説明

水酸化マグネシウム微粒子及び酸化マグネシウム微粒子、並びにそれらの製造方法

【課題】粒子径が小さく、かつ均一な高純度水酸化マグネシウム微粒子及び高純度酸化マグネシウム微粒子を提供する。
【解決手段】BET比表面積が5m/g以上、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.1〜0.5μm、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積10%粒子径(D10)と体積基準の累積90%粒子径(D90)との比D90/D10が10以下である、純度99.5質量%以上の水酸化マグネシウム微粒子;並びにBET比表面積が5m/g以上、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.1〜0.5μm、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積10%粒子径(D10)と体積の累積90%粒子径(D90)との比D90/D10が10以下である、純度99.5質量%以上の酸化マグネシウム微粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子径が小さく、かつ均一な高純度水酸化マグネシウム微粒子及び高純度酸化マグネシウム微粒子、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムは、様々な分野で使用される無機材料であり、前者の用途としては、添加剤、樹脂フィラー、高機能性材料、及び触媒等が挙げられ、後者の用途としては、耐火物、添加剤、樹脂フィラー、高機能性材料、電磁鋼材料、及び触媒等が挙げられる。これらの用途を含め、水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムは、純度が高く、粒子径が小さく、かつ均一な微粒子形態であることが要求されることが多い。
【0003】
粒子径が小さく、かつ均一な水酸化マグネシウムを製造する方法としては、アルカリ物質、次いで界面活性剤を添加することにより、10nm〜1000nmの水酸化マグネシウム微粒子を調製する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、具体例ではアルカリ添加量が多く、オートクレーブ容器から不純物が溶出し、不純物が混入しうるという問題があった。
【0004】
また、塩化マグネシウムとアルカリ物質とを水性媒体中で水熱反応させて水酸化マグネシウムを製造する方法において、ホウ酸、ケイ酸又はこれらの水可溶性塩を添加して、得られる水酸化マグネシウムのアスペクト比を任意に制御する方法も提案されている(特許文献2参照)。しかし、この方法では、粒子径に関して制御が困難であり、均一な粒子径の微粒子を得ることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−62214号公報
【特許文献2】特開2005−200300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決し、粒子径が小さく、かつ均一な高純度水酸化マグネシウム微粒子及び高純度酸化マグネシウム微粒子、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、BET比表面積が5m/g以上、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.1〜0.5μm、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積10%粒子径(D10)と体積基準の累積90%粒子径(D90)との比D90/D10が10以下である、純度99.5質量%以上の水酸化マグネシウム微粒子に関する。
【0008】
また、本発明は、BET比表面積が5m/g以上、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.1〜0.5μm、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積10%粒子径(D10)と体積基準の累積90%粒子径(D90)との比D90/D10が10以下である、純度99.5質量%以上の酸化マグネシウム微粒子に関する。
【0009】
さらに、本発明は、
塩化マグネシウム水溶液を用意する工程(A);
塩化マグネシウム水溶液を、1〜18Nのアルカリ水溶液と、反応率101〜210mol%で反応させて、水酸化マグネシウムスラリーを得る工程(B);
水酸化マグネシウムスラリーを、撹拌しながら、101〜200℃の温度で保持して、水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを得る工程(C);並びに
