説明

水質浄化材

【課題】リンなどの環境汚染物質を環境水中から除去しつつ、長期間に亘って、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との接触状態を良好に保つことができる水質浄化材を提供する。
【解決手段】引張り強度が200MPa以上の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とからなる水質浄化材であって、該炭素繊維強化樹脂複合材と該金属鉄との少なくとも一部が接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄を用いた水質浄化材に関し、特に環境水中のリンおよび窒素を効果的に除去しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
リンは、環境水汚染の原因元素で、湖沼や内湾などの水質の汚れの原因となる。河川などには工業排水や農薬の使用によって、水中にリンが多く含まれている。リンは、肥料としても農地に散布されている。畜産業では、家畜のし尿や糞から、リンが環境水に流れ込んでいる。また、公共下水処理場では、汚水処理過程でリンを汚泥中に濃縮しているが、処理水中にも高濃度のリンが含まれている。家庭では洗濯洗剤中にリンが含まれており、それらが河川などの環境水中に流出している。特に、湖沼・内湾等の閉鎖性水域での富栄養化は未だ存在していて、水環境の再生が大きな課題となっている。
【0003】
ここで、内水面の環境に目を転じてみると、内水面では、緑色の藻が大量に発生する。それらはアオコと呼ばれている。アオコの発生は、水中の窒素およびリンの濃度が高くなることに起因している。他方、海域では、赤潮が発生し、それによって魚介類が死滅する。これらはいずれもリンに関係した現象で、赤色プランクトンなどの発生による。そして、赤潮やアオコが発生すると、プランクトンの持つ毒素や、大発生したプランクトンの分解に酸素が消費されることによる酸素不足などから、魚介類が窒息死するなどの大きな被害が発生する。
【0004】
上記した環境水中のリン由来の問題に対し、例えば、特許文献1には、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などの凝集処理剤を使用し、排水中のリン除去を行う技術が提案されている。
【0005】
特許文献2には、鉄塩またはアルミニウム塩とリン酸イオンとを反応させて排水処理を行う技術が提案されている。
【0006】
特許文献3には、リン酸イオンと反応して固体化する鉄塩またはアルミニウム塩で塊状化させて、排水浄化を行う技術が提案されている。
【0007】
特許文献4には、下水や工場排水中のリンを除去するために、ポリ硫酸第二鉄やポリ塩化アルミニウムなどの凝集剤を加えて、排水中のリンをリン酸鉄に化学変化させることで排水浄化を行う技術が提案されている。
【0008】
しかしながら、上記した特許文献1〜4に記載の鉄塩等を用いたリンの除去方法では、いずれも鉄イオン等以外のイオンや成分が水中に残留してしまうという問題があった。すなわち、処理対象水への鉄塩等の添加に伴い、鉄イオン等と結合して鉄塩等を形成している塩化物イオンや硫酸イオン等の対イオンも処理対象水中に添加されることとなる。その結果、処理対象水中の塩化物イオン濃度や硫酸イオン濃度が上昇し、生態系に悪影響が生じるという問題があった。
また、上記した特許文献1〜4に記載のリンの除去方法では、いずれも対象溶液中の窒素の除去に関し、何らの考慮も払われていない。
【0009】
これらの問題に対し、発明者らは、特許文献5で、水中に溶解するリンを、鉄イオンあるいは亜鉛イオンと反応させて、水に不溶性のリン酸鉄あるいはリン酸亜鉛に変化させることで、水中のリンを沈殿物として回収する方法を提案した。
この技術は、金属鉄と炭素繊維とを接触させることで、水に溶解する鉄イオンを生成し、これと水中のリンと反応させ、水に不溶性のリン酸鉄に変化させて沈殿物として回収する技術である。
また、水中の鉄イオンは、金属鉄とイオン化傾向の高い金属とを接触させることによっても生成させることができる。従って、この技術は、水中のリンを、エネルギーを消費することなしに効率的に除去する、環境への負荷のない技術である。なお、この技術の対象とする水は、湖沼池、河川、ため池、湾、海域、産業排水、下水、畜産排水など、リンを含む水である。
【0010】
また、発明者らは、特許文献6で、環境水中のアオコの発生を防止するアオコ発生防止材として、炭素繊維と金属鉄とを接触させたものを提案した。この技術では、織物状、不織布状、マット状、シート状、フィルム状、板状、ストランド状および束状の炭素繊維、および、水の抵抗が少なくて、鉄イオンの溶出や不溶性のリン酸鉄の生成が容易となる、メッシュ状、網状、板状、貫通孔をもつ板状の金属鉄を使用した。
