説明

水難溶性組成物並びにその製造方法及び用途

【課題】水難溶性組成物並びにその製造方法及び用途を提供する。
【解決手段】カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液を調製するステップを少なくとも含むことを特徴とする、水難溶性組成物を製造する方法。また、その方法により得られる、カルボキシアルキルセルロースの塩を、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸のカルボキシル基を介して水難溶化させてなる水難溶性組成物。更に、該水難溶性組成物の、医用材料としての用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水難溶性組成物並びにその製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
可溶性セルロース誘導体を水難溶性化して、体内へ埋め込む又は組織に貼付する目的で使用する組織被覆性医療材料として用いることは知られている(例えば特許文献1及び2を参照)。
【0003】
特許文献1には、酸処理によって得られた水難溶性化した可溶性セルロース誘導体が、癒着防止材や創傷被覆性医療材料等の組織被覆性医療材料としての効果を有することが開示されている。特に、可溶性セルロース誘導体水溶液を酸性条件下で凍結・乾燥する手法により製造される材料が、凍結時に形成される氷晶の効果で繊維状またはフィルム状微細構造を有することを見出したと開示されている(第6頁第20〜22行)。また、使用される酸は、酸の使用量を低減するために、強酸、例えば塩酸、硝酸、硫酸等を使用することが望ましいと開示されている(第9頁第9〜11行)。更に、水難溶性化したカルボキシメチルセルロースのリン酸緩衝生理食塩水(以下、「PBS」という)における溶解性試験が第21頁の表2に示されており、ほとんどすべてのカルボキシメチルセルロース溶解率は、10時間後には、50%を越えているのが分かる。
【0004】
次に、特許文献2に従えば、溶解性半減期が5〜30時間である水難溶性化したカルボキシメチルセルロースを含有する癒着防止材が提供され、かかる癒着防止材は、カルボキシメチルセルロースの酸性溶液の凍結・乾燥を用いる方法及び非凍結温度下で放置する方法が簡便で多量の水難溶性化したカルボキシメチルセルロースの取得が可能であると開示されている(段落[0015]第6〜8行)。実施例において用いられている酸は、硝酸である。
【0005】
しかし、上述したように強酸を用いると、中和又は洗浄によって強酸を除去する必要があったため、操作の簡便性に欠ける面があった。また、実際に生体内で創傷表面及びその周辺を癒着防止材で被覆してから、創傷が治癒するまでには1週間程度を要し、その間癒着防止材は溶解せずにフィルム形状を保つのが望ましい。上述した従来技術の溶解性半減期が5〜30時間である水難溶性化カルボキシメチルセルロース癒着防止材は、半減期が30時間を超えると癒着防止効果が低減することから、生体内で創傷表面及びその周辺に貼付しても、十分な癒着防止効果を発揮することができなかった。
【特許文献1】WO01/34214号公報
【特許文献2】特開2004−51531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、非常に簡便な水難溶性組成物の製造方法を提供することを課題とする。また本発明は、強度の観点から取扱いが容易で、生体に対する安全性が高い水難溶性組成物を提供することを課題とする。また本発明は、上記のような水難溶性組成物を応用することにより、生体内において優れた分解特性を有する癒着防止材、薬剤徐放用基材及び空隙保持材等の医用材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を鋭意検討した結果、カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」を含有する混合水溶液を調製することにより、水難溶性組成物を製造することができることを見出した。また本発明者は、上記の方法によって、カルボキシアルキルセルロースの塩を、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸のカルボキシル基を介して水難溶性化させてなる水難溶性組成物を提供することができることを見出し、さらに該水難溶性組成物が、医用材料に非常に好適に用いることができることを見出した。すなわち本発明は、下記のものを提供する。
【0008】
(1)カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液を調製するステップを少なくとも含むことを特徴とする、水難溶性組成物の製造方法(以下、「本発明製造方法」という)。
【0009】
(2)カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液が、実質的にアルミニウムイオンを含有しないものである、上記(1)に記載の水難溶性組成物の製造方法。
【0010】
(3)カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液を、乾燥、加温、又は放置するステップをさらに含むことを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の水難溶性組成物の製造方法。
【0011】
(4)分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸が、下記群より選択される1又は2以上の有機酸である、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の製造方法;
クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、オキサロ酢酸、フマル酸、アコニット酸。
【0012】
(5)カルボキシアルキルセルロースの塩が下記の群より選択されるものである、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の製造方法;
カルボキシメチルセルロースの塩、カルボキシエチルセルロースの塩、カルボキシプロピルセルロースの塩。
【0013】
(6)カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液中の、カルボキシアルキルセルロースの塩と分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸の質量比が、100:20〜100:150である、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の製造方法。
【0014】
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の製造方法によって製造される水難溶性組成物。
【0015】
(8)カルボキシアルキルセルロースの塩を、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を介して水難溶性化させてなる水難溶性組成物(以下、「本発明水難溶性組成物」という)。
【0016】
(9)分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸のカルボキシル基を介して水難溶性化させてなるものである、上記(8)に記載の水難溶性組成物。
【0017】
(10)分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸が、下記の群より選択される1又は2以上の有機酸である、上記(8)又は(9)に記載の水難溶性組成物;
クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、オキサロ酢酸、フマル酸、アコニット酸。
【0018】
(11)カルボキシアルキルセルロースの塩が下記の群より選択されるものである、上記(8)〜(10)のいずれか1つに記載の水難溶性組成物;
カルボキシメチルセルロースの塩、カルボキシエチルセルロースの塩、カルボキシプロピルセルロースの塩。
【0019】
(12)水難溶性組成物が、カルボキシアルキルセルロースと、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸とを、質量比にして100:10〜100:50の割合で含有する、上記(7)〜(11)のいずれか1つに記載の水難溶性組成物。
【0020】
(13)ゲル状又はフィルム状の物質である、上記(7)〜(12)のいずれか1つに記載の水難溶性組成物。
【0021】
(14)60℃のリン酸緩衝生理食塩水中に浸したとき、3週間後において目視的に形状を認めることができ、且つカルボキシアルキルセルロースの塩の溶出量が50%以下である、上記(7)〜(13)のいずれか1つに記載の水難溶性組成物。
【0022】
(15)上記(7)〜(14)のいずれか1つに記載の組成物から形成される医用材料。
【0023】
(16)癒着防止材である、上記(15)記載の医用材料(以下、「本発明医用材料」という)。
【0024】
(17)薬剤徐放用基材である、上記(15)記載の医用材料。
【0025】
(18)空隙保持材である、上記(15)記載の医用材料。
【発明の効果】
【0026】
