説明

水系表面処理組成物

【課題】亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体に対し、防錆性能を高めることができる水系表面処理組成物を提供すること。
【解決手段】少なくとも、チタン化合物オリゴマー(a)、アミン化合物(b)及びグリコール化合物(c)を反応させてなる化学構造及び/又は混合させてなる組成を有するチタン複合組成物に、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するケイ素化合物(d)を反応させてなる化学構造及び/又は混合させてなる組成を有するものであることを特徴とする水系表面処理組成物、防錆用の上記水系表面処理組成物、並びに、上記水系表面処理組成物を使用して防錆されていることを特徴とする、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体の表面に対して用いるための水系表面処理組成物に関し、更に詳細には、チタン化合物オリゴマーを原料とする水系の表面処理組成物、又は、上記組成物にリン酸化合物、バナジウム化合物、ジルコニウム化合物から選択される少なくとも1種を含有する組成物であって、特に亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体の表面に対して、基材密着性、加工部耐食性、耐熱性、塗装密着性、耐アルカリ性、及び耐溶剤性を向上させる水系表面処理組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐食性に優れた鋼材として、亜鉛めっき、亜鉛合金めっき等を施した亜鉛めっき鋼材が使用されている。このような亜鉛めっき鋼材は、亜鉛層が空気や水と接触することによって酸化されて白錆が発生する。このため、表面処理によって酸化を防止すること、すなわち耐食性を付与することが行われている。
【0003】
また、このような表面処理を施した鋼材は、高温条件下で使用されたり、輸送時において表面に傷が生じたりする場合があるため、耐熱性や耐傷つき性も必要とされている。更に、表面処理を施した鋼材を加工したり、塗装して使用する場合もあり、加工後の優れた耐食性や塗装密着性も要求される。また、通常、加工において使用したプレス油の脱脂工程がアルカリ系の脱脂剤によって行われるため、耐アルカリ性も要求される。
【0004】
このような処理として、クロム化合物を使用するクロメート処理が知られている。クロメート処理を施した場合は、白錆の発生が防止され、非常に良好な亜鉛めっき鋼板を得ることができる。しかし、近年、環境問題の観点から、クロムを使用しないノンクロメート処理剤による化成処理を行う方法に転換されつつある。
【0005】
特許文献1には、ケイ酸エステル、アルミニウムの無機塩及びシランカップリング剤を含有する金属表面処理剤が開示されている。しかし、特許文献1に記載の金属表面処理剤では、シロキサン結合による、安定で十分な架橋反応は望めないため、これで処理して得られる金属表面処理板では耐溶剤性や耐アルカリ性が劣るおそれがある。
【0006】
特許文献2には、バナジウム化合物と、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物と、を含有する金属表面処理剤が開示されている。しかし、特許文献2に記載の金属表面処理剤で処理して得られる金属表面処理金属板では、高温高湿下に長時間放置すると、基材との密着性が低下するという問題がある。
【0007】
特許文献3には、エチルポリシリケートを加水分解して加水分解率を100%以上とし、希釈して得られた希釈加水分解液及び/又はシランカップリング剤を含有する金属表面処理剤が開示されている。しかし、特許文献3に記載の金属表面処理剤で処理して得られる金属表面処理板では、柔軟性に乏しい硬い皮膜が形成され、加工された皮膜が割れ易くなるため、加工部の耐食性や基材との密着性が不十分であるという問題がある。また、希釈加水分解液の貯蔵安定性や、皮膜の耐食性、耐アルカリ性も劣るおそれがある。
【0008】
特許文献4には、チタニウムイオン、バナジウムイオン、ジルコニウムイオン等の2価以上の金属イオン、少なくとも4個のフッ素原子とチタン、ジルコニウム等の元素を有するフルオロ酸、活性水素含有アミノ基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤及び水性エマルション樹脂を含有する金属表面処理組成物が開示されている。しかし、特許文献4に記載の金属表面処理組成物は樹脂を含むため、これで処理して得られる金属表面処理板では高温環境下に放置すると皮膜の耐熱性に劣るという問題がある。
【0009】
特許文献5には、水分散性樹脂及び/又は水溶性樹脂と、シランカップリング剤と、リン酸及び/又はヘキサフルオロ金属酸と、カチオン種がマンガン、マグネシウム、アルミニウム又はニッケルである水溶性リン酸塩とを含有する金属表面処理組成物が開示されている。しかし、特許文献5に記載の金属表面処理剤は樹脂を含むため、これで処理して得られる金属表面処理板では高温環境下に放置すると皮膜の耐食性に劣るという問題がある。
【0010】
特許文献6には、エポキシ基を有するシランカップリング剤と、アミノ基を有するシランカップリング剤と、ビニル基を有するシランカップリング剤と、酸とを含有する亜鉛めっき用水系防錆コーティング剤、それをコーティングする防錆処理方法、それがコーティングされている防錆処理金属材が開示されている。しかし、特許文献6に記載の防錆処理金属剤では、耐食性は良好であるが、耐アルカリ性に乏しいという問題がある。
【0011】
【特許文献1】特開平10−251864号公報
【特許文献2】特開2004−183015号公報
【特許文献3】特開2005−118635号公報
【特許文献4】特開2005−120469号公報
【特許文献5】特開2005−206947号公報
【特許文献6】特開2007−39715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記現状に鑑み、従来のノンクロメート型の被覆では困難であった基材密着性、加工部耐食性、耐熱性、塗装密着性、耐アルカリ性、及び耐溶剤性のすべてを満足させる水系表面処理組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、チタン化合物オリゴマーとアミン化合物とグリコール化合物とを反応させた化学構造及び/又はそれらを混合させた組成を有するチタン複合組成物に、特定のケイ素化合物を反応させてなる化学構造及び/又は混合させてなる組成を有するもの、又は、上記組成物に更に、リン酸化合物、バナジウム化合物、ジルコニウム化合物から選択される少なくとも1種を含有する組成を有するものが水系化合物として存在し(すなわち水溶性化合物として存在し)、水に溶解又は分散されたかかる表面処理組成物を、塗布、焼付け、乾燥、硬化等することにより、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体の表面に対する基材密着性、加工部耐