説明

水素の製造方法及び製造装置

【課題】アンモニアの分解により水素を効率的且つ低コストに製造する。
【解決手段】反応器内に水素分離膜mで隔てられた空間A,Bを備え、空間Aにアンモニア分解触媒xが配置された製造手段を用い、空間Aにアンモニアを供給してアンモニア分解触媒xによりアンモニアを分解し、該アンモニアの分解により生成した水素を、水素分離膜mを透過させて空間Bに流入させ、水素を回収する。空間Aで生成した水素が速やかに水素分離膜mを透過して空間Bに移行するため、空間Aでのアンモニア分解反応が効果的に促進される。また、アンモニア分解とアンモニア分解ガスからの水素の分離・回収を同時に行うことができ、回収された水素は高純度であるため、別途精製等の操作を行う必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを分解して水素を製造するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
COは地球温暖化の主要な原因とされており、その排出量削減が急務とされている。このCOの発生は石炭、石油等の化石資源の消費に起因するものであるが、石油資源の枯渇が懸念される中、石油の代替エネルギーについても考慮しなければならない。COを発生しない理想的なクリーンエネルギー源として水素が注目されており、水素を燃料として使用する燃料電池自動車の実用化が検討されている。また、鉄鋼業においては、従来、鉄鉱石の還元材として利用している石炭代替としての水素の利用も検討されている。しかしながら、水素は輸送等の取り扱いが非常に難しい物質である。気体として用いるものであっても、気体の状態での輸送は体積が大きく効率的でないため、LNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)のように液体の状態で輸送することが望ましいが、このためには低温の貯蔵タンクが必要となる。LNGの場合、主成分のCH4の沸点が−162℃であるのに対し、水素の沸点は−253℃であるため、水素の輸送には極低温の貯蔵タンクが必要となり、このようなタンクを用いてトラック等で輸送を行なうことは非常にコスト高であり現実的でない。水素を安全かつ簡便に貯蔵運搬する目的で水素吸蔵合金の開発も進められているが、単位質量当たりの水素吸蔵量が小さいため、実用化には至っていない。
【0003】
そこで、極低温で液化させる必要がないため輸送が容易であり、炭素を含有しないアンモニア(NH3)を水素キャリアとして用いることが考えられる。アンモニアは沸点が−33℃であるため、水素に比較して液化がはるかに容易であり、LNGに比較しても液化が容易である。液化したアンモニアは、輸送が容易であり、貯蔵の際の設備も低コストで建設することができる。また、H2に較べて単位体積あたりの水素含有率が高いため、効率的であるという特徴もある。
【0004】
2009年における世界のアンモニア生産量は1億5250万トンに達する。アンモニアの製造には、現状では、主として軽炭化水素系のナフサやGTL、LPG等の天然ガスが使用されている。アンモニア1000tの製造には32kWhの電力と27.21GJ(LHV)の原料天然ガスが必要とされるものの、太陽光を用いたアンモニアの光合成、風力発電などによる水の電解によるアンモニア製造、下水処理場からのアンモニアの回収など、より低コストで有害な副生成物を生じないアンモニア製造方法の検討も行われており、これらの課題も今後クリアされていくものと考えられる。
ここで、アンモニアの分解反応は吸熱反応であり、熱力学的には500℃で約100%分解し、水素と窒素を生成する。しかしながら、現実的にはアンモニア分解に使用する触媒の活性に依存することが大であり、速度論的な検討が必要となってくる。従来、アンモニア分解用の触媒として、例えば、特許文献1,2に示されるようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−94667号公報
【特許文献2】特開2010−240644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アンモニア分解触媒(例えば、特許文献1,2に示される触媒)を用いた単純なアンモニア分解では、速度論的に優位な高活性の触媒を用いたとしても、熱力学的平衡制約は避けられない。
