説明

水素量測定装置

【課題】鋼材試料を一定の温度上昇率で昇温させることができる水素量測定装置を提供する。
【解決手段】水素量測定装置10は、真空チャンバー11と、チャンバー11を室温から高温に向かって昇温させる電気炉13と、鋼材試料20Aから放出される水素ガスの分圧を分析する分圧分析計15と、分析計15から出力された分圧に基づいて試料20Aに含まれる水素量を求めるコントローラ17とを備えている。コントローラ17は、チャンバー11を一定温度上昇率で昇温させてサンプル20Bのチャンバー11内における温度上昇変移を測定するサンプル温度測定手段と、一定温度上昇率で昇温するチャンバー11の温度上昇変移とサンプル20Bの温度上昇変移との変移誤差を特定する変移誤差特定手段と、試料20Bの水素量測定時におけるチャンバー11の測定時温度上昇変移を変移誤差の分だけ高くする昇温補正手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物に含まれる水素量を測定する水素量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材に含まれる拡散性水素の水素量を特定することは、その鋼材の現在の強度を分析し、鋼材の寿命や交換時期を予測する上で重要である。拡散性水素は、鋼材の製造後、鋼材に次第に侵入し、室温で鋼材の内部を遊動することで鋼材に局所的な劣化を引き起こし、鋼材の遅れ破壊の原因となる。拡散性水素は、鋼材が室温〜300℃の温度範囲にあるときにその鋼材から放出される。なお、大気圧イオン化質量分析装置や真空質量分析計を利用して拡散性水素を測定する方法がある(特許文献1参照)。
【0003】
前記特許文献1に開示の測定方法において、大気圧イオン化質量分析装置を利用する水素量の測定は、測定温度範囲が20〜800℃、加熱器による温度上昇速度が12℃/min、キャリアガス(Ar)流量が800ml/minの条件で行われる。また、真空質量分析計を利用する水素量の測定は、加熱器による温度上昇速度が12℃/min、真空度が10−6torr、鋼材試料調整終了から測定開始までの時間が20分以下の条件で行われる。
【0004】
また、所定量の水素を吸蔵した水素吸蔵物を格納した燃料タンクと、加熱によって吸蔵している水素を放出する水素吸蔵小ブロックと、水素吸蔵小ブロックを格納した圧力容器と、圧力容器を加熱するヒータと、圧力容器の内圧を測定する圧力計と、燃料タンクと圧力容器とにつながる水素流路と、水素流路を開閉する電磁弁とから形成された水素量測定装置がある(特許文献2参照)。
【0005】
前記特許文献2に開示の水素量測定装置における水素量の測定手順は、以下のとおりである。なお、この装置では、圧力容器の圧力上昇と水素量との関係があらかじめ求められている。電磁弁を開状態にして水素流路を開くことで、燃料タンクの内圧と圧力容器の内圧とが平衡し、燃料タンクに格納された水素吸蔵物の水素量と圧力容器に格納された水素吸蔵小ブロックの水素量とが同一になる。この状態において電磁弁を閉状態にして水素流路を閉じ、ヒータによって圧力容器を加熱して水素吸蔵小ブロックから水素を放出させ、小ブロックから放出された水素による圧力容器の圧力上昇を圧力計によって側定する。次に、圧力容器の圧力上昇と水素量との関係から測定された圧力上昇に対応する水素量を求める。水素量の測定が終了した後、電磁弁を閉状態から開状態にして水素流路を開く。水路流路を開くと、燃料タンクの内圧と圧力容器の内圧とが平衡し、水素吸蔵物の水素量と水素吸蔵小ブロックの水素量とが同一になり、再度の水素量測定が可能となる。
【特許文献1】特開2003−253376号公報
【特許文献2】特開平10−221332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に開示の水素量測定方法は、チャンバーを所定の温度上昇速度で加熱し、チャンバーに格納された鋼材試料を低温から高温に向かって次第に加熱することで試料から水素を放出させつつ、試料から放出された水素の水素量を測定する。しかし、加熱器によって加熱されたチャンバーが一定の温度上昇速度で昇温したとしても、チャンバーの熱がその内部に格納された鋼材試料に伝達されるまでに一定の時間を要するから、チャンバーの温度上昇変移と鋼材試料の温度上昇変移とが一致せず、チャンバーの温度上昇よりも鋼材試料の温度上昇が遅れる温度上昇遅延が生じ、鋼材試料を一定の温度上昇率で昇温させることができない。この水素量測定方法では、鋼材試料から放出される水素の水素量と試料の温度との相関関係を正確に特定することができず、鋼材試料の温度に基づいてその試料に含まれる水素の種類を判別することができないから、拡散性水素の水素量を正確に測定することができない。
【0007】
前記特許文献2に開示の水素量測定装置は、所定の測定対象物を加熱し、その対象物を低温から高温に向かって次第に昇温することで対象物から水素を放出させつつ、その対象物から放出された水素の水素量を測定することはないから、測定対象物が所定の温度範囲にあるときに放出される水素の水素量を測定することができない。この水素量測定装置は、測定対象物の温度に基づいてその対象物に含まれる水素の種類を判別することができない。
【0008】
本発明の目的は、測定対象物を一定の温度上昇率で昇温させることができる水素量測定装置を提供することにある。本発明の他の目的は、測定対象物が所定の温度範囲にあるときに放出される水素の水素量を測定することができる水素量測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための本発明の水素量測定装置は、異形異質量の測定対象物を格納する真空チャンバーと、真空チャンバーを低温から高温に向かって次第に昇温させる加熱器と、真空チャンバー内に格納された測定対象物の温度上昇にともなってその測定対象物から放出される水素ガスの水素ガス分圧を分析する分圧分析計と、分圧分析計から出力された水素ガス分圧に基づいて測定対象物に含まれる水素量を求めるコントローラとを備え、コントローラが、真空チャンバーを一定温度上昇率で昇温させて測定対象物を擬似したサンプルのチャンバー内における温度上昇変移を測定するサンプル温度測定手段と、一定温度上昇率で昇温する真空チャンバーの温度上昇変移とサンプルの温度上昇変移との変移誤差を特定する変移誤差特定手段と、測定対象物の水素量測定時における真空チャンバーの測定時温度上昇変移を変移誤差の分だけ高くする昇温補正手段とを有する。
【0010】
本発明の水素量測定装置の一例としては、コントローラが、一定温度上昇率に対応して所定の傾きで略直線的に上昇する第1昇温線を生成する第1昇温線生成手段と、サンプルの温度上昇変移に基づいて所定の傾きで上昇するサンプルの第2昇温線を生成する第2昇温線生成手段とを含み、変移誤差特定手段では、第1昇温線に対する第2昇温線の変移誤差を特定し、昇温補正手段では、第1昇温線にそれら昇温線どうしの変移誤差を加えることで、所定の傾きで上昇する第3昇温線を生成し、真空チャンバーの測定時温度上昇変移を第3昇温線に一致させる。
【0011】
本発明の水素量測定装置の他の一例として、コントローラは、真空チャンバーの測定時温度上昇変移を第3昇温線に一致させるため、第3昇温線を画成する各温度値を0.01〜3秒間隔で時系列に更新しつつ、更新したそれら温度値を加熱器に出力する。
【0012】
本発明の水素量測定装置の他の一例としては、水素量測定装置が、真空チャンバーの温度を測定する温度センサを含み、コントローラが、分圧分析計から出力された水素ガス分圧を所定の検量線に当て嵌めて測定対象物から放出された水素ガスの放出速度を決定し、放出速度から測定対象物に含まれる水素量を定量する水素量定量手段と、温度センサから出力されたチャンバーの実測温度を変移誤差特定手段によって特定した変移誤差の分だけ低くして補正温度を算出する温度補正手段と、水素量定量手段によって定量した水素量と補正温度との相関関係を特定する相関関係特定手段とを含む。
【0013】
本発明の水素量測定装置の他の一例としては、水素量測定装置が真空チャンバーに標準水素ガスを一定放出速度で供給する水素ガス供給ユニットを含み、分圧分析計が水素ガス供給ユニットから真空チャンバーに供給された標準水素ガスの分圧を分析し、コントローラが分圧分析計から出力された標準水素ガスの分圧とその標準水素ガスの分圧に対応する放出速度とを用いて検量線を設定する検量線設定手段を含む。
【0014】
本発明の水素量測定装置の他の一例として、検量線設定手段では、少なくとも3つの標準水素ガスの分圧とそれら標準水素ガスの分圧に対応する少なくとも3つの放出速度とを用いて検量線を設定する。
【0015】
本発明の水素量測定装置の他の一例としては、分圧分析計における分圧分析の時間間隔が0.01〜5秒の範囲にある。
【0016】
本発明の水素量測定装置の他の一例としては、加熱器の温度上昇速度が50〜200℃/hrの範囲にある。
【0017】
本発明の水素量測定装置の他の一例としては、真空チャンバーの到達真空度が1×10−7〜1×10−13Paの範囲にあり、真空チャンバーにおける水素ガスのバックグラウンド分圧が1×10−9Pa以下である。
【0018】
本発明の水素量測定装置の他の一例として、水素量定量手段では、分圧分析計から出力された水素ガス分圧からバックグラウンド分圧を減算して実質分圧を算出し、実質分圧を検量線に当て嵌めて水素量を定量する。
【0019】
本発明の水素量測定装置の他の一例として、水素量定量手段では、測定対象物が室温〜300℃に加熱されたときにその測定対象物から放出される水素ガスの水素ガス分圧を検量線に当て嵌め、測定対象物に含まれる拡散性水素の水素量を定量し、コントローラは、真空チャンバーの温度が室温〜400℃の範囲にあるときに昇温補正手段を実行する。
【0020】
本発明の水素量測定装置の他の一例としては、測定対象物が鋼材である。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる水素量測定装置によれば、測定対象物の水素量測定時における真空チャンバーの測定時温度上昇変移を、一定温度上昇率で昇温させた場合の真空チャンバーの温度上昇変移とサンプルの温度上昇変移との変移誤差の分だけ高くするから、真空チャンバーの温度上昇変移と測定対象物の温度上昇変移とが一致せずに測定対象物に温度上昇遅延が生じたとしても、測定対象物を一定の温度上昇率で昇温させることができる。この水素量測定装置は、測定対象物から放出される水素の水素量と対象物の温度との相関関係を正確に特定することができ、測定対象物の温度に基づいてその対象物に含まれる水素の種類を判別することができる。
