説明

水銀ガス除去用活性炭の製造方法

【課題】硫黄とヨウ素の双方を添着した活性炭において、従前の活性炭吸着剤に比してより高い水銀ガス吸着性能を具備し、製造原価の抑制も可能とする水銀ガス除去用活性炭の製造方法を提供する。
【解決手段】活性炭に硫黄を添加し加熱して、活性炭100重量部に対し前記硫黄5〜20重量部を添着することにより硫黄添着活性炭を得る硫黄添着工程と、硫黄添着工程の後、硫黄添着活性炭にヨウ素及びヨウ素塩を含む水溶液であるヨウ素物質を添加するヨウ素物質添着工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀ガス除去用活性炭の製造方法に関し、特に活性炭にヨウ素と硫黄を添着することにより水銀の吸着能力を高めた活性炭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀等の重金属成分は、欧州連合によるRoHS指令等に見られるように、健康上あるいは公害防止の観点から取り扱いの厳格さ、使用制限が求められている。しかしながら、水銀は発電用の石炭の燃焼時、原油の精製の過程から発生することが知られ、煤煙や粉塵の処理で問題となっていた。また、蛍光灯や電池に水銀が使用されていることから、使用済み製品や廃棄物の安全な処理がこれまで以上に重視されている。
【0003】
一般に、水銀蒸気の吸着には、ヨウ素、ヨウ化カリウム等のハロゲンやハロゲン化物の薬剤を吸着種として用いた吸着剤が多用されている。この吸着剤はヨウ素を原料とするため、製造原価が嵩む問題を有している。そこで、より安価な水銀吸着剤として、硫黄を担持した活性炭が提案されている(特許文献1、2、3等参照)。例えば、活性炭と硫黄微粒子を混合し、110〜400℃で加熱して得た吸着剤である。しかしながら、活性炭と硫黄のみの吸着剤では、単位重量当たりの吸着性能は不十分である。
【0004】
この流れとは別に、活性炭に、硫黄とヨウ化物もしくは臭化物を担持した水銀ガス吸着剤が提案されている(特許文献4等参照)。同特許文献4の2ページに開示の実施例1の吸着剤の調製方法によると、活性炭に所定量の臭化物、ヨウ化物硫酸塩または硝酸塩を溶解した水溶液を均一に散布した後、所定量の硫黄微粒子を混合して空気中110℃で加熱する方法である。
【0005】
一般に、水銀とヨウ素が化合する際の反応速度は、水銀と硫黄が反応する際の反応速度よりも速いことが知られている。特に引用文献4は、ヨウ素と硫黄の双方を用いることにより、反応速度の相違も利用しつつ水銀の吸着効率を高めた吸着剤ということができる。ただし、硫黄と比較してヨウ素が高価であることから、所望の水銀吸着能力を期待する場合、否応なく原料コストは上昇してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−78915号公報
【特許文献2】特開昭60−114338号公報
【特許文献3】国際公開WO2008/146773
【特許文献4】特公平1−59010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
その後、発明者らは水銀の吸着物質となる硫黄とヨウ素に着目してさらに検討を進めた。結果、吸着剤の基材となる活性炭への添着の順番やその量を制御することにより、さらに水銀の吸着効率を高める製法を見出すに至った。
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、硫黄とヨウ素の双方を添着した活性炭において、従前の活性炭吸着剤に比してより高い水銀吸着性能を具備し、併せて製造原価を低廉にすることができる水銀ガス除去用活性炭の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、請求項1の発明は、活性炭に硫黄を添加し加熱して硫黄添着活性炭を得る硫黄添着工程と、前記硫黄添着工程の後、前記硫黄添着活性炭にヨウ素物質を添加するヨウ素物質添着工程とを備えることを特徴とする水銀ガス除去用活性炭の製造方法に係る。
