説明

水電解装置

【課題】コスト低減を図ると共に、水電解性能を向上させることが可能な水電解装置を提供する。
【解決手段】本実施の形態に係る第一の水電解装置10Aは、高分子固体電解質膜11と、その両面に水素極触媒層12Aと酸素極触媒層13Aとを有すると共に、水素極触媒層12A及び酸素極触媒層13Aに給電させる給電体14Aを水素極触媒層12A及び酸素極触媒層13Aの外側に各々配してなる水電解セル15Aと、該水電解セル15Aを複数のセパレータ板16、16で挟みつつ複数積層してセルスタックを構成してなる水電解装置において、水素極触媒層12Aが、Pt粒子を担持したPt担持カーボン触媒17とPtブラック粒子19とを混合してなるものである。水素極触媒層12Aで使用されているPtブラック粒子19の使用量を減らすことができると共に、従来と同等かそれ以上の水電解性能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的な反応を利用して水を電気分解する水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水電解セルは、電気化学的な反応を利用して水を電気分解し、水素や酸素等を発生させるものである。例えば、電解質として高分子電解質膜を使用する水電解装置は、高分子固体電解質膜、触媒電極(水素極触媒、酸素極触媒)、触媒電極に電流を流すための給電体、それらを収めたセパレータを備えている。
【0003】
例えば、従来の水電解装置の一例を図14に示す。図14に示すように、従来の水電解装置100は、水電解セル101が導電性のセパレータ板102で挟まれて構成されており、水電解セル101は、高分子固体電解質膜103と、その両側に設けられた水素極触媒層104と酸素極触媒層105と、各々の触媒層の外側に配置してなる給電体106とから構成されている。図中、符号107はゴムパッキンである。また、複数の水電解セル101を、セパレータ板102を介して積層したセルスタック構造とすることができる。
【0004】
また、水素極触媒層104には白金(Pt)ブラック粒子110を、酸素極触媒層105にはPtブラック粒子110と酸化イリジウム(IrO2)粒子111を、セパレータ板102にはチタン(Ti)が各々用いられている。これは、水電解電位が高く、さらにセル構成として強酸性の高分子固体電解質膜103を使用するため、安価な汎用金属が使用できず、Ptなどのように貴金属メッキ及び貴金属触媒しか使用できないためである。
【0005】
また、給電体106にはPtめっきを施したチタン製のメッシュが用いられている。これは、酸素極側にカーボンを使用すると、高電位では酸素と反応して炭酸ガスとなり腐食されるからである。また、カーボンは1.2V以上で酸化分解するため酸素雰囲気では使用できず、給電体106としてカーボンを用いることはできないためである。
【0006】
酸素極触媒層105を有するアノード側に水を供給し、給電体106に電圧をかけることで、下記式(1)のように、アノード側で、水が分解され、酸素が発生し、水素イオンが高分子固体電解質膜103中を移動する。
2O → 2H+2e+1/2O2↑ …(1)
【0007】
そして、水素極触媒層104を有するカソード側で、下記式(2)のように、高分子固体電解質膜103中を移動してきた水素イオンが電子を受け取り水素が発生する。
2H+2e → H2↑ …(2)
【0008】
このように、従来の水電解装置100は、水を電気分解することで水素を発生させるようにしている(特許文献1、特許文献2、参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2005−298938号公報
【特許文献2】特開平08−269761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の水電解装置100では、触媒としてPtブラック粒子110を用い、給電体106としてPtメッキしたチタン製のメッシュをして使用しているため、Ptの使用量が多く、水電解セル101のコストが高い、という問題ある。
【0011】
本発明は、前記問題に鑑み、コスト低減を図ると共に、水電解性能を向上させることが可能な水電解装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、高分子固体電解質膜の両面に水素極触媒層と酸素極触媒層とを有すると共に、前記水素極触媒層及び前記酸素極触媒層に給電させる給電体を前記水素極触媒層及び前記酸素極触媒層の外側に各々配してなる水電解セルを備えた水電解装置において、前記水素極触媒層が、白金粒子を担持した白金担持カーボン触媒を含むものであることを特徴とする水電解装置にある。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、前記水素極触媒層が、前記白金担持カーボン触媒と白金ブラック粒子とを混合したものであることを特徴とする水電解装置にある。
