水素吸蔵材料及びその製造方法
【課題】水素ガスを効率的に吸蔵し、軽量であり且つ化学的安定性に優れた水素吸蔵材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の水素吸蔵材料は、ミクロポーラスアモルファス金属酸化物からなる多孔基体と、この多孔基体中に分散された水素吸蔵金属ナノ粒子とを備え、上記金属酸化物はアルミナ及びシリカ−アルミナから選ばれた少なくとも1種からなり、上記水素吸蔵金属ナノ粒子は8族の元素が好ましい。また、上記水素吸蔵金属ナノ粒子は、ミクロポーラスアモルファス金属酸化物内に分散した複合体を形成している水素吸蔵材料である。本発明の水素吸蔵材料は燃料電池等の水素ガスの貯蔵及び輸送を用いる分野で広く利用される。
【解決手段】本発明の水素吸蔵材料は、ミクロポーラスアモルファス金属酸化物からなる多孔基体と、この多孔基体中に分散された水素吸蔵金属ナノ粒子とを備え、上記金属酸化物はアルミナ及びシリカ−アルミナから選ばれた少なくとも1種からなり、上記水素吸蔵金属ナノ粒子は8族の元素が好ましい。また、上記水素吸蔵金属ナノ粒子は、ミクロポーラスアモルファス金属酸化物内に分散した複合体を形成している水素吸蔵材料である。本発明の水素吸蔵材料は燃料電池等の水素ガスの貯蔵及び輸送を用いる分野で広く利用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵材料及びその製造方法に関し、更に詳しくは、本発明は、軽量であり、且つ、化学的安定性に優れた金属添加アモルファス金属酸化物水素吸蔵材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーとして注目されている水素を利用した環境低負荷型エネルギーシステムの構築に強い関心が集まっており、水素を燃料とする高効率燃料電池システム技術の確立と、その実用化とに対する期待が高まっている。燃料としての水素を貯蔵及び輸送するためには、従来では、圧縮水素ガスによる貯蔵及び高圧ボンベ等による輸送が行なわれているが、ボンベの重量は重い。一方、燃料としての水素を液体水素として貯蔵し、輸送する場合、液体水素の密度は、70.8kg/m3であるため、水素ガスの1/850の体積となり、高重量エネルギー密度で、液体水素は圧縮水素よりコンパクトになる。しかし、水素の液化には、多大の電力と費用を要し、漏洩等の問題点もある。
また、LaNi5、TiFeなどの水素吸蔵合金(特許文献1参照)は、多量の水素を可逆的に吸収・放出する合金であり、合金が水素ガスと反応する。しかし、水素吸蔵合金は、水素化の過程でひび割れをおこし、水素吸収と放出との繰り返しにより微粉化が進む場合がある。また、金属であるため重量が大きい、更に水素吸蔵合金は高価であるため設備費が高くなる等の問題点がある。
【0003】
【特許文献1】特開平09−025529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、軽量であり且つ安価であり、更に化学的安定性に優れた水素吸蔵材料とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の通りである。
[1]ミクロポーラスアモルファス金属酸化物からなる多孔基体と、該多孔基体中に分散された水素吸蔵金属ナノ粒子と、を備えた複合体からなり、上記金属酸化物は、シリカ、アルミナ及びシリカ−アルミナから選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする水素吸蔵材料。
[2]上記水素吸蔵金属ナノ粒子を構成する金属元素が、ニッケル及び/又はコバルトである上記[1]に記載の水素吸蔵材料。
[3]上記水素吸蔵金属ナノ粒子の平均粒子径が、0.1〜10nmである上記[1]又は[2]に記載の水素吸蔵材料。
[4]上記複合体を構成する上記金属酸化物における金属(I)と上記水素吸蔵金属ナノ粒子における金属(M)との組成比が、モル比換算で、M/(I+M)が0.1〜0.5である上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の水素吸蔵材料。
[5]上記複合体を構成する上記金属酸化物における金属(I)と上記水素吸蔵金属ナノ粒子における金属(M)との組成比が、モル比換算で、M/(I+M)が0.15〜0.35である上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の水素吸蔵材料。
[6]上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法であって、金属アルコキシ化合物と金属塩とを有機溶媒に溶解させて、前駆体溶液を調製する前駆体溶液調製工程と、上記前駆体溶液を濃縮又は上記有機溶媒を留去して、前駆体を合成する前駆体形成工程と、上記前駆体を加熱して、上記多孔基体骨格中に水素吸蔵金属ナノ粒子が分散された複合体を形成する熱処理工程と、を備えることを特徴とする水素吸蔵材料の製造方法。
[7]上記前駆体溶液調製工程において、更に過酸化水素を添加する上記[6]に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
[8]上記熱処理工程が、大気焼成工程と還元処理工程とを備える上記[6]又は[7]に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
[9]上記金属アルコキシ化合物が、Si(OR1)4である上記[6]乃至[8]のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1はお互いに同じでもよく、異なっていてもよい。)
[10]上記R1のアルキル基が、メチル基、エチル基及びプロピル基から選ばれた少なくとも1種である上記[9]に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
[11]上記大気焼成工程は、大気中において400〜1100℃の温度で焼成する上記[8]乃至[10]のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
[12]上記還元処理工程が、水素ガス流通中において300〜700℃の温度で焼成する上記[8]乃至[11]のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の金属添加アモルファス金属酸化物水素吸蔵材料によれば、水素吸蔵金属ナノ粒子は、ミクロポーラスアモルファス金属酸化物内に分散した複合体を形成し、分散した水素吸蔵金属ナノ粒子により、水素を効率的に吸蔵することができる。
【0007】
本発明の金属添加アモルファス金属酸化物水素吸蔵材料の製造方法によれば、粒径がナノメートルオーダーの平均粒子径を持つ水素吸蔵金属ナノ粒子はミクロポーラスアモルファス金属酸化物内に分散した複合体を形成することができる。
また、本発明の金属添加アモルファス金属酸化物水素吸蔵材料の製造方法によれば、水素吸蔵材料内に分散させる水素吸蔵金属ナノ粒子の粒子径の大きさを調整することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。
[1]水素吸蔵材料
本発明の水素吸蔵材料は、ミクロポーラスアモルファス金属酸化物からなる多孔基体と、該多孔基体中に分散された水素吸蔵金属ナノ粒子と、を備えた複合体からなり、上記金属酸化物は、シリカ、アルミナ及びシリカ−アルミナから選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする。
【0009】
ミクロポーラスアモルファス金属酸化物からなる上記多孔基体(以下、単に「多孔基体」ともいう。)は、3次元網目構造を有する。この多孔基体は、網目状に貫通する細孔を多数有し、連通経路が3次元網目構造を有する。
【0010】
上記「多孔基体」の細孔は、ミクロ径であり、通常、2nm以下である。この多孔基体の細孔の平均径は特に限定されないが、0.1〜2nmが好ましく、より好ましくは0.1〜1nmであり、更に好ましくは、0.1〜0.4nmであり、特に好ましくは、0.3〜0.4nmである。水素の分子径は、0.289nmであるため、細孔の平均径を0.3nmとする場合は、N2、Ar、COガスのように0.30nmより分子径の大きなガスは透過できないことから、分子篩効果により水素を選択できる。
【0011】
上記「金属酸化物」は、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナである。これらのうち好ましくは、シリカである。
【0012】
上記「水素吸蔵金属ナノ粒子」を構成する金属は、水素吸蔵性能があれば、特に限定されないが、遷移金属が好ましく、これらのうち特に、Co、Ni、Pd、Ru、Rh等の8族の元素が好ましく、これらのうち更にCo、Niが好ましい。また、分散する金属は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
尚、この金属ナノ粒子は、通常、金属のみからなるが、微量のその金属酸化物等を含んでもよい。
【0013】