【0010】
請求項2の発明は、前記硫黄添着活性炭は、前記活性炭100重量部に対し前記硫黄5〜20重量部が添着される請求項1に記載の水銀ガス除去用活性炭の製造方法に係る。
【0011】
請求項3の発明は、前記ヨウ素物質添着工程が、ヨウ素及びヨウ素塩を含む水溶液を前記硫黄添着活性炭に添加する工程である請求項1に記載の水銀ガス除去用活性炭の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る水銀ガス除去用活性炭の製造方法によると、活性炭に硫黄を添加し加熱して硫黄添着活性炭を得る硫黄添着工程と、前記硫黄添着工程の後、前記硫黄添着活性炭にヨウ素物質を添加するヨウ素物質添着工程とを備えるため、硫黄とヨウ素の双方を添着した活性炭において、従前の活性炭吸着剤に比してより高い水銀吸着性能を具備することができる。
【0013】
請求項2の発明に係る水銀ガス除去用活性炭の製造方法によると、請求項1の発明において、前記硫黄添着活性炭は、前記活性炭100重量部に対し前記硫黄5〜20重量部が添着されるため、硫黄の添着量に応じて水銀ガスの吸着性能を高めることができる。また、ヨウ素物質の添着量を抑えながら硫黄の添着量を増やすことができるため、相対的に製造原価の圧縮も可能となる。
【0014】
請求項3の発明に係る水銀ガス除去用活性炭の製造方法によると、請求項1の発明において、前記ヨウ素物質添着工程が、ヨウ素及びヨウ素塩を含む水溶液を前記硫黄添着活性炭に添加する工程であるため、ヨウ素を溶解することができ、固体のヨウ素のみと比較して取り扱いの利便性が大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の水銀ガス除去用活性炭の製造方法に係る概略工程図である。
【図2】水銀ガス破過曲線のグラフである。
【図3】比較例1の電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例5の電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例8の電子顕微鏡写真である。
【図6】比較例9の第1電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例9の第2電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例6の第1電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例6の第2電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の製法により調製される水銀ガス除去用活性炭とは、ヨウ素と硫黄をともに含有する活性炭吸着剤であり、『Hg+I2→HgI2』及び『Hg+S→HgS』の反応を利用し、ヨウ素及び硫黄に起因した化合反応により水銀の吸着効率を高めている。特に、本発明の水銀ガス除去用活性炭の製造方法において、従前の製造方法と大きく異なる点は、活性炭に対する硫黄とヨウ化物を添着させる順序を前出の特許文献4と逆にしたことにある。すなわち、先に硫黄を活性炭表面に添着させた後、これにヨウ素物質を添着させて得たことである。以後、図1の概略工程図を用いながら説明する。
【0017】