水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗及び乾燥させて、水酸化マグネシウム微粒子を得る工程(D)
を含む、水酸化マグネシウム微粒子の製造方法に関する。
【0010】
加えて、本発明は、上記水酸化マグネシウム微粒子又は上記製造方法で得られた水酸化マグネシウム微粒子を、大気雰囲気中で、500〜1500℃で焼成する工程(E)を含む、酸化マグネシウム微粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水酸化マグネシウム微粒子及び酸化マグネシウム微粒子は、高純度であり、粒子径が小さく、かつ均一であり、様々な分野で有用性が高い。また、本発明の製造方法によれば、上記のような微粒子を容易に調製することができ、利便性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水酸化マグネシウム微粒子は、BET比表面積が5m/g以上であり、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.1〜0.5μmであり、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積10%粒子径(D10)と体積基準の累積90%粒子径(D90)との比D90/D10が10以下である。このような水酸化マグネシウム微粒子は、粒子形状が小さく、反応性に優れるため、添加剤、樹脂フィラー、及び触媒等に適し、また、粒子形状が小さく、粒度にバラツキが少なく、分散性に優れるため、高機能性材料等へも好適に使用できる。本発明の水酸化マグネシウム微粒子のBET比表面積は好ましくは10m/g以上であり、D50は好ましくは0.2〜0.5μmであり、D90/D10は好ましくは5以下である。
【0013】
本発明の水酸化マグネシウム微粒子は、純度が99.5質量%以上である。この範囲であれば、不純物の溶出が極めて抑えられ、高機能性材料に好適に使用できる。本発明の水酸化マグネシウム微粒子の純度は好ましくは99.9質量%以上である。
【0014】
本明細書において、純度は、対象微粒子中の不純物元素(Ag、Al、B、Ba、Bi、Cd、Cl、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、In、K、Li、Mn、Mo、Na、Ni、P、Pb、S、Si、Sr、Tl、V、Zn、Ti及びZr)の含有量を測定し、これらの合計含有量を100質量%から差し引いた値とする。本明細書において、高純度とは、上記のようにして算出した純度が99.5質量%以上であることをいうものとする。
測定対象となる不純物元素(Ag、Al、B、Ba、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、In、K、Li、Mn、Mo、Na、Ni、P、Pb、S、Si、Sr、Tl、V、Zn、Ti及びZr)は、ICP発光分析装置を使用して、試料を酸に溶解した後、質量を測定し、Cl量は、分光光度計を使用して、試料を酸に溶解した後、質量を測定した値とする。
【0015】
本発明の水酸化マグネシウム微粒子は、Fe、Ti、Ni、Cr、Mo及びMnの合計含有量が500質量ppm以下であることが好ましい。これらの合計含有量が500質量ppm以下であると、金属不純物の溶出が極めて抑えられ、添加剤、樹脂フィラー、高機能性材料に好適に使用できる。合計含有量は、より好ましくは450質量ppm以下である。
【0016】
本発明の水酸化マグネシウム微粒子は、塩素の含有量が500質量ppm以下であることが好ましい。この含有量が500質量ppm以下であると、焼成によって酸化マグネシウム微粒子を得る際に粒子成長が極めて抑えられ、微細な酸化マグネシウム粉末を得ることができる。含有量は、より好ましくは450質量ppm以下である。
【0017】
本発明の水酸化マグネシウム微粒子は、体積平均粒子径(Dv)と数平均粒子径(Dn)との比Dv/Dnが1〜10であることが好ましい。このDv/Dnが1〜10であると、インク定着剤用途に使用した場合のインク定着性、樹脂等に添加した際の耐熱性、難燃性、屈曲性機能、及び触媒機能に優れ、かつ耐酸性、耐湿性が良くなる。Dv/Dnは、より好ましくは1〜8である。
【0018】
本発明の酸化マグネシウム微粒子は、BET比表面積が5m/g以上であり、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.1〜0.5μmであり、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積10%粒子径(D10)と体積基準の累積90%粒子径(D90)との比D90/D10が10以下である。このような酸化マグネシウム微粒子は、粒子形状が小さく、反応性に優れるため、耐火物、添加剤、樹脂フィラー、電磁鋼材料、及び触媒等に適し、また、粒子形状が小さく、粒度にバラツキが少なく、分散性に優れるため、高機能性材料等へも好適に使用できる。