上記水素吸蔵金属ナノ粒子の粒子径は、ナノ粒子径であれば特に限定されないが、金属粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1〜20nm、より好ましく0.1〜15nm、更に好ましくは0.1〜10nmである。
【0014】
上記水素吸蔵金属ナノ粒子は、どのように分散していてもよいが、上記水素吸蔵金属ナノ粒子が上記多孔基体に均一に分散されていることが好ましい。尚、水素吸蔵金属ナノ粒子が上記多孔基体の表面側に多く分散配設されるようにしてもよい。
【0015】
本発明の水素吸蔵材料の複合体を形成する上記金属酸化物における金属(I)及び上記水素吸蔵金属ナノ粒子における金属(M)との組成比M/(I+M)は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜1であり、より好ましくは0.1〜0.5、更に好ましくは0.15〜0.35である。また、上記水素吸蔵金属ナノ粒子を構成する金属が、Niの場合は0.15〜0.30が特に好ましく、Coの場合は、0.2〜0.35が特に好ましい。尚、組成比M/(I+M)はモル比である。
【0016】
上記水素吸蔵材料の形状は特に限定されない。目的、用途等に応じて選択されるが、破砕品、粉末、造粒品(球状、柱状等)、板状(平板、曲板等)、筒状(円筒、角筒等)、棒状、種々の成形品、及び支持体上に形成された膜状等とすることができる。
また、大きさも、目的、用途等に応じて選択される。
【0017】
[2]水素吸蔵材料の製造方法
本発明の水素吸蔵材料の製造方法は、上記水素吸蔵材料の製造方法であって、金属アルコキシ化合物と金属塩とを有機溶媒に溶解させて、前駆体溶液を調製する前駆体溶液調製工程と、上記前駆体溶液を濃縮又は上記有機溶媒を留去して、前駆体を合成する前駆体形成工程と、上記前駆体を加熱して、上記多孔基体骨格中に水素吸蔵金属ナノ粒子が分散された複合体を形成する熱処理工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
〔1〕前駆体溶液調製工程
金属アルコキシ化合物と上記所定の金属元素を含む金属塩とを有機溶媒に溶解させることにより前駆体溶液を調製する。
上記多孔基体の構成材料としてシリカを用いる場合には、下記一般式で与えられるアルコキシシラン化合物が好ましく、より好ましくは、下記アルキル基がメチル基、エチル基又はプロピル基(特にイソプロピル基)であり、更に好ましくはエチル基である。
Si(OR1)4(但し、式中のR1は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R1はお互いに同じでもよく、異なっていてもよい。)
また、上記多孔基体の構成材料としてアルミナを用いる場合には、下記一般式で与えられるアルコキシアルミニウム化合物が好ましく、より好ましくは、下記アルキル基がメチル基、エチル基又はプロピル基(特にイソプロピル基)であり、更に好ましくはイソプロピル基である。
Al(OR2)3(但し、式中のR2は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2はお互いに同じでもよく、異なっていてもよい。)
上記多孔基体の構成材料としてシリカ−アルミナを用いる場合には、Al−O−Si複合アルコキシドを用いることができるし、また、上記Si(OR1)4と上記Al(OR2)3との混合物等を用いることができる。
【0019】
上記金属塩を構成する金属としては、上記水素吸蔵金属ナノ粒子を構成する金属であり、遷移金属が好ましく、これらのうち特に、Co、Ni、Pd、Ru、Rh等の8族の元素が好ましく、これらのうち更にCo、Niが好ましい。
また、上記金属塩としては、硝酸塩、酢酸塩等が挙げられるが、好ましくは、硝酸塩である。尚、上記金属塩は含水塩でも無水塩でも構わない。
具体的には、Ni(NO3)2、Co(NO3)3又はこれらの水和物等が挙げられる。これらの金属塩は1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記前駆体溶液に含有される、上記金属アルコキシ化合物及び上記金属塩の含有割合は、上記モル組成比において目的とする水素吸蔵材料の組成比を得られるように調整する。
【0020】
上記有機溶媒としては、金属塩を溶解させる有機溶媒であれば特に限定されないが、好ましくは炭素数が1〜4の水溶性アルコールであり、より好ましくはメタノール、エタノール、プロピルアルコール(特にイソプロピルアルコール)である。上記有機溶媒の含有量は、1〜20mol/lが好ましく、より好ましくは1〜15mol/lである。
【0021】
上記前駆体溶液には、金属アルコキシ化合物を重合させる触媒を含有させることができる。この触媒としては、使用する有機溶媒に溶解するものであり、過酸化水素が挙げられる。その含有量は、上記金属アルコキシ化合物の含有量(mol)に対して、好ましくは1〜30倍mol、より好ましくは5〜20倍mol、更に好ましくは5〜15倍molである。この過酸化水素を用いることにより、均一で安定な前駆体溶液とすることができる。
また、この際、通常、水が添加されて、金属アルコキシドを重合させて骨格を形成させることとなる。そして、この骨格の内部に、金属イオンが配設保持されているものと考えられる。
【0022】
上記配合成分を所定量配合して混合する。この混合方法は、特に限定されないが、通常、攪拌により混合させる。この混合温度も特に限定されないが、通常、−5〜30℃であり、好ましくは−5〜20℃である。
上記範囲の温度において、1〜3時間攪拌を行なうことにより均一な上記前駆体溶液とすることができる。
【0023】
〔2〕前駆体形成工程
上記前駆体溶液を濃縮又は上記有機溶媒を留去する前駆体形成工程により前駆体が形成される。この前駆体形成工程は、通常、大気雰囲気下で行なわれる。前駆体形成工程における加熱温度は、通常、30〜100℃であり、好ましくは40〜80℃、更に好ましくは50〜70℃である。前駆体形成工程における加熱時間は、通常、1〜10日間、好ましくは4〜9日間、更に好ましくは5〜8日間である。また、この前駆体形成工程において、前駆体溶液の濃縮又は有機溶媒の留去等と共に金属アルコキシドが重合されて、Si−O−Si結合を持つ重合体が得られると考えられる。
【0024】
〔3〕熱処理工程
上記前駆体を加熱することにより複合体を形成させる。この熱処理工程は、金属塩を金属微粒子にまで還元するものであればよく、通常、大気焼成工程と還元処理工程とをこの順に備える。
【0025】
(1)大気焼成工程
本工程は、金属アルコキシドからアルコキシ基が脱離等をして、金属をIとした場合、I−O結合の三次元の網目状骨格が形成されるものである。また、金属硝酸塩の場合、硝酸イオンからNO−等が脱離して、ほとんどの金属硝酸塩から金属酸化物が形成されるものである。この大気焼成工程は、通常、大気雰囲気下で行なわれる。この焼成の加熱温度は、通常、400〜1100℃であり、好ましくは500〜700℃、更に好ましくは550〜650℃である。この範囲で熱処理することにより、効率よく骨格を形成することができる。尚、400℃未満では細孔の生成が不完全となり、一方、1100℃を越えると結晶化等を生じる傾向がある。また、加熱時間は、1〜8時間、好ましくは1〜5時間、好ましくは2〜4時間である。
また、本大気焼成工程において、金属アルコキシ化合物のアルコキシ基からのCO2の脱離と金属塩(硝酸塩)からのNOの脱離とが、ほぼ同温度で同時に行なわれ(図1及び図2参照)、I−O骨格が再配列及び形成されると同時に、水素吸蔵金属の微細酸化物が生成され、うまく骨格内に分散保持されるものと考えられる。
【0026】
(2)還元処理工程
上記大気焼成工程の後、更に、還元処理工程を備える。この工程により水素吸蔵金属の金属成分を金属にまで還元することができる。この還元処理工程における還元雰囲気は、水素を不活性ガス(窒素、アルゴン等)中に含む雰囲気、又は水素からなる雰囲気等とすることができ、通常、後者の雰囲気が用いられる。また、この雰囲気は、還元雰囲気ガスを流通させてもよいし、流通させなくてもよい。
この還元処理工程の加熱温度は、通常、300〜800℃であり、好ましくは400〜600℃、更に好ましくは450〜550℃である。また、加熱時間は、5〜30時間、好ましくは10〜20時間、更に好ましくは12〜18時間である。
尚、このように大気焼成及び還元処理工程の2工程を経なくても、使用金属によっては、高温加熱するだけで、金属微粒子が生成する場合においては、上記2工程は不要である。
【実施例】
【0027】
以下に、例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0028】
<実施例1>
(1)Ni−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料の製造
Si(OC2H5)4(TEOS)とNi(NO3)2・6H2Oとを、エタノールに溶解し、30質量%の過酸化水素水を添加し混合溶液を調製した。尚、Ni/(Si+Ni)組成比(以下、単にNi組成比ともいう。)が、0.1、0.2、0.33及び0.5になるように混合溶液を調製した。各組成比の配合を表1に示す。尚、過酸化水素1molに対して、水を2〜6mol、好ましくは、3〜5mol添加する。
その後、各組成比の混合溶液を氷冷中にて約2時間撹拌することにより、均一な前駆体溶液を得た。
