説明

水路系における雨水管理システムとその運転方法

【課題】複数の流域系a〜dからの水路1〜7が上流から下流に向けて順次合流していく水路系において、より下流側での越流等による被害が生じるのを効果的に回避できる雨水管理システムとその運転方法を開示する。
【解決手段】流域系a〜dには雨水を一時的に貯水することのできる雨水流出抑制施設(貯留浸透槽T)が各水路に沿ってそれぞれ設置されており、各雨水流出抑制施設はピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えが可能となっている。ある流域系で集中豪雨があるときは、少なくとも当該流域での雨水流出抑制施設の貯水態様を常態のピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の流域系からの水路が上流から下流に向けて順次合流していく水路系における雨水管理システムとその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
降雨時に車道や歩道に雨水が滞留しないように、道路に沿って道路側溝が設けられる。また、大量の降雨があったときに、道路側溝を越流して雨水が道路などに流出するのを抑制し、また、中小河川あるいは下水管などである水路に、その排水能力を上回る規模の雨水が流れ込むのを防止する等の目的で、道路側溝等に流入する雨水の一部を、地中に設置した貯留浸透槽に一時的に流入させるようにした雨水流出抑制施設も、特許文献1あるいは2に記載されるようによく知られている。
【0003】
そして、前記特許文献1には、道路側溝を流れる雨水の一部を貯留浸透槽に流入させるために、道路に沿って配置した多数のU字側溝の一部に、オーバーフロー管を備えたU字側溝を配置することが記載されている。特許文献1に記載のオーバーフロー管を備えたU字側溝は、断面がU字型状であり、側溝の一側壁の上端部に排水孔が形成されて、そこにオーバーフロー管の取水口を接続するようにしている。雨水量が少ないときには、雨水はU字型側溝ブロックの底面に沿って流れ、多くなったときに、雨水の一部が、側壁上端部に形成した排水孔から越流して、オーバーフロー管を通して地中に設けた貯留浸透槽などに流入する。
【0004】
上記した雨水流出抑制施設の貯水態様として、ピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とが知られている(非特許文献1等参照)。ピークカット貯水態様とは、側溝等を流れる雨水が予め設定した値よりも多くなったときに、設定値を超えた量の雨水を雨水流出抑制施設の貯留浸透槽へ流入させるようにする貯水態様であり、ベースカット貯水態様とは、基本的に側溝等を流れる雨水の全体を雨水流出抑制施設の貯留浸透槽へ流入させるようにする貯水態様であって、雨水流出抑制施設が設置される環境に応じて、そのいずれかが選定されている。
【0005】
ピークカット貯水態様では、大量の降雨により設計値を超えた量の雨水が発生したときに、設計値を超えた量の雨水のみが、雨水流出抑制施設の貯留浸透槽に流入する。従って、雨量が設計値内の場合には、貯留浸透槽内に雨水が流入することはなく、通常の状態では、貯留浸透槽はほぼカラの状態となっている。なお、前記した特許文献1に記載のオーバーフロー管を備えたU字側溝を用いて貯留浸透槽に雨水を流入させる態様は、ピークカット貯水態様の一つに相当する。一方、ベースカット貯水態様では、降雨があるとその雨水は量の多寡を問わず貯留浸透槽内に案内される態様であり、ピークカット貯水態様の場合と比較して、貯留浸透槽内に流入する雨水の量は多くなり、かつ貯留浸透槽内に雨水が滞留している時間も長くなる。
【0006】
一般に、雨水流出抑制施設の貯留浸透槽内には、雨水と共に土砂等の固形物が流入して槽内に堆積しがちであり、その堆積物を除去するために、貯留浸透槽内をバキューム等で掃除する作業、すなわち雨水流出抑制施設のメンテナンス作業が必要となるが、上記のことから、ピークカット貯水態様を採用している雨水流出抑制施設では、ベースカット貯水態様を採用している雨水流出抑制施設と比較して、メンテナンス作業の頻度を減らすことができる利点がある。
【0007】
また、地中に雨水の貯留浸透槽を設置する場合に、樹脂材料からなる貯水空間形成部材を多段に積み上げ、その周囲を透水シートまたは遮水シートで覆って貯留槽あるいは浸透槽とすることも知られている(例えば、特許文献3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−169902号公報