【0022】
第1昇温線に変移誤差を加えることで所定の傾きで上昇する第3昇温線を生成し、真空チャンバーの測定時温度上昇変移を第3昇温線に一致させる水素量測定装置は、略直線的に上昇する第1昇温線に変移誤差を加えた第3昇温線を利用して真空チャンバーを昇温させるから、真空チャンバーの温度上昇変移と測定対象物に温度上昇変移とが一致せずに測定対象物に温度上昇遅延が生じたとしても、測定対象物を一定の温度上昇率で確実に昇温させることができる。この水素量測定装置は、測定対象物から放出される水素の水素量と対象物の温度との相関関係を正確に特定することができ、測定対象物の温度に基づいてその対象物に含まれる水素の種類を確実に判別することができる。
【0023】
真空チャンバーの測定時温度上昇変移を第3昇温線に一致させるため、第3昇温線を画成する各温度値を0.01〜3秒間隔で時系列に更新しつつ、更新したそれら温度値を加熱器に出力する水素量測定装置は、0.01〜3秒間隔で細分化された第3昇温線の温度値を加熱器に出力し、加熱器による真空チャンバーの加熱を細かく制御するから、真空チャンバーの測定時温度上昇変移を第3昇温線に限りなく近づけることができ、真空チャンバーの温度上昇変移と測定対象物に温度上昇変移とが一致せずに測定対象物に温度上昇遅延が生じたとしても、測定対象物を一定の温度上昇率で確実に昇温させることができる。
【0024】
真空中において測定対象物を加熱し、その対象物を低温から高温に向かって次第に昇温することで、その対象物から放出される水素ガスの水素ガス分圧を分析し、その水素ガス分圧を検量線に当て嵌めて測定対象物に含まれる水素量を時系列に定量する水素量測定装置は、測定対象物が所定の温度範囲にあるときに放出される水素の水素量を確実に測定することができる。この水素量測定装置は、温度センサから出力されたチャンバーの実測温度を変移誤差の分だけ低くして補正温度を特定し、定量した水素量と補正温度との相関関係を特定するから、測定対象物の各温度に対応した水素量を確認することができ、測定対象物の温度に基づいてその対象物に含まれる水素の種類を判別することができる。なお、測定対象物が鋼材の場合、その遅れ破壊の原因となる拡散性水素の測定が必要となるが、この水素量測定装置は、測定対象物が所定の温度範囲にあるときに放出される水素の水素量を定量することができるから、鋼材に含まれる拡散性水素の量を測定することができる。この水素量測定装置は、鋼材の現在の強度を分析することができ、鋼材の寿命や交換時期を予測することができる。
【0025】
分圧分析計から出力された標準水素ガスの分圧とその標準水素ガスの分圧に対応する放出速度とを用いて検量線を設定する水素量測定装置は、水素ガス供給ユニットから真空チャンバー内に一定放出速度の標準水素ガスを供給し、その標準水素ガスの分圧と放出速度とに基づいて検量線を設定し、測定対象物から放出される水素ガスの水素ガス分圧をその検量線に当て嵌めてその対象物に含まれる水素量を定量するから、測定対象物に含まれる水素量を確実に定量することができる。
【0026】
少なくとも3つの標準水素ガスの分圧とそれら標準水素ガスの分圧に対応する少なくとも3つの放出速度とを用いて検量線を設定する水素量測定装置は、標準水素ガスの少なくとも3つの分圧および放出速度から検量線を設定することで、検量線の信頼性や確実性を向上させることができる。この水素量測定装置は、少なくとも3つの分圧および放出速度から設定された検量線に測定対象物から放出される水素ガスの水素ガス分圧を当て嵌めてその対象物の水素量を定量するから、測定対象物に含まれる水素量を高い信頼度で測定することができる。
【0027】
分圧分析計における分圧分析の時間間隔が0.01〜5秒の範囲にある水素量測定装置は、分圧分析計が前記時間間隔で測定対象物から放出される水素ガスの水素ガス分圧を分析するから、時々刻々と変化する測定対象物の温度に対応しつつその対象物に含まれる水素量を精細に定量することができ、測定対象物が所定の温度範囲にあるときに放出される水素の水素量を高い信頼度で確実に測定することができる。この水素量測定装置は、測定対象物の各温度に対応した水素量を確認することができ、測定対象物の温度に基づいてその対象物に含まれる水素の種類を確実に判別することができる。
【0028】
加熱器の温度上昇速度が50〜200℃/hrの範囲にある水素量測定装置は、短時間で測定対象物を最高測定温度に到達させることができ、測定対象物の各温度に対応した水素量を短い時間で定量することができる。この水素量測定装置は、加熱器の温度上昇速度を前記範囲で自由に設定することができるから、測定対象物の種類や物性、性状に合わせてその対象物に合致した温度上昇速度を選択することができる。
【0029】
真空チャンバーの到達真空度が1×10−7〜1×10−13Paの範囲にあり、真空チャンバーにおける水素ガスのバックグラウンド分圧が1×10−9Pa以下である水素量測定装置は、真空チャンバー内を超高真空にすることで、水素以外の他の物質がチャンバー内に残存することはなく、測定対象物に含まれる水素量を高い信頼度で確実に測定することができる。この水素量測定装置は、真空チャンバーにおける水素ガスのバックグラウンド分圧が1×10−9Pa以下であるから、真空チャンバー内に残存する水素の濃度が極めて低く、残存水素によって測定対象物の水素量の定量化に誤差が生じることはなく、測定対象物に含まれる水素量を高い信頼度で確実に測定することができる。
【0030】
分圧分析計から出力された水素ガス分圧からバックグラウンド分圧を減算して実質分圧を算出し、実質分圧を検量線に当て嵌めて水素量を定量する水素量測定装置は、真空チャンバー内に水素が残存していたとしても、その残存水素を減算して水素量を定量するから、残存水素によって測定対象物の水素量の定量化に誤差が生じることはなく、測定対象物に含まれる水素量を高い信頼度で確実に測定することができる。
【0031】
測定対象物が室温〜300℃に昇温されたときに該対象物から放出される水素ガスの水素ガス分圧を検量線に当て嵌め、測定対象物に含まれる拡散性水素の水素量を定量する水素量測定装置は、測定対象物が鋼材の場合、その遅れ破壊の原因となる拡散性水素の量を確実に定量することができ、鋼材の現在の強度を分析することができるとともに、鋼材の寿命や交換時期を確実に予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
添付の図面を参照し、本発明にかかる水素量測定装置の詳細を説明すると、以下のとおりである。図1は、一例として示す水素量測定装置10の構成図であり、図2は、図1のA−A線端面図である。図1では、前後方向を矢印Xで示し、上下方向を矢印Yで示す。図2では、周り方向を矢印Zで示す。なお、図1では、電気炉13(加熱器)を断面図として示し、鋼材試料20A(測定対象物)やサンプル20Bを真空チャンバー11の内部19へ搬送する搬送ユニット12の図示を一部省略している。この水素量測定装置10は、真空チャンバー11と、搬送ユニット12と、電気炉13と、温度センサ14と、分圧分析計15と、標準ガス供給ユニット16と、コントローラ17とを主要な構成機器とする。搬送ユニット12や電気炉13、温度センサ14、分圧分析計15、標準水素ガス供給ユニット16は、インターフェイス18(有線または無線)を介してコントローラ17に接続されている。
【0033】
真空チャンバー11は、円筒状に成形された石英ガラスまたは強化ガラス、耐熱ガラスから作られ、前後方向へ延びている。チャンバー11は、その内部19に所定の大きさの鋼材試料20Aや試料を擬似したサンプル20Bを格納可能である。鋼材試料20Aは、所定形状の製品として製造された鋼材製品そのもの、または、鋼材製品の一部のいずれであってもよい。サンプル20Bは、鋼材試料20Aが鋼材製品そのものの場合、その鋼材製品と同一の製品であり、鋼材試料20Aが鋼材製品の一部である場合、鋼材製品の一部を擬似した物である。したがって、この測定装置10において測定される鋼材試料20Aやサンプル20Bは、その形状や重量、体積が不揃いの異形異質量のそれらを対象とする。なお、この測定装置10における測定対象物を鋼材試料20Aに限定するものではなく、測定対象物として、鋼材試料20Aの他に、あらゆる有機物や無機物が含まれる。
【0034】
真空チャンバー11では、その前後方向中央部21に鋼材試料20Aやサンプル20Bが載置される。チャンバー11の一方の端部22には、真空バルブ23と真空ポンプ24とが連結されている。バルブ23とポンプ24とは、円筒状の管路25を介してつながり、インターフェイス18を介してコントローラ17に接続されている。管路25には、真空計が(図示せず)が設置されている。真空計は、インターフェイスを介してコントローラ17に接続されている。チャンバー11の他方の端部26には、搬送ユニット12が連結されている。
【0035】
搬送ユニット12は、前後方向へ延びる円筒状のケーシング27と、ケーシング27の内部に挿脱可能な前後方向へ長い搬送棒28と、搬送棒28の一方の端部29に取り付けられて鋼材試料20Aやサンプル20Bを着脱可能に支持する支持部材(図示せず)と、ケーシング27の外周面に配置された誘導マグネット(図示せず)とから形成されている。ケーシング27には、真空計(図示せず)が設置されている。真空計は、インターフェイスを介してコントローラ17に接続されている。
【0036】
真空チャンバー11の端部26とケーシング27の端部30との間には、開閉可能なゲートバルブ31が設置されている。ケーシング27の他方の端部(図示せず)には、開閉可能なハッチ(図示せず)が取り付けられている。ケーシング27の略中央部には、ケーシング27の内部に窒素ガスを注入する窒素ガス注入装置(図示せず)が設置されている。ゲートバルブ31の近傍におけるチャンバー11の外周面には、第1位置センサ(図示せず)が設置されている。ゲートバルブ31の近傍におけるケーシング27の外周面には、第2位置センサ(図示せず)が設置されている。ゲートバルブ31は、インターフェイス18を介してコントローラ17に接続されている。窒素ガス注入装置や第1および第2センサは、インターフェイスを介してコントローラ17に接続されている。