上記前駆体溶液を大気雰囲気下において温度約60℃で、約1週間の熱処理を行った。そして、前駆体溶液は濃縮等がされ、前駆体(a)を得た。
【0029】
【表1】
【0030】
上記で得られた前駆体(a)を大気雰囲気下において温度約600℃で、約3時間焼成し粉末(b)を得た。その後、粉末(b)の還元処理を行なった。還元処理は、上記粉末(b)を水素気流中において温度約500℃、約15時間焼成する還元焼成により行なった。
以上より、Ni−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料を得た。
【0031】
(2)TG−DTA−Massスペクトル結果
Ni組成比0.1の上記前駆体(a)試料について、TG−DTAを図1に、Massスペクトルを図2に示す。
図1より約300℃において、DTAでは吸熱ピークが観測されること、及び図2の質量スペクトルの測定からMass=30のフラグメントが脱離していることから、イオン状態で存在する硝酸ニッケルの分解に伴うNOの脱離が進行していることが確認できた。また、同時にCO2のMass=44のフラグメントが脱離することから、Si−Ni−O複合化部分のエトキシ基の脱離も進行していることが分かる。
以上のことから、エトキシ基とNO基が同時に脱離することでシリカネットワークの再構築とシリカ中でのNiO粒子の均一析出化が同時に形成し、その結果、NiOナノ粒子分散アモルファスシリカが合成できたと考えられる。
【0032】
(3)還元処理前後のXRDスペクトル結果
次に、上記粉末(b)のXRD測定(理学製:Rint2000)を行った。測定したXRDスペクトルを図3に示す。Ni組成比0.1、0.2、0.33及び0.5のいずれの場合もアモルファスシリカとNiOとが生成した。
次にNiOナノ粒子をNi粒子に還元するため、上記粉末(b)(NiOナノ粒子分散シリカ)を温度約500℃において水素気流中にて還元処理を行った。水素気流中で熱処理した各試料のXRD解析結果を図4に示す。還元処理したNi組成比0.1、0.2、0.33及び0.5の試料は、それぞれ、アモルファスシリカのピークに加え、Niのピークも存在していた。
【0033】
(4)Ni−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体の微細構造
上記のようにして得られたNi−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体について、Ni組成比が0.1、0.2及び0.33における電子顕微鏡観察(日本電子株式会社製:JEM3000F)を行った。Ni組成比が0.1の微構造を図5に、0.2の微構造を図6に、0.33の微構造を図7に示す。図中において、黒いコントラスト部分がNi粒子である。
図5から図7よりシリカマトリックス中に分散したNi粒子が観察された。また、Ni添加量が増加するにつれて、アモルファスシリカマトリックス内にその場形成されたNi量も増加することがわかる。更に、Ni添加量を増加させた場合においても、シリカマトリックス中にNi粒子が分散していることが確認できた。
【0034】
(5)Niナノ粒子の平均粒子径測定評価
上記のようにして得られたNi−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体内に分散されるNiナノ粒子の平均粒子径を測定した。測定方法は、ニッケル粒子の粒子径をTEM像より読み取り、統計的に粒子径分布をプロットした結果より算出した。粒子径プロットの結果について、Ni組成比0.1を図8、0.2を図9及び0.33を図10に示す。
測定結果より、各Ni組成比におけるNiナノ粒子の平均粒子径は、Ni組成比0.1は2.3nm、Ni組成比0.2は3.6nm、及びNi組成比0.33は4.3nmであった。
以上より、上記のようにして得られたNi−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体が、ナノメートルオーダーのNi粒子がアモルファスシリカ内に分散する複合体であることが確認できた。更に、Ni組成比を大きくすることにより、アモルファスシリカ内に分散するNi粒子の平均粒子径を大きくすることができ、粒径制御も可能であることが確認できた。
【0035】
(6)水素吸着(吸蔵)測定方法
上記Ni−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料について、測定温度30℃、150℃及び300℃における水素吸蔵量測定により評価を行なった。
この測定法は、「JIS H 7201 水素吸蔵合金のPCT特性の測定方法」に順じた方法により行った。試料管に封入したサンプルを、試料管温度400℃において最初に1時間水素雰囲気中(0.1MPa程度)で活性化後、2時間真空加熱(同じく350℃、10−3Torr程度)を行った。その後、各測定温度で、水素を10MPaまで導入し、降圧についても同様に設定した。300℃及び150℃については、加熱ヒーターブロックで試料管の温度を確認しながらの温調を行い、30℃については恒温水槽(温調精度0.01℃)を用いて温度調節を行ないながら計測を行った。圧力を設定した後、平衡圧力の判定基準は試料管圧力付加時間(平衡時間)420sec(7分)に対し、判定圧力を0.0020MPaとした。即ち加圧時420sec内に圧力変化幅が0.0020MPaであるかどうかを判定し、判定圧力を超えれば再度安定まで判定計測を続けた。
【0036】
(7)水素吸蔵特性結果
Ni組成比が0.1、0.2及び0.33の水素吸蔵特性結果を図11、図12及び図13並びにNiを含まないシリカ単独の水素吸蔵特性結果を図14に示す。
(i)金属粒子が含有されていないSiO2多孔体について(図14参照)
30℃での測定温度におけるシリカ単独の場合には、2MPaまでの水素吸蔵量は約0.02wt%であり、10MPaまでの水素吸蔵量は約0.1wt%であった。
(ii)Ni粒子含有複合体について(図11〜13参照)
(a)30℃での測定温度における各組成比での2MPaまでの水素吸蔵量及び10MPaまでの水素吸蔵量は順次以下の結果であった。
Ni組成比0.1の場合:0.055wt%、0.13wt%。
Ni組成比0.2の場合:0.09wt%、0.16wt%。
Ni組成比0.33の場合:0.10wt%、0.15wt%。
(b)150℃での測定温度における各組成比での2MPaまでの水素吸蔵量及び10MPaまでの水素吸蔵量は以下の結果であった。
Ni組成比0.1の場合:0.035wt%、0.09wt%。
Ni組成比0.2の場合:0.05wt%、0.11wt%。
Ni組成比0.33の場合:0.05wt%、0.10wt%。
(C)300℃での測定温度における各組成比での2MPaまでの水素吸蔵量及び10MPaまでの水素吸蔵量は以下の結果であった。
Ni組成比0.1の場合:0.015wt%、0.04wt%。
Ni組成比0.2の場合:0.05wt%、0.10wt%。
Ni組成比0.33の場合:0.05wt%、0.09wt%。
【0037】
(8)水素吸蔵特性の評価について
Ni組成比0.1のNi−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合粉末の水素吸蔵特性結果から、30℃の測定温度における10MPaでの水素吸蔵量は0.13wt%であった。
Ni組成比0.2及び0.33のNi−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合粉末の水素吸蔵特性は、Ni組成比0.2及び0.33において、150℃、300℃いずれの測定温度においても2MPaまでは,水素吸蔵量が増加し,10MPaでは、Ni組成比0.2及び0.33のいずれも0.1wt%以上の水素吸蔵量が得られた。更に、Ni組成比0.33では、30℃の測定温度において,2MPaで0.10wt%の高い水素吸蔵量が得られ、30℃の測定温度において,最も高い水素吸蔵量であった。2MPaでのシリカ単独と比較した場合、Ni組成比0.33の金属添加アモルファス金属酸化物とすることにより、約5倍の水素吸蔵量が得られた。また、Ni組成比0.2では、30℃の測定温度において、10MPaで、0.16wt%以上の高い水素吸蔵量が得られた。
以上から、本発明の金属添加アモルファス金属酸化物水素吸蔵材料が水素吸蔵に優れることが分かる。
【0038】
(9)水素吸着量の計算について
更に、水素吸着サイトの計算を以下のように行った。
シリカ内部に分散しているニッケルナノ粒子とシリカの界面に水素が吸着しているとして、見積もられる水素吸着量を計算した。Ni組成比が、0.1、0.2及び0.33のときのニッケル粒子の粒子径をTEM像より読み取り、統計的に粒子径分布をプロットした結果、平均粒子径は、それぞれ、2.3nm、3.6nm、4.3nmであった。
各平均粒子径の粒子の表面積を求め、添加したNi量から、シリカ中にナノ粒子が分散すると仮定した時のNi粒子表面に吸着する水素量を計算した。水素が、ニッケル粒子に1個吸着した場合の水素1原子が占めるニッケル粒子上での占有面積を6.49×10−20m2として計算した。全ナノ粒子−シリカ界面に一層吸着するとして見積もった水素量は、測定温度500℃において、Ni組成比が、0.1、0.2及び0.3のときの水素吸蔵量は、0.037wt%、0.047wt%及び0.065wt%である。30℃において、水素圧力が2MPa以上では、これらの値より高い吸蔵量(0.1wt%以上)が得られているので、水素は、Niナノ粒子の表面に1層のみではなく、多層に吸蔵できることが示唆された。これは、Niナノ粒子分散シリカコンポジット試料としての複合化の寄与と考えられる。
