説明

水素センサ

【課題】水素検知感度と耐久性に優れた水素を提供する。
【解決手段】基板上に形成された薄膜と、薄膜上に形成され雰囲気中に含まれる水素ガスに触れると薄膜を水素化して薄膜の光学的反射率を変化させる触媒膜を有する水素センサにおいて、さらに触媒膜上に撥水層と撥水性保護膜の双方またはいずれか一方を設けて、撥水層等の撥水作用等で雰囲気中の水分が触媒膜に吸収されないようにする。さらに触媒膜と撥水性保護膜との間に触媒膜の酸化を防ぐ酸化防止膜を設ければ、触媒膜の酸化をより効果的に防ぐことができる。さらに基板と薄膜との間に薄膜を酸化から保護する基板側保護膜を設ければ、薄膜の酸化をより効果的に防ぐことができる。触媒膜の酸化の原因は殆どが雰囲気中の水分だから、撥水層等によって水分阻止に優れた本発明に係る水素センサは、酸化防止膜等を薄くして水素検知感度の低下を防ぎつつ耐久性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気中の水素ガスを検出するための水素センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の排出を防止するため、水素がエネルギー源として注目されている。しかし、水素ガスは、雰囲気中に漏れると爆発するおそれがあるため、漏洩水素ガスを速やかに検出できる水素センサの開発が進められている。こうした水素センサとして酸化スズを用いた半導体センサが開発されたが、動作温度が摂氏400度程度と高温であるため、防爆を考慮しなければならない。したがって、上記半導体センサを用いた漏洩水素ガス検知装置は、防爆を要し、構成が複雑になってしまう。
【0003】
そこで、ガラスやアクリル樹脂等の基板の表面にマグネシウム・ニッケル合金等の薄膜を形成し、この薄膜をパラジウム等の触媒膜の作用で速やかに水素化する(薄膜の物性を変化させる)水素センサが開発された(例えば特許文献1)。この水素センサは、薄膜の水素化にともなう光学的反射率(以下、「反射率」と表示することがある)の変化を検知することで、雰囲気中の漏洩水素ガスを検出することができ、また薄膜が常温で可逆的に水素化するため、漏洩水素ガスを安全かつ迅速に検出することができるという特徴を有している。
【0004】
しかし、雰囲気に触れる触媒膜が雰囲気中の水分や酸素等を吸収すると、触媒膜が酸化して触媒作用が低下し、さらに薄膜(例えばマグネシウム系合金で形成された薄膜)が酸化して、水素センサが劣化するおそれがある。そこで、触媒膜の表面にシリコン系化合物等からなる酸化防止膜を形成して、触媒膜が水分等を吸収しないようにすることが考えられる。さらに、ガラスやアクリルの基板を有する水素センサでは、僅かながら吸湿性を有する基板が雰囲気中から吸収等した水分や酸素等で、薄膜が酸化するおそれがある。そこで、基板と薄膜との間にシリコン系化合物等からなる基板側保護膜を形成して、基板が吸収等した水分等から薄膜を保護することが考えられる。
【0005】
しかしながら上記水素センサは、雰囲気中の漏洩水素ガスに触れた触媒膜の触媒の作用で薄膜を水素化するものであるため、酸化防止膜を厚くすると水素検知感度が低下する。すなわち、水素センサの耐久性(酸化防止膜の厚さ)と水素検知感度との間には、相反する関係が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−83832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであって、酸化防止膜を形成することなく、あるいは酸化防止膜を設ける場合であっても、薄い酸化防止膜で、触媒膜や薄膜による水分等の吸収を少なくでき(若しくは防止でき)、耐久性が高い水素センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、請求項1の発明では、基板と、前記基板上に形成された薄膜と、前記薄膜の表面に形成され雰囲気中に含まれる水素ガスに触れると前記薄膜を水素化して前記薄膜の光学的反射率を変化させる触媒膜を有する水素センサにおいて、前記触媒膜上に形成された高分子ポリマー又は金属からなる撥水性保護膜を有することを特徴とする水素センサを提供する。
【0009】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、前記撥水性保護膜上に、撥水層が形成されていることを特徴としている。