食性、耐熱性、塗装密着性、耐アルカリ性、及び耐溶剤性が著しく向上することを見出して本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、少なくとも、チタン化合物オリゴマー(a)、アミン化合物(b)及びグリコール化合物(c)を反応させてなる化学構造及び/又は混合させてなる組成とを有するチタン複合組成物に、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するケイ素化合物(d)を反応させてなる化学構造及び/又は混合させてなる組成を有するもの、又は、上記組成物にリン酸化合物、バナジウム化合物、及びジルコニウム化合物から選択される少なくとも1種を含有する組成を有するものであることを特徴とする水系表面処理組成物を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体の表面に対して、上記の水系表面処理組成物を使用して、製膜してなることを特徴とする防錆皮膜を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、上記の水系表面処理組成物を使用して防錆層が形成されていることを特徴とする、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水系表面処理組成物によれば、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体の表面に、極めて緻密性の高い、チタン化合物とケイ素化合物との複合皮膜を形成することができ、基材密着性、加工部耐食性、耐熱性、塗装密着性、耐アルカリ性、及び耐溶剤性のすべてを満足させる皮膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0019】
[チタン複合組成物]
本発明の水系表面処理組成物は、「チタン化合物オリゴマー(a)、アミン化合物(b)及びグリコール化合物(c)」を、反応させてなる化学構造及び/又は混合させてなる組成を有するチタン複合組成物に、「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するケイ素化合物(d)」を反応させてなる化学構造及び/又は混合させてなる組成を有するものである。
【0020】
(チタン化合物オリゴマー(a))
チタン化合物オリゴマー(a)は特に限定はないが、「下記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、下記式(1)で表されるチタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物」が縮合した構造を有するものが好ましい。
【0021】
【化1】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1個以上18個以下のアルキル基を示す。]
【0022】
縮合前の出発物質である「式(1)で表されるチタンアルコキシド」は、上記式(1)中のR〜Rが、それぞれ独立に炭素数1個以上18個以下のアルキル基であるものであるが、それぞれ独立に炭素数1個以上8個以下のアルキル基であるものが好ましく、それぞれ独立に炭素数1個以上5個以下のアルキル基であるものが特に好ましい。
【0023】
「式(1)で表されるチタンアルコキシド」としては、具体的には例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラn−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、ジイソプロポキシジn−ブトキシチタン、ジtert−ブトキシジイソプロポキシチタン、テトラtert−ブトキシチタン、テトライソオクトキシチタン、及びテトラステアロキシチタン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上混合して用いることができる。
【0024】
縮合前の出発物質としては、上記した「式(1)で表されるチタンアルコキシド」の他に、「式(1)で表されるチタンアルコキシド」にキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物も好ましいものとして挙げられる。かかるキレート化剤としては特に限定はないが、β−ジケトン、β−ケトエステル、多価アルコール、アルカノールアミン及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが、チタン化合物の加水分解等に対する安定性を向上する点で好ましい。
【0025】
β−ジケトン化合物としては、キレート化剤として配位するものであれば特に限定はないが、例えば具体的には、2,4−ペンタンジオン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、ジベンゾイルメタン、テノイルトリフルオロアセトン、1,3−シクロヘキサンジオン、及び1−フェニル−1,3−ブタンジオン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上併用して用いることができる。
【0026】
β−ケトエステルとしては、キレート化剤として配位するものであれば特に限定はないが、例えば具体的には、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸ブチル、メチルピバロイルアセテート、メチルイソブチロイルアセテート、カプロイル酢酸メチル、及びラウロイル酢酸メチル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上併用して用いることができる。
【0027】
多価アルコールとしては、キレート化剤として配位するものであれば特に限定はないが、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,3−ペンタンジオール、グリセリン、ジエチレングリコール、及びヘキシレングリコール等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上併用して用いることができる。
【0028】
アルカノールアミンとしては、キレート化剤として配位するものであれば特に限定はないが、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−tert−ブチルエタノールアミン、N−tert−ブチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びモノエタノールアミン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上併用して用いることができる。
【0029】
オキシカルボン酸としては、キレート化剤として配位するものであれば特に限定はないが、グリコール酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、及びグルコン酸等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上併用して用いることができる。