また、アンモニアの分解生成ガスは、水素及び窒素の混合ガスであり、また、アンモニアの分解率が低位の場合には、アンモニア、水素及び窒素の混合ガスが生成ガスとして反応器より排出される。そのため、水素のみを回収するには、アンモニア、窒素の除去が必要である。具体的には、PSAなどの吸着分離装置やアンモニアストリッパー等の設備が必要となる。また、アンモニア分解率を高める方法として、分解温度を上げることが考えられるが、触媒寿命の短命化、反応器材質の高コスト化などが問題となる。
【0007】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、アンモニアの分解により水素を効率的且つ低コストに製造することができる水素の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以上のような課題を解決すべく検討を重ねた結果、反応器内に水素分離膜で隔てられた2つの空間A,Bを設けて、空間Aにアンモニア分解触媒を設置し、空間A内に導入されたアンモニアの分解で生じた水素のみを水素分離膜を透過させて空間Bに流入させ、水素を回収するという新たな方法を創案した。この方法によれば、(i)空間Aにおいてアンモニア分解により生成した水素が速やかに水素分離膜mを透過して空間Bに移行するため、空間Aでのアンモニア分解反応を効果的に促進することができ、従来の単純なアンモニア分解による水素の製造方法に比較して、アンモニアを高効率に分解し、水素を回収することができる、(ii)水素分離膜mで隔てられた空間A,Bを備えた反応器を用いることで、アンモニア分解とアンモニア分解ガスからの水素の分離・回収を同時に行うことができ、回収された水素は高純度であるため、別途精製等の操作を行う必要がない、(iii)従来法に比較してアンモニアを低温で分解することが可能となり、反応器の材質の面でも有利である、などの効果が得られる。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
[1]反応器内に水素分離膜(m)で隔てられた空間(A),(B)を備え、空間(A)にアンモニア分解触媒(x)が配置された製造手段を用い、空間(A)にアンモニアを供給(但し、混合ガスの一部としてアンモニアを供給する場合を含む)してアンモニア分解触媒(x)によりアンモニアを分解し、該アンモニアの分解により生成した水素を、水素分離膜(m)を透過させて空間(B)に流入させ、水素を回収することを特徴とする水素の製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、空間(A)にアンモニア分解触媒(x)が充填された製造手段を用いることを特徴とする水素の製造方法。
【0010】
[3]上記[2]の製造方法において、水素分離膜(m)からなる管体(p)を備え、該管体(p)の外側と内側のうち、いずれか一方の側がアンモニア分解触媒(x)が充填された空間(A)を構成し、他方の側が空間(B)を構成する製造手段を用いることを特徴とする水素の製造方法。
[4]上記[1]の製造方法において、水素分離膜(m)からなる管体(p)を備え、該管体(p)の外面と内面のうち、いずれか一方の面にアンモニア分解触媒のコーティング層(x)が形成され、該コーティング層(x)に面した管体(p)の外側又は内側が空間(A)を構成し、コーティング層(x)に面しない管体(p)の内側又は外側が空間(B)を構成する製造手段を用いることを特徴とする水素の製造方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの製造方法において、水素分離膜(m)がPd系水素分離膜、シリカ系多孔質分離膜の中から選ばれる1種以上からなる製造手段を用いることを特徴とする水素の製造方法。
【0011】
[6]反応器内に水素分離膜(m)で隔てられた空間(A),(B)を備えるとともに、空間(A)にアンモニア分解触媒(x)が配置された装置であって、空間(A)にアンモニアを供給する(但し、混合ガスの一部としてアンモニアを供給する場合を含む)手段と、空間(A)からガスの一部を排出する手段と、空間(B)から水素を排出する手段を有することを特徴とする水素の製造装置。
[7]上記[6]の製造装置において、空間(A)にアンモニア分解触媒(x)が充填されることを特徴とする水素の製造装置。
