説明

水素化物の電気化学的酸化用触媒

【課題】水素化物の酸化反応に対して有効な触媒であって、特に、水素化物を水素発生源として用いる際や水素化物を直接燃料として発電する際に、従来の貴金属触媒における問題点を解消することができ、しかも低コストの新規な触媒を提供する。
【解決手段】金属成分としてコバルト、鉄又は銅を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体からなる、水素化物の電気化学的酸化用触媒、
該触媒をアノード極用触媒として含む、水素化ホウ素化合物を燃料とする直接型燃料電池用アノード極、及び
該触媒をアノード極触媒として用いる水素発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化物の電気化学的酸化用触媒及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題から、新しいエネルギー源として水素が有望視されている。例えば水素を直接燃料として用いる水素自動車や水素を用いる燃料電池などの開発が進められている。燃料電池は小型でも高い発電効率を有しており、騒音や振動も発生せず、廃熱を利用することができるなどの優れた利点を有している。
【0003】
水素をエネルギー源として利用するに当っては、燃料となる水素を安全にかつ安定的に供給することが必要であり、圧縮水素、液体水素として直接供給する方法、水素吸蔵合金などの水素吸蔵材料を利用して水素を貯蔵、供給する方法、メタノールや炭化水素を水蒸気改質して水素を供給する方法など、種々の方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、工場規模での生産や実験室で用いる程度の量の水素発生には利用可能であるが、所要量の水素燃料を継続的に供給でき、しかも小型化が要求される、自動車搭載用燃料電池;携帯電話用、パーソナルコンピュータ用等のポータブル燃料電池等の水素供給方法としては不適当である。
【0005】
一方、LiAlH4、NaBH4など各種の金属水素化物を水素発生材料として使用することも試みられている。特に、現在の多くのポータブル水素発生器では、白金担持カーボン等の金属状態の貴金属を含む触媒を水素化物に加えることによって、水素を発生させる方法が採用されている。しかしながら、金属状態の貴金属からなる水素化物酸化触媒を用いる方法では、水溶液中において、水素化物の自己分解反応が進行するために、水素発生量、水素発生速度などの制御が困難である。また、貴金属をバルク金属状態で用いるために貴金属使用量が多いという問題点もある(下記非特許文献1参照)。
【0006】
また、これら金属水素化物から水素を発生させずに、金属水素化物を直接燃料として利用する直接型燃料電池の開発も進められている(下記非特許文献2及び3参照)。しかしながら、これらの燃料電池ではアノード側に金属状態の貴金属を用いるため、非発電時に水素化物が分解し、発電中でも一部の水素化物が電気化学的に酸化されずに分解するという問題点がある。また、アノード側で貴金属使用量が多くなるという問題点もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fuel Process. Technol. 87 (2006) 811-819
【非特許文献2】Electrochem. Commun. 10(2008)100-102
【非特許文献3】J. Power Sources 176(2008) 287-292
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、水素化物の酸化反応に対して有効な触媒であって、特に、水素化物を水素発生源として用いる際や水素化物を直接燃料として発電する際に、従来の貴金属触媒における問題点を解消することができ、しかも低コストの新規な触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の遷移金属原子を含む錯体が、従来の貴金属成分を含む触媒と比較して、非常に安価であって、各種の水素化物に対して、電気化学的酸化触媒として優れた活性を有し、しかも水素化物の自己分解反応に対する活性が非常に低いことを見出した。そして、この金属錯体は、水素発生装置や直接型ボロハイドライド燃料電池のアノード触媒として用いた場合に優れた性能を発揮することができ、例えば、この金属錯体を用いる水素化物の電気化学的酸化反応を、カソードにおける水素発生反応と組み合わせることによって、水素の発生速度・発生量等の制御が容易となり、しかも、水素発生反応の際に生じる電気化学的エネルギーを有効利用することが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の水素化物の電気化学的酸化用触媒及びその用途を提供するものである。
1. 金属成分としてコバルト、鉄又は銅を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体からなる、水素化物の電気化学的酸化用触媒。
2. 配位子がポルフィリン化合物、フタロシアニン化合物又はサレン化合物である上記項1に記載の水素化物の電気化学的酸化用触媒。
3. 金属錯体が導電性担体に担持されたものである上記項1又は2に記載の水素化物の電気化学的酸化用触媒。
4. 水素化物が、アルカリ金属の水素化ホウ素化合物である上記項1〜3のいずれかに記載の水素化物の電気化学的酸化用触媒。
5. 上記項1〜4のいずれかに記載の触媒をアノード極用触媒として含む、水素化ホウ素化合物を燃料とする直接型燃料電池用アノード極。
6. 水素化物と水酸化物を含む溶液が供給されるアノード側電極部と、
該アノード側電極部と対向配置され、プロトンの還元反応によって水素を発生させるカソード側電極部と、