【0037】
ケーシング27の端部30には、真空バルブ32と真空ポンプ33とが連結されている。バルブ32とポンプ33とは、円筒状の管路34を介してつながり、インターフェイス18を介してコントローラ17に接続されている。管路34には、真空計が(図示せず)が設置されている。真空計は、インターフェイスを介してコントローラ17に接続されている。搬送棒28は、ケーシング27の内部を前後方向へ移動可能である。誘導マグネットは、ケーシング27の外周面を摺動しつつ、ケーシング27の外周面をその前後方向へ移動可能かつケーシング27の外周面をその周り方向へ移動可能である。搬送ユニット12は、搬送棒28を利用して鋼材試料20Aやサンプル20Bをチャンバー11の端部26から中央部21に搬送し、鋼材試料20Aやサンプル20Bをチャンバー11の中央部21に置く。
【0038】
電気炉13は、制御部(図示せず)と、制御部の温度制御機能によって所定の温度に発熱する加熱部35とから形成されている。制御部は、インターフェイスを介してコントローラ17に接続されている。加熱部35は、発熱体36とそれの周りを取り囲む断熱材37とから作られている。断熱材37は、発熱体36を保温する。電気炉13には、抵抗加熱炉や誘導加熱炉、直通電型電気炉を使用することができる。電気炉13の加熱部35は、蝶番38を介して真空チャンバー11の上下方向へ旋回可能であり、チャンバー11に向かって旋回させることでチャンバー11の外周面をその周り方向から取り囲む。電気炉13は、その加熱部35が低温(室温)から高温に向かって次第に発熱し、チャンバー11を低温から高温に向かって昇温させる。
【0039】
温度センサ14は、電気炉13に取り付けられ、電気炉13の加熱部35を上下方向へ貫通し、その測定部39が真空チャンバー11の外周面の近傍に位置している。温度センサ14は、チャンバー11の温度を時系列に測定し、測定したチャンバー11の温度をコントローラ17に出力する。なお、サンプル20Bの温度測定には、温度センサ14とは別のサンプル温度測定用温度センサ(図示せず)が使用される。サンプル温度測定用温度センサには、電流導入端子(図示せず)が接続されている。電流導入端子は、その一部がチャンバー11の内部19に延出している。サンプル温度測定用温度センサは、サンプル20Bの温度を時系列に測定し、測定したサンプル温度をコントローラ17に出力する。温度センサ14やサンプル温度測定用温度センサには、熱電対型のそれが使用されているが、その他に、抵抗温度センサやサーミスタ、IC温度センサ、磁気温度センサを使用することもできる。
【0040】
分圧分析計15は、円筒状の管路40を介してバルブ23とポンプ24との間に延びる管路25に連結されている。分析計15には、四重極型質量分離装置(図示せず)が利用されている。四重極型質量分離装置は、水素分子をイオン化するイオン源と、質量分離を行うフィルタ部と、フィルタ部を通過したイオンを検出する検出部とから形成されている。なお、四重極型質量分離装置の他に、二重収束型質量分離装置や飛行時間型質量分離装置を利用することもできる。分析計15は、鋼材試料20Aから放出されてチャンバー11内部19を拡散する水素ガスの水素ガス分圧を時系列に分析し、その分析結果(水素ガス分圧)をコントローラ17に出力する。また、標準水素ガス供給ユニット16から供給されてチャンバー11内部19を拡散する標準水素ガスの分圧を分析し、その分析結果(標準水素ガス分圧)をコントローラ17に出力する。
【0041】
標準水素ガス供給ユニット16は、99.999%以上の純度の標準水素ガスを貯蔵するタンク41と、一定の水素ガス放出速度で標準水素ガスを真空チャンバー11に供給する水素ガス供給装置42と、タンク41と供給装置42との間に延びる円筒状の第1供給管43と、チャンバー11と供給装置42との間に延びる円筒状の第2供給管44とから形成されている。供給装置42には、真空計(図示せず)が取り付けられている。第1供給管43と第2供給管44とには、真空バルブ45,46が取り付けられている。供給装置42や真空バルブ45,46、真空計は、インターフェイス18を介してコントローラ17に接続されている。供給装置42は、一定時間に一定圧かつ一定量の標準水素ガスを第2供給管44を介してチャンバー11に供給する。
【0042】
コントローラ17は、中央処理部(CPUまたはMPU)とメモリとを有するコンピュータであり、大容量ハードディスクを内蔵している。コントローラ17には、キーボード47やマウス等の入力装置、ディスプレイ48やプリンタ等の出力装置がインターフェイスを介して接続されている。ハードディスクには、加熱部35の最高到達温度、加熱部35の温度上昇速度、分圧分析計15における分圧分析の時間間隔、第1〜第3昇温線49,50,51(図3参照)、各温度値の更新時間間隔、検量線55(図4参照)、チャンバー11内部19の水素ガスのバックグラウンド分圧が格納される。温度上昇速度や分圧分析の時間間隔、各温度値の更新時間間隔、バックグラウンド分圧は、入力装置を介して随時入力可能、かつ、変更可能である。コントローラ17の中央処理部は、オペレーティングシステムによる制御に基づいて、メモリに格納されたアプリケーションを起動し、起動したアプリケーションに従って以下の各手段を実行する。
【0043】
コントローラ17の中央処理部は、一定の温度上昇速度かつ一定の温度上昇率で真空チャンバー11を昇温させ、サンプル20Bのチャンバー11内部19における温度上昇変移を測定するサンプル温度測定手段を実行する。中央処理部は、一定温度上昇率に対応する関数を算出し、算出した関数に基づき、所定の傾きを有して上昇する略直線状の第1昇温線49を生成する第1昇温線生成手段を実行する。中央処理部は、サンプル20Bの温度上昇変移に対応する関数を算出し、算出した関数に基づき、所定の傾きを有して上昇するサンプル20Bの第2昇温線50を生成する第2昇温線生成手段を実行する。
【0044】
コントローラ17の中央処理部は、一定温度上昇率で昇温するチャンバー11の温度上昇変移とサンプル20Bの温度上昇変移との変移誤差(第1昇温線49に対する第2昇温線50の変移誤差)を特定する変移誤差特定手段を実行し、第1昇温線49に第1および第2昇温線49,50どうしの変移誤差を加える(チャンバー11における測定時温度上昇変移を変移誤差の分だけ高くする)ことで、所定の傾きで上昇する第3昇温線51を生成する第3昇温線生成手段を実行する。中央処理部は、生成した第1〜第3昇温線49,50,51をハードディスクに格納する昇温線格納手段を実行し、鋼材試料20Aの水素量測定時におけるチャンバー11の測定時温度上昇変移を第3昇温線51に一致させる昇温補正手段を実行する。
【0045】
コントローラ17の中央処理部は、真空チャンバー11の内部19に残存する水素ガスのバックグラウンド分圧を分圧分析計15に分析させるバックグラウンド分圧分析手段を実行し、分析計15から出力されたバックグラウンド分圧をハードディスクに格納するバックグラウンド分圧格納手段を実行する。中央処理部は、分析計15から出力された標準水素ガスの分圧とその標準水素ガスの分圧に対応する水素放出速度とを用いて検量線55を設定する検量線設定手段を実行し、設定した検量線55をハードディスクに格納する検量線記憶手段を実行する。さらに、検量線55が変更された場合、変更前の検量線55を変更後の検量線55に書き換える検量線更新手段を実行する。
【0046】
コントローラ17の中央処理部は、分圧分析計15から出力された水素ガス分圧を検量線55に当て嵌めて鋼材試料20Aから放出された水素ガスの水素ガス放出速度を決定する水素ガス放出速度決定手段を実行し、水素ガス放出速度から鋼材試料20Aに含まれる水素量を定量する水素量定量手段を実行する。中央処理部は、水素ガス放出速度決定手段によって決定した水素ガス放出速度をハードディスクに時系列に格納する水素ガス放出速度記憶手段を実行し、水素量定量手段によって定量した水素量をハードディスクに時系列に格納する水素量記憶手段を実行する。中央処理部は、温度センサから出力されたチャンバーの実測温度を変移誤差特定手段によって特定した変移誤差の分だけ低くして補正温度を算出する温度補正手段を実行し、水素ガス放出速度決定手段によって特定した水素ガス放出速度と温度補正手段によって算出した補正温度との相関関係を特定する相関関係第1特定手段を実行する。さらに、水素量定量手段によって定量した水素量と温度補正手段によって算出した補正温度との相関関係を特定する相関関係第2特定手段(相関関係特定手段)を実行する。
【0047】
コントローラ17の中央処理部は、水素ガス放出速度と補正温度との相関関係をハードディスクに格納する相関関係第1記憶手段を実行し、水素量と補正温度との相関関係をハードディスクに格納する相関関係第2記憶手段を実行する。さらに、水素ガス放出速度と補正温度との相関関係を出力する相関関係第1出力手段を実行し、水素量と補正温度との相関関係を出力する相関関係第2出力手段を実行する。
【0048】
なお、この測定装置10における測定手順は、最初に鋼材試料20Aを擬似したサンプル20Bを用意し、そのサンプル20Bを搬送ユニット27から真空チャンバー11の内部19に移す。サンプル20Bに電流導入端子を接続し、サンプル温度測定用温度センサによってサンプル20Bの温度上昇を測定した後、第1および第2昇温線49,50を生成し、それら昇温線49,50から第3昇温線51を生成する。次に、チャンバー11内部19の残存水素ガスのバックグラウンド分圧を測定し、標準水素ガスによって検量線55を設定した後、鋼材試料20Aを搬送ユニット27からチャンバー11の内部19に移し、その鋼材試料20Aに含まれる各種水素量を測定する。
【0049】
この測定装置10におけるサンプル温度測定の一例を説明すると、以下のとおりである。測定装置10を起動させると、コントローラ17が稼動し、コントローラ14に接続されたディスプレイ48に初期画面(図示せず)が表示される。初期画面の各種項目のうち、サンプル温度測定を選択すると、ディスプレイ48には、条件設定画面が表示される。条件設定画面には、加熱器35の最高到達温度入力エリア、加熱器35の温度上昇速度入力エリア、設定ボタンが表示される。加熱器35の最高到達温度は、室温〜1000℃の範囲で設定可能である。加熱器35の温度上昇速度は、50〜200℃/hrの範囲で設定可能である。