本発明製造方法によれば、水難溶性組成物を非常に簡便に製造することができる。また本発明は、強度の観点から取扱いが容易で、生体に対する安全性が高い水難溶性組成物を提供することができる。また本発明は優れた生体における分解特性を有する癒着防止材、薬剤徐放用基材及び空隙保持材等の医用材料を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
<1>本発明製造方法
本発明製造方法は、カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液を調製するステップを少なくとも含むことを特徴とする、水難溶性組成物の製造方法である。
【0028】
上記において、好ましいカルボキシアルキルセルロースの塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースの塩、カルボキシエチルセルロースの塩、カルボキシプロピルセルロースの塩が挙げられる。なかでもカルボキシメチルセルロースの塩が好ましい。
【0029】
カルボキシアルキルセルロースの塩の分子量、置換率は特に限定されないが、例えばカルボキシメチルセルロースの塩の場合、分子量が5万〜200万であることが好ましく、分子量が10万〜200万であることがより好ましく、分子量が20万〜150万であることが強度が高い水難溶性組成物を得る観点から最も好ましい。
【0030】
塩としては、例えばカルボキシアルキルセルロースのナトリウム塩及びカリウム塩等に例示される金属塩、並びにアンモニウム塩等が例示される。
【0031】
カルボキシアルキルセルロースの塩としては、市販のものを用いてもよく、公知の方法によって調製することによって得られるものを用いてもよい。
【0032】
本発明製造方法において、カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液を調製する方法は特に限定されず、例えば固体状態のカルボキシアルキルセルロースの塩と、固体状態の分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸とを溶媒に溶解することによって調製してもよく、固体状態のカルボキシアルキルセルロースの塩を、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液に溶解することによって調製してもよく、固体状態の分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を、カルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液に溶解することによって調製してもよく、カルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」を含む水溶液とを混合することにより調製してもよいが、なかでもカルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液と、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液とを混合することにより調製することが、均質な組成物を得る観点から好ましい。
【0033】
例えばカルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液と、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液とを混合することにより、又は固体状態の分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を、カルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液に溶解することにより上記混合水溶液を調製する場合において、カルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液における、カルボキシアルキルセルロースの塩の濃度は特に限定されないが、例えば0.5〜10質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましく、4質量%が最も好ましい。
【0034】
また、例えばカルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液と、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液とを混合することにより、又は固体状態のカルボキシアルキルセルロースの塩を、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液に溶解することにより上記混合水溶液を調製する場合、2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液における、上記有機酸の濃度は特に限定されないが、例えば用いるカルボキシアルキルセルロースの塩の質量、上記有機酸の水溶液に対する溶解性等に応じ、適宜設定することができるが、例えば2〜5質量%が例示される。
【0035】
混合水溶液の調製において、「混合」のための具体的手段、混合における温度等は特に限定されないが、例えば攪拌装置等を用いて充分に混合することが好ましい。
【0036】
上記において混合するカルボキシアルキルセルロースの塩を含む水溶液と、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液との容量の比は特に限定されないが、例えば混合する水溶液に溶解するカルボキシアルキルセルロースの塩と分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸との質量の比が、好ましくは100:20〜100:150、より好ましくは100:25〜100:100となるように混合する水溶液の容量を選択することが好ましい。すなわち、例えば互いに濃度が等しいカルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液及び2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液を混合する場合、カルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液と分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液との容量の比が100:20〜100:150であることが好ましく、100:25〜100:100であることがより好ましい。
【0037】
混合水溶液におけるカルボキシアルキルセルロースの塩の終濃度は特に限定されないが、例えば0.5%〜6%であることが好ましく、1%〜5%であることがより好ましく、1%〜3.5%であることが極めて好ましい。
【0038】
混合水溶液における分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸の終濃度は特に限定されないが、例えば0.2%〜5%であることが好ましく、0.4%〜3%であることがより好ましく、0.6%〜3%であることが極めて好ましい。
【0039】
カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液における溶媒は特に限定されないが、例えば精製水、PBS等の緩衝液等が好ましいものとして例示される。
【0040】
本発明製造方法において、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸としては、なかでも2〜6個のカルボキシル基を有する有機酸が好ましく、2又は3個のカルボキシル基を有する有機酸がより好ましい。2個のカルボキシル基を有する有機酸としては、例えばコハク酸、DLリンゴ酸等のリンゴ酸、オキサロ酢酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、酒石酸、マロン酸及びシュウ酸等の有機酸が例示され、なかでもコハク酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、フマル酸に例示されるクエン酸回路中に存在する有機酸が特に好ましい。3個のカルボキシル基を有する有機酸としては、例えばcis−アコニット酸等のアコニット酸、クエン酸、イソクエン酸、トリカルバリル酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、α−カルボシンコメロン酸及びベルベロン酸等の有機酸が例示され、なかでもアコニット酸、クエン酸及びイソクエン酸等のクエン酸回路中に存在する有機酸が特に好ましい。
【0041】
本発明製造方法においては、上記の分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸は、カルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液の水難溶性化を惹起する、水難溶性化剤としての機能を発揮するものである。
【0042】
2個以上のカルボキシル基を有する有機酸が、カルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液の水難溶性化を惹起したか否かは、例えば上記の2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液を、カルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液に混合し、該混合後の水溶液を乾燥、加温、又は放置することにより水難溶性組成物の調製を試み、水難溶性組成物が得られれば、2個以上のカルボキシル基を有する有機酸が、カルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液の水難溶性化を惹起したということができ、逆に水難溶性組成物が得られなければ、水難溶性化を惹起しなかったということができる。
