説明

水酸化アルカリ金属の高純度製造方法

【課題】
本発明は、水酸化アルカリが高濃度の状態のままで、この中に含有するアルカリ土類金属を除去、精製する高純度水酸化アルカリの製造方法を提供するものである。
【解決手段】
市場に流通されている様な水酸化アルカリの高濃度領域での水酸化アルカリ中のアルカリ土類金属分の除去を鋭意検討した結果、アミノリン酸基を有するキレート樹脂により水酸化アルカリ中のアルカリ土類金属を除去できることを見出し、本発明を完成させたのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粗水酸化アルカリ金属中のアルカリ土類金属を効果的に除去することができる高純度水酸化アルカリ金属の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体ウェーハやカラーフィルター等の電子部品の製造においては、ウェーハ表面のエッチングによる平面化、レジスト材の除去、あるいは表面を洗浄するためなどに水酸化アルカリ金属が使用されている。これら電子部品の製造に使用される水酸化アルカリ金属は、半導体ウェーハの劣化、半導体デバイスの特性の低下等を防ぐため、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、クロム、鉄、および銅等の金属不純物を含まない高純度の水酸化アルカリ金属を用いることが要求されている。またこの他、医療用や化粧品等においてもこのような不純物を含まない薬剤の要求が高まっている。
【0003】
高純度の水酸化アルカリ金属の製法としては、イオン交換膜により水酸化アルカリを精製する製造方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。この方法は精製精度は十分に高いものの設備化に比較的手間がかかり、どこでも簡単に高度精製された水酸化アルカリが得られない状況であった。また、活性炭により水酸化カリウム中のニッケルを除去する方法(例えば、特許文献2参照)、活性炭にて水酸化ナトリウム中の鉄やニッケルを除去する方法(例えば、特許文献3参照)が開示されている。これらは比較的簡単な設備で対応でき高度な精製が可能であるが精製可能な金属種が少ない状況であった。また、ここから一部溶出するアルカリ土類金属類や金属種もありこの前処理に労力がかかる場合がある。
【0004】
一方、キレート樹脂やイオン交換樹脂にて金属類を補足し被接触溶液等を精製、もしくは金属類を回収することが知られている。これら樹脂による水酸化アルカリの精製例としては、特定構造を有するキレート樹脂による精製が開示されている(例えば、特許文献4参照)。これらは鉄等の重金属を除去し精製することができること、及び水酸化マグネシウムを用いて重金属を除去することが開示されているが、アルカリ土類金属化合物を除去するものではない。
【0005】
アミノリン酸型キレート樹脂は、塩水中のカルシウムやストロンチウム等が除去できるものとして報告されている(例えば、特許文献5参照)。そして、高濃度の食塩水溶液中において、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム等の二価の金属イオンに対して選択性を有すると記載されている。
無機塩が大量に含有する試料であってもアルカリ土類金属を選択的に吸着する能力を有する樹脂としてイミノジ酢酸型やアミノリン酸型のキレート樹脂が報告されている(例えば、特許文献6参照)。
【0006】
市場に流通している水酸化アルカリは、代表的な水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの両者とも48%が多く、使用段階ではさまざまであるが、仮保存の形態も含め20〜60%の範囲で保存や使用がされている場合が多いが、これら濃度領域で手軽に精製可能な方法がなった。
【0007】
【特許文献1】特開平09−078276号公報
【特許文献2】特開2000−203828号公報
【特許文献3】特開2005−001955号公報
【特許文献4】特開平01−027648号公報
【特許文献5】特開平05−032714号公報
【特許文献6】特開平01−292249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、粗水酸化アルカリ金属水溶液を高濃度の状態のままで、この中に含まれるアルカリ土類金属を除去することができる高純度水酸化アルカリ金属水溶液の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
市場に流通されている様な濃度で粗水酸化アルカリ金属水溶液中のアルカリ土類金属の除去を鋭意検討した結果、アミノリン酸基を有するキレート樹脂により粗水酸化アルカリ金属中のアルカリ土類金属を除去できることを見出し、本発明を完成させたのである。即ち、本発明は具体的に、
(1)アミノリン酸基を有するキレート樹脂を用いて粗水酸化アルカリ金属水溶液中のアルカリ土類金属を除去することを特徴とする高純度水酸化アルカリ金属水溶液の製造方法であり、