【0011】
さらに、特許文献5、6に記載の技術を、畜産関係に利用する技術として提案したものに特許文献7がある。この技術は、炭素繊維と鉄材とを混在させることで、し尿中のリンの除去効果を増大した方法および装置に関する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−205273号公報
【特許文献2】特開2006−281177号公報
【特許文献3】特開2008−68248号公報
【特許文献4】特開2003−340464号公報
【特許文献5】特願2009−18799号明細書
【特許文献6】特願2009−202778号明細書
【特許文献7】特願2009−18798号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献5〜7に記載の技術は、いずれも炭素材として、種々の形態を提案しているが、中でも、前述したように、炭素繊維を用いることが最も好適であると記載している。というのは、炭素材の中でも炭素繊維は、平面上の金属鉄と密着させて接触面積を大きくすることができるだけでなく、金属鉄の形状の変化にも対応することができるからである。
【0014】
すなわち、特許文献5〜7に記載の技術は、実質的に、炭素繊維を用いる技術であって、炭素繊維の形状変形が良好なこと、および比表面積が大きいことを利用して、金属溶出部材との接触面積を大きく保ち、鉄イオンの溶出速度を高めた技術である。また、炭素繊維は機械的強度にも優れているので、自然環境下での使用に適している素材でもある。
【0015】
しかしながら、上述した利点を持ち、全体としては機械的強度に優れている炭素繊維でも、繊維の端末からの「ほごれ」は防ぐことができず、「ほごれ」を防止するためには特別の端末処理を必要とするところに問題を残していた。
例えば、フクオカ機業製の炭素繊維織物では、横糸を連続させて織り上げることで、「ほごれ」を防止している。それでも、炭素繊維織物の長手方向(経糸方向)では、「ほごれ」防止ができない。そのため、現状では、「ほごれ」防止のために端末を接着剤などで固定しているのが現状である。
【0016】
また、炭素繊維を自然環境下で使用した場合、大きな外力がかかることも想定される。このような場合、炭素繊維の破損、すなわち、炭素繊維の「ほごれ」が拡大して、炭素繊維の原形を維持することができなくなってしまう懸念がある。そして、このような破損が生じた場合には、環境水中に大量の炭素繊維が散乱することとなり、これを完全に回収することはとても困難な作業となる。
【0017】
さらに、炭素繊維は、鋭利な形状を持つものによって切断されることも考えられる。例えば、ギロチン状の歯をもつ魚類(例えば、フグやカワハギなど)、カメの歯およびアメリカザリガニのはさみなどである。炭素繊維は、これら鋭利な形状物によって切断された場合もやはり、環境水中に大量の炭素繊維が散乱して、これを完全に回収することは、上記同様とても困難な作業となる。
【0018】
また、炭素繊維の初期形状を維持することは難しい。というのは、海中などで炭素繊維を使用する際、炭素繊維には、波などによってねじれや回転などの複雑な動きが生じるので、炭素繊維の形状変形性の良いことが災いし、初期形状を維持することができなくなるからである。特に、水の流れが速く、流れが乱れている所が多い河川や湖沼では、より炭素繊維の初期形状を維持することが難しくなる、すなわち炭素繊維の「ほごれ」が発生しやすくなるという問題があった。
【0019】
従って、特許文献5〜7に記載の技術では、特に、水の流れが速く、流れが乱れている所が多い河川や湖沼において、水質浄化を開始した初期段階に、炭素繊維と金属鉄とが良好に接触して密着していても、時間の経過と共に、炭素繊維の「ほごれ」が発生して炭素繊維と金属鉄との間の接触面積が低下し、鉄イオンの溶け出し速度が低下することで、その水質浄化能力が低下してしまうという問題があった。
【0020】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とを用いて、リンなどの環境汚染物質を環境水中から除去するために、長期間に亘って、炭素繊維と金属鉄との接触状態を良好に保つことができる水質浄化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
発明者らは、上記した炭素繊維の持つ問題を解決するために、鋭意検討を重ねた。
その結果、炭素繊維の「ほごれ」を防ぐためには、長繊維の炭素繊維から作られた炭素繊維強化樹脂複合材を使うことが有効であることが判明した。