【特許文献2】特開2009−2160号公報
【特許文献3】特開2009−24447号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「増補改訂 雨水浸透施設技術指針[案]調査・設計編」、平成18年9月30日増補改訂版発行、社団法人雨水貯留浸透技術協会、66〜69頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、局所的に集中した豪雨が発生する頻度が多くなっており、また、集中豪雨発生時の雨量も設計値を超える量となることが多い。複数の流域系からの水路が上流から下流に向けて順次合流していく水路系において、その一所あるいは複数の流域系に前記のような集中豪雨が発生したときに、当該流域系の水路に沿って設置してある雨水流出抑制施設が一時的に雨水を貯留することで、その流域系で水路に越流が生じるのを回避できる可能性はある。しかし、複数の水路が合流する下流の流域系では、合流した雨水量が、その流域系に設置してある雨水流出抑制施設が処理できる量を超えた量となりがちであり、道路の冠水等、越流による被害が生じるのを否定できない。
【0011】
本発明は上記の観点からなされたものであり、複数の流域系からの水路が上流から下流に向けて順次合流していく水路系において、より下流側での越流等による被害が生じるのを効果的に回避できるようにした水路系における雨水管理システムとその運転方法を開示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決すべく、本発明者は水路系の貯水態様について多くの考察と研究を行い、水路系においてその運転時に、前記した雨水流出抑制施設におけるピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とを選択的に組み合わせて採用することにより、より下流で越流が発生するのを効果的に抑制できることを知見した。
【0013】
本発明は、上記の知見に基づいており、第1の発明は、複数の流域系からの水路が上流から下流に向けて順次合流していく水路系における雨水管理システムであって、各流域系には雨水を一時的に貯水することのできる雨水流出抑制施設が水路に沿ってそれぞれ設置されており、各雨水流出抑制施設はピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えが可能となっていることを特徴とする。
【0014】
第1の発明である水路系における雨水管理システムの一態様では、各雨水流出抑制施設のピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替え制御を、当該水路系全体を一つの制御系として制御することのできる制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
第2の発明は、第1の発明による水路系における雨水管理システムの運転方法であって、通常は各雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様として運転し、いずれか1のまたは複数の流域系における実際の降雨量または予測される降雨量により、合流する下流の水路のいずれかにおいて設計値を超える水量になると予測されるときに、少なくとも当該設計値を超える水量になると予測される水路よりも上流側に位置する水路に設置した雨水流出抑制施設をベースカット貯水態様に切り替えて運転することを特徴とする。
【0016】
第2の発明である水路系における雨水管理システムの運転方法の一態様では、各流域系における実際の降雨量または予測される降雨量をインターネットまたは通信回線網経由で入手し、それに基づき前記制御手段によって必要とされる雨水流出抑制施設の貯水態様の切り替えを行うことを特徴とする。
【0017】
前記第1の発明での水路系における雨水管理システムおよび第2の発明でのその運転方法において、最も大きな技術的特徴事項は、各流域系に設置される雨水流出抑制施設が、前記したピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とに切り替え可能となっている点である。そして、雨水管理システムの運転に当たって、当該水路系がその設計値内の降雨量にあるときは、各雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様に維持しておく。ピークカット貯水態様を維持することにより、各雨水流出抑制施設の貯留浸透槽は、通常はほぼカラの状態に保持される。そして、降雨量が当該水路系の設計値内にあるときは、当該水路系のいずれの流域系においても、水路が越流することはない。
