説明

水質測定装置

【課題】結露が水質測定に及ぼす悪影響をなくして、長期間、連続的に安定した水質測定が行える水質測定装置を提供する。
【解決手段】試料水(S)に照射する励起光を発生する励起光発生装置1と、励起光の照射により試料水(S)が発する蛍光の強度を測定する蛍光検出装置4と、測定部10とを備え、測定部10は、測定用暗室により覆われ、試料水(S)が入れられた測定槽8の近傍に配され、励起光発生装置1および蛍光検出装置4に光ファイバー2、5を介して連結された励起光照射部3および蛍光受光部6とからなり、試料水(S)に励起光発生装置1からの励起光を照射し、試料水(S)が発する蛍光の強度を蛍光検出装置4により測定することにより、試料水(S)の水質指標に換算する水質測定装置において、光ファイバー2、5は、断熱材により覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、下水、工場廃水、環境水(河川水、湖沼水、海水等)等の水質指標を、非接触で連続的に測定する水質測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、公共水域においては、水質保全のために環境水の水質測定が行われており、下水処理場や工場、事業所等では、水質汚濁防止法に基づいた種々の規制値や基準値を遵守するために、処理水や廃水の水質測定が行われている。
【0003】
これらの水質は、時間や季節、天候によって変動が激しいため、常時、監視して分析を行うのが望ましい。下水処理場等において、流入下水の水質変動を捉えることができれば、水質に応じた運転条件の設定が可能となり、適正な運転管理、消費動力の削減等が可能になる。
【0004】
しかしながら、これらの水質分析は、手順が複雑である上に、専門的な技術が必要とされるので、常時監視、分析は難しいという問題があった。また、投げ込み式のセンサー等による測定は、簡易であるが、このような接触式のセンサーは、これを汚濁度の高い流入下水等に適用した場合、センサーに汚濁物質や生物膜が付着してしまい、短時間で測定不能となる問題があった。
【0005】
そこで、近年、非接触式の水質測定法として、試料水に励起光を照射し、その蛍光スペクトルの強度を測定することにより水中の汚濁物質の濃度を測定する方法が注目されている。以下に、上記測定方法が開示された特許文献例を記載する。
【0006】
特許文献1には、特定波長の励起光を試料水に照射し、その分光スペクトル中の特定の蛍光波長を測定することによって、試料水中のトリハロメタン生成能あるいはフミン質濃度および色度を測定する水質検査方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、フィルタにより濁質が除去された試料水に光を照射し、発生する蛍光の強度を測定して、試料水中の有機ハロゲン化合物の前駆物質に関するデータを測定する水質測定装置が開示されている。
【0008】
特許文献3には、励起光発生装置から特定波長の励起光を発生させ、これを試料水に照射し、試料水から発せられる蛍光を分光器に導いて、特定波長を中心とした前後特定波長範囲における蛍光波長強度を測定し、これら各蛍光波長強度を積分して試料水中の有機物質濃度を測定する蛍光分析水質測定システムが開示されている。
【0009】
特許文献4には、試料水に波長の異なる第1、第2の励起光を照射し、試料水が発する波長の異なる第1、第2の蛍光の強度を測定することによって、試料水の第1、第2の水質指標を測定する水質測定装置が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開平7−294434号公報
【特許文献2】特開2001−83095号公報
【特許文献3】特開2003−90797号公報
【特許文献4】特開2005−30839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した光を用いた水質測定方法においては、正確な測定を行うために、測定部、すなわち、励起光照射部、蛍光受光部および試料水が入れられた測定槽を暗箱等により覆い、完全に遮光する必要がある。このとき測定部は密閉に近い状態になり、試料水の蒸発により測定部周辺の水蒸気分圧は、ほぼ飽和水蒸気圧に達する。
【0012】
一方、光を用いた水質測定では、励起光発生装置により発生した励起光は、光ファイバーを経由して測定部まで伝達され、測定部で受光した蛍光は、もう一本の光ファイバーを経由し、蛍光検出装置により検出されるのが一般的である。
【0013】
このとき、励起光発生装置および蛍光検出装置と測定部とを連結する光ファイバーは、むき出しの状態であるので、周辺温度の影響を直接的に受ける。
【0014】
冬季の水質測定時等には、気温よりも試料水の水温の方が高い場合があり、この場合には、試料水を汲み上げながら測定を行っている測定部よりも、周辺気温の方が低くなる。夜間や早朝の測定時には、さらにこのようなケースが増加する。
【0015】
測定部よりも周辺気温が低い場合、外部にむき出しの状態になっている光ファイバーの温度も測定部の温度より低下し、熱伝達により結果として光ファイバーの先端、すなわち、測定部内部にある励起光照射部および蛍光受光部も測定部内部の温度より低下する。この結果、励起光照射部および蛍光受光部近傍の空気も冷却される。これら光ファイバー先端部の空気も試料水の蒸発により飽和水蒸気圧に達しているため、冷却されることにより水滴が生成する。この結果、励起光照射部および蛍光受光部に結露が生じて、正確な励起光の射出および蛍光の受光が不可能となる。