【0043】
なお、一連の試験の結果から、本発明における水難溶性化は、カルボキシアルキルセルロースが、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸によって架橋されることによって起こるものと推測される。
【0044】
以下に例示として、有機酸としてクエン酸を用い、カルボキシアルキルセルロースの塩としてカルボキシメチルセルロースナトリウムを用いた場合について、推測される水難溶性化の機構を示すが、本発明は当該機構によって限定されるものではない。
【0045】
1.まず、カルボキシメチルセルロースナトリウムがクエン酸によってNaを奪われることによって、疎水性のカルボキシメチルセルロースとなる。
【0046】
【化1】

【0047】
式中、CMC−COOHはカルボキシメチルセルロースのカルボキシル基を示す。またCMC−COONaはナトリウムによって置換されたカルボキシメチルセルロースのカルボキシル基を示す。
【0048】
2.次に、カルボキシメチルセルロースのカルボキシル基(CMC−COOH)が余剰のクエン酸と以下のように疎水結合を形成して水難溶性化する。
【0049】
【化2】

【0050】
式中、・・・は疎水結合を示す。
【0051】
本発明製造方法においては、上記のカルボキシアルキルセルロースの塩及び分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸以外の成分として、他の成分を添加してもよい。このような成分としては、グリセロールに例示される可塑剤、インドメタシン、メフェナム酸、アセメタシン、アルクロフェナック、イブプロフェン、塩酸チアラミド、フェンブエン、メピリゾール及びサリチル酸等の解熱鎮痛消炎剤、メトトレキサート、フルオロウラシル、硫酸ビンクリスチン、マイトマイシンC、アクチノマイシンC及び塩酸ダウノルビシン等の抗悪性腫瘍剤、L−グルタミン、P−(トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボニル)−フェニルプロピオン酸塩酸塩、塩酸セトラキサート、スルピリド、ゲファルナート及びシメチジン等の抗潰瘍剤、キモトリプシン、ストレプトキナーゼ、塩化リゾチーム、ブロメライン及びウロキナーゼ等の酵素製剤、塩酸クロニジン、塩酸ブニトロロール、塩酸ブラゾシン、カプトプリル、硫酸ベタニジン、酒石酸メトプロロール及びメチルドバ等の血圧降下剤、塩酸フラボキサート等の泌尿器官用剤、ヘパリン、ジクロマール及びワーファリン等の血液凝固阻止剤、クロフィブラート、シンフィブラート、エラスターゼ及びニコモール等の動脈硬化用剤、塩酸ニカルジピン、塩酸ニモジピン、チトクロームC及びニコチン酸トコフェロール等の循環器官用剤、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン及びベタメタゾン等のステロイド剤、成長因子及びコラーゲン等の創傷治癒促進剤(特開昭60−222425参照)、その他生理活性を有するポリペプチド、ホルモン剤、抗結核剤、止血剤、糖尿病治療剤、血管拡張剤、不整脈治療剤、強心剤、抗アレルギー剤、抗うつ剤、抗てんかん剤、筋弛緩剤、鎮咳去たん剤、抗生物質等に例示される薬剤が例示される。このような成分を添加するタイミング、方法は、特に限定されないが、例えば上述したカルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液に該成分を混合することによって添加してもよく、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液に該成分を混合することによって添加してもよい。また、カルボキシアルキルセルロースの塩と分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸とを含有する混合水溶液に当該成分を混合することによって添加してもよい。
【0052】
本発明製造方法は、カルボキシアルキルセルロースの塩及び分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸以外の成分の使用の有無によって限定されるものではないが、2価以上の金属イオンの非存在下において、カルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液の水難溶性化を惹起させることが好ましい。なかでも得られる組成物の生体に対する安全性等の観点から、アルミニウムイオン、亜鉛イオンに例示される毒性を有する金属イオンの非存在下において、カルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液の水難溶性化を惹起させることが好ましい。
【0053】
本発明製造方法は、カルボキシアルキルセルロースの塩と、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸とを含有する混合水溶液を、乾燥、加温、又は放置するステップをさらに含むことが好ましい。
【0054】
上記乾燥の条件は、該乾燥により水難溶性組成物が得られる限りにおいて特に限定されず、常温にて放置することにより乾燥してもよく、加温及び/又は除湿した状態で乾燥してもよい。乾燥時の温度条件としては例えば10〜70℃が例示される。乾燥時間としては例えば5〜72時間が例示される。
【0055】
また上記加温の条件についても、該加温により水難溶性組成物が得られる限りにおいて特に限定されないが、温度条件としては例えば20〜80℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。加温時間は例えば1日間〜5日間が好ましい。
【0056】
また上記放置の条件についても、該放置により水難溶性組成物が得られる限りにおいて特に限定されないが、温度条件としては例えば0℃〜室温(例えば15℃)が例示され、放置時間は例えば5日間〜3ヶ月間が好ましい。
【0057】
本発明製造方法においては、上記乾燥、加温又は放置のいずれか1つを行ってもよく、複数を行ってもよいが、所望する水難溶性組成物の状態に応じて、適宜選択することができる。例えば乾燥を行うことによれば、フィルム状の水難溶性組成物を効率よく調製することができる。また、例えば加温又は放置を行うことによれば、ゲル状の水難溶性組成物を効率よく調製ことができる。上記「フィルム状の水難溶性組成物」及び「ゲル状の水難溶性組成物」については、後述する<2>本発明水難溶性組成物及び実施例における例示を参照されたい。
【0058】
また本発明製造方法は、上述したカルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」を含有する混合水溶液を調製するステップ以外のステップとして、例えば得られた水難溶性組成物を洗浄するステップ、得られた水難溶性組成物を精製水、PBS等の緩衝液等に例示される水溶液に浸して膨潤させるステップ、得られた水難溶性組成物を成形するステップ等、その他のステップを含んでいてもよい。上記の得られた水難溶性組成物を水溶液に浸して膨潤させるステップにおいて、得られた水難溶性組成物を水溶液に浸す時間は特に限定されないが、例えば1分〜20分が好ましい時間として例示され、5分〜15分がより好ましい時間として例示される。また、得られた組成物を精製水、PBS等の緩衝液に例示される水溶液中に浸すことにより、水難溶性であるか否かを確認するステップを含んでいてもよい。
【0059】
本発明製造方法によって得られる水難溶性組成物について
本発明製造方法によれば、水難溶性を有する水難溶性組成物を得ることができる。本明細書中において、「水難溶性組成物」とは、水に容易に溶解しない組成物であることを意味するが、なかでも室温(例えば15℃)の精製水に浸したとき、24時間後において目視的に形状を認めることができるものが好ましく、48時間後において目視的に形状を認めることができるものがより好ましい。また、なかでも60℃のPBS中に浸したとき、3週間後において目視的に形状を認めることができ、且つカルボキシアルキルセルロースの塩の溶出量が50%以下であるものが好ましく、60℃のPBS中に浸したとき、3週間後において目視的に形状を認めることができ、且つカルボキシアルキルセルロースの塩の溶出量が30%以下であるものがより好ましい。さらに、6週間後において目視的に形状を認めることができ、且つカルボキシアルキルセルロースの塩の溶出量が50%以下であるものがより好ましく、6週間後において目視的に形状を認めることができ、且つカルボキシアルキルセルロースの塩の溶出量が30%以下であるものがさらに好ましい。カルボキシアルキルセルロースの塩の溶出量は、後述する実施例1に記載の高速液体クロマトグラフィー法(以下、「HPLC法」)を用いた方法により測定、算出することができる。
【0060】
<2>本発明水難溶性組成物
本発明水難溶性組成物は、カルボキシアルキルセルロースの塩を、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を介して水難溶性化させてなる水難溶性組成物である。
【0061】