水銀ガス除去用活性炭の基材となる活性炭は、繊維状活性炭、粒状活性炭、粉末状活性炭等のいずれの活性炭を用いることができる。例えば、粒状活性炭は、木質、石炭、椰子殻等を原料として800〜1000℃で加熱焼成し、適宜の賦活により細孔を発達させた炭化物である。また、粉末状活性炭は、前記の粒状活性炭をさらに適宜の粒径に粉砕した活性炭となる。繊維状活性炭は、フェノール樹脂等の合成樹脂を原料にした炭化、賦活物である。後記実施例にて説明するとおり、水銀ガス除去用活性炭はカラム内に充填されることから、取り扱いの利便性を考慮して粒状の活性炭が好ましく用いられる。むろん、施工場所、施工方法により他の形状の活性炭を用いることは可能である。
【0018】
最初に活性炭に硫黄が添加され、加熱により硫黄添着活性炭が調製される(硫黄添着工程)。同硫黄添着工程では、活性炭の表面が、溶融されて流動化した硫黄により被覆(コーティング)される。それに応じて、硫黄の溶融に必要な熱量、火力が供給される。例えば、金属容器内に活性炭と硫黄が散布、混合され、バーナー、電熱線等によりおよそ100℃以上に加熱される。当該温度を勘案すると硫黄の状態は単斜硫黄(γ硫黄)であると推察される。
【0019】
硫黄添着活性炭は、請求項2の発明に規定するように、活性炭100重量部に対し硫黄は5ないし20重量部添着される。硫黄の添着量の詳細は後記する実施例のとおりである。硫黄の添着量が5重量部を下回る場合、硫黄との化合に起因する水銀ガスの吸着力の向上が低い。また、硫黄の添着量が20重量部を上回る場合、硫黄量の増加に伴い水銀ガスの吸着量は増加する。しかし、製造経費と吸着効果を勘案すると硫黄の添着量は20重量部がより好ましく実用的な量と考えられる。むろん、それ以上の添着も可能である。
【0020】
続いて硫黄添着工程の後、硫黄添着活性炭にヨウ素物質が添加される(ヨウ素物質添着工程)。ヨウ素物質添着工程においては、請求項3の発明に規定するように、ヨウ素及びヨウ素塩を含む水溶液が硫黄添着活性炭に添加される。ヨウ素(I2)のみでは水に不溶であるため、ヨウ素と、ヨウ化カリウム(KI)等のヨウ素塩とを混合することにより水溶性を高めている。ヨウ素とヨウ素塩を含む溶液であることからヨウ素物質と総称した。
【0021】
例えば、ヨウ素とヨウ化カリウムを水中で混合する場合、これらはKI3の錯体を形成して安定した状態で存在することが知られている。ヨウ素成分が溶解した溶液となるため、固体のヨウ素のみと比較して取り扱いの利便性が大きく向上する。硫黄添着活性炭とヨウ素物質を含む水溶液との混合に際しては、同水溶液を硫黄添着活性炭に対して散水しても、水溶液の液槽内に硫黄添着活性炭を浸漬することもできる。この場合の留意点として、硫黄添着活性炭に十分量のヨウ素物質が添着される必要がある。
【0022】
ヨウ素物質添着工程を終えた後、乾燥により余分な水分の蒸発が行われる。乾燥はトンネルキルン、ロータリーキルン、電気乾燥炉等の適宜装置が用いられる。
【0023】
こうして、水銀ガス除去用活性炭が出来上がる。水銀ガス除去用活性炭の使用方法としては、適宜のカラムや集塵フィルター内等に充填された後、水銀ガス(水銀蒸気)を含む被処理ガスがカラム内に送通される。そして、被処理ガスの水銀量は減少する。
【実施例】
【0024】
発明者らは、硫黄及びヨウ素物質の添着量、並びに添着の条件を変えながら水銀ガス除去用活性炭を試作した。そして、後記する所定濃度の水銀ガスを各例の活性炭に通気し、破過時間から吸着性能を評価した。なお、吸着性能を80℃(高温度域側)と30℃(低温度域側)の2種類の温度域により評価した。
【0025】
80℃の高温度域側とは、主に石炭火力発電所等から排出される燃焼排気ガス中に含まれる水銀ガス(水銀蒸気)の除去を想定した温度である。また、30℃の低温度域側とは、主に蛍光灯の処理工場等における水銀ガス(水銀蒸気)の除去を想定した温度である。
【0026】
[使用原料]
80℃の高温度域側における吸着評価に際し、株式会社ツルミコール製活性炭:HC−6(椰子殻破砕炭,粒度4ないし8mesh(4.75〜2.36mm),充填密度0.51g/mL,ベンゼン吸着力30.7%)を用いた。