【0014】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記酸素極触媒層が、白金ブラック粒子と酸化イリジウム粒子とを混合したもの、又は前記酸化イリジウム粒子のみからなるものであることを特徴とする水電解装置にある。
【0015】
第4の発明は、第1乃至3の何れか一つの発明において、前記給電体が、表面に白金めっきしたチタンメッシュ、白金メッキ層を有するフォトエッチングチタンメッシュ、白金蒸着した白金蒸着層を有するフォトエッチングチタンメッシュの何れか一つであることを特徴とする水電解装置にある。
【0016】
第5の発明は、第3又は4の発明において、前記酸化イリジウム粒子が、比表面積が50m2/g以上の高比表面積酸化イリジウム粒子であることを特徴とする水電解装置にある。
【0017】
第6の発明は、第1乃至5のいずれか一つの発明において、前記水電解セルを複数のセパレータ板で挟みつつ複数積層してセルスタックを構成してなることを特徴とする水電解装置にある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高分子固体電解質膜の片側に設けた水素極触媒層が、白金粒子を担持した白金担持カーボン触媒を含むものであるため、白金(Pt)ブラック粒子の使用量を減少させてもカーボン担体表面にPt粒子を担持することでPtの比表面積を増大させることができる。このため、Pt表面での反応面積が少量でもPtブラック粒子のみを用いた場合と同等の水電解反応が可能となり、コスト低減を図ると共に、水電解性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0020】
[第一の実施の形態]
本発明による第一の実施の形態に係る水電解装置について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明による第一の実施の形態に係る水電解装置の構成を簡略に示す概略図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る第一の水電解装置10Aは、高分子固体電解質膜11と、その両面に水素極触媒層12Aと酸素極触媒層13Aとを有すると共に、水素極触媒層12A及び酸素極触媒層13Aに給電させる給電体14Aを水素極触媒層12A及び酸素極触媒層13Aの外側に各々配してなる水電解セル15Aと、該水電解セル15Aを複数のセパレータ板16、16で挟みつつ複数積層してセルスタックを構成してなる水電解装置において、水素極触媒層12Aが、白金(Pt)粒子を担持した白金(Pt)担持カーボン触媒17を含むものである。なお、本実施の形態では、単セル構造を用いて説明する。
また、図中、符号18は、ゴムパッキンを図示する。
【0021】
ここで、本発明で水素極触媒層12Aは、白金(Pt)ブラック粒子19とPt担持カーボン触媒17とを混合してなるものである。水素極触媒層12Aは、Ptブラック粒子19及びPt担持カーボン触媒17を高分子電解質溶液21と撥水化剤22とから溶液に分散させ、このPtブラック粒子19とPt担持カーボン触媒17とを含有する溶液を塗布して形成されたものである。
【0022】
また、本実施の形態においては、水素極触媒層12Aとして、Ptブラック粒子19とPt担持カーボン触媒17とを混合したものを用いているが、Ptブラック粒子19を加えずPt担持カーボン触媒17のみを用いるようにしてもよい。
【0023】
また、酸素極触媒層13Aは、白金(Pt)ブラック粒子19と酸化イリジウム(IrO2)粒子20とを混合してなるものである。酸素極触媒層13Aは、Ptブラック粒子19と酸化イリジウム(IrO2)粒子20を高分子電解質溶液21と撥水化剤22とに分散させた溶液を用いて給電体14Aと接する面にメッキを行い、形成されたものである。また、本実施の形態においては、酸素極触媒層13Aとして、Ptブラック粒子19とIrO2粒子20とを混合したものを用いているが、Ptブラック粒子19を加えずIrO2粒子20のみを用いるようにしてもよい。
【0024】
給電体14Aは、材質としてチタン(Ti)が使用され、表面にPtめっきしたチタンメッシュが用いられる。給電体14Aとしてはこれに限定されるものではなく、例えばチタン金属繊維のウェブ焼結体からなる布であって、この布繊維間に多数の空隙を有するものなどを用いてもよい。
【0025】
