説明

水耕栽培装置及び水耕栽培方法

【課題】炭素循環農法を応用した水耕栽培装置および水耕栽培方法を提供する。
【解決手段】トマト20等の植物を栽培するための水耕栽培槽11と、この水耕栽培槽11に供給される養液を貯えておく貯留槽12と、上記水耕栽培槽11と貯留槽12との間に配置され、微生物によって自然有機物を分解し、これを貯留槽12内の養液に加える養液生成槽13とから構成し、養液を貯留槽12、栽培槽11、養分生成槽13に循環させながら、栽培槽11で植物を育成栽培する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液循環型の水耕栽培装置および水耕栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水耕栽培は、土を使わずに水または養液を用いて農作物等の植物を生育させる栽培法である。わが国における水耕栽培の設置面積は年々増加しており、種種の水耕栽培法が提案されている。
【0003】
水耕栽培法は、栽培槽に養液を溜めてその中で植物を育成する静置法と、栽培槽内を流れる養液の中で植物を育成する流動法の2つに分類される。一般に、流動法は、栽培槽とは別に養液を貯留する槽(貯留槽)を設け、ポンプおよびパイプを用いて貯留槽と栽培槽との間で養液を循環させる養液循環型の形態を採っている。
【0004】
植物の生育・成長に必要なものは、水、空気(酸素)、養分(主に窒素、リン、カリ、ミネラル)、光および二酸化炭素である。水耕栽培法において、植物は、水、酸素および養分を養液に浸かっている根から摂取し、光および二酸化炭素を空気中の葉で吸収する。
【0005】
従来より、養液循環型の水耕栽培法では、予め調整された液肥(原液)を水で薄めたものを養液としている。この種の液肥は、硝酸態窒素、水溶性リン酸、水溶性カリ、水溶性ミネラル(マンガン、鉄等)を調合して作られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3679053号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来の養液循環型の水耕栽培法は、養液に化学肥料の一種である液肥を使用し、作物の生育速度を高め、生産性効率の向上を図ってはいるが、人間の健康面からの観点が欠けており、液肥の人体への影響が問題視されてきている。
【0008】
特に、硝酸態窒素は、作物にとって必要不可欠な成分ではあるが、作物が生育・成長する過程でこれを過分に蓄積し、その作物を人間(特に乳幼児)が摂取すると、急性中毒を起こす危険性のあることが明らかにされてきている。いわば、水耕農作物(より正確には液肥ないし養液)による硝酸汚染が問題になっている。また、水耕農作物自体も、硝酸態窒素を蓄積することによって、甘み成分(糖度)が低いことや、虫の餌(腐敗体質)になりやすく、防除(農薬)が必要になるといったしわ寄せ(品質低下の害)を受けている。
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点を解決するものであり、簡便で低コストの設備でありながら、植物体内に硝酸態窒素が蓄積するのを効果的に抑制して食の安全性を向上させるとともに、腐敗体質の防止ないし抑制効果により植物の病害虫に対する抵抗力を増進させ、さらには糖度の大幅な向上も実現できる水耕栽培装置および水耕栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の水耕栽培装置は、植物を栽培するための養液を収容可能な栽培槽と、前記養液を貯留するための貯留槽と、前記栽培槽と前記貯留槽との間で前記養液を循環させるための養液循環システムと、前記養液循環システムの循環経路の途中に設けられ、マイクロバブルまたはナノバブルを発生して、前記循環する養液に酸素を含ませる微細気泡発生器と、前記養液循環システムの循環経路の途中に設けられ、前記循環する養液の供給を受ける微生物と自然有機物とを収容し、前記微生物に前記自然有機物を分解させて前記植物の生育に必要な養分を生成し、生成した前記養分を前記循環する養液に含ませる養分生成槽と、を有する。
