水素貯蔵材料およびその製造方法
【課題】水素吸蔵量を低下させることなく、従来よりも低い反応温度で水素吸蔵・放出を行うことのできるマグネシウム系の水素貯蔵材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】原料となる水素化マグネシウム(MgH2)とこの原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケル(Ni2Si)、あるいは、水素化マグネシウム(MgH2)および金属マグネシウム(Mg)からなる複合原料とこの原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケル(Ni2Si)から水素貯蔵材料を構成する。また、これら水素貯蔵材料は、原料となる水素化マグネシウム等と所定割合のケイ化ニッケルとを混合した後、不活性ガス雰囲気下で該混合物に機械的粉剤処理を施すことにより製造される。
【解決手段】原料となる水素化マグネシウム(MgH2)とこの原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケル(Ni2Si)、あるいは、水素化マグネシウム(MgH2)および金属マグネシウム(Mg)からなる複合原料とこの原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケル(Ni2Si)から水素貯蔵材料を構成する。また、これら水素貯蔵材料は、原料となる水素化マグネシウム等と所定割合のケイ化ニッケルとを混合した後、不活性ガス雰囲気下で該混合物に機械的粉剤処理を施すことにより製造される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の燃料に使用される水素の貯蔵に用いられる水素貯蔵材料およびその製造方法に関し、更に詳しくは、水素吸蔵・放出特性に優れるマグネシウム系水素貯蔵材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、環境に対する負荷が少なく、クリーンなエネルギー源として注目されている。この燃料電池の燃料に用いる水素の貯蔵には、圧縮水素または液体水素の形で貯蔵する方法や、水素吸蔵合金等の水素貯蔵材料に吸蔵させる方法が一般的に用いられている。特に、水素吸蔵合金に吸蔵させる方法は、単位体積あたりの水素密度(吸蔵容量)が高く、万一容器が破損しても水素が急激に放出されることがないため、乗用車等の車両に搭載するのに適しているとされている。
【0003】
このような水素貯蔵材料に利用できる水素貯蔵物質として、希土類系,チタン系,バナジウム系,マグネシウム系等を中心とする金属材料や、アラネート,ボロハイドライド等の無機系水素化物材料、カーボン系材料などが知られている。中でもマグネシウム(Mg)は、多量の水素を吸蔵することが可能で、軽量かつ安価で資源的にも豊富なため、有望な水素貯蔵材料の一つとして注目されている(例えば、特許文献1〜2等を参照。)。
【特許文献1】特開2005−186058号公報
【特許文献2】特開2005−306724号公報
【特許文献3】特開2006−205029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、以上のようなマグネシウム系の水素貯蔵材料(水素吸蔵合金)は、可逆的に水素を吸蔵・放出し、理論水素吸蔵量も7.6wt%と多いという利点を備えているものの、水素吸蔵・放出反応速度が遅く、一般的に300℃以上の高温環境を必要とするという問題があった。
【0005】
このような問題を解決すべく、Mg系水素貯蔵材料の反応温度を低下させる試みが多数なされている。例えば、Mgの結晶構造を改質する試みとして、超急冷法,メカニカルアロイング法や超積層法などの技術手法を用いて、原子配列の不規則性を持つ非晶質や粒界領域を多く含む合金あるいは複合体を作製することにより、水素化物を不安定化させてMgの水素化・脱水素の反応速度を改善する方法、あるいは、異種金属あるいは酸化物等からなる触媒を添加し、機械的粉砕処理(メカニカルミリング等)を行うことにより、これらの混合物をナノメートルサイズまで微細化して、反応温度を低下させる試み(特許文献3)等がなされている。
【0006】
しかしながら、これらの提案によっても依然として、Mg系水素貯蔵材料の水素吸蔵量および水素化・脱水素の反応速度(反応温度の低温化)は、実用化に向けて不十分なものに留まっているのが現状である。
【0007】
本発明は、上記する課題に対処するためになされたものであり、水素吸蔵量を低下させることなく、従来よりも低い反応温度で水素吸蔵・放出を行うことのできるマグネシウム系の水素貯蔵材料とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
マグネシウム系水素貯蔵材料におけるこれらの問題を改善するため、これまで多くのMgの改質に関する研究が行われてきている。中でも、優れた水素解離吸着能をもつNiは、Mgの水素吸蔵速度を改善させる触媒として一般的によく知られている。また近年、メカノケミカル法によるMgH2と少量のSiとの複合化によって、MgH2が不安定化され、水素放出特性が向上することも報告されている。本願の発明者らは、このNiの触媒効果とSiの不安定化効果に着目し、これらNiとSiを共存させることによって、Mgの水素吸蔵・放出反応を、動力学と熱力学の両面において改善できるのではないか、と考察した。
【0009】
本願発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、請求項1に記載の発明は、原料となる水素化マグネシウム(MgH2)と、この原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケル(Ni2Si)とから水素貯蔵材料を構成することを特徴とする。
【0010】
また、同じ目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、水素化マグネシウム(MgH2)および金属マグネシウム(Mg)からなる複合原料と、この原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケル(Ni2Si)とから水素貯蔵材料を構成することを特徴とする。
【0011】
本発明は、燃料電池の燃料に使用される水素の貯蔵に用いられる水素貯蔵材料において、マグネシウム系の水素吸蔵合金に、触媒としてのケイ化ニッケルを添加することによってMgを改質し、所期の目的を達成しようとするものである。
【0012】
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、MgH2−Ni2Si複合体により水素貯蔵材料を構成することにより、MgH2−Ni複合体を用いた従来の水素貯蔵材料に比べ、水素吸蔵・放出特性を向上させることができる。また、請求項2のように、MgH2−Mg−Ni2Si複合体により水素貯蔵材料を構成した場合は、その水素吸蔵・放出特性を更に大幅に向上させることが可能となる。
【0013】
ここで、前記MgH2−Mg−Ni2Si複合体を形成する複合原料の構成比率として、50〜90wt%の水素化マグネシウムと、10〜50wt%の金属マグネシウムと、からなる構成を好適に採用することができる。
【0014】
水素化マグネシウムに対する金属マグネシウムの添加は、その量が多いほど水素吸蔵・放出特性を向上させるが、あまり多量に添加すると、製造加工上の問題(成形不良,収率悪化等)を引き起こしてしまう恐れがある。従って、本発明のMgH2−Mg−Ni2Si複合体を形成する原料中におけるMgH2:Mgの構成(重量)比率としては、9:1〜5:5とすることが望ましい。
【0015】
また、マグネシウム系原料に対する前記ケイ化ニッケルの添加割合は、前記原料中の総Mg量に対して0.5〜2.0mol%とすることが望ましい。(請求項4)
【0016】
マグネシウム系原料に対するケイ化ニッケルの添加量は、多すぎても少なすぎても、その触媒としての改質効果が損なわれる場合がある。従って、本発明のマグネシウム系原料に対するケイ化ニッケルの好適な添加割合は、この原料中の総Mg量を100molとした場合、0.5〜2.0molに相当する量のNi2Siである。
【0017】
次に、請求項5に記載の発明は、原料となる水素化マグネシウムと所定割合のケイ化ニッケルとを混合した後、不活性ガス雰囲気下で該混合物に機械的粉剤処理を施すことを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法である。また、請求項6に記載の発明は、水素化マグネシウムおよび金属マグネシウムからなる複合原料と、所定割合のケイ化ニッケルとを混合した後、不活性ガス雰囲気下で該混合物に機械的粉剤処理を施すことを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法である。