該アノード側電極部と該カソード側電極部の間に配置されたイオン透過性隔膜とを備えている水素発生装置であって、
該アノード側電極の触媒として、上記項1〜4のいずれかに記載の触媒を含むことを特徴とする水素発生装置。
7. 上記項6の水素発生装置において、アノード極触媒として、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より低い触媒を用いることを特徴とする自己発電作用を有する水素発生装置。
【0011】
以下、本発明の水素化物の電気化学的酸化用触媒について具体的に説明する。
【0012】
水素化物の電気化学的酸化用触媒
本発明の水素化物の電気化学的酸化用触媒は、金属成分として、コバルト、鉄又は銅を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体である。
【0013】
これらの内で、配位子として用いる窒素含有多環式化合物としては、ポルフィリン化合物、フタロシアニン化合物、サレン化合物等を例示できる。
【0014】
これらの特定の金属錯体を触媒として用いることによって、低い過電圧で水素化物を電極酸化することが可能となる。また、該金属錯体は、水素化物の化学的分解反応に対する活性が低いために、上記金属錯体を付与した電極は、カソード極と接続しない状態では、水素化物の分解反応が極めて遅い。
【0015】
特に、上記金属錯体は、金属成分として、比較的安価なコバルト、鉄又は銅を含み、これらの金属成分を、バルク状態の金属としてではなく、該金属成分を含む金属錯体として用いるものである。このため、従来の貴金属成分を有効成分とする触媒と比較して安価な触媒であり、しかも、水素化物の電気化学的酸化反応に対して十分な活性を有するものである。
【0016】
本発明では、上記した特定の遷移金属成分を含み、且つ、配位子として、窒素含有多環式化合物を含む金属錯体であれば、特に限定なく使用でき、配位子の具体的な構造については特に限定的ではない。
【0017】
特に、ポルフィリン化合物を配位子として含む金属錯体は、水素化物の電気化学的酸化反応の過電圧が低い点で好ましい。
【0018】
以下、本発明の触媒の有効成分である金属錯体について、好ましい具体例を示す。
【0019】
(1)化学式:
【0020】
【化1】

【0021】
(式中、R〜R12は、同一又は異なって、それぞれ、アルキル基、置換基を有することのあるアリール基、水素原子又はハロゲン原子を示し、Mは、コバルト、鉄又は銅を示す。)で表される金属ポルフィリン錯体。
【0022】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、コバルト、鉄又は銅であり、特に、安価であるという点で鉄が好ましい。
【0023】
〜R12は、同一又は異なって、それぞれ、アルキル基、置換基を有することのあるアリール基、水素原子又はハロゲン原子を示す。これらの内で、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が好ましい。また、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが好ましい。置換基を有することのあるアリール基としては、フェニル基、置換基を有するフェニル基、ピリジル基、置換基を有するピリジル基等が好ましい。
【0024】
これらの内で、R、R、R及びR10が全て置換基を有することのあるアリール基である場合には、メソ位が化学的に保護されているために、酸化反応などに対する安定性が高くなる。
【0025】
置換基を有するアリール基の内で、置換基を有するピリジル基としては、1−メチルピリジル基等を例示できる。置換基を有するフェニル基における置換基としては、低級アルコシキ基、低級アルキル基、ハロゲン原子、−SO(式中、Mは水素原子、アルカリ金属又は−NHである)、−COOM(式中、Mは水素原子、アルカリ金属、−NH又はアルキル基である)、−OCH−COOM(式中、Mは水素原子、アルカリ金属、−NH又はアルキル基である)等を例示できる。
【0026】
これらの内で、置換基として低級アルコキシ基を有するフェニル基としてはパラ-メトキシフェニル基等、置換基として低級アルキル基を有するフェニル基としては、パラ-メチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基等、置換基としてハロゲン原子を有するフェニル基としてはペンタフルオロフェニル基等を例示できる。
【0027】
フェニル基の置換基の内で、−SOでは、Mは水素原子、アルカリ金属又は−NHである。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。フェニル基の置換基の内で、−COOMでは、Mは水素原子、アルカリ金属、−NH又はアルキル基である。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。アルキル基としては、上記した基と同様の基を例示できる。また、フェニル基の置換基の内で、−OCH−COOMでは、Mは水素原子、アルカリ金属、−NH又はアルキル基である。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。アルキル基としては、上記した基と同様の基を例示できる。
【0028】
−SO、−COOM、−OCH−COOM等の置換基は、例えばフェニル基の4位に置換することができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
