説明

水素ガスセンサー用校正装置及びそれを用いる水素ガスセンサーの校正方法

【課題】先端にガス検知部を有する棒状の水素ガスセンサーを校正するために用いる水素ガスを容易に調製すると共に、この水素ガスを使用して安全、かつ、簡便に水素ガスセンサーを校正し得る水素ガスセンサー用校正装置を提供すること。
【解決手段】密閉容器2内で液体と水素ガス発生剤とを接触させて液体の上方に形成させた水素ガス層にガス検知部を曝露させる水素ガスセンサー用校正装置1であって、上記密閉容器2は、発生する水素ガスの圧力を大気圧にするための液体排出管3と、ガス検知部を上記水素ガス層に空気無混入で挿入して曝露させるためのガス検知部挿入手段4とを備えている水素ガスセンサー用校正装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスセンサー用校正装置、詳しくは、密閉容器内で液体と水素ガス発生反応剤とを接触させて液体の上方に形成させた水素ガス層に、棒状の水素ガスセンサーの先端のガス検知部を曝露させることにより校正する水素ガスセンサー用校正装置、及びそれを用いる水素ガスセンサーの校正方法である。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサーは、その動作確認のため、濃度既知の校正ガスを用いて、ガスセンサーのガス濃度指示値を、例えば、1回/月等の定期的、あるいは随時に校正する必要がある。
従来、先端にガス検知部を有する棒状の水素ガスセンサーを校正にするには、校正ガスとして、一般にガスボンベに充填された純粋水素ガスが用いられている。
そして、その校正方法としては、例えば、内部に水素ガスセンサーを配置した容器内の空気を、ガスボンベから減圧弁を介して送給した純粋水素ガスで完全に置換し、次いで、水素ガスセンサーの水素ガス濃度指示値が安定するのを待って最大水素ガス濃度指示値(100%)を校正する等の方法が採用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来の水素ガスセンサーの校正方法では、ガスボンベや減圧弁を必要とするばかりでなく、校正に際しては、かなり多量の水素ガスを使用するため、引火や爆発等の危険が伴う等安全性にも問題がある。
【0004】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、先端にガス検知部を有する棒状の水素ガスセンサーの校正に用いる水素ガスを容易に調製すると共に、この水素ガスを使用して水素ガスセンサーを安全、かつ、簡便に校正し得る水素ガスセンサー用校正装置、及びそれを用いる水素ガスセンサーの校正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、校正用の水素ガスの発生に関与する液体を充満させた密閉容器内で、この液体と水素ガス発生剤とを接触させて水素ガスを発生させることにより、液体の上方に水素ガス層として容易に調製し得ること、そして、この水素ガス層に棒状の水素ガスセンサーの先端のガス検知部を空気無混入で挿入して曝露させることにより、水素ガスセンサーを安全、かつ、簡便に校正し得ること等の新知見を得、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の水素ガスセンサー用校正装置は、先端にガス検知部を有する棒状の水素ガスセンサーの校正に用いる水素ガスを、この水素ガスの発生に関与する液体を充満させた密閉容器内で、水素ガス発生剤の存在下で発生させて上記液体の上方に上記水素ガス層を形成させ、この水素ガス層に上記ガス検知部を曝露させることにより校正する水素ガスセンサー用校正装置であって、
上記密閉容器は、発生する上記水素ガスの圧力を大気圧にするための管で、上記密閉容器内外に貫通し、一方の端部が上記液体中に開口し、他方の端部が大気中に開口する液体排出管と、上記液体の上方に形成される上記水素ガス層に接する上記密閉容器の周面部に、上記ガス検知部を上記水素ガス層に空気無混入で挿入して曝露させるためのガス検知部挿入手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の水素ガスセンサー用校正装置の好適形態は、上記密閉容器の周面部に、上記水素ガス発生剤を上記液体中に空気無混入で挿入して添加する水素ガス発生剤挿入手段を備えることを特徴とする。
【0008】
更に、本発明の水素ガスセンサー用校正装置の他の好適形態は、上記水素ガス発生剤が水溶性カプセルに内包されて用いられることを特徴とする。