【0012】
[8]上記[7]の製造装置において、水素分離膜(m)からなる管体(p)を備え、該管体(p)の外側と内側のうち、いずれか一方の側がアンモニア分解触媒(x)が充填された空間(A)を構成し、他方の側が空間(B)を構成することを特徴とする水素の製造装置。
[9]上記[6]の製造装置において、水素分離膜(m)からなる管体(p)を備え、該管体(p)の外面と内面のうち、いずれか一方の面にアンモニア分解触媒のコーティング層(x)が形成され、該コーティング層(x)に面した管体(p)の外側又は内側が空間(A)を構成し、コーティング層(x)に面しない管体(p)の内側又は外側が空間(B)を構成することを特徴とする水素の製造装置。
[10]上記[6]〜[9]のいずれかの製造装置において、水素分離膜(m)がPd系水素分離膜、シリカ系多孔質分離膜の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする水素の製造装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空間(A)においてアンモニア分解により生成した水素が速やかに水素分離膜(m)を透過して空間(B)に移行するため、空間(A)でのアンモニア分解反応を効果的に促進することができ、従来の単純なアンモニア分解による水素の製造方法に比較して、アンモニアを高効率に分解し、水素を回収することができる。しかも、水素分離膜(m)で隔てられた空間(A),(B)を備えた反応器を用いることで、アンモニア分解とアンモニア分解ガスからの水素の分離・回収を同時に行うことができ、回収された水素は高純度であるため、別途精製等の操作を行う必要がない。さらに、従来法に比較してアンモニアを低温で分解することが可能となり、反応器の材質の面でも有利である。以上の点から、本発明によれば、アンモニアの分解により水素を効率的且つ低コストに製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の水素の製造装置(反応器)及び製造方法の一実施形態を、反応器を縦断面した状態で模式的に示す説明図
【図2】本発明の水素の製造装置(反応器)及び製造方法の他の実施形態を、反応器を水平断面した状態で模式的に示す説明図
【図3】図2の実施形態における管体pの径方向の断面図
【図4】本発明の水素の製造装置(反応器)及び製造方法の他の実施形態を、反応器を水平断面した状態で模式的に示す説明図
【図5】実施例で使用した本発明の製造装置(実験装置)を示す説明図
【図6】実施例での試験結果を示すもので、本発明例と比較例の反応温度と水素収率との関係を示すグラフ
【図7】実施例での試験結果を示すもので、本発明例の水素除去率と水素収率との関係を、比較例と対比して示すグラフ
【図8】実施例での試験結果を示すもので、本発明例の水素除去率と水素収率との関係を、比較例と対比して示すグラフ
【図9】実施例での試験結果を示すもので、本発明例の水素除去率と水素収率との関係を、比較例と対比して示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水素の製造方法で用いる製造手段(装置)は、反応器内に水素分離膜m(水素透過膜)で隔てられた空間A,Bを備え、空間Aにアンモニア分解触媒xが配置されたものである。本発明では、このような製造手段を用い、アンモニア分解室である空間Aにアンモニアを供給(但し、混合ガスの一部としてアンモニアを供給する場合を含む)してアンモニア分解触媒xによりアンモニアを分解し、このアンモニアの分解により生成した水素を、水素分離膜mを透過させて空間B(水素分離回収室)に流入させ、水素を回収する。
ここで、水素分離膜とは、水素のみを透過し、他のガスを透過させない膜であり、その詳細は後述する。
空間Aにアンモニアを含む混合ガスを供給する場合、混合ガス中のアンモニア濃度に特別な制限はないが、アンモニアの分解により生成した水素が酸素と反応してHOを生成しないようにするため、極力酸素を含まないことが望ましい。また、触媒の被毒物質となる硫黄化合物やハロゲン化合物等も極力含まないことが望ましい。
【0016】