上記化学式で表されるポルフィリン錯体の代表例として、R1, R4, R7及びR10が置換基を有することのあるフェニル基であって、R2, R3, R5, R6, R8, R9, R11及びR12が水素原子であるテトラフェニルポリフィリン錯体; R1, R4, R7及びR10が水素原子であって、R2, R3, R5, R6, R8, R9, R11及びR12が低級アルキル基であるオクタアルキルポリフィリン錯体等を挙げることができる。
【0030】
(2)化学式
【0031】
【化2】

【0032】
(式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基、基:-SO3M1(式中、M1は、水素原子、アルカリ金属又は−NHである)、又は基:−R−COOM2(式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、Mは水素原子、アルカリ金属又はアルキル基である)を示すか、或いは、R1とR2、R3とR4、R5とR6、R7とR8の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。Mは、コバルト、鉄又は銅を示す。但し、R〜Rの少なくとも一つは、基:−R−COOM2である)で表される金属ポルフィリン錯体。
【0033】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、コバルト、鉄又は銅であり、特に、安価であるという点で鉄が好ましい。
【0034】
上記化学式において、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が好ましい。
【0035】
ヒドロキシアルキル基のアルキル基部分としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分枝鎖状の低級アルキル基を例示できる。ヒドロキシ基は、該アルキル基の任意の炭素原子に置換することができる。
【0036】
アルケニル基としては、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−メチルアリル、2−ペンテニル、2−ヘキセニル基等の炭素数2〜6の直鎖又は分枝鎖状アルケニル基を挙げることができる。
【0037】
基:-SO3M1において、M1は水素原子、アルカリ金属又は−NHである。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。
【0038】
基:−R−COOM2において、R9で表されるアルキレン基としては、例えばメチレン、エチレン、トリメチレン、2−メチルトリメチレン、2,2−ジメチルトリメチレン、1−メチルトリメチレン、メチルメチレン、エチルメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルキレン基を例示できる。M2で表されるアルキル基とアルカリ金属は、上記したものと同様である。
【0039】
上記化学式で表される金属ポルフィリン錯体において、R〜Rの内の2個以上が基:−R−COOM2である化合物は、特に水素化物の電気化学的酸化反応に対して高い活性を有するものである。
【0040】
(3)化学式
【0041】
【化3】

【0042】
(式中、R〜R16は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示すか、或いは、RとR、RとR、R10とR11、R14とR15の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。また、Mは、コバルト、鉄又は銅を示す。)で表される金属フタロシアニン錯体。
【0043】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、コバルト、鉄又は銅であり、安価であるという点で鉄が好ましい。
【0044】
上記化学式において、R〜R16は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示す。更に、これらの内で、RとR、RとR、R10とR11、R14とR15の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。
【0045】
これらの内で、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が好ましい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルコキシル基が好ましい。また、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが好ましい。
【0046】
上記化学式で表される金属フタロシアニン錯体の内で、例えば、R〜R16が全て水素原子である化合物は、水素化物の電気化学的酸化反応に対して高い活性を有するものである。
【0047】
また、RとR、RとR、R10とR11、R14とR15の各組み合わせが互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成した化合物として、下記化学式
【0048】
【化4】

【0049】
で表される化合物を例示できる。上記化学式において、R17〜R32は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示す。これらの各基の具体例は、R〜R16と同様である。
【0050】
(4)化学式:
【0051】
【化5】

【0052】
(式中、Mはコバルト、鉄又は銅である)で表される金属サレン錯体。
【0053】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、コバルト、鉄又は銅であり、特に、安価であるという点で鉄が好ましい。
【0054】
尚、上記したサレン錯体では、サレン環上に任意の置換基が存在しても良い。
【0055】
金属錯体の製造方法