【0030】
上記「式(1)で表されるチタンアルコキシド」又は、「該チタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物」が縮合することによってチタン化合物オリゴマー(a)が得られる。ここで縮合させる方法としては特に限定はないが、該チタンアルコキシド又は該チタンキレート化合物を、アルコール溶液中で水を反応させることにより行う方法、又は、アルコール溶液中で後述のアミン化合物(b)と水が共存している状態で反応させる方法が好ましい。
【0031】
縮合させてオリゴマー化するために用いる水の量については、チタンアルコキシド及び/又はチタンキレート化合物の合計量1モルに対し、すなわちチタン原子1モルに対して、水のモル数が0.2モル以上2モル以下であることが、水に対する安定性、製膜性、塗布性等の点で好ましく、0.3モル以上1.7モル以下であることがより好ましく、0.5モル以上1.6モル以下であることが特に好ましく、1.0モル以上1.5モル以下であることが更に好ましい。
【0032】
なお、上記は、本発明におけるチタン化合物オリゴマー(a)の製造方法を限定しているものではなく、該チタン化合物オリゴマー(a)の縮合度等の化学構造を、縮合方法等の製造方法によって特定しているものである。該チタン化合物オリゴマー(a)は、2次元的又は3次元的な化学構造を有する場合があるため、その化学構造は製造方法によってしか特定できないためであり、従って、異なる製造方法で製造された同様の化学構造を有するチタン化合物オリゴマー(a)も本発明においては用いられる。
【0033】
該チタン化合物オリゴマー(a)を組成式で表わすと、チタン原子2モルに対して、反応する水のモル数がxモルのとき、下記式(2)で表わされるチタン化合物オリゴマー(a)が、通常、縮合によって得られる。
TiOx/2(OR)4−x (2)
[式(2)中、Rは、式(1)におけるR〜Rの何れかを表す。]
【0034】
チタン原子1モルに対して、水1モルを反応させた場合、すなわち、チタン原子2モルに対して水2モルを反応させた場合、x=2であるので、式(2)は、
TiO(OR) (3)
となり、チタン原子1モルに対して、水1.5モルを反応させた場合、すなわち、チタン原子2モルに対して水3モルを反応させた場合、x=3であるので、式(2)は、
TiO3/2(OR) (4)
となる。
【0035】
前記した「縮合させてオリゴマー化するために用いる好ましい水の量」に対応するxの値を式(2)に代入して得られた組成式を有するものが、チタン化合物オリゴマー(a)の縮合度としては好ましい。
【0036】
本発明におけるチタン化合物オリゴマー(a)は、オリゴマーであれば特に限定はないが、平均で、1.1量体以上20量体以下であることが好ましく、2量体以上15量体以下であることがより好ましく、4量体以上13量体以下であることが特に好ましく、5量体以上12量体以下であることが更に好ましい。水に対する安定性、製膜性、塗布性等の点で、縮合度は大きいものの方が好ましい。上記式(3)は、原理的には1次元的に無限の縮合度を有するものを表すが、製造される実際のチタン化合物オリゴマー(a)は有限の縮合度を有する。本発明におけるチタン化合物オリゴマー(a)は、原理的には無限の縮合度を有するような水の量を用いて製造される化学構造を有するものが更に好ましい。
【0037】
縮合時には、アルコール等の溶剤を用い、該チタンアルコキシド又は該チタンキレート化合物をアルコール溶液とし、場合により還流等の熱処理を経由し、チタン化合物オリゴマー(a)を得てもよい。このとき用いられるアルコールとしては特に限定はないが、前記式(1)中のアルキル基R〜Rを有する1価アルコールが、チタン化合物オリゴマー(a)の反応性を変化させない点で好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、及び2−エチルヘキサノール等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上併用して用いることができる。
【0038】
かかるアルコールの使用量は特に限定はないが、縮合してオリゴマー化するために用いる水の量を、水と該アルコールの合計量に対して0.5質量%以上20質量%以下の濃度になるように該アルコールを用いて希釈することが、薬液の白濁や白色沈殿物の発生を抑制する点で好ましく、0.7質量%以上15質量%以下の濃度になるように希釈することがより好ましく、1.0質量%以上10質量%以下の濃度になるように希釈することが特に好ましい。
【0039】
上記縮合は、チタンアルコキシド又はチタンキレート化合物を、アミン化合物(b)の存在下で、かつアルコール溶液中で水と反応させることにより行われたものも、薬液の白濁や白色沈殿物の発生をより抑制しやすい点で好ましい。この時に使用されるアミン化合物(b)としては、後述の、チタン化合物オリゴマー(a)に反応及び/又は混合させてチタン複合組成物を調製する際に使用されるアミン化合物(b)と同じであっても異なっていてもよい。
【0040】
チタン化合物オリゴマー(a)は、上記したチタン化合物オリゴマーに、更にキレート化剤を配位させてなる構造を有するものであることも好ましい。すなわち、前記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、それにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物が縮合した構造を有するものに、更にキレート化剤を配位させてなる構造を有するものも好ましい。すなわち、縮合前及び/又は縮合後に、キレート化剤を反応させた構造のものは、チタン化合物オリゴマー(a)の加水分解等に対する安定性を高める点で好ましい。
【0041】
縮合後に用いるキレート化剤としては特に限定はないが、前記したキレート化剤が好適に使用できる。特に好ましくは、β−ジケトン、β−ケトエステル、又はアルカノールアミンである。
【0042】
(アミン化合物(b))
チタン複合組成物を得るための、上記チタン化合物オリゴマー(a)と反応及び/又は混合させるアミン化合物(b)については特に限定はないが、置換非置換の脂肪族アミン又は第四級アンモニウム水酸化物であることが、チタンオリゴマー化合物(a)の加水分解等に対する安定性を向上させ、水溶化させる点で好ましい。
【0043】
「置換非置換の脂肪族アミン」における置換基としては、アルコール性水酸基が好ましい。置換の脂肪族アミンとしてはアルカノールアミンが特に好ましい。
【0044】
非置換の脂肪族アミンとしては、具体的には例えば、脂肪族アルキルアミンであるメチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、アミルアミン、sec−アミルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジn−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、及びトリブチルアミン;並びに脂肪族環状アミンであるピペリジン、及びピロリジン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上併用して用いることができる。