【0018】
すなわち、マグネシウム系水素貯蔵材料の原料に、不活性ガス雰囲気下で機械的粉剤処理(メカニカルミリング)を施すことにより、これらマグネシウム系原料とケイ化ニッケルとを、水素貯蔵材料に好適なナノメートルサイズまで微細化することができる。また、これらマグネシウム系原料とケイ化ニッケルとは、微細化されることによってその表面積が増大し、内部の高活性な部位が露出するとともに、この高活性な部位どうしが、高分散状態で複合化される。従って、本発明の水素貯蔵材料の製造方法によれば、この水素貯蔵材料の水素吸蔵・放出特性を大幅に向上させることが可能となる。
【0019】
ここで、前記機械的粉剤処理後の水素貯蔵材料に対して、真空雰囲気下で350〜450℃まで加熱する脱水素処理を追加実施する方法を好適に採用することができる。(請求項7)
【0020】
この脱水素処理は、水素貯蔵材料を使用する前に、その活性を高めるための前処理として行われるものであり、これらの製造方法を採用することにより、本発明の水素貯蔵材料は、その水素吸蔵・放出特性を更に飛躍的に向上させることができる。
【0021】
なお、この脱水素処理を行う温度は、Mgと結合している水素が放出される温度域であれば良く、高い方が望ましいことは勿論である。しかしながら、Mgの融点を考慮した場合、その処理温度は350〜450℃とすることが好ましく、更に好ましくは400℃±20℃程度で行うことである。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、特に高価な材料等を使用することなく、大量生産の容易な製造方法により、従来品よりも低い反応温度で水素吸蔵・放出を行うことのできるマグネシウム系水素貯蔵材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明を実施するための形態について説明する。
本発明の2つのマグネシウム系水素貯蔵材料(MgH2−Ni2Si複合体およびMgH2−Mg−Ni2Si複合体)は、いずれも、Mg系水素化物の原料と、この原料の水素吸蔵・放出特性を向上させる触媒としてのケイ化ニッケルとを、所定比率で混合し、機械的粉砕処理を施すことにより得られたものである。
【0024】
この機械的粉砕処理の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、メカニカルミリング処理、メカニカルアロイング処理、メカニカルグライディング処理等、公知の方法を用いることができる。メカニカルミリング処理としては、遊星ボールミル、振動ボールミル、ジェットミル、ハンマーミルなどを使用することが可能で、本実施形態においては、遊星型ボールミル装置を用いたメカニカルミリング処理を行った。
【0025】
なお、Mg系原料を収容する容器や、粉砕用ボール等の材質も、特に限定されるものではないが、本実施形態においては、ステンレス製の容器とボールとを用いた。また、機械的粉剤処理を行うに際し、前記ステンレス製容器の中には不活性ガス(アルゴンガス)が封入され、機械的粉剤処理は室温・大気圧下で行った。
【0026】
機械的粉砕処理の諸条件は、処理する方法やMg系原料の量等を考慮して適宜変更されるが、本実施形態においては、その粉砕エネルギーが重力加速度の3〜5倍(3〜5G)、処理時間9〜108時間で、供試用マグネシウム系水素貯蔵材料の製造を行った。なお、処理の加速度および処理時間の最適条件は、処理完了後のマグネシウム系水素吸蔵材料の水素吸蔵・放出特性と、XRD(X線回折),SEM(電子顕微鏡),XPS(X線光電子分光),示差熱分析等の結果を総合して決定される。
【0027】
このメカニカルミリング処理により、本実施形態におけるマグネシウム系水素貯蔵材料(MgH2−Ni2Si複合体およびMgH2−Mg−Ni2Si複合体)は、いずれも、これらMg系水素化物の原料とケイ化ニッケルとが粉砕・微細化され、ケイ化ニッケルの粒子が前記Mg系水素化物の粒子に高分散状態で複合化することとなる。
【0028】
次に、本実施形態のマグネシウム系水素貯蔵材料に対する脱水素処理について説明する。
脱水素処理(前処理)は、前述のメカニカルミリング処理によって製造されたマグネシウム系水素吸蔵材料を、真空雰囲気にて所定の温度に加熱することにより行われる。加熱温度は、Mgと結合している水素が放出される温度域であれば良く、本実施形態においては、この脱水素処理を400℃−90分間で行った。
【0029】
なお、この脱水素処理は、マグネシウム系水素貯蔵材料を使用する前(更に言えば、貯蔵タンクに収容する前)に行えば良く、特にそのタイミングが限定されるものではない。本実施形態においては、この脱水素処理を、後述する水素吸蔵・放出特性の試験の直前に行っている。
【0030】
水素吸蔵・放出特性の試験に用いた供試サンプルは以下のようにして作製した。
(実施例1)MgH2−Ni2Si複合体の作製
まず、原料となるMgH2粉末[WAKO 580−7018,純度98%]1.00gと、Ni2Si粉末0.055g(Mgに対し1.0mol%)[WAKO 581−66501,粒径850μm以下,純度99%]とを乳鉢で混合し、この混合粉末を、直径が12mmのステンレス製のボール7個とともにステンレス製のボールミルポット(FRITSCH製,容積45ml)に入れ、アルゴン雰囲気下で密封後、遊星型ボールミル装置(FRITSCH製,P−7型)にセットし、種々の条件(加速度Gおよびミリング時間)でボールミルを行った。
【0031】
(実施例2)MgH2−Mg−Ni2Si複合体の作製
MgH2粉末0.90gおよびMg粉末[福田金属箔工業製 CM−クリンプ KZ200,粒径75μm以下,純度99.9%]0.10gからなる複合原料と、Ni2Si粉末0.056g(原料中の総Mgに対して1.0mol%)を混合し、混合粉末を、前記と同様の方法にてボールミルを行った(ただし、加速度4G,ミリング時間36hのみ。)。
【0032】
(比較例1)MgH2単体
実施例1におけるNi2Si粉末を添加せず、MgH2粉末のみを実施例1と同様の方法にてボールミルを行った(ただし、加速度4G,ミリング時間36hのみ。)。
【0033】
(比較例2)MgH2−Ni複合体
実施例1におけるNi2Si粉末の代わりに、Ni粉末[Aldrich 577995,平均粒径90nm]0.045g(原料中のMgに対して2.0mol%)を使用した以外同様の方法にて、MgH2−Ni複合体を作製した(ただし、加速度3G,ミリング時間2hのみ。)。
【0034】
なお、これら供試サンプル(測定試料)は、後述する水素吸蔵・放出速度の測定前に、減圧雰囲気下で400℃まで加熱する前処理(脱水素処理)を行っている。
【0035】
1)水素吸蔵速度の測定
試料の水素吸蔵速度を調べるために、図1に示すPCT装置(レスカ製:Type PCT−A04)を用いて、ジーベルツ法(容積法)によって水素吸蔵量の経時変化を測定した。なお、初期水素圧を大きくするために、PCT装置には水素貯蔵タンク2および弁4を追加装備している。
【0036】
測定には試料粉末約0.1gを用いた。反応容器(内径約5mm、長さ約110mm)に試料を入れ、PCT装置にセットし、弁2,3,4を開き、セラミック電気管状炉(アサヒ理化製作所:ARF−50M)内で400℃に加熱し、真空排気を90分間行った(脱水素処理)。
【0037】
その後、弁3,4を閉じ、弁1を開き、水素貯蔵タンク1および2(総容積250.5ml)に0.82MPaの水素を導入し、弁1を閉じた。セラミック電気管状炉内の温度を測定温度にした後、弁4を開いて水素を反応容器に導入し(初期圧:0.80MPa)、水素圧と室温の経時変化を記録し、上記と同様に、圧力変化を水素の重量に換算した。その重量から試料重量に対する水素放出量(重量パーセント)を算出した。なお弁3を開いた直後を時間0とした。
【0038】
2)水素放出速度の測定
試料の水素放出速度を調べるために、図1に示すPCT装置を用いて、ジーベルツ法によって水素放出量の経時変化を測定した。測定には試料粉末約0.1gを用いた。反応容器に試料を入れ、PCT装置にセットし、弁2,3,4を開き、セラミック電気管状炉内で400℃に加熱し真空排気を90分間行った(脱水素処理)。なお、この400℃での真空排気(脱水素処理)を行わない試験も行っている。
【0039】
次いで、弁3,4を閉じ、弁1を開き、水素貯蔵タンク1,2(250.5ml)に0.82MPaの水素を導入し弁1を閉じた。試料を完全に水素化するために、セラミック電気管状炉内の温度を270℃にした後、弁4を開いて水素を反応容器に導入した。120分間水素吸蔵させた後に弁3を開きリアクター内の圧力を0.1MPa程度に下げ、弁3,4を閉じた。
【0040】