また、アンモニア分解を効果的に促進させるためには、空間Aへのアンモニア(アンモニア含有ガスの場合を含む)の供給及び同室からのガス排出(主に未反応のアンモニアと分解生成ガスである窒素など)、空間Bからの水素の排出を連続的に行うことが好ましい。すなわち、空間Aと空間Bにおいて、常時、ガスの供給・排出が連続的になされるようにすることが好ましい。
また、水素分離膜での水素透過速度は圧力差に依存することから、水素透過側の水素分圧を下げることで、アンモニア分解をさらに促進させることができる。したがって、空間A(アンモニア分解室)よりも空間B(水素分離回収室)の圧力を低めに設定することが好ましい。
【0017】
アンモニア分解反応は、下記(1)式で示すように、22kcal/molの吸熱反応であり、分子が増加する反応である。したがって、高温・低圧で反応が進行する。
2NH→N+3H ΔH=22kcal/mol(吸熱反応) …(1)
アンモニア分解により水素、窒素が生成するが、分解に伴い生成系の水素分圧が増加する。アンモニアの熱力学的平衡分解率は、250℃で87%、300℃で95%、350℃で98%であるが、速度論的制約でそこまで分解率を上げることは難しい。そこで、生成系から水素を除去できれば、見掛け上平衡制約を緩和でき、アンモニア分解率の向上(水素回収率向上)が見込まれる。すなわち、本発明法では、空間A(アンモニア分解室)においてアンモニア分解により生成した水素が速やかに水素分離膜mを透過して空間B(水素分離回収室)に移行するため、空間A内でのアンモニア分解反応を効果的に促進することができる。
【0018】
図1は、本発明の水素の製造装置(反応器)及び製造方法の一実施形態を、反応器を縦断面した状態で模式的に示す説明図である。
この実施形態の製造装置は、反応器内に水素分離膜mで隔てられた空間A,Bを備えており、空間Aはアンモニア分解触媒xが充填されることで、アンモニア分解室を構成する。また、空間Bは、水素分離膜mを通じて空間Aから水素のみを透過させることで水素を分離回収する水素分離回収室を構成する。
図示しないが、この反応器は、空間Aにアンモニアを供給する(但し、混合ガスの一部としてアンモニアを供給する場合を含む)手段であるガス供給口及びこれに接続されるガス供給管と、空間Aからガスの一部(通常、未反応のアンモニアと分解生成ガスである窒素など)を排出する手段であるガス排出口及びこれに接続されるガス排出管と、空間Bから水素を排出する手段であるガス排出口及びこれに接続されるガス排出管を有している。
【0019】
この実施形態では、所定温度に加熱された反応器の空間A(アンモニア分解室)にアンモニア(アンモニア含有ガスの場合を含む。以下、説明の便宜上、単に「アンモニア」という。)が供給される。さきに述べたように、空間Aよりも空間Bの圧力が低く設定される。空間Aに供給されたアンモニアは、アンモニア分解触媒xにより水素と窒素に分解する。水素分離膜mは水素のみを透過するため、空間A内のガス(分解生成ガスである水素と窒素、未反応のアンモニアなど)のうち、水素だけが水素分離膜mを透過して空間Bに流入する。一方、水素分離膜mを透過する水素以外のガス(主に未反応のアンモニアと分解生成ガスである窒素など)は、ガス排出口およびガス排出管を通じて器外に排出される。空間Bに流入した水素は、ガス排出口およびガス排出管を通じて器外に排出され、製品として回収される。なお、空間Aにおけるアンモニアの供給及び分解後のガスの排出と、空間Bにおける水素の排出は連続的になされる。
【0020】
図2及び図3は、本発明の水素の製造装置(反応器)及び製造方法の他の実施形態を示すもので、図2は、反応器内の複数の管体pを水平断面した状態で模式的に示す説明図、図3は管体pの径方向の断面図である。
この実施形態の製造装置は、反応器内に水素分離膜mからなる複数の管体pが適当な間隔で並列的に配置される。各管体pは、外面にアンモニア分解触媒のコーティング層xが形成され、コーティング層xに面した管体pの外側が空間A(アンモニア分解室)を構成し、管体pの内側が空間B(水素分離回収室)を構成している。なお、コーティング層x(触媒層)は、緻密膜ではなく、水素分子が透過することができる細孔が形成されている。
【0021】
このような実施形態でも、図1と同様に、空間A(アンモニア分解室)と空間B(水素分離回収室)についてガスの供給・排出を行う手段(ガス供給口及びこれに接続されるガス供給管とガス排出口及びこれに接続されるガス排出管)が設けられる。この場合、複数の管体pの各一端及び各他端をそれぞれ共通のヘッダーに接続し、このヘッダーに管体p内側(空間B)についてガスの排出を行う手段を設ければよい。