【0045】
アルカノールアミンとしては、具体的には例えば、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−tert−ブチルエタノールアミン、N−tert−ブチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びモノエタノールアミン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上併用して用いることができる。
【0046】
第四級アンモニウム水酸化物としては、具体的には例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、及び2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上併用して用いることができる。
【0047】
(グリコール化合物(c))
チタン複合組成物を得るための、上記チタン化合物オリゴマー(a)と反応及び/又は混合させるグリコール化合物(c)としては特に限定はないが、隣り合った炭素原子にそれぞれ水酸基を有するグリコール化合物が好ましく、具体的には例えば、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,3−ペンタンジオール、及びグリセリン等が挙げられる。中でも、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール又は2,3−ブタンジオールが、チタンオリゴマー化合物の加水分解等に対する安定性を向上させる点、及び水溶化させる点で特に好ましい。
【0048】
グリコール化合物(c)を用いることによって、チタンオリゴマー化合物(a)の加水分解等に対する安定性を向上させ、水溶化させることができる。
【0049】
(チタン複合組成物における各成分の比率)
「チタン化合物オリゴマー(a)」と「アミン化合物(b)」と「グリコール化合物(c)」の使用割合は特に限定はないが、(b)と(a)のモル比は、(b)/(a)=0.1/10〜10/0.1が好ましく、(b)/(a)=0.3/10〜10/0.3がより好ましく、0.5/10〜10/0.5が特に好ましい。(a)と(b)の合計量に対して(a)が少なすぎると、架橋性、製膜性、接着性等を低下させる原因となり、一方、(a)が多すぎると、水に対する溶解性や加水分解する等の安定性が不足する場合がある。
【0050】
(c)と(a)のモル比は、(c)/(a)=0.1/10以上10/0.1以下が好ましく、(c)/(a)=0.5/10以上10/0.5以下がより好ましく、1/10以上10/1以下が特に好ましい。(a)と(c)の合計量に対して(a)が少なすぎると、架橋性、製膜性、接着性等を低下させる原因となり、一方、(a)が多すぎると、水に対する溶解性が十分でなかったり、加水分解する等、安定性が不足する場合がある。
【0051】
チタン複合組成物中の、チタン化合物オリゴマー(a)、アミン化合物(b)及びグリコール化合物(c)の反応によって得られる構造を有する化合物(以下、「化合物A」と略記する)の化学構造については、前記製造方法で得られる構造を有するものであればよく、特定の製造方法で製造されたものには限定されない。
【0052】
化合物Aの化学構造としては、チタン化合物オリゴマー(a)が、アミン化合物(b)及びグリコール(c)によって反応して、チタン化合物オリゴマーのグリコールキレートや、アミノ基がチタンに配位した構造が好ましい。特に、チタン化合物オリゴマー(a)の末端であるアルコキシル基と、アミン化合物(b)及び/又はグリコール化合物(c)とが反応して、キレート化した構造やアミン化合物に存在するアミノ基やグリコール化合物に存在する水酸基がチタン原子に配位した構造が好ましい。
【0053】
本発明におけるチタン複合組成物は、上記化合物A、チタン化合物オリゴマー(a)、アミン化合物(b)及び/又はグリコール(c)を含有する。チタン複合組成物は、チタン化合物オリゴマー(a)に対し、アミン化合物(b)とグリコール化合物(c)とを室温で混合させた組成を有するものであってもよいし、チタン化合物オリゴマー(a)に対し、アミン化合物(b)とグリコール化合物(c)とを加熱還流させて得られる組成を有するものであってもよい。上記「混合させた組成」には、全量反応が進まず未反応のまま残ったものが混合している場合も、一部のみが反応した場合も含まれる。
【0054】
本発明におけるチタン複合組成物は、上記方法で得られる組成のものであれば特に限定はないが、以下の8形態が好ましい。
(1)化合物A;
(2)化合物A及びチタン化合物オリゴマー(a)の混合物;
(3)化合物A及びアミン化合物(b)の混合物;
(4)化合物A及びグリコール化合物(c)の混合物;
(5)化合物A、チタン化合物オリゴマー(a)及びアミン化合物(b)の混合物;
(6)化合物A、チタン化合物オリゴマー(a)及びグリコール化合物(c)の混合物;
(7)化合物A、アミン化合物(b)及びグリコール化合物(c)の混合物;
(8)チタン化合物オリゴマー(a)とアミン化合物(b)とグリコール化合物(c)の混合物;
このうち、形態(1)及び形態(8)が、前記した本発明の効果を好適に得られる点で好ましい。
【0055】
[ケイ素化合物(d)]
本発明の水系表面処理組成物は、上記チタン複合組成物に、更に「分子中に1個以上のアルコキシ基を有するケイ素化合物(d)」(以下、「ケイ素化合物(d)」と略記する)を反応させてなる化学構造及び/又は混合させてなる組成を有するものである。
【0056】
ケイ素化合物(d)としては特に限定はないが、シランカップリング剤や、ケイ素原子に4個のアルコキシ基が結合したアルキルシリケート等が、製膜性を高める点で好ましい。このうち、アミノ基、メルカプト基、又はエポキシ基を含有するものが、更に、塗装密着性及び耐熱性を高める点で好ましい。また、ケイ素原子にアルキル基が直接結合した構造を有するものも塗装密着性及び耐熱性を高める点で好ましい。このときのアルキル基としてはメチル基、エチル基が好ましい。また、上記化合物の部分加水分解縮合物も好適に使用できる。
【0057】
ケイ素化合物(d)としては、具体的には例えば、モノメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラノルマルプロポキシシラン、γ−アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス−(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス−(トリエトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、及びγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシシラン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上混合して用いることができる。