その後、弁3を開き水素導入室1,2(250.5ml)を真空排気した。圧力が安定してから、弁3を閉じ、セラミック電気管状炉内の温度を測定温度にしてから、弁4を開いて水素圧と室温の経時変化を記録し、水素吸蔵試験と同様に、気体の状態方程式から、圧力変化を水素の重量に換算した。その重量から試料重量に対する水素放出量(重量パーセント)を算出した。なお弁3を開いた直後を時間0とした。
【0041】
[実験1]
まず、以下に、実施例1の配合(MgH2−Ni2Si複合体)を用いて、最適なメカニカルミリングの条件(ボールミルの粉砕エネルギー:加速度G および 処理時間)を検討した試験の結果について述べる。
【0042】
供試サンプルは、上述の(実施例1)に従って作製したMgH2−Ni2Si複合体であり、遊星型ボールミル装置(FRITSCH製,P−7型)にセットし、ボールミルの粉砕エネルギー(加速度G)を3〜5G,ミリング時間(hour)を9〜108hまで変化させて行った。そして、以下の供試サンプル:実施例1−1〜実施例1−9および比較例1の100℃における水素吸蔵量の経時変化を測定した。
実施例1−1 ボールミル条件(加速度:3G ミリング時間:36h)
実施例1−2 ボールミル条件(加速度:3G ミリング時間:72h)
実施例1−3 ボールミル条件(加速度:3G ミリング時間:108h)
実施例1−4 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:18h)
実施例1−5 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:36h)
実施例1−6 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:72h)
実施例1−7 ボールミル条件(加速度:5G ミリング時間:9h)
実施例1−8 ボールミル条件(加速度:5G ミリング時間:18h)
実施例1−9 ボールミル条件(加速度:5G ミリング時間:36h)
比較例1 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:36h)
【0043】
これら供試サンプルの100℃における水素吸蔵量の経時変化を測定したグラフを図2〜4に示す。なお、図2は加速度3Gで作製したサンプル(実施例1−1〜1−3)の結果を、図3は加速度4Gで作製したサンプル(実施例1−4〜1−6)の結果を、図4は加速度5Gで作製したサンプル(実施例1−7〜1−9)の結果を示す。
【0044】
これらのグラフより、以下のことが見てとれる。
・Ni2Siを添加しない比較例1(100℃120分で約1.0wt%)に比べ、いずれの加速度の処理においても水素吸蔵量が向上した。
・加速度3Gのボールミル条件で作製したMg−Ni2Si複合体では、72hボールミルして作製した複合体の水素吸蔵速度が最も優れており、120分で4.3wt%の水素を吸蔵した。
・加速度4Gでボールミルした場合には、ミリング時間36hで得られた複合体が最も優れ、120分で4.6wt%の水素を吸蔵した。
・加速度5Gでボールミルした場合には、ミリング時間18hで得られた複合体が最も優れ、ボールミルで得られた複合体が3.6wt%の水素を吸蔵した。
【0045】
これらの測定結果から計算した「水素吸蔵速度」(水素吸着の反応係数:k)を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
以上の結果より、加速度4Gで36hボールミルして作製したMgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)が最も優れた水素吸蔵速度を示すことがわかった。なお、詳細は省略するが、別途行ったボールミリング後の複合体に関するXRD(X線回折),SEM(電子顕微鏡),XPS(X線光電子分光),示差熱分析等の結果から、作製した複合体のMgH2の結晶構造は、ボールミル条件や時間に大きな影響を受けていないことが判明している。しかしながら、これら各種条件でボールミルした複合体の間に、大きな水素吸蔵速度の違いがある事から、Ni2Siの複合体中での分散性がMgH2の改質効果に大きく寄与しており、水素吸蔵特性に大きな影響を与えていると考えられる。
【0048】
[実験2]
次に、以下のサンプルを用いて水素放出量の経時変化を測定した結果について述べる。
実施例1−2 ボールミル条件(加速度:3G ミリング時間:72h)
実施例1−3 ボールミル条件(加速度:3G ミリング時間:108h)
実施例1−4 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:18h)
実施例1−5 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:36h)
実施例1−6 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:72h)
実施例1−8 ボールミル条件(加速度:5G ミリング時間:18h)
実施例1−9 ボールミル条件(加速度:5G ミリング時間:36h)
なお、各サンプルを完全に水素化するために、セラミック電気管状炉内の温度を270℃にした後、弁を開いて水素を反応容器に導入し、120分間水素を吸蔵させた。
【0049】
これら供試サンプルの270℃における水素放出量の経時変化を測定したグラフを図5〜7に示す。なお、図5は加速度3Gで作製したサンプル(実施例1−2〜1−3)の結果を、図6は加速度4Gで作製したサンプル(実施例1−4〜1−6)の結果を、図7は加速度5Gで作製したサンプル(実施例1−8〜1−9)の結果を示す。
【0050】
これらのグラフより、以下のことが見てとれる。
・加速度3Gで72hボールミルして作製したMg−Ni2Si複合体は、120分で約5.0wt%の水素を放出しており、約20分間でほぼ全ての水素を放出していたのに対して、108hボールミルして作製した複合体は、120分で約4.6wt%の水素を放出し、水素放出特性は低下していた。
・加速度4Gで36hおよび72hボールミルして作製したMg−Ni2Si複合体は、120分でそれぞれ4.9wt%,4.8wt%の水素を放出したのに対して、18hボールミルして得られた複合体は、水素放出速度は劣るものの、120分で約5.1wt%の水素を放出していた。
・加速度5Gで18hおよび36hボールミルして作製したMg−Ni2Si複合体は、120分でそれぞれ5.5wt%,5.6wt%の水素を放出しており、3Gおよび4Gで作製したMg−Ni2Si複合体に比べ、水素放出速度は劣るものの、水素放出量は大きく向上することがわかった。
【0051】
これらの結果から、MgH2とNi2Siを大きなエネルギーでボールミルすることにより、MgH2がNi2Siによって熱力学的に改質されると考えられる。一方で、過剰なエネルギーは不純物の混入や、粒子の凝集、常温圧着を促進し、水素放出速度の向上に悪影響が出ると考えられる。
【0052】
また、別途行った示差熱分析の結果から、加速度4G ミリング時間36hのボールミル条件によって作製したMgH2‐Ni2Si複合体(実施例1−5)は、同じボールミル条件によって作製したMgH2単体試料(比較例1)に比べ、水素放出開始温度が約80℃低温側にシフトすることがわかった。
【0053】
[実験3]
次に、水素吸蔵・放出特性の試験の直前に行っている脱水素処理の効果について検討した結果について述べる。
【0054】
供試サンプルは、前述の(実施例1)に従って作製したMgH2−Ni2Si複合体であり、遊星型ボールミル装置(FRITSCH製,P−7型)にセットし、ボールミルの粉砕エネルギー(加速度G)を4G,ミリング時間(hour)を36hとした実施例1−5である。この実施例1−5のサンプルを用いて、水素吸蔵速度試験の直前に熱処理(減圧雰囲気下で400℃ 90分間)を行った場合と行わなかった場合の水素吸蔵量の変化を測定した。
【0055】
図8に、脱水素処理(前処理)を行った場合と行わなかった場合の水素放出試験の結果を示す。脱水素処理を行わなかったMgH2−Ni2Si複合体は、270℃,120分で水素を0.2wt%放出するのみであったが、脱水素処理を行った場合には、120分で水素を4.9wt%放出した。ここから、脱水素処理(前処理)を行うことで、水素放出特性が大幅に改善されることがわかった。
【0056】
[実験4]
次に、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)を用いて行った同様の試験結果について述べる。
【0057】
供試サンプルは、上述の(実施例1)および(実施例2)に従って作製したMgH2−Ni2Si複合体およびMgH2−Mg−Ni2Si複合体であり、遊星型ボールミル装置(FRITSCH製,P−7型)にセットし、ボールミルの粉砕エネルギー(加速度G)を4G,ミリング時間(hour)を36hで固定して行った。そして、以下の供試サンプル:実施例1−5および実施例2の100℃,270℃における水素吸蔵量の経時変化を測定した。