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、前記撥水性保護膜がフッ素系ポリマーからなり、前記撥水層がフッ素系パウダーからなることを特徴としている。
請求項4の発明では、請求項1〜3のいずれかの発明において、前記触媒膜の表面に形成されて前記触媒膜の酸化を防止する酸化防止膜を有することを特徴としている。
【0010】
請求項5の発明では、請求項1〜4のいずれかの発明において、前記基板の表面に形成されて前記薄膜を酸化から保護する基板側保護膜を有し、前記薄膜が前記基板側保護膜の表面に形成されたものであることを特徴としている。
請求項6の発明では、請求項1〜5のいずれかの発明において、前記薄膜がマグネシウム・ニッケル合金、マグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・マンガン合金、マグネシウム・コバルト合金若しくはマグネシウムで形成され、前記触媒膜がパラジウムもしくは白金を有して形成されたものであることを特徴としている。
【0011】
請求項7の発明では、請求項1〜6の発明において、前記酸化防止膜がシリコン系化合物であることを特徴としている。
請求項8の発明では、請求項1〜7のいずれかの発明において、前記基板側保護膜がシリコン系化合物であることを特徴としている。
請求項9の発明では、請求項1〜8のいずれかの発明において、前記酸化防止膜の厚さが1nm〜200nmであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、触媒膜上に高分子ポリマー又は金属からなる撥水性保護膜が形成されるため、雰囲気中の酸素等をある程度遮断することができ、触媒膜による酸素の吸収を抑制することができる。
請求項2の発明によれば、撥水性保護膜上に、撥水層が形成されるため、雰囲気中の水分が撥水性保護膜に達することを防ぐことができ、仮に雰囲気中の水分が撥水性保護膜に達したとしても、撥水性保護膜が水分を阻止するから、触媒膜に夜酸素の吸収をさらに抑制することができる。こうして撥水層と撥水性保護膜は、撥水作用を有さない酸化防止膜よりも効果的に水分の吸収を防ぎ、また撥水性保護膜が触媒膜による酸素の吸収を阻止するから、該水素センサは、酸化防止膜のみで触媒膜を保護する場合よりも、効果的に水分および酸素等の吸収を防ぐことができ、また薄い撥水性保護膜を用いて水素検知感度低下を少なくできる。
【0013】
請求項3の発明によれば、撥水性保護膜をフッ素系ポリマー(例えばテフロン(登録商標)系ポリマー)で形成し、また撥水層をフッ素系パウダー(例えばテフロン(登録商標)系パウダー)で形成すれば、撥水層および撥水性保護膜の撥水作用で水分を効果的に阻止することができ、また撥水性保護膜で酸素の吸収を阻止することができる。すなわち撥水層の撥水作用、撥水性保護膜の撥水作用、および撥水性保護膜の酸素阻止作用の相乗効果で触媒膜や薄膜の酸化を防ぐことができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、触媒膜の表面に触媒膜の酸化を防止する酸化防止膜を形成するので、撥水層、撥水性保護膜および酸化防止膜で水分を阻止でき、また撥水性保護膜および酸化防止膜で酸素を阻止できるから、酸化防止膜のみで触媒膜を保護する場合よりも、効果的に水分および酸素等の吸収を防ぐことができ、また酸化防止膜を薄くして水素検知感度低下を少なくできる。すなわち該水素センサでは、撥水性保護膜または撥水層が酸化防止膜と補い合って効果的に触媒膜や薄膜の劣化を防ぐことはもとより、酸化防止膜を薄くして水素検知感度低下を少なくできる。
【0015】
請求項5の発明によれば、基板と薄膜との間に基板側保護膜を形成するので、基板が吸収等した水分等が薄膜に浸透することを防いで、薄膜の酸化を防止できる。
請求項6の発明によれば、薄膜がマグネシウム・ニッケル合金、マグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・マンガン合金、マグネシウム・コバルト合金若しくはマグネシウムで形成され、触媒膜がパラジウムもしくは白金を有して形成されるので、水素検出感度が高く、かつ水素ガスに触れると触媒膜の作用で薄膜を迅速かつ可逆的に水素化することができる。
【0016】