【0009】
そしてまた、本発明の水素ガスセンサー用校正装置の更に他の好適形態は、上記棒状の水素ガスセンサーが隔膜式水素ガスセンサー又は半導体式水素ガスセンサーであることを特徴とする。
【0010】
更にまた、本発明の水素ガスセンサー用校正装置の別の好適形態は、上記液体が水、上記水素ガス発生剤が水素化リチウムであることを特徴とする。
【0011】
本発明の水素ガスセンサーの校正方法は、上記水素ガスセンサー用校正装置を用いて、先端にガス検知部を有する棒状の水素ガスセンサーを校正する方法であって、
(a)上記液体を充満させた上記密閉容器内で、上記液体と上記水素ガス発生剤とを接触させて上記水素ガスを発生させ、上記液体の上方に上記水素ガス層を形成させる工程、
(b)工程(a)で形成された上記水素ガス層に、上記ガス検知部を上記ガス検知部挿入手段により空気無混入で挿入して曝露させ、安定した水素ガス濃度指示値を確認する工程、
(c)工程(b)で確認された上記水素ガス濃度指示値を水素ガス濃度値に設定して校正する工程
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、校正用の水素ガスの発生に関与する液体を充満させた密閉容器内で、この液体と水素ガス発生剤とを接触、反応させて比較的少量の水素ガスを発生させること等としたため、液体の上方にガス層として水素ガスを容易に調製でき、そして、この水素ガス層に棒状の水素ガスセンサーの先端のガス検知部を空気無混入で挿入して曝露させること等としたため、水素ガスセンサーを安全、かつ、簡便に校正し得る水素ガスセンサー用校正装置、及びそれを用いる水素ガスセンサーの校正方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
先ず、本発明の水素ガスセンサー用校正装置(以下、単に「校正装置」ということもある。)は、先端にガス検知部を有する棒状の水素ガスセンサーを校正、すなわち、水素ガス濃度指示値を校正するために使用される。
上記棒状の水素ガスセンサーとしては、例えば、そのガス検知部にガス透過性膜(例えば、合成樹脂製(例:4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合樹脂、シリコン樹脂等)のもの等)を用いる隔膜式水素ガスセンサーや半導体を用いる半導体式水素ガスセンサー等が挙げられる。
【0015】
上記密閉容器としては、開口容器と蓋体とからなるもの、一体成型のもの等、特に制限されないが、液体の充満、後記する液体中に脱落させる封止部材等の回収等の観点から、開口容器と蓋体とからなるものが好適である。この場合、開口容器と蓋体とは、水密性及び気密性を保つべく、パッキン等を介するかしないで、嵌合、螺合、フランジ等により連結される。
密閉容器の形状についても、特に制限されないが、例えば、水平断面が円形、楕円形、正方形、長方形のもの等、上部(蓋体等)が平面、円錐形状等、適宜のものが選択される。
上部が円錐形状の密閉容器等では、円錐の先端に後記するガス検知部挿入手段を設けるのが、好適である。この態様の場合、液体の充満時には、ガス検知部挿入手段のガイドの開口より液体を溢流させることで空気混入が防止でき、また、水素ガスの発生時には、その中央部のガス層の厚さが大となるので、ガス検知部の挿入がより容易になる等の利点がある。
更に、密閉容器の容量についても、特に限定されないが、通常は、例えば、5〜1,000ml等が好適である。
【0016】
また、密閉容器の材料についても、特に限定されないが、例えば、ガラス、合成樹脂、セラミック、ステンレス鋼等、適宜のものが選択、使用される。蓋体としては、密栓等を用いることもできるが、この場合には、弾力性のある合成樹脂(例:シリコン樹脂等)等が好適に採用され得る。
密閉容器は、上記したごとく、耐圧性を要せず、また、必要により、密閉容器内を目視できるよう、透明な材料を使用したり、側面に透明なスリット部を設けたり等することもできる。
【0017】
校正用の水素ガスの発生に関与する液体については、用いられる水素ガス発生剤を考慮して選択、使用される。例えば、水素化リチウム(LiH)、水素化カルシウム(CaH)、水素化マグネシウム(MgH)等のときには、液体として、水が使用される。また、上記水素ガス発生剤の中でも、反応が比較的緩やかな水素化リチウムが取り扱い上好適である。
【0018】