【0018】
局地的な集中豪雨等により、当該水路系の1つまたは複数の流域系において、実際の降雨量または予測される降雨量が多くなり、その雨水をそのまま下流に送り込んだ場合に、合流する当該流域系よりも下流の水路のいずれかにおいて、水路を流れる水量が設計値を超える量になると予測される場合がある。本発明による水路系における雨水管理システムの運転方法では、そのときに、少なくとも当該設計値を超える水量になると予測される水路よりも上流側に位置する水路に設置してある雨水流出抑制施設の運転態様を、ピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えて運転する。
【0019】
ピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えることにより、上流側の水路を流れる雨水の多くは、当該水路に沿って設置された雨水流出抑制施設の貯留浸透槽に流入する。それ以前はピークカット貯水態様に維持されていたことから、当該貯留浸透槽はカラの状態となっている可能性が高く、貯留浸透槽は多くの量の雨水(水路の水)を一時的に収容することができる。その結果、当該水路より下流の水路に流れ込む雨水(水路の水)は減少する。
【0020】
上記のピークカット貯水態様からベースカット貯水態様への切り替えを、上流側の水路の雨水流出抑制施設に対して適切に実行することで、より下流側の水路を流れる水量を少なくすることができ、下流側の水路で越流が生じるのを効果的に阻止することができる。
【0021】
局所的な豪雨が収まったときに、ピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えていた雨水流出抑制施設の運転態様を、再度、ピークカット貯水態様に戻す。その後、貯留浸透槽内に一時的に貯留されていた雨水は、時間と共に地中に浸透するか下水本管や近くの河川に流出する。それにより、貯留浸透槽は再びほぼカラの状態、すなわち、次回の集中豪雨に対応できる状態となる。
【0022】
本発明による水路系における雨水管理システムの運転方法において、設計値を超える水量になると予測される水路よりも上流側に位置する水路に沿って設置した雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えることは、システムの運転上必要な操作であるが、それよりも下流側に位置する水路に沿って配置された雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えるかどうかは、任意である。下流側に位置する水路に沿って配置された雨水流出抑制施設のすべてあるいは一部をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えることで、下流側での一時的貯水容量を大きくすることができ、上流側における増加方向への降雨量の変化に対して、水路系をより安全な方向に管理することができる。しかし、事後にベースカット貯水態様に切り替えた雨水流出抑制施設のメンテナンス作業が必要となること、次に起こり得る流域系の異なる集中豪雨に対して十分な貯水容量を確保できないことが起こりうることなどを考慮しながら、適宜設定することが望ましい。
【0023】
各雨水流出抑制施設のピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えは、通信回線を用いた連絡により、個々の雨水流出抑制施設ごとにその担当者が行うようにしてもよい。好ましくは、前記したように、当該水路系全体を一つの制御系として制御することのできる制御手段を備えるようにし、集中的にコントロールできるようにする。また、各流域系における実際の降雨量または予測される降雨量に関する情報をインターネットまたは通信回線網経由で入手し、それに基づき、前記した制御手段によって必要とされる雨水流出抑制施設の貯水態様の切り替えを行うことにより、当該水路系でのより完全な雨水管理が可能となる。
【0024】
本発明において、雨水の貯留浸透槽は、貯留槽であってもよく浸透槽であってもよい。貯留浸透槽が貯留槽の場合には、そこに一時的に貯留された雨水は、オリフィスを備えた導水管を通して徐々に下水本管や河川に排水される。また、貯留浸透槽が浸透槽の場合には、そこに一時的に貯留された雨水は、時間とともに、周囲の地盤に浸透していく。いずれであっても、前記したように、貯留浸透槽は時間の経過とともに雨水を貯留していない状態(カラの状態)となるので、次に起こり得る集中豪雨に備えることができる。雨水貯留浸透槽に排水ポンプを併設し、貯留された雨水を積極的に外部に排水するようにしてもよい。