請求項7の発明によれば、酸化防止膜をシリコン系化合物で形成するので、水分や酸素等が触媒膜や薄膜に浸透することを防ぐことができる。ここで酸化防止膜は、撥水性保護膜および撥水層の双方若しくは一方とともに触媒膜の劣化を防ぐから、酸化防止膜のみで触媒膜を保護する場合よりも、効果的に水分および酸素等の吸収を防ぐことができ、また酸化防止膜を薄くして水素検知感度低下を少なくできる。
【0017】
請求項8の発明によれば、基板側保護膜をシリコン系化合物で形成するので、基板が吸収等した水分等が薄膜に浸透することを防ぐことができる。
請求項9の発明によれば、撥水性保護膜および撥水層の双方またはいずれか一方を有する水素センサにおいて酸化防止膜を設けるときには、撥水層等における撥水作用で触媒膜の酸化が防止できるから、水素検知感度向上のために酸化防止膜を薄くすることができる(例えば1nm〜200nm)。
【0018】
以上のとおり、本発明に係る水素センサは、撥水層および撥水性保護膜の撥水作用で水分を効果的に阻止できることに加え、撥水性保護膜で酸素の吸収を阻止できるから、触媒膜や薄膜の酸化を防ぐことができて、水素検知感度の低下を防ぎつつ耐久性を向上することができる。また本発明に係る水素センサが、撥水層および撥水性保護膜の双方もしくはいずれか一方を有し、且つ酸化防止膜を有するときには、薄い酸化防止膜を用いても、触媒膜や薄膜の酸化をより効果的に防ぐことができる。よって本発明に係る水素センサは、水素検知感度の低下を防ぎつつ耐久性が向上する。もちろん本発明に係る水素センサが基板側保護膜を有していれば、基板が吸収等した水分等が薄膜に浸透することを防いで、水素センサの耐久性がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る水素センサ(実施例1)の断面概略構成を示す図である(変形例を含む)。
【図2】本発明に係る水素センサ(実施例2)の断面概略構成を示す図である。
【図3】図2の水素センサにおける変形例の断面概略構成を示す図である。
【図4】本発明に係る水素センサ(実施例3)の断面概略構成を示す図である(変形例を含む)。
【図5】撥水層、撥水性保護膜、酸化防止膜および基板側保護膜の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る水素ガスセンサを説明する。
【実施例1】
【0021】
図1を用いて、実施例1に係る水素センサ10aを説明する。水素センサ10a(図1(a))は、ガラスで形成された基板11の表面11aにマグネシウム・ニッケル合金で薄膜12を形成し、薄膜12の表面12aにパラジウムで触媒膜13を形成し、触媒膜13の表面13aに撥水性保護膜14を形成し、さらに撥水性保護膜14の表面14aに撥水層15を形成したものである。薄膜12は、その組成が例えばMgNix(0≦x<0.6)であり、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、メッキ法等によって形成することができる。触媒膜13は、薄膜12の表面12aにコーティング等によって形成することができ、その厚さは1nm〜100nmである。
【0022】
撥水性保護膜14は、撥水性に富む表面14aを有するテフロン(登録商標)系ポリマー(高分子ポリマー)膜であり、例えばパーフルオロアルキルアクリレート等をフッ素系溶剤、例えばハイドロフロロカーボン等で希釈した溶液を用いて、ディップコート、スピンコート、スプレーコート等によって形成した薄膜である。撥水性保護膜14は、水素通過性を有し、水素分子よりも分子径が大きい酸素等の通過を阻止することができる。ただし良好な水素透過性を確保するためには、撥水性保護膜14を2000nmより薄くすることが望ましい。また、撥水性保護膜14を金属で形成してもよい。金属としては、Ni:ニッケル、Ti:チタン、V:バナジウム、Nb:ニオブ、ZrNi:ジルコニアニッケル等を用いることができる。これらの金属を、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、メッキ法等で形成する。またその厚さは、1nm〜200nmが好ましい。
【0023】
撥水層15は、例えばポリテトラフルオロエチレン等のテフロン(登録商標)系パウダー(粒状物)をディップコート、スピンコート、スプレーコートによって形成したもので、高い空隙率(高い通気性)、および撥水性を有している。ただし撥水層15は、例えば10nmより薄いと水分阻止効果が低下し、2000nmより厚いと通気性が低下するから(水素が通過しにくくなるから)、厚さは10nm〜2000nmが好ましい。
【0024】