30℃の低温度域側における吸着評価に際し、株式会社ツルミコール製活性炭:4GM(石炭系造粒炭,粒度4ないし6mesh(4.75〜3.35mm),充填密度0.47g/mL,ベンゼン吸着力32.6%)を用いた。
また、関東化学株式会社製の硫黄(粉末)、同社製のヨウ素及びヨウ化カリウムを用いた。硫黄、ヨウ素及びヨウ化カリウムは、両温度域ともに共通である。
【0027】
[高温度域側の水銀ガス除去用活性炭の調製]
はじめに、活性炭HC−6(椰子殻破砕炭)を20g分取し、当該活性炭重量の5重量%ないし20重量%に相当する重量(つまり1gないし4g)の硫黄をそれぞれ添加し混合した。活性炭と硫黄の混合物を鉄製の容器内に投入し、混合物が飛散しないように容器上部に蓋をして容器下部よりバーナーの火炎により鉄製容器をあぶりながら硫黄の融点に加熱し、活性炭に硫黄を添着した。各々の硫黄添着量に応じた硫黄添着活性炭を得た。実施例において、重量%は重量部と同義である(以下同様)。
【0028】
ヨウ素物質の添着に際し、ヨウ素とヨウ化カリウムを各5gずつ秤量し水100mLに溶解し混合溶液とした。混合溶液100mLはヨウ素物質(I2+KI)を計10g溶解している。当該混合溶液を2mL分取し水で希釈して20mLに調製し希釈溶液とした。この希釈溶液に硫黄添着活性炭(活性炭成分は20g)を浸漬し静置した。希釈溶液から硫黄添着活性炭を取り出して乾燥した。こうして水銀ガス除去用活性炭を作成した。
【0029】
次にヨウ素物質の添着量を高める場合、混合溶液から4mL分取量し水で希釈して20mLの希釈液とし、この希釈溶液に硫黄添着活性炭(活性炭成分は20g)を浸漬し静置した。さらにヨウ素物質の添着量を高める場合、混合溶液20mLに硫黄添着活性炭(活性炭成分は20g)を浸漬し静置した。
【0030】
混合溶液を2mL分取して20mLに希釈調製した希釈溶液中のヨウ素物質は計0.2gである。従って、ヨウ素物質が完全に硫黄添着活性炭に添着すると仮定した場合、計算上、ヨウ素物質は0.2gの添着となる。活性炭1g当たりに換算すると、ヨウ素物質の添着量は0.01g(添着量1%){ヨウ素単独では9mg}となる(実施例1ないし5、比較例2)。同様に、混合溶液を4mL分取して20mLに希釈調製した希釈溶液中のヨウ素物質は計0.4gであり、ヨウ素物質は0.4gの添着となる。活性炭1g当たりに換算すると、ヨウ素物質の添着量は0.02g(添着量2%){ヨウ素単独では18mg}となる(実施例6,7、比較例3,9)。また、前記の混合溶液20mLを直接用いた場合、活性炭1g当たりに換算するとヨウ素物質の添着量は0.1g(添着量10%){ヨウ素単独では90mg}となる(比較例5)。
【0031】
前掲の手順に従い実施例1ないし実施例7の水銀ガス除去用活性炭を調製した。比較のため、実施例と同量の活性炭に硫黄を添着せず、ヨウ素物質のみ前述と同様の添着手法とした水銀ガス除去用活性炭を調製した(比較例2ないし5)。また、実施例と同量の活性炭にヨウ素物質を添着せず、硫黄のみ前述と同様の添着手法とした水銀ガス除去用活性炭を調製した(比較例6ないし8)。対照として出発物質となる活性炭(HC−6(椰子殻破砕炭))のみも用意した(比較例1)。さらに、実施例に開示の活性炭に「硫黄」、「ヨウ素物質」の添着順とする製法から、添着の順番を「ヨウ素物質」、「硫黄」の逆順とする水銀ガス除去用活性炭も調製した(比較例9)。比較例9は添着の順番を逆とする以外、添着方法は前掲と同様である。こうして、高温度域側の水銀ガス除去用活性炭(実施例1ないし7)及びその比較例を得た。
【0032】
[水銀ガス吸着性能の評価(高温度域側)]