次に、本発明の校正装置において、上記密閉容器は、その内外に貫通する管で、一方の端部が液体中に開口し、他方の端部が大気中に開口する液体排出管と、形成される水素ガス層に接する密閉容器の周面部、例えば、上部、側面上部等に、ガス検知部を水素ガス層に空気無混入で挿入するためのガス検知部挿入手段とを備えている。
【0019】
そもそも、水素ガスセンサーによる水素ガス濃度計測は、大気圧の気相中の水素分圧に比例した電流又は電圧の出力として信号を取り出すことにより行われるものである。
上記液体排出管は、密閉容器内で形成される水素ガス層の圧力を大気圧にする機能を有している。すなわち、上記密閉容器内では、水素ガスの発生に伴って、水素ガスの一部が液体中に溶解し、未溶解の水素ガスが液体の上方に水素ガス層を形成することになるが、上記液体排出管を設けておけば、水素ガス層の圧力上昇時には、液体が自動的に大気中に排出され、水素ガス層の圧力が大気圧に保たれる。
なお、上記水素ガス層は、水素ガスを主成分とする気相を意味する。
また、本発明において、密閉容器とは、上記のごとく、液体排出管での液封による実質的密閉容器を意味する。
【0020】
上記ガス検知部挿入手段については、ガス検知部の挿入の際には空気無混入が確保でき、また、液体の充満状態では水密性が、水素ガス発生状態では気密性が保てる機能を有するものであれば、特に制限されない。
その具体例としては、形成される水素ガス層に接する密閉容器の周面部に設けられた筒状のガイドと、これに水密及び気密に嵌合する封止部材と、ガス検知部の挿入時には、その先端部が封止部材の背面(上面等)に密着して配され、ガイドに気密に嵌合して先端のガス検知部を水素ガス層方向に滑動させる棒状の水素ガスセンサーとからなるもの等が挙げられる。
なお、棒状の水素ガスセンサーの先端部は通常ほぼ平面であって、封止部材の背面に密着して配されたとき、空気が占める空間は極少である。
また、ガイドと封止部材や水素ガスセンサーとの嵌合による水密性及び気密性を保つために、必要によりガイドの内面等にOリング等のパッキン等が装着される。
更に、水素ガスセンサーは、一般に円柱状のものであるので、この場合には、ガイドは円筒状にすればよい。
【0021】
次に、上記構成からなる校正装置を使用するに際しては、先ず、密閉容器内に水素ガスの発生に関与する液体を充満させる、すなわち、液体を密閉容器に空気無混入で満たす。
液体の充満方法としては、例えば、
(1)上部が円錐形状で、その先端にガス検知部挿入手段を設けた密閉容器等では、ガス検知部挿入手段のガイドの開口から液体を充填し、溢流するのを待って封止部材を嵌合する方法
(2)開口容器を液体で満杯にした後、平厚板状の蓋体を容器の開口に押し込み嵌合してガス検知部挿入手段のガイドの開口等から液体を溢流させ、その後封止部材を嵌合する方法
等が挙げられる。
なお、密閉容器上部のガイドの開口から液体が溢流するのを待って充填を停止するような場合には、充填を停止しても開口が封止されるまでは液面が低下しないように、液体排出管3の頂部の位置が、ガイドの開口の位置より高所になるように設けられる。
【0022】
水素ガスは、上記のごとく、液体を充満させた密閉容器内で、水素ガス発生剤の存在下で発生させるが、このときの水素ガス発生剤の挿入、添加態様としては、次のようなものが例示される。
(1)ガス検知部挿入手段が密閉容器の上部にある場合では、そのガイドの開口から液体を充満させた後に添加し、直ちに開口を封止する方法:
このとき、水素ガス発生剤は、水溶性カプセルやオブラート等に内包して、あるいは、反応速度が小のものはそのままで、添加される。
なお、水素ガス発生剤は、液体と直ちに反応を開始するので、その挿入、添加操作をより容易にするために、上記のごとく、水溶性カプセルに内包して液体との接触、反応開始にタイムラグを設ける等の方法が有効に用いられる。
(2)後記する水素ガス発生剤挿入手段により空気無混入で投入する方法:
この場合、水素ガス発生剤は、水溶性カプセルやオブラート等に内包して、あるいは、そのままで水素ガス発生剤挿入手段の先端の支持部に支持される。
【0023】
上記水素ガス発生剤は、小粒、粉末等で用いられ、水溶性カプセル等に内包する場合には、実質的に空気無混入とすべく蜜に充填される。このときの水溶性カプセルは、大きさ(容量)が、通常0.1〜0.5mlのものが用いられる。
また、水溶性カプセルとしては、日本薬局方ゼラチンやとうもろこしでんぷん等を原料にした市販品等が有効に使用される。
更に、オブラートとしては、でんぷん等を原料にした市販品等が用いられる。