上記した金属錯体は、例えば、目的とする錯体の配位子となる化合物と金属化合物を溶媒中に溶解し、加熱することによって製造することができる。
【0056】
例えば、銅化合物としては、一価又は二価の銅元素が含まれる化合物、コバルト化合物としては、二価又は三価のコバルト元素が含まれる化合物、鉄化合物としては、二価又は三価の鉄元素が含まれる化合物を用いることができる。溶媒としては、上記した配位子となる化合物と金属化合物を溶解できる溶媒を用いればよく、例えば、エタノール、ジメチルフォルムアミドなどを用いることができる。加熱温度については、例えば、使用する溶媒の還流温度とすればよい。
【0057】
担持触媒
上記した金属錯体は、導電性担体に担持させることにより、水素化物の電気化学的酸化反応に対して高い触媒活性を有するものとすることができる。
【0058】
導電性担体としては、特に限定はなく、例えば、従来から固体高分子形燃料電池用の触媒担体等として用いられている各種の担体を用いることができる。この様な担体の具体例としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛等の炭素質材料を挙げることができる。これらの内で、カーボンブラックは、導電性に優れ、比表面積も大きいために、導電性担体として特に好ましい物質である。
【0059】
導電性担体の形状などについては特に限定はないが、例えば、平均粒径が0.1〜100μm程度、好ましくは1〜10μm程度のものを用いることができる。また、カーボンブラックを用いる場合には、例えば、BET法による比表面積が100〜800m/g程度の範囲内にあるものが好ましく、200〜300 m/g程度の範囲内にあるものがより好ましい。この様なカーボンブラックの具体例としては、Vulcan XC-72R(Cabot社製)の商標名で市販されているものを用いることができる。
【0060】
導電性担体に担持させる方法としては、例えば、溶解乾燥法、気相法などの公知の方法を適用できる。
【0061】
例えば、溶解乾燥法では、金属錯体を有機溶媒に溶解させ、この溶液に導電性担体を加えて、例えば、数時間撹拌して、該担体に金属錯体を吸着させた後、有機溶媒を乾燥させればよい。また、有機溶媒中に金属錯体が多量に含まれる場合には、平衡に達するまで金属錯体を導電性担体に吸着させた後、濾過することによって、導電性担体に吸着していない金属錯体を除去して、該担体と相互作用している金属錯体のみを該担体の表面に残すことができる。
【0062】
この方法では、有機溶媒としては、金属錯体を溶解できるものであれば、特に限定なく使用できる。例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素系炭化水素やエタノールなど低級アルコールを好適に用いることができる。
【0063】
濾過によって得られた分散物を、さらに有機溶媒を用いて洗浄液が透明になるまで洗浄すれば、導電性担体との相互作用の弱い金属錯体を洗い流すことができ、導電性担体に強固に吸着している金属錯体のみを含む高活性な触媒を得ることができる。
【0064】
気相法で担持させる場合には、例えば、プラズマ蒸着法、CVD法、加熱蒸着法などを公知の方法を採用できる。
【0065】
導電性担体上に担持させる金属錯体の量については、特に限定はないが、例えば、導電性担体1gに対して、金属錯体を10μmol〜1000μmol程度担持させることが好ましく、20μmol〜100μmol程度担持させることがより好ましい。
【0066】
本発明触媒の用途
上記した金属錯体は、いずれも、水素化物の電気化学的酸化反応用の触媒として、優れた活性を有するものである。
【0067】
本発明の触媒による電気化学的酸化反応の対象となる水素化物については、特に限定的ではないが、例えば、一般式:X(YH4-nZn)で表される化合物を用いることができる。上記一般式において、Xはアルカリ金属、NH4、又はM1/2(式中、Mはアルカリ土類金属である)であり、YはB, Al 又はGaであり、Zはハロゲン原子又は一価の炭化水素基であり、nは0〜3の整数である。アルカリ金属としては、Li. Na, K, Rb, Cs等を例示でき、アルカリ土類金属としては、Mg, Ca, Sr, Ba等を例示でき、ハロゲン原子としては、F, Cl, Br, I等を例示できる。一価の炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜6程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができ、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、1−エチルプロピル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、1,2,2−トリメチルプロピル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、イソヘキシル、3−メチルペンチル基等を例示できる。
【0068】
これらの水素化物の内で、特に、LiBH4, NaBH4, KBH4等のアルカリ金属の水素化ホウ素化合物が好ましい。
【0069】
本発明の触媒を用いることによって、低い過電圧で上記した水素化物の電気化学的酸化反応が進行する。例えば、アルカリ金属の水素化ホウ素化合物を用いる場合には、下記の反応が進行する。
【0070】
BH + 8HO → BO+6HO+8e