【0022】
この実施形態では、空間A(管体pの外側)にアンモニアが供給され、このアンモニアはアンモニア分解触媒xのコーティング層xにより水素と窒素に分解する。さきに述べたように、空間Aよりも空間Bの圧力が低く設定される。水素分離膜mは水素のみを透過するため、管体pの外側を流れるガス(分解生成ガスである水素と窒素、未反応のアンモニアなど)のうち、水素だけが水素分離膜mを透過して管体pの内側の空間Bに流入する。一方、水素分離膜mを透過する水素以外のガス(主に未反応のアンモニアと分解生成ガスである窒素など)は、ガス排出口およびガス排出管を通じて器外に排出される。水素分離膜mを透過して空間Bである管体pの内側に流入した水素は、ガス排出口およびガス排出管を通じて器外に排出され、製品として回収される。
【0023】
また、他の実施形態としては、図2及び図3の実施形態とは逆に、水素分離膜mからなる管体pの内面にアンモニア分解触媒のコーティング層xが形成され、コーティング層xに面した管体pの内側が空間A(アンモニア分解室A)を構成し、管体pの外側が空間B(水素分離回収室)を構成するようにしてもよい。この場合も、図2及び図3の実施形態と同様に、空間A及空間Bにそれぞれガスの供給・排出を行う手段が設けられる。
【0024】
この実施形態では、空間Aである管体pの内側にアンモニアが供給され、このアンモニアはアンモニア分解触媒のコーティング層xにより水素と窒素に分解し、水素だけが水素分離膜mを透過して空間Bである管体pの外側に流入する。一方、水素分離膜mを透過する水素以外のガス(主に未反応のアンモニアと分解生成ガスである窒素など)は、管体pを通過した後、ガス排出口およびガス排出管を通じて器外に排出される。
水素分離膜mを透過して空間Bである管体pの外側に流入した水素は、ガス排出口およびガス排出管を通じて器外に排出され、製品として回収される。
【0025】
さらに、図2及び図3のような水素分離膜mを利用した他の実施形態としては、管体pに触媒のコーティング層xを設けるのではなく、管体pの外側と内側のいずれか一方にアンモニア分解触媒xを充填した構造としてもよい。図4は、その実施形態を反応器を水平断面した状態で模式的に示す説明図である。この実施形態では、アンモニア分解触媒xが充填された側が空間A(アンモニア分解室)となり、図1の原理で水素が生成・分離回収される。すなわち、図4の例では、管体pの外側が空間A(アンモニア分解室)を、管体pの内側が空間B(水素分離回収室)を、それぞれ構成しているが、その逆でもよい。
【0026】
前記水素分離膜mとしては、Pd系水素分離膜、シリカ系多孔質分離膜などを用いることができる。Pd系水素分離膜は、Pb又はPd系合金を圧延などにより薄膜にしたものであり、Pd系合金としてはPdとAgの合金などが用いられる。また、シリカ系多孔質分離膜は、アルミナ等の多孔質支持体に、水素だけが透過できるような細孔を有するシリカ膜を形成したものであり、シリカ膜は、例えば、蒸着等によりシリカをコーティングした後、焼成等を施すことにより形成される。また、アルミナ等の多孔体にシリカ膜を形成させた後、Pd等の水素を透過する膜を無電解メッキ等のメッキにより形成させたものを用いることもできる。
【0027】
水素分離膜の水素透過性能は膜表面積に依存するので、例えば、波状或いは凹凸状に加工することで膜表面積を増加させた水素分離膜を用いることが好ましい。また、水素透過性能は膜厚みにも依存することから、加工可能な範囲で膜厚みを薄くすることが好ましい。また、多孔質緻密体の表面に水素分離膜をコーティングしたものを用いてもよい。水素分離膜をコーティングする方法としては、化学蒸着法、プリント法、メッキ法などが挙げられる。但し、アンモニア分解反応条件下で安定な水素分離膜であることが望ましい。
【0028】
アンモニア分解触媒としては、従来公知のアンモニア分解触媒を用いることができ、例えば、Ru,Pt等の貴金属元素、Ni,Fe,Co等の遷移金属系元素、モリブデン、タングステン、バナジウムの中から選ばれる1種以上を含有するものを用いることができる。また、アンモニア分解触媒の活性を高めるためのアルカリ、アルカリ土類等の助触媒を添加してもよく、Al、SiO等の担体に前記触媒元素及び助触媒を担持させるようにしてもよい。