(2)アミノリン酸基を有するキレート樹脂とイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂とを用いて粗水酸化アルカリ金属水溶液中のアルカリ土類金属を除去する前記1記載の高純度水酸化アルカリ金属水溶液の製造方法であり、
(3)前記の粗水酸化アルカリ金属水溶液の濃度が20〜60重量%である前記1または2に記載の高純度水酸化アルカリ金属水溶液の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法により、高濃度の粗水酸化アルカリ金属水溶液からでもアルカリ土類金属を除去できることから、濃縮操作等を行うことなくアルカリ土類金属の含有量が低い高純度水酸化アルカリ金属を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において取扱う粗水酸化アルカリ金属としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい種類として挙げられ、より好ましくは水酸化カリウムである。
本発明において粗水酸化アルカリ金属水溶液の濃度は、どのような濃度でもアルカリ土類金属の低減効果が望めるが、輸送効率、保管効率や、その後の取扱で高濃度に煮詰める等の余計な操作をしない意味で、20%以上が好ましく、固形化しない範囲として60%以下が好ましく、より好ましくは35%以上55%以下であり、40%以上53%以下が特に好ましい。
【0012】
また、使用する粗水酸化アルカリ金属はイオン交換膜法にて作られるものが専らではあるが、この中に含まれる不純物としてのアルカリ土類金属類や金属類としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、鉛、カドミウム、マンガン、コバルト、バナジウム、モリブデン、クロム、ジルコニウム、銀、錫、アルミニウム、水銀、アンチモン、チタン、ビスマス、ガリウム、タリウム等が挙げられ、これを極力少なくすることが望ましい。更には特定の金属においては少量の含有でも製品の品質に対して影響が大きく、カルシウムやマグネシウムは更に低レベルまで低減できることが好ましい。
【0013】
本発明において高純度水酸化アルカリ金属中のカルシウムまたはマグネシウム等のアルカリ土類金属の不純物は1000ppb以下であり、好ましくは100ppb以下であり、1ppb以上である。
【0014】
なお、本方法に適した粗水酸化アルカリ金属水溶液としては、含有しているアルカリ土類金属により異なるが、除去前として混入していても差し支えない濃度としては10重量ppm以下(以降ppm)が好ましく、より好ましくは3ppm以下である。なお、粗水酸化アルカリ金属水溶液において含有しているアルカリ土類金属の下限量は、上記高純度水酸化アルカリ金属における各アルカリ土類金属の含有量より多いものである。
【0015】
本発明に用いるアミノリン酸型キレート樹脂としては、例えばスチレン誘導体等をベースに、アミノ基をリン酸化したものがある。具体的には、UR−3300S(商品名、ユニチカ社製)、レバチットモノプラスTP−260(商品名、ランクセス社製)、デュオライトC467(商品名、住化ケムテックス社製)等がある。
【0016】
本発明に用いるイミノジ酢酸型キレート樹脂としては、例えばスチレン誘導体をベースに、イミノジ酢酸基を有するものがある。具体的には、ダイヤイオンCR11(商品名、三菱化学社製)、レバチットモノプラスTP−208(商品名、ランクセス社製)、スミキレートMC−700(商品名、住化ケムテックス社製)、アンバーライトIRC748(商品名、ローム&ハース社製)等がある。
【0017】
本発明において、該キレート樹脂の使用量は、粗水酸化アルカリ金属中のアルカリ土類金属の含有量により決定すればよい。例えば充填塔で吸着させる場合は空塔速度(以下SVと表記)で、SV=0.1〜20[1/h]、更に好ましくはSV=0.2〜10[1/h]、特に好ましくはSV=0.3〜5[1/h]で接触させることにより効率良くアルカリ土類金属を吸着する事ができる。この範囲であると効率良くアルカリ土類金属を除去することができることから好ましい。
【0018】
本発明の製造方法において、操作温度は0℃から60℃程度であり、好ましくは5℃から50℃であり、より好ましくは10℃から45℃である。該キレート樹脂との接触温度がこの範囲であると粗水酸化アルカリ金属中のアルカリ土類金属を効率よく除去することができるので好ましい。
【0019】
本発明の製造方法は、アミノリン酸基を有するキレート樹脂を用いるものであるが、アミノリン酸基を有するキレート樹脂とイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂とを一緒に使用することが好ましくアルカリ土類金属を除去することができる。
【0020】