水素化物の電気化学的酸化反応は、該触媒に水素化物が接触した状態において、所定の電位とすることによって、選択性よく進行させることができる。例えば、pH12程度以上のアルカリ性の水素化物を含む水溶液中に本発明の触媒を付与した電極を浸漬し、所定の電位とすることによって電気化学的酸化反応を進行させることができる。この場合の具体的な電位については、使用する金属錯体の種類、水素化物の種類、溶液の状態等によって異なるので一概に規定できないが、例えば、pH13程度の水溶液中で25℃で測定した電位(AgCl/KCl(飽和)電極基準)として、窒素含有多環式化合物(ポルフィリン、フタロシアニン、サレン等)を配位子とする金属錯体では−0.7V〜−0.4V程度とすることが好ましく、特に−0.7V〜−0.6V程度とすることがより好ましい。
【0071】
本発明の触媒は、上記した優れた特性を利用して、水素化物の電気的酸化反応を利用する各種の用途に用いることができる。例えば、水素化物を燃料とする直接型ボロハイドライド燃料電池におけるアノード触媒、水素化物を原料とする水素発生装置におけるアノード触媒等の用途に有効に用いることができる。以下、これらの用途について説明する。
【0072】
(1)直接型ボロハイドライド燃料電池
本発明の触媒は、直接型ボロハイドライド燃料電池のアノード極用触媒として有効に利用できる。本発明の触媒を使用する直接型ボロハイドライド燃料電池の構造については特に限定はなく、水素化ホウ素化合物を燃料とする直接型燃料電池であればよい。例えば、”Electrochem. Commun. 10(2008)100-102”, ”J. Power Sources,176(2008) 287-292”等に記載されている、NaBH4等の水素化ホウ素化合物の水溶液を燃料とし、アニオン交換膜又はアルカリ性の溶液を電解質とし、白金族の金属・金・銀等をカソード極用触媒とする直接型ボロハイドライド燃料電池のアノード極用触媒として使用できる。
【0073】
本発明の触媒を直接型ボロハイドライド燃料電池のアノード極用触媒として用いることによって、非発電時の燃料の分解が抑制され、且つ、高い電圧から電気を取り出すことが可能となる。
【0074】
(2)水素発生装置
本発明の触媒は、水素化物と水酸化物を含む溶液における水素化物の酸化反応を含むアノード反応と、プロトンの還元による水素発生反応を含むカソード反応をイオン透過性隔膜を介して生じさせることによる水素発生方法において、アノード触媒として使用できる。
【0075】
上記した水素発生方法を利用する水素発生装置は、例えば、水素化物と水酸化物を含む溶液が供給されるアノード側電極部と、アノード側電極部と対向配置され、水素を発生させるカソード側電極部と、該アノード側電極部と該カソード側電極部の間に配置されたイオン透過性隔膜とを備えたものであって、該アノード側電極部におけるアノード触媒として本発明の触媒を用いるものである。
【0076】
以下、上記した水素発生装置の一実施態様の概略構成を示す図1を参照して、本発明の触媒を用いる水素発生方法を説明する。
【0077】
図1に示す水素発生装置1は、アノード側電極2、カソード側電極3及びイオン交換性隔膜4を主要な構成要素として含むものである。アノード側電極2には、アノード側原料入口6より、水素化物と水酸化物を含有する溶液が原料溶液として供給される。
【0078】
水酸化物としては、例えば、一般式:AOHで表される化合物を用いることができる。上記一般式において、Aは、アルカリ金属、NH4、又はM1/2(式中、Mはアルカリ土類金属である)である。アルカリ金属としては、Li, Na, K, Rb, Cs等を例示でき、アルカリ土類金属としては、Mg, Ca, Sr, Ba等を例示できる。これらの水酸化物の内で、特に、LiOH, NaOH, KOH等のアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0079】
水素化物と水酸化物を含む溶液では、溶媒としては、溶液中において、水素化物:X(YH4-nZn)を、X+と(YH4-nZn)とにイオン解離できる溶媒であれば特に限定なく使用できる。この様な溶媒としては、水の他に、ルイス塩基性が高く、ルイス酸性が低く、比誘電率が高い非水溶媒を用いることができる。この様な非水溶媒としては、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジグリム、トリグリム、テトラグリム、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、テトラメチルピラン等のエーテル類、二硫化炭素、酢酸メチル、γ-ブチルラクトン、メチルカーボネート、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、アセトン、ホルムアミド、メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、エチレンジアミン、メチルピロリドン、ピリジン、アニリン、N-メチルピロリドン、テトラメチル尿素、テトラメチルグアニジン、アセトニトリル、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、リン酸トリエチル、ヘキサメチルリン酸トリアミド、アンモニア等を例示できる。好ましい非水溶媒は、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、メチルピロリドン、ピリジン等である。
【0080】
水素化物と水酸化物を含む溶液における水素化物の濃度は特に限定的でないが、0.0001〜30mol/L程度とすることが好ましく、0.001〜10mol/L程度とすることがより好ましい。
【0081】
また、水酸化物の濃度は、0.0001〜20mol/L程度であることが好ましく、0.01〜4mol/L程度であることがより好ましい。
【0082】
上記した水素化物と水酸化物を含む溶液を、アノード側電極と接触させることによって、アノード側電極表面において溶液中に存在する水素化物イオンの酸化反応が進行する。これにより、水素化物イオンの酸化生成物と水が生じる。例えば、水素化物として水素化ホウ素化合物を用いる場合には、下記の反応によって、アノード反応が進行して、水素化物イオン:BH4が酸化される。