本発明の酸化マグネシウム微粒子のBET比表面積は好ましくは20m/g以上、より好ましくは40m/g以上であり、D50は好ましくは0.2〜0.4μmであり、D90/D10は好ましくは5以下である。
【0019】
本発明の酸化マグネシウム微粒子は、純度が99.5質量%以上である。この範囲であれば、不純物の溶出が極めて抑えられ、高機能性材料に好適に使用できる。本発明の酸化マグネシウム微粒子の純度は好ましくは99.9質量%以上である。
【0020】
本発明の酸化マグネシウム微粒子は、Fe、Ti、Ni、Cr、Mo及びMnの合計含有量が500質量ppm以下であることが好ましい。これらの合計含有量が500質量ppm以下であると、金属不純物の溶出が極めて抑えられ、添加剤、樹脂フィラー、高機能性材料に好適に使用できる。合計含有量は、より好ましくは、450質量ppm以下である。
【0021】
本発明の酸化マグネシウム微粒子は、塩素の含有量が500質量ppm以下であることが好ましい。この含有量が500質量ppm以下であると塩素の溶出が極めて抑えられ、添加剤、樹脂フィラー、高機能性材料に好適に使用できる。含有量は、より好ましくは、450質量ppm以下である。
【0022】
本発明の酸化マグネシウム微粒子は、体積平均粒子径(Dv)と数平均粒子径(Dn)との比Dv/Dnが1〜10であることが好ましい。このDv/Dnが1〜10であると、インク定着剤用途に使用した場合のインク定着性、樹脂等に添加した際の耐熱性、難燃性、屈曲性機能、光の拡散効果、及び触媒効果に優れ、かつ耐酸性、耐湿性が良くなる、より好ましくは1〜8である。
【0023】
本発明の酸化マグネシウム微粒子は、クエン酸活性度(最終反応率40%、20.0℃)が20〜2000秒であることが好ましい。このクエン酸活性度が20〜2000秒であると、鉄との反応性が優れ、電磁鋼材料として、電磁鋼板用絶縁材及び圧粉鉄心用絶縁被膜材に好適に使用できる。クエン酸活性度は、好ましくは、20〜500秒である。
【0024】
本発明の水酸化マグネシウム微粒子は、
塩化マグネシウム水溶液を用意する工程(A);
塩化マグネシウム水溶液を、1〜18Nのアルカリ水溶液と、反応率101〜210mol%で反応させて、水酸化マグネシウムスラリーを得る工程(B);
水酸化マグネシウムスラリーを、撹拌しながら、101〜200℃の温度で保持して、水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを得る工程(C);並びに
水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗及び乾燥させて、水酸化マグネシウム微粒子を得る工程(D)
を含む方法によって、得ることができる。
【0025】
工程(A)は、塩化マグネシウム水溶液を用意する工程である。塩化マグネシウム水溶液は、濃度0.1〜10mol/Lが好ましい。濃度が0.1mol/L未満であると、生産効率が悪くなる。また、濃度が10mol/Lより高いと水酸化マグネシウムスラリーの粘度が高くなり、ハンドリングが悪くなる。塩化マグネシウム水溶液の濃度は、好ましくは0.5〜5mol/Lである。
【0026】
工程(A)は、例えば、
粗塩化マグネシウム水溶液を用意する工程(A−1);
粗塩化マグネシウム水溶液を、1〜18Nのアルカリ水溶液と、反応率1〜30mol%で反応させて、粗水酸化マグネシウムスラリーを得る工程(A−2);及び
粗水酸化マグネシウムスラリーに、凝集剤を添加した後、水酸化マグネシウムを濾過して、濾液として塩化マグネシウム溶液を得るか、又は凝集剤を添加し、水酸化マグネシウムを凝集沈殿させ、上澄液として塩化マグネシウム水溶液を得る工程(A−3)
を含むことができる。
【0027】
工程(A−1)は、粗塩化マグネシウム溶液を用意する工程である。例えば、塩化マグネシウム(塩化マグネシウムとしては、塩化マグネシウム6水和物若しくは無水塩化マグネシウム、又は海水、かん水、若しくは苦汁を用いることができる)に純水(イオン交換樹脂に通して電気伝導率を0.1μS/cm以下まで精製した水)を添加することにより粗塩化マグネシウム水溶液とすることができる。粗塩化マグネシウム水溶液は、濃度0.5〜10mol/Lとすることができ、好ましくは1〜5mol/Lであり、より好ましくは2〜4mol/Lである。
【0028】
工程(A−2)は、粗塩化マグネシウム水溶液に対して、反応率1〜30mol%となるように、1〜18Nのアルカリ水溶液を反応させて、粗水酸化マグネシウムスラリーを得る工程である。反応率とは、塩化マグネシウムすべてが、水酸化マグネシウムとなるのに必要なアルカリ量を100mol%として算出した値とする。