上記における「カルボキシアルキルセルロースの塩」、「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」の用語の説明については、上記<1>本発明製造方法における説明をそのまま参照されたい。
【0062】
本発明水難溶性組成物において、カルボキシアルキルセルロースの塩が、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を介して水難溶性化されたものであるか否かは、得られた水難溶性組成物を、水溶液を用いて充分に洗浄し、該洗浄後の水難溶性組成物中に分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸が含まれているか否かを確認することにより判断することができる。すなわち、上記洗浄後の水難溶性組成物中に分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸が含まれていれば、カルボキシアルキルセルロースの塩が、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を介して水難溶性化されたものであるということができる。
【0063】
該洗浄後の水難溶性組成物中に分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸が含まれているかは、例えば後述する実施例に記載のカルボキシアルキルセルロースの塩と各種有機酸の組成比を算出する方法によって確認することができるので参照されたい。
【0064】
本発明水難溶性組成物は、当該組成物中のカルボキシアルキルセルロースと、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸との組成比によって限定されるものではないが、例えばカルボキシアルキルセルロースと、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸とを、質量比にして100:10〜100:50の割合で含有することが好ましく、100:15〜100:25の割合で含有することがより好ましい。ここで、上記の組成比の分析は、後述する実施例1(1−3)に記載の方法と同様の方法により算出することができるので参照されたい。
【0065】
本発明水難溶性組成物は、その形状によって限定されるものではないが、フィルム状、ゲル状の物質であることが好ましい。以下にそれぞれの形状の本発明水難溶性組成物について説明する。
【0066】
フィルム状の本発明水難溶性組成物
フィルム状の本発明水難溶性組成物は、例えばカルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液に、水難溶性化剤として分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液を混合し、該混合後の水溶液を「乾燥」することにより、効率的に製造することができる。
【0067】
フィルムは、乾燥状態であってもよく、湿潤状態であってもよい。湿潤状態のフィルムは、例えばカルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液と分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液の混合液を乾燥することによって得られた乾燥状態のフィルムを、精製水、PBS等の緩衝液等に例示される水溶液に浸すことによって製造することができる。また、適当な時間上記のように水溶液に浸すことによって、膨潤したフィルムを得ることもできる。
【0068】
フィルムの厚さは特に限定されないが、乾燥状態のフィルムの場合、例えば0.01〜0.03mmが好ましい厚さとして例示される。湿潤状態のフィルムの場合、例えば0.1〜0.3mmが好ましい厚さとして例示され、0.05〜0.1mmがより好ましい厚さとして例示される。
【0069】
フィルムの強度は特に限定されないが、取扱いの容易性といった観点から、後述する実施例に記載の方法によって測定される破断強度が、乾燥状態のフィルムの場合、例えば2000〜4000gであることが好ましく、2500〜3500gであることがより好ましく、湿潤状態のフィルムの場合、例えば50〜500gであることが好ましく、80〜300gであることがより好ましく、100〜200gであることが最も好ましい。
【0070】
ゲル状の本発明水難溶性組成物
ゲル状の本発明水難溶性組成物は、例えばカルボキシアルキルセルロースの塩の水溶液に、水難溶性化剤として分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を含む水溶液を混合し、該混合後の水溶液を「加温」又は「放置」することにより、効率的に製造することができる。
【0071】
<3>本発明医用材料
本発明水難溶性組成物は、「医用材料」、例えば、癒着防止材、創傷部を保護するために用いられる創傷被覆材、薬剤徐放用基材、空隙保持材等の用途等に応用することが可能である。
【0072】
本発明水難溶性組成物を医用材料として用いる場合においては、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸は、例えばクエン酸、イソクエン酸、DLリンゴ酸等のリンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、オキサロ酢酸、フマル酸及びcis−アコニット酸等のアコニット酸等に例示される、生体内に存在し、安全性が高いことが知られた有機酸からから選択されるものであることが、生体に対する安全性の観点から好ましい。
【0073】
以下、癒着防止材及び薬剤徐放用基材についてより具体的に説明する。
【0074】
癒着防止材
本発明水難溶性組成物は、外科手術後の組織間の癒着を防止し、回復を早めるための癒着防止材に応用することが可能である。例えば、フィルム状又はゲル状の本発明水難溶性組成物で、子宮角、腹壁、又は肝臓等に例示される腹腔内臓器を被覆し、腹膜損傷部(腹膜欠損部)を保護することによって癒着を防止し、創傷治癒を促進することができる。
【0075】
薬剤徐放用基材
本発明水難溶性組成物は、その高次構造中に薬剤を包埋させ、薬剤を徐放させるための薬剤徐放用基材として用いることができる。
【0076】
薬剤徐放用基材はその製造方法によって限定されるものではないが、例えばカルボキシアルキルセルロースの塩、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸、及び包埋させる薬剤の混合溶液を、<1>本発明水難溶性組成物に記載の方法により加温又は乾燥し、水難溶性化することにより、本発明水難溶性組成物の高次構造中に薬剤を包埋させることができる。また、後述する実施例に、可塑剤としてグリセロールを用いた本発明水難溶性組成物の製造方法を示すので参照されたい。
【0077】
薬剤としては高次構造に保持されてコントロール・リリースされる薬剤であれば特に限定されないが、具体的には下記の薬剤が例示される;
グリセロールに例示される可塑剤、インドメタシン、メフェナム酸、アセメタシン、アルクロフェナック、イブプロフェン、塩酸チアラミド、フェンブエン、メピリゾール及びサリチル酸等の解熱鎮痛消炎剤、メトトレキサート、フルオロウラシル、硫酸ビンクリスチン、マイトマイシンC、アクチノマイシンC及び塩酸ダウノルビシン等の抗悪性腫瘍剤、L−グルタミン、P−(トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボニル)−フェニルプロピオン酸塩酸塩、塩酸セトラキサート、スルピリド、ゲファルナート及びシメチジン等の抗潰瘍剤、キモトリプシン、ストレプトキナーゼ、塩化リゾチーム、ブロメライン及びウロキナーゼ等の酵素製剤、塩酸クロニジン、塩酸ブニトロロール、塩酸ブラゾシン、カプトプリル、硫酸ベタニジン、酒石酸メトプロロール及びメチルドバ等の血圧降下剤、塩酸フラボキサート等の泌尿器官用剤、ヘパリン、ジクロマール及びワーファリン等の血液凝固阻止剤、クロフィブラート、シンフィブラート、エラスターゼ及びニコモール等の動脈硬化用剤、塩酸ニカルジピン、塩酸ニモジピン、チトクロームC及びニコチン酸トコフェロール等の循環器官用剤、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン及びベタメタゾン等のステロイド剤、成長因子及びコラーゲン等の創傷治癒促進剤(特開昭60−222425参照)、その他生理活性を有するポリペプチド、ホルモン剤、抗結核剤、止血剤、糖尿病治療剤、血管拡張剤、不整脈治療剤、強心剤、抗アレルギー剤、抗うつ剤、抗てんかん剤、筋弛緩剤、鎮咳去たん剤、抗生物質等に例示される薬剤。
【0078】
薬剤徐放用基材は、例えば薬剤を供給したい部位を被覆することにより用いることができる。
【0079】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例においては、「カルボキシメチルセルロース」を「CMC」、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を「CMCNa」と略記する。
【実施例】
【0080】
実施例1
1−1 CMCNa及びクエン酸を用いたフィルムの調製