【0011】
ここで、前記自然有機物は、窒素含有量に対する炭素含有量の比が40以上の高炭素資材を含むものであってよい。また、前記自然有機物は、樹皮バーク、木材チップ、米ぬか、おがくず、米、廃菌床、雑草の少なくとも1種類を含むものであってよい。また、前記養分生成槽は、前記養液循環システムの前記栽培槽から前記貯留槽へ向かう循環経路の途中に設けられていてよい。また、前記養液循環システムは、前記貯留槽の前記循環養液を前記栽培槽まで圧送するためのポンプおよび送液管を有し、前記送液管の出口に前記微細気泡発生器を取り付け、前記栽培槽の中で前記マイクロバブルまたはナノバブルを発生させるようにしてよい。
【0012】
また上記目的を達成するための水耕栽培方法は、養液を収容する栽培槽と前記養液を貯留するための貯留槽との間で前記養液を循環させて、前記栽培槽上で所望の植物を栽培する水耕栽培方法であって、前記循環する養液にマイクロバブルまたはナノバブルを混合して前記養液中の溶存酸素濃度を制御し、自然有機物およびこれを分解する微生物に前記循環する養液を供給し、前記微生物による前記自然有機物の分解によって生成される養分を前記循環する養液を介して前記植物に与えるようにした方法である。
【0013】
ここで、前記自然有機物は、窒素含有量に対する炭素含有量の比が40以上の高炭素資材を含むものであってよい。また、前記自然有機物は、樹皮バーク、木材チップ、米ぬか、おがくず、米、廃菌床、雑草の少なくとも1種類を含むものであってよい。また、前記循環する養液が、前記栽培槽から前記貯留槽へ向かう途中で前記自然有機物および微生物の設置場所を通過して前記養分を受け取るものであってよい。また、前記循環する養液を前記貯留槽から前記栽培槽までポンプおよび送液管を用いて圧送し、前記送液管の出口に取り付けた微細気泡発生器により前記栽培槽の中で前記マイクロバブルまたはナノバブルを発生させるようにしてよい。
【発明の効果】
【0014】
本願の主要な発明は、植物を栽培するための養液を収容可能な栽培槽と、養液を貯留するための貯留槽と、栽培槽と貯留槽との間で養液を循環させるための養液循環システムと、養液循環システムの循環経路の途中に設けられ、マイクロバブルまたはナノバブルを発生して、循環する養液に酸素を含ませる微細気泡発生器と、養液循環システムの循環経路の途中に設けられ、循環する養液の供給を受ける微生物と自然有機物とを収容し、微生物に自然有機物を分解させて植物の生育に必要な養分を生成し、生成した養分を循環する養液に含ませる養分生成槽と、を有するものである。
【0015】
このような構成に係る水耕栽培装置によると、栽培される植物体内の硝酸態窒素濃度などが飛躍的に抑えられ、植物腐敗体質が抑制される。また植物腐敗体質が抑えられることによって、栽培植物の病虫害に対する抵抗が向上し、無農薬栽培が容易になる。また植物体内の硝酸態窒素濃度が抑えられることによって、高品質の作物を収穫できるようになる。また栽培植物の腐敗体質を抑えるとともに、微生物の抗酸化作用が働くようになる。また飼料を必要としなくなる。また栽培植物体内の硝酸態窒素濃度が抑えられることによって、植物を食べる人の人体への悪影響を抑制することができるようになる。
【0016】
水耕栽培方法に関する主要な発明は、養液を収容する栽培槽と養液を貯留するための貯留槽との間で養液を循環させて、栽培槽上で所望の植物を栽培する水耕栽培方法であって、循環する養液にマイクロバブルまたはナノバブルを混合して養液中の溶存酸素濃度を制御し、自然有機物およびこれを分解する微生物に循環する養液を供給し、微生物による自然有機物の分解によって生成される養分を循環する養液を介して植物に与える、ようにしたものである。
【0017】