【0016】
従って、長期間の連続測定では、測定精度が著しく低下し、測定が不可能になるという問題があった。
【0017】
この発明の目的は、上記問題点を解決するためになされたものであって、結露が水質測定に及ぼす悪影響をなくして、長期間、連続的に安定した水質測定が行える水質測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とする。
【0019】
請求項1に記載の発明は、試料水に照射する励起光を発生する励起光発生装置と、励起光の照射により前記試料水が発する蛍光の強度を測定する蛍光検出装置と、測定部とを備え、前記励起光発生装置および前記蛍光検出装置と前記測定部とは、それぞれ光ファイバーにより連結され、前記試料水に前記励起光発生装置からの励起光を照射し、前記試料水が発する蛍光の強度を前記蛍光検出装置により測定することにより、前記試料水の水質指標に換算する水質測定装置において、前記光ファイバーは、断熱材により覆われていることに特徴を有するものである。
【0020】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記光ファイバーは、断熱材により覆われていると共に、加熱手段により加熱されることに特徴を有するものである。
【0021】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記測定部に換気装置および除湿装置の少なくとも1つが設けられていることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、励起光発生装置および蛍光検出装置を備えた水質測定装置において、励起光発生装置および蛍光検出装置と測定部とを連結する光ファイバーを断熱材により覆うことにより、結露が水質測定に及ぼす悪影響をなくして、長期間、連続的に安定した水質測定が行える。この効果は、光ファイバーの加熱手段を設けることによってさらに向上する。また、この効果は、測定部に換気装置および除湿装置の少なくとも1つを設けることによって、さらに一層、向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明の水質測定装置の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、この発明の水質測定装置の構成を示すブロック図である。
【0025】
図1において、1は、励起光発生装置であり、後述する測定槽内に入れられた試料水(S)に照射する励起光を発生する。2は、励起光用光ファイバーであり、励起光発生装置1と後述する励起光照射部とを連結する。3は、励起光照射部であり、励起光発生装置1により発生した励起光を試料水(S)に照射する。4は、蛍光検出装置であり、励起光の照射により試料水(S)が発する蛍光の強度を検出する。5は、蛍光検出用光ファイバーであり、蛍光検出装置4と後述する蛍光受光部とを連結する。6は、蛍光受光部であり、試料水(S)が発する蛍光を受光する。7は、記録計であり、蛍光検出装置4により検出された試料水(S)の蛍光の強度を記録する。8は、測定槽であり、例えば、下水(W)が試料水(S)として入れられる。9は、汲み上げポンプであり、下水(W)を試料水(S)として、常時、オーバーフローするように汲み上げ、測定槽8に入れる。10は、測定用暗室により覆われた測定部であり、前記測定用暗室は、試料水(S)が入れられた測定槽8の上部に配され、励起光用光ファイバー2に連結された励起光照射部3および蛍光検出用光ファイバー5に連結された蛍光受光部6を覆う。11は、発泡スチロール等の光ファイバー用断熱材であり、励起光用光ファイバー2および蛍光検出用光ファイバー5に巻き付けられている。
【0026】
このように構成されている、この発明の水質測定装置によれば、以下のようにして、水質測定が行われる。
【0027】
下水処理場等に流入してくる下水(W)は、汲み上げポンプ9により汲み上げられ、試料水(S)として測定槽8内に入れられる。試料水(S)は、常時、測定槽8からオーバーフローするように汲み上げられるので、測定槽8内の試料水(S)は、常に新鮮な状態に維持される。この試料水(S)に、励起光発生装置1により発生させた励起光が、励起光用光ファイバー2および励起光照射部3を介して照射される。この励起光の照射により試料水(S)中に含まれる有機物が蛍光を発し、この蛍光は、蛍光受光部6および蛍光検出用光ファイバー5を介して蛍光検出装置4に送られる。このとき検出された蛍光の強度は、電気信号として記録計7に記録される。この結果は、試料水(S)の水質指標に換算され、水質状態が判定される。
【0028】
このとき測定部10は、外部から光の入射による測定誤差が生じないように、測定用暗室により覆われ、ほぼ密閉された状態になっている。従って、試料水(S)の蒸発により測定部周辺の水蒸気分圧は、ほぼ飽和水蒸気圧に達する。
【0029】