【0029】
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液を使用することができ、濃度は1〜18mol/Lとすることができ、好ましくは5〜18mol/Lであり、より好ましくは10〜18mol/Lである。
【0030】
工程(A−3)は、粗水酸化マグネシウムスラリーに、凝集剤を添加した後、水酸化マグネシウムを濾過して、濾液として塩化マグネシウム溶液を得るか、又は凝集剤を添加し、水酸化マグネシウムを凝集沈殿させ、上澄液として塩化マグネシウム水溶液を得る工程である。
【0031】
凝集剤としては、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物、アクリルアミド・アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム共重合物、ポリアクリルアミド、アルキルアミノメタクリレート第4級アンモニウム塩重合物、アルキルアミノアクリレート第4級アンモニウム塩・アクリルアミド共重合物、ポリアミジン塩酸塩等を主成分とした凝集剤を適宜選択し用いることができ、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物が好ましい。凝集剤の添加量は、粗水酸化マグネシウムスラリー中の乾燥水酸化マグネシウム量に対して、100〜1000質量ppmとすることができる。
【0032】
このようにして得られた塩化マグネシウム水溶液の濃度を調整し、濃度0.1〜10.0mol/Lの塩化マグネシウム水溶液とすることができる。
【0033】
工程(B)は、塩化マグネシウム水溶液を、1〜18Nのアルカリ水溶液と、反応率101〜210mol%で反応させて、水酸化マグネシウムスラリーを得る工程である。反応率が101mol%未満であると、水酸化マグネシウムスラリーの水熱処理中に結晶が成長しすぎ、粒子径が大きくなりすぎる。また、反応率が210mol%より高くなると、オートクレーブ容器から特定元素(Fe、Ti、Ni、Cr、Mo及びMn)が溶出し不純物が混入しやすくなる。反応率は、好ましくは103〜200mol%であり、より好ましくは105〜180%である。
【0034】
アルカリ水溶液は、濃度1〜18mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。水酸化ナトリウム水溶液の濃度が1mol/L未満であると、生産効率が悪くなる。また、濃度が18mol/Lより高くなると、水酸化マグネシウムスラリーの粘度が高くなり、ハンドリングが悪くなる。水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、好ましくは4〜16mol/Lである。
【0035】
工程(C)は、水酸化マグネシウムスラリーを、撹拌しながら、101〜200℃の温度で保持して、水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを得る工程である。
【0036】
水熱処理は、水酸化マグネシウムスラリーを、例えば、オートクレーブを用いて、101℃〜200℃で、攪拌しながら保持することにより行うことができる。水熱処理温度が101℃より低いと結晶が成長せず、凝集粒子が生成して分散が悪くなる。また水熱処理温度が200℃より高いと結晶が成長しすぎ、粒子径が大きくなりすぎる傾向がある。水熱処理温度は好ましくは105℃〜150℃である。水熱処理時間は、0.5〜3時間とすることができる。水熱処理時間がこの範囲であると、結晶成長及び粒子径を適切な範囲に制御することができる。水熱処理時間は好ましくは1〜2時間である。
【0037】
均一な粒子径を有する、安定した微粒子を得るために、必要であれば、水熱処理に付す水酸化マグネシウムスラリーの濃度を、純水を投入して、30g/L〜150g/Lに調節してもよい。
【0038】
工程(D)は、水熱された水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗及び乾燥させて、水酸化マグネシウム微粒子を得る工程である。
【0039】
工程(D)は、例えば、
水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗して、第一の水酸化マグネシウムケーキを得る工程(D−1);
第一の水酸化マグネシウムケーキに、乾燥水酸化マグネシウム質量基準量に対して5〜100倍の純水を加え、攪拌した後、濾過、水洗して、第二の水酸化マグネシウムケーキを得る工程(D−2);
第一の水酸化マグネシウムケーキの代わりに、第二の水酸化マグネシウムケーキに対して、工程(D−2)を1〜20回繰り返し、高純度水酸化マグネシウムケーキを得る工程(D−3);及び
高純度水酸化マグネシウムケーキを乾燥させて、水酸化マグネシウム微粒子を得る工程(D−4);
