説明

氷点降下法による浸透圧測定方法及び装置

【課題】 簡易且つエネルギー消費の少ない構造で、再現性良く正確に試料液の浸透圧を測定できる氷点降下法による浸透圧測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】 試料液Sを収容して過冷却する収容部2aを有するセルブロック2と、収容部2aから離間した位置に配置され、超低温エアーを作り出すエアー冷却ブロック10とを備えた浸透圧測定装置1であって、試料液Sが所定の過冷却温度に達したときに、エアー冷却ブロック10から超低温エアーを送り出して試料液Sの液面に吹きかけることによって試料液Sを凍結させる。このときの氷点降下度から試料液Sの浸透圧が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料、例えば臨床検査の対象となる血液、尿等の体液や、注射液、点眼液等の医薬品の浸透圧を氷点降下法により測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
氷点降下法による浸透圧の測定は、水溶液の氷点降下度とその浸透圧とが比例関係にあることを利用して、試料液の氷点を正確に測定し、求めた氷点降下度から試料液の浸透圧を算出するものであり、例えば、非特許文献1に詳細に記載されている。
【0003】
この浸透圧を求めるための氷点測定方法を簡単に説明すると、測定セル内の試料液を過冷却し、この過冷却状態の試料液に何らかの刺激を与えて瞬間的に氷結させ、氷結時に放出される凝固潜熱により水と氷とが共存する平衡状態が数分間程度続くので、この平衡状態での温度(温度勾配のない平坦部を呈する)を測定することにより試料液の浸透圧を得るものである。
【0004】
試料液に刺激を与える方法には、バイブレータ等で機械的振動を与える方法や、試料液の液面から上方に離間した位置に試料液の過冷却温度より低温に冷却された金属製の針状体を配置し、その表面に霜(氷晶核)を生成した後、試料液にこの氷晶核を接触させて試料液全体を氷結させる方法がある(特許文献1)。また、試料液の一部をその過冷却温度より更に低温に冷却することによって氷結させ、当該試料液自身の氷を核として試料液全体に氷結を波及させる方法がある(特許文献2)。
【0005】
【非特許文献1】「臨床検査」、vol.27、No.12、1983年11月、第1449〜1456頁
【特許文献1】特公平6−23698号公報
【特許文献2】特開平4−238258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの方法の中で特許文献1の方法は、その他の方法に比較して氷点温度と過冷却温度との差が小さくても確実に試料液全体を氷結させることができ、測定値のバラツキが少ないという利点がある。しかしながら、氷晶核を針状体に形成するために、針状体の周囲の雰囲気も同時に冷却する必要があるため、エネルギー消費が他の方法に比べて大きいという問題があった。更に、氷晶核を試料液に接触させる際、針状体若しくは試料液の液面のいずれかを移動させなければならないので、測定装置が複雑になるという問題があった。
【0007】
また、針状体は試料液の液面近くに設けられているため、針状体を試料液の過冷却温度より低温に冷却したとき、この針状体の雰囲気の冷気が降下して試料液と接触し、試料液が過冷却温度に到達する前に氷結してしまうことがあった。このように、過冷却温度に到達する前に氷結した場合は、試料液を収容している容器や冷却用セルブロック等の熱容量のため、所定の過冷却温度に到達した後に氷結したときよりも試料液の氷点が高温になるという問題があった。従って、測定に際して高い再現性を期待することできなかった。
【0008】
更に、特許文献1における針状体や、特許文献2における過冷却温度より更に低温に冷却された試料液の一部は、熱容量が比較的大きいうえ、それらと試料液とを氷結後に断熱させることは容易でない。その結果、それらと試料液とは氷結後も熱平衡を保とうとするので、氷結後の水と氷との平衡状態が長続きせず、氷点の測定が不安定になるという問題があった。この問題は、浸透圧1000mOsm/kg以上の試料液を測定するときに特に顕著であった。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、簡易且つエネルギー消費の少ない構造で、再現性良く正確に浸透圧を測定できる氷点降下法による浸透圧測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明が提供する氷点降下法による浸透圧測定装置は、試料液を収容して過冷却する収容部を有するセルブロックと、該収容部から離間した位置に配置され、超低温エアーを作り出すエアー冷却ブロックとを備えており、試料液が所定の過冷却温度に達したときに、エアー冷却ブロックから超低温エアーを送り出して該試料液の液面に吹きかけることによって試料液を凍結させること特徴としている。
【0011】
また、本発明が提供する氷点降下法による浸透圧測定方法は、試料液を過冷却すると共に、試料液から離間した位置において超低温エアーを作り出し、試料液が所定の過冷却温度に達したときに、超低温エアーを該試料液の液面に吹きかけることによって試料液を凍結させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、過冷却状態にある試料液の液面に超低温エアーを吹きかけるだけで試料液を氷結させて浸透圧を測定することができるので、試料液を氷結させる際に試料液の液面や針状体を相対移動させる必要がなくなり、装置構造が簡易になる。また、試料液に吹きかける超低温エアーはエアー冷却ブロックで作られるので、周囲雰囲気の冷却などの無駄なエネルギー消費を抑えることが可能となる。