【0058】
前記したチタン複合組成物に、ケイ素化合物(d)を併用し、水系チタンオリゴマー組成物を得る場合は、該チタン複合組成物にケイ素化合物(d)を反応させることによって得られる構造及び/又は混合させることによって得られる組成を有するものであることが好ましい。ここで、反応方法は特に限定はないが、チタン複合組成物とケイ素化合物(d)を混合した後、使用した溶剤の沸点にて還流して反応を進行させることが好ましい。なお、配合の順序に規定はない。
【0059】
前記チタン複合組成物と上記ケイ素化合物(d)との使用割合は特に限定はないが、チタン複合組成物とケイ素化合物(d)の質量比が、0.1/10以上10/0.1以下であることが好ましく、0.5/10以上10/0.5以下であることがより好ましく、1/10以上10/1以下であることが特に好ましい。チタン複合組成物とケイ素化合物(d)の合計量に対してチタン複合組成物が少なすぎると、製膜性を低下させる原因となり、一方、チタン複合組成物が多すぎると、製膜性を低下させ、加水分解性等の安定性が不足する場合がある。
【0060】
本発明の水系表面処理組成物は、上記した製造方法で製造されたものには限定されず、上記した製造方法で製造される化学構造と組成とを有する組成物であれば、水系表面処理組成物の製造方法が異なっていても本発明に含まれる。ただし、本発明の水系チタンオリゴマー組成物は、上記した製造方法で製造されたものが好ましい。すなわち、チタン化合物オリゴマー(a)、アミン化合物(b)及びグリコール化合物(c)を反応及び/又は混合させることが、チタン複合組成物の製造方法、水系チタンオリゴマー組成物の製造方法として好ましい。また、チタン複合組成物に、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するケイ素化合物(d)を反応及び/又は混合させることが、水系チタンオリゴマー組成物の製造方法として好ましい。
【0061】
本発明の水系表面処理組成物中の、チタン複合組成物の含有割合は特に限定はないが、表面処理剤100質量%中にチタン複合組成物がチタンとして0.1質量%以上30質量%以下含有していることが好ましく、0.3質量%以上20質量%以下含有していることが特に好ましく、0.5質量%以上10質量%以下含有していることが更に好ましい。
【0062】
本発明の水系表面処理組成物は、更にリン酸化合物、バナジウム化合物、及びジルコニウム化合物から選択される少なくとも1種を含有してもよい。これにより、優れた耐食性を得ることができる。
【0063】
上記リン酸化合物としては、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等のリン酸類、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、及びリン酸アルミニウム等のリン酸塩類等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記リン酸化合物を用いると、リン酸イオンが、金属素地表面にリン酸塩層を形成して不動態化させ、白錆防止に有効である等、耐食性を向上させることができる。
【0064】
本発明の水系表面処理組成物がリン酸化合物を含有するものである場合、上記リン酸化合物の含有量は、上記表面処理剤100質量%中に、0.01質量%以上10質量%以下含有していることが好ましい。0.01質量%未満の場合には耐食性が不十分となり、10質量%超えると使用する水系チタンオリゴマー組成物によってはゲル化して塗布不能となることがある。より好ましくは、0.05質量%以上5質量%以下である。
【0065】
上記バナジウム化合物としては、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記バナジウム化合物を用いると、従来から耐食性を付与するために使用されてきたクロム化合物と同様、金属素地表面にバナジウム層を形成して不動態化させ、特に亜鉛鋼板等の白錆防止に有効である等、耐食性を向上させることができる。
【0066】
本発明の水系表面処理組成物が、上記バナジウム化合物を含有するものである場合、上記表面処理剤100質量%中に、0.05質量%以上10質量%以下含有していることが好ましい。0.05質量%未満の場合には耐食性が不十分となり、10質量%超えると耐食性が飽和して不経済となるだけでなく、使用する水系チタンオリゴマー組成物によってはゲル化して塗布不能となることがある。より好ましくは、0.1質量%以上5質量%以下である。
【0067】
上記ジルコニウム化合物としては、ヘキサフルオロジルコニウム酸アンモニウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸ナトリウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸カリウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、及びジルコニウムアセチルアセトネート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記バナジウム化合物を用いると、従来から耐食性を付与するために使用されてきたクロム化合物と同様、金属素地表面にジルコニウム層を形成して不動態化させ、特に亜鉛鋼板等の白錆防止に有効である等、耐食性を向上させることができる。
【0068】
本発明の水系表面処理組成物が、上記ジルコニウム化合物を含有するものである場合、上記表面処理剤100質量%中に、0.05質量%以上10質量%以下含有することが好ましい。0.05質量%未満の場合には耐食性が不十分となり、10質量%超えると耐食性が飽和して不経済となるだけでなく、使用する水系チタンオリゴマー組成物によってはゲル化して塗布不能となることがある。より好ましくは、0.1質量%以上5質量%以下である。
【0069】
本発明の水系表面処理組成物は、必要に応じて防錆効果を高めるために、更に防錆剤を併用することができる。具体的には、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−N,Nビス(2−エチルヘキシル)アミノエチルベンゾトリアゾール、及びカルボキシベンゾトリアゾール等のトリアゾール化合物;オルトモリブデン酸塩、パラモリブデン酸塩、及びメタモリブデン酸塩等のモリブデン化合物類;並びにカルボヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、及びサリチル酸ヒドラジド等のヒドラジン化合物等が挙げられる。これら防錆剤を使用する際には、特に限定はしないが、本発明の表面処理組成物100質量%中に0.01〜10質量%の範囲で使用することが好ましく、混合又は、反応して用いることができる。
