説明

水系中のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法及び装置

【課題】水処理剤として水系に添加されたアニオン性ポリマーの水系における濃度を持ち運び可能な測定装置を用いて、簡便に、しかも精度良く測定できる方法及び装置を提供する。
【解決手段】水処理剤が添加された対象水系の一部の水を検水として採取し、アニオン性ポリマーと反応して白濁を生じさせる試薬を添加し、生じた白濁を400〜900nmのいずれかの可視光を用いて比濁することが出来る持ち運び可能な測定装置を用いてアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法。及びその方法に用いられる持ち運び可能な測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系やボイラー等の蒸気発生設備を備える系中に添加された水処理用アニオン性ポリマーの、該水中における濃度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系やボイラー等の蒸気発生設備を備える水系のスケール、腐食、及び汚れ防止等、水処理の目的のためにアニオン性ポリマーが添加される。
【0003】
アニオン性ポリマーは高性能なスケール防止剤であるが、スケール防止能を十分に発揮させるためには、対象水系中のアニオン性ポリマーの濃度管理が極めて重要である。
【0004】
このようなアニオン性ポリマーの水中濃度を測定するために、従来さまざまな手法が提案されてきた。例えば、特開2003−165852号(特許文献1)に記載されているような自動測定装置が提案されている。
【0005】
この自動測定装置は、検水供給経路、反応試薬槽に連結された反応試薬注入経路、検水と試薬を攪拌混合する攪拌混合部、光学測定部およびその中に設けられた測定セル、光学測定部で得られたデータのデータ処理部、及び検水排出部から構成されている(特許文献1の図1参照)。
【特許文献1】特開2003−164852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示されたアニオン性ポリマーの測定装置は、水中のアニオン性ポリマーを測定可能としたが、装置が大掛かりであり、測定したい時に測定したい場所で、簡便に、手軽に測定するというわけにはいかなかった。
このようなアニオン性ポリマーの水中濃度の測定は、常時行うのではなく、必要となった時に測定されるものであるので、もっと簡便で、しかも複数の水系を対象にできるように、持ち運びの利く簡易な測定装置が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水系中のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法であって、前記水系から検水を採取後、試薬を添加してアニオン性ポリマーと反応させて白濁を生じさせ、波長が400〜900nmのいずれかの可視光線を照射して比濁することができる持ち運び可能な測定装置を用いて測定することを特徴とする水系中のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法及びそのための装置である。
【0008】
好ましくは、本発明は、アニオン性ポリマーがアクリル酸系重合体又は共重合体、マレイン酸系重合体又は共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0009】
好ましくは、試薬が第四級アンモニウム塩である。
【0010】
好ましくは、比濁は、検水に波長が400〜900nmのいずれかの可視光を照射し、その透過光又は散乱光の強度を測定し、その結果に基づいて検水中のアニオン性ポリマーの濃度を算出することができる持ち運び可能な測定装置を用いて測定する。
【0011】
又本発明は、波蓋付き測定セルと、前記測定セルを装着することができる開口部を有し、かつ、該開口部の側面に設けられた、波長が400〜900nmのいずれかの可視光の照射部と、その透過光又は反射光を受ける受光部とからなる光学測定部と、該光学測定部を覆って遮光することができる遮光キャップと、該光学測定部からの電気信号を受けて演算するデータ処理部と、データ処理部で得られた結果を表示する表示部と、を含む持ち運び可能な、水系中におけるアニオン性ポリマーの濃度測定装置である。
【0012】
本発明によれば、水中でのアニオン性ポリマーの濃度を測定したい対象水系中のアニオン性ポリマーを持ち運び可能な測定装置を用いることにより、極めて簡便に、しかも精度良く対象水系中のアニオン性ポリマーの濃度を測定することができる。
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0014】
本発明の対象水系としては、開放循環式冷却水系、密閉循環式冷却水系、一過