このようにして、密閉容器内で液体と水素ガス発生剤が接触、反応することよって、水素ガスが発生して液体の上方に水素ガス層が形成され、そして、この時、液体が自動的に液体排出管を介して大気中に放出され、水素ガス層の圧力は大気圧に保持される。
【0024】
水素ガス層の形成が完了すると、この水素ガス層に上記ガス検知部挿入手段によりガス検知部を空気無混入で挿入して曝露させる。
すなわち、上記例示のガス検知部挿入手段では、先ず、水素ガスセンサーの先端部で筒状のガイドの開口の封止部材の背面を押し水素ガス層方向に滑動させて封止部材を液体中に脱落させ、更に続けて、水素ガスセンサーを気密性を保ちつつ滑動させてガス検知部を水素ガス層に暴露させる。
そして このときの水素ガスセンサーの安定したガス濃度指示値が、後記するように、この水素ガス層の水素ガス濃度値に設定(調整)され、校正されることになる。
なお、ガス検知部は、校正時には、液体に接触して表面に液体層膜が形成されると、正確な校正が困難になるため、液体に接触させることなく、水素ガス層、いわゆるドライガスに曝露させるようにする。
【0025】
上記水素ガス発生剤挿入手段については、水素ガス発生剤を空気無混入で液体中に挿入、添加できる手段であれば特に制限されない。
その具体例としては、密閉容器の周面部(例えば、上部、側面上部等)に設けられた筒状のガイドと、これに水密及び気密に嵌合する封止部材と、水素ガス発生剤の挿入時には、その先端部が封止部材の背面(上面等)に密着して配され、ガイドに水密及び気密に嵌合して先端の水素ガス発生剤の支持部を液体方向に滑動させる棒状の支持部材とからなるもの等が挙げられる。
【0026】
水素ガス発生剤の支持方法については、特に制限されず、液体との接触、反応が確保される適宜の方法が採用されるが、例えば、上記支持部材の先端に水溶性カプセル等が挿嵌できる水平の貫通孔(その先端側に孔に沿ってスリットを有する垂直断面が逆U字状のもの等)を設ける等すればよい。
また、棒状の支持部材の先端部の形状等は、封止部材の背面に密着して配されたとき、空気が占める空間を極少にすべく、例えば、平面にするのが好ましい。
なお、上記筒状のガイドと封止部材や棒状の支持部材との嵌合による水密性及び気密性を保つために、必要によりOリング等のパッキン等が用いられる。
また、支持部材の材料については、特に制限されないが、例えば、合成樹脂、ステンレス鋼、ガラス等、適宜のものが選択、使用される。
【0027】
上記水素ガス発生剤挿入手段の例の使用方法は、先ず、支持部材の先端部で筒状のガイドの開口の封止部材の背面を押し液体方向に滑動させて封止部材を液体中に脱落させ、更に続けて、支持部材を水密性を保ちつつ滑動させて水素ガス発生剤の支持部を液体中に挿入する。
このとき、挿入された水素ガス発生剤が水素ガスの発生時に水素ガス層に留まることなく、液体との接触、反応が終了する迄液体中にあるよう、支持部の挿入位置等が考慮される。
【0028】
上記水素ガス発生剤挿入手段の例は、棒状の水素ガスセンサーの代わりに棒状の支持部材とする以外は、上記ガス検知部挿入手段の例と同様の構成を有することから、ガス検知部挿入手段の一部を水素ガス発生剤挿入手段の一部として兼用することもできる。
例えば、水素ガス発生剤の挿入時には、ガス検知部のガイドの開口に嵌合する封止部材の背面を支持部材の先端部で押し液体方向に滑動させて封止部材を液体中に脱落させ、更に続けて、支持部材を水密性を保ちつつ滑動させ、また更に続けて、支持部材の端面をガイドに嵌合する付加した別の封止部材で押して支持部材全体を液体中に脱落させ、そして、ガイドの開口は、この別の封止部材により水密及び気密に封止される。
更に、ガス検知部の挿入時には、上記別の封止部材の背面を水素ガスセンサーの先端部で押す等同様の操作をして、ガス検知部を水素ガス層に曝露させればよい。
【0029】
次に、本発明の水素ガスセンサー用校正装置を用いて棒状の水素ガスセンサーを校正する方法について説明する。
先ず、工程(a)は、上記液体を充満させた上記密閉容器内で、液体と水素ガス発生剤とを接触させて上記水素ガスを発生させ、液体の上方に水素ガス層を形成させる工程である。
この工程(a)において、発生させる水素ガス量は、特に制限されず、校正に必要、かつ、十分な量であればよいが、通常は1〜300mlの少量であり、危険性も軽減される。
このことから、液体量及び水素ガス発生剤の量は、特に限定されず、発生する水素ガスの液体への若干の溶解等を考慮しても、通常、液体は5〜1,000ml、水素ガス発生剤は1〜1,000mgである。