また、Ni組成比0.2では、30℃の測定温度において、水素圧力が10MPaで高い水素吸蔵量が得られ、Ni組成比0.33では、水素圧力が2MPaで高い水素吸蔵量が得られていることから、分散Ni粒子の平均粒子径が、3.6〜4.3nmにおいて、Niナノ粒子分散シリカコンポジット試料としての複合化の寄与が優れていると考えられる。
【0039】
<実施例2>
[1]Co−アモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料の作製
Si(OC2H5)4(TEOS)とCo(NO3)2・6H2Oとを、エタノールに溶解し、30質量%の過酸化水素水を添加し混合溶液を調製した。尚、Co/(Si+Co)組成比(以下、単にCo組成比ともいう。)が、0.2及び0.33になるように混合溶液を調製した。各組成比の配合を表2に示す。
その後、各組成比の混合溶液を氷冷中にて2時間撹拌することにより、均一なSi−Co−O前駆体溶液を得た。
その後、上記実施1と同様に重合処理、大気焼成及び還元焼成等を行ない、Co−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料を得た。
【0040】
【表2】
【0041】
[2]Co−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体評価
(1)還元処理前後のXRDスペクトル評価
実施例1と同様に、600℃大気中熱処理後の前駆体のXRDスペクトル調べた。その結果(図15)によると、Co組成比0.2及び0.33のいずれの場合もアモルファスシリカとCo3O4とが生成が確認できた。
次にCo3O4ナノ粒子をCo粒子に還元するため、Co3O4ナノ粒子分散シリカを500℃水素気流中にて還元処理を行った。水素気流中で熱処理した各試料のXRDスペクトルを調べた。その結果(図16)より、還元処理したCo組成比0.2及び0.33組成の試料は、それぞれ、アモルファスシリカのピークに加え、Coのピークが存在していた。尚、不純物としての微量のCoOのピークが検出されている。
【0042】
(2)Co−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体の微細構造評価
上記のようにして得られたCo−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体をCo組成比が0.33である複合体を高分解能透過電子顕微鏡により観察した。Co組成比が0.33の微構造を図17に示す。その結果より、実施例1のNiの場合と同様に、シリカマトリックス中に分散したCo粒子が観察された。図中において、黒いコントラストがCo粒子である。
【0043】
(3)Co−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料の水素吸蔵結果
Co組成比0.33及び0.2の水素吸蔵特性結果を図18及び図19に示す。
30℃での測定温度における各組成比での2MPaまでの水素吸蔵量及び10MPaまでの水素吸蔵量は以下の結果であった。
Co組成比0.33の場合:0.06wt%、0.19wt%。
Co組成比0.2の場合:0.06wt%、0.13wt%。
【0044】
(4)水素吸蔵特性の評価について
30℃での測定温度におけるシリカ単独の場合には、2MPaまでの水素吸蔵量は約0.02wt%であり、10MPaまでの水素吸蔵量は約0.1wt%であるのに対して、Co組成比が0.2〜0.33となるようにCoを添加することにより、水素吸蔵量は優れることが分かり、更に、30℃の測定温度における水素吸蔵量は優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は水素ガスの貯蔵及び輸送を用いる分野で広く利用される。即ち、例えば、水素吸蔵材及び燃料電池等において用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】Ni−アモルファスシリカ複合体の前駆体のTG−DTAを示すグラフである。
【図2】Ni−アモルファスシリカ複合体の前駆体のMASSスペクトルを示すグラフである。
【図3】大気焼成後であり還元処理前の前駆体(b)のXRD回折パターンを示す。
【図4】還元処理後のNi−アモルファスシリカ複合体のXRD回折パターンを示す。
【図5】組成比0.1のNi−アモルファスシリカ複合体粉末の透過電子顕微鏡像である。
【図6】組成比0.2のNi−アモルファスシリカ複合体粉末の透過電子顕微鏡像である。
【図7】組成比0.33のNi−アモルファスシリカ複合体粉末の透過電子顕微鏡像である。
【図8】組成比0.1のNi−アモルファスシリカ複合体におけるNi粒子径分布プロットを示すグラフである。
【図9】組成比0.2のNi−アモルファスシリカ複合体におけるNi粒子径分布プロットを示すグラフである。
【図10】組成比0.33のNi−アモルファスシリカ複合体におけるNi粒子径分布プロットを示すグラフである。
【図11】組成比0.1のNi−アモルファスシリカ複合体の水素吸蔵量を示すグラフである。
【図12】組成比0.2のNi−アモルファスシリカ複合体の水素吸蔵量を示すグラフである。
【図13】組成比0.33のNi−アモルファスシリカ複合体の水素吸蔵量を示すグラフである。
【図14】アモルファスシリカのみの水素吸蔵量を示すグラフである。
【図15】大気焼成後であり還元処理前のCo−アモルファスシリカ複合体の前駆体のXRD回折パターンを示す。
【図16】還元処理後のCo−アモルファスシリカ複合体のXRD回折パターンを示す。
【図17】組成比0.33のCo−アモルファスシリカ複合体粉末の透過電子顕微鏡像である。
【図18】組成比0.33のCo−アモルファスシリカ複合体の水素吸蔵量を示すグラフである。
【図19】組成比0.2のCo−アモルファスシリカ複合体の水素吸蔵量を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵材料及びその製造方法に関し、更に詳しくは、本発明は、軽量であり、且つ、化学的安定性に優れた金属添加アモルファス金属酸化物水素吸蔵材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーとして注目されている水素を利用した環境低負荷型エネルギーシステムの構築に強い関心が集まっており、水素を燃料とする高効率燃料電池システム技術の確立と、その実用化とに対する期待が高まっている。燃料としての水素を貯蔵及び輸送するためには、従来では、圧縮水素ガスによる貯蔵及び高圧ボンベ等による輸送が行なわれているが、ボンベの重量は重い。一方、燃料としての水素を液体水素として貯蔵し、輸送する場合、液体水素の密度は、70.8kg/m3であるため、水素ガスの1/850の体積となり、高重量エネルギー密度で、液体水素は圧縮水素よりコンパクトになる。しかし、水素の液化には、多大の電力と費用を要し、漏洩等の問題点もある。
また、LaNi5、TiFeなどの水素吸蔵合金(特許文献1参照)は、多量の水素を可逆的に吸収・放出する合金であり、合金が水素ガスと反応する。しかし、水素吸蔵合金は、水素化の過程でひび割れをおこし、水素吸収と放出との繰り返しにより微粉化が進む場合がある。また、金属であるため重量が大きい、更に水素吸蔵合金は高価であるため設備費が高くなる等の問題点がある。
【0003】
【特許文献1】特開平09−025529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、軽量であり且つ安価であり、更に化学的安定性に優れた水素吸蔵材料とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の通りである。
[1]ミクロポーラスアモルファス金属酸化物からなる多孔基体と、該多孔基体中に分散された水素吸蔵金属ナノ粒子と、を備えた複合体からなり、上記金属酸化物は、シリカ、アルミナ及びシリカ−アルミナから選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする水素吸蔵材料。
[2]上記水素吸蔵金属ナノ粒子を構成する金属元素が、ニッケル及び/又はコバルトである上記[1]に記載の水素吸蔵材料。
[3]上記水素吸蔵金属ナノ粒子の平均粒子径が、0.1〜10nmである上記[1]又は[2]に記載の水素吸蔵材料。
[4]上記複合体を構成する上記金属酸化物における金属(I)と上記水素吸蔵金属ナノ粒子における金属(M)との組成比が、モル比換算で、M/(I+M)が0.1〜0.5である上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の水素吸蔵材料。
[5]上記複合体を構成する上記金属酸化物における金属(I)と上記水素吸蔵金属ナノ粒子における金属(M)との組成比が、モル比換算で、M/(I+M)が0.15〜0.35である上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の水素吸蔵材料。
