説明

水素発酵方法

【課題】脂肪酸メチルエステル化反応で生じる副生グリセリンを簡単な処理で水素発生源として使用できるようにし、それにより環境保護や資源の有効活用に寄与する。
【解決手段】本発明の水素発酵方法は、油脂をアルコールとエステル交換反応する過程で生成される副生グリセリンを、嫌気性発酵条件下にて動物糞を主とする畜産関連廃棄物と混合し水素を生成することを特徴としている。また、前記畜産関連廃棄物が牛糞、鶏糞、豚糞の何れか1もしくは2以上から構成、前記副生グリセリンと前記畜産関連廃棄物とを混合した後の水分含有率が、70wt%以上である構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機廃棄物を利用した水素発酵方法に関し、特にグリセリンと畜産関連廃棄物とを用いた水素発酵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、廃食用油の有効利用の観点から、油脂を水酸化カリウム等の触媒の存在下でアルコールと反応させて脂肪酸メチルエステル、つまり廃油再生燃料(以下、バイオディーゼル燃料又はBDFと略称する)として製造している。該バイオディーゼル燃料の製造では、反応の副生物として原料油脂の10〜20%程度のグリセリンが生成される。この副生グリセリンは、触媒や未反応の脂肪酸などが混入されており有効な使い道がなく、ほとんど廃棄物として処分されている。また、従来技術には、特許文献1に開示されているように、反応条件を工夫することで副生物としてグリセリンを生成しない反応方法も提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−60591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記脂肪酸メチルエステル化反応で生成されるグリセリンは、有効な用途がなくその処分が問題となっている。また、特許文献1の方法では、副生物としてのグリセリンを生じないが、反応温度および圧力を高くしなければならないため複雑で経費増となる。そこで、本発明の目的は、脂肪酸メチルエステル化反応で生じる副生グリセリンを簡単な処理で水素発生源として使用でき、それにより環境保護や資源の有効活用に寄与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、脂肪酸メチルエステル化反応で生じる副生物としてのグリセリン(以下、副生グリセリンと略称する)を経費を抑えて有効活用する方法について検討を重ねてきた結果、副生グリセリンを所定条件下で畜産関連廃棄物と混合すると水素発酵が生じることを知見した。本発明は、その現象を応用することにより、例えば副生グリセリンと畜産関連廃棄物とを密閉系の容器等に入れて嫌気発酵環境下に保つことで水素を生成可能にしたものである。
【0006】
すなわち、本発明の水素発酵方法は、油脂をアルコールとエステル交換反応する過程で生成される副生グリセリンを、嫌気性発酵条件下にて動物糞を主とする畜産関連廃棄物と混合し水素を生成することを特徴としている。また、この水素発酵方法では、前記畜産関連廃棄物が牛糞、鶏糞、豚糞の何れか1もしくは2以上からなること(請求項2)、前記副生グリセリンと前記畜産関連廃棄物とを混合した後の水分含有率が70wt%以上であること(請求項3)が好ましい。
【0007】
なお、BDF製造におけるエステル交換反応において、油脂は主として菜種油、パーム油、大豆油、ゴマ油、コーン油、紅花油など植物性の食用油やそれらの廃食用油である。アルカリ触媒は水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどである。アルコールはメタノールやエタノールなどである。
【発明の効果】
【0008】
以上の本発明にあっては、脂肪酸メチルエステル化反応で生じるグリセリンを嫌気性発酵下において畜産関連廃棄物と混ぜるだけで、水素生成菌を接種・培養することなく水素を簡易に生成できる。これにより、本発明は、BDF製造において生成される副生グリセリンの有効利用を実現できる。また、本発明は、例えば、グリセリンと畜産関連廃棄物との混合物(バイオマス)を嫌気発酵して水素を生成回収した後、残滓を好気発酵して堆肥化する上でも好適なものとなる。これは、例えば、肥料の3大要素である窒素(N)、リン(P)、カリ(K)のうち、BDF製造時に用いられたアルカリ触媒としての水酸化カリウム(苛性カリ)つまり副生グリセリン中に含有しているカリ成分が堆肥の有効成分として活用できるためである。また、地球温暖化係数を低減することも可能である。畜産関連廃棄物を堆肥化させるために、地下浸透しない条件にて屋外へ放置・野積みしている場合、表面(空気と触れあっている箇所)では好気発酵が進むが、内部では嫌気状態となっておりメタン発酵が起きるのでメタンガスが大気放出されている。しかし、副生グリセリンを混合したものを屋外へ放置した場合、内部では水素発酵が進み、メタンではなく水素が生成されるので、大気には水素ガスが放出される。水素の地球温暖化係数は、メタンに比較して極端に小さいので、畜産関連廃棄物単独発酵よりも副生グリセリンを混合させた方が、生成ガスの地球温暖化係数を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る水素発酵方法の有用性を実施例により明らかにする。