実施例1ないし7並びに比較例1ないし9の水銀ガス除去用活性炭のそれぞれについて、内直径20mmのカラムに、層高さ100mmとなるように充填し、吸着カラムを作成した。吸着カラムを80℃の恒温槽内に載置し、各吸着カラムに対し濃度404mg/m3の水銀ガスを、流速0.16m/secで通気した。所定時間毎に各吸着カラムの出口側の水銀ガス濃度を測定した。水銀ガス濃度の測定に際し、株式会社ガステック製の検知管「No.40」を用いた。通気時間(分)と水銀ガス濃度(mg/m3)の推移は図2の破過曲線のグラフである。同グラフは実施例6、比較例1,5,6,9のみ示す。他は煩雑となるため省略した。
【0033】
上記の水銀ガス濃度の測定方法(高温度域側)に従い、実施例1ないし7並びに比較例1ないし9の水銀ガス除去用活性炭を充填した吸着カラムの水銀ガス濃度を測定し続けた。そこで、吸着カラムの出口側の水銀ガス濃度が2mg/m3になるまでに要した時間(分)を破過時間として求めた。表1に各実施例並びに各比較例のヨウ素物質の添着量(重量%)、硫黄の添着量(重量%)、破過時間(分)を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
[結果と考察(高温度域側)]
図2のグラフについて、比較例1の活性炭のみ及び比較例6の硫黄のみ添着については、ほとんど水銀ガスの吸着に効果を示さない。ヨウ素物質のみの添着の比較例5は高濃度のヨウ素添着となるため、比較例1や6よりも水銀吸着性能は高まる。次に、従来例となる比較例9のように、活性炭にヨウ素物質、硫黄の順に添着した水銀ガス除去用活性炭は、ヨウ素、硫黄の双方の作用により、水銀ガスの吸着性能を示した。
【0036】
そして、本発明となる実施例6の場合、比較例9とヨウ素物質、硫黄の添着量を同一としながらも順番を入れ替えて添着することにより、比較例9よりも飛躍的に良好な吸着性能を示した。すなわち、硫黄とヨウ素物質の添着の順序が水銀ガスの吸着性能に大きな影響を与えたことが明らかとなった。
【0037】
表1より、比較例2ないし8の結果から、活性炭に添着する成分がヨウ素物質もしくは硫黄のいずれか単独では十分な水銀ガス吸着性能を発揮することは難しい。そして、比較例5のとおり、性能向上のためにはヨウ素物質の添着量を増加する必要がある。
【0038】
これに対し、本発明の添着順として試作した実施例1ないし5では、ヨウ素物質の添着量を1重量%に抑えながらも硫黄の添着量を増加させることにより、飛躍的に水銀ガス吸着性能を高めることができた。そして、ヨウ素物質、硫黄の添着量をさらに増すことにより、いっそう水銀ガス吸着性能を高めることができた(実施例6,7参照)。
【0039】
硫黄の添着量については、ヨウ素物質の添着量との関係により規定されるものの、実施例1ないし5の推移から添着量が増すほど吸着性能は向上する。しかし、水銀ガス除去用活性炭として市場に出荷される製品を想定した場合、硫黄の添着量を5重量%以上(活性炭100重量部に対し硫黄5重量部以上)とすることが性能を十分に発揮できる範囲として好ましく、また20重量%(硫黄20重量部)ぐらいが実用的な上限と勘案している。
【0040】
硫黄の価格は、ヨウ素やヨウ化カリウムに比べ1/10から1/20と低廉である。そのため、実施例のように、ヨウ素物質の添着量を抑えながら硫黄の添着量の増加により水銀ガス吸着性能の向上を実現できたことは、相対的に製造原価の圧縮も可能となり、単位重量当たりの吸着性能が非常に高くなる。性能面での利点であるとともに価格競争力の面からも大きな意味を持つ。
【0041】
次に、実施例並びに比較例の水銀ガス除去用活性炭について、電子顕微鏡により表面形態の相違を観察した。図3の電子顕微鏡写真(倍率2000倍)は比較例1であり、何も添着していない活性炭のみの状態である。図4の電子顕微鏡写真(倍率2000倍)は比較例5であり、ヨウ素物質のみ活性炭重量の5重量%添着した水銀ガス除去用活性炭である。図5の電子顕微鏡写真(倍率2000倍)は比較例8であり、硫黄のみ活性炭重量の20重量%添着した水銀ガス除去用活性炭である。
