説明

水素ガスの充填方法及び装置

【課題】充填時の水素ガスの温度上昇を抑制して水素自動車への水素ガスの充填を効率よく行うことができる水素ガスの充填方法及び装置を提供する。
【解決手段】水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮して貯蔵容器に貯蔵し、貯蔵された水素ガスの一部を充填経路に導出して冷却手段で冷却し、冷却された水素ガスで充填経路の配管や機器を冷却し、冷却に使用した水素ガスを回収容器に回収した後、貯蔵容器内の水素ガスを充填経路を通して水素自動車に充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスの充填方法及び装置に関し、詳しくは、水素自動車の燃料となる水素ガスを、水素ガス供給源から水素自動車の燃料タンクに充填するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車のような水素自動車の燃料として用いられる水素ガスは、水素ガスが流れる経路に設けられている各種弁や流量計等の部分で断熱膨張すると、ジュールトムソン効果によって温度が上昇するという性質を有している。したがって、水素ガス供給源から水素自動車に水素ガスを充填する経路に設けられている弁等を通過する際のジュールトムソン効果により水素ガスの温度が上昇するとともに、水素ガスを水素自動車の燃料タンクに高圧に圧縮充填するための圧縮熱によっても水素ガスの温度が上昇する。
【0003】
このように水素ガスの温度が上昇すると、燃料タンクの耐熱温度を超える問題、充填後の冷却に伴う圧力降下等の問題が発生するため、水素ガスが流れる経路に熱交換器等の冷却手段を配置し、この冷却手段で水素ガスを冷却しながら水素自動車に充填する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−116619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、冷却手段以降の充填経路にも弁等の各種機器が設けられており、これらを通過する際のジュールトムソン効果によって水素ガスの温度が上昇し、また、急速充填によって温度がより上昇する傾向にあるため、充填の開始とともに水素ガスの冷却を開始したのでは、十分な冷却を行うことが困難なときがあった。このため、冷却手段として冷却能力の大きなものを使用する必要があり、設備費が上昇するという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、簡単な設備構成で充填時の水素ガスの温度上昇を抑制して水素自動車への水素ガスの充填を効率よく行うことができる水素ガスの充填方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の水素ガスの充填方法における第1の構成は、水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮し、冷却手段を備えた充填経路を通して水素自動車に充填する方法において、圧縮後の水素ガスを貯蔵容器に貯蔵し、該貯蔵された水素ガスの一部を前記充填経路に導出し、導出した水素ガスを前記冷却手段で冷却し、冷却された水素ガスで充填経路及び該充填経路に設けられている機器を冷却し、冷却に使用した水素ガスを回収容器に回収した後、前記貯蔵容器内の水素ガスを前記充填経路を通して前記水素自動車に充填することを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の水素ガスの充填方法における第2の構成は、水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮し、冷却手段を備えた充填経路を通して水素自動車に充填する方法において、圧縮後の水素ガスを貯蔵容器に貯蔵し、該貯蔵された水素ガスの一部を前記充填経路に導出し、導出した水素ガスを前記冷却手段で冷却し、冷却された水素ガスを循環経路を通して前記充填経路に循環させながら充填経路及び該充填経路に設けられている機器を冷却した後、前記貯蔵容器内の水素ガスを前記充填経路を通して前記水素自動車に充填することを特徴としている。
【0008】