このような水耕栽培方法によると、上記のような各種の作用効果を奏する栽培植物を効率的に育成させ、これによって高品質の食物を収穫できるようになる。とくに、栽培植物体内の硝酸態窒素濃度が抑えられるために、人体への悪影響を最小限にした作物の育成が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る水耕栽培装置の構成を示す縦断面図である。
【図2】マイクロバブル発生器の縦断面図である。
【図3】同マイクロバブル発生器の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本願発明を図示の実施の形態によって説明する。図1は本実施の形態に係る水耕栽培装置の全体の構成を示しており、この水耕栽培装置は、植物を栽培するための栽培槽11と、上記栽培槽11の下側に位置しかつ地面上または床面上に配置される貯留槽12と、上記栽培槽11と上記貯留槽12との間に配置される養分生成槽13とを備えている。
【0020】
そしてこの装置は、複数の支柱16を地面上または床面上に垂直に立設するとともに、これらの支柱16間に支持板17を配し、支持板17によって上記栽培槽11を床面に対して所定の高さで水平に支持している。また上記支持板17の下側には、支持板17と平行であって水平に支柱16に支持されている支持板18を備えている。支持板18は、養分生成槽13を上記栽培槽11の下側において栽培槽11に対して所定の距離を隔てて支持している。
【0021】
栽培槽11によって栽培される植物、例えばトマト20は、上記栽培槽11内に根21を伸ばすようにして生育される。なお根21が張る栽培槽11の上面には、適宜遮光板22が配され、この遮光板22によって、太陽光の入射量を適正に維持し、あるいはまた水温のコントロールを行なう。そして栽培槽11で栽培されるトマト20は、支柱16の上端においてほぼ水平に支持される誘引棚19によって、その上方の茎の部分を横方向に延ばすようにして育成され、誘引棚19によって支持される部分に果実を結実させるようにしている。
【0022】
貯留槽12は、養液25を貯えておく水槽であって、その中にポンプ26が没入した状態で配置されている。ポンプ26は吸引パイプ27を備え、この吸引パイプ27の先端のストレーナ28を通して、貯留槽12内の養液を吸引し、ポンプ26によって上方へ圧送するようにしている。すなわちポンプ26の吐出側には送水管29が接続されている。送水管29には、水量調整バルブ30とクリーナ31とが接続される。また上記送水管29の先端部にはマイクロバブル発生器32が接続されており、このマイクロバブル発生器32によって、栽培槽11内に微細なマイクロバブルまたはナノバブルから成る空気の泡を放出するようにしている。
【0023】
上記貯留槽12に水を供給するための給水管34が設けられている。この給水管34には、その先端部に給水弁35が接続される。給水弁35は回動レバー36によって内部の弁が開閉制御される。そして回動レバー36の先端部にフロート37が取り付けられており、このフロート37によって貯留槽12の液面のレベルを検出し、これによって給水弁35の開閉制御を行なうようにしている。すなわちここでは、水洗便所の給水タンクの水位のレベル調整と同様の原理によって、給水管34から貯留槽12に供給される水の供給量を制御し、これによって貯留槽12の水位を一定の値に維持している。
【0024】
上記栽培槽11には、オーバーフロー管40が垂直に延びるように組み込まれており、このオーバーフロー管40の下端側の部分が栽培槽11の底部から引出されて、斜行管41になっている。そして斜行管41の下部には、複数の散水孔42が形成され、これらの散水孔42を通して、養分生成槽13に対して養液の液滴を落下させるようにしている。
【0025】
上記斜行管41の散水孔42によって養液が供給される養分生成槽13内には、自然有機物等の高炭素資材46が収納されている。またこのような高炭素資材46を分解するための微生物が養分生成槽13に供給される。なおこの実施の形態においては、微生物活性液タンク23が貯留槽12の上側部に設けられ、このタンク23によって適量の微生物が供給され、貯留槽12から栽培槽11を経由して養分生成槽13に補給されるようになっている。