本発明は、上記した知見に基づき完成されたものである。
【0022】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.引張り強度が200MPa以上の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とからなる水質浄化材であって、該炭素繊維強化樹脂複合材と該金属鉄との少なくとも一部が接触していることを特徴とする水質浄化材。
【0023】
2.前炭素繊維強化樹脂複合材が、炭素繊維と樹脂とからなり、該炭素繊維は連続した長繊維を含み、該樹脂は熱硬化性樹脂であることを特徴とする前記1に記載の水質浄化材。
【0024】
3.前記炭素繊維が、長繊維を、一方向に配列したものおよび一方向に配列したシートを積層したもの、並びに、長繊維を、経糸、緯糸にして作られた織物を積層したものおよび芯材料に巻き付けたもののうちから選んだ少なくとも一つからなることを特徴とする前記2に記載の水質浄化材。
【0025】
4.前記金属鉄は、Fe含有率が80質量%以上である金属鉄であることを特徴とする前記1〜3いずれかに記載の水質浄化材。
【発明の効果】
【0026】
本発明に従う水質浄化材によれば、長期間の使用によっても、「ほごれ」が発生することなしに、長期間に亘って環境水中で、リンおよび窒素という汚染物質を除去する効果を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】aおよびbは、本発明に用いることができる炭素繊維強化樹脂複合材の一例を示した図である。
【図2】本発明に従う板状の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との接触要領を示した図である。
【図3】本発明に従う筒状の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との接触要領を示した図である。
【図4】本発明に従う筒状の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との他の接触要領を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明における水質浄化材は、引張り強度が200MPa以上の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とからなる水質浄化材であって、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との少なくとも一部が接触しているものである。
ここに、炭素繊維強化樹脂複合材の長所を列記する。
力学的性質に優れる(強度、弾性率が高い、比強度や比弾性率がきわめて高い、疲労特性に優れる、クリープ特性に優れる、金属に比して振動減衰特性が良い)。
潤滑性に優れる(耐磨耗性が良く、摩擦係数が小さい、繊維配列と摺動面の相対的方向により著しく挙動が異なる)。
熱的性質が優れる(熱的寸法安定性が良い、設計により、ゼロ熱膨張材料が可能である、耐熱性、極低温性に優れる)。
化学的性質が優れる(耐薬品性に優れる、強酸や強アルカリなど溶剤に強い、耐海水性に優れる)。
電磁気的性質が優れる(電導性がある、非磁性である、X線の透過性が大きい、電磁遮藪(EMI)およびラジオ波遮藪(RFI)に利用可能である)。
以上述べた特性を活用して、炭素繊維強化樹脂複合材は、宇宙航空機材料、スポーツ材料、建築材料、医療材料、自動車材料など幅広く使用されている。
【0029】
本発明のように、海や河川、産業用水の排水口付近などの水の動きの激しい分野で使用する場合、炭素源は、高強度、高耐久性、高弾性率を持つことが重要であるが、特に、炭素繊維強化樹脂複合材の引張り強度が200MPa以上であることは、流動性の激しい水環境下でも破損することなく、形状を維持し、水質浄化機能を持続的に発揮することが可能なため、不可欠な特性である。なお、引張り強度は、好ましくは300MPa以上である。
【0030】
図1aおよびbに、本発明に用いることができる炭素繊維強化樹脂複合材の一例を示す。本発明に用いる炭素繊維強化樹脂複合材としては、炭素繊維と樹脂とからなり、炭素繊維は連続した長繊維を含み、樹脂は熱硬化性樹脂であることが望ましい。また、引張り弾性率を100GPa以下とすると、形状を維持する能力が一段と向上するため好ましい。より好ましくは、40GPa以下である。なお、下限は、特に制限はないが、製造性の観点から20GPa程度である。
さらに、炭素繊維強化樹脂複合材は、耐水性、特に海水に対する耐久性が高く、船舶、潜水艇などにも使用されている。
【0031】