接触、反応時の液体温度についても、特に限定されず、通常は、5〜35℃である。
【0030】
工程(b)は、上記工程(a)で形成された水素ガス層にガス検知部を上記ガス検知部挿入手段により、空気無混入で挿入して曝露させ、安定した水素ガス濃度指示値を確認する工程である。
この安定した水素ガス濃度指示値は、挿入後、通常、10秒〜2分で電流又は電圧の出力値として確認される。
【0031】
工程(c)は、上記工程(b)で確認された水素ガス濃度指示値を水素ガス濃度値に設定して校正する工程である。
このときの水素ガス層の水素ガス濃度値については、次に例示するごとくして算出することができる。
【0032】
A.液体が水、水素ガス発生剤が水素化リチウムの場合:
ここで、
密閉容器の内容量 :V(l)
反応開始時の水の温度 :T(℃)
反応終了時の水の温度 :T’(℃)
LiH(水素化リチウム)重量 :W(g)
T(℃)における空気吹き込み時の酸素の飽和溶解度:f(T)(mg/l)
T(℃)における空気吹き込み時の窒素の飽和溶解度:f(T)(mg/l)
T’(℃)における水素の飽和溶解度 :f(T)(mg/l)
T’(℃)における水蒸気圧 :f(T)(mmHg)
とした場合、
1.LiHのW(g)が水と反応して発生する水素量は、
LiH+HO→LiOH+H(Liの分子量:7.95)
の化学反応式から、
2(g)×W/7.95≒0.252W(g)=252W(mg) (1)
2.発生した水素のうち、密閉容器内の水に溶解する水素量は、
(T’)×V(mg) (2)
であるから、密閉容器内の水の上部に溜まる水素量は、式(1)と式(2)とから、
252W−f(T’)×V(mg) (3)
となる。
これを容積に換算すると、
{(252W−V(T’))/2000}×22400=2822.4W−11.2Vf(T’)(ml) (4)
【0033】
3.水V(l)に溶解していた酸素及び窒素が完全に追い出されたときのそれぞれの容積は、
(T)×V×{22400/(32×1000)}=0.70Vf(T)(ml) (5)
(T)×V×{22400/(28×1000)}=0.80Vf(T)(ml) (6)
4.水素、酸素及び窒素の混合ガス(水素ガス層)の容積中の水蒸気容積(ml)は、近似的に式(4)〜(6)から、
(2822.4W−11.2Vf(T’)+0.70Vf(T)+0.80Vf(T))×(f(T’)/760)(ml) (7)
5.従って、水素ガス層の水素ガス濃度(純度)(%)は、式(4)と式(7)とから、
[(2822.4W−11.2Vf(T’))/{(2822.4W−11.2Vf(T’)+0.70Vf(T)+0.80Vf(T))×(1+f(T’)/760)}]×100 (8)
となる。
なお、反応開始時の水の温度Tにおけるf(T)及びf(T)、並びに反応終了時の水の温度(T’)におけるf(T’)は、Bunsen吸収係数(例えば、日本化学会編、「化学便覧基礎編II 改訂3版」、丸善株式会社、昭和59年6月25日、p.158等に記載されている。)から算出される。
また、反応終了時の水の温度(T’)におけるf(T’)は、例えば、上記「化学便覧基礎編II 改訂3版」、p.117等に記載されている。
そして、例えば、T=15、20、25の場合、及びT’=15、20、25の場合では、それぞれの値は[表1]及び[表2]に示すとおりである。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
6.次に、式(8)を用いて、水素ガス濃度(純度)(%)を算出した例を示す。
なお、f(T)及びf(T)は表1を、また、f(T’)及びf(T’)は、表2を参照する。
1)密閉容器内の水の上部に水素ガス層が形成される条件として、式(4)から、
2822.4W−11.2Vf(T’) >0
を満たす必要がある。
すなわち、
V=0.131(=130ml)の場合では、
T’=15(℃)のとき:2822.4W−11.2×0.13×1.68>0
∴W>8.7×10−4(g)
T’=20のとき:2822.4W−11.2×0.13×1.63>0
∴W>8.4×10−4(g)
T’=25のとき:2822.4W−11.2×0.13×1.56>0
∴W>8.0×10−4(g)
2)水素ガス濃度(%)の算出例(式(8)に各値を代入して算出)
V=0.131(=130ml)、W=0.02g(=20mg)の場合、