【0083】
アノード反応:BH4+ 8OH → BO2+ 6H2O + 8e-
アノード反応の反応温度については特に限定的ではなく、通常は、室温で反応を進行させることができる。
【0084】
アノードにおける触媒の担持量については、例えば、0.1〜5.0mg/cm程度とすることができ、0.1〜3.0mg/cm程度とすることが好ましい。
【0085】
アノード反応によって生じた電子は外部回路5を通過してカソード側電極3に供給され、カソード側電極3の表面において水素発生を含む下記のカソード反応が生じる。
【0086】
カソード反応:8H2O + 8e- → 4H2+ 8 OH-
カソード反応の反応温度については特に限定的ではなく、通常は、室温で反応を進行させることができる。
【0087】
カソード側電極3では、例えば、カソード側原料入口8より水を供給することによって、上記したカソード反応を進行させることができる。この場合、直接水を供給してもよく、或いは、加湿された不活性気体を供給しても良い。また、カソード側原料入口8から水を供給しない場合にも、アノード用原料に含まれる水やアノード反応により生じた水が、イオン透過性隔膜を移動してカソード側電極3まで達する場合には、上記したカソード反応を進行させることができる。カソード側電極3の表面で発生した水素は、例えば、カソード側電極部に設置した水素取り出し口9から回収される。また、カソード側電極3で生じた水酸化物イオンはイオン透過性隔膜を通過してアノード側の原料溶液に移動するか、或いは、原料溶液に混合することによって、再びアノード反応に用いることができる。これにより外部から新たに水酸化物を供給することなく反応を進行させることが可能となる。
【0088】
カソード側電極3は、特に制限されないが、例えば、担体に触媒が担持されている多孔質電極を用いることができる。
【0089】
このカソード側電極3は、例えば、イオン透過性隔膜4の他方の面と接触するようにアノード側電極2に対向状に設けられる。
【0090】
カソード側電極3で用いる触媒としては、プロトンの還元による水素発生反応に対して活性を有する触媒であればよく、例えば、Ru, Rh, Pd, Ag, Os, Ir, Pt, Au等の第4又は5周期の8〜11族金属を挙げることができ、特にPt黒が好ましい。
【0091】
カソード側電極3における触媒の担持量は、例えば、0.1〜5.0mg/cm程度とすることができ、0.1〜3.0mg/cm程度とすることが好ましい。
【0092】
イオン透過性隔膜4としては、アニオン透過性又はカチオン透過性の隔膜を用いることができる。アニオン透過性の隔膜を用いる場合には、カソード反応によって生じたOH-イオンがアニオン透過性隔膜4を通過してアノード側電極部に移動する。
【0093】
この場合、上記したアノード反応と合わせた全反応は、下記の通りになる。
【0094】
全反応: BH4+ 2H2O → BO2-+ 4H2
上記したアノード側電極2とカソード側電極3との間に配置するイオン透過性隔膜4としては、例えば、カソード反応によって生じたOH-イオン又は水素化物から解離したカチオンを通過させることができるアニオン透過性隔膜又はカチオン透過性隔膜を用いることができる。
【0095】
アニオン透過性隔膜としては、アノード反応によって生じたOH-イオンを透過できるが、アノード電極部に供給される水素化物のアニオンは透過しない隔膜を用いることが好ましい。これにより、水素化物アニオンがカソード極表面で加水分解されることが防止される。この様なアニオン透過性隔膜としては、例えば、商標名:ネオセプタAMX(株式会社アストム)膜等を用いることができる。
【0096】
また、カチオン透過性隔膜を用いる場合にも、アノード電極部に供給される水素化物アニオンがカソード電極部に移動することがなく、水素化物アニオンがカソード極表面で加水分解されることが防止される。カチオン透過性隔膜としては、水素化物から解離したカチオンを通過させることができるカチオン交換型の固体高分子電解質膜を用いることができる。この様な固体高分子電解質膜の具体例としては、パーフルオロカーボンスルフォン酸膜、パーフルオロカーボンカルボン酸膜等のフッ素系イオン交換膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、ポリスチレンスルフォン酸膜、スルフォン酸化スチレン・ビニルベンゼン共重合体膜等を挙げることができる。これらの内で、特に、Nafion等の商標名で市販されているパーフルオロカーボンスルホン酸膜が好ましい。
【0097】
また、適度な孔径を有するガラスフィルターもイオン透過性隔膜として用いることができる。
【0098】
上記した水素発生装置1では、更に、アノード側電極2の外側にアノード側原料入口6、アノード側出口7等を設けることができ、カソード側電極3の外側には、カソード側原料入口8、発生水素排出口9等を設けることができる。また、アノード側電極2の外側には、該アノード側電極2に接触した状態で集電体を設けることができ、カソード側電極3の外側には、該カソード側電極に接触した状態でガス拡散層付き集電体等を設けることができる。これらの各部材を含む水素発生装置の構造は、公知の水素発生装置と同様でよく、例えば、特開2005−71645号公報に記載されている水素発生装置と同様の構造とすることができる。
【0099】
上記した構造を有する水素発生装置では、特に、アノード触媒として、本発明の水素化物の電気化学的酸化用触媒、即ち、金属成分として、コバルト、鉄又は銅を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体を用いることが重要な特徴である。この様な触媒を用いることによって、低過電圧で水素化物を電極酸化することができ、効率の良い水素発生が可能となる。