高分子固体電解質膜11としては、例えば、スルホン酸基を持つフッ素樹脂系陽イオン交換膜、例えば「NAFION(登録商標)」 N-112,N-115,N-117,NE-1110(商品名:デュポン社製)等を用いることができる。その他フッ素樹脂系陽イオン交換膜としては、旭化成ケミカルズ株式会社製のフッ素系陽イオン交換膜(商品名:アシプレックス−F(AciplexF))及び旭硝子株式会社製のフッ素系陽イオン交換膜(商品名:フレミオン)を用いることができる。高分子固体電解質膜11としては、特にこれに限定されるものではない。
【0026】
本実施の形態に係る第一の水電解装置10Aにおいては、酸素極触媒層13Aを有するアノード側に水を供給し、給電体14Aに電圧をかけると、アノード側で水が分解され、酸素が発生し、水素イオンが高分子電解質膜11中を移動する(下記式(1)、参照)。
2O → 2H +2e + 1/2O2↑ …(1)
【0027】
そして、水素極触媒層12Aを有するカソード側で、高分子固体電解質膜11中を移動してきた水素イオンが電子を受け取り水素が発生する(下記式(2)、参照)。
2H+2e → H2↑ …(2)
【0028】
本実施の形態に係る第一の水電解装置10Aにおいては、水素極触媒層12AにPtブラック粒子19とPt担持カーボン触媒17とを混合してなるものを用いているため、水素極触媒層12Aで使用されているPtブラック粒子19の使用量を減らすことができると共に、図14に示すような従来の水電解装置100と同等かそれ以上の水電解性能を有することができる。
【0029】
これは、図14に示すような従来の水電解装置100の水素極触媒層104で用いられるPtブラック粒子110は粒径が数十μm程度で比表面積は数m2/g以下であるのに対し、Pt担持カーボン触媒17のカーボン担体表面に担持したPt粒子の比表面積は100m2/g以上に相当するためである。
【0030】
このため、Pt担持カーボン触媒17と白金(Pt)ブラックの合計Pt使用重量が少量でも水素極触媒層12Aは、図14に示すような従来の水電解装置100のようにPtブラック粒子110のみからなる触媒層の場合と同等の反応面積を有し、従来と同等の水電解反応を可能とすることができる。
【0031】
このように、本実施の形態に係る第一の水電解装置10Aによれば、水素極触媒層12Aが、Ptブラック粒子19とPt担持カーボン触媒17とを混合してなるものであるため、触媒層でのPtブラック粒子19の使用量を従来より減少させてもPt担持カーボン触媒17のカーボン担体表面に担持したPt粒子の比表面積は増大しているため、Pt使用重量が少量でも触媒層にPtブラック粒子19のみを用いた場合と同等の水電解反応が可能となり、コスト低減を図ると共に、水電解性能を向上させることができる。
【0032】
また、本実施の形態においては、セパレータ板16を水電解セル15Aの両側に一組設けるようにしているが、セパレータ板16を介して水電解セル15Aを少なくとも二つ以上積層させるようにしてもよい。
【0033】
[第二の実施の形態]
本発明による第二の実施の形態に係る水電解装置について、図2を参照して説明する。
図2は、本発明による第二の実施の形態に係る水電解装置の構成を簡略に示す概念図である。
図2に示すように、本実施の形態に係る第二の水電解装置10Bは、図1に示す第一の実施の形態に係る第一の水電解装置10Aの構成と同様であるため、同一部材には同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0034】
図2に示すように、本実施の形態に係る第二の水電解装置10Bは、前記図1に示した第一の実施の形態に係る第一の水電解装置10Aの給電体14Aに代えて表面にPtめっきしたPtメッキ層23を有するフォトエッチングチタンメッシュ24を用いたものである。
【0035】
即ち、本実施の形態に係る第二の水電解装置10Bの水電解セル15Bは、給電体14Aに代えて表面にPtメッキ層23を有するフォトエッチングチタンメッシュ24からなる給電体14Bを有するものである。
【0036】
表面にPtメッキ層23を有するフォトエッチングチタンメッシュ24からなる給電体14Bを用いることで、水素極触媒層12A、酸素極触媒層13Aの各々の触媒層のPtブラック粒子19の添加量を大幅に低減しても図14に示すような従来の水電解装置100と同等の水電解性能を得ることができる。
【0037】
これは、水素極触媒層12A、酸素極触媒層13Aの内部の電子伝導性を確保するため、Ptを添加していたが、給電体14Bの表面にフラットなPtメッキ層23を形成しているため、水素極触媒層12A、酸素極触媒層13Aの触媒表面のPtメッキ層23との接触面積が増大し、電子伝導性を確保することができるためである。
【0038】