【0026】
次に上記栽培槽11内に微細な気泡を供給するマイクロバブル発生器32について図2および図3により説明する。このマイクロバブル発生器32は、卵形シェル50を備えている。そしてこの卵形シェル50の最も直径の大きな部分に対して接線方向から養液を供給するための気液導入管51が接続されている。この気液導入管51に対して、卵形シェル50の図2における左右両側には小さな孔から成る排出口52が形成されている。
【0027】
ここで上記気液導入管51によって、養液25とともに空気を導入し、この卵形シェル52の最も直径の大きな部分において、図3に示すような旋回流を発生させる。そしてこのような旋回流が、図2においてその両側に向って旋回する流れを形成し、やがて両端の排出口52から排出されるようになっており、このときに排出口52から養液25とともに微細な気泡を発生させるようにしている。
【0028】
次に以上のような構成に係る水耕栽培装置の動作および水耕栽培方法の概要について説明する。図1に示される水耕栽培装置の床面上に配される貯留槽12内には、給水管34によってほぼ一定量の水が供給されるようになっている。なお水道水を利用するときには、予めカルキが除去される。フロート37が液面を検出するとともに、液面が下がると、回動レバー36が反時計方向に回動し、これによって給水弁35が開いて給水管34から水が供給され、貯留槽12の液面レベルがほぼ一定の値に維持される。
【0029】
貯留槽12内に貯えられている養液25は、ストレーナ28および吸引パイプ27によってポンプ26で吸引加圧され、送水管29によって上方の栽培槽11に供給される。すなわちポンプ26は養液25を吸引するとともに、送水管29の水量調整バルブ30およびスクリーナ31を通してマイクロバブル発生器32に養液を供給する。養液の循環量が水量調整バルブ30で制御される。
【0030】
従ってマイクロバブル発生器32はその気液導入管51を通して貯留槽12から養液が供給され、このような養液が、卵形シェル50内においてその気液導入管51における両側にそれぞれ旋回流を発生させながら両側の排出口52から排出される。ここで、上記マイクロバブル発生器32は、養液25中に無数のマイクロバブルまたはナノバブルから成る微細な気泡を発生させて栽培槽11内に酸素を供給する。従って栽培槽11は、無数の気泡を含んだ酸素濃度の高い養液が常時供給されることになる。
【0031】
このようにマイクロバブルによって酸素を豊富に含んだ養液25が供給される栽培槽11において、植物、例えばトマト20の栽培が行なわれる。トマト20は栽培槽11内に根を張り、その茎の部分がほぼ垂直に延びるとともに、誘引棚19の部分で水平方向左右に延びるようになっており、このような水平方向左右に延びた枝の部分に無数の実を結実させる。従って、誘引棚19は、上記果実を結実させた枝の部分の重量を支えることになり、植物20の茎の部分に荷重が加わることがなくなる。
【0032】
栽培槽11内の養液は、オーバーフロー管40によって下方に落下し、斜行管41を通してその下面に設けられている散水孔42によって養分生成槽13内に散布される。ここで養分生成槽13内には、樹脂バーク、木材チップ、米ぬか、おがくず、米、廃菌床、雑草等の自然有機物が充填されるとともに、微生物活性液タンク23によって補給される分解用の微生物が供給される。なお上述のように、マイクロバブル発生器32によって養液内の酸素濃度が高くなっており、このために養分生成槽13内での微生物の繁殖が促され、微生物が多く繁殖することになる。
【0033】
従って、このような養分生成槽13内において高炭素資材46が上記の微生物で分解されて養分中に溶出することになる。そしてこのような養分が、この養分生成槽13の底部に形成された小孔47を通して貯留槽12内に落下する。従って貯留槽12内には、上記養分生成槽13で生成された養分が溶出残存することになり、このような養分を含む養液が上述の如く、栽培槽11に加えられ、これによって育成栽培される植物20に対して養分の供給が行なわれる。