(水と水素化リチウムとの反応では、反応開始時の水の温度(T)と反応終了時の水の温度(T’)とは実質的に同じである。)
水素ガス濃度(%)は、
T=15(℃)で、T’が15(℃)のとき、93.8%
T=20で、T’が20のとき、93.6%
T=25で、T’が25のとき、93.1%
となる。
【0037】
このようにして求められた水素ガス濃度値が水素ガスセンサーの水素ガス濃度指示値としてを設定(調整)されることにより、棒状の水素ガスセンサーが安全、かつ、簡便に校正される。
なお、実施例において使用例として示すごとく、本発明の校正装置を用い、一旦、ある一定の条件下で形成させた水素ガス層に、濃度100%の水素ガスによる常法で校正した水素ガスセンサーをガス検知部挿入手段により挿入して水素ガス濃度を測定して求めておき、その後の校正においては、上記と同一の条件下で水素ガスの発生、操作等を行うこととし、そのときの水素ガス濃度を先に求めた値として校正することもできる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を図面を参照しつつ、実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
図1は、本発明の水素ガスセンサー用校正装置の一実施例を示す概略断面図及び上面図であり、図2は、図1のガス検知部挿入手段の一実施例を示す概略断面図である。
図1において、水素ガスセンサー用校正装置1は、水平断面が円形の開口容器2aの開口周縁部に円錐形状の蓋体2bの下部の周縁部がOリング等(図示せず)を介して水密及び気密に嵌合された密閉容器2と、蓋体2bの一部を内外に貫通する管で、一方の端部が液体(図示せず)下部に開口し、他方の端部が大気中に開口する液体排出管3と、蓋体2bの頂部に設けられたガス検知部挿入手段4とを備えている。
なお、このとき、液体排出管3の頂部の位置は、後記のガス検知部挿入手段4のガイド4aの開口の位置より高所にあって、液体の充填時にガイド4aの開口からの溢流を待って充填を停止しても、開口が封止されるまでは液面が低下しないようになっている。
【0040】
図2において、ガス検知部挿入手段4は、内面にOリング4dを配した円筒状のガイド4aと、これに水密及び気密に嵌合する封止部材4bと、先端部が封止部材4bの背面に当接する水平断面が円形の水素ガスセンサー4cとを備えている。
そして、水素ガスセンサー4cは、その先端部で封止部材4bの背面を下方に押して滑動させた際に、ガイド4aにOリング4dを介して気密に嵌合されることになる。
なお、6は、リード線である。
【0041】
次に、水素ガスセンサー用校正装置1を用いる隔膜式水素ガスセンサーの校正方法につき、使用例として説明する。
(使用例)
先ず、密閉容器2(全容量130ml)上部のガス検知部挿入手段4におけるガイド4aの開口から液体として水を充填し、溢流を待って密閉容器2内に水を充満させた。
次いで、あらかじめ市販のゼラチン製カプセルに密に充填、内包した水素ガス発生剤(水素化リチウム粉末20mg)(図示せず)をガイド4aの開口より液体中に入れ、直ちに封止部材4bを水面を押すようにして嵌合し、封止した。これらの操作により、密閉容器内に空気無混入で水を充満させ、また、水素ガス発生剤を空気無混入で添加した。
密閉容器2内のカプセルは、水との接触後徐々に解け始め(接触後約1分)、その後、時間の経過と共に水素ガスが発生して液体排出管3より水が排出され、水の上方に水素ガス層(圧力は大気圧)が形成された(水素ガス発生反応は約10分で終了、水素ガス層は約50ml(液体排出管から排出された水量で計測))。
このようにして、校正用の水素ガスを容易に調製することができる。
【0042】
水素ガス層が形成された後、直ちにガス検知部挿入手段4により、水素ガスセンサー4cの先端のガス検知部4c1を水素ガス層に曝露させた。すなわち、水素ガスセンサー4cの先端部で封止部材4bの背面を押し下方に滑動させて封止部材4bを水中に脱落させ、更に続けて、水素ガスセンサー4cを気密性を保ちつつ滑動させてガス検知部4c1を水素ガス層に曝露させた。このようにして、ガス検知部4c1は空気無混入で水素ガス層に挿入される。
そして、水素ガスセンサー4cの水素ガス濃度指示値が安定するのを待ち(挿入後1分間)、その値が電流の出力値(0.610μA)として確認された。
【0043】
この場合の反応開始時の水の温度(T)は25℃、また、反応終了時の水の温度(T’)(安定した水素ガス濃度指示値を確認後、ガイド4aの開口より測定)も25℃であった。