CMCNa(ナカライテスク製、質量平均分子量22万)1gに注射用水24mLを加えて4質量% CMCNa水溶液を調製した。次いで無水クエン酸(特級、和光純薬製)1gに注射用水24mLを加えて4質量%クエン酸水溶液を調製した。4質量%クエン酸水溶液のpHを測定したところ、pH2.2であった。これらを1:1で混合し、遊星式攪拌・脱法装置KK−100(クラボウ製)を用い、室温で30分間攪拌(速度段数:自転レベル6、公転レベル9)したものを、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥することにより、シャーレ上に乾燥状態のフィルムを得た。このシャーレに注射用水を満たし、10分間静置して、厚さ約0.06mmの膨潤したフィルム(以下、実施例1において「CMC/クエン酸フィルム」という)を得た。
【0081】
1−2 CMC/クエン酸フィルムの安定性の分析
上記1−1で得たCMC/クエン酸フィルムを1cm×2cmの短冊状に切り出し、注射用水2mLに浸し、室温中で1ヶ月放置したが、フィルムは残存し、形状に変化は認められなかった。
【0082】
以下、目視とGPCカラムを用いたHPLC法により溶出したCMCを定量することにより、60℃PBS中でのCMC/クエン酸フィルムの安定性を検討した。
【0083】
HPLC法においては、カラムとしてTSK−GEL alpha−6000(7.8×300mm:TOSOH製)を、溶離液として33%アセトニトリル/0.6%NaCl水溶液を用い、流速0.5mL/min、カラム温度35℃条件下、視差屈折計により検出を行なった。
【0084】
上記1−1で得たCMC/クエン酸フィルムを滅菌済みポリエチレン製25mL遠沈管(IWAKIサイテック製)に移し、PBS(pH7.2)を加えて全量25mLとした。これを60℃恒温槽中で加温し、上清液を経時的にサンプリングし、該上清液100μLをアプライしてCMCの溶出量変化を測定した。
【0085】
なお4質量%CMCNa水溶液2.5mLにPBSを加えて25mLとしたもののピーク面積を、CMCが100%溶出した時の基準面積として用い、溶出量は事前に作成した検量線に基づき算出した。
【0086】
結果を図1に示す。CMCの溶出量は3日後で12.5%、5日後で18.2%、10日後で25.8%であったが10日目以降は殆ど増加せず、21日目でも26.9%であった。
【0087】
このことから上記方法によって得られるCMC/クエン酸フィルムがPBSに極めて難溶性であることが示された。
【0088】
1−3 CMCとクエン酸の組成比の分析
上記1−1で得たCMC/クエン酸フィルムを室温下、蒸留水200mL中で1時間膨潤させ、更に蒸留水200mL中で3回繰り返して洗浄した。洗浄後のフィルムに0.1N水酸化ナトリウム水溶液10.0mLを精確に加え、室温で2時間震盪撹拌して十分に溶解した。ここに0.1%フェノールフタレイン/エタノール溶液2滴を指示薬として加え、0.1N塩酸で滴定を行ない、消費された水酸化ナトリウム量を定量した結果、上記の水溶液中におけるCMCNaとクエン酸の組成比は、質量比にして無水クエン酸質量換算で100:18.3と算出された。
【0089】
1−4 フィルム強度の分析
上記1−1で得たCMC/クエン酸フィルムと、癒着防止材として市販されているSeparaFilm(科研製薬)の破断強度を比較した。試験は湿潤状態及び乾燥状態のそれぞれで行った。測定にはTexture Analyzer TA-XT2(Stable Micro Systems社製)を用いた。被験物質を3×2.5cmの大きさに切り出してステージ上に固定し、これに直径12.7mmの球状プローブを1mm/secの速度で押し当て、プローブが被験物質を突き破る際の最大応力を測定した。
湿潤状態のフィルムとしては、乾燥状態のフィルムを予め注射用水中で十分に膨潤させたものを用いた。下記表1にそれぞれのフィルムの厚さを示す。
【0090】
【表1】

【0091】
乾燥状態ではCMC/クエン酸フィルムはSepraFilmの1/3の厚さでありながら双方ともほぼ同じ強度を示し、膨潤状態ではCMC/クエン酸フィルムがSepraFilmの1/7の厚さにも関わらずSepraFilmの6倍近い強度を示した。結果を図2に示す。
【0092】
実施例2
2−1 CMCNaとクエン酸の混合比を変化させた場合におけるフィルムの性状
4質量%CMCNa(質量平均分子量22万、ナカライテスク製)水溶液及び4質量%クエン酸水溶液を、それぞれ1:1、2:1、4:1、8:1で混合した4種類の混合水溶液を調製した。これらを、それぞれ滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥した後、シャーレに注射用水を満たし、10分間静置し、フィルムの性状を観察した。
【0093】
その結果、4質量%CMCNa水溶液と4質量%クエン酸水溶液の混合比が1:1、2:1のフィルムは殆ど膨潤することなく、しっかりとした強度を有したフィルムとなった。
【0094】
4質量%CMCMa水溶液と4質量%クエン酸水溶液の混合比が4:1のフィルムは約1.5倍に膨潤し、強度はやや弱かった。
【0095】
4質量%CMCNa水溶液と4質量%クエン酸水溶液の混合比が8:1のフィルムは約2倍に膨潤した。フィルム形状はかろうじて保持していたが、指でつまむのは困難であった。
【0096】
2−2 CMCNaとクエン酸の混合比を変化させた場合における組成比
4質量% CMCNa(東京化成製 cp500、平均分子量:22万、粘度820mPa・s)水溶液20mLと4質量%クエン酸水溶液10mLとを混合した液3.3mLをφ6cmシャーレに注ぎ50℃で一晩乾燥して透明な乾燥フィルムを得た。
【0097】
乾燥フィルムに蒸留水10mLを注いで5分間静置したところ、乾燥フィルムは速やかに膨潤して透明でしなやかなフィルム(以下、「CMC/クエン酸(2:1)フィルム」という)が得られた。
【0098】
CMC/クエン酸(2:1)フィルムを室温下、蒸留水200mL中で1時間膨潤させ、更に蒸留水200mL中で3回繰り返して洗浄した。洗浄後のフィルムに0.1N水酸化ナトリウム水溶液10.0mLを精確に加え、室温で2時間震盪撹拌して十分に溶解した。ここに0.1%フェノールフタレイン/エタノール溶液2滴を指示薬として加え、0.1N塩酸で滴定を行なって消費された水酸化ナトリウム量を定量した結果、上記の水溶液中におけるCMCNaとクエン酸の組成比は、質量比にして無水クエン酸質量換算で100:19.2と算出された。
【0099】
4質量% CMCNa(東京化成製 cp500、平均分子量:22万、粘度820mPa・s)水溶液10mLと4質量%クエン酸水溶液20mLとを混合した液7.5mLをφ6cmシャーレに注ぎ50℃で一晩乾燥して透明な乾燥フィルムを得た。
【0100】
乾燥フィルムに蒸留水10mLを注いで5分間静置したところ、乾燥フィルムは速やかに膨潤して透明でやや脆いフィルム(以下、「CMC/クエン酸(1:2)フィルム」という)が得られた。
【0101】
CMC/クエン酸(1:2)フィルムを室温下、蒸留水200mL中で1時間膨潤させ、更に蒸留水200mL中で3回繰り返して洗浄した。洗浄後のフィルムに0.1N水酸化ナトリウム水溶液10.0mLを精確に加え、室温で2時間震盪撹拌して十分に溶解した。ここに0.1%フェノールフタレイン/エタノール溶液2滴を指示薬として加え、0.1N塩酸で滴定を行なって消費された水酸化ナトリウム量を定量した結果、上記の水溶液中におけるCMCNaとクエン酸の組成比は、質量比にして無水クエン酸質量換算で100:17.0と算出された。
【0102】
以上の結果から、本実施例においてCMCNaとクエン酸との混合比を変化させた場合、得られたフィルム中のCMCとクエン酸の組成比は質量比にして、CMC:クエン酸=約100:15〜100:20と算出された。
【0103】
実施例3
3−1 異なるCMCNaを用いたフィルムの調製
以下の異なる置換率及び分子量を有する4種類のCMCNaを用いてフィルムを調製した。
東京化成製cp500(平均分子量:22万、粘度820mPa・s、以下「CMCNa(i)」と記載する。)
東京化成製cp1050(平均分子量:48万、粘度8040mPa・s、以下「CMCNa(ii)」と記載する。)
MP Biomedicals製(平均分子量:139万、粘度12.0Pa・s、以下「CMCNa(iii)」と記載する。)
MP Biomedicals製(平均分子量:6万、粘度120mPa・s、以下「CMCNa(iv)」と記載する。)
(上記の粘度は、濃度2% w/wの各CMCNa水溶液を、E型回転粘度計を用い、標準コーン、20℃、1rpm、サンプル量1mLで測定した結果である。)
【0104】
4質量% CMCNa(i)水溶液と4質量%クエン酸水溶液とをそれぞれ10mLずつ添加した混合液5mLをφ6cmシャーレに注ぎ50℃で一晩乾燥して透明な乾燥フィルムを得た。乾燥フィルムに蒸留水10mLを注いで5分間静置したところ、乾燥フィルムは速やかに膨潤して厚さは約0.06mmの透明でしなやかなフィルム(以下、「CMC/クエン酸フィルム(i)」という)が得られた。
【0105】
CMCNa(ii)を用いることの他、上記のCMCNa(i)を用いる場合と同様の方法により、透明な乾燥フィルムを得た。乾燥フィルムに蒸留水10mLを注いで5分間静置したところ、乾燥フィルムは速やかに膨潤して厚さは約0.06mmの透明でしなやかなフィルム(以下、「CMC/クエン酸フィルム(ii)」という)が得られた。
【0106】
CMCNa(iii)を用いることの他、上記のCMCNa(i)を用いる場合と同様の方法により、透明な乾燥フィルムを得た。乾燥フィルムに蒸留水10mLを注いで5分間静置したところ、乾燥フィルムは速やかに膨潤して厚さは約0.06mmの透明でしなやかなフィルム(以下、「CMC/クエン酸フィルム(iii)」という)が得られた。
【0107】