を含むことができる。
【0040】
工程(D−1)は、水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、水洗することにより、第一の水酸化マグネシウムケーキを得る工程である。水洗は、乾燥水酸化マグネシウムに対して、質量基準で5〜100倍、好ましくは20〜50倍の純水を濾過の後に投入することにより行うことができる。
【0041】
工程(D−2)は、第一の水酸化マグネシウムケーキに、乾燥水酸化マグネシウム質量基準量に対して5〜100倍の純水を加え、攪拌した後、濾過、水洗して、第二の水酸化マグネシウムケーキを得る工程であり、リパルプ洗浄の工程である。この工程では、例えば、第一の水酸化マグネシウムケーキの乾燥水酸化マグネシウム対して、質量基準で5〜100倍の純水を投入し、第二の水酸化マグネシウムスラリーを得て、この第二の水酸化マグネシウムスラリーを、攪拌した後、濾過、水洗して、第二の水酸化マグネシウムケーキを得ることができる。攪拌は、例えば、10〜50℃で、100〜800rpmの回転速度で0.5〜5時間で行うことができる。攪拌終了後、濾過は、濾紙等を用いて行うことができ、水洗は、乾燥水酸化マグネシウムに対して、質量基準で5〜100倍の純水を投入することにより行うことができる。
【0042】
工程(D−3)は、第一の水酸化マグネシウムケーキの代わりに、第二の水酸化マグネシウムケーキに対して、工程(D−2)のリパルプ洗浄を1回として、これを1〜20回繰り返し、高純度水酸化マグネシウムケーキを得る工程である。
【0043】
工程(D−4)は、高純度水酸化マグネシウムケーキを乾燥させて、水酸化マグネシウム微粒子を得る工程である。
【0044】
このようにして、本発明の水酸化マグネシウム粒子を得ることができる。
【0045】
本発明の酸化マグネシウム微粒子は、本発明の水酸化マグネシウム微粒子を、大気雰囲気中で、500〜1200℃で焼成する工程(E)に付すことにより得ることができる。
【0046】
この工程では、例えば、水酸化マグネシウム微粒子を、大気雰囲気中で、昇温速度1〜20℃/分(好ましくは3〜10℃/分、より好ましくは6℃/分)で500℃〜1200℃、好ましくは600〜800℃まで昇温し、昇温後、500℃〜1200℃、好ましくは600〜800℃で0.1〜5時間焼成することにより、本発明の酸化マグネシウム微粒子を得ることができる。また、工程(D−3)で得られた高純度水酸化マグネシウムケーキを乾燥させて、軽くほぐした後に、上記の焼成処理に付してもよい。
【0047】
このようにして、高純度であり、粒子径が小さく、かつ均一である水酸化マグネシウム微粒子及び酸化マグネシウム微粒子を容易に調製することができる。
【0048】
本発明の水酸化マグネシウム微粒子及び酸化マグネシウム微粒子は、様々な分野で有用性が高い。例えば、水酸化マグネシウム微粒子の用途としては、添加剤としては、インクジェット用紙のインク定着剤等、樹脂フィラーとしては、二次電池用のセパレータ耐熱層の原料、難燃剤、フィルムシートの改質剤(耐熱性、屈曲性向上)等、高機能性材料としては、燃料電池用セラミックの原料、蛍光体原料、超伝導薄膜下地用の原料、トンネル磁気抵抗素子(TMR素子)用のトンネル障壁原料等、触媒としては、排水処理、及び排ガス処理等が挙げられる。また、酸化マグネシウム微粒子の用途としては、高機能性材料、及び触媒等が挙げられる。また、酸化マグネシウム微粒子は、その活性の高さを活かして 耐火物としては、セラミック焼結助剤等、添加剤としては、インクジェット用紙のインク定着剤等、樹脂フィラーとしては、二次電池用のセパレータ耐熱層の原料、フィルムシートの改質剤(耐熱性、屈曲性向上)等、高機能性材料としては、LED封止樹脂の屈折率調整剤、光拡散剤、燃料電池用セラミックの原料、蛍光体原料、超伝導薄膜下地用の原料、トンネル磁気抵抗素子(TMR素子)用のトンネル障壁原料等、電磁鋼材料としては、電磁鋼板用絶縁材の原料、圧粉鉄心用絶縁被膜材等、触媒としては、排水処理、及び排ガス処理等用に好適である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について、実施例によってさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0050】
得られた水酸化マグネシウム微粒子及び酸化マグネシウム微粒子の粒子径、比表面積、純度及び活性度は、以下の方法によって測定した。
【0051】
(1)レーザ回折散乱式粒度分布測定
レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(商品名:MT3300、日機装社製)を使用して、体積基準の累積10%粒子径(D10)、体積基準の累積50%粒子径(D50)及び体積基準の累積90%粒子径(D90)を測定した。体積平均粒子径(Dv)及び数平均粒子径(Dn)も同様に上記装置で測定した。