【0070】
本発明の水系表面処理組成物は、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体等に好適に使用できる。これらであれば特に制限はなく使用できるが、具体的には例えば、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板、亜鉛−鉄めっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板に適用可能である。めっき方法は特に限定されるものではなく、公知の電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等の何れの方法でもよい。
【0071】
本発明の水系表面処理組成物は、より均一で平滑な皮膜を形成するために消泡剤、有機溶剤、レベリング剤、pH調整剤を用いてもよい。有機溶剤としては、塗料に一般的に用いられるものであれば、特に限定されず、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系等の親水性溶剤を挙げることができる。レベリング剤としては、シリコーン系、アセチレンジオール系、及びフッ素系等の化合物が挙げることができる。また、pH調整剤としては、フッ酸、硫酸、及び硝酸等の無機酸類、酢酸、乳酸、及びホスホン酸等の有機酸類、アンモニウム塩やアミン類を挙げることができる。
【0072】
本発明の水系表面処理組成物を、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体等の被着体に塗布する場合の塗布方法は、特に限定されず、一般に使用されるロールコート、エアスプレー、エアレススプレー、及び浸漬等を適宜採用することができる。防錆皮膜の硬化性を高めるために、あらかじめ被塗物を加熱しておくか、コーティング後に被塗物を熱乾燥させることが好ましい。被塗物の加熱温度は50℃以上250℃以下、好ましくは70℃以上220℃以下である。加熱温度が50℃未満では、水分の蒸発速度が遅く充分な成膜性が得られないため、耐溶剤性や耐アルカリ性が低下する。一方、250℃を超えると耐食性が低下する。コーティング後に熱乾燥させる場合の乾燥時間は1秒以上5分以下が好ましい。
【0073】
本発明の水系表面処理組成物を、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体等の被着体に塗布する場合の塗布量は特に限定はないが、好ましくは乾燥後の塗布量として皮膜量が0.5g/m以上3g/m以下である。0.5g/m未満であると耐食性や耐アルカリ性が低下することがある。一方、皮膜量が多すぎると、基材密着性が低下するのみならず不経済でもある。より好ましくは0.5g/m以上2g/m以下である。
【0074】
また、本発明の防錆皮膜は、皮膜の上に上塗り塗料を塗布して塗膜を形成して使用することもできる。上塗り塗料としては、例えば、アクリル樹脂、アクリル変性アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フタル酸樹脂、アミノ樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂等からなる塗料等が挙げられる。
【0075】
上塗り塗料の塗膜の膜厚は、防錆金属製品の用途、使用する上塗り塗料の種類等によって適宜決定され、特に制限されない。通常、5μm〜300μm程度、より好ましくは10μm〜200μm程度である。上塗り塗料の塗膜の形成は、上記水系表面処理組成物により形成された皮膜の上に上塗り塗料を塗布し、加熱して乾燥、硬化させて行うことができる。乾燥温度及び時間は、塗布される上塗り塗料の種類、塗膜の膜厚等に応じて適宜調整されることになるが、通常、乾燥温度としては、50℃以上250℃以下が好ましく、乾燥時間としては、5分〜1時間が好ましい。上塗り塗料の塗布方法としては、塗料形態に応じて、従来公知の方法により行うことができる。
【0076】
本発明の水系表面処理組成物は、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体等の防錆性能を高めるために、その表面を処理するために用いられることが好ましい。すなわち、これらの表面の防錆用に本発明の水系表面処理組成物を用いることが好ましい。本発明の水系表面処理組成物を使用して製膜してなる防錆皮膜は、これらの表面の防錆性能を高めることができる。
【0077】
本発明の水系表面処理組成物を使用して防錆されている、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体は、過酷な条件でも基材密着性、加工部耐食性、耐熱性、塗装密着性、耐アルカリ性、及び耐溶剤性を維持できる。
【0078】
本発明の表面処理組成物が、優れた防錆効果を示す作用・原理は明らかではなく、本発明は以下の作用・原理の範囲に限定されるものではないが、以下のことが考えられる。すなわち、チタンオリゴマー化合物を使用することにより、製膜される膜が緻密化されることが考えられ、また、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するケイ素化合物(d)を併用することによって、基材である金属板との接着性を高めていると考えられる。これらの事象より、水、空気等の錆を発生させる原因物質が金属板に直接接触する可能性が低くなり、防錆性能が高まるからと考えられる。
【実施例】
【0079】
次に、チタン複合組成物、チタン化合物の製造例、その製造例を用いた実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、各例中の%は質量%を意味する。
【0080】
<製造例1>
テトライソプロポキシチタン28.4g(0.10モル)を2−プロパノール50.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)と2−プロパノール50.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌して「チタン化合物オリゴマー(a)A」を得た。次に、N,N−ジメチルモノエタノールアミン8.9g(0.10モル)を添加後、1時間攪拌した後、1,2−プロパンジオール30.4g(0.40モル)を添加し、1時間攪拌し、更に1時間還流し、「チタン複合組成物A」を得た。
【0081】
<製造例2>
テトライソプロポキシチタン28.4g(0.10モル)を2−プロパノール50.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)と2−プロパノール50.0gとN−n−ブチルエタノールアミン5.9g(0.05モル)の混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌して「チタン化合物オリゴマー(a)B」を得た。次に、グリセリン36.8g(0.40モル)を添加し、1時間攪拌し、更に1時間還流し、「チタン複合組成物B」を得た。
【0082】