【0025】
本発明において、雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とに切り替える具体的な手段は、任意であってよい。一例として、貯留浸透槽の雨水取り入れ口に設けた越流堰の高さを制御する態様、あるいは該越流堰を閉鎖状態と開放状態とに切り替える態様などが挙げられる。
【0026】
本発明において、雨水流出抑制施設を構成する貯留浸透槽はどのような形態のものであってもよいが、施工性がよいことから、特許文献3に例示されるような、積層させることにより内部に雨水を貯留するための空隙が確保できる樹脂製部材の多数個を立体状に積み上げて形成されてなる貯留浸透槽は、好ましい。
【0027】
なお、本発明において、水路とは雨水が流れ込むすべての水路を含むものとして用いている。従って、水路には、道路に沿って設けられる道路側溝からの雨水が流れ込む下水道の支管および本管も含まれる。当然に本当の川も含まれる。一部が雨水の流れる川であり、一部が雨水の流れ込む下水道の支管および本管である組み合わせ水路系も、本発明でいう「水路系」に含まれる。
【発明の効果】
【0028】
本発明による水路系における雨水管理システムとその運転方法を採用することにより、複数の流域系からの水路が上流から下流に向けて順次合流していく水路系において、より下流側の水路において、越流等によって被害が生じるのをより確実に回避することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による雨水管理システムとその運転方法を説明するための概略図。
【図2】雨水流出抑制施設における貯留浸透槽がピークカット貯水態様にある状態とベースカット貯水態様にある状態とを説明するための図。
【図3】雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様へ切り替えるための手段をいくつかの例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態を説明する。図1は本発明でいう水路系の一例を示す概略図である。ここで水路系は下水管の配管系であり、a〜dの4つの下水流域系からなっている。
【0031】
流域系aには下水支管1が地中に埋設されており、該下水支管1には道路に沿って配置されて道路側溝1aから雨水が流入する。なお、図では、単に図示の煩雑さを避けるために下水支管1と道路側溝1aとを同じ線で示しているが、実際は、位置の異なる路線となるのが普通である。もちろん、道路側溝1aが下水支管1を兼ねていてもよい。そして、道路側溝1aに沿うようにして適数個(図では2個)の雨水流出抑制施設Sが設置されており、各雨水流出抑制施設Sは貯留浸透槽Tを有しており、各貯留浸透槽Tは、後記する貯水態様切り替え手段20(図1には示されない)を介して、道路側溝1aと接続している。本発明において、貯水態様切り替え手段20を備えた貯留浸透槽Tが雨水流出抑制施設Sの要部を構成するものであり、後記するように、貯水態様切り替え手段20の切り替え操作により、雨水流出抑制施設Sはピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とに選択的に切り替えられる。
【0032】
流域系bには、2本の下水支管2、3が設けられており、下流において2本の下水支管2、3は一本に合流している。各下水支管2、3にも、流域系aおけると同様に、道路に沿って配置された道路側溝2a、3aから雨水が流入する。また、道路側溝2a、3aに沿うようにして適数個(図では2個と3個)の雨水流出抑制施設S(貯留浸透槽T)が設置されており、同じように貯水態様切り替え手段20を介して、道路側溝2a、3aと接続している。
【0033】
流域系cには、3本の下水支管4、5、6が設けられており、下流において3本の下水支管は一本に合流している。各下水支管4、5、6にも、流域系aおけると同様に、道路に沿って配置された道路側溝4a、5a、6aから雨水が流入する。道路側溝4a、5a、6aに沿うようにして適数個(図では2個と1個と2個)の雨水流出抑制施設S(貯留浸透槽T)が設置されており、同じように貯水態様切り替え手段20を介して、道路側溝4a、5a、6aと接続している。
【0034】