アミノリン酸基を有するキレート樹脂を用いて粗水酸化アルカリ金属水溶液中のアルカリ土類金属を除去するすることができるがカルシウム、マグネシウム、ストロンチウムおよびバリウムが好ましく除去でき、マグネシウム、ストロンチウムおよびバリウムがより好ましく除去できる。
【0021】
アミノリン酸基を有するキレート樹脂とイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂とを用いて粗水酸化アルカリ金属水溶液中のアルカリ土類金属を除去するすることができるがカルシウム、マグネシウム、ストロンチウムおよびバリウムが好ましく除去でき、マグネシウム、ストロンチウムおよびバリウムがより好ましく除去できる。
【0022】
本発明の製造方法は、例えば充填塔に該キレート樹脂を充填し、そこに粗水酸化アルカリ金属水溶液を通液することにより、該溶液中のアルカリ土類金属を手軽に除去することができる。またタンク等に粗水酸化アルカリ金属溶液をためておき、樹脂を加え攪拌する等バッチ操作によりアルカリ土類金属を低減することも可能である。
本発明にてアルカリ土類金属が吸着したキレート樹脂は、超純水等による洗浄や逆洗浄操作、更に塩酸や硝酸等の酸により処理した後、水で洗浄する等の、公知の脱アルカリ土類金属操作による再生方法を使用することができる。そして、このようにして再生したキレート樹脂は、本発明の製造方法に使用できる。
【0023】
本発明の製造方法においてキレート樹脂を複数種使用するときは、アミノリン酸基を有するキレート樹脂の前後にイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を用いることも、これらのキレート樹脂を混合して用いることができ、好ましくは個別に用いるものであり、より好ましくはイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を前に用いるものである。
【0024】
本発明の製造方法を用いて製造した高純度水酸化アルカリ金属水溶液は、用途により濃度を調整して使用することができる。
【0025】
本発明の製造方法を用いて製造した高純度水酸化アルカリ金属は、半導体ウェーハやカラーフィルター等の電子部品の製造、ウェーハ表面エッチングによる平面化、レジスト材の除去、あるいは表面を洗浄するものなどに使用することができる。
本発明の精製方法を用いることにより、半導体ウェーハやカラーフィルター等の電子部品の製造、ウェーハ表面エッチングによる平面化、レジスト材の除去、あるいは表面を洗浄するものなどに使用する高純度水酸化アルカリ金属を提供することができる。
【0026】
○実施態様
イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を用いて粗水酸化アルカリ金属水溶液中のアルカリ土類金属を除去する方法。
アミノリン酸基を有するキレート樹脂とイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂とを用いて粗水酸化アルカリ金属水溶液中のアルカリ土類金属を除去する方法。
濃度が20〜60重量%の粗水酸化アルカリ金属水溶液中のアルカリ土類金属をイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を用いて除去する方法。
アミノリン酸基を有するキレート樹脂とイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂とを用いて濃度が20〜60重量%の粗水酸化アルカリ金属水溶液中のアルカリ土類金属を除去する方法。
【0027】
○実施例
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、これらの本発明が限定されるものではない。なお、%は重量%を、ppmは重量ppmを、ppbは重量ppbを表す。
【0028】
○粗水酸化ナトリウム水溶液または粗水酸化カリウム水溶液の調製
1400gの48%水酸化ナトリウム水溶液、あるいは48%水酸化カリウム水溶液を樹脂製容器にとり、水酸化マグネシウム25mg、炭酸カルシウム30mg、炭酸ストロンチウム20mg、炭酸バリウム20mgを加え、マグネチックスターラーにて1時間攪拌した後、5μmのポリテトラフルオロエチレンポリ四フッ化エチレン(PTFE)製フィルターにて、不溶解物をろ過分離した。この粗水酸化ナトリウム液はマグネシウム0.34ppm、カルシウム5.30ppm、ストロンチウム9.75ppm、バリウム10.18ppm含有していた。また、粗水酸化カリウム液はマグネシウム0.83ppm、カルシウム0.68ppm、ストロンチウム8.71ppm、バリウム8.89ppm含有していた。
【実施例1】
【0029】