CMCNa(iv)を用いることの他、上記のCMCNa(i)を用いる場合と同様の方法により調製を行い、薄黄色を呈した乾燥フィルムを得た。乾燥フィルムに蒸留水10mLを注いで5分間静置したところ、乾燥フィルムは速やかに膨潤して、強度面でやや破断しやすい、厚さは約0.06mmの薄黄色を呈したフィルム(以下、「CMC/クエン酸フィルム(iv)」という)が得られた。
【0108】
CMC/クエン酸フィルム(iv)以外のフィルム、すなわちCMC/クエン酸フィルム(i)、CMC/クエン酸フィルム(ii)及びCMC/クエン酸フィルム(iii)の間には、特にフィルムの性状の違いを認めなかった。
【0109】
3−2 異なるCMCNaを用いたフィルムの分析
上記3−1で得られた各フィルムの組成比の検討を行った。
【0110】
CMC/クエン酸フィルム(i)を室温下、蒸留水200mL中で1時間膨潤させ、更に蒸留水200mL中で3回繰り返して洗浄した。洗浄後のフィルムに0.1N水酸化ナトリウム水溶液10.0mLを精確に加え、室温で2時間震盪撹拌して十分に溶解した。ここに0.1%フェノールフタレイン/エタノール溶液2滴を指示薬として加え、0.1N塩酸で滴定を行なって消費された水酸化ナトリウム量を定量した結果、上記の水溶液中におけるCMCNaとクエン酸の組成比は、質量比にして無水クエン酸質量換算で100:18.3と算出された。
【0111】
CMC/クエン酸フィルム(ii)、CMC/クエン酸フィルム(iii)、CMC/クエン酸フィルム(iv)についても同様の分析を行った結果、CMCNaとクエン酸の組成比は、質量比にして無水クエン酸質量換算で、それぞれ100:19.2、100:15.7、100:11.2と算出された。
【0112】
以上のことから、本実施例において上記の異なるCMCNaを用いた場合において、得られたフィルム中のCMCとクエン酸との組成比は質量比にして、CMC:クエン酸=約100:10〜20と算出された。
【0113】
実施例4
4−1 可塑剤を用いたフィルムの調製
4質量% CMCNa(iv)水溶液10mL、4質量%クエン酸水溶液10mL及び可塑剤としてグリセロール1mLを混合し、混合液を調製した。上記混合液5mLをφ6cmシャーレに注ぎ50℃で一晩乾燥して透明な乾燥フィルムを得た。
【0114】
乾燥フィルムに蒸留水10mLを注いで5分間静置したところ、乾燥フィルムは速やかに膨潤して透明でしなやかなフィルム(以下、「CMC/クエン酸/グリセロールフィルム」という)が得られた。
【0115】
4−2 可塑剤を用いたフィルムの分析
CMC/クエン酸/グリセロールフィルムを室温下、蒸留水200mL中で1時間膨潤させ、更に蒸留水200mL中で3回繰り返して洗浄した。洗浄後のフィルムに0.1N水酸化ナトリウム水溶液10.0mLを精確に加え、室温で2時間震盪撹拌して十分に溶解した。ここに0.1%フェノールフタレイン/エタノール溶液2滴を指示薬として加え、0.1N塩酸で滴定を行なって消費された水酸化ナトリウム量を定量した結果、上記の水溶液中におけるCMCNaとクエン酸の組成比は、質量比にして無水クエン酸質量換算で100:19.7と算出された。
【0116】
以上の結果から、可塑剤の添加は、フィルム中のCMCとクエン酸の組成比にほとんど影響しないことが確認された。
【0117】
実施例5
CMCNa及びクエン酸を用いたゲルの調製及び分析
CMCNa(ナカライテスク製、質量平均分子量22万)1gに注射用水24mLを加えて4質量%CMCNa水溶液を調製した。次いで無水クエン酸(特級、和光純薬製)1gに注射用水24mLを加えて4質量%クエン酸水溶液を調製した。これらを1:1で混ぜ、十分に混合したものを、滅菌済みプラスチックビーカー(コーニング製)に15mL分注し、蓋をして50℃の恒温槽中で3日間加温して、グミ状のゲルを得た。
【0118】
このゲルを生検用トレパン(6mm径、貝印製)で切り出し、注射用水2mLに浸し、室温中で1ヶ月放置したが、ゲルは残存し、形状にも大きな変化は認められなかった。
【0119】
実施例6
6−1 CMCNaとクエン酸の混合比を変化させた場合におけるゲルの性状
4質量%CMCNa(質量平均分子量22万、ナカライテスク製)水溶液及び4質量%クエン酸水溶液を、それぞれ1:1,2:1,4:1、8:1で混合した4種類の混合水溶液を滅菌済みプラスチックビーカー(コーニング製)に15mL分注し、蓋をして50℃の恒温槽中で3日間加温して、ゲル化の具合を観察するとともに、粘度の変化を回転粘度計で測定した。
【0120】
その結果、4質量%CMCNa水溶液と4質量%クエン酸水溶液の混合比が1:1、2:1、4:1の混合水溶液はゲル化したが、4質量%CMCNa水溶液と4質量%クエン酸水溶液の混合比が8:1の混合水溶液を用いて得られるものはゾル状を呈していた。
【0121】
実施例7
各種有機酸を用いたフィルムの調製及び分析1
DL−リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、オキサロ酢酸、cis−アコニット酸をそれぞれ約1g計量し、濃度が4質量%となるよう蒸留水を加えて調製した水溶液を以下のフィルムの調製に用いた。
【0122】
各調製水溶液のpHを測定したところ、DL−リンゴ酸水溶液はpH2.2、マレイン酸水溶液はpH1.4、コハク酸水溶液はpH2.4、オキサロ酢酸水溶液はpH1.6、cis−アコニット酸水溶液はpH1.5であった。
【0123】
CMCNa(ナカライテスク製、質量平均分子量22万)4gに注射用水96mLを加えて4質量%CMCNa水溶液を調製し、以下のフィルムの調製に用いた。
【0124】
7−1 リンゴ酸を用いたフィルムの調製及び分析
4質量%CMCNa水溶液5mLとDL−リンゴ酸水溶液5mLとを混合し、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥し、乾燥状態のフィルムを得た。乾燥したシャーレ底面より切り出したフィルムを蒸留水に浸し、1時間静置したところ、膨潤したCMC/リンゴ酸フィルムを得た。フィルムは無色透明で膨潤時の厚さは約0.06mmであった。
【0125】
このフィルムを1cm×2cmの短冊状に切り出し、生理的食塩水5mLに浸し、60℃で1ヶ月放置したが、フィルムは残存し、形状に変化は認めなかった。
【0126】
7−2 コハク酸を用いたフィルムの調製及び分析
4質量%CMCNa水溶液5mLとコハク酸水溶液5mLとを混合し、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥し、乾燥状態のフィルムを得た。乾燥したシャーレ底面より切り出したフィルムを蒸留水に浸し、1時間静置したところ、膨潤したCMC/コハク酸フィルムを得た。フィルムは乳白色を呈し、膨潤時の厚さは約0.06mmであった。
【0127】
このフィルムを1cm×2cmの短冊状に切り出し、生理食塩水5mLに浸し、60℃で1ヶ月放置したが、フィルムは残存し、形状に変化は認めなかった。
【0128】
7−3 マレイン酸を用いたフィルムの調製及び分析
4質量%CMCNa水溶液5mLとマレイン酸水溶液5mLとを混合し、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥し、乾燥状態のフィルムを得た。乾燥したシャーレ底面より切り出したフィルムを蒸留水に浸し、1時間静置したところ、膨潤したCMC/コハク酸フィルムを得た。膨潤時の厚さは約0.06mmであった。
【0129】
このフィルムを1cm×2cmの短冊状に切り出し、生理食塩水5mLに浸し、60℃で1ヶ月放置したが、フィルムは残存し、形状に変化は認めなかった。
【0130】
7−4 オキサロ酢酸を用いたフィルムの調製及び分析
4質量%CMCNa水溶液5mLとオキサロ酢酸水溶液5mLとを混合し、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥し、乾燥状態のフィルムを得た。乾燥したシャーレ底面より切り出したフィルムを蒸留水に浸し、1時間静置したところ、膨潤したCMC/オキサロ酢酸フィルムを得た。フィルムは無色透明で、やや肉厚、膨潤時の厚さは約0.1mmであった。
【0131】
このフィルムを1cm×2cmの短冊状に切り出し、生理食塩水5mLに浸し、60℃で1ヶ月放置したが、フィルムは残存し、形状に変化は認めなかった。
【0132】
7−5 アコニット酸を用いたフィルムの調製及び分析
4質量%CMCNa水溶液5mLとcis−アコニット酸水溶液5mLとを混合し、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥し、乾燥状態のフィルムを得た。乾燥したシャーレ底面より切り出したフィルムを蒸留水に浸し、1時間静置したところ、膨潤したCMC/cis−アコニット酸フィルムを得た。フィルムは薄黄色の透明で脆く、膨潤時の厚さは約0.06mmであった。
【0133】
このフィルムを1cm×2cmの短冊状に切り出し、生理食塩水5mLに浸し、60℃で1ヶ月放置したが、フィルムは残存し、形状に変化は認めなかった。
【0134】
実施例8
各種有機酸を用いたフィルムの調製及び分析2
8−1 コハク酸を用いたフィルムの調製及び分析
4質量% CMCNa(i)水溶液と4質量%コハク酸水溶液をそれぞれ10mLずつ混合し、混合液を得た。上記混合液5mLをφ6cmシャーレに注ぎ50℃で一晩乾燥して乳白色の乾燥フィルムを得た。
【0135】
乾燥フィルムに蒸留水10mLを注いで5分間静置したところ、乾燥フィルムは速やかに膨潤して透明でしなやかなフィルムが得られた。
【0136】