<製造例3>
テトライソプロポキシチタン28.4g(0.10モル)を2−プロパノール50.0gに溶解させた後、水0.9g(0.05モル)と2−プロパノール50.0gとN,N−ジメチルモノエタノールアミン4.5g(0.05モル)の混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌して「チタン化合物オリゴマー(a)C」を得た。次に、1時間攪拌した後、1,2−ブタンジオール36.0g(0.40モル)を添加し、1時間攪拌し、更に1時間還流し、更に、2−プロパノール87gを脱溶剤し、「チタン複合組成物C」を得た。
【0083】
<製造例4>
テトラn−ブトキシチタン34.0g(0.10モル)を1−ブタノール30.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)と1−ブタノール60.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌して「チタン化合物オリゴマー(a)D」を得た。次に、N,N−ジメチルモノエタノールアミン8.9g(0.10モル)を添加後、1時間攪拌した後、2,3−ブタンジオール36.0g(0.40モル)を添加し、1時間攪拌し、更に1時間還流し、「チタン複合組成物D」を得た。
【0084】
<製造例5>
テトライソプロポキシチタン28.4g(0.10モル)に対する水の量を、水2.2g(0.12モル)とした以外は、製造例4と同様の方法で、「チタン化合物オリゴマー(a)E」及び「チタン複合組成物E」を得た。
【0085】
<製造例6>
ジイソプロポキシビスアセチルアセトナートチタン36.4g(0.1モル)を2−プロパノール50.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)と2−プロパノール100.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌し、更に1時間還流して「チタン化合物オリゴマー(a)F」を得た。次に、トリエチルアミン5.1g(0.05モル)を添加後、1時間攪拌した後、1,2−プロパンジオール30.4g(0.40モル)を添加し、1時間攪拌し、更に1時間還流し、「チタン複合組成物F」を得た。
【0086】
<製造例7>
テトライソプロポキシチタン28.4g(0.10モル)を2−プロパノール50.0gに溶解させた後、水2.7g(0.15モル)と2−プロパノール50.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、1時間攪拌して「チタン化合物オリゴマー(a)G」を得た。次に、N,N−ジメチルモノエタノールアミン8.9g(0.10モル)を添加後、1時間攪拌した後、1,2−プロパンジオール30.4g(0.40モル)を添加し、1時間攪拌し、更に1時間還流した。その後、更にモノメチルトリメトキシランを13.6g(0.10モル)を添加し、更に1時間還流し、「チタン複合組成物G」を得た。
【0087】
<製造例8>
テトライソプロポキシチタン28.4g(0.10モル)に、N,N−ジメチルモノエタノールアミン8.9g(0.10モル)を添加した。添加後、1時間攪拌した。更に、1,2−プロパンジオール30.4g(0.40モル)を添加し、1時間攪拌し、更に1時間還流し「チタン化合物a」を得た。
【0088】
<製造例9>
テトラn−ブトキシチタン34.0g(0.10モル)に、トリエチルアミン5.1g(0.05モル)を添加後、1時間攪拌した。その後、1,2−プロパンジオール30.4g(0.40モル)を添加し、1時間攪拌し、更に1時間還流し「チタン化合物b」を得た。
【0089】
<製造例10>
テトライソプロポキシチタン28.4g(0.1モル)に、トリエチルアミン10.1g(0.1モル)を30分かけて添加した。続いて、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを52.9g(0.2モル)を加え、その後、1,2−エタンジオールを49.6g(0.8モル)を添加し、1時間攪拌し、更に1時間還流し「チタン化合物c」を得た。
【0090】
<実施例1〜84、比較例1〜24 表面被覆鋼板の作成>
[試験板の作成]
厚さ0.8mmの電気亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量:20g/m)を60℃のアルカリ脱脂剤(サーフクリーナー155、日本ペイント社製)2%水溶液を用いて、60秒間スプレー処理して脱脂した。次に、上記製造例で得られたチタン複合組成物及び表1〜4に示した物質を表5、6に示した処方で水性被覆剤を調製し、水性被覆剤をバーコーターで、乾燥皮膜量0.5g/mになるように塗布し、雰囲気温度500℃の熱風乾燥炉を用いて到達板温80℃まで焼き付けて試験板を作成した。
【0091】
<評価方法>
基材密着性、加工部耐食性、耐熱性、塗装密着性、耐アルカリ性、及び耐溶剤性を評価した。その結果を表5、6に記載する。評価は下記の方法にしたがって行った。
【0092】
[基材密着性]
試験板をエリクセンテスターにて8mm押し出し加工したのち、押し出し部にセロハンテープ(登録商標、ニチバン社製)を貼り、強制剥離した。試験板をメチルバイオレット染色液に浸漬し、皮膜状態を観察し下記基準で評価した。
◎:剥離なし
○:僅かに剥離
△:部分剥離
×:完全剥離
【0093】
[加工部耐食性]
試験板をエリクセンテスターにて7mm押し出した加工し、試験板のエッジと裏面をテープシールし、塩水噴霧試験SST(JIS−Z−2371)を行った。120時間後の白錆発生状況を観察し下記基準で評価した。
◎:白錆発生なし
○:白錆発生面積が10%未満
△:同10%以上30%未満
×:同30%以上
【0094】
[耐熱性]
試験板を250℃で1時間加熱後、エッジと裏面をテープシールし、塩水噴霧試験SST(JIS−Z−2371)を行った。72時間後の白錆発生状況を観察し下記基準で評価した。
◎:白錆発生なし
○:白錆発生面積が10%未満
△:同10%以上30%未満
×:同30%以上
【0095】
[塗装密着性]
試験板表面にメラミンアルキッド塗料(スーパーラック100、日本ペイント製)をバーコーターで乾燥膜厚20μmとなるように塗布し、120℃で25分間焼き付けて塗板を作製した。一昼夜放置後沸騰水中に30分間浸漬し、取り出して1日放置してから、エリクセンテスターにて塗膜板を7mm押し出し、その押し出し部にセロテープ(登録商標、ニチバン製)を貼り、強制剥離した後の塗膜状態を下記の評価基準で評価した。
◎:剥離なし
○:僅かに剥離
△:部分剥離
×:完全剥離
【0096】
[耐アルカリ性]
試験板を55℃のアルカリ脱脂剤(サーフクリーナー53、日本ペイント製)2%水溶液に攪拌しながら30分間浸漬した後の皮膜状態を下記の評価基準で評価した。
◎:剥離なし
○:僅かに剥離
△:部分剥離
×:完全剥離
【0097】
[耐溶剤性]