式冷却水系、及びボイラー等の蒸気発生設備を含む水系、集塵水系、紙パルプ工場の水系、製鉄工場の水系等が例示されるが、これらに限られず、アニオン性ポリマー系水処理剤が使用される水系に広く適用できる。
【0015】
本発明の対象となるスケール、腐食、及び汚れ防止等、水処理の目的のために添加されるアニオン性ポリマーとしては、アクリル酸系重合体又は共重合体、マレイン酸系重合体又は共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種である。具体的には、ポリアクリル酸又はその塩、アクリル酸―アクリルアミドメチルスルホン酸共重合体又はその塩、アクリル酸―ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体又はその塩等が例示される。
【0016】
水中のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法を以下に述べる。
本発明で用いる携帯可能な測定装置は、蓋付き測定セルと、前記測定セルを装着することができ、かつ、波長が400〜900nmのいずれかの可視光の照射部と、その透過光又は反射光を受ける受光部とからなる光学測定部と、該光学測定部を覆って遮光することができる遮光キャップと、該光学測定部からの電気信号を受けて演算するデータ処理部と、データ処理部で得られた結果を表示する表示部と、を含む。
【0017】
先ず、水中のアニオン性ポリマーの濃度を測定したい水系に、前記の持ち運び可能なアニオン性ポリマー測定装置を持参し、対象水系から検水を測定セルに採取する。検水は数ml程度の少量で良い。次に、該測定セルに該アニオン性ポリマーと反応して白濁する試薬を添加する。このような試薬としては、第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0018】
前記第四級アンモニウム塩の具体例としては、ベンゼトニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩及びイミダゾリウム塩等が例示される。塩としては、塩化物、臭化物、沃化物、硫酸塩等が例示される。
【0019】
第四級アンモニウム塩の添加量としては、アニオン性ポリマーと反応して安定な白濁を生じるに必要な量とするが、通常、検水に対し、50〜4000mg/l程度である。
【0020】
第四級アンモニウム塩の添加が終了したら、測定セルに栓をして数回振って混合攪拌する。次に、測定セルを装置本体の光学測定部に設けられた開口部に装着し、遮光キャップで光学測定部全体を覆って400〜900nmのいずれかの可視光を照射する。この操作は本測定装置のゼロ補正のために行う。
【0021】
次いで、遮光キャップをはずし、測定セルを取り出し、その蓋を開け、第四級アンモニウム塩を添加する。第四級アンモニウム塩の添加量としては、通常、検水に対し、50〜4000mg/l程度とする。
【0022】
なお、本発明においては、第四級アンモニウム塩の添加のみでも十分な比濁が可能であるが、白濁をより安定なものにして比濁したい場合には、さらにキレート剤を添加することができる。
【0023】
このようなキレート剤の具体例としては、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩等が挙げられる。
【0024】
キレート剤を併用する場合の添加量は、通常1000〜5000mg/l程度で、添加順序は試薬と同時でも良いし、キレート剤を先に添加後、第四級アンモニウム塩を添加しても良い。これらの試薬類を添加後、再度測定セルに蓋をし、数回振って混合攪拌し、再度本体の光学測定部に装着し、遮光キャップで覆う。そして反応に必要な時間として、通常5分程度静置する。
【0025】
上記の反応の結果、検水中のアニオン性ポリマーは白濁してくる。本発明においては、この白濁を400〜900nm程度のいずれかの可視光を用いて比濁法により検出する。
【0026】
このようにして、試薬を添加する前の検水の特定波長の可視光の透過光又は散乱光の強度を予め測定し、次いで、試薬を添加した後の検水の透過光又は散乱光の強度を測定し、両者の強度から、検水中のアニオン性ポリマーの濃度を算出することができる。
【0027】
用いる波長は、白濁を精度良く捉えられるものなら、400〜900nmの間で任意に選択すれば良いが、現在、特定化合物の測定を目的とした固定波長を用いたハンディタイプの簡易測定装置が市販されている。これらのうち、本発明では、残留塩素測定用に波長528nmの可視光を使用した、HACH社製POCKET COLORIMETERIIを適用すれば、簡便に、かつ精度良く実施す
ることができて好ましい。特にコンビナートの大規模水系では、通常スライムコントロール対策として塩素が使用されており、塩素濃度は頻繁に測定されている。従って、前記商品を使用すると、セルと試薬を変えるだけで、残留塩素濃度もアニオン性ポリマー濃度も測定することができ、極めて好都合である。