かかる水素センサ10aは、水素濃度が100ppm以上又は1%程度以上の雰囲気に触れると、数秒〜10秒程度で触媒膜13が薄膜12を水素化して、薄膜12の光学的反射率が迅速に変化する(光学的反射率が低下する(透過率が高くなる))。しかも水素センサ10aは、雰囲気中の水分を撥水層15で阻止でき、仮に撥水層15を通過した水分があっても、表面14aの撥水性で水分通過を阻止できるから、水分阻止能力が高く、撥水性保護膜14を透過して触媒膜13に吸収される水分を極めて僅かにすることができる。もちろん基板11、薄膜12、触媒膜13は、同様の作用を奏するものであれば上記のものに限定されない。例えば基板11は、金属、アクリル樹脂、ポリエチレンシート(ポリエチレンフィルム)等で形成することができ、薄膜12は、マグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・マンガン合金、マグネシウム・コバルト合金、若しくはマグネシウム等で形成することができ、そして触媒膜13は白金等で形成することができる。また撥水性保護膜14は、テフロン(登録商標)系ポリマー膜を形成できるものであれば前述したものに限定されず、撥水層15は、テフロン(登録商標)系パウダー層を形成できるものであれば前述したものに限定されない。
(実施例1の変形例)
図1(b)に示す水素センサ10a’は、水素センサ10aの基板11と薄膜12との間に、さらに基板側保護膜16を設けたものである。この基板側保護膜16は、水分、酸素等の通過を阻止するためのもので例えば二酸化珪素からなり、スパッタリング法、真空蒸着法、メッキ法等で形成される。基板側保護膜16の厚さは、基板11の吸湿性(水分や酸素等を吸収する度合い)等に応じて適宜設定すればよく、基板側保護膜16についは、水素の通過性を考慮する必要はない。かかる基板側保護膜16を設けた水素センサ10a’は、基板11が吸収等した水分等が薄膜12に浸透することを防ぐから、耐久性がさらに向上する。なお基板11を、吸湿性が高いアクリル樹脂またはポリエチレンシート等で形成した場合には、基板側保護膜16を設けることが望ましい。
【実施例2】
【0025】
図2を用いて、実施例2に係る水素センサ10bを説明する。なお実施例1と同様の機能を有する構成要素には、同一の符号を附しその説明を省略する。水素センサ10bは、実施例1の水素センサ10aにおける触媒膜13と撥水性保護膜14の間に、さらに酸化防止膜17を加えたものである(触媒膜13の表面13aに酸化防止膜17を形成し、酸化防止膜17の表面17aに撥水性保護膜14を形成したものである)。この酸化防止膜17は、基板側保護膜16と同様にして例えば二酸化珪素で形成されるが、水素通過性を有する一方、酸素等の通過を阻止するものである。ここで酸化防止膜17は、厚さを1nm〜200nmとすることが好ましい。1nmより薄いと酸素が通過しやすくなり、200nmより厚くすると、水素が通過しにくくなるからである。かかる酸化防止膜17を有することで、水素センサ10bは、実施例1に比べ、触媒膜13に到達する酸素をより少なくすることができるから、耐久性をさらに向上することができる。なお酸化防止膜17は、同様の効果を奏するものであれば、前述したものに限定されない。
(実施例2の変形例)
図3に示す水素センサ10b’は、水素センサ10bの基板11と薄膜12との間に、実施例1の変形例と同様に基板側保護膜16を設けたものであり、耐久性をさらに向上することができる。
【実施例3】
【0026】
図4を用いて、実施例3に係る水素センサを説明する。なお実施例1および2と同様の機能を有する構成要素には、同一の符号を附しその説明を省略する。図4(a)に示す水素センサ10cは、水素センサ10b(実施例2)において酸化防止膜17の表面17aに形成される撥水性保護膜14と撥水層15を、撥水性保護膜14のみにしたものである。水素センサ10cでは、雰囲気中の水分は表面14aに撥水性を有する撥水性保護膜14で阻止されるから、触媒膜13に吸収される水分は極めて僅かである。ここで撥水性保護膜14は、表面14aの撥水性で水分通過を阻止するから薄く形成してもよく、薄くしたことで酸素の通過量が若干増えても、酸化防止膜17で酸素の通過を阻止することができる。すなわち撥水性保護膜14が酸化防止膜17とともに水分通過を阻止するから、水素センサ10cは、撥水性保護膜14と酸化防止膜17を薄くして水素検知感度の低下を防ぎつつ、優れた耐久性を実現することができる。