【0042】
図3(比較例1)と図4(比較例5)と対比すると、図4(比較例5)ではヨウ素物質となるヨウ化カリウムやヨウ素の結晶が多く見ることができ、活性炭本来の多孔質が塞がれている。また、図3(比較例1)と図5(比較例8)と対比すると、加熱により流動化した硫黄により活性炭表面が被覆されている様子がわかる。つまり、ヨウ素物質や硫黄が活性炭表面に添着している。
【0043】
図6の電子顕微鏡写真(倍率2000倍)及び図7の電子顕微鏡写真(倍率10000倍)はともに比較例9であり、ヨウ素物質、硫黄の順に添着して得た従来製法による水銀ガス除去用活性炭である。図8の電子顕微鏡写真(倍率2000倍)及び図9の電子顕微鏡写真(倍率10000倍)はともに実施例6であり、硫黄、ヨウ素物質の順に添着して得た水銀ガス除去用活性炭である。
【0044】
図6、図7の比較例9では、いったん活性炭表面にヨウ素物質を添着した後、硫黄を添着しているため、ヨウ素物質を硫黄で被覆する部分が多くなる。特に図7から顕著であるように、ヨウ化カリウムやヨウ素の結晶が硫黄により隠されている。また、図7では針状結晶が観察されるが、これは、硫黄の一部がγ硫黄の状態で存在していることを示している。これに対し、図8、特に図9からわかるように、実施例6では、加熱により流動化した硫黄が活性炭表面に添着して被覆した上に、ヨウ素物質が添着したため、活性炭表面の硫黄層上にヨウ化カリウムやヨウ素の結晶が発達している。前出の図5と図4を重ねた状態に近いと考えられる。
【0045】
このことから、比較例9にあっては、水銀との化合に重要な役割を果たすヨウ素物質と硫黄の双方と備えているにもかかわらず、硫黄の添着に伴う被覆がヨウ素物質の表面露出量を抑えてしまうことを明らかにした。それゆえに、水銀ガス除去用活性炭として用いた際の単位重量当たりの水銀ガス吸着量に影響が生じ、図2、表1に開示の破過時間の差となったものと考えることができる。そこで、一連の測定並びに観察の結果より、水銀との化合に有効な成分を添着するに当たり、その順番を考慮することは極めて大きな吸着性能の差異を生じることを明らかにした。従って、本願の発明に規定するように、活性炭に、硫黄、ヨウ素物質の順で添着することが、より大きな水銀ガス吸着性能を発揮する上で重要である。
【0046】
[低温度域側の水銀ガス除去用活性炭の調製]
上記調製に用いた活性炭を4GM(石炭系造粒炭)に変更して、前掲と同様の手順に従い硫黄、ヨウ素物質の順に添着した実施例8,9の水銀ガス除去用活性炭とその比較例10ないし13を調製した。この場合、実施例8では前記の混合溶液を2mL分取して20mLに希釈調製した希釈溶液を用いた。従って、活性炭1g当たりに換算すると、ヨウ素物質の添着量は0.01g(添着量1%){ヨウ素単独では9mg}となる。また、実施例9では前記の混合溶液を6mL分取して20mLに希釈調製した希釈溶液を用いた。従って、活性炭1g当たりに換算すると、ヨウ素物質の添着量は0.03g(添着量3%){ヨウ素単独では27mg}となる。
【0047】
比較例10は出発物質となる活性炭(4GM(石炭系造粒炭))のみとした。比較例11は活性炭に硫黄を添着せず、ヨウ素物質のみ前述と同様の添着手法として水銀ガス除去用活性炭を調製した。比較例11では前記の混合溶液を2mL分取して20mLに希釈調製した希釈溶液を用いた。従って、活性炭1g当たりに換算すると、ヨウ素物質の添着量は0.01g(添着量1%){ヨウ素単独では9mg}となる。比較例12は活性炭にヨウ素物質を添着せず、硫黄のみを前述と同様の添着手法により添着した。比較例13では前記の混合溶液20mLを直接用いた。従って、活性炭1g当たりに換算すると、ヨウ素物質の添着量は0.1g(添着量10%){ヨウ素単独では90mg}となる。こうして、低温度域側の水銀ガス除去用活性炭(実施例8,9)及びその比較例を得た。