【0028】
なお、本発明に係る測定装置の使用にあたっては、一般的な測定装置同様に、予め、測定対象のアニオン性ポリマー標準品の濃度を変えて測定し、測定装置の出力(前記装置の場合、指示値と呼ばれる)を得、該アニオン性ポリマーと出力値との検量線を作成しておく。
【0029】
なお、測定時の温度については、室温(15〜30℃程度)で良い。
【0030】
本発明に係わる水処理剤は、上記のアニオン性ポリマーを含んでおれば良く、さらにその他の水処理剤、例えば防食剤、スケール防止剤、スライムコントロール剤等を含んでいても良い。
【0031】
但し、試薬とアニオン性ポリマーとの白濁反応に影響を与える多価フェノール等の化合物が共存する場合には、当該影響物質を酸化剤等を用いて分解し、影響をなくしてから、本発明のアニオン性ポリマー濃度を測定する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、対象水系中のアニオン性ポリマーの濃度を、持ち運び可能な測定装置で測定することができるので、必要なときに測定したい場所で、簡便に、しかも精度良く、迅速に測定することができる。
【実施例1】
【0033】
アニオン性ポリマーとしてポリアクリル酸ナトリウムを5,10,15,20mg/lそれぞれ含むようにした検水を測定セルに4ml採取した後、蓋をして数回振った。
【0034】
次いで前記セルをHACH社製POCKET COLORIMETERIIに装
着して遮光キャップで光学測定部全体を覆い、波長528nmの可視光を用いて1回目の照射を行ない、ゼロ補正した。次に、キャップを取り、前記セルを取り出して蓋を取り、その中にEDTA2重量%含む試薬を2mlと、塩化ベンゼトニウム0.1重量%含む試薬を4mlをそれぞれ加え、蓋をして数回振った。その後、前記装置の光学測定部に再装着し、遮光キャップで覆い、5分間静置して反応させた。その後波長528nmの可視光を照射して透過光量を測定した。結果として出力された指示値について、予め作成しておいた上記装置の指示値と既知量のポリアクリル酸ナトリウムとの検量線を用いてポリアクリル酸ナトリウムの水中濃度を算出した。
【0035】
結果を図1に示す
図1より、本発明では、実際に加えたアニオン性ポリマーの濃度とほぼ一致する結果が得られることがわかる。このように、本発明により水中のアニオン性ポリマーの濃度を精度良く、簡便に測定することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系中のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法であって、前記水系から検水を採取後、試薬を添加してアニオン性ポリマーと反応させて白濁を生じさせ、波長が400〜900nmのいずれかの可視光線を照射して比濁することができる持ち運び可能な測定装置を用いて測定することを特徴とするアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法
【請求項2】
アニオン性ポリマーがアクリル酸系重合体又は共重合体、マレイン酸系重合体又は共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法。
【請求項3】
試薬が第四級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1又は2記載のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法。
【請求項4】
比濁は、検水に波長が400〜900nmのいずれかの可視光を照射し、その透過光又は散乱光の強度を測定し、その結果に基づいて検水中のアニオン性ポリマーの濃度を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のアニオン性ポリマーの濃度を測定する方法。
【請求項5】
蓋付き測定セルと、前記測定セルを装着することができる開口部を有し、かつ、該開口部の側面に設けられた、波長が400〜900nmのいずれかの可視光の照射部と、その透過光又は反射光を受ける受光部とからなる光学測定部と、該光学測定部を覆って遮光することができる遮光キャップと、該光学測定部からの電気信号を受けて演算するデータ処理部と、データ処理部で得られた結果を表示する表示部と、を含む持ち運び可能な、水系中におけるアニオン性ポリマーの濃度測定装置。




【図1】
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【公開番号】特開2006−38462(P2006−38462A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214010(P2004−214010)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】