アンモニア分解温度は、使用する水素分離膜mの耐熱温度やアンモニア分解率(水素回収)などを考慮して決められるが、通常、300〜500℃であればよい。
【0029】
本発明の製造装置は、内部に水素分離膜mとこれに隔てられた空間A,Bを有する反応器を備え、この反応器には上記反応温度を得るための加熱手段が付設される。この加熱手段は、通常、反応器の外側に付設され、反応容器内部を間接加熱する。加熱方式は、電気加熱、ガス燃焼加熱など任意である。但し、反応を円滑に進めるために、ホットスポットのないように均一に熱供給を行うことができる手段であることが好ましい。
【実施例】
【0030】
図5に示すような試験装置(反応器)を用い、本発明法の試験を実施した。反応器の内部は中央の水素分離膜mで2つの空間A,Bに仕切られ、一方の空間A(アンモニア分解室)にアンモニア分解触媒xが充填されている。反応器を電気炉内に設置し、電気炉により反応温度を制御できるようにした。
水素分離膜mとしては、市販の圧延法で作製されたPd−Ag膜(膜厚:20mm,有効膜面積:3.78cm(20×50mm),23mass%−Ag)を使用した。アンモニア分解触媒xとしては、2mass%Ru/Alペレット触媒と、ニッケル系触媒である市販の12mass%Ni/Al球状触媒を使用した。
【0031】
試験条件は、反応温度:350〜500℃、NH量:10〜50ml/min、NH同伴用Ar量:10〜50ml/min、スイープ用Ar量:28〜200ml/min、触媒量:1.25〜5.0g(W/F:3733〜11200g-cat・min/mol-NH)とした。圧力は空間A(NH供給側)、空間B(H透過側)ともに常圧とし、NH供給側である空間Aにアンモニアとアルゴン(マスフローで所定流量に設定)を、H透過側である空間Bにスイープ用アルゴンをそれぞれ供給し、これにより空間A,B間で水素分圧差を付け、水素を水素分離膜mを通じて空間A側から空間B側に透過させた。
なお、比較例では、水素分離膜mを使用しないでアンモニア分解試験を行ったが、この試験は空間B(水素透過側)の出入口を塞いで行った。
【0032】
供給ガス流量は、特記していない限り、NH量:30ml/min、NH量:NH同伴用Ar量=1:1、スイープ用Ar量:200ml/min、W/F:3733g-cat・min/mol-NH3とした。
水素収率と水素除去率は、下式により算出した。
水素収率=(実際の水素生成量)/(NH3が100%分解した場合の水素生成量)*100
水素除去率=(空間Bに透過した水素量)/(空間Aで生成した水素量)*100
【0033】
図6に、本発明例と比較例において、アンモニア分解触媒として2mass%Ru/Alペレット触媒を用いた場合の試験結果(反応温度と水素収率との関係)を示す。これによれば、比較例の水素収率は、反応温度が450〜500℃では約100%となるが、400℃では約70%、350℃では約30%と低下している。一方、本発明例の水素収率は、比較例と比べて反応温度350℃では1.3倍、400℃では1.2倍向上しており、水素収率(アンモニア分解率)の向上が確認できる。
【0034】
そこで、本発明例として、アンモニア供給量を低下させる(W/Fを増大)とともに、スイープ用Ar量を変化させた試験を行った。その結果(水素除去率と水素収率との関係)を図7、図8に示す。図7の試験では、NH量:10ml/min、反応温度:400℃、スイープ用Ar量:28ml/min,50ml/min,100ml/min,W/F:11200g-cat・min/mol-NH3の条件とし、図8の試験では、NH量:16.6ml/min、反応温度:400℃、スイープ用Ar量:28ml/min,50ml/min,100ml/min、W/F:6747g-cat・min/mol-NH3の条件とした。水素除去率は、スイープ用Ar量(28ml/min,50ml/min,100ml/min)により変化させた。
【0035】
図7、図8に示した破線は、それぞれ本発明例と同じ条件(NH量、反応温度)で行った比較例の水素収率である。比較例では、NH量10ml/minおよび16.6ml/minにおける水素収率は、それぞれ65.1%および66.0%である。これに対して、本発明例では、いずれの条件においても水素収率の向上が見られる。また、水素収率は水素除去率の増大(スイープ用Ar量の増加)に伴って向上している。なお、NH量が10ml/minのときには(図7)、水素除去率77.7%において水素収率は5割程度向上している。