また、本発明の水素ガスの充填装置における第1の構成は、水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮する圧縮機と、圧縮した水素ガスを水素自動車に充填する充填経路とを備えた水素ガス充填装置において、前記圧縮機で圧縮した水素ガスを貯蔵する貯蔵容器と、該貯蔵容器より下流側の充填経路を流れる水素ガスを冷却する冷却手段と、該冷却手段で冷却された水素ガスが流れる充填経路から分岐した経路に設けられた回収容器とを備えたことを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明の水素ガスの充填装置における第2の構成は、水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮する圧縮機と、圧縮した水素ガスを水素自動車に充填する充填経路とを備えた水素ガス充填装置において、前記圧縮機で圧縮した水素ガスを貯蔵する貯蔵容器と、該貯蔵容器より下流側の充填経路を流れる水素ガスを冷却する冷却手段と、該冷却手段で冷却された水素ガスが流れる充填経路から分岐して前記圧縮機の吸入側に接続した循環経路とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水素ガスの充填方法及び装置によれば、水素自動車への水素ガスの充填を開始する前に充填経路を十分に冷却しておくことができるので、充填時の水素ガスの温度上昇を抑制して水素自動車への水素ガスの充填を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の一形態例を示す水素ガスの充填装置の系統図である。この水素ガスの充填装置は、水素ガス供給源11から供給される水素ガスを圧縮機12で昇圧し、充填経路13を通して水素自動車14の燃料タンクに充填するものであって、充填経路13の途中には、圧縮後の水素ガスを貯蔵する複数の貯蔵容器15及びこの貯蔵容器15を迂回するバイパス経路16と、貯蔵容器15の下流側を流れる水素ガスを冷却するための冷却手段17とが設けられている。
【0012】
さらに、冷却手段17より下流側の充填経路13からは、前記圧縮機12の吸入側に接続する循環経路18が分岐しており、この循環経路18の途中には、回収容器19を備えた回収経路20が分岐している。また、充填経路13の終端部には、充填装置から水素自動車14に水素ガスを供給するフレキシブルホース等の連絡管21の一端が接続され、連絡管21の他端には水素自動車14の充填口に接続するカプラー(図示略)が設けられている。
【0013】
前記充填経路13には、経路内の圧力を測定するため、5箇所に圧力計31,32,33,34,35が設けられるとともに、冷却手段17の上流部分には充填経路13内の流量を測定する積算流量計36と安全弁37が設けられ、充填経路13の終端部分には水素自動車14に充填する水素ガスの温度を測定するための温度計38が設けられている。また、循環経路18には積算流量計39が設けられ、回収経路20には圧力計40が設けられている。
【0014】
本形態例示す前記冷却手段17は、冷媒通路17a内に水素ガス流通管17bを挿入したシェル&チューブ式熱交換器であって、水素ガス流通管17bを流れる水素ガスを、冷媒通路17aに供給される冷媒で冷却するように形成されている。また、冷却手段17には、エチレングリコールを冷媒とするチラー冷却器を用いることもでき、この場合には、熱交換器に冷媒を循環させる循環経路を接続する。また、空気を冷媒とするプレートフィン式熱交換器を用いることもできる。また、液体窒素やフロン等の冷媒で水素ガスを直接冷却したり、液体窒素やフロン等で別の冷媒を冷却し、この冷媒で水素ガスを冷却する熱交換器等を使用することもできる。
【0015】
前記水素ガス供給源11は、通常、19.6MPaの水素ガスが充填されている水素カードルや水素トレーラーであって、水素自動車14は、水素ガスを70MPaまで充填可能な燃料タンクを備えている。また、70MPa以上の高圧水素ガスが流れる経路の配管や機器には、高圧対応のものが使用されており、例えば配管は、外径12.7mmでは肉厚が4.8mmのものが、外径9.53mmでは肉厚が3.7mmのものが使用されている。
【0016】
以下、この充填装置の使用例を説明する。まず、貯蔵容器15に所定圧力の水素ガスを充填する運転を行う。水素ガス供給源11からの水素ガスは、手動弁51,減圧弁52,自動弁53を通って圧縮機12に吸入され、水素自動車14の充填圧力以上に昇圧される。このとき、貯蔵容器15の下流側に設けられている自動弁54及びバイパス経路16の自動弁55は閉じられており、圧縮後の水素ガスは、手動弁56,自動弁57,逆止弁58を通って貯蔵容器15側の経路に流れ、各貯蔵容器15に設けられた手動弁15aを通って各貯蔵容器15内にそれぞれ充填される。貯蔵容器15内の水素ガスの圧力は、圧力計32によって測定される。
【0017】