【実施例】
【0010】
以下の実施例および比較例は、BDF製造におけるエステル交換反応で生成された副生グリセリンと畜産関連廃棄物として牛糞とを嫌気性発酵条件下で発酵して水素発生の有無を調べたときの試験例である。ここで、試験では、例えば、副生グリセリンと牛糞の各所要量を混合容器に入れて、混合した後、該混合物を図1に模式化したような約1000mlガラス製試料サンプル培養瓶に収容した。該培養瓶は、コック付きのゴム栓で蓋をし、コックにはチューブを接続し、ガス採取袋に繋げる。培養瓶は、ウオーターバスに浸けて温度40℃に保った。培養瓶内で発生したバイオガスは、ガス採取袋で捕集して、発生量を測定したりガス分析(ガスクロマトグラフ)を行った。なお、牛糞などの畜産関連廃棄物は、採取場所や時期(夏冬)および保管状況により含水量ないしは含水率が多少異なる。使用した牛糞は固形分が約25wt%であった。使用した副生グリセリンは、BDF製造におけるエステル交換反応として、廃食用油を水酸化ナトリウム触媒を用いてメタノールと反応させ生成されたもので、含水率が50.2wt%である。表1には発酵条件および経過を一覧した。
【0011】
(実施例1)この実施例では、牛糞360gと副生グリセリン40gとを均一に混合し、培養瓶に入れて、40℃の温度下で攪拌せずにそのままの状態で嫌気発酵させた。この水素発酵では、表1に示されるように、実験開始から6日目で終了(その後は水素発生は認められなかった)した。この発酵では、バイオガス総発生量7.12L中、水素が4.52L、その他のほとんどが二酸化炭素であり、ごく少量のアンモニアと硫化水素が検出された。また、バイオガスをエタノール検知管で測定した所、3500ppmのエタノールが検出された。
【0012】
(比較例1)この比較例1は、牛糞400gだけを培養瓶に入れて、40℃の温度下で嫌気発酵を行った。この発酵では、試験開始から14日目で測定を終了した。バイオガス総発生量0.4L中、水素の存在が認められず、メタンが0.11L、その他のほとんどが二酸化炭素であった。
【0013】
(比較例2)この比較例2は、実施例1を更に展開した試験例であり、含水率を調整するために牛糞とオガコとを混ぜたもの360g(含水率70.7wt%)を副生グリセリン40g(含水率50.2wt%)と均一に混合し、上記したと同様な条件にて嫌気発酵させた。この発酵では、14日目までにおいて、バイオガス総発生量1.14L中、水素が0.36L、その他のほとんどが二酸化炭素であった。
【0014】
(評価)表1からは次のようなことが言える。まず、実施例1より、牛糞と副生グリセリンとを混合して嫌気雰囲気下におくと水素が発生することが分かる。この場合、水素は、グリセリン100g当たりの換算だと22.6L発生している。また、比較例1より、牛糞単独では水素が発生せず、メタン発酵が行われていることが分かる。このメタン発酵速度はかなり遅いものとなっている。比較例2より、牛糞と副生グリセリンとの混合において、混合後の含水率が70wt%以下だと水素発酵が遅くなることが分かる。このため、効率よく水素発酵を行うためには適度な水分が必要になることも確認された。なお、以上の試験では発酵温度がすべて40℃であったが、本発明者らの試験結果では発酵温度として常温〜50℃までの範囲内が好ましく、それ以上だと水素発酵が極端に遅くなるか、水素発酵しなくなることも確認されている。
【0015】
【表1】

【0016】
なお、本発明は、以上の実施例に何ら制約されるものではなく、請求項1から3で特定した要件を充足すればよく、発酵方法の細部は種々変形したり展開可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】発明実施例の試験方法を説明するための模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂をアルコールとエステル交換反応する過程で生成される副生グリセリンを、嫌気性発酵条件下にて動物糞を主とする畜産関連廃棄物と混合し水素を生成することを特徴とする水素発酵方法。
【請求項2】
前記畜産関連廃棄物が、牛糞、鶏糞、豚糞の何れか1もしくは2以上からなることを特徴とする請求項1に記載の水素発酵方法。
【請求項3】
前記副生グリセリンと前記畜産関連廃棄物とを混合した後の水分含有率が、70wt%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素発酵方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−98239(P2007−98239A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289619(P2005−289619)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000227087)日曹エンジニアリング株式会社 (33)
【Fターム(参考)】