また、Ptメッキ層23の膜厚としては、例えば1μm〜3μm程度が好ましく、実用的には2μm程度が好ましい。コスト的には膜厚が薄ければ薄いほど白金使用量が少なくなりコスト的に有利となるが、一般的なメッキ法では1μm以下の厚さではピンホール(メッキされていない部分)が発生しやすくなるためである。
【0039】
また、図3、4は、本実施の形態に係る水電解装置の他の構成を簡略に示す概念図である。図3に示すように、本実施の形態に係る第二の水電解装置10Cは、Ptブラック粒子19とPt担持カーボン触媒17とを混合してなる水素極触媒層12Aに代えて、Ptブラック粒子19を添加せず、Pt担持カーボン触媒17のみからなる水素極触媒層12Bを有する水電解セル15Cを用いるようにしてもよい。
【0040】
また、図4に示すように、本実施の形態に係る第二の水電解装置10Dは、Ptブラック粒子19とIrO2粒子20とを混合してなる酸素極触媒層13Aに代えて、Ptブラック粒子19を添加せず、IrO2粒子20のみからなる酸素極触媒層13Bを有する水電解セル15Cを用いるようにしてもよい。
【0041】
Ptブラック粒子19を添加せず、Pt担持カーボン触媒17のみからなる水素極触媒層12Bや、Ptブラック粒子19を添加せず、IrO2粒子20のみからなる酸素極触媒層13Bを用いても、表面にPtメッキ層23を有するフォトエッチングチタンメッシュ24からなる給電体14Bを設けることで、触媒層の触媒表面のPtメッキ層23との接触面積が増大し、電子伝導性を確保することができる。このため、Ptブラック粒子19を添加しなくても図14に示すような従来の水電解装置100と同等の水電解性能を得ることができる。
【0042】
このように、本実施の形態に係る第二の水電解装置10B〜Dによれば、表面にPtメッキ層23を有するフォトエッチングチタンメッシュ24からなる給電体14Bを有することで、水電解セル15Bの単位面積当たりのPt使用量を大幅に低減することができると共に、Pt使用量を減らしても従来と同等の水電解反応を可能とすることができる。
【0043】
[第三の実施の形態]
本発明による第三の実施の形態に係る水電解装置について、図5を参照して説明する。
図5は、本発明による第三の実施の形態に係る水電解装置の構成を簡略に示す概念図である。
図5に示すように、本実施の形態に係る第三の水電解装置10Eは、図3に示す第二の実施の形態に係る第二の水電解装置10Cの構成と同様であるため、同一部材には同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0044】
図5に示すように、本実施の形態に係る第三の水電解装置10Eは、前記図3に示した第二の実施の形態に係る第二の水電解装置10CのIrO2粒子20を比表面積が50m2/g以上の高比表面積酸化イリジウム(IrO2)粒子25とするものである。
【0045】
即ち、本実施の形態に係る第三の水電解装置10Eの水電解セル15Eは、IrO2粒子20に代えて比表面積が50m2/g以上の高比表面積IrO2粒子25からなるものである。
【0046】
酸素極触媒層13Cに比表面積が50m2/g以上の高比表面積IrO2粒子25を用いることで、IrO2粒子20よりもナノレベルに微細化し、比表面積を増大させることができるため、触媒反応面積を増大させ、図14に示すような従来の水電解装置100よりも水電解性能を大幅に向上させることができる。
【0047】
これは、IrO2粒子20は、例えば2A/cm2の電流密度では水電解効率を80%以上に達成することは困難であったのに対し、高比表面積IrO2粒子25は、IrO2粒子20を微粒化し比表面積を例えば50m2/g以上に増大し、触媒反応面積を増大させているため、単位面積あたりの電流値が増加しても水電解性能の低下を防ぐことができるからである。
【0048】
また、図6、7は、本実施の形態に係る水電解装置の他の構成を簡略に示す概念図である。図6に示す本実施の形態に係る第三の水電解装置10Fのように、Ptブラック粒子19を添加せず、高比表面積IrO2粒子25のみからなる酸素極触媒層13Dを有する水電解セル15Fを用いるようにしてもよい。また、図7に示す本実施の形態に係る第三の水電解装置10Gのように、図1に示す第一の実施の形態に係る第一の水電解装置10AのIrO2粒子20に代えて高比表面積IrO2粒子25を用いた酸素極触媒層13Eを有する水電解セル15Gを用いるようにしてもよい。また、Ptブラック粒子19を添加していない高比表面積IrO2粒子25のみからなる酸素極触媒層13Dを用いてもよい。
【0049】
また、本実施の形態に係る第三の水電解装置10E〜10Gにおいて、Ptブラック粒子19を各々の触媒層に添加したものを触媒層として用いるようにしてもよい。
【0050】