このときの水素ガス層の水素ガス濃度値は、上記計算例に示したごとく、T及びT’が25℃では93.1%であるので、水素ガスセンサー4cの水素ガス濃度指示値がその値に設定(調整)され、校正された。
このようにして、水素ガスセンサー4cは、安全、かつ、簡便に校正することができる。
【0044】
一方、上記の水素ガスセンサー4cにつき、濃度100%の水素ガスによる常法で校正したときの電流の出力値(0.655μA)を別に求めておき、これらの値から水素ガス濃度値を求めた。その結果、上記水素ガス層の水素ガス濃度値は、(0.610/0.655)×100=93.1%であった。
このように、上記水素ガス濃度の計算値と実測値とはよく一致していることが分かる。
【0045】
(実施例2)
図3は、本発明の水素ガスセンサー用校正装置の他の実施例を示す概略断面図及び上面図であり、第4図は、図3の水素ガスセンサー用校正装置における水素ガス発生剤挿入手段及びガス検知部挿入手段の一実施例を示す概略断面図である。
図3において、水素ガスセンサー用校正装置11は、水平断面が円形の開口容器12aの開口に円盤状の蓋体12b(例:シリコンゴム製の密栓等)が水密及び気密に嵌合された密閉容器12と、蓋体12bを上下に貫通する管で、一方の端部が液体下部に開口し、他方の端部が大気中に開口する液体排出管13と、蓋体12bに設けられた水素ガス発生剤挿入手段15及びガス検知部挿入手段14とを備えている。
【0046】
図4において、水素ガス発生剤挿入手段15は、蓋体12bの上下方向に貫通して穿設された水平断面が円形のガイド15aと、これに水密及び気密に嵌合する封止部材15b(例:シリコンゴム製等)と、先端部が封止部材15bの背面に当接しガイド15aに水密及び気密に嵌合する支持部材15cとを備えている。
そして、支持部材15cの先端には、水平の貫通孔15c1(先端側に孔に沿ってスリットを有する垂直断面が逆U字状のもの)が設けられ、これに水溶性カブセル等に内包する等した水素ガス発生剤が挿嵌、支持されている。
【0047】
ガス検知部挿入手段14は、ガイド4aの代わりに蓋体12bに穿設された水平断面が円形のガイド14aとする以外は、実施例1に記載したと同様にして構成されている。
そして、実施例1に記載したと同様にして、ガス検知部挿入手段14により、棒状の水素ガスセンサー14cのガス検知部14c1を水素ガス層に空気無混入で挿入することができる。
なお、ガイド14a、15aがシリコンゴム等の弾性体の場合には、特にパッキン等を介することなく、水密性及び水密性は保たれる。
また、16は、リード線である。
【0048】
次に、水素ガスセンサー用校正装置11を用いる隔膜式水素ガスセンサーの校正方法につき、使用例として説明する。
(使用例)
先ず、開口容器12aに液体として水を満たし、次いで、蓋体12bのシリコンゴム製密栓に設けられた水素ガス発生剤挿入手段15及びガス検知部挿入手段14のそれぞれの封止部材15b、14bが封止状態のまま、密栓を開口容器12aの開口に深く嵌合させ、密閉容器12(液体全容量130ml)内に水を充満させた(空気無混入)。
【0049】
次いで、水素ガス発生剤挿入手段15により、水中に水素ガス発生剤として水素化リチウム20mgが挿入、添加された。すなわち、先端の支持部に水素化リチウムを密に充填、内包した市販のゼラチン製カプセルが支持された支持部材15cの先端部で封止部材15bの背面を押し下方に滑動させて封止部材15bを水中に脱落させ、更に続けて、支持部材15cを気密性を保ちつつ滑動させてカプセルを水中に深く挿入した。
密閉容器12内のカプセルは、水との接触後解け初め、その後、時間の経過と共に水素ガスが発生し、液体排出管13より水が排出され、水の上方に水素ガス層が形成された。
このようにして、校正用の水素ガスを容易に調製することができる。
【0050】
続いて、ガス検知部挿入手段14により、棒状の水素ガスセンサー14cの先端のガス検知部14c1を水素ガス層に曝露させた。すなわち、水素ガスセンサー14cの先端部で封止部材14bの背面を押し下方に滑動させて水中に脱落させ、更に続けて、水素ガスセンサー14cを気密性を保ちつつ滑動させてガス検知部14c1を水素ガス層に曝露させた。このようにして、ガス検知部14c1は空気無混入で水素ガス層に挿入される。
そして、水素ガスセンサー14cのガス濃度指示値が安定するのを待ち、その値が電流の出力値として確認された。
【0051】