[6]上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法であって、金属アルコキシ化合物と金属塩とを有機溶媒に溶解させて、前駆体溶液を調製する前駆体溶液調製工程と、上記前駆体溶液を濃縮又は上記有機溶媒を留去して、前駆体を合成する前駆体形成工程と、上記前駆体を加熱して、上記多孔基体骨格中に水素吸蔵金属ナノ粒子が分散された複合体を形成する熱処理工程と、を備えることを特徴とする水素吸蔵材料の製造方法。
[7]上記前駆体溶液調製工程において、更に過酸化水素を添加する上記[6]に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
[8]上記熱処理工程が、大気焼成工程と還元処理工程とを備える上記[6]又は[7]に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
[9]上記金属アルコキシ化合物が、Si(OR1)4である上記[6]乃至[8]のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1はお互いに同じでもよく、異なっていてもよい。)
[10]上記R1のアルキル基が、メチル基、エチル基及びプロピル基から選ばれた少なくとも1種である上記[9]に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
[11]上記大気焼成工程は、大気中において400〜1100℃の温度で焼成する上記[8]乃至[10]のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
[12]上記還元処理工程が、水素ガス流通中において300〜700℃の温度で焼成する上記[8]乃至[11]のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の金属添加アモルファス金属酸化物水素吸蔵材料によれば、水素吸蔵金属ナノ粒子は、ミクロポーラスアモルファス金属酸化物内に分散した複合体を形成し、分散した水素吸蔵金属ナノ粒子により、水素を効率的に吸蔵することができる。
【0007】
本発明の金属添加アモルファス金属酸化物水素吸蔵材料の製造方法によれば、粒径がナノメートルオーダーの平均粒子径を持つ水素吸蔵金属ナノ粒子はミクロポーラスアモルファス金属酸化物内に分散した複合体を形成することができる。
また、本発明の金属添加アモルファス金属酸化物水素吸蔵材料の製造方法によれば、水素吸蔵材料内に分散させる水素吸蔵金属ナノ粒子の粒子径の大きさを調整することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。
[1]水素吸蔵材料
本発明の水素吸蔵材料は、ミクロポーラスアモルファス金属酸化物からなる多孔基体と、該多孔基体中に分散された水素吸蔵金属ナノ粒子と、を備えた複合体からなり、上記金属酸化物は、シリカ、アルミナ及びシリカ−アルミナから選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする。
【0009】
ミクロポーラスアモルファス金属酸化物からなる上記多孔基体(以下、単に「多孔基体」ともいう。)は、3次元網目構造を有する。この多孔基体は、網目状に貫通する細孔を多数有し、連通経路が3次元網目構造を有する。
【0010】
上記「多孔基体」の細孔は、ミクロ径であり、通常、2nm以下である。この多孔基体の細孔の平均径は特に限定されないが、0.1〜2nmが好ましく、より好ましくは0.1〜1nmであり、更に好ましくは、0.1〜0.4nmであり、特に好ましくは、0.3〜0.4nmである。水素の分子径は、0.289nmであるため、細孔の平均径を0.3nmとする場合は、N2、Ar、COガスのように0.30nmより分子径の大きなガスは透過できないことから、分子篩効果により水素を選択できる。
【0011】
上記「金属酸化物」は、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナである。これらのうち好ましくは、シリカである。
【0012】
上記「水素吸蔵金属ナノ粒子」を構成する金属は、水素吸蔵性能があれば、特に限定されないが、遷移金属が好ましく、これらのうち特に、Co、Ni、Pd、Ru、Rh等の8族の元素が好ましく、これらのうち更にCo、Niが好ましい。また、分散する金属は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
尚、この金属ナノ粒子は、通常、金属のみからなるが、微量のその金属酸化物等を含んでもよい。
【0013】
上記水素吸蔵金属ナノ粒子の粒子径は、ナノ粒子径であれば特に限定されないが、金属粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1〜20nm、より好ましく0.1〜15nm、更に好ましくは0.1〜10nmである。
【0014】
上記水素吸蔵金属ナノ粒子は、どのように分散していてもよいが、上記水素吸蔵金属ナノ粒子が上記多孔基体に均一に分散されていることが好ましい。尚、水素吸蔵金属ナノ粒子が上記多孔基体の表面側に多く分散配設されるようにしてもよい。
【0015】
本発明の水素吸蔵材料の複合体を形成する上記金属酸化物における金属(I)及び上記水素吸蔵金属ナノ粒子における金属(M)との組成比M/(I+M)は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜1であり、より好ましくは0.1〜0.5、更に好ましくは0.15〜0.35である。また、上記水素吸蔵金属ナノ粒子を構成する金属が、Niの場合は0.15〜0.30が特に好ましく、Coの場合は、0.2〜0.35が特に好ましい。尚、組成比M/(I+M)はモル比である。
【0016】
上記水素吸蔵材料の形状は特に限定されない。目的、用途等に応じて選択されるが、破砕品、粉末、造粒品(球状、柱状等)、板状(平板、曲板等)、筒状(円筒、角筒等)、棒状、種々の成形品、及び支持体上に形成された膜状等とすることができる。
また、大きさも、目的、用途等に応じて選択される。
【0017】
[2]水素吸蔵材料の製造方法
本発明の水素吸蔵材料の製造方法は、上記水素吸蔵材料の製造方法であって、金属アルコキシ化合物と金属塩とを有機溶媒に溶解させて、前駆体溶液を調製する前駆体溶液調製工程と、上記前駆体溶液を濃縮又は上記有機溶媒を留去して、前駆体を合成する前駆体形成工程と、上記前駆体を加熱して、上記多孔基体骨格中に水素吸蔵金属ナノ粒子が分散された複合体を形成する熱処理工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
〔1〕前駆体溶液調製工程
金属アルコキシ化合物と上記所定の金属元素を含む金属塩とを有機溶媒に溶解させることにより前駆体溶液を調製する。
上記多孔基体の構成材料としてシリカを用いる場合には、下記一般式で与えられるアルコキシシラン化合物が好ましく、より好ましくは、下記アルキル基がメチル基、エチル基又はプロピル基(特にイソプロピル基)であり、更に好ましくはエチル基である。
Si(OR1)4(但し、式中のR1は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R1はお互いに同じでもよく、異なっていてもよい。)
また、上記多孔基体の構成材料としてアルミナを用いる場合には、下記一般式で与えられるアルコキシアルミニウム化合物が好ましく、より好ましくは、下記アルキル基がメチル基、エチル基又はプロピル基(特にイソプロピル基)であり、更に好ましくはイソプロピル基である。
Al(OR2)3(但し、式中のR2は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2はお互いに同じでもよく、異なっていてもよい。)
上記多孔基体の構成材料としてシリカ−アルミナを用いる場合には、Al−O−Si複合アルコキシドを用いることができるし、また、上記Si(OR1)4と上記Al(OR2)3との混合物等を用いることができる。
【0019】
上記金属塩を構成する金属としては、上記水素吸蔵金属ナノ粒子を構成する金属であり、遷移金属が好ましく、これらのうち特に、Co、Ni、Pd、Ru、Rh等の8族の元素が好ましく、これらのうち更にCo、Niが好ましい。
また、上記金属塩としては、硝酸塩、酢酸塩等が挙げられるが、好ましくは、硝酸塩である。尚、上記金属塩は含水塩でも無水塩でも構わない。
具体的には、Ni(NO3)2、Co(NO3)3又はこれらの水和物等が挙げられる。これらの金属塩は1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記前駆体溶液に含有される、上記金属アルコキシ化合物及び上記金属塩の含有割合は、上記モル組成比において目的とする水素吸蔵材料の組成比を得られるように調整する。
【0020】