このように、本実施の形態に係る第三の水電解装置10E〜Gによれば、酸素極触媒層13C、13Dに比表面積が50m2/g以上(より好ましくは60m2/g以上)の高比表面積IrO2粒子25を用いることで、IrO2粒子20よりもナノレベルに微細化し、比表面積を増大し、触媒反応面積を増大させることができるため、単位面積あたりの電流値を増加させても水電解性能の低下を防ぎ、水電解性能を向上させることができる。
[第四の実施の形態]
【0051】
本発明による第四の実施の形態に係る水電解装置について、図8を参照して説明する。
図8は、本発明による第四の実施の形態に係る水電解装置の構成を簡略に示す概念図である。
図8に示すように、本実施の形態に係る第四の水電解装置10Hは、図5に示す第三の実施の形態に係る第三の水電解装置10Eの構成と同様であるため、同一部材には同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0052】
図8に示すように、本実施の形態に係る第四の水電解装置10Hは、前記図5に示した第三の実施の形態に係る第三の水電解装置10Eの給電体14Bに代えて表面にPt蒸着したPt蒸着層26を有するフォトエッチングチタンメッシュ24からなる給電体14Cを用いたものである。
【0053】
即ち、本実施の形態に係る第四の水電解装置10Hの水電解セル15Hは、表面にPt蒸着層26を有するフォトエッチングチタンメッシュ24からなる給電体14Cを有するものである。
【0054】
表面にPt蒸着層26を有するフォトエッチングチタンメッシュ24からなる給電体14Cを用いることで、図2〜図4に示す第二の実施の形態に係る第二の水電解装置10B〜10D、図5〜図7に示す第三の実施の形態に係る第三の水電解装置10E〜10Gのように、フォトエッチングチタンメッシュ24の表面にPtメッキ層23を用いるより、Ptメッキ層23を有するフォトエッチングチタンメッシュ24からなる給電体14Bと同様、触媒層の触媒表面とPt蒸着層26との接触面積が増大し、電子伝導性を確保することができる。このため、水電解セル15の単位面積当たりのPt使用量を大幅に低減することができると共に、Pt粒子量を減らしても図14に示すような従来の水電解装置100と同等の水電解性能を得ることができる。
【0055】
また、Pt蒸着層26の膜厚としては、0.1μm〜0.5μm程度が好ましく、実用的には0.2μm程度が好ましい。これは、コスト的には膜厚が薄ければ薄いほど白金使用量が少なくなりコスト的に有利となるが、蒸着法では0.1μm以下の厚さではピンホール(メッキされていない部分)が発生しやすくなるためである。
【0056】
また、図9は、本実施の形態に係る水電解装置の他の構成を簡略に示す概念図である。図9に示す本実施の形態に係る第四の水電解装置10Iのように、Ptブラック粒子19を添加せず、高比表面積IrO2粒子25のみからなる酸素極触媒層13Dを有する水電解セル15Iを用いるようにしてもよい。
【0057】
よって、図8、9に示す本実施の形態に係る第四の水電解装置10H、10Iによれば、表面にPt蒸着層26を有するフォトエッチングチタンメッシュ24からなる給電体14Cを有することで、水電解セル15の単位面積当たりのPt使用量を大幅に低減することができると共に、Pt使用量を減らしても従来と同等の水電解反応を可能とすることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の効果を示す実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
本実施の形態に係る水電解装置の水電解セルの水電解性能(エネルギー効率)について検証する。
【0060】
[水電解セルの作成方法]
【0061】
まず、本実施例において用いられる水電解セルの作成方法について説明する。
触媒、高分子電解質溶液、撥水化材(結着材)をエタノール溶液に分散させた水素極用スラリーと酸素極用スラリーをそれぞれ作成し、過熱吸引台にセットした高分子電解質膜(商品名:ナフィオン膜)にスプレー塗布法で片面づつ均一に所定量塗布した。そして、両面に触媒層を塗布したセルを約80℃で所定時間乾燥した後、所定温度、所定圧力で約1分間ホットプレスし、均一なセルを得た。その後、セルを約100℃で所定時間煮沸洗浄することで、水電解セルを得た。
【0062】
実施例1において用いられる水電解セルの作成方法について具体的に説明する。
白金ブラック1.5g、白金担持カーボン(白金66.8wt%カーボン担持触媒)0.5g、撥水化剤としてPTFE粉末0.37gを秤量し、約100ccのガラス容器に入れた。そして、5wt%ナフィオン溶液15.8ml(デュポン社製)、エタノール68mlを加え、超音波分散を5分間行い、水素極触媒層用のスプレー塗布用スラリーとした。