【0058】
これら供試サンプルの各温度における水素吸蔵量の経時変化を測定したグラフを図9に示す。
このグラフより、MgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)が、100℃において120分で4.6wt%水素を吸蔵したのに対し、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)は、100℃において120分で3.8wt%の水素を吸蔵することがわかった。
【0059】
これは、MgとNi2Siとの複合化のために、MgH2がより不安定化されたため、低温での水素吸蔵速度が低下したと考えられる。また、MgはMgH2よりもボールミル中に凝集しやすいため、粒子径の増大を引き起こし、水素の拡散速度が低下した可能性がある。
【0060】
また、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)の270℃における水素吸蔵試験では、約8分で7wt%の水素吸蔵量に達する。これは、Mgの水素の理論容量(7.6wt% per MgH2)の約97%に相当するの吸蔵量であった。
【0061】
なお、これらMgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)およびMgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)の100℃,270℃における水素吸蔵特性(水素吸蔵時間)の測定結果のまとめを表2,表3に示す(ただし、表中の水素吸蔵量は、MgH2あたりの重量%)。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
[実験5]
次に、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)を用いて行った水素放出試験の結果について述べる。
供試サンプルは、前述の(実施例1)および(実施例2)に従って作製した
MgH2−Ni2Si複合体
実施例1−5 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:36h)
MgH2−Mg−Ni2Si複合体
実施例2 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:36h)
であり、各サンプルを完全に水素化するため、水素放出試験の前に、セラミック電気管状炉内の温度を270℃にした後、弁を開いて水素を反応容器に導入し、120分間水素を吸蔵させた。
【0065】
これら供試サンプルの220℃,250℃,270℃における水素放出量の経時変化を測定したグラフを図10に示す。
【0066】
このグラフより、以下のことが見てとれる。
・水素放出温度が220℃になると、放出速度が著しく低下する。
・MgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)は、250℃において120分でさえ4.6wt%の水素しか放出できなかったのに対し、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)は、120分で7.0wt.%の水素を放出した。
・また、270℃でも、MgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)が120分で4.9wt.%の水素しか放出しなかったのに対し、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)は、約35分で7.0wt.%の水素を放出し、120分では吸蔵した水素(7.2wt.%)をほぼ完全に放出した。
【0067】
以上のことから、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)は、特に水素放出量の点で、MgH2−Ni2Si複合体(実施例1)に比べて、著しく向上していることがわかった。ここから、Ni2SiとMgを複合化させることによって、より改質効果に寄与するNi2SiをMgマトリクス中に加えることができ、水素放出過程の動力学的特性を改善するとともに、MgH2の熱力学的な不安定化に大きく寄与できると考えられる。
【0068】
なお、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)に関し、220℃で48hの放出試験を行ったところ、図11のように、水素放出は約20hで完了しており、4.5wt.%(水素吸蔵量の約63%)の水素を放出していた。
【0069】
また、これらMgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)およびMgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)の250℃,270℃における水素放出特性(水素放出時間)の測定結果のまとめを表4,表5に示す(ただし、表中の水素吸蔵量は、MgH2あたりの重量%)。
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明によれば、乗用車等の車両に搭載しても安全で、かつ、車両への搭載にあたり要求される水素吸蔵放出特性を満たすことのできる水素貯蔵材料を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態における水素貯蔵材料の水素吸蔵・放出特性を測定するために用いた装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−1〜1−3)の水素吸蔵量の経時変化を示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−4〜1−6)の水素吸蔵量の経時変化を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−7〜1−9)の水素吸蔵量の経時変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−2〜1−3)の水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−4〜1−6)の水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−8〜1−9)の水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態の水素貯蔵材料(実施例1−5)において脱水素処理(前処理)を行った場合と行わなかった場合の水素放出試験の結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例2)の水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【図10】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例2)の水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【図11】本発明の実施形態の水素貯蔵材料(実施例2)の220℃における水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の燃料に使用される水素の貯蔵に用いられる水素貯蔵材料およびその製造方法に関し、更に詳しくは、水素吸蔵・放出特性に優れるマグネシウム系水素貯蔵材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、環境に対する負荷が少なく、クリーンなエネルギー源として注目されている。この燃料電池の燃料に用いる水素の貯蔵には、圧縮水素または液体水素の形で貯蔵する方法や、水素吸蔵合金等の水素貯蔵材料に吸蔵させる方法が一般的に用いられている。特に、水素吸蔵合金に吸蔵させる方法は、単位体積あたりの水素密度(吸蔵容量)が高く、万一容器が破損しても水素が急激に放出されることがないため、乗用車等の車両に搭載するのに適しているとされている。
【0003】
このような水素貯蔵材料に利用できる水素貯蔵物質として、希土類系,チタン系,バナジウム系,マグネシウム系等を中心とする金属材料や、アラネート,ボロハイドライド等の無機系水素化物材料、カーボン系材料などが知られている。中でもマグネシウム(Mg)は、多量の水素を吸蔵することが可能で、軽量かつ安価で資源的にも豊富なため、有望な水素貯蔵材料の一つとして注目されている(例えば、特許文献1〜2等を参照。)。
【特許文献1】特開2005−186058号公報