【0100】
本発明の触媒は、水素化物からの化学的水素発生反応(ボロハイドライドではBH4+ 2 H2O → BO2+ 4H2の反応)に対する活性が非常に低いので、水素化物の自己分解反応を促進することがほとんどない。このため、アノード極とカソード極を連結する外部回路を開いた場合には、水素化物の自己分解による水素発生を抑制することができる。また、外部回路を閉じ、且つ使用する電解液の種類、アノード触媒の種類、カソード触媒の種類などに応じて、アノードの電位を調整することによって、水素発生反応の速度、水素発生量などを簡単に制御することができる。即ち、上記した構造の水素発生装置では、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より低い場合には、外部回路を閉じることによって、前述した反応に基づく水素発生反応を進行させることができ、また、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より高い場合には、外部電源を用いて、アノード極の電位をより高い電位とすることによって、水素発生反応を進行させることができる。この際、アノード極の電位を調整することによって、水素発生速度、水素発生量などを制御することが可能である。
【0101】
アノード触媒として、特にポルフィリン錯体からなる触媒を用いる場合には、水素化物の自己分解反応を生じさせる作用が低いために、水素発生量、発生速度などの制御が容易である。
【0102】
また、開回路時のカソード極の電位よりアノード極の電位が低い場合には、外部回路を閉じることによって、カソード反応とアノード反応が自発的に進行する。この場合には、水素発生と同時に、カソード電位とアノード電位の電位差を電気エネルギーとして取得できる。このため、原料とする水素化物から、高いエネルギー変換効率で化学エネルギーと電気エネルギーを得ることが可能となる。更に、水素発生のために外部電源が不要であり、装置の構造を簡略化できるという利点もある。
【0103】
この様な発電作用を有する水素発生装置に使用できるアノード触媒は、使用する電解液の種類、水素化物の濃度、カソード触媒の種類などよって異なるので、実際に使用する条件下において、アノード反応の電位がカソード反応の電位より低くなるような触媒を選択すればよい。
【0104】
上記した水素発生装置を用いて発生した水素の用途については特に限定はないが、例えば、燃料電池の燃料等として用いることができる。この場合には、例えば、上記した水素排出口9を水素供給ラインに接合して、発生した水素を燃料電池に供給すればよい。
【発明の効果】
【0105】
本発明の水素化物の電気的酸化用触媒によれば、次の様な顕著な効果が奏される。
【0106】
(1)本発明の水素化物の電気化学的酸化用触媒は、水素化物の電気化学的酸化反応に対する活性が高く、低過電圧で水素化物を電極酸化することができる。また、本発明触媒は、水素化物からの化学的水素発生反応に対する活性が低いために、水素化物の自己分解反応を促進する作用が非常に小さい。よって、水素化物を原料とする水素発生装置におけるアノード触媒として本発明の触媒を用いることによって、水素発生速度、水素発生量などの制御が容易となる。
【0107】
(2)本発明の触媒を水素化物を直接燃料とする燃料電池のアノード触媒として用いることによって、電気化学反応以外の反応での水素化物の消費を抑制することができ、発電効率を高めることが可能となる。
【0108】
(3)本発明の触媒は、比較的安価な特定の遷移金属元素を錯体として用いるものであり、貴金属をバルク状態で用いる触媒や貴金属元素を有効成分として含む触媒と比較して、低コストである。
【0109】
(4)本発明の触媒を用いる水素発生装置において、開回路時のカソード極の電位よりアノード極の電位が低くなるように触媒を選択することによって、水素発生と同時に、カソード反応とアノード反応の電位差を電気エネルギーとして取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の触媒を用いる水素発生装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】実施例1〜3におけるリニアスイープボルタメトリーの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0111】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0112】
実施例1〜10
担持カーボン触媒の作製
下記表1及び表2に示す各金属錯体を触媒成分として用い、各金属錯体を溶媒中に溶解させた後、この溶液にカーボンブラック(比表面積250 m/g、商標名:Vulcan XC 72R、Cabot社製)を30 mg加えた。溶媒としては、実施例1〜4, 8においてはジクロロメタン、実施例5,6,9,10においてはジメチルフォルムアミド、実施例7においては酢酸を用い、溶媒の使用量はすべて20mLとした。各溶液における金属錯体の添加量は、実施例8については、30マイクロモルとし、それ以外は、9マイクロモルとした。
【0113】
次いで、カーボンブラックを懸濁させた各溶液について、超音波洗浄機を用いてカーボンブラックをよく分散させた後、ロータリーエバポレーターによって溶媒を留去することにより、各金属錯体をカーボンブラックに担持させた。
【0114】
触媒活性の評価
上記した方法で各金属錯体をカーボンブラックに担持させた触媒を乳鉢で破砕し、5 mgを0.5 mLの混合溶媒(水:エタノール = 1 : 1)に懸濁させたのち、5 μLの5 % Nafion溶液(Aldrich製)を加えた。この懸濁液を5分間超音波洗浄器に掛けることで、よく分散させた後、回転ディスク電極(直径3mm)の上に2 μLのせて乾燥させた。