上記有機溶媒としては、金属塩を溶解させる有機溶媒であれば特に限定されないが、好ましくは炭素数が1〜4の水溶性アルコールであり、より好ましくはメタノール、エタノール、プロピルアルコール(特にイソプロピルアルコール)である。上記有機溶媒の含有量は、1〜20mol/lが好ましく、より好ましくは1〜15mol/lである。
【0021】
上記前駆体溶液には、金属アルコキシ化合物を重合させる触媒を含有させることができる。この触媒としては、使用する有機溶媒に溶解するものであり、過酸化水素が挙げられる。その含有量は、上記金属アルコキシ化合物の含有量(mol)に対して、好ましくは1〜30倍mol、より好ましくは5〜20倍mol、更に好ましくは5〜15倍molである。この過酸化水素を用いることにより、均一で安定な前駆体溶液とすることができる。
また、この際、通常、水が添加されて、金属アルコキシドを重合させて骨格を形成させることとなる。そして、この骨格の内部に、金属イオンが配設保持されているものと考えられる。
【0022】
上記配合成分を所定量配合して混合する。この混合方法は、特に限定されないが、通常、攪拌により混合させる。この混合温度も特に限定されないが、通常、−5〜30℃であり、好ましくは−5〜20℃である。
上記範囲の温度において、1〜3時間攪拌を行なうことにより均一な上記前駆体溶液とすることができる。
【0023】
〔2〕前駆体形成工程
上記前駆体溶液を濃縮又は上記有機溶媒を留去する前駆体形成工程により前駆体が形成される。この前駆体形成工程は、通常、大気雰囲気下で行なわれる。前駆体形成工程における加熱温度は、通常、30〜100℃であり、好ましくは40〜80℃、更に好ましくは50〜70℃である。前駆体形成工程における加熱時間は、通常、1〜10日間、好ましくは4〜9日間、更に好ましくは5〜8日間である。また、この前駆体形成工程において、前駆体溶液の濃縮又は有機溶媒の留去等と共に金属アルコキシドが重合されて、Si−O−Si結合を持つ重合体が得られると考えられる。
【0024】
〔3〕熱処理工程
上記前駆体を加熱することにより複合体を形成させる。この熱処理工程は、金属塩を金属微粒子にまで還元するものであればよく、通常、大気焼成工程と還元処理工程とをこの順に備える。
【0025】
(1)大気焼成工程
本工程は、金属アルコキシドからアルコキシ基が脱離等をして、金属をIとした場合、I−O結合の三次元の網目状骨格が形成されるものである。また、金属硝酸塩の場合、硝酸イオンからNO−等が脱離して、ほとんどの金属硝酸塩から金属酸化物が形成されるものである。この大気焼成工程は、通常、大気雰囲気下で行なわれる。この焼成の加熱温度は、通常、400〜1100℃であり、好ましくは500〜700℃、更に好ましくは550〜650℃である。この範囲で熱処理することにより、効率よく骨格を形成することができる。尚、400℃未満では細孔の生成が不完全となり、一方、1100℃を越えると結晶化等を生じる傾向がある。また、加熱時間は、1〜8時間、好ましくは1〜5時間、好ましくは2〜4時間である。
また、本大気焼成工程において、金属アルコキシ化合物のアルコキシ基からのCO2の脱離と金属塩(硝酸塩)からのNOの脱離とが、ほぼ同温度で同時に行なわれ(図1及び図2参照)、I−O骨格が再配列及び形成されると同時に、水素吸蔵金属の微細酸化物が生成され、うまく骨格内に分散保持されるものと考えられる。
【0026】
(2)還元処理工程
上記大気焼成工程の後、更に、還元処理工程を備える。この工程により水素吸蔵金属の金属成分を金属にまで還元することができる。この還元処理工程における還元雰囲気は、水素を不活性ガス(窒素、アルゴン等)中に含む雰囲気、又は水素からなる雰囲気等とすることができ、通常、後者の雰囲気が用いられる。また、この雰囲気は、還元雰囲気ガスを流通させてもよいし、流通させなくてもよい。
この還元処理工程の加熱温度は、通常、300〜800℃であり、好ましくは400〜600℃、更に好ましくは450〜550℃である。また、加熱時間は、5〜30時間、好ましくは10〜20時間、更に好ましくは12〜18時間である。
尚、このように大気焼成及び還元処理工程の2工程を経なくても、使用金属によっては、高温加熱するだけで、金属微粒子が生成する場合においては、上記2工程は不要である。
【実施例】
【0027】
以下に、例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0028】
<実施例1>
(1)Ni−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料の製造
Si(OC2H5)4(TEOS)とNi(NO3)2・6H2Oとを、エタノールに溶解し、30質量%の過酸化水素水を添加し混合溶液を調製した。尚、Ni/(Si+Ni)組成比(以下、単にNi組成比ともいう。)が、0.1、0.2、0.33及び0.5になるように混合溶液を調製した。各組成比の配合を表1に示す。尚、過酸化水素1molに対して、水を2〜6mol、好ましくは、3〜5mol添加する。
その後、各組成比の混合溶液を氷冷中にて約2時間撹拌することにより、均一な前駆体溶液を得た。
上記前駆体溶液を大気雰囲気下において温度約60℃で、約1週間の熱処理を行った。そして、前駆体溶液は濃縮等がされ、前駆体(a)を得た。
【0029】
【表1】
【0030】
上記で得られた前駆体(a)を大気雰囲気下において温度約600℃で、約3時間焼成し粉末(b)を得た。その後、粉末(b)の還元処理を行なった。還元処理は、上記粉末(b)を水素気流中において温度約500℃、約15時間焼成する還元焼成により行なった。
以上より、Ni−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料を得た。
【0031】
(2)TG−DTA−Massスペクトル結果
Ni組成比0.1の上記前駆体(a)試料について、TG−DTAを図1に、Massスペクトルを図2に示す。
図1より約300℃において、DTAでは吸熱ピークが観測されること、及び図2の質量スペクトルの測定からMass=30のフラグメントが脱離していることから、イオン状態で存在する硝酸ニッケルの分解に伴うNOの脱離が進行していることが確認できた。また、同時にCO2のMass=44のフラグメントが脱離することから、Si−Ni−O複合化部分のエトキシ基の脱離も進行していることが分かる。
以上のことから、エトキシ基とNO基が同時に脱離することでシリカネットワークの再構築とシリカ中でのNiO粒子の均一析出化が同時に形成し、その結果、NiOナノ粒子分散アモルファスシリカが合成できたと考えられる。
【0032】
(3)還元処理前後のXRDスペクトル結果
次に、上記粉末(b)のXRD測定(理学製:Rint2000)を行った。測定したXRDスペクトルを図3に示す。Ni組成比0.1、0.2、0.33及び0.5のいずれの場合もアモルファスシリカとNiOとが生成した。
次にNiOナノ粒子をNi粒子に還元するため、上記粉末(b)(NiOナノ粒子分散シリカ)を温度約500℃において水素気流中にて還元処理を行った。水素気流中で熱処理した各試料のXRD解析結果を図4に示す。還元処理したNi組成比0.1、0.2、0.33及び0.5の試料は、それぞれ、アモルファスシリカのピークに加え、Niのピークも存在していた。
【0033】
(4)Ni−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体の微細構造
上記のようにして得られたNi−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体について、Ni組成比が0.1、0.2及び0.33における電子顕微鏡観察(日本電子株式会社製:JEM3000F)を行った。Ni組成比が0.1の微構造を図5に、0.2の微構造を図6に、0.33の微構造を図7に示す。図中において、黒いコントラスト部分がNi粒子である。
図5から図7よりシリカマトリックス中に分散したNi粒子が観察された。また、Ni添加量が増加するにつれて、アモルファスシリカマトリックス内にその場形成されたNi量も増加することがわかる。更に、Ni添加量を増加させた場合においても、シリカマトリックス中にNi粒子が分散していることが確認できた。
【0034】
(5)Niナノ粒子の平均粒子径測定評価
上記のようにして得られたNi−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体内に分散されるNiナノ粒子の平均粒子径を測定した。測定方法は、ニッケル粒子の粒子径をTEM像より読み取り、統計的に粒子径分布をプロットした結果より算出した。粒子径プロットの結果について、Ni組成比0.1を図8、0.2を図9及び0.33を図10に示す。
測定結果より、各Ni組成比におけるNiナノ粒子の平均粒子径は、Ni組成比0.1は2.3nm、Ni組成比0.2は3.6nm、及びNi組成比0.33は4.3nmであった。
以上より、上記のようにして得られたNi−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体が、ナノメートルオーダーのNi粒子がアモルファスシリカ内に分散する複合体であることが確認できた。更に、Ni組成比を大きくすることにより、アモルファスシリカ内に分散するNi粒子の平均粒子径を大きくすることができ、粒径制御も可能であることが確認できた。
【0035】
(6)水素吸着(吸蔵)測定方法