【特許文献2】特開2005−306724号公報
【特許文献3】特開2006−205029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、以上のようなマグネシウム系の水素貯蔵材料(水素吸蔵合金)は、可逆的に水素を吸蔵・放出し、理論水素吸蔵量も7.6wt%と多いという利点を備えているものの、水素吸蔵・放出反応速度が遅く、一般的に300℃以上の高温環境を必要とするという問題があった。
【0005】
このような問題を解決すべく、Mg系水素貯蔵材料の反応温度を低下させる試みが多数なされている。例えば、Mgの結晶構造を改質する試みとして、超急冷法,メカニカルアロイング法や超積層法などの技術手法を用いて、原子配列の不規則性を持つ非晶質や粒界領域を多く含む合金あるいは複合体を作製することにより、水素化物を不安定化させてMgの水素化・脱水素の反応速度を改善する方法、あるいは、異種金属あるいは酸化物等からなる触媒を添加し、機械的粉砕処理(メカニカルミリング等)を行うことにより、これらの混合物をナノメートルサイズまで微細化して、反応温度を低下させる試み(特許文献3)等がなされている。
【0006】
しかしながら、これらの提案によっても依然として、Mg系水素貯蔵材料の水素吸蔵量および水素化・脱水素の反応速度(反応温度の低温化)は、実用化に向けて不十分なものに留まっているのが現状である。
【0007】
本発明は、上記する課題に対処するためになされたものであり、水素吸蔵量を低下させることなく、従来よりも低い反応温度で水素吸蔵・放出を行うことのできるマグネシウム系の水素貯蔵材料とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
マグネシウム系水素貯蔵材料におけるこれらの問題を改善するため、これまで多くのMgの改質に関する研究が行われてきている。中でも、優れた水素解離吸着能をもつNiは、Mgの水素吸蔵速度を改善させる触媒として一般的によく知られている。また近年、メカノケミカル法によるMgH2と少量のSiとの複合化によって、MgH2が不安定化され、水素放出特性が向上することも報告されている。本願の発明者らは、このNiの触媒効果とSiの不安定化効果に着目し、これらNiとSiを共存させることによって、Mgの水素吸蔵・放出反応を、動力学と熱力学の両面において改善できるのではないか、と考察した。
【0009】
本願発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、請求項1に記載の発明は、原料となる水素化マグネシウム(MgH2)と、この原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケル(Ni2Si)とから水素貯蔵材料を構成することを特徴とする。
【0010】
また、同じ目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、水素化マグネシウム(MgH2)および金属マグネシウム(Mg)からなる複合原料と、この原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケル(Ni2Si)とから水素貯蔵材料を構成することを特徴とする。
【0011】
本発明は、燃料電池の燃料に使用される水素の貯蔵に用いられる水素貯蔵材料において、マグネシウム系の水素吸蔵合金に、触媒としてのケイ化ニッケルを添加することによってMgを改質し、所期の目的を達成しようとするものである。
【0012】
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、MgH2−Ni2Si複合体により水素貯蔵材料を構成することにより、MgH2−Ni複合体を用いた従来の水素貯蔵材料に比べ、水素吸蔵・放出特性を向上させることができる。また、請求項2のように、MgH2−Mg−Ni2Si複合体により水素貯蔵材料を構成した場合は、その水素吸蔵・放出特性を更に大幅に向上させることが可能となる。
【0013】
ここで、前記MgH2−Mg−Ni2Si複合体を形成する複合原料の構成比率として、50〜90wt%の水素化マグネシウムと、10〜50wt%の金属マグネシウムと、からなる構成を好適に採用することができる。
【0014】
水素化マグネシウムに対する金属マグネシウムの添加は、その量が多いほど水素吸蔵・放出特性を向上させるが、あまり多量に添加すると、製造加工上の問題(成形不良,収率悪化等)を引き起こしてしまう恐れがある。従って、本発明のMgH2−Mg−Ni2Si複合体を形成する原料中におけるMgH2:Mgの構成(重量)比率としては、9:1〜5:5とすることが望ましい。
【0015】
また、マグネシウム系原料に対する前記ケイ化ニッケルの添加割合は、前記原料中の総Mg量に対して0.5〜2.0mol%とすることが望ましい。(請求項4)
【0016】
マグネシウム系原料に対するケイ化ニッケルの添加量は、多すぎても少なすぎても、その触媒としての改質効果が損なわれる場合がある。従って、本発明のマグネシウム系原料に対するケイ化ニッケルの好適な添加割合は、この原料中の総Mg量を100molとした場合、0.5〜2.0molに相当する量のNi2Siである。
【0017】
次に、請求項5に記載の発明は、原料となる水素化マグネシウムと所定割合のケイ化ニッケルとを混合した後、不活性ガス雰囲気下で該混合物に機械的粉剤処理を施すことを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法である。また、請求項6に記載の発明は、水素化マグネシウムおよび金属マグネシウムからなる複合原料と、所定割合のケイ化ニッケルとを混合した後、不活性ガス雰囲気下で該混合物に機械的粉剤処理を施すことを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法である。
【0018】
すなわち、マグネシウム系水素貯蔵材料の原料に、不活性ガス雰囲気下で機械的粉剤処理(メカニカルミリング)を施すことにより、これらマグネシウム系原料とケイ化ニッケルとを、水素貯蔵材料に好適なナノメートルサイズまで微細化することができる。また、これらマグネシウム系原料とケイ化ニッケルとは、微細化されることによってその表面積が増大し、内部の高活性な部位が露出するとともに、この高活性な部位どうしが、高分散状態で複合化される。従って、本発明の水素貯蔵材料の製造方法によれば、この水素貯蔵材料の水素吸蔵・放出特性を大幅に向上させることが可能となる。
【0019】
ここで、前記機械的粉剤処理後の水素貯蔵材料に対して、真空雰囲気下で350〜450℃まで加熱する脱水素処理を追加実施する方法を好適に採用することができる。(請求項7)
【0020】
この脱水素処理は、水素貯蔵材料を使用する前に、その活性を高めるための前処理として行われるものであり、これらの製造方法を採用することにより、本発明の水素貯蔵材料は、その水素吸蔵・放出特性を更に飛躍的に向上させることができる。
【0021】
なお、この脱水素処理を行う温度は、Mgと結合している水素が放出される温度域であれば良く、高い方が望ましいことは勿論である。しかしながら、Mgの融点を考慮した場合、その処理温度は350〜450℃とすることが好ましく、更に好ましくは400℃±20℃程度で行うことである。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、特に高価な材料等を使用することなく、大量生産の容易な製造方法により、従来品よりも低い反応温度で水素吸蔵・放出を行うことのできるマグネシウム系水素貯蔵材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明を実施するための形態について説明する。
本発明の2つのマグネシウム系水素貯蔵材料(MgH2−Ni2Si複合体およびMgH2−Mg−Ni2Si複合体)は、いずれも、Mg系水素化物の原料と、この原料の水素吸蔵・放出特性を向上させる触媒としてのケイ化ニッケルとを、所定比率で混合し、機械的粉砕処理を施すことにより得られたものである。
【0024】
この機械的粉砕処理の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、メカニカルミリング処理、メカニカルアロイング処理、メカニカルグライディング処理等、公知の方法を用いることができる。メカニカルミリング処理としては、遊星ボールミル、振動ボールミル、ジェットミル、ハンマーミルなどを使用することが可能で、本実施形態においては、遊星型ボールミル装置を用いたメカニカルミリング処理を行った。
【0025】
なお、Mg系原料を収容する容器や、粉砕用ボール等の材質も、特に限定されるものではないが、本実施形態においては、ステンレス製の容器とボールとを用いた。また、機械的粉剤処理を行うに際し、前記ステンレス製容器の中には不活性ガス(アルゴンガス)が封入され、機械的粉剤処理は室温・大気圧下で行った。