【0052】
(2)BET比表面積測定法
比表面積測定装置(商品名:Macsorb1210、マウンテック社製)を使用して、ガス吸着法のBET法により比表面積を測定した。
【0053】
(3)水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウム不純物元素の質量測定法
測定対象となる不純物元素(Ag、Al、B、Ba、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、In、K、Li、Mn、Mo、Na、Ni、P、Pb、S、Si、Sr、Tl、V、Zn、Ti及びZr)は、ICP発光分析装置(商品名:SPS−5100、セイコーインスツルメンツ製)を使用して、試料を酸に溶解した後、質量を測定した。
Cl量は、分光光度計(商品名:UV−2550、島津製作所製)を使用して、試料を酸に溶解した後、質量を測定した。
【0054】
(4)純度測定法
水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウム微粒子の純度は、100質量%から上記の「水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウム不純物量測定法」で測定した不純物元素の質量の合計を差し引いた値として算出した。
【0055】
(5)クエン酸活性度(40%)の測定方法
0.4Nクエン酸水溶液100mlが酸化マグネシウムの中和量の40%に相当するように、酸化マグネシウム微粒子2.02gを秤量し、30.0℃で、当該クエン酸水溶液を攪拌している中に当該酸化マグネシウム微粒子を加え、クエン酸の全てが酸化マグネシウムと反応するまでの時間、すなわち、pH7を越えるまでの時間を測定した。
【0056】
〔実施例1〕
粗塩化マグネシウム水溶液として、純度90質量%以上、濃度3.5mol/Lのものを用意した。この塩化マグネシウム水溶液に純水(イオン交換樹脂に通して電気伝導率を0.1μS/cm以下まで精製した水)を添加することにより濃度を調整し、濃度2.0mol/Lの粗塩化マグネシウム水溶液とした。
【0057】
次に、濃度2.0mol/Lの粗塩化マグネシウム水溶液に対して、反応率20mol%となるように、濃度17.84mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応させ、さらに、凝集剤としてアクリルアミド・アクリル酸ソーダ共重合物を、生成水酸化マグネシウムに対して500質量ppm添加し、水酸化マグネシウムを凝集沈殿させ、上澄液を取り出すことにより、塩化マグネシウム水溶液を得た。
【0058】
得られた塩化マグネシウム水溶液の濃度を調整し、濃度2.0mol/Lの塩化マグネシウム水溶液とした。この塩化マグネシウム水溶液を、反応率200mol%となるように濃度17.84mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液と反応させて、濃度100g/Lの水酸化マグネシウムスラリーを調製した。
【0059】
得られた水酸化マグネシウムスラリーを、オートクレーブを用いて150℃で1時間攪拌しながら保持し、水熱処理(加熱攪拌処理)を行った。水熱処理された第一の水酸化マグネシウムスラリーを濾過し、水洗することにより、第一の水酸化マグネシウムケーキを得た。水洗は、乾燥水酸化マグネシウムに対して、質量基準で40倍の純水を濾過の後に投入することにより行った。
【0060】
次に、得られた第一の水酸化マグネシウムケーキに対して、リパルプ洗浄を行った。リパルプ洗浄では、まず、第一の水酸化マグネシウムケーキの乾燥水酸化マグネシウムに対して、質量基準で40倍の純水を投入し、第二の水酸化マグネシウムスラリーを得た。次に、この第二の水酸化マグネシウムスラリーを、常温で攪拌装置を用いて、500rpmの回転速度で1時間攪拌し、さらに攪拌終了後の第二の水酸化マグネシウムスラリーを、濾紙を用いて濾過し、乾燥水酸化マグネシウムに対して、質量基準で20倍の純水を濾過の後投入し、水洗することにより、第二の水酸化マグネシウムケーキを得た。上述のリパルプ洗浄を1回として、リパルプ洗浄をさらに10回繰り返すことにより、高純度水酸化マグネシウムケーキを得た。高純度水酸化マグネシウムケーキを乾燥して、高純度水酸化マグネシウム微粒子を得た。
【0061】
〔実施例2〕
塩化マグネシウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液との反応における反応率を120mol%とし、水熱処理時間を0.5時間とした以外は、実施例1と同様に行なった。
【0062】
〔実施例3〕