また、上記した炭素繊維は、長繊維が、一方向に配列したもの若しくは一方向に配列したシートを積層したもの、または長繊維を、経糸、緯糸とした織物を積層したもの、若しくは長繊維を芯材料に巻き付けたフィラメントワインデイング材などからなることが好ましい。どの材料を使用するかは、対象とする水の流れなど状態を把握して決めることができる。なお、上記材料を複数同時に使用しても良い。
また、フィラメントワインデイング材は、特定の角度で芯材料に長繊維を巻き付けたものであるが、この角度は、芯材に対して25〜75度程度が好ましい。
【0032】
本発明において、炭素繊維強化樹脂複合材の母材となる樹脂は、一般的な熱硬化性樹が使用される。代表的な樹脂は、エポキシ樹脂である。その他、耐久性の高い樹脂であるならば、いずれも使用可能である。
【0033】
本発明では、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との少なくとも一部が接触している必要がある。ここに、図2〜4に、本発明に従う炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とを接触させる要領を示す。
図2には、板状の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とを、図2および3には、筒状の炭素繊維強化樹脂複合材と筒状の金属鉄とを接触させる要領をそれぞれ示している。
本発明では、図2に示したように、板状の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とを、1層または複数層に積層させて接触させることができる。
また、図3および4に示したように、筒状の炭素繊維強化樹脂複合材と筒状の金属鉄とを接触させることができる。この時、図3に示したように、筒状の炭素繊維強化樹脂複合材を外側に配置することもできるし、図4に示したように、筒状の金属鉄を外側に配置することもできる。
【0034】
さらに、本発明に用いる金属鉄としては、Fe含有量で80質量%以上の合金鉄または純鉄であれば、好適に使用することができる。ここに、Fe含有量が80質量%に満たないと、金属鉄の表面におけるFe組織の専有面積が下がり、炭素繊維強化樹脂複合材との接触状態が不十分となるおそれがある。また、環境水への不要なイオンの溶け出しも起こる。なお、かような合金鉄としては、純鉄を始めとして、Fe-ニッケル合金やFe-クロム合金等が有利に適合するが、純鉄がとりわけ有利である。
【0035】
本発明に用いる金属鉄の形態は、鉄板、鉄棒、鉄筋、塊、メッシュ、線、粉など、通常の合金鉄または純鉄の形態のいずれもが使用可能である。
【0036】
本発明に従う水質浄化材における、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との組み合わせを表1に示す。
本発明では、表1中、左列の炭素繊維強化樹脂複合材から選んだ形態と、右列の金属鉄群から選んだ形態とを、少なくとも一部で接触させることにより本発明に従う水質浄化材とする。
【0037】
なお、本発明において、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄との組み合わせは、必ずしも一形態同士に限られない、すなわち、以下の表1に記載の形態であれば、本発明にかかる炭素繊維強化樹脂複合材として、複数形態を同時に使用しても問題はなく、右列の金属鉄群のいずれか一つまたは複数の組み合わせに対して、炭素繊維強化樹脂複合材のいずれか一つまたは複数と同時に用いることができる。
【0038】
【表1】

【0039】
その他の形状としては、炭素繊維強化樹脂複合材(棒状、円錐状、多角錐状、半球状、U型状、V型状、箱型状、波形状など)/金属鉄(球状など)が挙げられ、これらもまた、任意の組み合わせで用いることも、また表1の形状のものとも組合せて用いることができる。なお、以上の炭素繊維強化樹脂複合材は、いずれも引張り強度が200MPa以上であることが必須であるのは上述したとおりである。
【0040】
本発明に従う水質浄化のメカニズムは、以下のとおりである。
一般的に、排水浄化は、生物処理によって行われる。これは廃水中に空気をバブリングさせることで、水中の好気性菌を活性にし、好気性菌によって有機物を二酸化炭素あるいは水に分解する。また、窒素化合物は、一般的には好気性菌で硝酸イオンに分解される。好気性菌のみでは、水質浄化はできないので、還元性条件下、嫌気性菌の作用によって硝酸イオンを分解して窒素ガスとし、大気中に放出する。この反応を起させるには、硝酸イオンから酸素原子を除去しなければならないが、嫌気性菌の作用だけでは不十分であった。