【0026】
機械的粉砕処理の諸条件は、処理する方法やMg系原料の量等を考慮して適宜変更されるが、本実施形態においては、その粉砕エネルギーが重力加速度の3〜5倍(3〜5G)、処理時間9〜108時間で、供試用マグネシウム系水素貯蔵材料の製造を行った。なお、処理の加速度および処理時間の最適条件は、処理完了後のマグネシウム系水素吸蔵材料の水素吸蔵・放出特性と、XRD(X線回折),SEM(電子顕微鏡),XPS(X線光電子分光),示差熱分析等の結果を総合して決定される。
【0027】
このメカニカルミリング処理により、本実施形態におけるマグネシウム系水素貯蔵材料(MgH2−Ni2Si複合体およびMgH2−Mg−Ni2Si複合体)は、いずれも、これらMg系水素化物の原料とケイ化ニッケルとが粉砕・微細化され、ケイ化ニッケルの粒子が前記Mg系水素化物の粒子に高分散状態で複合化することとなる。
【0028】
次に、本実施形態のマグネシウム系水素貯蔵材料に対する脱水素処理について説明する。
脱水素処理(前処理)は、前述のメカニカルミリング処理によって製造されたマグネシウム系水素吸蔵材料を、真空雰囲気にて所定の温度に加熱することにより行われる。加熱温度は、Mgと結合している水素が放出される温度域であれば良く、本実施形態においては、この脱水素処理を400℃−90分間で行った。
【0029】
なお、この脱水素処理は、マグネシウム系水素貯蔵材料を使用する前(更に言えば、貯蔵タンクに収容する前)に行えば良く、特にそのタイミングが限定されるものではない。本実施形態においては、この脱水素処理を、後述する水素吸蔵・放出特性の試験の直前に行っている。
【0030】
水素吸蔵・放出特性の試験に用いた供試サンプルは以下のようにして作製した。
(実施例1)MgH2−Ni2Si複合体の作製
まず、原料となるMgH2粉末[WAKO 580−7018,純度98%]1.00gと、Ni2Si粉末0.055g(Mgに対し1.0mol%)[WAKO 581−66501,粒径850μm以下,純度99%]とを乳鉢で混合し、この混合粉末を、直径が12mmのステンレス製のボール7個とともにステンレス製のボールミルポット(FRITSCH製,容積45ml)に入れ、アルゴン雰囲気下で密封後、遊星型ボールミル装置(FRITSCH製,P−7型)にセットし、種々の条件(加速度Gおよびミリング時間)でボールミルを行った。
【0031】
(実施例2)MgH2−Mg−Ni2Si複合体の作製
MgH2粉末0.90gおよびMg粉末[福田金属箔工業製 CM−クリンプ KZ200,粒径75μm以下,純度99.9%]0.10gからなる複合原料と、Ni2Si粉末0.056g(原料中の総Mgに対して1.0mol%)を混合し、混合粉末を、前記と同様の方法にてボールミルを行った(ただし、加速度4G,ミリング時間36hのみ。)。
【0032】
(比較例1)MgH2単体
実施例1におけるNi2Si粉末を添加せず、MgH2粉末のみを実施例1と同様の方法にてボールミルを行った(ただし、加速度4G,ミリング時間36hのみ。)。
【0033】
(比較例2)MgH2−Ni複合体
実施例1におけるNi2Si粉末の代わりに、Ni粉末[Aldrich 577995,平均粒径90nm]0.045g(原料中のMgに対して2.0mol%)を使用した以外同様の方法にて、MgH2−Ni複合体を作製した(ただし、加速度3G,ミリング時間2hのみ。)。
【0034】
なお、これら供試サンプル(測定試料)は、後述する水素吸蔵・放出速度の測定前に、減圧雰囲気下で400℃まで加熱する前処理(脱水素処理)を行っている。
【0035】
1)水素吸蔵速度の測定
試料の水素吸蔵速度を調べるために、図1に示すPCT装置(レスカ製:Type PCT−A04)を用いて、ジーベルツ法(容積法)によって水素吸蔵量の経時変化を測定した。なお、初期水素圧を大きくするために、PCT装置には水素貯蔵タンク2および弁4を追加装備している。
【0036】
測定には試料粉末約0.1gを用いた。反応容器(内径約5mm、長さ約110mm)に試料を入れ、PCT装置にセットし、弁2,3,4を開き、セラミック電気管状炉(アサヒ理化製作所:ARF−50M)内で400℃に加熱し、真空排気を90分間行った(脱水素処理)。
【0037】
その後、弁3,4を閉じ、弁1を開き、水素貯蔵タンク1および2(総容積250.5ml)に0.82MPaの水素を導入し、弁1を閉じた。セラミック電気管状炉内の温度を測定温度にした後、弁4を開いて水素を反応容器に導入し(初期圧:0.80MPa)、水素圧と室温の経時変化を記録し、上記と同様に、圧力変化を水素の重量に換算した。その重量から試料重量に対する水素放出量(重量パーセント)を算出した。なお弁3を開いた直後を時間0とした。
【0038】
2)水素放出速度の測定
試料の水素放出速度を調べるために、図1に示すPCT装置を用いて、ジーベルツ法によって水素放出量の経時変化を測定した。測定には試料粉末約0.1gを用いた。反応容器に試料を入れ、PCT装置にセットし、弁2,3,4を開き、セラミック電気管状炉内で400℃に加熱し真空排気を90分間行った(脱水素処理)。なお、この400℃での真空排気(脱水素処理)を行わない試験も行っている。
【0039】
次いで、弁3,4を閉じ、弁1を開き、水素貯蔵タンク1,2(250.5ml)に0.82MPaの水素を導入し弁1を閉じた。試料を完全に水素化するために、セラミック電気管状炉内の温度を270℃にした後、弁4を開いて水素を反応容器に導入した。120分間水素吸蔵させた後に弁3を開きリアクター内の圧力を0.1MPa程度に下げ、弁3,4を閉じた。
【0040】
その後、弁3を開き水素導入室1,2(250.5ml)を真空排気した。圧力が安定してから、弁3を閉じ、セラミック電気管状炉内の温度を測定温度にしてから、弁4を開いて水素圧と室温の経時変化を記録し、水素吸蔵試験と同様に、気体の状態方程式から、圧力変化を水素の重量に換算した。その重量から試料重量に対する水素放出量(重量パーセント)を算出した。なお弁3を開いた直後を時間0とした。
【0041】
[実験1]
まず、以下に、実施例1の配合(MgH2−Ni2Si複合体)を用いて、最適なメカニカルミリングの条件(ボールミルの粉砕エネルギー:加速度G および 処理時間)を検討した試験の結果について述べる。
【0042】
供試サンプルは、上述の(実施例1)に従って作製したMgH2−Ni2Si複合体であり、遊星型ボールミル装置(FRITSCH製,P−7型)にセットし、ボールミルの粉砕エネルギー(加速度G)を3〜5G,ミリング時間(hour)を9〜108hまで変化させて行った。そして、以下の供試サンプル:実施例1−1〜実施例1−9および比較例1の100℃における水素吸蔵量の経時変化を測定した。
実施例1−1 ボールミル条件(加速度:3G ミリング時間:36h)
実施例1−2 ボールミル条件(加速度:3G ミリング時間:72h)
実施例1−3 ボールミル条件(加速度:3G ミリング時間:108h)
実施例1−4 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:18h)
実施例1−5 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:36h)
実施例1−6 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:72h)
実施例1−7 ボールミル条件(加速度:5G ミリング時間:9h)
実施例1−8 ボールミル条件(加速度:5G ミリング時間:18h)
実施例1−9 ボールミル条件(加速度:5G ミリング時間:36h)
比較例1 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:36h)
【0043】
これら供試サンプルの100℃における水素吸蔵量の経時変化を測定したグラフを図2〜4に示す。なお、図2は加速度3Gで作製したサンプル(実施例1−1〜1−3)の結果を、図3は加速度4Gで作製したサンプル(実施例1−4〜1−6)の結果を、図4は加速度5Gで作製したサンプル(実施例1−7〜1−9)の結果を示す。
【0044】
これらのグラフより、以下のことが見てとれる。
・Ni2Siを添加しない比較例1(100℃120分で約1.0wt%)に比べ、いずれの加速度の処理においても水素吸蔵量が向上した。
・加速度3Gのボールミル条件で作製したMg−Ni2Si複合体では、72hボールミルして作製した複合体の水素吸蔵速度が最も優れており、120分で4.3wt%の水素を吸蔵した。
・加速度4Gでボールミルした場合には、ミリング時間36hで得られた複合体が最も優れ、120分で4.6wt%の水素を吸蔵した。