【0050】
最高到達温度入力エリアに温度(℃)を入力するとともに、温度上昇速度入力エリアに温度上昇速度(℃/hr)を入力し、設定ボタンを押すと、ディスプレイ48には、条件確認ボタン、条件変更ボタン、キャンセルボタンが表示される。条件を変更する場合は、条件変更ボタンを押す。条件変更ボタンを押すと、各種条件がクリアされて条件入力画面が再びディスプレイ48に表示され、条件設定をはじめからやり直す。キャンセルボタンを押すと、初期画面がディスプレイ48に表示される。設定条件に変更がない場合は、条件確認ボタンを押す。
【0051】
条件確認ボタンを押すと、コントローラ17は、最高到達温度、温度上昇速度をハードディスクに格納した後、各真空バルブ23,32を開けるとともに、各真空ポンプ24,33を稼動させる。なお、最高到達温度は、800℃に設定されたものとし、温度上昇速度は、100℃/hrに設定されたものとする。真空チャンバー11の内部19やケーシング27の内部、分圧分析計15、管路23,34,40は、それらポンプ23,33によって1×10−7〜1×10−13Paのいずれかの真空度(真空圧)に保持される。この測定装置10は、サンプル20Bの種類や物性、性状に合わせてそれらに合致した最高到達温度や温度上昇速度を自由に選択することができる。
【0052】
コントローラ17は、真空計から出力される真空度を監視し、真空チャンバー11の内部19やケーシング27の内部、分圧分析計15、管路23,34,40が所定の真空度に達したと判断すると、ディスプレイ48にサンプル搬入開始ボタンとキャンセルボタンとを表示する。搬入を中止する場合は、キャンセルボタンを押す。キャンセルボタンを押すと、初期画面がディスプレイ48に表示される。サンプル搬入開始ボタンを押すと、コントローラ17は、真空バルブ32を閉め、窒素ガス注入装置を介してケーシング27に窒素ガスを注入し、ケーシング27の内部に窒素ガスを充満させ、ケーシング27の内部を大気圧にする。このとき、ゲートバルブ31は閉状態にあり、真空ポンプ24,33は稼動状態にある。チャンバー11の内部19や分圧分析計15、管路23,40における真空度は、ポンプ24によって1×10−7〜1×10−13Paの範囲に保持されている。コントローラ17は、真空計から出力される真空度を監視し、ケーシング27の内部が大気圧に戻ったと判断すると、窒素ガスの注入を停止し、ディスプレイ48にハッチ開閉可能メッセージとハッチ閉鎖完了ボタンとを表示する。ケーシング27に窒素ガスを充満させることで、ケーシング27の内部に他の種類のガスが残存することを防ぐことができる。
【0053】
次に、支持部材にサンプル20Bを支持させ、ハッチを開けて搬送棒28をケーシング27の内部に設置する。このとき、支持部材はゲートバルブ31に対向する。サンプル20Bと搬送棒28とをケーシング27の内部に設定した後、ハッチを閉めてケーシング27を密閉し、ディスプレイ48に表示されたハッチ閉鎖完了ボタンを押す。閉鎖完了ボタンを押すと、コントローラ17は、真空バルブ32を開け、真空ポンプ33を介して窒素ガスをケーシング27から外部に排出する。コントローラ17は、真空計から出力される真空度を監視し、ケーシング27の内部および管路34が所定の真空度に達したと判断すると、搬入可能メッセージをディスプレイ48に表示する。
【0054】
搬入可能メッセージが表示された後、誘導マグネットを真空チャンバー11に向かってケーシング27の外周面を前後方向へ移動させる。搬送棒28にはマグネットの磁力が作用しており、その磁力によってマグネットとともに支持部材に支持されたサンプル20Bと搬送棒28とがゲートバルブ31に向かって前後方向へ移動する。支持部材がゲートバルブ31の近傍に達すると、第2位置センサからコントローラ17にON信号が出力される。第2位置センサからON信号を受け取ったコントローラ17は、ゲートバルブ31を開ける。
【0055】
ゲートバルブ31が開いた後、誘導マグネットを真空チャンバー11に向かってさらに前後方向へ移動させる。マグネットの磁力によって支持部材に支持されたサンプル20Bと搬送棒28とがゲートバルブ31を通過してチャンバー11の中央部21に向かって前後方向へ移動する。支持部材がゲートバルブ31を通過すると、第2位置センサからコントローラ17にOFF信号が出力され、第1位置センサからコントローラ17にON信号が出力される。コントローラ17は、第2位置センサからのOFF信号と第1位置センサからのON信号とを受け取ると、支持部材が搬送ユニット12からチャンバー11に向かってゲートバルブ31を通過したと判断する。さらにマグネットを介して搬送棒28を移動させ、支持部材がチャンバー11の中央部21に達すると、マグネットをケーシング27の周り方向へ移動させ、搬送棒28を回転させる。搬送棒28を回転させると、支持部材が回転し、サンプル20Bがチャンバー11の下方に向く。この状態で支持部材の支持が解除され、サンプル20Bがチャンバー11の中央部21に載置される。
【0056】
サンプル20Bを真空チャンバー11の中央部21に載置した後、電流導入端子をサンプル20Bに接続する。次に、誘導マグネットをチャンバー11から離間する方向へ移動させ、支持部材とともに搬送棒28をチャンバー27から抜き取る。支持部材をチャンバー11から抜き取り、支持部材がケーシング27の内部においてゲートバルブ31の近傍に位置すると、第1位置センサからコントローラ17にOFF信号が出力され、第2位置センサからコントローラ17にON信号が出力される。
【0057】
コントローラ17は、第1位置センサからのOFF信号と第2位置センサからのON信号とを受け取ると、支持部材がチャンバー11からケーシング27に向かってゲートバルブ31を通過したと判断し、ゲートバルブ31を閉め、サンプル温度測定開始ボタンとキャンセルボタンとをディスプレイ48に表示する。キャンセルボタンを押すと、ディスプレイ48には、測定中止ボタンと測定続行ボタンとが表示される。サンプル温度測定を中止する場合は、測定中止ボタンを押し、サンプル20Bを測定装置10から取り出す。サンプル20Bを測定装置10から取り出す手順は、後に説明するサンプル温度測定後にサンプル20Bを測定装置10から取り出す手順と同一である。
【0058】
サンプル温度測定開始ボタンまたは測定続行ボタンを押すと、ディスプレイ48には、条件確認エリア、条件確認ボタン、条件変更ボタンが表示される。条件確認エリアでは、加熱器35の最高到達温度が最高到達温度表示エリアに表示され、加熱器35の温度上昇速度が温度上昇速度表示エリアに表示される。条件変更ボタンを押すと、それら条件がクリアされて条件入力画面が再びディスプレイ48に表示され、最高到達温度や温度上昇速度の設定をはじめからやり直す。条件に変更がない場合は、条件確認ボタンを押す。条件確認ボタンを押すと、コントローラ17は、電気炉13やサンプル温度測定用温度センサを稼動させ、サンプル温度測定を開始する。
【0059】
コントローラ17は、設定された最高到達温度および温度上昇速度を電気炉13の制御部に出力し、加熱指令を電気炉13の制御部に出力する。さらに、サンプル20Bの温度測定指令をサンプル温度測定用温度センサに出力する。電気炉13の制御部は、コントローラ17から出力された最高到達温度および温度上昇速度に従い、加熱部35を設定された温度上昇速度(100℃/hr)かつ一定温度上昇率で最高到達温度(800℃)にまで発熱させる。サンプル温度測定用温度センサは、温度測定指令に従い、サンプル20Bの温度を時系列に測定し、測定したサンプル温度をコントローラ17に出力する。
【0060】
なお、昇温速度が100℃/hrに設定されており、1時間に100℃昇温するから、最高温度800℃に達するまでに8時間を要する。真空チャンバー11は、電気炉13によって加熱され、低温から最高到達温度に向かって次第に昇温する。チャンバー11の内部19に格納されたサンプル20Bは、チャンバー11の加熱にともなって加熱され、低温から最高到達温度に向かって次第に昇温する。コントローラ17は、サンプル温度測定用温度センサから出力されたサンプル温度に基づいて低温(室温)から最高到達温度までのサンプル20Bの温度上昇変移を測定する(サンプル温度測定手段)。また、サンプル温度測定においてコントローラ17は、サンプル温度の測定と並行して温度センサ14にチャンバー11の温度上昇を測定させ、温度センサ14から出力されたチャンバー温度に基づいて低温(室温)から最高到達温度までのチャンバー11の温度上昇変移を測定することもできる(チャンバー温度測定手段)。
【0061】
図3は、一例として示す第1〜第3昇温線49,50,51が記載された昇温線図である。図3では、縦軸に温度(℃)が表示され、横軸に時間(t)が表示されている。図3では、第1昇温線49を実線、第2昇温線50を一点鎖線で示し、第3昇温線51を点線で示す。コントローラ17は、設定された温度上昇速度および一定温度上昇率に対応する関数を算出し、その関数に基づいて第1昇温線49を生成する(第1昇温線生成手段)。温度センサ14にチャンバー11の温度上昇を測定させた場合は、測定したチャンバー11の温度上昇変移に対応する関数を算出し、その関数に基づいて第1昇温線49を生成する(第1昇温線生成手段)。第1昇温線49は、所定の傾きを有して略直線状に上昇している。コントローラ17は、サンプル温度測定手段によって測定したサンプル20Bの温度上昇変移に対応する関数を算出し、その関数に基づいて第2昇温線50を生成する(第2昇温線生成手段)。
【0062】
第2昇温線50は、所定の傾きを有して上昇しているが、約0℃から約300℃の間において第1昇温線49の下方へ向かって凸となるように湾曲している。これは、加熱器35によって加熱されたチャンバー11が一定の温度上昇速度かつ一定の温度上昇率で昇温したとしても、チャンバー11の熱がその内部19に格納されたサンプル20Bに伝達されるまでに一定の時間を要するから、チャンバー11の温度上昇変移とサンプル20Bの温度上昇変移とが一致せず、チャンバー11の温度上昇よりもサンプル20Bの温度上昇が遅れる温度上昇遅延が生じるからである。この温度上昇遅延は、約0℃〜約300℃の範囲において起こり易く、約300℃を超過した時点で解消される。なお、第2昇温線50は、約300℃で第1昇温線49に一致し、約300℃を超えた時点で略直線状に上昇している。