一方、励起光照射部3および蛍光受光部6は、励起光用光ファイバー2および蛍光検出用光ファイバー5が外気と接しているので、外気温の影響を受ける。外気温が測定部の温度よりも低い場合、励起光照射部3および蛍光受光部6は、測定部の温度より低くなり、励起光照射部3および蛍光受光部6近傍の空気温度も低下する。
【0030】
温度が低下すれば、飽和水蒸気圧も低下するため、測定部10の温度で飽和水蒸気圧に達していた空気は、温度が低下することによって、水蒸気分圧が飽和水蒸気圧を上回り、水蒸気が凝縮、液化して、励起光照射部3および蛍光受光部6の表面で結露が生じる。この結果、測定値に大きな誤差が生じる。結露水の量によって測定値の変動幅が異なるので、どの時点から結露の影響を受けているのかを明確に判定することは困難である。
【0031】
ところが、この発明のように、励起光用光ファイバー2および蛍光検出用光ファイバー5を断熱材11により覆っておけば、結露が生じず、結露による測定誤差を効果的に回避することができる。
【0032】
外気温が極端に低いと、断熱材11のみでは結露を回避できない場合があるが、この場合には、断熱材11と励起光用光ファイバー2および蛍光検出用光ファイバー5との間にリボンヒーター等の加熱手段を設けて光ファイバーを加熱すれば、結露を確実に回避することができる。
【0033】
このように、外気に露出する励起光用光ファイバー2および蛍光検出用光ファイバー5の温度低下を防ぐことによって、結露による測定誤差を回避することができるので、長期間に亘って精度の高い水質測定を連続的に行うことができる。
【0034】
また、測定部10の測定用暗室に換気装置12を設けられば、結露による測定誤差をさらに確実に回避することができる。なお、換気装置12に代えて除湿装置を設けても、あるいは、換気装置および除湿装置の両方を設けても良い。
【実施例】
【0035】
次に、この発明を実施例によりさらに説明する。
【0036】
図1に示すものと同様な水質測定装置を使用して、下水処理場の初沈越流水の水質連続測定を行った。水質測定装置を屋外の初沈越流水水路上に設置して、タイマーにより20分オン、40分オフの測定を行った。計測は2秒毎、積分時間100ミリ秒で計測した。本発明実施例は、励起光発生装置および蛍光検出装置と測定部とを連結する光ファイバーに発泡スチロールからなる断熱材を巻き付けて測定を行った。比較例は、断熱材を使用せずに水質測定を行った。本発明実施例および比較例共に、24時間の連続測定を行った。測定時の気象条件を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明実施例の早朝(6:00〜8:30)の蛍光強度の測定結果を図2に示し、比較例の同時刻帯の蛍光強度の測定結果を図3に示す。本発明実施例では、測定時間24hを通じて、結露が認められず、安定して初沈越流水の蛍光強度の測定が行えた。
【0039】
一方、比較例では、日中から夜間にかけては正常な測定が行えたが、早朝に急速な蛍光強度の低下が認められた。通常、負荷が上昇して、蛍光強度も高くなる8:00の測定においても蛍光強度の低下が認められた。このため、測定用暗室内部を確認したところ、励起光照射部および蛍光受光部に結露水が付着していた。7:00付近の蛍光強度の急速な変動は、光ファイバーの先端に蓄積した結露水が水滴となって落下して、一時的に蛍光強度が回復したためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の水質測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施例による蛍光強度の測定結果を示す図である。
【図3】比較例による蛍光強度の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1:励起光発生装置
2:励起光用光ファイバー
3:励起光照射部
4:蛍光検出装置
5:蛍光検出用光ファイバー
6:蛍光受光部
7:記録計
8:測定槽
9:汲み上げポンプ
10:測定部
11:光ファイバー用断熱材
12:換気装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水に照射する励起光を発生する励起光発生装置と、励起光の照射により前記試料水が発する蛍光の強度を測定する蛍光検出装置と、測定部とを備え、前記励起光発生装置および前記蛍光検出装置と前記測定部とは、それぞれ光ファイバーにより連結され、前記試料水に前記励起光発生装置からの励起光を照射し、前記試料水が発する蛍光の強度を前記蛍光検出装置により測定することにより、前記試料水の水質指標に換算する水質測定装置において、
前記光ファイバーは、断熱材により覆われていることを特徴とする水質測定装置。
【請求項2】
前記光ファイバーは、断熱材により覆われていると共に、加熱手段により加熱されることを特徴とする、請求項1に記載の水質測定装置。
【請求項3】
前記測定部に換気装置および除湿装置の少なくとも1つが設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の水質測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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