【0115】
触媒の水素化物の酸化活性評価はエー・エル・エス製のポテンショスタット(ALS model 711B)を用いて行った。回転数の制御はビー・エー・エス(株)製の回転数制御装置(BAS RDE-1)を用いて行った。触媒を塗布したグラッシーカーボンの回転ディスク電極を作用電極とし、白金電極を対極、Ag/AgCl/KCl(sat.)電極を参照電極として用いた。
【0116】
電解液として0.1 M NaOHを用い、これに1mMとなるようにNaBHを加えた後、電極を3600ppmの速度で回転させながら、リニアスイープボルタメトリーを測定した。
【0117】
実施例1〜3の各金属錯体を用いた触媒について、測定結果を図2のグラフに示す。
【0118】
図2から明らかなように、実施例1の銅オクタエチルポルフィリンを担持させた触媒については、Ag/AgCl/KCl(sat.)電極に対して-0.73V付近から酸化電流が観測されるようになり、また実施例2のコバルトオクタエチルポルフィリンを担持させた触媒と、実施例3の鉄オクタエチルポルフィリンを担持させた触媒については、-0.65V付近から酸化電流が観測されるようになり、これら電位付近でもBH4-が酸化されていることがわかる。また、これらの触媒では、電位が正になるに従って酸化電流は急速に上昇し、実施例1の触媒については-0.4 V付近では200μA程度の酸化電流となった。
【0119】
また、各実施例の金属錯体をカーボンブラックに担持させた触媒について、上記した方法で求めた-0.5Vのときの金属1マイクロモルあたりの電流値(mA/マイクロモル)を下記表1及び表2に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】

【0122】
試験例(NaBH4存在下における化学的水素発生活性)
Nafion 5%溶液(Aldrich社製)を5μL含む0.5mLの混合溶媒(水:エタノール = 1 : 1)に、実施例1で用いた銅オクタエチルポルフィリンをカーボンブラックに担持させた触媒(Cu(OEP)/C) 5 mgを懸濁させた懸濁液0.2 mLを、グラッシーカーボン板(実効表面積 =4.5 cm2)にのせて乾燥させて、銅錯体修飾電極を作製した。また、比較例1として、白金担持カーボン(40%, ジョンソン・マッセイ社、Pt/C)の懸濁液を同様の手法(但し、水0.5mLに懸濁)により作製し、同様の方法でグラッシーカーボン電極上に塗布・乾燥させた。
【0123】
次いで、このCu(OEP)/Cで修飾したグラッシーカーボン板を10 mMのNaOHを含む0.1 M NaOH水溶液に浸漬した。溶液をアルゴンでパージした後、この水溶液が入った瓶をシリコン栓で密封し、180分間放置した後、気相中の水素ガスを定量した。Pt/Cで修飾したグラッシーカーボン板からの水素発生量も同様の手法で測定した(ただし放置時間は17分とした)。水素発生速度の測定結果を下記表3に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
以上の結果から、銅オクタエチルポルフィリンを有効成分とする実施例1の触媒は、比較例1の白金触媒と比較して、静止時の水素発生が大幅に抑制されており、NaBH4の化学的分解反応に対する活性が極めて弱いことが明らかである。
【符号の説明】
【0126】
1 水素発生装置
2 アノード側電極
3 カソード側電極
4 イオン透過性隔膜
5 外部回路
6 アノード側原料入口
7 アノード側出口
8 カソード側原料入口
9 水素取り出し口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分としてコバルト、鉄又は銅を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体からなる、水素化物の電気化学的酸化用触媒。
【請求項2】
配位子がポルフィリン化合物、フタロシアニン化合物又はサレン化合物である請求項1に記載の水素化物の電気化学的酸化用触媒。
【請求項3】
金属錯体が導電性担体に担持されたものである請求項1又は2に記載の水素化物の電気化学的酸化用触媒。
【請求項4】
水素化物が、アルカリ金属の水素化ホウ素化合物である上記項1〜3のいずれかに記載の水素化物の電気化学的酸化用触媒。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の触媒をアノード極用触媒として含む、水素化ホウ素化合物を燃料とする直接型燃料電池用アノード極。
【請求項6】
水素化物と水酸化物を含む溶液が供給されるアノード側電極部と、
該アノード側電極部と対向配置され、プロトンの還元反応によって水素を発生させるカソード側電極部と、
該アノード側電極部と該カソード側電極部の間に配置されたイオン透過性隔膜とを備えている水素発生装置であって、
該アノード側電極の触媒として、請求項1〜4のいずれかに記載の触媒を含むことを特徴とする水素発生装置。
【請求項7】
請求項6の水素発生装置において、アノード極触媒として、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より低い触媒を用いることを特徴とする自己発電作用を有する水素発生装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−148225(P2012−148225A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7974(P2011−7974)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】