【0063】
コントローラ17は、第1昇温線49と第2昇温線50とを生成すると、第1昇温線49に対する第2昇温線50の変移誤差(約0℃〜約300℃の範囲における第1昇温線49と第2昇温線50との温度差)を特定し(変移誤差特定手段)、第1昇温線49に第1および第2昇温線49,50どうしの変移誤差を加算して関数を算出し、その関数に基づいて第3昇温線51を生成する(第3昇温線生成手段)。第3昇温線51は、所定の傾きを有して上昇しているが、約0℃から約300℃の間において第1昇温線49の上方へ向かって凸となるように湾曲している。第3昇温線51は、約300℃で第1昇温線49に一致し、約300℃を超えた時点で略直線状に上昇している。換言すれば、第1昇温線49に対する第2昇温線50の約0℃から約300℃の間における温度誤差が第1昇温線49に加えられており、第2昇温線50と第3昇温線51とが第1昇温線49を挟んで互いに鏡像関係にある。
【0064】
コントローラ17は、図3に示すように、昇温線図に第1〜第3昇温線49,50,51を書き込み、その昇温線図をハードディスクに格納する(昇温線格納手段)。さらに、サンプル20Bの温度上昇変位、第1昇温線49に対する第2昇温線50の変移誤差、第1〜第3昇温線49,50,51の基礎となる関数をハードディスクに格納する。それらをハードディスクに格納すると、コントローラ17は、サンプル温度測定終了メッセージとサンプル搬出ボタンとをディスプレイ48に表示する。サンプル搬出ボタンを押すと、コントローラ17は、ゲートバルブ31を開けるとともに、サンプル搬出可能メッセージをディスプレイ48に表示する。サンプル搬出可能メッセージがディスプレイ48に表示された後、サンプル20Bから電流導入端子を取り外し、誘導マグネットを利用して搬送棒28を真空チャンバー11に挿入し、支持部材にサンプル20Bを支持させる。次に、マグネットを利用して搬送棒28をチャンバー11から引き抜き、サンプル20Bをチャンバー11からケーシング27の内部に移動させる。
【0065】
コントローラ17は、第1および第2位置センサからのONOFF信号によって支持部材がチャンバー11からケーシング27に移動したと判断すると、ゲートバルブ31を閉めるとともに、真空バルブ32を閉める。次に、コントローラ17は、窒素ガス注入装置を介してケーシング27に窒素ガスを注入し、ケーシング27の内部に窒素ガスを充満させ、ケーシング27の内部を大気圧にする。コントローラ17は、真空計から出力される真空度を監視し、ケーシング27の内部が大気圧に戻ったと判断すると、窒素ガスの注入を停止し、ディスプレイ48にハッチ開閉可能メッセージを表示する。ハッチ開閉可能メッセージが表示された後、ハッチを開けて搬送棒28をケーシング27の内部から取り出し、支持部材からサンプル20Bを取り外す。搬送棒28をケーシング27から取り出した後、再びハッチを閉めると、コントローラ17は、バルブ32を開けてケーシング27および管路34を所定の真空度に戻す。なお、サンプル温度測定は、あらたな鋼材試料20Aの水素量を測定する度毎に行われる。
【0066】
この測定装置10におけるバックグラウンド分圧測定の一例を説明すると、以下のとおりである。ディスプレイ48に表示された初期画面の各種項目のうち、バックグラウンド分圧測定を選択すると、ディスプレイ48には、条件設定画面が表示される。条件設定画面には、分圧分析計15における分圧分析の時間間隔入力エリアと設定ボタンとが表示される。分圧分析の時間間隔は0.01〜5秒の範囲で設定可能である。時間間隔入力エリアに時間(秒)を入力した後、設定ボタンを押すと、ディスプレイ48には、条件確認エリア、条件確認ボタン、条件変更ボタン、キャンセルボタンが表示される。条件確認エリアでは、分圧分析の時間間隔が時間間隔表示エリアに表示される。
【0067】
分圧分析の時間間隔を変更する場合は、条件変更ボタンを押し、ディスプレイ48に表示された時間間隔入力エリアに変更後の時間間隔を入力し、条件設定をはじめからやり直す。キャンセルボタンを押すと、初期画面がディスプレイ48に表示される。設定条件に変更がない場合は、条件確認ボタンを押す。条件確認ボタンを押すと、コントローラ17は、設定された時間間隔をハードディスクに格納した後、バックグラウンド分圧の測定を開始する。なお、ゲートバルブ31は閉鎖されている。分圧分析の時間間隔は3秒に設定されたものとする。真空チャンバー11の内部19、分圧分析計15、管路25,40、ケーシング27、管路34における真空度は、サンプル温度測定時と同様に、真空ポンプ24,33によって1×10−7〜1×10−13Paの範囲に保持されている。
【0068】
コントローラ17は、真空チャンバー11の内部19に残る残存水素ガスの分圧分析指令を分圧分析計15に出力する。分圧分析計15は、分析指令にしたがって、チャンバー11内部19の残存水素ガスの分圧を3秒間隔で分析し、分析結果(バックグラウンド分圧)をコントローラ17に出力する(バックグラウンド分圧分析手段)。コントローラ17は、分析計15から出力されたバックグラウンド分圧をハードディスクに格納する(バックグラウンド分圧格納手段)。なお、バックグラウンド分圧の測定は、あらたな鋼材試料20Aの水素量を測定する度毎に行われる。
【0069】
図4は、一例として示す検量線55を表示した検量線図である。この測定装置10における検量線設定の一例を説明すると、以下のとおりである。ディスプレイ48に表示された初期画面の各種項目のうち、検量線設定を選択する。検量線設定を選択すると、ディスプレイ48には、条件確認画面が表示される。条件確認画面には、条件確認エリア、条件確認ボタン、条件変更ボタン、キャンセルボタンが表示される。条件確認エリアでは、分圧分析の時間間隔表示エリアにバックグラウンド分圧測定において設定された時間(3秒)が表示される。分圧分析の時間間隔を変更する場合は、条件変更ボタンを押し、ディスプレイ48に表示された時間間隔入力エリアに変更後の時間間隔を入力し、条件設定をはじめからやり直す。キャンセルボタンを押すと、初期画面がディスプレイ48に表示される。
【0070】
条件に変更がない場合は、条件確認ボタンを押す。条件確認ボタンを押すと、ディスプレイ48には、検量線設定における条件設定画面が表示される。条件設定画面には、標準水素ガスの供給回数入力エリアと設定ボタンとが表示される。供給回数入力エリアに供給回数を入力した後、設定ボタンを押すと、ディスプレイ48には、条件確認ボタンとキャンセルボタンとが表示される。キャンセルボタンを押すと、再び初期画面に戻る。
【0071】
条件確認ボタンを押すと、コントローラ17は、設定された供給回数をハードディスクに格納した後、検量線設定を開始する。検量線設定においてコントローラ17は、真空バルブ45,46を開けてタンク41と供給装置42とを連通させ、供給装置42と真空チャンバー11とを連通させる。なお、ゲートバルブ31は閉状態、真空バルブ23,32は開状態にあり、真空ポンプ24,33は稼動状態にある。また、標準水素ガスの供給回数は3回に設定されたものとし、分圧分析の時間間隔には変更がないものとする。真空チャンバー11の内部19や分圧分析計15、管路25,40、供給装置42、供給管43,44における真空度は、ポンプ24によって1×10−7〜1×10−13Paの範囲に保持されている。
【0072】
コントローラ17は、第1標準水素ガスの供給指令を水素ガス供給装置42に出力し、真空チャンバー11の内部19に放出された第1標準水素ガスの分圧の分析指令を分圧分析計15に出力する。タンク41と供給装置42とが連通することで、第1標準水素ガスがタンク41から第1供給管43を通って供給装置42に流入する。供給装置42は、供給指令に従って、一定時間に一定圧かつ一定量の第1標準水素ガスを第2供給管44に供給するとともに、供給する第1標準水素ガスの水素ガス放出速度をコントローラ17に出力する。第1標準水素ガスは、第2供給管44を通って真空チャンバー11の内部19に放出され、チャンバー11内部19を拡散して分圧分析計15に達する。分圧分析計15は、第1標準水素ガスの分圧を分析し、その分析結果(第1標準水素ガス分圧)をコントローラ17に出力する。コントローラ17は、供給装置42から出力された第1標準水素ガスの放出速度と分析計15から出力された第1標準水素ガスの分圧とを互いに関連付けた状態で、その放出速度とその分圧とをハードディスクに格納する。
【0073】
第1標準水素ガスの放出速度と分圧とを格納した後、コントローラ17は、真空バルブ45を閉めてタンク41と水素ガス供給装置42とを遮断し、供給管43,44や供給装置42の内部、真空チャンバー11の内部19、管路25,40、分圧分析計15に残存する第1標準水素ガスが真空ポンプ24を介して外部に排出されるまで待機する。待機時間は、あらかじめ設定され、ハードディスクに格納されている。待機時間が経過すると、コントローラ17は、真空バルブ45を開けてタンク41と供給装置42とを連通させる。真空チャンバー11の内部19や分圧分析計15、管路25,40、供給装置42、供給管43,44における真空度は、ポンプ24によって1×10−7〜1×10−13Paの範囲に保持されている。コントローラ17は、第2標準水素ガスの供給指令を供給装置42に出力し、チャンバー11の内部19に放出された第2標準水素ガスの分圧の分析指令を分圧分析計15に出力する。
【0074】
第2標準水素ガスは、タンク41から第1供給管43を通って水素ガス供給装置42に流入する。供給装置42は、供給指令に従って、一定時間に一定圧かつ一定量の第2標準水素ガスを第2供給管44に供給するとともに、供給する第2標準水素ガスの水素ガス放出速度をコントローラ17に出力する。第2標準水素ガスは、第2供給管44を通って真空チャンバー11の内部19に放出され、チャンバー11内部19を拡散して分圧分析計15に達する。分圧分析計15は、第2標準水素ガスの分圧を分析し、その分析結果(第2標準水素ガス分圧)をコントローラ17に出力する。コントローラ17は、供給装置42から出力された第2標準水素ガスの放出速度と分析計15から出力された第2標準水素ガスの分圧とを互いに関連付けた状態で、その放出速度とその分圧とをハードディスクに格納する。