(実施例3の変形例)
図4(b)に示す水素センサ10c’は、水素センサ10cにおいて酸化防止膜17の表面17aに形成される撥水性保護膜14を、撥水層15に替えたものである。水素センサ10c’では、雰囲気中の水分は、撥水性を有する撥水層15で阻止され、もし撥水層15を通過しても、酸化防止膜17で阻止されるから、触媒膜13に殆ど到達できない。もちろん撥水層15を通過した酸素は、酸化防止膜17で阻止される。このように酸化防止膜17に加え撥水層15を設けて、水分阻止能力に優れた水素センサ10cは、酸化防止膜17を薄くすることができるから、水素検知感度の低下を防ぎつつ優れた耐久性を実現することができる。
【0027】
図4(c)に示す水素センサ10c”は、図4(a)に示す水素センサ10c又は図4(b)に示す水素センサ10c’にさらに基板側保護膜16を設けたものである。従って水素センサ10c”は、水素センサ10cおよび水素センサ10c’よりも高い耐久性を有するものである。
(撥水層、撥水性保護膜、酸化防止膜および基板側保護膜の効果について)
次に撥水層、撥水性保護膜、酸化防止膜および基板側保護膜による耐久性向上の例を図5のグラフを用いて説明する。このグラフは、室内(常温・1気圧)における水素センサの耐久試験の結果を示すものであり、縦軸は水素センサの透過率変化を示し、横軸は耐久試験開始時からの経過日数を示すものである。ここで透過率変化とは、水素センサを最初に大気にさらした(耐久試験開始時)直後において、所定濃度の水素ガスに触れた水素センサの透過率変化を、基準(100%)とするものである。例えば耐久試験開始直後に水素センサが所定濃度の水素ガスに触れて、透過率が2%から37%に変化したときには、透過率の変化分は37−2=35%となる。この透過率変化分35%を100%にノーマライズしたものが透過率変化である。かかる場合において、透過率の変化が80%のときには、透過率の変化分は35%に0.8を乗じた28%である。
【0028】
耐久試験では、水素ガス濃度は1000ppmとし、基板11はガラスであり、薄膜12はマグネシウム・ニッケル合金で厚さが40nmであり、触媒膜13はパラジウムで厚さが4nmであり、いずれも実施例1に例示した組成等によるものである。また撥水性保護膜14は厚さが10nmであり、撥水層15は厚さが50nmであり、基板側保護膜16は厚さが10nmであり、酸化防止膜17は厚さが10nmであり、いずれも各実施例に例示した組成によるものである。
【0029】
図5に示す破線1は、基板11、薄膜12、触媒膜13を有する水素センサに基板側保護膜16を設けた場合における耐久試験の結果である。かかる水素センサでは、耐久試験開始50日後における透過率変化は約20%に低下し(破線1と直線Aの交点)、86日〜87日後における透過率変化は0%になってしまう(破線1と直線Bの交点)。要するに基板側保護膜16だけでは、耐久性が低いことがわかる。もちろん基板側保護膜16がなければ耐久性はさらに低下する。
【0030】
図5に示す2点鎖線2は、基板11、薄膜12、触媒膜13を有する水素センサに基板側保護膜16および酸化防止膜17を設けた場合における耐久試験の結果である。かかる水素センサでは、耐久試験開始50日後における透過率変化は約93%であり(2点鎖線2と直線Aの交点)、86日〜87日後における透過率変化は80%である(2点鎖線2と直線Bの交点)。すなわち、破線1と2点鎖線2との差が酸化防止膜17の効果といえる。
【0031】
図5に示す1点鎖線3は、基板11、薄膜12、触媒膜13を有する水素センサに基板側保護膜16、酸化防止膜17および撥水性保護膜14を設けた場合における耐久試験の結果であるから、実施例3の変形例(図4(c)の水素センサ10c”)において撥水性保護膜14を設けた場合における耐久試験の結果である。かかる水素センサ10c”では、耐久試験開始50日後における透過率変化は約97%であり(1点鎖線3と直線Aの交点)、86日〜87日後における透過率変化は約94%であり(1点鎖線3と直線Bの交点)、150日後における透過率変化は約92%である(1点鎖線3と直線Cの交点)。このように水素センサ10c”は、耐久性に優れており、ここで2点鎖線2と1点鎖線3との差が撥水性保護膜14の効果といえるのである。
【0032】