【0034】
本発明の水耕栽培装置および水耕栽培方法の主要な特徴は、養分生成槽13内における高炭素資材46の微生物による分解によって、養液25中に養分を供給し、これによって植物20を育成させることにある。
【0035】
すなわち、本発明の水耕栽培装置および水耕栽培方法は、生物が生き物を生かす仕組みを利用して、炭素循環量を森林並み以上にすることによって、無施肥、無防除の自然農法に近い水耕栽培方法を確立するものである。従来の慣行農法や有機農法の全ての障害は、施肥にあることは明らかであって、植物が進化した環境、すなわち微生物の作り出す養分バランスを保つことによって、作物にとって過不足のない養分供給を可能にする。バランスは人がとるものではなく、本来自然に均衡するものである。環境汚染の原因にもなる化学肥料や堆肥も無用であって、逆に過剰施肥による汚染を積極的に浄化し、無施肥であってしかも慣行水耕農法以上の収穫を得られるようにしている。
【0036】
慣行農法と自然農法の実際面における相違は、施肥と防除の有無にある。自然農法が成立する起因は、養液の清浄度と肥沃度の二大要因である。施肥農法では、施肥量が増すほど清浄度が落ちて、2つの指標は相反することになる。これに対して無施肥ならば上記の2つの指標は相反しない。
【0037】
2つの指標が相反しないための方法は極めて簡単であって、養液中での有機物の分解に寄与する微生物を用いることである。一般に、C/N比(炭素比=炭素量/窒素量)を40を境に、以下ならばバクテリア(細菌類)、以上ならば糸状菌(菌類)が主に分解を行なうという特性を応用することにより達成する。
【0038】
すなわち自然の中で行なわれているのと同じように、C/N比40以上の、難分解性・高炭素有機物を養液中に入れることによって、高炭素資材をまず菌類が分解し、細菌類が次に分解する。
【0039】
このような自然界での分解過程を、本願発明の養分生成槽13によって再現する。高C/N比有機物は、土壌中の糸状菌が一旦ガードしてからゆっくり発酵分解するために、急激な腐敗分解による窒素飢餓(ブロック)現象や、生の有機物による障害が起こらない。
【0040】
炭素の供給量に応じて微生物相は豊かになり、バイオマスが増大する。豊かな微生物相が有機物の処理能力をさらに高め、微生物から供給される養分だけで、施肥栽培並みの生育に必要な養分供給が可能になる。自然有機物を堆肥化せずに生で使うために、従来の堆肥を使う農法の1/3〜1/10程度の有機物資材で足り、省力・省エネになる。また堆肥化や化学肥料を止めることによって、二酸化炭素の排出量を大幅に削減できる。また堆肥化に伴う放出分は二酸化炭素総排出量の3.5%であって、放出分をバイオ燃料化すれば倍の7%に達する。これに工業的窒素固定や、環境浄化、修復、保全に係るエネルギ損失を考えると、二酸化炭素総排出量の10%前後の削減が可能になると推定される。
【0041】
微生物は使える炭素(有機物)が存在する限り、遊離(無機化)し垂れ流し状態の、過剰な肥効成分(無機状態の窒素や燐など)がなくなるまで増え続け、養液を丸ごと発酵させて、作物に必要な養分を生きた状態にする。従って養液は、清浄化し、例えば必要量以上に植物の成育成分が養液中にあっても、養液自体には植物が直ちに使える肥効成分がないために、硝酸の過剰吸収や有機物の腐敗が起こらない。実測値によると、本水耕栽培によると、施肥栽培における無機態窒素濃度の1/40〜1/180程度に低下する。さらに、生きている養分(微生物、雑草等)は流出するどころか、大気中から常時、炭素や窒素を新たに固定し、外部から一切資材を持ち込まなくても施肥栽培並みに作物は育ち、施肥による諸問題、例えば有機物資源や化学資源の浪費、環境汚染・破壊、連作障害、作物の質の低下なども発生しない。またたとえ持ち込んだとしても、作物の窒素吸収量の1/10〜1/3程度に下がり、作物が使う窒素は養液中に常在しなくなる。また他の無機成分(可吸態、不可吸態)も微生物が一旦取り込み、養液の清浄度と肥沃度を保ち、バランスを整えてから作物に供給する。作物に必要な成分は、微生物が使えさえすればよいのであって、植物にとって可吸態である必要はない。