【0041】
ここに、硝酸イオンから酸素原子を取除くことは、一種の化学反応と見れば、還元反応である。すなわち、上記したような、環境水中の窒素を除去するためには、強力な還元剤が必要であるが、一般的な還元剤は環境に与える負荷も大きく、実際に用いることのできる還元剤はほとんどない。
【0042】
そこで、本発明では、以下に説明するメカニズムでリンおよび窒素を環境水中から取り除くのである。
まず、金属鉄のみを水中に加えたとしても、金属鉄の溶解はほとんどおこらない。そこで、炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄を接触させて水中に加えると、鉄の溶解が促進される。これは、炭素繊維強化樹脂複合材中の炭素材と金属鉄との間に、一種の局部電池が形成され、それによって鉄イオンが生成するためである。その後、この鉄イオンと水中のリン酸イオンとで反応が起こり、リン酸が、以下の反応式のように不溶性のリン酸鉄となり、環境水中から除去することが可能となる。
3Fe + 2PO3− = Fe(PO
Fe + HPO = Fe(PO
【0043】
一方、金属鉄は酸化して酸化鉄にもなる。この酸化鉄生成に使用される酸素は、環境水中にある窒素酸化物から供給されるため、窒素酸化物は、酸素が脱離して窒素ガスとなる。その結果、環境水中の窒素の除去ができるのである。
【0044】
本発明において、水中のリン酸イオンは、金属鉄中の鉄イオンと反応してリン酸鉄を生成する。これは不溶性であり沈殿する。ここで、生成したリン酸鉄は、金属鉄あるいは炭素繊維強化樹脂複合材の表面を被覆し、反応を抑制することもある。また、鉄の酸化物は、鉄イオンの生成反応を阻害するので、金属鉄表面および炭素繊維強化樹脂複合材表面の付着物を、適宜取除くことが望ましい。そのためには、振動、撹拌、揺らぎおよび超音波など、物理的な作用を、水質浄化材に付与することが好ましい。
【実施例】
【0045】
〔実施例1〕
炭素繊維強化樹脂複合材は、台円錐筒形(創和テクスタイル(株)で製作)で、大径:10cm、小径:2.5cm、高さ:15cmであった。炭素繊維強化樹脂複合材は、炭素繊維織物を3層に重ね、エポキシ樹脂で成形した。炭素繊維強化樹脂複合材は、炭素繊維織物(平織り品)にエポキシ樹脂をしみこませたものを3枚積層し、成形後、加熱硬化して作製した。
なお、引張り強度は、300〜400MPaであり、引張り弾性率は、30〜40GPaであった。また、以下の実施例は、同じ要領で作製した、同程度の引張り強度および引張り弾性率を有する炭素繊維強化樹脂複合材を用いた。
鉄材は、鉄網(亜鉛引き品、線径:0.23mm、開き目:0.3mm)を使用し、炭素繊維強化樹脂複合材の内側にはめこみ密着させた。
鉄網を内側に密着した炭素繊維強化樹脂複合材は、ビーカー中にいれ、その中に池水(約2.2[L])を入れた。撹拌は、マグネチックスターラーで行った。所定時間経過後、パックテスト法による簡易分析法で、リン酸態リン濃度を測定した。
【0046】
ビーカー内の試験水は、時間経過とともに濁り始めた。ここで、試験水中のリン酸濃度を測定すると、開始時のリン酸濃度は0.20mg/Lであった。1日後には0.10mg/L、2日後には0.05mg/Lとなり、リン酸濃度は低下した。
これらの分析結果から、炭素繊維強化樹脂複合材と鉄網を接触させることで、水中に溶解しているリン酸濃度を低下することが分かった。なお、使用した鉄網は、亜鉛被覆がされている市販品であり、最初は亜鉛が溶け出しリン酸亜鉛が析出したため濁ったものと考えられる。その後、鉄が溶出し、リン酸鉄が生成し、中に溶解しているリン酸濃度が低下した。
また、リンの除去速度を高めるには、炭素繊維強化樹脂複合材と鉄網をより密着させること、水温を高めること、試験水を撹拌すること、炭素繊維強化樹脂複合材の両面に鉄網を接触させることなどが重要である。
【0047】
〔実施例2〕
炭素繊維強化樹脂複合材は、実施例1で使用したものを十分に洗浄し使用した。鉄網は、実施例1で使用したものと同様の鉄網(亜鉛引き品、線径:0.23mm、開き目:0.3mm)の未使用品を用いた。炭素繊維強化樹脂複合材と鉄網を密着させるために、炭素繊維強化樹脂複合材内側に鉄網をはめこみ、ゼムクリップで上下ともに4か所ずつ固定した。さらに、ガラス棒にゴム管を被せたものを、突っ張り棒として炭素繊維強化樹脂複合材の内側に嵌め込んだ。次に、鉄網を内側に密着させた炭素繊維強化樹脂複合材を、ビーカー中にいれ、その中に池水(約2.2L)を入れた。撹拌は、回転機能付のマグネチックスターラーで行った。水温は35℃に保持し、200rpmで回転した。所定時間経過後、全窒素全リン計(TNP-10 TOA DKK製)を使用して、全窒素および全リン濃度を測定した。測定は、ミニザルト(孔径:5[μm])で濾過後行った。