また、白金ブラック3.0g、酸化イリジウム3.7g、撥水化剤としてPTFE粉末0.48gを秤量し、約100ccのガラス容器に入れ、次に5wt%ナフィオン溶液25.2ml、エタノール90mlを加え、超音波分散を5分間行い、酸素極触媒用のスプレー塗布用スラリーとした。
そして、所定サイズに切り出したナフィオン膜を多孔質板プレートの吸引式過熱台に設置し、プレート表面温度を80℃に保持しながら、自動スプレー塗布装置を用いて、酸素極側、負極側の順に上記のようにして作成したスラリーを各々スプレー塗布し、触媒層を成型した。
また、ナフィオン膜両面に触媒層を塗布した水電解セルは、80℃、1時間乾燥後、約30℃の恒温槽で保管し、重量が恒量となること(重量が変化しないこと)を確認してから使用した。
そして、作成した上記水電解セルを約2mm厚のPTFE板で挟みこみ、更に両側を厚さ1mmのステンレス板で挟みこんで、面圧10kgf/cm2の圧力でプレスし、160℃まで昇温後、1分間保持してホットプレスを行った。その後、作成した水電解セルをイオン交換水中、室温で約8時間以上浸漬後、約100℃まで煮沸し、約1時間保持し、冷却することで洗浄処理を行った。
【0063】
比較例1、2及び実施例2〜実施例11において用いられる水電解セルの作成方法についても、上記実施例1と同様の方法でスラリーを各々作成し、同様にスプレー塗布法により水電解セルを作成した。
【0064】
以上、前記のようにして作成された水電解セルの水素極触媒層と酸素極触媒層での材料の種類と各々の使用量をまとめた結果を下記表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
また、前記のようにして作成された水電解セルの水素極触媒層と給電体との水素極白金使用量、酸素極触媒層と給電体との酸素極白金使用量、酸化イリジウム比表面積、給電体の種類をまとめた結果を下記表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
[実施例1〜実施例4及び比較例1の水電解性能(エネルギー効率)の検証]
本発明の第一の実施の形態に係る水電解装置と第三の実施の形態に係る水電解装置の水電解セルを用いた実施例1〜実施例4と図14に示すような従来の水電解装置100の水電解セル101を用いた比較例1について、電解性能(エネルギー効率)を検証した。
【0069】
[水電解セルの評価方法]
水電解セルの評価方法について説明する。水電解セルに給電体としてPtメッキしたチタンメッシュを両極側から挟み、水電解セルとした。その後、純水を供給し、所定電流を流した時の電圧と発生ガス量及び不純物濃度を測定し、電流効率と電圧効率から電解性能(エネルギー効率)を求めた。
【0070】
本発明の第一の実施の形態と第三の実施の形態に係る水電解装置の水電解セルに用いる実施例1〜実施例4と図14に示すような従来の水電解装置100の水電解セルに用いる比較例1について、電解性能(エネルギー効率)を上記表2に示す。
【0071】
[実施例1〜実施例4及び比較例1の水電解性能(エネルギー効率)]
図10は、水素極触媒層の合計白金担持量とエネルギー効率との関係を示した図である。表2、図10に示すように、本発明の第一の実施の形態に係る水電解装置と第三の実施の形態に係る水電解装置の水電解セルを用いた実施例1〜実施例4の水素極触媒層の合計白金担持量が、図14に示すような従来の水電解装置100を用いた比較例1の水素極触媒層104の合計白金担持量よりも少ないにも関わらず、本発明の第一の実施の形態に係る水電解装置と第三の実施の形態に係る水電解装置の水電解セルを用いた実施例1〜実施例4の方が図14に示すような従来の水電解装置100を用いた比較例1よりも電解性能(エネルギー効率)が高いか同等であった。
【0072】
よって、水素極触媒層にPtブラック粒子とPt担持カーボン触媒とを混合してなるものを用いると共に、酸素極触媒層に高比表面積酸化イリジウム粒子を用いることで、従来より水素極触媒層でのPtブラック粒子の使用量を減少させても、従来と同等かそれ以上の水電解性能を有することが確認できた。
【0073】
[実施例5〜実施例8の水電解性能(エネルギー効率)]
本発明の第二の実施の形態と第三の実施の形態に係る水電解装置を用いた実施例5〜実施例8の水電解性能について説明する。
本発明の第二の実施の形態と第三の実施の形態に係る水電解装置の水電解セルを用いた実施例5〜実施例8の水素極触媒層の水素極白金使用量、酸素極触媒層の酸素極白金使用量、水素極触媒層と酸素極触媒層との合計白金担持量を合わせた両極合計白金担持量、給電体の種類、水電解セルの電解性能(エネルギー効率)を上記表2に示す。
【0074】