【0048】
[水銀ガス吸着性能の評価(低温度域側)]
実施例8,9並びに比較例10ないし13の水銀ガス除去用活性炭のそれぞれについて、内直径20mmのカラムに、層高さ120mmとなるように充填し、吸着カラムを作成した。吸着カラムを30℃の恒温槽内に載置し、各吸着カラムに対し濃度9mg/m3の水銀ガスを、流速0.2m/secで通気した。所定時間毎に各吸着カラムの出口側の水銀ガス濃度を測定した。水銀ガス濃度の測定に際し、株式会社ガステック製の検知管「No.40」を用いた。
【0049】
上記の水銀ガス濃度の測定方法(低温度域側)に従い、実施例8,9並びに比較例10ないし13の水銀ガス除去用活性炭を充填した吸着カラムの水銀ガス濃度を測定し続けた。そして、C/C0=0.05を破過点として求めた。前記の式中、C0は通気当初の水銀ガス濃度(入口での濃度)であり、Cは吸着カラムを通過後の水銀ガス濃度(出口での濃度)である。すなわち、水銀ガス濃度9mg/m3×0.05=0.45mg/m3となった時点を破過点とした。表2に各実施例並びに各比較例のヨウ素物質の添着量(重量%)、硫黄の添着量(重量%)、破過時間(時間)を示す。
【0050】
【表2】

【0051】
[結果と考察(低温度域側)]
表2の低温度域側の結果からも容易に把握されるように、本発明の硫黄、ヨウ素物質の順で添着した活性炭は、いずれか単独のみ添着の活性炭と比較して際立って高い水銀ガス吸着性能を発揮した。特に、実施例9については測定開始から216時間を経過した時点においても破過しなかったため、同時点で測定を終了した。また、比較例11と比較例13の比較より、ヨウ素物質の増加による水銀ガス吸着性能の向上は明白ではある。しかし、実施例9のように、ヨウ素物質の増加を抑えたとしても硫黄を加えることによる性能の格段の向上が明らかとなった。従って、本発明の製造方法に基づく水銀ガス除去用活性炭は、原料となる活性炭の種類、吸着時の温度に依存することなく、処理条件に応じた温度においても良好な吸着性能の発揮を明らかにした。
【産業上の利用可能性】
【0052】
水銀との化合により水銀をガス中から除去する成分として公知の硫黄やヨウ素であっても、基材となる活性炭への添着の順番を変更することにより、従来品にない吸着効率を得ることができた。このため、個々の原料使用量の抑制、あるいは吸着剤としての使用量を低減したとしても同様の効果を発揮し得る。結果的に、省資源化に有効であり価格競争力の面からも有利となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭に硫黄を添加し加熱して硫黄添着活性炭を得る硫黄添着工程と、
前記硫黄添着工程の後、前記硫黄添着活性炭にヨウ素物質を添加するヨウ素物質添着工程とを備える
ことを特徴とする水銀ガス除去用活性炭の製造方法。
【請求項2】
前記硫黄添着活性炭は、前記活性炭100重量部に対し前記硫黄5〜20重量部が添着される請求項1に記載の水銀ガス除去用活性炭の製造方法。
【請求項3】
前記ヨウ素物質添着工程が、ヨウ素及びヨウ素塩を含む水溶液を前記硫黄添着活性炭に添加する工程である請求項1に記載の水銀ガス除去用活性炭の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−106229(P2012−106229A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204649(P2011−204649)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(592184876)フタムラ化学株式会社 (60)
【Fターム(参考)】