【0075】
第2標準水素ガスの放出速度と分圧とを格納した後、コントローラ17は、真空バルブ45を閉めてタンク41と水素ガス供給装置42とを遮断し、供給管43,44や供給装置42の内部、真空チャンバー11の内部19、管路25,40、分圧分析計15に残存する第2標準水素ガスが真空ポンプ24を介して外部に排出されるまで待機する。待機時間が経過すると、コントローラ17は、真空バルブ45を開けてタンク41と供給装置42とを連通させる。真空チャンバー11の内部19や分圧分析計15、管路25,40、供給装置42、供給管43,44における真空度は、ポンプ24によって1×10−7〜1×10−13Paの範囲に保持されている。コントローラ17は、第3標準水素ガスの供給指令を供給装置42に出力し、チャンバー11の内部19に放出された第3標準水素ガスの分圧の分析指令を分圧分析計15に出力する。
【0076】
第3標準水素ガスは、タンク40から第1供給管43を通って水素ガス供給装置42に流入する。供給装置42は、供給指令に従って、一定時間に一定圧かつ一定量の第3標準水素ガスを第2供給管44に供給するとともに、供給する第3標準水素ガスの水素ガス放出速度をコントローラ17に出力する。第3標準水素ガスは、第2供給管44を通って真空チャンバー11の内部19に放出され、チャンバー11内部19を拡散して分圧分析計15に達する。分圧分析計15は、第3標準水素ガスの分圧を分析し、その分析結果(第3標準水素ガス分圧)をコントローラ17に出力する。
【0077】
コントローラ17は、水素ガス供給装置42から出力された第3標準水素ガスの放出速度と分圧分析計15から出力された第3標準水素ガスの分圧とを互いに関連付けた状態で、その放出速度とその分圧とをハードディスクに格納する。第3標準水素ガスの放出速度と分圧とを格納した後、コントローラ17は、真空バルブ45を閉めてタンク41と供給装置42とを遮断し、供給管43,44や供給装置42の内部、真空チャンバー11の内部19、管路25,40、分圧分析計15に残存する第3標準水素ガスが真空ポンプ24を介して外部に排出されるまで待機する。待機時間が経過すると、コントローラ17は、真空バルブ46を閉めて真空チャンバー11と供給ユニット16とを遮断する。
【0078】
第1〜第3標準水素ガスの放出速度と分圧とを格納すると、コントローラ17は、あらかじめ作成した検量線図をハードディスクから取り出す。検量線図では、図4に示すように、その横軸に標準水素ガスの分圧(Pa)が表示され、その縦軸に標準水素ガスの水素ガス放出速度(PPm/s)が表示されている。コントローラ17は、その検量線図に第1〜第3標準水素ガスの分圧とそれら標準水素ガスのガス放出速度とを書き入れる。コントローラ17は、検量線図に各分圧と各放出速度とを書き入れると、それら分圧とそれら放出速度との交点である第1〜第3座標52,53,54を特定する。たとえば、第1標準水素ガスの放出速度が2.9×10−6atm・cc/sであって、そのときの分圧が1×10−9Paである場合、その放出速度とその分圧との交点を第1座標52とし、第2標準水素ガスの放出速度が3.9×10−5atm・cc/sであって、そのときの分圧が1×10−7Paである場合、その放出速度とその分圧との交点を第2座標53とする。さらに、第3標準水素ガスの放出速度が5.9×10−5atm・cc/sであって、そのときの分圧が1×10−5Paである場合、その放出速度とその分圧との交点を第3座標54とする。
【0079】
コントローラ17は、第1〜第3座標52,53,54を検量線図に書き入れると、検量線図の原点からそれら座標52,53,54を通る線分を引き、その線分の傾きを求めた後、その傾きを有する関数を算出し、図4に示すように、その関数による検量線55を検量線図に表示する(検量線設定手段)。コントローラ17は、各分圧、各放出速度、傾き、関数、検量線55を書き入れた検量線図をハードディスクに格納する(検量線格納手段)。
【0080】
検量線55を変更するには、ディスプレイ48に表示された初期画面の各種項目のうち、検量線再設定を選択する。検量線再設定を選択すると、ディスプレイ48には、検量線再設定における条件確認画面が表示される。条件確認画面では、分圧分析の時間間隔表示エリアにバックグラウンド分圧測定において設定された時間(3秒)が表示され、標準水素ガスの供給回数表示エリアに供給回数(3回)が表示される。さらに、条件確認ボタン、条件変更ボタン、キャンセルボタンが表示される。
【0081】
検量線55の再設定を中止する場合はキャンセルボタンを押し、条件に変更がない場合は条件確認ボタンを押す。それらの条件を変更する場合は、条件変更ボタンを押し、ディスプレイ48に表示された時間間隔入力エリアや供給回数入力エリアに変更後の時間間隔や供給回数を入力し、設定ボタンを押す。設定ボタンを押すと、さらに条件確認ボタンと条件変更ボタンとキャンセルボタンとが表示され、再度の条件変更がない場合は条件確認ボタンを押す。
【0082】
条件確認ボタンを押すと、コントローラ17は、条件確認画面に表示された条件に従ってあらたに検量線55を設定する。なお、真空バルブ23,46は開状態にあり、真空ポンプ24は稼動状態にある。真空チャンバー11の内部19や分圧分析計15、管路25,40、水素ガス供給装置42、供給管43,44における真空度は、真空ポンプ24によって1×10−7〜1×10−13Paの範囲に保持されている。検量線再設定における検量線の設定手順は、検量線設定における検量線のそれと同一であるから、その説明は省略する。コントローラ17は、ハードディスクに格納した検量線55が変更された場合、変更前の検量線55を変更後の検量線55に書き換え(検量線更新手段)、変更後の検量線55を書き入れた検量線図(各分圧、各放出速度、傾き、関数を含む)をハードディスクに格納する。
【0083】
この水素量測定装置10では、3つの標準水素ガスの分圧とそれら標準水素ガスの3つの放出速度とから検量線55を設定することで、検量線55の信頼性や確実性を向上させることができる。なお、検量線設定において、第1〜第3標準水素ガスの各分圧と各放出速度とを用いて検量線55を求めているが、1つまたは2つの標準水素ガスの分圧と1つまたは2つの放出速度とを用いて検量線55を求めることもでき、4つ以上の標準水素ガスの分圧と4つ以上の放出速度とを用いて検量線55を求めることもできる。
【0084】
検量線設定が終了すると、搬送ユニット12によって鋼材試料20Aをチャンバー11の内部19へ搬入する。ディスプレイ48に表示された初期画面の各種項目のうち、試料搬入を選択する。試料搬入を選択すると、ディスプレイ48には、条件確認画面が表示される。条件確認画面には、条件確認エリア、条件確認ボタン、条件変更ボタン、キャンセルボタンが表示される。条件確認エリアでは、分圧分析の時間間隔表示エリアにバックグラウンド分圧測定において設定された時間間隔(3秒)が表示される。
【0085】
試料搬入を中止する場合は、キャンセルボタンを押し、条件に変更がない場合は、条件確認ボタンを押す。条件を変更する場合は、条件変更ボタンを押し、ディスプレイ48に表示された時間間隔入力エリアに変更後の時間間隔を入力し、設定ボタンを押す。設定ボタンを押すと、さらに条件確認ボタンと条件変更ボタンとキャンセルボタンとが表示され、再度の条件変更がない場合は条件確認ボタンを押す。条件確認ボタンを押すと、コントローラ17は、真空バルブ32を閉め、窒素ガス注入装置を介してケーシング27に窒素ガスを注入し、ケーシング27の内部に窒素ガスを充満させ、ケーシング27の内部を大気圧にする。このとき、ゲートバルブ31は閉状態にあり、真空ポンプ24,33は稼動状態にある。真空チャンバー11の内部19や管路25,40、分圧分析計15における真空度は、ポンプ24によって1×10−7〜1×10−13Paの範囲に保持されている。コントローラ17は、真空計から出力される真空度を監視し、ケーシング27の内部が大気圧に戻ったと判断すると、窒素ガスの注入を停止し、ディスプレイ48にハッチ開閉可能メッセージとハッチ閉鎖完了ボタンとを表示し、ケーシング27内部に搬送棒28を設置可能にする。搬送棒28のケーシング27への設置手順や鋼材試料20Aのチャンバー11中央部21への搬入手順はサンプル20Bのそれと同一であるから、その説明は省略する。
【0086】
この測定装置10における鋼材試料20Aの水素量測定の一例を説明すると、以下のとおりである。鋼材試料20Aがチャンバー11の中央部21に載置され、ゲートバルブ31が閉鎖されると、ディスプレイ48には、測定開始ボタンとキャンセルボタンとが表示される。キャンセルボタンを押すと、測定を中止する。測定開始ボタンを押すと、ディスプレイ48には、各温度値の更新時間間隔入力エリアと設定ボタンとが表示される。更新時間間隔入力エリアに更新時間間隔(0.01〜3秒間隔のいずれか)を入力して設定ボタンを押すと、ディスプレイ48には、条件確認画面が表示される。
【0087】
条件確認画面には、条件確認エリア、条件確認ボタン、条件変更ボタン、キャンセルボタンが表示される。条件確認エリアでは、最高到達温度表示エリアにサンプル温度測定において設定された温度(800℃)が表示され、温度上昇速度表示エリアにサンプル温度測定において設定された昇温速度(100℃/hr)が表示されるとともに、分圧分析の時間間隔表示エリアにバックグラウンド分圧測定において設定された時間間隔(3秒)が表示される。さらに、各温度値の更新時間間隔表示エリアに更新時間間隔(0.01〜3秒間隔のうちの設定された時間)が表示されるとともに、第1〜第3昇温線49,50,51が記載された昇温線図が表示され、検量線55が記載された検量線図が表示される。
【0088】