このフィルムを室温下、蒸留水200mL中で1時間膨潤させ、更に蒸留水200mL中で3回繰り返して洗浄した。洗浄後のフィルムに0.1N水酸化ナトリウム水溶液10.0mLを精確に加え、室温で2時間震盪撹拌して十分に溶解した。ここに0.1%フェノールフタレイン/エタノール溶液2滴を指示薬として加え、0.1N塩酸で滴定を行なって消費された水酸化ナトリウム量を定量した結果、上記の水溶液中におけるCMCNaとコハク酸の組成比は、質量比にして100:20.1と算出された。
【0137】
8−2 リンゴ酸を用いたフィルムの調製及び分析
4% CMCNa(i)水溶液と4質量%リンゴ酸水溶液をそれぞれ10mLずつ混合し、混合液を得た。上記混合液5mLをφ6cmシャーレに注ぎ50℃で一晩乾燥して透明な乾燥フィルムを得た。
【0138】
乾燥フィルムに蒸留水10mLを注いで5分間静置したところ、乾燥フィルムは速やかに膨潤して透明で固く弾力性に富んだフィルムが得られた。
【0139】
CMC/リンゴ酸フィルムを室温下、蒸留水200mL中で1時間膨潤させ、更に蒸留水200mL中で3回繰り返して洗浄した。洗浄後のフィルムに0.1N水酸化ナトリウム水溶液10.0mLを精確に加え、室温で2時間震盪撹拌して十分に溶解した。ここに0.1%フェノールフタレイン/エタノール溶液2滴を指示薬として加え、0.1N塩酸で滴定を行なって消費された水酸化ナトリウム量を定量した結果、上記の水溶液中におけるCMCNaとリンゴ酸の組成比は、質量比にして100:40.6と算出された。
【0140】
8−3 アコニット酸を用いたフィルムの調製及び分析
4質量% CMCNa(i)水溶液と4質量%アコニット酸水溶液とをそれぞれ10mLずつ混合し、混合液を得た。上記混合液5mLをφ6cmシャーレに注ぎ50℃で一晩乾燥して透明な薄黄色の乾燥フィルムを得た。
【0141】
乾燥フィルムに蒸留水10mLを注いで5分間静置したところ、乾燥フィルムは速やかに膨潤して透明で薄黄色の固く付着性に富んだフィルムが得られた。
【0142】
CMC/アコニット酸フィルムを室温下、蒸留水200mL中で1時間膨潤させ、更に蒸留水200mL中で3回繰り返して洗浄した。洗浄したフィルムに0.1N水酸化ナトリウム水溶液10.0mLを精確に加え、室温で24時間震盪撹拌して十分に溶解した。ここに0.1%フェノールフタレイン/エタノール溶液2滴を指示薬として加え、0.1N塩酸で滴定を行なって消費された水酸化ナトリウム量を定量した結果、上記の水溶液中におけるCMCNaとアコニット酸の組成比は、質量比にして100:40.6と算出された。
【0143】
8−4 オキサロ酢酸を用いたフィルムの調製及び分析
4質量% CMCNa(i)水溶液と4質量%オキサロ酢酸水溶液とをそれぞれ10mLずつ混合し、混合液を得た。上記混合液5mLをφ6cmシャーレに注ぎ50℃で一晩乾燥して透明な乾燥フィルムを得た。
【0144】
乾燥フィルムに蒸留水10mLを注いで5分間静置したところ、乾燥フィルムは速やかに膨潤して透明で柔軟性に富んだフィルムが得られた。
【0145】
CMC/オキサロ酢酸フィルムを室温下、蒸留水200mL中で1時間膨潤させ、更に蒸留水200mL中で3回繰り返して洗浄した。洗浄後のフィルムに0.1N水酸化ナトリウム水溶液10.0mLを精確に加え、室温で24時間震盪撹拌して十分に溶解した。ここに0.1%フェノールフタレイン/エタノール溶液2滴を指示薬として加え、0.1N塩酸で滴定を行なって消費された水酸化ナトリウム量を定量した結果、上記の水溶液中におけるCMCNaとオキサロ酢酸の組成比は、質量比にして100:32.0と算出された。
【0146】
実施例9
各種有機酸を用いたゲルの調製及び分析
実施例7で調製した各種有機酸水溶液及びCMCNa水溶液を以下のフィルムの調製に用いた。
【0147】
9−1 リンゴ酸を用いたゲルの調製及び分析
4質量%CMCNa水溶液1mLとDL−リンゴ酸水溶液1mLとを混合し、滅菌済みプラスチック試験管に移し、50℃の恒温槽中で静置、加温した。5日後に恒温槽からプラスチック試験管を取り出し、上下逆さまに5分間静置したところ、内容物は試験管底部から移動せず、ゲル化が確認された。
【0148】
9−2 コハク酸を用いたゲルの調製及び分析
有機酸としてコハク酸を用いることの他、上記7−1と同様にしてゲルを調製、分析した。加温5日後に恒温槽からプラスチック試験管を取り出し、上下逆さまに5分間静置したところ、内容物はゲル状を呈していたものの緩やかな流動性を認めた。
【0149】
9−3 オキサロ酢酸を用いたゲルの調製及び分析
有機酸としてオキサロ酢酸を用いることの他、上記7−1と同様にしてゲルを調製、分析した。加温5日後に恒温槽からプラスチック試験管を取り出し、上下逆さまに5分間静置したところ、内容物は試験管底部から移動せず、ゲル化が確認された。
【0150】
9−4 アコニット酸を用いたゲルの調製及び分析
有機酸としてcis−アコニット酸を用いることの他、上記7−1と同様にしてゲルを調製、分析した。加温5日後に恒温槽からプラスチック試験管を取り出し、上下逆さまに5分間静置したところ、内容物は試験管底部から移動せず、ゲル化が確認された。
【0151】
9−5 マレイン酸を用いたゲルの調製及び分析
有機酸としてマレイン酸を用いることの他、上記7−1と同様にしてゲルを調製、分析した。加温5日後に恒温槽からプラスチック試験管を取り出し、上下逆さまに5分間静置したところ、内容物は試験管底部から移動せず、ゲル化が確認された。
【0152】
図3に、上記の9−1〜9−5で各種有機酸を用いた場合について、5日後に恒温槽からプラスチック試験管を取り出し、上下逆さまに5分間静置した時のゲルの写真を示す。アコニット酸、マレイン酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸では完全にゲル化しており流動性をを認めなかった。コハク酸を用いたゲルはゲル状を呈していたものの緩やかな流動性を認めた。
【0153】
実施例10
癒着モデルへの適用
10−1 ラット子宮角癒着モデル
4質量%CMCNa水溶液と4質量%クエン酸水溶液を1:1で混合した混合液を、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥し、乾燥状態のフィルムを得た。このシャーレに生理食塩水を浸して得られた、膨潤したフィルムを動物試験に用いた。
【0154】
ラット子宮角癒着モデルを用いて、癒着防止効果および生体内における分解性の検討を行った。ラット腹壁側に直径8mmの欠損部を作成し、1mm間隔で切り込みをいれた子宮角を、傷の部分が接するように縫合し、その間に1cm×1cm×厚さ0.1mmのフィルムを挟み込んで創部を被覆した。7日後に解剖を行い、腹壁と子宮角間での癒着の有無およびフィルムの残留の有無を判定した。
【0155】
その結果、3例中3例とも癒着を認めなかった。また、フィルムは消失していた。
【0156】
10−2 ラット腹壁欠損盲腸擦過モデル
上記10−1で用いたフィルムと同じフィルムを用い、ラット腹壁欠損盲腸擦過モデルを用いて、癒着防止効果および生体内における分解性の検討を行った。ラット盲腸側を脱脂綿で数回軽く擦過した後、腹壁側に30×40mmの欠損部を作成し、その上を直径5cm×厚さ0.1mmのフィルムで被覆した。7日後に解剖を行い、腹壁と盲腸間での癒着の有無およびフィルムの残留の有無を判定した。
【0157】
その結果2例中2例とも癒着を認めなかった。また、フィルムは消失していた。
【0158】
比較例1
酢酸を用いたフィルム及びゲルの調製及び分析
1−1 フィルムの調製及び分析
CMCNa(ナカライテスク製、質量平均分子量22万)1gに注射用水24mLを加えて4質量%CMC水溶液を調製した。次いで酢酸 (特級、和光純薬製)1gに注射用水24mLを加えて4質量%酢酸水溶液を調製した。これらを1:1で混合したものを、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥し、乾燥状態のフィルムを得た。乾燥したシャーレに注射用水を満たし、10分間静置して、厚さ0.06mmの膨潤したCMC/酢酸フィルムを得た。
【0159】
このフィルムを1cm×2cmの短冊状に切り出し、注射用水2mLに浸し、室温中で放置したところ、直後には形状を維持していたものの、24時間後には溶解・消失した。
【0160】
1−2 ゲルの調製及び分析
4質量%クエン酸水溶液のpHを測定したところpH2.2を示した事から、pH2.2に調整した酢酸水溶液を別途調製し、4質量%CMC水溶液と1:1で混合したものを、滅菌済みプラスチックビーカー(コーニング製)に15mL分注し、蓋をして50℃の恒温槽中で3日間加温したが、ゲル化を認めなかった。
【0161】
同じpHでありながらクエン酸水溶液を用いて調製したフィルムは難溶性を示した(実施例1)。このことから、水難溶性化するために用いる有機酸としては、2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を用いることが必須であることが示唆された。
【0162】
また、酢酸を用いた比較例1(1−1及び1−2)の結果と、2個以上のカルボキシル基を有する各種有機酸を用いた実施例の結果との比較からも、2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を用いることが必須であることが示唆された。
【0163】
比較例2
アスコルビン酸を用いたフィルム及びゲルの調製及び分析
2−1 フィルムの調製及び分析
アスコルビン酸を約1g計量し、濃度が4質量%となるよう蒸留水を加えて調製した水溶液(pH2.5)を以下のフィルムの調製に用いた。