【0036】
次に、本発明例と比較例において、触媒として12mass%Ni/Al球状触媒を用いて試験を行った。この試験では、反応温度:450℃、NH量:10ml/min、スイープ用Ar量:50ml/min,100ml/min,120ml/min、W/F:11200g-cat・min/mol-NH3とした。その結果(水素除去率と水素収率との関係)を図9に示す。これによれば、本発明例は水素収率が大きく向上し、比較例に較べて最大2.2倍にまで向上している。
【符号の説明】
【0037】
m 水素分離膜
A,B 空間
x アンモニア分解触媒
コーティング層
p 管体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内に水素分離膜(m)で隔てられた空間(A),(B)を備え、空間(A)にアンモニア分解触媒(x)が配置された製造手段を用い、
空間(A)にアンモニアを供給(但し、混合ガスの一部としてアンモニアを供給する場合を含む)してアンモニア分解触媒(x)によりアンモニアを分解し、該アンモニアの分解により生成した水素を、水素分離膜(m)を透過させて空間(B)に流入させ、水素を回収することを特徴とする水素の製造方法。
【請求項2】
空間(A)にアンモニア分解触媒(x)が充填された製造手段を用いることを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項3】
水素分離膜(m)からなる管体(p)を備え、該管体(p)の外側と内側のうち、いずれか一方の側がアンモニア分解触媒(x)が充填された空間(A)を構成し、他方の側が空間(B)を構成する製造手段を用いることを特徴とする請求項2に記載の水素の製造方法。
【請求項4】
水素分離膜(m)からなる管体(p)を備え、該管体(p)の外面と内面のうち、いずれか一方の面にアンモニア分解触媒のコーティング層(x)が形成され、該コーティング層(x)に面した管体(p)の外側又は内側が空間(A)を構成し、コーティング層(x)に面しない管体(p)の内側又は外側が空間(B)を構成する製造手段を用いることを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項5】
水素分離膜(m)がPd系水素分離膜、シリカ系多孔質分離膜の中から選ばれる1種以上からなる製造手段を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水素の製造方法。
【請求項6】
反応器内に水素分離膜(m)で隔てられた空間(A),(B)を備えるとともに、空間(A)にアンモニア分解触媒(x)が配置された装置であって、
空間(A)にアンモニアを供給する(但し、混合ガスの一部としてアンモニアを供給する場合を含む)手段と、空間(A)からガスの一部を排出する手段と、空間(B)から水素を排出する手段を有することを特徴とする水素の製造装置。
【請求項7】
空間(A)にアンモニア分解触媒(x)が充填されることを特徴とする請求項6に記載の水素の製造装置。
【請求項8】
水素分離膜(m)からなる管体(p)を備え、該管体(p)の外側と内側のうち、いずれか一方の側がアンモニア分解触媒(x)が充填された空間(A)を構成し、他方の側が空間(B)を構成することを特徴とする請求項7に記載の水素の製造装置。
【請求項9】
水素分離膜(m)からなる管体(p)を備え、該管体(p)の外面と内面のうち、いずれか一方の面にアンモニア分解触媒のコーティング層(x)が形成され、該コーティング層(x)に面した管体(p)の外側又は内側が空間(A)を構成し、コーティング層(x)に面しない管体(p)の内側又は外側が空間(B)を構成することを特徴とする請求項6に記載の水素の製造装置。
【請求項10】
水素分離膜(m)がPd系水素分離膜、シリカ系多孔質分離膜の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の水素の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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