流域系dには、1本の下水支管7が設けられており、下水支管7にも道路に沿って配置された道路側溝7aから雨水が流入する。道路側溝7aに沿うようにして適数個(図では3個)の貯雨水流出抑制施設S(貯留浸透槽T)が設置されており、他の流域系と同じように、貯水態様切り替え手段20を介して道路側溝7aと接続している。
【0035】
流域系cの3本の下水支管4、5、6は合流して下水支管8となり、該下水支管8は、流域系bからの下水支管とさらに合流して下水支管9となっている。さらに、前記下水支管9は、流域系aからの下水支管1とさらに合流して下水支管11となっている。そして、前記下水支管11は、流域系dからの下水支管7と合流した後、下水本管12となっている。それら合流後の下水支管8、9、11および下水本管12にも、道路側溝からの雨水が流入するようになっており、他の下水支管の場合と同様に、当該道路側溝に沿うようにしてやはり雨水流出抑制施設S(貯留浸透槽T)が設置されている。
【0036】
この例において、すべての雨水流出抑制施設Sは集中制御手段(C.C.)15と通信可能となっており、集中制御手段15からの指令によって、各雨水流出抑制施設Sは前記したピークカット貯水態様とベースカット貯水態様とに選択的に切り替えられる。
【0037】
次に、各雨水流出抑制施設Sの貯水態様について、図2を参照して説明する。図2(c)に示すように、この例において、雨水流出抑制施設Sを構成する貯留浸透槽Tは、単位貯留浸透槽40の複数個(図示のものでは3個)が通水管41を介して連通状態とされることで構成されており、上流側の通水管41aから雨水が流入するようになっている。各単位貯留浸透槽40は、前記した特許文献3等に記載されるものであり、樹脂材料からなる貯水空間形成部材42を多段に積み上げ、その周囲を透水シートまたは遮水シート43で覆うことで、貯留槽あるいは浸透槽とされている。
【0038】
この例において、雨水は道路側溝1a、2a・・等に流れ込み、そこから前記したように下水支管または下水本管に流入する。図2に示すように、一部の道路側溝は取水側溝30とされ、そこには越流堰21が備えられている。そして、図2に示す越流堰21は最上位の位置を変更可能とされている。この取水側溝30に備えられた越流堰21が前記した貯水態様切り替え手段20の一例を構成する。図2(a)に示す状態では、越流堰21はその上端22が取水側溝30の上端部に近い位置にあり、取水側溝30を流れる雨水は、その水位が越流堰21の上端22に達するまでは、そのまま取水側溝30内を下流に向けて流れて行き、さらに道路側溝を流下して下水支管または下水本管に流入する。
【0039】
大量の降雨によって取水側溝30内を流れる雨水の水位が越流堰21の上端22を超えたときに、雨水は越流堰21を越流して雨水流路31側に流入する。そして、流入した雨水は雨水流路31を通り、前記した上流側の通水管41aから貯留浸透槽T(各単位貯留浸透槽40)内に流入する。そして、そこで一時的に貯留される。すなわち、降雨量が水路系の設計値を下回っている通常の状態では、雨水は貯留浸透槽T内に流入することはなく、貯留浸透槽Tはほぼカラの状態に維持されている。そして、設計値を上回る降雨量があったときにのみ、上回った量の雨水(越流堰21を越流した雨水)が貯留浸透槽T内に流入する。この貯留浸透槽Tの使用態様が雨水流出抑制施設のピークカット貯水態様である。
【0040】
図2(b)は、貯留浸透槽Tがベースカット貯水態様に置かれたときの越流堰21の状態を示している。図2(b)では、越流堰21はその上端22が取水側溝30の底面レベルに達するまで下方に下げられており、そのために、取水側溝30内を流れる雨水は、そのほぼ全量が雨水流路31を通って貯留浸透槽T内に流入し、貯留浸透槽T内に一時的に貯留される。貯留浸透槽Tのこの使用態様が雨水流出抑制施設のベースカット貯水態様である。
【0041】
次に、図1で説明した水路系での雨水の管理システムおよびその運転方法について説明する。この例において、各雨水流出抑制施設S、すなわち取水側溝30と貯水態様切り替え手段20と雨水流路31と貯留浸透槽T等からなる各雨水流出抑制施設Sは、雨水管理システムを構成する集中制御手段15と通信回線を通して通信可能に接続しており、集中制御手段15からの指令により、各雨水流出抑制施設Sの貯水態様切り替え手段20の切り替えが行われる。すなわち、個々の雨水流出抑制施設Sは、集中制御手段15からの指令により、その貯水態様が、前記したピークカット貯水態様とベースカット貯水態様のいずれかに選択され、その状態が次の指令を受けるまで維持される。
【0042】
