水系リチウム−空気二次電池。
【請求項3】
請求項1または2において、前記中性域のリチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、LiNO3のうちの少なくとも1種であることを特徴とする水系リチウム−空気二次電池。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記負極と前記ガラスセラミックス層との間に反応防止層が設けられていることを特徴とする水系リチウム−空気二次電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−4422(P2013−4422A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136700(P2011−136700)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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