図11は、水電解装置の両電極合計白金担持量とエネルギー効率との関係を示した図である。表2、図11に示すように、本発明の第二の実施の形態に係る水電解装置と第三の実施の形態に係る水電解装置の水電解セルを用いた実施例5〜実施例8の両極合計白金担持量が、本発明の第一の実施の形態に係る水電解装置と第三の実施の形態に係る水電解装置の水電解セルを用いた実施例1〜実施例4の両極合計白金担持量よりも少ないにも関わらず、水電解セルの電解性能(エネルギー効率)がほぼ同等であった。
【0075】
また、図14に示すような従来の水電解装置100の水電解セルを用いた比較例1と比較しても、実施例5〜実施例8の両極合計白金担持量の方が、比較例1の両極合計白金担持量よりも少ないにも関わらず、実施例5〜実施例8の方が図14に示すような従来の水電解装置100を用いた比較例1と電解性能(エネルギー効率)がほぼ同等であった。
【0076】
よって、表面にPtメッキ層を有するフォトエッチングチタンメッシュからなる給電体を使用し、水素極触媒層にPt担持カーボン触媒のみを用いると共に、酸素極触媒層に高比表面積IrO2粒子を用いることで、水素極触媒層にPtブラック粒子を添加しなくても従来とほぼ同等の水電解性能を得ることができる。
【0077】
[高比表面積IrO2粒子の比表面積の水電解性能(エネルギー効率)への影響]
異なる比表面積を有する高比表面積IrO2粒子を用いた水電解セルの水電解性能について説明する。
実施例5、6は、比表面積が約60m2/gの高比表面積IrO2粒子を用い、実施例7、8は、比表面積が約112m2/gの高比表面積IrO2粒子を用いたものである。
また、比較例2は比表面積が約1.0m2/gのIrO2粒子を水素極触媒層に用いたものである。
【0078】
実施例5、6のIrO2粒子の比表面積を上記表2に示す。
また、比表面積が約1.0m2/gのIrO2粒子を水素極触媒層に用いた水電解装置の比較例2の水電解セルの水素極触媒層と給電体との水素極白金使用量、酸素極触媒層と給電体との酸素極白金使用量、IrO2粒子の比表面積、給電体の種類、水電解セルの電解性能(エネルギー効率)を上記表2に示す。
【0079】
図12は、酸化イリジウム粒子の比表面積とエネルギー効率との関係を示した図である。表2、図12に示すように、高比表面積IrO2粒子を水素極触媒層に用いた実施例5〜実施例8の方が、比表面積が約1.0m2/gのIrO2粒子からなる水素極触媒層を用いた比較例2に比べ水電解性能を大幅に向上させることができた。
【0080】
よって、酸素極触媒層に高比表面積のIrO2粒子を用い、従来から用いられているIrO2粒子よりもナノレベルに微細化することで、従来よりも水電解性能を大幅に向上させることができる。
【0081】
[実施例9〜実施例11の水電解性能(エネルギー効率)]
本発明の第四の実施の形態に係る水電解装置を用いた実施例9〜実施例11の水電解性能について説明する。
本発明の第四の実施の形態に係る水電解装置の水電解セルを用いた実施例9〜実施例11の水素極触媒層の合計白金担持量、給電体白金メッキ使用量、酸素極触媒層の合計白金担持量、給電体白金メッキ使用量、両極合計白金担持量、両極合計白金使用量、給電体の種類、水電解セルの電解性能(エネルギー効率)を表2に示す。
両極合計白金使用量は、両極合計白金担持量と両電極の合計白金担持量とを合計したものである。
【0082】
図13は、水電解装置の両電極合計白金使用量とエネルギー効率との関係を示した図である。表2、図13に示すように、本発明の第四の実施の形態に係る水電解装置の水電解セルを用いた実施例9〜実施例11の両極合計白金使用量の方が、図5に示す第三の実施の形態に係る第三の水電解装置10Eを用いた実施例7、8の両極合計白金使用量よりも大幅に少ないにも関わらず、水電解セルの電解性能(エネルギー効率)がほぼ同等であった。
【0083】
また、図14に示すような従来の水電解装置100の水電解セルを用いた比較例1と比較しても、実施例9〜実施例11の両極合計白金使用量の方が、図14に示すような従来の水電解装置100を用いた比較例1、2の両極合計白金使用量よりも大幅に少ないにも関わらず、水電解セルの電解性能(エネルギー効率)がほぼ同様かそれ以上であった。
【0084】
よって、表面にPt蒸着層を有するフォトエッチングチタンメッシュからなる給電体を使用し、水素極触媒層にPt担持カーボン触媒のみを用いると共に、酸素極触媒層に高比表面積IrO2粒子を用いることで、水電解セルの単位面積当たりのPt使用量を大幅に低減することができると共に、触媒層にPtブラック粒子を添加しなくても従来とほぼ同等の水電解性能を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、本発明に係る水電解装置は、水電解セルでのPt使用量を減少させつつ従来と同様の水電解反応が可能であり、コスト低減を図りつつ水電解性能を向上させることができるため、水を電気分解して水素を発生させる水電解装置に用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明による第一の実施の形態に係る水電解装置の構成を簡略に示す概略図である。