また、図示しないが、各流域系a〜dには、当該流域系の雨量を測定する雨量計が設置されており、雨量に関する情報が集中制御手段15に送られる。好ましくは、集中制御手段15には、インターネットまたは通信回線網を経由して、各流域系における実際の降雨量および予測される降雨量に関する情報が送られるようにされる。
【0043】
雨水管理システムの運用に当たり、各流域系a〜dでの雨量または予測される雨量が水路系全体の設計値内にある場合には、集中制御手段15は、すべての雨水流出抑制施設Sに対してピークカット貯水態様を選択する指令、すなわち図2に示す例では、取水側溝30に備えた越流堰21が図2(a)の上昇した位置を保持する指令を発信する。その状態では、各雨水流出抑制施設Sにおける貯留浸透槽Tはほぼカラの状態を維持することとなる。
【0044】
いずれかの流域系、図示の例では流域系cにおける実際の雨量あるいは近い将来に予測される雨量が当該流域系cの設計雨量を超える状態となったときに、その情報を受けて、集中制御手段15は、流域系c内に設置されたすべての雨水流出抑制施設Sに対して、ピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替える指令、すなわち図2に示す例では、取水側溝30に備えた越流堰21を図2(a)の上昇した位置から、図2(b)に示す下降した位置に切り替える指令を発信する。その切り替えにより、流域系c内に設置されたすべての雨水流出抑制施設Sにおける貯留浸透槽T内に多くの量の雨水が流入するようになり、結果として、道路側溝4a,5a,6aを流れる雨水の量は減少する。それにより、流域系cでの一時的な降雨量の増加は雨水流出抑制施設Sによって吸収されることとなり、より下流側の流域系を構成する下水支管8、9、11等に降雨の影響が及ぶのを回避することができる。
【0045】
流域系c内の雨水流出抑制施設Sによって吸収できる量を上回る降雨がある場合、あるいは予測される場合には、集中制御手段15は、その雨量に対応して、より下流側の水路系内、図示の例では流域系c内の下水支管が合流した下水支管8、9等に設置された雨水流出抑制施設Sに対して、さらには下水支管9に合流する流域系bに設置された雨水流出抑制施設Sに対して、ピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替える指令を発信する。それにより、合流後の各下水支管あるいは下水本管を流れる水量を、上流側の各雨水流出抑制施設Sにおける貯留浸透槽T内に流入した分だけ減少させることができ、それら下流側の水路系で越流が生じるのを抑制することができる。
【0046】
場合によっては、いずれかの流域系でゲリラ豪雨のような設計値をはるかに超える量の降雨がある場合には、関係する水路系に設置したすべての雨水流出抑制施設Sをピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えるようにしてもよく、それにより、下流側での水路系での越流をより高い確率で阻止することができる。
【0047】
集中豪雨が過ぎ去り、水路系全体の流水量が設計値以下となった時点で、集中制御手段15は、選択的にまたは同時に、各雨水流出抑制施設Sの貯水態様をベースカット貯水態様からピークカット貯水態様に再度切り替える。その後、各貯留浸透槽T内に貯留された雨水は、時間とともに地中に浸透し、または近隣の河川や下水本管に流出する。それにより、各貯留浸透槽Tはほぼカラの状態に復帰し、次の集中豪雨に備えることができる。
【0048】
各雨水流出抑制施設Sでのピークカット貯水態様からベースカット貯水態様への切り替えを集中制御手段15からの指令によって同時に行うことは処理の容易さから好ましいが、情報管理室等を設置してそこから各雨水流出抑制施設Sに連絡を入れ、各雨水流出抑制施設Sごとに切り替え操作を行うようにしてもよい。
【0049】
また、図示の例では、下水支管と下水本管とで構成される水路系を例として説明したが、前記したように水路のすべてまたは一部が河川であっても、当該河川に沿って前記した貯水態様切り替え手段20を備えた雨水流出抑制施設Sを設置することで、本発明による雨水管理システムおよびその運転方法を同様に実施できることは当然であり、この態様も本発明の範囲に含まれる。
【0050】
図3は、雨水流出抑制施設Sでの貯水態様をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様へ切り替える切り替え手段の他の例を示す、図2(a)(b)に相当する図であり、図2(a)(b)に示したものと同じ部材には同じ符号を付している。