塩化マグネシウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液との反応における反応率を105mol%とし、水熱処理時間を3時間とした以外は、実施例1と同様に行なった。
【0063】
〔実施例4〕
水熱処理温度を130℃にし、水酸化ナトリウム水溶液を純水で8.92mol/Lに希釈した以外は、実施例1と同様に行った。
【0064】
〔実施例5〕
水熱処理温度を105℃にし、水熱処理に付す水酸化マグネシウムスラリーを、130g/Lとした以外は実施例1と同様に行なった。
【0065】
〔実施例6〕
水酸化ナトリウム水溶液を純水で4.96mol/Lに希釈した以外は実施例1と同様に行なった。
【0066】
〔実施例7〕
水熱処理に付す水酸化マグネシウムスラリーを純水で希釈し、50g/Lとした以外は実施例1と同様に行なった。
【0067】
〔比較例1〕
塩化マグネシウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液との反応における反応率を250mol%とした以外は、実施例1と同様に行なった。
【0068】
〔比較例2〕
塩化マグネシウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液との反応における反応率を90mol%とした以外は、実施例1と同様に行なった。
【0069】
〔比較例3〕
塩化マグネシウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液との反応における反応率を105mol%とし、水熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様に行なった。
【0070】
〔比較例4〕
水酸化ナトリウム水溶液を純水で21mol/Lにした以外は実施例1と同様に行なった。
【0071】
〔実施例8〕
実施例1で作成した水酸化マグネシウム微粒子を、大気雰囲気中で、1000℃で1時間焼成することにより、酸化マグネシウム微粒子を得た。
【0072】
〔実施例9〕
実施例3で作成した水酸化マグネシウム微粒子を、大気雰囲気中で、600℃で1時間焼成することにより、酸化マグネシウム微粒子を得た。
【0073】
〔比較例5〕
実施例1で作成した水酸化マグネシウム微粒子を、大気雰囲気中で、1400℃で1時間焼成することにより、酸化マグネシウム微粒子を得た。
【0074】
以上の実施例及び比較例によって得られた水酸化マグネシウム微粒子に関する測定結果を表1に示し、酸化マグネシウム微粒子に関する測定結果を表2に示す。
【0075】
実施例の水酸化マグネシウム微粒子及び酸化マグネシウム微粒子は、いずれも純度99.9質量%以上であり、粒子径が小さく、かつ均一であった。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の水酸化マグネシウム微粒子及び酸化マグネシウム微粒子は、高純度であり、粒子径が小さく、かつ均一であり、分散性が良いため(粒度分布がシャープなことより)様々な分野で有用性が高い。また、本発明の製造方法によれば、上記のような微粒子を容易に調製することができ、利便性が高い。例えば、水酸化マグネシウム微粒子の用途としては、添加剤、樹脂フィラー、高機能性材料、及び触媒等が挙げられる。
具体的には、添加剤としては、インクジェット用紙のインク定着剤等;樹脂フィラーとしては、二次電池用のセパレータ耐熱層の原料、難燃剤、フィルムシートの改質剤(耐熱性、屈曲性向上)等;高機能性材料としては、燃料電池用セラミックの原料、蛍光体原料、超伝導薄膜下地用の原料、トンネル磁気抵抗素子(TMR素子)用のトンネル障壁原料等;触媒としては、排水処理、及び排ガス処理等の用途に用いることができる。
また、酸化マグネシウム微粒子の用途としては、耐火物、添加剤、樹脂フィラー、高機能性材料、電磁鋼材料及び触媒等が挙げられる。
具体的には、耐火物としては、セラミック焼結助剤等;添加剤としては、インクジェット用紙のインク定着剤等;樹脂フィラーとしては、二次電池用のセパレータ耐熱層の原料、フィルムシートの改質剤(耐熱性、屈曲性向上)等;高機能性材料としては、LED封止樹脂の屈折率調整剤、光拡散剤、燃料電池用セラミックの原料、蛍光体原料、超伝導薄膜下地用の原料、トンネル磁気抵抗素子(TMR素子)用のトンネル障壁原料等;電磁鋼材料としては、電磁鋼板用絶縁材の原料、圧粉鉄心用絶縁被膜材等;触媒としては、排水処理、及び排ガス処理等の用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が5m/g以上、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.1〜0.5μm、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積10%粒子径(D10)と体積基準の累積90%粒子径(D90)との比D90/D10が10以下である、純度99.5質量%以上の水酸化マグネシウム微粒子。
