説明

水耕栽培装置

【課題】水耕栽培装置における冷房等を安価な運転コストで効率良く行う。
【解決手段】水耕栽培装置1の栽培槽4の下方には蓄熱槽6を設けておき、該栽培槽4と蓄熱槽6との間には、栽培槽4の上方空間8に連通する空隙部7を設けておく。該蓄熱槽6中の熱媒体5を 電気料金の安い夜間に冷却しておくと、該蓄熱槽6により保温された熱媒体5は、日中、空隙部7中の空気を冷却する。該冷却された空気は前記上方空間8に移動して植物3の環境温度の調整を行う。本発明によれば、料金が安い夜間電力を使用することができるので、運転コストを安価にできる。また、前記空隙部7中の空気と熱媒体5との熱交換を、熱交換コイルを介することなく直接行えるので、効率よく冷房を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の水耕栽培を行なう水耕栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風雨等の影響を排除して植物の生育環境を整えるために植物栽培用のハウスが使用されている。
【0003】
このような植物栽培用ハウスは、多くの場合、壁や屋根が透明部材(アクリル板やガラス板やビニールフィルム等)で作られていて太陽光を取り込めるようになっているが、夏期はハウス内の温度が異常に上昇してしまい、栽培している植物に各種の障害(例えば、葉焼け等)が発生するので好ましく無い。また、冬期に温度が下がり過ぎる場合にも種々の障害が発生するので好ましく無い。そこで、ボイラーや電熱ヒーターを使っての暖房、或いは換気や細霧などを使っての冷却、或いはエアコンを使用しての冷房が行われていた(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−210435号公報
【特許文献2】特開2001−248981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、安価な運転コストで、冷暖房効率に優れた装置の実現が望まれている。また、温度調整のみならず湿度調整も可能とした安価な装置の実現も望まれている。
【0006】
本発明は、上述の問題を解決する水耕栽培装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、図1に例示するものであって、養液(2)を溜めて植物(3)の栽培を行なうことのできる栽培槽(4)と、
該栽培槽(4)の下方に配置されると共に熱媒体(5)を収容可能な蓄熱槽(6)と、
前記栽培槽(4)と前記蓄熱槽(6)との間に形成される空隙部(7)と、
を備え、
前記空隙部(7)は、
前記栽培槽(4)の下面(4a)、及び前記蓄熱槽(6)に収容された熱媒体(5)の上面(5a)をそれぞれ壁面として構成されると共に、前記栽培槽(4)の上方空間(8)に連通するように構成されたことを特徴とする水耕栽培装置(1)に関する。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記熱媒体(5)が水であり、前記空隙部(7)の上下方向の寸法(A)を変更調整するための空隙部調整装置(10)を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明において、前記空隙部調整装置(10)が、前記蓄熱槽中の水位を調整することに基づき、前記空隙部(7)の上下方向の寸法(A)を変更調整する装置であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記熱媒体(5)が水であり、
前記蓄熱槽(6)中に高低差を設けておいて前記水が流れるようにしたことを特徴とする。
【0011】
なお、括弧内の番号などは、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、蓄熱槽を有しているので、電気機器によって熱媒体の加熱や冷却を行なう場合であっても、該機器の運転を日中に行なう必要は無く、電気料金の安い夜間に行なうことができ、電気代を安く抑えることができる。また、前記熱媒体の上面が前記空隙部の一壁面を構成しているので、前記空隙部中の空気と前記熱媒体とは、熱交換コイルを介さない状態での直接的な熱交換が可能となり、熱伝達効率と湿気伝達効率に優れるという効果がある。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、植物の環境温度の調整のみならず環境湿度の調整もすることができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、水位を調整することで、一定風量を流した場合に その風速を調整することが可能となり、熱伝達及び湿気伝達の効率を調整し、冷却加熱量や除湿加湿量を調整することができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、水の攪拌によって水温の均一化を図ることができると共に、送風のためのファンを不要として運転コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明に係る水耕栽培装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1に沿って、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
本発明に係る水耕栽培装置は、図1に符号1で例示するものであって、
・ 養液2を溜めて植物3の栽培を行なうことのできる栽培槽4と、
・ 該栽培槽4の下方に配置されると共に熱媒体5を収容可能な蓄熱槽6と、
・ 前記栽培槽4と前記蓄熱槽6との間に形成される空隙部7と、
を備えている。そして、この空隙部7は、
・ 前記栽培槽4の下面4a、及び
・ 前記蓄熱槽6に収容された熱媒体5の上面5a
をそれぞれ壁面として構成されると共に、前記栽培槽4の上方の空間(以下、“上方空間”とする)8に連通するように構成されている。これにより、前記空隙部7中の空気は、前記熱媒体5との間で熱交換(冷却又は加熱)がなされ、その後、前記上方空間8に移動して植物3の環境温度の調整を行うこととなる。
【0019】
ここで、前記熱媒体5としては、
・ 水等の液体や、
・ コンクリート等の固体
などを挙げることができる。これらの熱媒体5は、
・ 一般的なスクリュー型冷凍機や、ターボ型冷凍機や、空冷あるいは水冷のヒートポンプチラーなどの冷却機器、