【0051】
図3(a)では、越流堰21は上端部近傍を支点25として回動できるようになっており、左図のように越流堰21の下端が取水側溝30の底面に接した状態に置くことで、雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様に維持することができ、右図のように越流堰21を支点25を中心に上方へ回動した位置に保持することで、雨水流出抑制施設Sをベースカット貯水態様に維持することができる。
【0052】
図3(b)では、越流堰21は下方を開放した固定板26とその開放部を閉鎖する可動板27とで構成されている。左図のように可動板27を下方に移動して前記開放部を閉鎖することで、雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様に維持することができ、右図のように可動板27を上方に移動して前記開放部を閉鎖することで、雨水流出抑制施設Sをベースカット貯水態様に維持することができる。
【0053】
図3(c)では、越流堰21は下方を開放した固定板26とその開放部に取り付けた回転バルブ28とで構成されている。左図のように回転バルブ28を開放部を閉鎖する位置とすることで、雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様に維持することができ、右図のように回転バルブ28を開放部を開放した位置とすることで、雨水流出抑制施設Sをベースカット貯水態様に維持することができる。
【符号の説明】
【0054】
a〜d…水路系を構成する複数の流域系、
1〜11…水路の一例としての下水支管、
12…水路の一例としての下水本管、
1a〜12a…道路側溝、
15…集中制御手段、
20…雨水流出抑制施設の貯水態様切り替え手段、
21…越流堰、
22…越流堰の上端、
30…取水側溝、
31…雨水流路、
40…単位貯留浸透槽、
41…通水管、
42…樹脂材料からなる貯水空間形成部材、
43…透水シートまたは遮水シート、
T…雨水流出抑制施設を構成する貯留浸透槽、
S…雨水流出抑制施設。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流域系からの水路が上流から下流に向けて順次合流していく水路系における雨水管理システムであって、各流域系には雨水を一時的に貯水することのできる雨水流出抑制施設が水路に沿ってそれぞれ設置されており、各雨水流出抑制施設はピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替えが可能となっていることを特徴とする水路系における雨水管理システム。
【請求項2】
各雨水流出抑制施設のピークカット貯水態様とベースカット貯水態様との切り替え制御を、当該水路系全体を一つの制御系として制御することのできる制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の水路系における雨水管理システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の雨水管理システムの運転方法であって、通常は各雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様として運転し、いずれか1のまたは複数の流域系における実際の降雨量または予測される降雨量により、合流する下流の水路のいずれかにおいて設計値を超える水量になると予測されるときに、少なくとも当該設計値を超える水量になると予測される水路よりも上流側に位置する水路に設置した雨水流出抑制施設をピークカット貯水態様からベースカット貯水態様に切り替えて運転することを特徴とする水路系における雨水管理システムの運転方法。
【請求項4】
各流域系における実際の降雨量または予測される降雨量をインターネットまたは通信回線網経由で入手し、それに基づき前記制御手段によって必要とされる雨水流出抑制施設の貯水態様の切り替えを行うことを特徴とする請求項3に記載の水路系における雨水管理システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−46949(P2012−46949A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189620(P2010−189620)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】