【0042】
病虫害や連作障害等は、土壌中の有機成分の腐敗・分解の結果、産生された腐敗物質や無機化した窒素(アンモニア態+硝酸態)、肥料として投入された無機態窒素が直接の原因である。また間接的には、腐敗による土壌の物理性の劣悪化やそれに伴う生物性、化学性の悪化等による。本発明の水耕栽培は有害成分の発生や、無機成分による養分バランスの崩れがなく、健康に育った作物は、虫や菌の活動の場ではないために寄り付かず、無防除が可能になる。そして過剰な硝酸や腐敗物質を吸収しない作物は、味も日持ちもよく、人畜の健康に極めてよく、本来の人間の食物として好適である。すなわち、本願発明は、水耕栽培における炭素循環を円滑に行なうことによって、従来より森林や原野が持っていた以上の、環境浄化力・保全力を取り戻し、安全でおいしい農作物の生産を可能にする。
【0043】
養分生成槽13内に投入される高炭素資材としては、各種の自然有機物が広く利用可能であって、樹脂バーク、木材チップ、米ぬか、おがくず、米、廃菌床、雑草などを用いることができる。
【0044】
次にこのような高炭素資材を分解するための微生物としては、糸状菌やEM菌が好適である。ここでEM菌とは、Effective Microorganismと称される有機微生物群を指すものであって、より具体的には、乳酸菌、酵母、光合成細菌等を含むものである。
【0045】
乳酸菌は、細菌の一種で、糖を大量の乳酸に変える微生物である。この微生物の特徴は、他の微生物と比較的容易に共存共栄できる点にある。また酵母は、発酵の元であって、酒や醸造やパンの製造に欠かせない微生物である。また光合成細菌は、水田や湖など地球上のいたるところに存在する細菌であって、とくに環境分野で有用な細菌である。そしてとくに有機物分解力が高いことから、廃水処理等にも利用される細菌である。
【0046】
本願発明の上述のような糸状菌やEM菌を利用した水耕栽培装置および水耕栽培方法によると、生育される植物20の体内の硝酸態窒素濃度などが極めて低い値に抑えられ、植物腐敗体質が抑制される。また植物腐敗体質が抑えられることによって、病虫害に対する植物の抵抗が向上し、無農薬栽培が可能になる。また植物体内の硝酸態窒素濃度が抑えられることによって、作物の糖度が向上し、高品質の作物を栽培することができる。
【0047】
また植物腐敗体質が抑えられるとともに、微生物の抗菌作用が働き、これによって保存した野菜自体が腐敗せず、長期間保存すると発酵するようになる。
【0048】
またこのような水耕栽培によると、資材の肥料などが必要でなく、別設備のエアーポンプなども必要としなくなる。よって設備的にも簡便で、長期栽培が可能であって、栽培システムとして低価格での供給が可能になる。また植物体内の硝酸態窒素濃度が抑えられるために、人体への悪影響が抑制される。
【0049】
以上本願発明を図示の実施の形態によって説明したが、本願発明は上記実施の形態によって限定されることなく、本願発明の技術的思想の範囲内で各種の変更が可能である。例えば上記実施の形態は、トマトの水耕栽培装置に応用したものであるが、本願発明は、その他各種の作物の栽培に広く適用することができる。また栽培槽11、貯留槽12、養分生成槽13の配置や、その具体的な形態等については、栽培する植物や設置される場所等に応じて各種の設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本願発明は、各種の農作物を水耕栽培するのに広く利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
11 栽培槽
12 貯留槽
13 養分生成槽
16 支柱
17、18 支持板
19 誘引棚
20 トマト(植物)
21 根
22 遮光板