【図2】本発明による第二の実施の形態に係る水電解装置の構成を簡略に示す概念図である。
【図3】本発明による第二の実施の形態に係る水電解装置の他の構成を簡略に示す概念図である。
【図4】本発明による第二の実施の形態に係る水電解装置の他の構成を簡略に示す概念図である。
【図5】本発明による第三の実施の形態に係る水電解装置の構成を簡略に示す概念図である。
【図6】本発明による第三の実施の形態に係る水電解装置の他の構成を簡略に示す概念図である。
【図7】本発明による第三の実施の形態に係る水電解装置の他の構成を簡略に示す概念図である。
【図8】本発明による第四の実施の形態に係る水電解装置の構成を簡略に示す概念図である。
【図9】本発明による第四の実施の形態に係る水電解装置の他の構成を簡略に示す概念図である。
【図10】水素極触媒層の合計白金担持量とエネルギー効率との関係を示した図である。
【図11】水電解装置の両電極合計白金担持量とエネルギー効率との関係を示した図である。
【図12】酸化イリジウム粒子の比表面積とエネルギー効率との関係を示した図である。
【図13】水電解装置の両電極合計白金使用量とエネルギー効率との関係を示した図である。
【図14】従来の水電解装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0087】
10A 第一の水電解装置
10B〜10D 第二の水電解装置
10E〜10G 第三の水電解装置
10H、10I 第四の水電解装置
11 高分子固体電解質膜
12A、12B 水素極触媒層
13A〜13C 酸素極触媒層
14A〜14C 給電体
15A〜15I 水電解セル
16 セパレータ板
17 Pt担持カーボン触媒
18 ゴムパッキン
19 Ptブラック粒子
20 酸化イリジウム(IrO2)粒子
21 高分子電解質溶液
22 撥水化剤
23 Ptメッキ層
24 フォトエッチングチタンメッシュ
25 高比表面積酸化イリジウム(IrO2)粒子
26 Pt蒸着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子固体電解質膜の両面に水素極触媒層と酸素極触媒層とを有すると共に、前記水素極触媒層及び前記酸素極触媒層に給電させる給電体を前記水素極触媒層及び前記酸素極触媒層の外側に各々配してなる水電解セルを備えた水電解装置において、
前記水素極触媒層が、白金粒子を担持した白金担持カーボン触媒を含むものであることを特徴とする水電解装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記水素極触媒層が、前記白金担持カーボン触媒と白金ブラック粒子とを混合したものであることを特徴とする水電解装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記酸素極触媒層が、白金ブラック粒子と酸化イリジウム粒子とを混合したもの、又は前記酸化イリジウム粒子のみからなるものであることを特徴とする水電解装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一つにおいて、
前記給電体が、表面に白金めっきしたチタンメッシュ、白金メッキ層を有するフォトエッチングチタンメッシュ、白金蒸着した白金蒸着層を有するフォトエッチングチタンメッシュの何れか一つであることを特徴とする水電解装置。
【請求項5】
請求項3又は4において、
前記酸化イリジウム粒子が、比表面積が50m2/g以上の高比表面積酸化イリジウム粒子であることを特徴とする水電解装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つにおいて、
前記水電解セルを複数のセパレータ板で挟みつつ複数積層してセルスタックを構成してなることを特徴とする水電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−209379(P2009−209379A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50308(P2008−50308)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「水素安全利用等基盤技術開発/水素に関する共通基盤技術開発/固体高分子水電解技術の低コスト化の研究」委託研究、 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】