上記Ni−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料について、測定温度30℃、150℃及び300℃における水素吸蔵量測定により評価を行なった。
この測定法は、「JIS H 7201 水素吸蔵合金のPCT特性の測定方法」に順じた方法により行った。試料管に封入したサンプルを、試料管温度400℃において最初に1時間水素雰囲気中(0.1MPa程度)で活性化後、2時間真空加熱(同じく350℃、10−3Torr程度)を行った。その後、各測定温度で、水素を10MPaまで導入し、降圧についても同様に設定した。300℃及び150℃については、加熱ヒーターブロックで試料管の温度を確認しながらの温調を行い、30℃については恒温水槽(温調精度0.01℃)を用いて温度調節を行ないながら計測を行った。圧力を設定した後、平衡圧力の判定基準は試料管圧力付加時間(平衡時間)420sec(7分)に対し、判定圧力を0.0020MPaとした。即ち加圧時420sec内に圧力変化幅が0.0020MPaであるかどうかを判定し、判定圧力を超えれば再度安定まで判定計測を続けた。
【0036】
(7)水素吸蔵特性結果
Ni組成比が0.1、0.2及び0.33の水素吸蔵特性結果を図11、図12及び図13並びにNiを含まないシリカ単独の水素吸蔵特性結果を図14に示す。
(i)金属粒子が含有されていないSiO2多孔体について(図14参照)
30℃での測定温度におけるシリカ単独の場合には、2MPaまでの水素吸蔵量は約0.02wt%であり、10MPaまでの水素吸蔵量は約0.1wt%であった。
(ii)Ni粒子含有複合体について(図11〜13参照)
(a)30℃での測定温度における各組成比での2MPaまでの水素吸蔵量及び10MPaまでの水素吸蔵量は順次以下の結果であった。
Ni組成比0.1の場合:0.055wt%、0.13wt%。
Ni組成比0.2の場合:0.09wt%、0.16wt%。
Ni組成比0.33の場合:0.10wt%、0.15wt%。
(b)150℃での測定温度における各組成比での2MPaまでの水素吸蔵量及び10MPaまでの水素吸蔵量は以下の結果であった。
Ni組成比0.1の場合:0.035wt%、0.09wt%。
Ni組成比0.2の場合:0.05wt%、0.11wt%。
Ni組成比0.33の場合:0.05wt%、0.10wt%。
(C)300℃での測定温度における各組成比での2MPaまでの水素吸蔵量及び10MPaまでの水素吸蔵量は以下の結果であった。
Ni組成比0.1の場合:0.015wt%、0.04wt%。
Ni組成比0.2の場合:0.05wt%、0.10wt%。
Ni組成比0.33の場合:0.05wt%、0.09wt%。
【0037】
(8)水素吸蔵特性の評価について
Ni組成比0.1のNi−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合粉末の水素吸蔵特性結果から、30℃の測定温度における10MPaでの水素吸蔵量は0.13wt%であった。
Ni組成比0.2及び0.33のNi−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合粉末の水素吸蔵特性は、Ni組成比0.2及び0.33において、150℃、300℃いずれの測定温度においても2MPaまでは,水素吸蔵量が増加し,10MPaでは、Ni組成比0.2及び0.33のいずれも0.1wt%以上の水素吸蔵量が得られた。更に、Ni組成比0.33では、30℃の測定温度において,2MPaで0.10wt%の高い水素吸蔵量が得られ、30℃の測定温度において,最も高い水素吸蔵量であった。2MPaでのシリカ単独と比較した場合、Ni組成比0.33の金属添加アモルファス金属酸化物とすることにより、約5倍の水素吸蔵量が得られた。また、Ni組成比0.2では、30℃の測定温度において、10MPaで、0.16wt%以上の高い水素吸蔵量が得られた。
以上から、本発明の金属添加アモルファス金属酸化物水素吸蔵材料が水素吸蔵に優れることが分かる。
【0038】
(9)水素吸着量の計算について
更に、水素吸着サイトの計算を以下のように行った。
シリカ内部に分散しているニッケルナノ粒子とシリカの界面に水素が吸着しているとして、見積もられる水素吸着量を計算した。Ni組成比が、0.1、0.2及び0.33のときのニッケル粒子の粒子径をTEM像より読み取り、統計的に粒子径分布をプロットした結果、平均粒子径は、それぞれ、2.3nm、3.6nm、4.3nmであった。
各平均粒子径の粒子の表面積を求め、添加したNi量から、シリカ中にナノ粒子が分散すると仮定した時のNi粒子表面に吸着する水素量を計算した。水素が、ニッケル粒子に1個吸着した場合の水素1原子が占めるニッケル粒子上での占有面積を6.49×10−20m2として計算した。全ナノ粒子−シリカ界面に一層吸着するとして見積もった水素量は、測定温度500℃において、Ni組成比が、0.1、0.2及び0.3のときの水素吸蔵量は、0.037wt%、0.047wt%及び0.065wt%である。30℃において、水素圧力が2MPa以上では、これらの値より高い吸蔵量(0.1wt%以上)が得られているので、水素は、Niナノ粒子の表面に1層のみではなく、多層に吸蔵できることが示唆された。これは、Niナノ粒子分散シリカコンポジット試料としての複合化の寄与と考えられる。
また、Ni組成比0.2では、30℃の測定温度において、水素圧力が10MPaで高い水素吸蔵量が得られ、Ni組成比0.33では、水素圧力が2MPaで高い水素吸蔵量が得られていることから、分散Ni粒子の平均粒子径が、3.6〜4.3nmにおいて、Niナノ粒子分散シリカコンポジット試料としての複合化の寄与が優れていると考えられる。
【0039】
<実施例2>
[1]Co−アモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料の作製
Si(OC2H5)4(TEOS)とCo(NO3)2・6H2Oとを、エタノールに溶解し、30質量%の過酸化水素水を添加し混合溶液を調製した。尚、Co/(Si+Co)組成比(以下、単にCo組成比ともいう。)が、0.2及び0.33になるように混合溶液を調製した。各組成比の配合を表2に示す。
その後、各組成比の混合溶液を氷冷中にて2時間撹拌することにより、均一なSi−Co−O前駆体溶液を得た。
その後、上記実施1と同様に重合処理、大気焼成及び還元焼成等を行ない、Co−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料を得た。
【0040】
【表2】
【0041】
[2]Co−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体評価
(1)還元処理前後のXRDスペクトル評価
実施例1と同様に、600℃大気中熱処理後の前駆体のXRDスペクトル調べた。その結果(図15)によると、Co組成比0.2及び0.33のいずれの場合もアモルファスシリカとCo3O4とが生成が確認できた。
次にCo3O4ナノ粒子をCo粒子に還元するため、Co3O4ナノ粒子分散シリカを500℃水素気流中にて還元処理を行った。水素気流中で熱処理した各試料のXRDスペクトルを調べた。その結果(図16)より、還元処理したCo組成比0.2及び0.33組成の試料は、それぞれ、アモルファスシリカのピークに加え、Coのピークが存在していた。尚、不純物としての微量のCoOのピークが検出されている。
【0042】
(2)Co−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体の微細構造評価
上記のようにして得られたCo−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体をCo組成比が0.33である複合体を高分解能透過電子顕微鏡により観察した。Co組成比が0.33の微構造を図17に示す。その結果より、実施例1のNiの場合と同様に、シリカマトリックス中に分散したCo粒子が観察された。図中において、黒いコントラストがCo粒子である。
【0043】
(3)Co−ミクロポーラスアモルファスシリカ複合体水素吸蔵材料の水素吸蔵結果
Co組成比0.33及び0.2の水素吸蔵特性結果を図18及び図19に示す。
30℃での測定温度における各組成比での2MPaまでの水素吸蔵量及び10MPaまでの水素吸蔵量は以下の結果であった。
Co組成比0.33の場合:0.06wt%、0.19wt%。
Co組成比0.2の場合:0.06wt%、0.13wt%。
【0044】
(4)水素吸蔵特性の評価について
30℃での測定温度におけるシリカ単独の場合には、2MPaまでの水素吸蔵量は約0.02wt%であり、10MPaまでの水素吸蔵量は約0.1wt%であるのに対して、Co組成比が0.2〜0.33となるようにCoを添加することにより、水素吸蔵量は優れることが分かり、更に、30℃の測定温度における水素吸蔵量は優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は水素ガスの貯蔵及び輸送を用いる分野で広く利用される。即ち、例えば、水素吸蔵材及び燃料電池等において用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】Ni−アモルファスシリカ複合体の前駆体のTG−DTAを示すグラフである。