【0164】
4質量%CMCNa水溶液5mLとアスコルビン酸水溶液5mLとを混合し、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥し、乾燥状態のフィルムを得た。乾燥したシャーレ底面より切り出したフィルムを蒸留水に浸し、1時間静置したところ、膨潤したCMC/アスコルビン酸フィルムを得た。膨潤性が高く、周囲の辺縁部はゲル状を呈していた。フィルム状部分の厚さは約0.5mmであった。
【0165】
このフィルムを1cm×2cmの短冊状に切り出し、生理食塩水5mLに浸し、60℃で1ヶ月放置したところ、フィルム形状は残していたが、ピンセットでつまむと崩れた。
【0166】
2−2 ゲルの調製及び分析
有機酸としてアスコルビン酸を用いることの他、上記7−1と同様にしてゲルを調製、分析した。加温5日後に恒温槽からプラスチック試験管を取り出し、上下逆さまにしたところ、ゲル化が認められなかった(写真を図3に示す)。
【0167】
比較例3
ヒドロキシプロピルセルロースナトリウムを用いたフィルムの調製検討及び分析
ヒドロキシプロピルセルロースナトリウム(以下「HPC」という。和光製、特級)1gに注射用水24mLを加えて4質量%HPC水溶液を調製した。次いで無水クエン酸(特級、和光純薬製)1gに注射用水24mLを加えて4質量%クエン酸水溶液を調製した。これらを1:1で混合したものを、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥し、乾燥状態のフィルムを得た。乾燥したシャーレに注射用水を満たしたところ、速やかに膨潤し消失した。
【0168】
比較例4
ヒアルロン酸ナトリウムを用いたフィルムの調製検討及び分析
ヒアルロン酸ナトリウム(以下「HA」という。生化学工業製、重量平均分子量88万)1gに注射用水24mLを加えて4質量%HA水溶液を調製した。次いで無水クエン酸(特級、和光純薬製)1gに注射用水24mLを加えて4質量%クエン酸水溶液を調製した。これらを1:1で混合したものを、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、50℃の乾燥機中で乾燥し、乾燥状態のフィルムを得た。乾燥したシャーレに注射用水を満たし、室温中で放置したところ、膨潤直後にはフィルム形状を維持していたものの、24時間後においては溶解・消失していた。
【0169】
比較例3及び4の結果から水難溶性のフィルムを得るためには、カルボキシル基を有するセルロース誘導体を用いることが必須であることが示唆された。
【0170】
比較例5
フィルムの調製における乾燥温度の検討
CMCNa(ナカライテスク製、質量平均分子量22万)1gに注射用水24mLを加えて4質量%CMC水溶液を調製した。次いで無水クエン酸(特級、和光純薬製)1gに注射用水24mLを加えて4質量%クエン酸水溶液を調製した。これらを1:1で混合したものを、滅菌済みプラスチックシャーレ上に5mL分注し、−80℃の冷凍庫中で凍結した。これを室温で凍結乾燥し、白色のスポンジ様乾燥物を得た。この乾燥物を注射用水に浸したところ、速やかに溶解、消失した。
【0171】
比較例6
SepraFilmを用い、ラット子宮角癒着モデルにおける、癒着防止効果および生体内における分解性の検討を行った。試験は、実施例10に記載の方法と同様の方法により行った。
【0172】
その結果、3例中3例とも強度の癒着を生じており、癒着防止効果は認められなかった。また、SepraFilmは消失していた。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明は、強度の観点から取扱いが容易で、生体に対する安全性が高い水難溶性組成物を提供することができる。本発明の水難溶性組成物は、このような特性が特に要求される「医用材料」、例えば、癒着防止材、創傷部を保護するために用いられる創傷被覆材、薬剤徐放用基材、空隙保持材等の用途に好適に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】CMC/クエン酸フィルムからのCMC溶出量の割合の経時変化を示す。フィルム中に含まれる全てのCMCが溶出した場合(溶解時)の溶出率は100%となる。
【図2】SeparaFilmと、実施例1で得たCMC/クエン酸フィルムとの、乾燥状態及び湿潤状態のそれぞれにおける、破断強度の比較を示す。図中、SepraFilm/Dryは、乾燥状態のSepraFilmを、CMC/CA/Dryは乾燥状態のCMC/クエン酸フィルムを示す。また、SepraFilm/Wetは、湿潤状態のSepraFilmを、CMC/CA/Wetは湿潤状態のCMC/クエン酸フィルムを示す。
【図3】種有機酸を用いたゲルの流動性の比較結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液を調製するステップを少なくとも含むことを特徴とする、水難溶性組成物の製造方法。
【請求項2】
カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液が、実質的にアルミニウムイオンを含有しないものである、請求項1に記載の水難溶性組成物の製造方法。
【請求項3】
カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液を、乾燥、加温、又は放置するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の水難溶性組成物の製造方法。
【請求項4】
分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸が、下記群より選択される1又は2以上の有機酸である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法;
クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、オキサロ酢酸、フマル酸、アコニット酸。
【請求項5】
カルボキシアルキルセルロースの塩が下記の群より選択されるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法;
カルボキシメチルセルロースの塩、カルボキシエチルセルロースの塩、カルボキシプロピルセルロースの塩。
【請求項6】
カルボキシアルキルセルロースの塩と、水難溶性化剤として「分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸」とを含有する混合水溶液中の、カルボキシアルキルセルロースの塩と分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸の質量比が、100:20〜100:150である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法によって製造される水難溶性組成物。
【請求項8】
カルボキシアルキルセルロースの塩を、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸を介して水難溶性化させてなる水難溶性組成物。
【請求項9】
分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸のカルボキシル基を介して水難溶性化させてなるものである、請求項8に記載の水難溶性組成物。
【請求項10】
分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸が、下記の群より選択される1又は2以上の有機酸である、請求項8又は9に記載の水難溶性組成物;
クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、オキサロ酢酸、フマル酸、アコニット酸。
【請求項11】
カルボキシアルキルセルロースの塩が下記の群より選択されるものである、請求項8〜10のいずれか1項に記載の水難溶性組成物;
カルボキシメチルセルロースの塩、カルボキシエチルセルロースの塩、カルボキシプロピルセルロースの塩。
【請求項12】
水難溶性組成物が、カルボキシアルキルセルロースと、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸とを、質量比にして100:10〜100:50の割合で含有する、請求項7〜11のいずれか1項に記載の水難溶性組成物。
【請求項13】
ゲル状又はフィルム状の物質である、請求項7〜12のいずれか1項に記載の水難溶性組成物。
【請求項14】
60℃のリン酸緩衝生理食塩水中に浸したとき、3週間後において目視的に形状を認めることができ、且つカルボキシアルキルセルロースの塩の溶出量が50%以下である、請求項7〜13のいずれか1項に記載の水難溶性組成物。
【請求項15】
請求項7〜14のいずれか1項に記載の組成物から形成される医用材料。
【請求項16】
癒着防止材である、請求項15記載の医用材料。
【請求項17】
薬剤徐放用基材である、請求項15記載の医用材料。
【請求項18】
空隙保持材である、請求項15記載の医用材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−13510(P2008−13510A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187646(P2006−187646)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】