この場合の反応開始時の水の温度(T)及び反応終了時の水の温度(T’)は、いずれも20℃であった。
このときの水素ガス濃度値は、上記計算例に示すごとく、T及びT’が20℃では93.6%であるので、水素ガスセンサー14cの水素ガス濃度指示値がその値に設定(調整)され、校正された。
このようにして、水素ガスセンサー14cは、安全、かつ、簡便に校正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】は、本発明の水素ガスセンサー用校正装置の一実施例を示す概略断面図及び上面図である。
【図2】は、図1におけるガス検知部挿入手段の一実施例を示す概略断面図である。
【図3】は、本発明の水素ガスセンサー用校正装置の他の実施例を示す概略断面図及び上面図である。
【図4】は、図3における水素ガス発生剤挿入手段及びガス検知部挿入手段の一実施例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1、11 水素ガスセンサー用校正装置
2、12 密閉容器
2a、12a 開口容器
2b、12b 蓋体
3、13 液体排出管
4、14 ガス検知部挿入手段
4a、14a ガイド
4b 14b 封止部材
4c、14c 水素ガスセンサー
4c1、14c1 ガス検知部
4d Oリング
6、16 リード線
15 水素ガス発生剤挿入手段
15a ガイド
15b 封止部材
15c 支持部材
15c1 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にガス検知部を有する棒状の水素ガスセンサーの校正に用いる水素ガスを、この水素ガスの発生に関与する液体を充満させた密閉容器内で、水素ガス発生剤の存在下で発生させて上記液体の上方に水素ガス層を形成させ、この水素ガス層に上記ガス検知部を曝露させることにより校正する水素ガスセンサー用校正装置であって、
上記密閉容器は、
発生する上記水素ガスの圧力を大気圧にするための管で、上記密閉容器内外に貫通し、一方の端部が上記液体中に開口し、他方の端部が大気中に開口する液体排出管と、
上記液体の上方に形成される上記水素ガス層に接する上記密閉容器の周面部に、上記ガス検知部を上記水素ガス層に空気無混入で挿入して曝露させるためのガス検知部挿入手段とを備えることを特徴とする水素ガスセンサー用校正装置。
【請求項2】
上記密閉容器の周面部に、上記水素ガス発生剤を上記液体中に空気無混入で挿入して添加する水素ガス発生剤挿入手段を備えることを特徴とする請求項1記載の水素ガスセンサー用校正装置。
【請求項3】
上記水素ガス発生剤が水溶性カプセルに内包されて用いられることを特徴とする請求項1又は2記載の水素ガスセンサー用校正装置。
【請求項4】
上記棒状の水素ガスセンサーが隔膜式水素ガスセンサー又は半導体式水素ガスセンサーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素ガスセンサー用校正装置。
【請求項5】
上記液体が水、上記水素ガス発生剤が水素化リチウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水素ガスセンサー用校正装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素ガスセンサー用校正装置を用いて、先端にガス検知部を有する棒状の水素ガスセンサーを校正する方法であって、
(a)上記液体を充満させた上記密閉容器内で、上記液体と上記水素ガス発生剤とを接触させて上記水素ガスを発生させ、上記液体の上方に上記水素ガス層を形成させる工程、
(b)工程(a)で形成された上記水素ガス層に、上記ガス検知部を上記ガス検知部挿入手段により空気無混入で挿入して曝露させ、安定した水素ガス濃度指示値を確認する工程、
(c)工程(b)で確認された上記水素ガス濃度指示値を水素ガス濃度値に設定して校正する工程
を含むことを特徴とする水素ガスセンサーの校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−224643(P2008−224643A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102174(P2007−102174)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(591101490)エイブル株式会社 (21)
【Fターム(参考)】