【請求項2】
純度が、99.9質量%以上である、請求項1記載の水酸化マグネシウム微粒子。
【請求項3】
Fe、Ti、Ni、Cr、Mo及びMnの合計含有量が500質量ppm以下である、請求項1又は2記載の水酸化マグネシウム微粒子。
【請求項4】
塩素含有量が500質量ppm以下である、請求項1〜3のいずれか1項記載の水酸化マグネシウム微粒子。
【請求項5】
体積平均粒子径(Dv)と数平均粒子径(Dn)との比Dv/Dnが1〜10である、請求項1〜4のいずれか1項記載の水酸化マグネシウム微粒子。
【請求項6】
BET比表面積が5m/g以上、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積50%粒子径(D50)が0.1〜0.5μm、レーザ回折散乱式粒度分布測定による体積基準の累積10%粒子径(D10)と体積基準の累積90%粒子径(D90)との比D90/D10が10以下である、純度99.5質量%以上の酸化マグネシウム微粒子。
【請求項7】
純度が、99.9質量%以上である、請求項6記載の酸化マグネシウム微粒子。
【請求項8】
Fe、Ti、Ni、Cr、Mo及びMnの合計含有量が500質量ppm以下である、請求項6又は7記載の酸化マグネシウム微粒子。
【請求項9】
塩素含有量が、500質量ppm以下である、請求項6〜8のいずれか1項記載の酸化マグネシウム微粒子。
【請求項10】
クエン酸活性度(40%)が、20〜2000秒である、請求項6〜9のいずれか1項記載の酸化マグネシウム微粒子。
【請求項11】
体積平均粒子径(Dv)と数平均粒子径(Dn)との比Dv/Dnが1〜10である、請求項6〜10のいずれか1項記載の酸化マグネシウム微粒子。
【請求項12】
塩化マグネシウム水溶液を用意する工程(A)
塩化マグネシウム水溶液を、1〜18Nのアルカリ水溶液と、反応率101〜210mol%で反応させて、水酸化マグネシウムスラリーを得る工程(B);
水酸化マグネシウムスラリーを、撹拌しながら、101〜200℃の温度で保持して、水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを得る工程(C);並びに
水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗及び乾燥させて、水酸化マグネシウム微粒子を得る工程(D)
を含む、水酸化マグネシウム微粒子の製造方法。
【請求項13】
工程(D)が、
水熱処理された水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗して、第一の水酸化マグネシウムケーキを得る工程(D−1);
第一の水酸化マグネシウムケーキに、乾燥水酸化マグネシウム質量基準量に対して5〜100倍の純水を加え、攪拌した後、濾過、水洗して、第二の水酸化マグネシウムケーキを得る工程(D−2);
第一の水酸化マグネシウムケーキの代わりに、第二の水酸化マグネシウムケーキに対して、工程(D−2)を1〜20回繰り返し、高純度水酸化マグネシウムケーキを得る工程(D−3);及び
高純度水酸化マグネシウムケーキを乾燥させて、水酸化マグネシウム微粒子を得る工程(D−4);
を含む、請求項12記載の水酸化マグネシウム微粒子の製造方法。
【請求項14】
工程(A)が、
粗塩化マグネシウム水溶液を用意する工程(A−1);
粗塩化マグネシウムを、1〜18Nのアルカリ水溶液と、反応率が1〜30mol%で反応させて、粗水酸化マグネシウムスラリーを得る工程(A−2);及び
粗水酸化マグネシウムスラリーに、凝集剤を添加した後、水酸化マグネシウムを濾過して、濾液として塩化マグネシウム溶液を得るか、又は凝集剤を添加し、水酸化マグネシウムを凝集沈殿させ、上澄液として塩化マグネシウム水溶液を得る工程(A−3)
を含む、請求項12又は13記載の水酸化マグネシウム微粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれか1項記載の水酸化マグネシウム微粒子又は請求項12〜14のいずれか1項記載の方法で得られた水酸化マグネシウム微粒子を、大気雰囲気中で、500〜1500℃で焼成する工程(E)を含む、酸化マグネシウム微粒子の製造方法。

【公開番号】特開2012−72004(P2012−72004A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217166(P2010−217166)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000108764)タテホ化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】