・ 或いは、電熱器等の加熱機器
・ 冷却及び加熱の両方が可能な電気機器
などを使って温度調整すると良い。なお、低温や高温の地下水を 冷却又は加熱せずにそのまま使用するようにしても良い。
【0020】
本発明に係る水耕栽培装置1は蓄熱槽6を有しているので、上述のような機器(電気機器)によって熱媒体5の加熱や冷却を行なう場合であっても、それらの機器の運転を日中に行なう必要は無く、電気料金の安い夜間に行なうことができ、電気代を安く抑えることができる。また、前記熱媒体5の上面5aが前記空隙部7の一壁面を構成しているので、熱交換コイルを介さない状態での直接的な熱交換が可能となり、熱伝達効率(冷暖房効率)に優れるという効果がある。さらに、本発明のように、蓄熱槽6に収容されている熱媒体5を利用して栽培槽4や植物3の冷房や暖房を行なう場合、蓄熱槽6と栽培槽4との間の距離が離れていると熱損失が大きくなり、冷暖房効率が落ちてしまうという問題があるが、本発明においては、蓄熱槽6と栽培槽4とが隣接配置されていてそれらの間の距離が小さいので、冷暖房効率の低下を最小限に抑えることができる。また、本発明によれば、前記空隙部7においては前記栽培槽4の下面4aが前記熱媒体5に対向するように配置されるため、該下面4aが熱媒体5からの熱放射によって冷却又は加温されることとなる。その結果、該植物3は、上方及び下方の両方から冷却又は加温されることとなり、植物3の全体を適正温度に保持することが可能となる。
【0021】
ところで、前記熱媒体5として水を用い、空隙部7中の空気と熱媒体5との間で熱交換(冷却又は加熱)だけでなく湿度交換(除湿又は加湿)を行い、該空隙部7から前記上方空間8に移動した空気によって植物3の環境温度並びに環境湿度の調整を行なうようにしても良い。
【0022】
なお、冷却水面を使って空気の冷却のみならず除湿や加湿を行なうことに関しては 研究結果が公表されている(空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集、1996.9.18〜9.20、637〜640頁、“B−34 冷却流水面を用いた調湿・除湿に関する基礎的検討”、前田英彦ら)。そして、空気の除湿量は、冷却水面に沿って流れる空気の流速が増加するほど増大し、冷却水と空気との温度差が大きくなるほど増大するという関係にあるので、本発明において除湿量を調整するには、
(a) 前記空隙部7中を流れる空気の速度を調整する方法
(b) 前記熱媒体5の温度を制御する方法
が考えられる。そして、前者の方法(つまり、空気の速度を調整する方法)としては、
・ ファン(符号9参照)の回転数を制御する方法
・ ファン9の回転数を一定にしておいて、空隙部7の上下方向の寸法(つまり、熱媒体上面5aと蓄熱槽下面4aとの離間距離。符号A参照)を調整する方法
が挙げられる。さらに、後者の方法(つまり、空隙部7の上下方向の寸法Aを調整する方法)を実現する装置としては、
・ 前記栽培槽4を上下に移動可能に支持し、該栽培槽4の位置をサーボ制御するような装置や、
・ 熱媒体5として水を用いると共に、前記蓄熱槽中の熱媒体5の量(つまり、水位)を調整する装置(空隙部調整装置)
を挙げることができる。後者の場合、水位を調整するという簡単な装置でありながら、熱媒体による除湿量や加湿量や冷却量や加熱量を調整することができる。
【0023】
ところで、図1に示す水耕栽培装置1では前記空隙部7と前記上方空間8との間の通風路にファン9を配置して、該空隙部7にて熱交換や湿度交換がなされた空気が前記上方空間8へ強制的に流入されるように構成されているが、そのようなファンを用いずに空気の自然対流を利用して冷房や暖房を行うようにしても良い。例えば、熱媒体5として水を用い、前記蓄熱槽6中に高低差を設けておいて該水(熱媒体)が流れるようにし、該水の流れに起因する空気の流動を利用して空気が前記上方空間8に移動するようにしても良い。そのようにした場合は、水の攪拌によって水温の均一化を図ることができると共に、送風のためのファン9を不要として運転コストを低減することができる。
【0024】
一方、熱交換や湿度交換の能力の点からは、前記熱媒体5の上面5aの面積は広い方が好ましく、例えば栽培槽4の面積に略一致していることが好ましいが、前記熱媒体5の上面5aの面積が栽培槽4の面積よりも小さいケースが本発明の範囲から除外されるものでは無い。
【0025】
なお、上述の栽培槽4や蓄熱槽6は公知の材料や部材で構成すると良い。例えば、栽培槽4は、熱伝導性に富む樹脂等の材料で構成すると良く、蓄熱槽6は、コンクリート等で形成された水槽と、該水槽の内表面に配置された樹脂フィルム等により構成すると良い。
【符号の説明】
【0026】
1 水耕栽培装置
2 養液
3 植物
4 栽培槽
5 熱媒体
6 蓄熱槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液を溜めて植物の栽培を行なうことのできる栽培槽と、
該栽培槽の下方に配置されると共に熱媒体を収容可能な蓄熱槽と、
前記栽培槽と前記蓄熱槽との間に形成される空隙部と、
を備え、
前記空隙部は、
前記栽培槽の下面、及び前記蓄熱槽に収容された熱媒体の上面をそれぞれ壁面として構成されると共に、前記栽培槽の上方空間に連通するように構成された、
ことを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項2】
前記熱媒体は水であり、
前記空隙部の上下方向の寸法を変更調整するための空隙部調整装置を備えた、
ことを特徴とする請求項1に記載の水耕栽培装置。
【請求項3】
前記空隙部調整装置は、前記蓄熱槽中の水位を調整することに基づき、前記空隙部の上下方向の寸法を変更調整する装置である、
ことを特徴とする請求項2に記載の水耕栽培装置。
【請求項4】
前記熱媒体は水であり、
前記蓄熱槽中に高低差を設けておいて前記水が流れるようにした、
ことを特徴とする請求項1に記載の水耕栽培装置。



【図1】
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【公開番号】特開2011−4610(P2011−4610A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148363(P2009−148363)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】