上記で調製した100gの48%粗水酸化ナトリウム水溶液、あるいは、100gの48%粗水酸化カリウム水溶液をPTFE製の容器にとり、アミノリン酸型キレート樹脂(商品名レバチットモノプラスTP−260、ランクセス社製)を10g加え、室温で攪拌し2時間接液させた。その後、水酸化ナトリウム水溶液、あるいは水酸化カリウム水溶液を採取し、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウム分析を行い、樹脂接触前と樹脂接触後の差異から、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムの除去率を求めた。この結果を表1に記載した。
【0030】
○カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、及びバリウムの分析方法
採取した試料に超純水を加えた後、硝酸を用いてメスアップし供試液とした。これをICP発光分析装置で測定し、検体濃度補正による検量線法により各金属濃度を求めた。
【実施例2】
【0031】
実施例1において用いたキレート樹脂の替わりにアミノリン酸型キレート樹脂(商品名UR−3300S、ユニチカ社製)を用いた以外は実施例1と同様に操作して、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムの除去率を求めた。この結果を表1に記載した。
【実施例3】
【0032】
実施例1において用いたキレート樹脂の替わりにイミノジ酢酸型キレート樹脂(商品名レバチットモノプラスTP−208、ランクセス社製)を用いた以外は実施例1と同様に操作して、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムの除去率を求めた。この結果を表1に記載した。
【実施例4】
【0033】
実施例1において用いたキレート樹脂の替わりにイミノジ酢酸型キレート樹脂(商品名ダイヤイオンCR−11、三菱化学社製)を用いた以外は実施例1と同様に操作して、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムの除去率を求めた。この結果を表1に記載した。
【実施例5】
【0034】
レバチットモノプラスTP−260(商品名)とレバチットモノプラスTP−208(商品名)とを用いた以外は実施例1と同様に操作した。この結果、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムの除去率は、単独でキレート樹脂を使用した除去率より向上した。
【実施例6】
【0035】
レバチットモノプラスTP−260(商品名)とダイヤイオンCR−11(商品名)とを用いた以外は実施例1と同様に操作した。この結果、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムの除去率は、単独でキレート樹脂を使用した除去率より向上した。
【0036】
<比較例1〜5>
キレート樹脂を下記のキレート樹脂またはイオン交換樹脂に替えた以外は実施例1と同様に実施し、結果を表1に記載した。
比較例1 ダイヤイオンPK−216(官能基−SO3Na)
比較例2 ダイヤイオンPK−228(官能基−SO3Na)
比較例3 ダイヤイオンWA−30(官能基−CH2N(CH32
比較例4 ダイヤイオンCR−20(官能基−CH2NH(CH2CH2NH−)nH)
以上、三菱化学(株)製。
比較例5 アンバーライトIRA410JCL(官能基 ジメチルエタノールアミンクロライド、ローム&ハース(株)製)。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は水酸化アルカリ金属中のアルカリ土類金属を除去精製することができるため、半導体ウエハー研磨等の電子材料向け、医薬品、化粧品等あらゆる分野に適用でき、水酸化アルカリ金属製造時、出荷時、受け入れ時、使用時等のいずれの場合でも手軽に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノリン酸基を有するキレート樹脂を用いて粗水酸化アルカリ金属水溶液中のアルカリ土類金属を除去することを特徴とする高純度水酸化アルカリ金属水溶液の製造方法。
【請求項2】
アミノリン酸基を有するキレート樹脂とイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂とを用いて粗水酸化アルカリ金属水溶液中のアルカリ土類金属を除去する請求項1記載の高純度水酸化アルカリ金属水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記の粗水酸化アルカリ金属水溶液の濃度が20〜60重量%である請求項1または2に記載の高純度水酸化アルカリ金属水溶液の製造方法。

【公開番号】特開2008−31014(P2008−31014A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207893(P2006−207893)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【出願人】(000215615)鶴見曹達株式会社 (49)
【Fターム(参考)】