図5に示す実線4は、基板11、薄膜12、触媒膜13を有する水素センサに基板側保護膜16、酸化防止膜17、撥水性保護膜14および撥水層15を設けた場合における耐久試験の結果であるから、実施例2の変形例(水素センサ10b’)における耐久試験の結果である。水素センサ10b’では、耐久試験開始50日後、86日〜87日後、および150日後における透過率変化は、それぞれ約100%で、最も高い耐久性を有することが判る。
【0033】
ところで気体で存在する酸素よりも、水分(水蒸気)に含まれる酸素の方が極めて多いから、触媒膜の酸化の原因は、その殆どが雰囲気中の水分といえる。すなわち撥水性保護膜および撥水層の双方もしくはいずれか一方を有して、水分阻止能力が高い本発明に係る水素センサは、撥水性保護膜および酸化防止膜の双方またはいずれか一方を薄くして水素検知感度の低下を極力少なくすることができるとともに、優れた耐久性を実現することができるのである。なお本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形し実施できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0034】
10a、10a’ 水素センサ
10b、10b’ 水素センサ
10c、10c’、10c” 水素センサ
11 基板
11a 基板の表面
12 薄膜
12a 薄膜の表面
13 触媒膜
13a 触媒膜の表面
14 撥水性保護膜
14a 撥水性保護膜の表面
15 撥水層
16 基板側保護膜
16a 基板側保護膜の表面
17 酸化防止膜
17a 酸化防止膜の表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された薄膜と、前記薄膜の表面に形成され雰囲気中に含まれる水素ガスに触れると前記薄膜を水素化して前記薄膜の光学的反射率を変化させる触媒膜を有する水素センサにおいて、
前記触媒膜上に形成された高分子ポリマー又は金属からなる撥水性保護膜を有することを特徴とする水素センサ。
【請求項2】
前記撥水性保護膜上に、撥水層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水素センサ。
【請求項3】
前記撥水性保護膜がフッ素系ポリマーからなり、前記撥水層がフッ素系パウダーからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素センサ。
【請求項4】
前記触媒膜の表面に形成されて前記触媒膜の酸化を防止する酸化防止膜を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水素センサ。
【請求項5】
前記基板の表面に形成されて前記薄膜を酸化から保護する基板側保護膜を有し、前記薄膜が前記基板側保護膜の表面に形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水素センサ。
【請求項6】
前記薄膜がマグネシウム・ニッケル合金、マグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・マンガン合金、マグネシウム・コバルト合金若しくはマグネシウムで形成され、
前記触媒膜がパラジウムもしくは白金を有して形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水素センサ。
【請求項7】
前記酸化防止膜がシリコン系化合物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水素センサ。
【請求項8】
前記基板側保護膜がシリコン系化合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の水素センサ。
【請求項9】
前記酸化防止膜の厚さが1nm〜200nmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の水素センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−210242(P2010−210242A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53341(P2009−53341)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(391064005)株式会社アツミテック (39)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】