水素量測定を中止する場合は、キャンセルボタンを押す。キャンセルボタンを押すと、初期画面がディスプレイ48に表示される。条件に変更がない場合は、条件確認ボタンを押す。それらの条件を変更する場合は、条件変更ボタンを押し、ディスプレイ48に表示された最高到達温度入力エリアや時間間隔入力エリア、更新時間間隔入力エリアに変更後の最高到達温度や時間間隔、更新時間間隔を入力し、設定ボタンを押す。設定ボタンを押すと、さらに条件確認ボタンと条件変更ボタンとキャンセルボタンとが表示され、再度の条件変更がない場合は、条件確認ボタンを押す。なお、温度上昇速度は、サンプル20Bのそれと一致させる必要があるから、その変更をすることはできない。
【0089】
条件確認ボタンを押すと、コントローラ17は、電気炉13の制御部に加熱指令を出力し、最高到達温度を電気炉13の制御部に出力する。さらに、第3昇温線51を画成する各温度値を第3昇温線51に沿って更新しつつ各温度値を電気炉13の制御部に出力し、真空チャンバー11の温度上昇変移を第3昇温線51に一致させる(昇温補正手段)。コントローラ17は、真空チャンバー11の温度測定指令を温度センサ14に出力し、鋼材試料20Aから放出される水素ガスの分圧分析指令を分圧分析計15に出力する。各温度値は、第3昇温線51の線分を画成する各点の温度の値であり、それら温度値が更新時間間隔に基づいて時系列に出力される。この測定装置10は、鋼材試料20Aの種類や物性、性状に合わせてその試料に合致した温度上昇速度や最高到達温度を自由に選択することができる。チャンバー11の内部19や管路25,40、分圧分析計15における真空度は、真空ポンプ24によって1×10−7〜1×10−13Paの範囲に保持されている。
【0090】
この水素量測定装置10は、真空チャンバー11を50〜200℃/hrの昇温速度で昇温させるから、短時間で鋼材試料20Aを最高温度に到達させることができ、鋼材試料20Aの各温度に対応した水素量を短い時間で定量することができる。この水素量測定装置10は、測定対象物の温度上昇速度を前記範囲で自由に設定することができるから、測定対象物の種類や物性、性状に合わせてその対象物に合致した温度上昇速度を選択することができる。温度上昇速度が50℃/hr未満では、水素量測定に長時間を要する。温度上昇速度が200℃/hrを超過すると、水素量を正確に定量することが困難となり、測定の信頼性が低下する。
【0091】
電気炉13の制御部は、最高到達温度およびコントローラ17から前記更新時間間隔で出力される温度値に従い、加熱部35を第3昇温線51に一致するように発熱させ、最終的に最高到達温度にまで発熱させる。電気炉13の制御部は、加熱部35の発熱温度がコントローラ17から出力された各温度値に合致するように加熱部35を制御する。なお、温度上昇速度が100℃/hrに設定されており、1時間に100℃昇温するから、サンプル温度測定と同様に、最高温度800℃に達するまでに8時間を要する。
【0092】
真空チャンバー11は、電気炉13によって次第に加熱され、第3昇温線51に一致するように低温(室温)から最高到達温度に向かって昇温する。チャンバー11の内部19に格納された鋼材試料20Aは、チャンバー11の加熱にともなって加熱され、第1昇温線49に一致するように低温から最高到達温度に向かって100℃/hrの昇温速度で昇温する。鋼材試料20Aの温度は次第に上昇し、試料20Aが特定の温度範囲に入ると、試料20Aの内部に含まれる水素ガスが試料20Aから次第に放出される。鋼材試料20Aから放出された水素ガスは、チャンバー11内部19を拡散して分圧分析計15に達する。分析計15は、鋼材試料20Aから放出された水素ガスの水素ガス分圧を3秒毎に分析し、その分析結果(水素ガス分圧)をコントローラ17に時系列に出力する。
【0093】
図5は、水素放出速度と温度との相関関係図表の一例を示す出力画面の図であり、図6は、40℃(室温)〜300℃までの温度範囲で示す図5と同様の出力画面の図である。図7は、各種相関関係データの一例を示す出力画面の図である。図5,6の相関関係図表では、横軸に温度(℃)が表示され、縦軸に水素ガス放出速度(PPb.sec−1,PPm/s)が表示されている。図4〜図6の表示画面には、保存ボタン56、データ範囲の指定エリア57、バックグラウンド分圧表示エリア58、試料重さ表示エリア59、図表エリア60が表示されている。データ範囲の指定エリア57には、温度範囲指定ボタン61と全体表示ボタン62とが表示されている。バックグラウンド分圧表示エリア58には、水素量測定時におけるバックグラウンド分圧(Pa)が表示され、試料重さ表示エリア59には、測定された鋼材試料20Aの重量(g)が表示されている。
【0094】
コントローラ17は、分圧分析計15から出力された水素ガス分圧からバックグラウンド分圧を減算して実質分圧を算出する。コントローラ17は、ハードディスクに格納した検量線図を取り出し、算出した実質分圧を検量線図に表示された検量線55に当て嵌め、鋼材試料20Aから放出された水素ガスの放出速度を決定する(水素ガス放出速度決定手段)。具体的には、実質分圧を検量線図の分圧(横軸)に代入し、代入位置から検量線55に向かって縦線を引く、縦線が検量線55と交わると、そこから横線を引き、横線が縦軸(水素放出速度)と交わったときの放出速度を読み取り、読み取った放出速度を代入した分圧に対応する水素ガス放出速度とする。
【0095】
コントローラ17は、水素ガス放出速度を分圧に関連付けてハードディスクに時系列に格納する(水素ガス放出速度記憶手段)。コントローラ17は、温度センサ14から出力された真空チャンバー11の実測温度を変移誤差特定手段によって特定した変移誤差(約0℃〜約300℃の範囲における第1昇温線49と第2昇温線50との温度差)の分だけ低くして補正温度を算出する(温度補正手段)。なお、補正温度は、実質的に第1昇温線49に一致する。温度補正手段は、室温〜最高到達温度の範囲で実行されるが、室温〜400℃の範囲のみで実行されてもよい。
【0096】
コントローラ17は、水素ガス放出速度決定手段によって特定した水素ガス放出速度と温度補正手段によって算出した補正温度との相関関係を特定する(相関関係第1特定手段)。具体的には、3秒毎に測定された分圧の測定時における補正温度を決定し、その補正温度に対する水素ガス放出速度を決定し、決定した補正温度と水素ガス放出速度との関連付けを行う。コントローラ17は、水素ガス放出速度と補正温度との相関関係をハードディスクに格納する(相関関係第1記憶手段)。
【0097】
コントローラ17は、補正温度が実質的に第1昇温線49に一致することから、温度補正手段を実行することなく、第1昇温線49を利用して3秒毎の温度を決定しつつ、その温度に対する水素ガス放出速度を決定し、決定した温度と水素ガス放出速度との関連付けを行うこともできる(相関関係第1特定手段)。コントローラ17は、水素ガス放出速度と温度との相関関係をハードディスクに格納する(相関関係第1記憶手段)。
【0098】
初期画面の各項目のうち、相関関係図表表示を選択すると、コントローラ17は、図5に示すように、全温度範囲における水素放出速度と補正温度との相関関係図表をディスプレイ48に表示する(相関関係第1出力手段)。第1昇温線49を利用して3秒毎の温度を決定した場合は、水素放出速度とその温度との相関関係図表をディスプレイ48に表示する(相関関係第1出力手段)。図5の相関関係図表は、プリンタを介して出力することができる(相関関係第1出力手段)。図5の相関関係図表では、40℃(室温)〜300℃の温度範囲に水素放出の第1ピークが表れ、さらに、300℃〜600℃の温度範囲に水素放出の第2ピークが表れている。ここで、鋼材の遅れ破壊の原因となる拡散性水素は、トラップ作用が小さい40℃〜300℃の温度範囲において放出される水素(第1ピーク)であり、鋼材の製造後に次第に進入し、室温で鋼材の内部を遊動することで鋼材に局所的な劣化を引き起こす。なお、トラップ作用が大きい300℃〜600℃の温度範囲において放出される水素(第2ピーク)は、鋼材の製造中に進入したものであり、鋼材の遅れ破壊の原因とはならない。
【0099】
図6の表示画面には、図5の相関関係図表が部分的に示されており、40℃(室温)〜300℃の温度範囲における相関関係図表が表示されている。図5の表示画面において、データ範囲指定エリア57のうち、温度範囲指定ボタン61を押すと、ディスプレイ48には温度範囲入力エリアと表示ボタンとキャンセルボタンとが表示される(図示せず)。温度範囲入力エリアにおいて温度範囲を指定し、表示ボタンを押すと、図6に示すように、指定された温度範囲における相関関係図表がディスプレイ48に表示される。
【0100】
コントローラ17は、水素ガス放出速度を積分することによって鋼材試料20Aに含まれる水素量を定量し(水素量定量手段)、定量した水素量をハードディスクに時系列に格納する(水素量記憶手段)。コントローラ17は、水素量定量手段によって定量した水素量と温度補正手段によって算出した補正温度との相関関係を特定し(相関関係第2特定手段)、水素量と補正温度との相関関係をハードディスクに格納する(相関関係第2記憶手段)。第1昇温線49を利用して3秒毎の温度を決定した場合は、定量した水素量とその温度との相関関係を特定し(相関関係第2特定手段)、水素量と温度との相関関係をハードディスクに格納する(相関関係第2記憶手段)。初期画面のうち、相関関係データ表示を選択すると、コントローラ17は、全温度範囲における相関関係データをディスプレイ48に表示する(相関関係第2出力手段)。相関関係データは、プリンタを介して出力することができる(相関関係第2出力手段)。
【0101】
全温度範囲における相関関係データの表示画面において、データ範囲指定エリア57のうち、温度範囲指定ボタン61を押すと、ディスプレイ48には温度範囲入力エリアと表示ボタンとキャンセルボタンとが表示される(図示せず)。温度範囲入力エリアにおいて温度範囲を指定し、表示ボタンを押すと、図7に示すように、指定された温度範囲における相関関係データがディスプレイ48に表示される(相関関係第2出力手段)。図7の相関関係データは、プリンタを介して出力することができる(相関関係第2出力手段)。出力された相関関係データでは、図7に示すように、温度(℃)、水素分圧(Pa)、分析間隔(s)、水素分圧−バックグラウンド分圧(BG)、水素放出速度(ppm/s)、分析間隔内の水素量(ppm)、累積水素量(ppm)が表示されている。
【0102】