貯蔵容器15内に所定圧力で水素ガスを充填した後、充填経路13を冷却する運転を行う。貯蔵容器15の上流側の自動弁57を閉じて下流側の自動弁54を開き、貯蔵容器15内から、自動弁54,逆止弁59,手動弁60,自動弁61を介して水素ガスの一部を導出し、流量調整弁62で所定流量に調整した後、積算流量計36を通して冷却手段17の水素ガス流通管17bに導入し、冷媒通路17aを流れる冷媒と熱交換させて水素ガスを所定温度に冷却する。水素ガスの冷却温度はできるだけ低温とすることが望ましいため、冷却手段17の冷却能力を考慮して前記流量調整弁62で流量(流速)を制御する。
【0018】
このとき、充填経路13の終端に設けた自動弁63を閉じて循環経路18の自動弁64を開くことにより、冷却手段17で冷却された水素ガスが充填経路13から循環経路18に流れ、さらに、流量調整弁65,積算流量計39,逆止弁66を通り、閉状態となっている減圧弁67の上流側で回収経路20に流れ、自動弁68,手動弁69を通って回収容器19に回収される。回収した水素ガスの圧力は、圧力計40によって測定される。これにより、冷却手段17から循環経路18の分岐部までの間の充填経路13及び循環経路18から回収経路20に至る配管や機器を低温の水素ガスによって冷却することができる。
【0019】
また、自動弁64を閉じて自動弁63を開き、冷却手段17で冷却された水素ガスを連絡管21の他端に設けられたカプラーの部分まで供給して一定時間保持した後、自動弁61を閉じて自動弁64を開き、自動弁61からカプラーまでの間の水素ガスを循環経路18から回収経路20を通して回収容器19に回収する操作を適宜繰り返すことにより、カプラーまでの配管やこの配管に設けられた機器を冷却することができる。
【0020】
さらに、自動弁64の下流側に前記カプラーの接続口22を設けておき、この接続口22にカプラーを接続した状態で、自動弁64を閉じて自動弁63を開くことにより、冷却手段17で冷却された水素ガスを、自動弁63から連絡管21に流し、カプラーから接続口22を通って循環経路18に流すことができるので、冷却手段17から下流側の配管や機器、連絡管21、カプラーまでを冷却することができる。
【0021】
このようにして冷却手段17で冷却した水素ガスを充填経路13、循環経路18、回収経路20等を通して回収容器19に回収する予冷運転を行うことにより、肉厚が厚く、熱容量が多大な配管や機器を、水素自動車14に水素ガスを充填する前にあらかじめ冷却しておくことができる。
【0022】
配管や機器を所定温度に冷却した後、自動弁64閉じてカプラーを水素自動車14に接続し、貯蔵容器15内の水素ガスを、自動弁54,逆止弁59,手動弁60,自動弁61、流量調整弁62、積算流量計36、冷却手段17、自動弁63、連絡管21、カプラーを通して水素自動車14の燃料タンクに充填する。
【0023】
水素自動車14に水素ガスを充填する際に、貯蔵容器15から冷却手段17に至る経路に設けられた各種弁や積算流量計36の部分で断熱膨張し、ジュールトムソン効果によって温度が上昇した水素ガスは冷却手段17で冷却され、冷却手段17以降の経路に設けられた弁や連絡管21の接続部で断熱膨張しても、これらの経路や弁等があらかじめ十分に冷却されているので、水素自動車14に充填する水素ガスの温度上昇を抑制することができ、冷却手段17で冷却された低温の水素ガスを、低温を維持した状態又は必要以上の加温が生じない状態で水素自動車14に充填することができる。
【0024】
また、低温の水素ガスが流れる部分の配管や機器は、断熱材等で断熱しておくことが望ましく、これらの冷却の程度を確認するため、配管の外面に温度センサーを設けておき、この温度センサーで測定した温度に応じて冷却手段17の冷却能力や水素ガスの流速を制御することが望ましい。さらに、充填待機中に前記温度センサーの信号を取り込み、あらかじめ設定した温度になるように各弁を自動制御することにより、充填前の待ち時間を短縮することができる。
【0025】
前記回収容器19に回収した水素ガスは、圧縮機12を運転したときに減圧弁67の二次側圧力が下がることによって減圧弁67が開くことで、圧縮機12に吸入して再び貯蔵容器15に充填することができる。また、前記バイパス経路16を設けている場合は、貯蔵容器15内から所要量の水素ガスを抜き出して予冷運転を行う際に、自動弁54を閉じて自動弁55を開くとともに、圧縮機12を運転することにより、冷却手段17で冷却した水素ガスを回収容器19に回収せずに、圧縮機12から手動弁56、バイパス経路16、自動弁55、手動弁60,自動弁61、流量調整弁62、積算流量計36、冷却手段17、自動弁64、流量調整弁65,積算流量計39,逆止弁66、減圧弁67を通して圧縮機12に循環させることができる。