試験板をラビングテスターに設置後、エタノールを含浸させた脱脂綿を0.5Kgf/cmの荷重で10回(往復)、及びメチルエチルケトン(MEK)含浸させた脱脂綿を0.5Kgf/cmの荷重で10回(往復)擦った後の皮膜状態を下記の評価基準で評価した。
◎:擦り面に跡がまったく付かない
○:擦り面に跡がわずかに付く
△:擦り面に白い跡が付く
×:擦り面に皮膜がなくなる
【0098】
上記試験によって評価及び測定を行った結果を下記表4,5に示す。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【0099】
表4、5の結果から、実施例の水系表面処理組成物で各被着体の表面を処理した何れの被着体は、基材密着性、加工部耐食性、耐溶剤性、塗装密着性、耐アルカリ性、及び耐熱性のすべてに優れるものであった。一方、チタン化合物a〜cから得られた水系表面処理組成物(比較例1〜3)、また、チタン複合組成物A、E、Gにケイ素化合物(d)を反応(混合)させない水系表面処理組成物(比較例4〜6)、また、チタン化合物a〜cにケイ素化合物を反応(混合)させた水系表面処理組成物(比較例7〜9)、また、ケイ素化合物(d)から得られた水系表面処理組成物(比較例10〜12)で各被着体の表面を処理した何れの被着体は、上記のすべての性能が優れるものは得られなかった。
【0100】
本発明の水系表面処理組成物は、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体等の被着体に対し、基材密着性、加工部耐食性、耐熱性、塗装密着性、耐アルカリ性、及び耐溶剤性を著しく向上させることができるため、家電製品、事務機器、建材、自動車等の産業分野に好適に用いることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物オリゴマー(a)、アミン化合物(b)、及びグリコール化合物(c)を反応させてなる化学構造及び/又は混合させてなる組成を有するチタン複合組成物に、分子中に1個以上のアルコキシ基を有するケイ素化合物(d)を反応させてなる化学構造及び/又は混合させてなる組成を有するものであることを特徴とする、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体の表面に対して用いるものであることを特徴とする水系表面処理組成物。
【請求項2】
更に、リン酸化合物、バナジウム化合物、及びジルコニウム化合物から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1記載の水系表面処理組成物。
【請求項3】
該チタン化合物オリゴマー(a)が、下記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、下記式(1)で表されるチタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物、が縮合した構造を有するものである請求項1又は請求項2記載の水系表面処理組成物。
【化1】


[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1個以上18個以下のアルキル基を示す。]
【請求項4】
該チタン化合物オリゴマー(a)が、下記式(1)で表されるチタンアルコキシド、又は、下記式(1)で表されるチタンアルコキシドにキレート化剤が配位した構造を有するチタンキレート化合物、が縮合した構造を有するものに、更にキレート化剤を配位させてなる構造を有するものである請求項1又は請求項2記載の水系表面処理組成物。
【化2】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1個以上18個以下のアルキル基を示す。]
【請求項5】
上記チタンアルコキシド又は上記チタンキレート化合物の縮合が、チタンアルコキシド又はチタンキレート化合物を、アルコール溶液中で水を反応させることにより行われたものである請求項3又は請求項4記載の水系表面処理組成物。
【請求項6】
上記チタンアルコキシド又は上記チタンキレート化合物の縮合が、チタンアルコキシド及び/又はチタンキレート化合物1モルに対し、アルコール溶液中で、水0.2モル以上2モル以下を反応させることにより行われたものである請求項3ないし請求項5の何れかの請求項記載の水系表面処理組成物。
【請求項7】
上記チタンアルコキシド又は上記チタンキレート化合物の縮合が、チタンアルコキシド又はチタンキレート化合物をアミン化合物(b)の存在下でかつアルコール溶液中で水を反応することにより行われたものである請求項3ないし請求項6の何れかの請求項記載の水系表面処理組成物。
【請求項8】
該アミン化合物(b)が、置換若しくは非置換の脂肪族アミン又は第四級アンモニウム水酸化物である請求項1ないし請求項7の何れかの請求項記載の水系表面処理組成物。
【請求項9】
該グリコール化合物(c)が、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、及び2,3−ブタンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1ないし請求項8の何れかの請求項記載の水系表面処理組成物。
【請求項10】
該キレート化剤が、β−ジケトン、β−ケトエステル、多価アルコール、アルカノールアミン、及びオキシカルボン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項3ないし請求項7の何れかの請求項記載の水系表面処理組成物。
【請求項11】
式(1)中のR〜Rが、それぞれ独立に炭素数1〜8個のアルキル基である請求項3ないし請求項7の何れかの請求項記載の水系表面処理組成物。
【請求項12】
分子中に1個以上のアルコキシ基を有するケイ素化合物(d)が、ケイ素原子にアルキル基が直接結合した構造を有するものである請求項1ないし請求項11の何れかの請求項記載の水系表面処理組成物。
【請求項13】
分子中に1個以上のアルコキシ基を有するケイ素化合物(d)が、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、ビニル基、又は(メタ)アクロイルオキシ基を含有するものである請求項1ないし請求項12の何れかの請求項記載の水系表面処理組成物。
【請求項14】
亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体の表面に対して請求項1ないし請求項13の何れかの請求項記載の水系表面処理組成物を使用して、製膜してなることを特徴とする防錆皮膜。
【請求項15】
請求項1ないし請求項13の何れかの請求項記載の水系表面処理組成物を使用して防錆層が形成されていることを特徴とする、亜鉛若しくは亜鉛を20%以上含有する合金、又は、それらのめっき体。

【公開番号】特開2009−185366(P2009−185366A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29051(P2008−29051)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】