試験水中の全窒素および全リン濃度を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
同表に示したとおり、炭素繊維強化樹脂複合材と鉄網を密着することで、水中の全リン濃度および全窒素濃度が低下した。7日後の減少率は、全リンがほぼ100%、全窒素が32%であった。
鉄網に被覆された亜鉛が、最初に溶出し、リン濃度を若干下げ、その後、鉄の溶出も始まり、リン除去を行ったのである。
全窒素(硝酸態窒素)も低下した。これは硝酸中の酸素が鉄の酸化に使用されるためである。従って、本発明は、水中の硝酸態窒素の除去方法としても、有効な方法であることがわかる。
【0050】
〔実施例3〕
流れのある河川水中に、炭素繊維織物と鉄メッシュから構成される水質浄化材Aを使用して河川水の浄化を行った。設置2カ月後、水質浄化材Aを水中から引き上げると、炭素繊維織物をつり下げていた個所から織物組織が乱雑になり、織物としての形態を保持できなくなった。また、一部、切断箇所も発生した。
一方、同一の環境下に、炭素繊維強化樹脂複合材と鉄メッシュから構成される水質浄化材Bを設置した。設置2カ月後、水質浄化材Bを水中から引き上げたが、炭素繊維強化樹脂複合材に外観上の破損は認められなかった。
【0051】
〔実施例4〕
鉄棒(直径:5cm)を炭素繊維織物でくるみ、鉄棒が抜け出ないように、鉄棒と炭素繊維織物の両端部を結束バンドで固定した棒状の水質浄化材Cを、流れのある河川水につり下げた。設置1ヶ月後、鉄棒の下端部分の炭素繊維織物に破断が生じ、鉄棒が抜け落ちた。これは鉄棒下端のエッジ部が、炭素繊維織物を繰り返し接触しこすりつけられることによって破断したものである。
一方、同一の環境下に、炭素繊維強化樹脂複合材と鉄棒(直径:5cm)から構成される水質浄化材D設置した。設置1カ月後、水質浄化材Dを水中から引き上げたが、外観上の破損は認められなかった。
【0052】
〔実施例5〕
炭素繊維織物と鉄メッシュから構成される平板状の水質浄化材Eを使用して海水の浄化を行った。海水の表面付近にイカダを設置し、そこから水質浄化材Eをつり下げた。設置3カ月後、水質浄化材Eを海水中からひきあげた。炭素繊維織物の表面には、大量の付着物、例えば、ホヤ、貝、牡蠣、フジツボ、海藻等が付着していた。これら大量の付着物によって、炭素繊維織物は中間付近から上下に裂け目が生じ、原形を保持できなくなった。
一方、同一の環境下に、炭素繊維強化樹脂複合材と鉄メッシュから構成される平板状の水質浄化材Fを設置した。設置3カ月後、水質浄化材Fを水中から引き上げた。大量の付着物が認められたが、炭素繊維強化樹脂複合材に外観上の破損は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に従う水質浄化材を利用することにより、環境水中のリンや窒素の濃度を効果的に抑制し、その抑制効果を、その形状保持と共に長期間維持することができ、もって環境水汚染防止等の環境の維持に大きく貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張り強度が200MPa以上の炭素繊維強化樹脂複合材と金属鉄とからなる水質浄化材であって、該炭素繊維強化樹脂複合材と該金属鉄との少なくとも一部が接触していることを特徴とする水質浄化材。
【請求項2】
前記炭素繊維強化樹脂複合材が、炭素繊維と樹脂とからなり、該炭素繊維は連続した長繊維を含み、該樹脂は熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の水質浄化材。
【請求項3】
前記炭素繊維が、長繊維を、一方向に配列したものおよび一方向に配列したシートを積層したもの、並びに、長繊維を、経糸、緯糸にして作られた織物を積層したものおよび芯材料に巻き付けたもののうちから選んだ少なくとも一つからなることを特徴とする請求項2に記載の水質浄化材。
【請求項4】
前記金属鉄は、Fe含有率が80質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の水質浄化材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−75282(P2013−75282A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218222(P2011−218222)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(508174687)石井商事株式会社 (8)
【Fターム(参考)】