【0026】
また、各種冷却方法により事前に前記温度計38を構成する筐体を充分に冷却しておくことができるため、水素自動車14への水素ガス充填温度を正確に測定することが可能となり、温度計38をカプラーの近くに設けることにより,燃料タンク充填直前の水素ガスの温度をより正確に測定できる。
【0027】
さらに、貯蔵容器15から冷却手段17までをまとめて、あるいは、貯蔵容器15を保冷可能な建屋又はケーシングで囲み、その中を機械式冷凍機で冷却しておくことにより、冷却手段17に供給する水素ガスもある程度冷却しておくことができる。建屋又はケーシング内を冷却する手段として、液体窒素のような不活性の極低温ガスを用い、建屋又はケーシング内の圧力を大気圧よりも高くしておくことにより、建屋又はケーシング内への酸素(大気)の侵入を防止することができ、仮に水素ガスの漏洩が生じたとしても、建屋又はケーシング内の雰囲気を水素の爆発下限界域に維持することができ、安全性を高めることができる。加えて、建屋又はケーシング内に水素センサーを設けることにより、漏洩を早期に発見することも可能となる。
【0028】
また、前記形態例は一系統のみを例示したが、貯蔵容器15からカプラーまでの経路を複数系統設けておくことにより、一つの経路で水素自動車14に水素ガスを充填しているときに、他の経路の予冷運転を行うことができ、水素自動車14への水素ガスの充填を連続的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一形態例を示す水素ガスの充填装置の系統図である。
【符号の説明】
【0030】
11…水素ガス供給源、12…圧縮機、13…充填経路、14…水素自動車、15…貯蔵容器、16…バイパス経路、17…冷却手段、18…循環経路、19…回収容器、20…回収経路、21…連絡管、22…接続口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮し、冷却手段を備えた充填経路を通して水素自動車に充填する方法において、圧縮後の水素ガスを貯蔵容器に貯蔵し、該貯蔵された水素ガスの一部を前記充填経路に導出し、導出した水素ガスを前記冷却手段で冷却し、冷却された水素ガスで充填経路及び該充填経路に設けられている機器を冷却し、冷却に使用した水素ガスを回収容器に回収した後、前記貯蔵容器内の水素ガスを前記充填経路を通して前記水素自動車に充填することを特徴とする水素ガスの充填方法。
【請求項2】
水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮し、冷却手段を備えた充填経路を通して水素自動車に充填する方法において、圧縮後の水素ガスを貯蔵容器に貯蔵し、該貯蔵された水素ガスの一部を前記充填経路に導出し、導出した水素ガスを前記冷却手段で冷却し、冷却された水素ガスを循環経路を通して前記充填経路に循環させながら充填経路及び該充填経路に設けられている機器を冷却した後、前記貯蔵容器内の水素ガスを前記充填経路を通して前記水素自動車に充填することを特徴とする水素ガスの充填方法。
【請求項3】
水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮する圧縮機と、圧縮した水素ガスを水素自動車に充填する充填経路とを備えた水素ガス充填装置において、前記圧縮機で圧縮した水素ガスを貯蔵する貯蔵容器と、該貯蔵容器より下流側の充填経路を流れる水素ガスを冷却する冷却手段と、該冷却手段で冷却された水素ガスが流れる充填経路から分岐した経路に設けられた回収容器とを備えたことを特徴とする水素ガスの充填装置。
【請求項4】
水素ガス供給源から供給される水素ガスを圧縮する圧縮機と、圧縮した水素ガスを水素自動車に充填する充填経路とを備えた水素ガス充填装置において、前記圧縮機で圧縮した水素ガスを貯蔵する貯蔵容器と、該貯蔵容器より下流側の充填経路を流れる水素ガスを冷却する冷却手段と、該冷却手段で冷却された水素ガスが流れる充填経路から分岐して前記圧縮機の吸入側に接続した循環経路とを備えたことを特徴とする水素ガスの充填装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−239956(P2007−239956A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66466(P2006−66466)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】