・加速度5Gでボールミルした場合には、ミリング時間18hで得られた複合体が最も優れ、ボールミルで得られた複合体が3.6wt%の水素を吸蔵した。
【0045】
これらの測定結果から計算した「水素吸蔵速度」(水素吸着の反応係数:k)を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
以上の結果より、加速度4Gで36hボールミルして作製したMgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)が最も優れた水素吸蔵速度を示すことがわかった。なお、詳細は省略するが、別途行ったボールミリング後の複合体に関するXRD(X線回折),SEM(電子顕微鏡),XPS(X線光電子分光),示差熱分析等の結果から、作製した複合体のMgH2の結晶構造は、ボールミル条件や時間に大きな影響を受けていないことが判明している。しかしながら、これら各種条件でボールミルした複合体の間に、大きな水素吸蔵速度の違いがある事から、Ni2Siの複合体中での分散性がMgH2の改質効果に大きく寄与しており、水素吸蔵特性に大きな影響を与えていると考えられる。
【0048】
[実験2]
次に、以下のサンプルを用いて水素放出量の経時変化を測定した結果について述べる。
実施例1−2 ボールミル条件(加速度:3G ミリング時間:72h)
実施例1−3 ボールミル条件(加速度:3G ミリング時間:108h)
実施例1−4 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:18h)
実施例1−5 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:36h)
実施例1−6 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:72h)
実施例1−8 ボールミル条件(加速度:5G ミリング時間:18h)
実施例1−9 ボールミル条件(加速度:5G ミリング時間:36h)
なお、各サンプルを完全に水素化するために、セラミック電気管状炉内の温度を270℃にした後、弁を開いて水素を反応容器に導入し、120分間水素を吸蔵させた。
【0049】
これら供試サンプルの270℃における水素放出量の経時変化を測定したグラフを図5〜7に示す。なお、図5は加速度3Gで作製したサンプル(実施例1−2〜1−3)の結果を、図6は加速度4Gで作製したサンプル(実施例1−4〜1−6)の結果を、図7は加速度5Gで作製したサンプル(実施例1−8〜1−9)の結果を示す。
【0050】
これらのグラフより、以下のことが見てとれる。
・加速度3Gで72hボールミルして作製したMg−Ni2Si複合体は、120分で約5.0wt%の水素を放出しており、約20分間でほぼ全ての水素を放出していたのに対して、108hボールミルして作製した複合体は、120分で約4.6wt%の水素を放出し、水素放出特性は低下していた。
・加速度4Gで36hおよび72hボールミルして作製したMg−Ni2Si複合体は、120分でそれぞれ4.9wt%,4.8wt%の水素を放出したのに対して、18hボールミルして得られた複合体は、水素放出速度は劣るものの、120分で約5.1wt%の水素を放出していた。
・加速度5Gで18hおよび36hボールミルして作製したMg−Ni2Si複合体は、120分でそれぞれ5.5wt%,5.6wt%の水素を放出しており、3Gおよび4Gで作製したMg−Ni2Si複合体に比べ、水素放出速度は劣るものの、水素放出量は大きく向上することがわかった。
【0051】
これらの結果から、MgH2とNi2Siを大きなエネルギーでボールミルすることにより、MgH2がNi2Siによって熱力学的に改質されると考えられる。一方で、過剰なエネルギーは不純物の混入や、粒子の凝集、常温圧着を促進し、水素放出速度の向上に悪影響が出ると考えられる。
【0052】
また、別途行った示差熱分析の結果から、加速度4G ミリング時間36hのボールミル条件によって作製したMgH2‐Ni2Si複合体(実施例1−5)は、同じボールミル条件によって作製したMgH2単体試料(比較例1)に比べ、水素放出開始温度が約80℃低温側にシフトすることがわかった。
【0053】
[実験3]
次に、水素吸蔵・放出特性の試験の直前に行っている脱水素処理の効果について検討した結果について述べる。
【0054】
供試サンプルは、前述の(実施例1)に従って作製したMgH2−Ni2Si複合体であり、遊星型ボールミル装置(FRITSCH製,P−7型)にセットし、ボールミルの粉砕エネルギー(加速度G)を4G,ミリング時間(hour)を36hとした実施例1−5である。この実施例1−5のサンプルを用いて、水素吸蔵速度試験の直前に熱処理(減圧雰囲気下で400℃ 90分間)を行った場合と行わなかった場合の水素吸蔵量の変化を測定した。
【0055】
図8に、脱水素処理(前処理)を行った場合と行わなかった場合の水素放出試験の結果を示す。脱水素処理を行わなかったMgH2−Ni2Si複合体は、270℃,120分で水素を0.2wt%放出するのみであったが、脱水素処理を行った場合には、120分で水素を4.9wt%放出した。ここから、脱水素処理(前処理)を行うことで、水素放出特性が大幅に改善されることがわかった。
【0056】
[実験4]
次に、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)を用いて行った同様の試験結果について述べる。
【0057】
供試サンプルは、上述の(実施例1)および(実施例2)に従って作製したMgH2−Ni2Si複合体およびMgH2−Mg−Ni2Si複合体であり、遊星型ボールミル装置(FRITSCH製,P−7型)にセットし、ボールミルの粉砕エネルギー(加速度G)を4G,ミリング時間(hour)を36hで固定して行った。そして、以下の供試サンプル:実施例1−5および実施例2の100℃,270℃における水素吸蔵量の経時変化を測定した。
【0058】
これら供試サンプルの各温度における水素吸蔵量の経時変化を測定したグラフを図9に示す。
このグラフより、MgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)が、100℃において120分で4.6wt%水素を吸蔵したのに対し、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)は、100℃において120分で3.8wt%の水素を吸蔵することがわかった。
【0059】
これは、MgとNi2Siとの複合化のために、MgH2がより不安定化されたため、低温での水素吸蔵速度が低下したと考えられる。また、MgはMgH2よりもボールミル中に凝集しやすいため、粒子径の増大を引き起こし、水素の拡散速度が低下した可能性がある。
【0060】
また、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)の270℃における水素吸蔵試験では、約8分で7wt%の水素吸蔵量に達する。これは、Mgの水素の理論容量(7.6wt% per MgH2)の約97%に相当するの吸蔵量であった。
【0061】
なお、これらMgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)およびMgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)の100℃,270℃における水素吸蔵特性(水素吸蔵時間)の測定結果のまとめを表2,表3に示す(ただし、表中の水素吸蔵量は、MgH2あたりの重量%)。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
[実験5]
次に、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)を用いて行った水素放出試験の結果について述べる。
供試サンプルは、前述の(実施例1)および(実施例2)に従って作製した
MgH2−Ni2Si複合体
実施例1−5 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:36h)
MgH2−Mg−Ni2Si複合体
実施例2 ボールミル条件(加速度:4G ミリング時間:36h)
であり、各サンプルを完全に水素化するため、水素放出試験の前に、セラミック電気管状炉内の温度を270℃にした後、弁を開いて水素を反応容器に導入し、120分間水素を吸蔵させた。
【0065】
これら供試サンプルの220℃,250℃,270℃における水素放出量の経時変化を測定したグラフを図10に示す。
【0066】
このグラフより、以下のことが見てとれる。
・水素放出温度が220℃になると、放出速度が著しく低下する。
・MgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)は、250℃において120分でさえ4.6wt%の水素しか放出できなかったのに対し、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)は、120分で7.0wt.%の水素を放出した。
・また、270℃でも、MgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)が120分で4.9wt.%の水素しか放出しなかったのに対し、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)は、約35分で7.0wt.%の水素を放出し、120分では吸蔵した水素(7.2wt.%)をほぼ完全に放出した。
【0067】
以上のことから、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)は、特に水素放出量の点で、MgH2−Ni2Si複合体(実施例1)に比べて、著しく向上していることがわかった。ここから、Ni2SiとMgを複合化させることによって、より改質効果に寄与するNi2SiをMgマトリクス中に加えることができ、水素放出過程の動力学的特性を改善するとともに、MgH2の熱力学的な不安定化に大きく寄与できると考えられる。
【0068】
なお、MgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)に関し、220℃で48hの放出試験を行ったところ、図11のように、水素放出は約20hで完了しており、4.5wt.%(水素吸蔵量の約63%)の水素を放出していた。
【0069】
また、これらMgH2−Ni2Si複合体(実施例1−5)およびMgH2−Mg−Ni2Si複合体(実施例2)の250℃,270℃における水素放出特性(水素放出時間)の測定結果のまとめを表4,表5に示す(ただし、表中の水素吸蔵量は、MgH2あたりの重量%)。
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明によれば、乗用車等の車両に搭載しても安全で、かつ、車両への搭載にあたり要求される水素吸蔵放出特性を満たすことのできる水素貯蔵材料を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態における水素貯蔵材料の水素吸蔵・放出特性を測定するために用いた装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−1〜1−3)の水素吸蔵量の経時変化を示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−4〜1−6)の水素吸蔵量の経時変化を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−7〜1−9)の水素吸蔵量の経時変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−2〜1−3)の水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−4〜1−6)の水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例1−8〜1−9)の水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態の水素貯蔵材料(実施例1−5)において脱水素処理(前処理)を行った場合と行わなかった場合の水素放出試験の結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例2)の水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【図10】本発明の実施形態における水素貯蔵材料(実施例2)の水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【図11】本発明の実施形態の水素貯蔵材料(実施例2)の220℃における水素放出量の経時変化を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料となる水素化マグネシウムと、この原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケルと、からなることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項2】
水素化マグネシウムおよび金属マグネシウムからなる複合原料と、この原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケルと、からなることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項3】
前記複合原料が、50〜90wt%の水素化マグネシウムと、10〜50wt%の金属マグネシウムと、からなることを特徴とする請求項2に記載の水素貯蔵材料。
【請求項4】
前記ケイ化ニッケルの添加割合が、前記原料中の総Mg量に対して0.5〜2.0mol%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水素貯蔵材料。
【請求項5】
水素貯蔵材料を製造する方法であって、
原料となる水素化マグネシウムと所定割合のケイ化ニッケルとを混合した後、不活性ガス雰囲気下で該混合物に機械的粉剤処理を施すことを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項6】
水素貯蔵材料を製造する方法であって、
水素化マグネシウムおよび金属マグネシウムからなる複合原料と、所定割合のケイ化ニッケルとを混合した後、不活性ガス雰囲気下で該混合物に機械的粉剤処理を施すことを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項7】
前記機械的粉剤処理の後、更に、前記混合物を真空雰囲気下で350〜450℃まで加熱する脱水素処理を行うことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項1】
原料となる水素化マグネシウムと、この原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケルと、からなることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項2】
水素化マグネシウムおよび金属マグネシウムからなる複合原料と、この原料中のMg量に対して所定の割合で添加されたケイ化ニッケルと、からなることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項3】
前記複合原料が、50〜90wt%の水素化マグネシウムと、10〜50wt%の金属マグネシウムと、からなることを特徴とする請求項2に記載の水素貯蔵材料。
【請求項4】
前記ケイ化ニッケルの添加割合が、前記原料中の総Mg量に対して0.5〜2.0mol%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水素貯蔵材料。
【請求項5】
水素貯蔵材料を製造する方法であって、
原料となる水素化マグネシウムと所定割合のケイ化ニッケルとを混合した後、不活性ガス雰囲気下で該混合物に機械的粉剤処理を施すことを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項6】
水素貯蔵材料を製造する方法であって、
水素化マグネシウムおよび金属マグネシウムからなる複合原料と、所定割合のケイ化ニッケルとを混合した後、不活性ガス雰囲気下で該混合物に機械的粉剤処理を施すことを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項7】
前記機械的粉剤処理の後、更に、前記混合物を真空雰囲気下で350〜450℃まで加熱する脱水素処理を行うことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の水素貯蔵材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−291705(P2009−291705A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147122(P2008−147122)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【Fターム(参考)】
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