この水素量測定装置10は、鋼材試料20Aの水素量測定時における真空チャンバー11の測定時温度上昇変移を第3昇温線51に一致させる(一定温度上昇率で昇温させた場合の真空チャンバー11の温度上昇変移とサンプル20Bの温度上昇変移との変移誤差の分だけ高くする)から、チャンバー11の温度上昇変移と鋼材試料20Aの温度上昇変移とが一致せず、鋼材試料20Aに温度上昇遅延が生じたとしても、試料20Aを一定温度上昇率で昇温させることができる。この水素量測定装置10は、0.01〜3秒間隔で細分化された各温度値を加熱器35に出力し、加熱器35による真空チャンバー11の加熱を細かく制御するから、チャンバー11の測定時温度上昇変移を第3昇温線51に限りなく近づけることができる。
【0103】
水素量測定装置10は、真空チャンバー11において鋼材試料20Aを加熱し、その試料20Aを低温から高温に向かって次第に昇温することで、その試料20Aから放出される水素ガス分圧を分析し、その水素ガス分圧を検量線55に当て嵌めて鋼材試料20Aに含まれる水素量を時系列に定量するから、試料20Aが所定の温度範囲にあるときに放出される水素の水素量を確実に測定することができる。水素量測定装置10は、定量した水素量と鋼材試料20Aの温度との相関関係を特定するから、鋼材試料20Aの各温度に対応した水素量を確認することができ、鋼材試料20Aの温度に基づいてその試料20Aに含まれる水素の種類を判別することができる。この水素量測定装置10は、鋼材試料20Aに含まれる拡散性水素の量を測定することができるから、鋼材の現在の強度を分析することができ、鋼材の寿命や交換時期を予測することができる。
【0104】
この水素量測定装置10では、真空チャンバー11の内部19における真空度が1×10−7〜1×10−13Paの範囲に保持されるから、水素以外の他の物質がチャンバー11の内部19に残存することはなく、鋼材試料20Aに含まれる水素量を高い信頼度で確実に測定することができる。また、チャンバー11の内部19に残存する水素の濃度が極めて低く、チャンバー11の内部19における残存水素ガスのバックグラウンド分圧が1×10−9pa以下である。ゆえに、この測定装置10では、残存水素によって鋼材試料20Aの水素量の定量化に誤差が生じることはなく、鋼材試料20Aに含まれる水素量を高い信頼度で確実に測定することができる。なお、チャンバー11内部19の真空度が1×10−7pa未満では、チャンバー11内部19に水素以外の物質が残存する場合があり、鋼材試料20Aに含まれる水素量を正確に測定することができない場合がある。
【0105】
水素量測定装置10は、水素ガス供給ユニット16から真空チャンバー11内部19に一定の放出速度で標準水素ガスを供給し、その標準水素ガスの分圧と水素放出速度とに基づいて検量線55を設定し、鋼材試料20Aから放出される水素ガス分圧をその検量線55に当て嵌めて鋼材試料20Aに含まれる水素量を定量するから、鋼材試料20Aに含まれる水素量を確実に定量することができる。この水素量測定装置10は、分圧分析計15における分圧分析の時間間隔が0.01〜5秒の範囲にあるから、時々刻々と変化する鋼材試料20Aの温度に対応しつつその試料20Aに含まれる水素量を精細に定量することができ、鋼材試料20Aが所定の温度範囲にあるときに放出される水素の水素量を高い信頼度で確実に測定することができる。分圧分析の時間間隔が5秒を超過すると、鋼材試料20Aの温度上昇に合わせた精細な測定を行うことができず、各種相関関係データの信頼性が低下する。
【0106】
この水素量測定装置10では、分圧分析計15から出力された水素ガスの分圧からバックグラウンド分圧を減算して実質分圧を算出し、実質分圧を検量線55に当て嵌めて水素量を定量しているが、バックグラウンド分圧の測定を省略することもできる。この場合は、分圧分析計15から出力された水素ガスの分圧を検量線55に当て嵌めて水素量を定量する。
【0107】
鋼材試料20Aの水素量測定が終了すると、コントローラ17は、測定終了メッセージと試料搬出ボタンとをディスプレイ48に表示する。試料搬出ボタンを押すと、コントローラ17は、ゲートバルブ31を開けるとともに、試料搬出可能メッセージをディスプレイ48に表示する。鋼材試料20Aのチャンバー11やケーシング27からの搬出手順はサンプル20Bのそれと同一であるから、その説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】一例として示す水素量測定装置の構成図。
【図2】図1のA−A線端面図。
【図3】温度と時間との関係を表す図。
【図4】検量線図の一例を示す図。
【図5】水素放出速度と温度との相関関係の一例を示す出力画面の図。
【図6】40℃〜300℃までの温度範囲で示す図5と同様の出力画面の図。
【図7】各種相関関係データの一例を示す出力画面の図。
【符号の説明】
【0109】
10 水素量測定装置
11 真空チャンバー
12 搬送ユニット
13 電気炉(加熱器)
14 温度センサ
15 分圧分析計
16 水素ガス供給ユニット
17 コントローラ
20A 鋼材試料(測定対象物)
20B サンプル
23 真空バルブ
24 真空ポンプ
27 ケーシング
28 搬送棒
31 ゲートバルブ
33 真空ポンプ
34 真空バルブ
35 加熱部
41 タンク
42 水素ガス供給装置
45 真空バルブ
46 真空バルブ
49 第1昇温線
50 第2昇温線
51 第3昇温線
55 検量線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異形異質量の測定対象物を格納する真空チャンバーと、前記真空チャンバーを低温から高温に向かって次第に昇温させる加熱器と、前記真空チャンバー内に格納された測定対象物の温度上昇にともなって該測定対象物から放出される水素ガスの水素ガス分圧を分析する分圧分析計と、前記分圧分析計から出力された水素ガス分圧に基づいて前記測定対象物に含まれる水素量を求めるコントローラとを備え、
前記コントローラが、前記真空チャンバーを一定温度上昇率で昇温させて前記測定対象物を擬似したサンプルの該チャンバー内における温度上昇変移を測定するサンプル温度測定手段と、前記一定温度上昇率で昇温する真空チャンバーの温度上昇変移と前記サンプルの温度上昇変移との変移誤差を特定する変移誤差特定手段と、前記測定対象物の水素量測定時における真空チャンバーの測定時温度上昇変移を前記変移誤差の分だけ高くする昇温補正手段とを有する水素量測定装置。
【請求項2】
前記コントローラが、前記一定温度上昇率に対応して所定の傾きで略直線的に上昇する第1昇温線を生成する第1昇温線生成手段と、前記サンプルの温度上昇変移に基づいて所定の傾きで上昇する該サンプルの第2昇温線を生成する第2昇温線生成手段とを含み、前記変移誤差特定手段では、前記第1昇温線に対する前記第2昇温線の変移誤差を特定し、前記昇温補正手段では、前記第1昇温線に前記昇温線どうしの変移誤差を加えることで、所定の傾きで上昇する第3昇温線を生成し、前記真空チャンバーの測定時温度上昇変移を前記第3昇温線に一致させる請求項1記載の水素量測定装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記真空チャンバーの測定時温度上昇変移を前記第3昇温線に一致させるため、該第3昇温線を画成する各温度値を0.01〜3秒間隔で時系列に更新しつつ、更新したそれら温度値を前記加熱器に出力する請求項2記載の水素量測定装置。
【請求項4】
前記水素量測定装置が、前記真空チャンバーの温度を測定する温度センサを含み、前記コントローラが、前記分圧分析計から出力された水素ガス分圧を所定の検量線に当て嵌めて前記測定対象物から放出された水素ガスの放出速度を決定し、前記放出速度から前記測定対象物に含まれる水素量を定量する水素量定量手段と、前記温度センサから出力された前記チャンバーの実測温度を前記変移誤差特定手段によって特定した変移誤差の分だけ低くして補正温度を算出する温度補正手段と、前記水素量定量手段によって定量した水素量と前記補正温度との相関関係を特定する相関関係特定手段とを含む請求項1ないし請求項3いずれかに記載の水素量測定装置。
【請求項5】
前記水素量測定装置が、前記真空チャンバーに標準水素ガスを一定放出速度で供給する水素ガス供給ユニットを含み、前記分圧分析計が、前記水素ガス供給ユニットから前記真空チャンバーに供給された標準水素ガスの分圧を分析し、前記コントローラが、前記分圧分析計から出力された標準水素ガスの分圧と該標準水素ガスの分圧に対応する放出速度とを用いて前記検量線を設定する検量線設定手段を含む請求項4記載の水素量測定装置。
【請求項6】
前記検量線設定手段では、少なくとも3つの前記標準水素ガスの分圧とそれら標準水素ガスの分圧に対応する少なくとも3つの放出速度とを用いて前記検量線を設定する請求項5記載の水素量測定装置。
【請求項7】
前記分圧分析計における分圧分析の時間間隔が、0.01〜5秒の範囲にある請求項1ないし請求項6いずれかに記載の水素量測定装置。
【請求項8】
前記加熱器の温度上昇速度が、50〜200℃/hrの範囲にある請求項1ないし請求項7いずれかに記載の水素量測定装置。
【請求項9】
前記真空チャンバーの到達真空度が、1×10−7〜1×10−13Paの範囲にあり、前記真空チャンバーにおける水素ガスのバックグラウンド分圧が、1×10−9Pa以下である請求項1ないし請求項8いずれかに記載の水素量測定装置。
【請求項10】
前記水素量定量手段では、前記分圧分析計から出力された水素ガス分圧から前記バックグラウンド分圧を減算して実質分圧を算出し、前記実質分圧を前記検量線に当て嵌めて前記水素量を定量する請求項9記載の水素量測定装置。
【請求項11】
前記水素量定量手段では、前記測定対象物が室温〜300℃に加熱されたときに該測定対象物から放出される水素ガスの水素ガス分圧を前記検量線に当て嵌め、前記測定対象物に含まれる拡散性水素の水素量を定量し、前記コントローラは、前記真空チャンバーの温度が室温〜400℃の範囲にあるときに前記昇温補正手段を実行する請求項4ないし請求項10いずれかに記載の水素量測定装置。
【請求項12】
前記測定対象物が、鋼材である請求項1ないし請求項11いずれかに記載の水素量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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