【図2】Ni−アモルファスシリカ複合体の前駆体のMASSスペクトルを示すグラフである。
【図3】大気焼成後であり還元処理前の前駆体(b)のXRD回折パターンを示す。
【図4】還元処理後のNi−アモルファスシリカ複合体のXRD回折パターンを示す。
【図5】組成比0.1のNi−アモルファスシリカ複合体粉末の透過電子顕微鏡像である。
【図6】組成比0.2のNi−アモルファスシリカ複合体粉末の透過電子顕微鏡像である。
【図7】組成比0.33のNi−アモルファスシリカ複合体粉末の透過電子顕微鏡像である。
【図8】組成比0.1のNi−アモルファスシリカ複合体におけるNi粒子径分布プロットを示すグラフである。
【図9】組成比0.2のNi−アモルファスシリカ複合体におけるNi粒子径分布プロットを示すグラフである。
【図10】組成比0.33のNi−アモルファスシリカ複合体におけるNi粒子径分布プロットを示すグラフである。
【図11】組成比0.1のNi−アモルファスシリカ複合体の水素吸蔵量を示すグラフである。
【図12】組成比0.2のNi−アモルファスシリカ複合体の水素吸蔵量を示すグラフである。
【図13】組成比0.33のNi−アモルファスシリカ複合体の水素吸蔵量を示すグラフである。
【図14】アモルファスシリカのみの水素吸蔵量を示すグラフである。
【図15】大気焼成後であり還元処理前のCo−アモルファスシリカ複合体の前駆体のXRD回折パターンを示す。
【図16】還元処理後のCo−アモルファスシリカ複合体のXRD回折パターンを示す。
【図17】組成比0.33のCo−アモルファスシリカ複合体粉末の透過電子顕微鏡像である。
【図18】組成比0.33のCo−アモルファスシリカ複合体の水素吸蔵量を示すグラフである。
【図19】組成比0.2のCo−アモルファスシリカ複合体の水素吸蔵量を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロポーラスアモルファス金属酸化物からなる多孔基体と、該多孔基体中に分散された水素吸蔵金属ナノ粒子と、を備えた複合体からなり、
上記金属酸化物は、シリカ、アルミナ及びシリカ−アルミナから選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする水素吸蔵材料。
【請求項2】
上記水素吸蔵金属ナノ粒子を構成する金属元素が、ニッケル及び/又はコバルトである請求項1に記載の水素吸蔵材料。
【請求項3】
上記水素吸蔵金属ナノ粒子の平均粒子径が、0.1〜10nmである請求項1又は2に記載の水素吸蔵材料。
【請求項4】
上記複合体を構成する上記金属酸化物における金属(I)と上記水素吸蔵金属ナノ粒子における金属(M)との組成比が、モル比換算で、M/(I+M)が0.1〜0.5である請求項1乃至3のいずれかに記載の水素吸蔵材料。
【請求項5】
上記複合体を構成する上記金属酸化物における金属(I)と上記水素吸蔵金属ナノ粒子における金属(M)との組成比が、モル比換算で、M/(I+M)が0.15〜0.35である請求項1乃至4のいずれかに記載の水素吸蔵材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法であって、金属アルコキシ化合物と金属塩とを有機溶媒に溶解させて、前駆体溶液を調製する前駆体溶液調製工程と、
上記前駆体溶液を濃縮又は上記有機溶媒を留去して、前駆体を合成する前駆体形成工程と、
上記前駆体を加熱して、上記多孔基体骨格中に水素吸蔵金属ナノ粒子が分散された複合体を形成する熱処理工程と、を備えることを特徴とする水素吸蔵材料の製造方法。
【請求項7】
上記前駆体溶液調製工程において、更に過酸化水素を添加する請求項6に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【請求項8】
上記熱処理工程が、大気焼成工程と還元処理工程とを備える請求項6又は7に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【請求項9】
上記金属アルコキシ化合物が、Si(OR1)4である請求項6乃至8のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1はお互いに同じでもよく、異なっていてもよい。)
【請求項10】
上記R1のアルキル基が、メチル基、エチル基及びプロピル基から選ばれた少なくとも1種である請求項9に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【請求項11】
上記大気焼成工程は、大気中において400〜1100℃の温度で焼成する請求項8乃至10のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【請求項12】
上記還元処理工程が、水素ガス流通中において300〜700℃の温度で焼成する請求項8乃至11のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【請求項1】
ミクロポーラスアモルファス金属酸化物からなる多孔基体と、該多孔基体中に分散された水素吸蔵金属ナノ粒子と、を備えた複合体からなり、
上記金属酸化物は、シリカ、アルミナ及びシリカ−アルミナから選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする水素吸蔵材料。
【請求項2】
上記水素吸蔵金属ナノ粒子を構成する金属元素が、ニッケル及び/又はコバルトである請求項1に記載の水素吸蔵材料。
【請求項3】
上記水素吸蔵金属ナノ粒子の平均粒子径が、0.1〜10nmである請求項1又は2に記載の水素吸蔵材料。
【請求項4】
上記複合体を構成する上記金属酸化物における金属(I)と上記水素吸蔵金属ナノ粒子における金属(M)との組成比が、モル比換算で、M/(I+M)が0.1〜0.5である請求項1乃至3のいずれかに記載の水素吸蔵材料。
【請求項5】
上記複合体を構成する上記金属酸化物における金属(I)と上記水素吸蔵金属ナノ粒子における金属(M)との組成比が、モル比換算で、M/(I+M)が0.15〜0.35である請求項1乃至4のいずれかに記載の水素吸蔵材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法であって、金属アルコキシ化合物と金属塩とを有機溶媒に溶解させて、前駆体溶液を調製する前駆体溶液調製工程と、
上記前駆体溶液を濃縮又は上記有機溶媒を留去して、前駆体を合成する前駆体形成工程と、
上記前駆体を加熱して、上記多孔基体骨格中に水素吸蔵金属ナノ粒子が分散された複合体を形成する熱処理工程と、を備えることを特徴とする水素吸蔵材料の製造方法。
【請求項7】
上記前駆体溶液調製工程において、更に過酸化水素を添加する請求項6に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【請求項8】
上記熱処理工程が、大気焼成工程と還元処理工程とを備える請求項6又は7に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【請求項9】
上記金属アルコキシ化合物が、Si(OR1)4である請求項6乃至8のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1はお互いに同じでもよく、異なっていてもよい。)
【請求項10】
上記R1のアルキル基が、メチル基、エチル基及びプロピル基から選ばれた少なくとも1種である請求項9に記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【請求項11】
上記大気焼成工程は、大気中において400〜1100℃の温度で焼成する請求項8乃至10のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【請求項12】
上記還元処理工程が、水素ガス流通中において300〜700℃の温度で焼成する請求項8乃至11のいずれかに記載の水素吸蔵材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図5】
【図6】
【図7】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図5】
【図6】
【図7】
【図17】
【公開番号】特開2009−11899(P2009−11899A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174272(P2007−174272)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的温暖化対策技術プログラム高効率高温水素分離膜の開発プロジェクト」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的温暖化対策技術プログラム高効率高温水素分離膜の開発プロジェクト」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【Fターム(参考)】
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