23 微生物活性液タンク
25 養液
26 ポンプ
27 吸引パイプ
28 ストレーナ
29 送水管
30 水量調整バルブ
31 クリーナ
32 マイクロバブル発生器
34 給水管
35 給水弁
36 回動レバー
37 フロート
40 オーバーフロー管
41 斜行管
42 散水孔
46 高炭素資材(自然有機物)
47 小孔
50 卵形シェル
51 気液導入管
52 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を栽培するための養液を収容可能な栽培槽と、
前記養液を貯留するための貯留槽と、
前記栽培槽と前記貯留槽との間で前記養液を循環させるための養液循環システムと、
前記養液循環システムの循環経路の途中に設けられ、マイクロバブルまたはナノバブルを発生して、前記循環する養液に酸素を含ませる微細気泡発生器と、
前記養液循環システムの循環経路の途中に設けられ、前記循環する養液の供給を受ける微生物と自然有機物とを収容し、前記微生物に前記自然有機物を分解させて前記植物の生育に必要な養分を生成し、生成した前記養分を前記循環する養液に含ませる養分生成槽と、
を有する水耕栽培装置。
【請求項2】
前記自然有機物は、窒素含有量に対する炭素含有量の比が40以上の高炭素資材を含む、請求項1に記載の水耕栽培装置。
【請求項3】
前記自然有機物は、樹皮バーク、木材チップ、米ぬか、おがくず、米、廃菌床、雑草の少なくとも1種類を含む、請求項1または請求項2に記載の水耕栽培装置。
【請求項4】
前記養分生成槽は、前記養液循環システムの前記栽培槽から前記貯留槽へ向かう循環経路の途中に設けられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水耕栽培装置。
【請求項5】
前記養液循環システムは、前記貯留槽の前記循環養液を前記栽培槽まで圧送するためのポンプおよび送液管を有し、前記送液管の出口に前記微細気泡発生器を取り付け、前記栽培槽の中で前記マイクロバブルまたはナノバブルを発生させる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水耕栽培装置。
【請求項6】
養液を収容する栽培槽と前記養液を貯留するための貯留槽との間で前記養液を循環させて、前記栽培槽上で所望の植物を栽培する水耕栽培方法であって、
前記循環する養液にマイクロバブルまたはナノバブルを混合して前記養液中の溶存酸素濃度を制御し、
自然有機物およびこれを分解する微生物に前記循環する養液を供給し、前記微生物による前記自然有機物の分解によって生成される養分を前記循環する養液を介して前記植物に与える、
水耕栽培方法。
【請求項7】
前記自然有機物は、窒素含有量に対する炭素含有量の比が40以上の高炭素資材を含む、請求項6に記載の水耕栽培方法。
【請求項8】
前記自然有機物は、樹皮バーク、木材チップ、米ぬか、おがくず、米、廃菌床、雑草の少なくとも1種類を含む、請求項6または請求項7に記載の水耕栽培方法。
【請求項9】
前記循環する養液が、前記栽培槽から前記貯留槽へ向かう途中で前記自然有機物および微生物の設置場所を通過して前記養分を受け取る、請求項6〜8のいずれか一項に記載の水耕栽培方法。
【請求項10】
前記循環する養液を前記貯留槽から前記栽培槽までポンプおよび送液管を用いて圧送し、前記送液管の出口に取り付けた微細気泡発生器により前記栽培槽の中で前記マイクロバブルまたはナノバブルを発生させる、請求項6〜9のいずれか一項記載の水耕栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−24475(P2011−24475A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173045(P2009−173045)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(596181707)
【Fターム(参考)】