【0013】
更に、過冷却状態の試料液に接触させる超低温媒体にエアーを使用しているので、単にエアーの動きを止めるだけで試料液は断熱状態となり、氷結後の水と氷との平衡状態を長続きさせることができる。その結果、正しい氷点を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一具体例としての浸透圧測定装置1を、図1を参照しながら説明する。浸透圧の測定が行われる試料液Sは、アルミニウム製のセルブロック2に形成された収容部2aに収容される。試料液Sは、図示しない試料液タンクから試料液注入管3を介して供給される。セルブロック2はサーモモジユールからなる温度調節可能な第1冷却装置4に熱的に結合しており、第1冷却装置4は充分な放熱容量を持つ低温装置5に熱的に接続している。
【0015】
セルブロック2の下端部には、収容部2a内の試料液Sが排出可能なように排液口が設けられており、ここにドレイン管6の一端が接続している。セルブロック2の下方で、ドレイン管6の他端には廃液容器7が配置されている。ドレイン管6には、ドレイン用ポンプ8が設けられており、このドレイン用ポンプ8を起動することにより、収容部2a内の試料液Sがドレイン管6を介して廃液容器7に排出される。
【0016】
収容部2a内の試料液Sの温度を検出するために、サーミスタ等からなる温度検出部9がセルブロック2の底部を貫通して収容部2a内に挿入されている。図示しない制御装置が、温度検出部9及び第1冷却装置4に接続しており、試料液Sの温度を制御している。
【0017】
収容部2aから離間した位置に、−20℃〜−30℃の超低温エアーを作り出すエアー冷却ブロック10が設けられている。エアー冷却ブロック10の内部には、超低温エアーを作り出す空間部10aが形成されている。尚、図1では、この空間部10aはスパイラル形状を有しているが、かかる形状に限定されるものではなく、他の形状を有していても良い。また、エアー冷却ブロック10は、収容部2aの上方に設けられているが、かかる位置に限定されるものではなく、例えば、収容部2aの横方向に設けられても良い。
【0018】
空間部10aは2つの開口部を有しており、その内の一方は収容部2aに収容される試料液Sの液面に向けられている。また、空間部10aの他方の開口部はエアー管11を介してエアーポンプ12に接続している。エアー冷却ブロック10の一側面は、サーモモジユールからなる温度調節可能な第2冷却装置13に熱的に結合しており、残りの面は前述した両開口部を除いて断熱材14で覆われている。この第2冷却装置13も、第1冷却装置4と同様に、低温装置5に接続している。
【0019】
次に、上記浸透圧測定装置1を用いて試料液Sの浸透圧を測定する操作を説明する。この浸透圧測定装置1により試料液Sの浸透圧を測定するためには、先ず図示しない試料液タンクから試料液注入管3を介して適量の試料液Sをセルブロック2の収容部2aに供給する。このとき、試料液Sが過剰に供給された場合は、ドレイン用ポンプ8を起動して余分な試料液を廃液容器7に排出しても良い。
【0020】
次に、第1冷却装置4を作動させてセルブロック2を冷却し、試料液Sを−6℃〜−7℃程度の過冷却温度まで冷却する。更に、第2冷却装置13を作動させてエアー冷却ブロック10を−20℃〜−30℃程度の超低温に冷却する。このようにして、エアー冷却ブロック10の空間部10a内のエアーが超低温に冷却され且つ収容部2a内の試料液Sが過冷却状態になった時点で、エアーポンプ12を作動させる。これによって、空間部10a内の超低温エアーが試料液Sの液面に向けられている開口部から送り出されて、過冷却状態の試料液Sの液面に吹きかけられる。
【0021】
その結果、試料液Sは瞬間的に氷結し、同時に放出される潜熱により試料液Sの温度は過冷却温度から上昇し、氷と水の共存状態のまま約数分間に亘って平衡な温度即ち氷点温度を維持する。この氷点温度を温度検出部9によって検出して氷点降下度を求める。浸透圧は、得られた氷点降下度から演算装置(図示せず)により算出される。
【0022】
測定終了後は、第1及び第2冷却装置4及び13を加熱作動させて氷結した試料液Sを溶解させる。その後、ドレイン用ポンプ8を起動して収容部2a内の試料液Sを廃液容器7に排出する。
【実施例】
【0023】
日本薬局方に準拠して、0mOsm/kg、500mOsm/kg、1000mOsm/kg、及び2000mOsm/kgの4種類の試料液を調製した。これらの試料液を、図1に示す浸透圧測定装置1と同様の装置を用いて、各々−7℃の過冷却温度まで冷却した。その後、各試料液に、エアー冷却ブロックから−10℃、−15℃、−20℃、−25℃、及び−30℃の超低温エアーを吹きかけて、それぞれ氷結したときの氷点を検出して浸透圧を算出した。
【0024】
尚、超低温エアーを吹きかける際は、エアーポンプ8の代わりに、約2mL容量のシリンジを複数回往復させることによってエアー冷却ブロックから送り出した。また、超低温エアーの温度はエアー冷却ブロックの温度と同等であると想定した。更に、2000mOsm/kgの標準液は現在の局方に記載されていないため、旧局方(第十三改正、日本薬局方1998)を参照して調製し、0mOsm/kgの標準液には精製水を用いた。上記方法により算出した浸透圧を下記の表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
この結果から、−10℃及び−15℃のエアーを吹きかけたときは過冷却状態の試料液は氷結しなかったが、−20℃、−25℃及び−30℃の超低温エアーを吹きかけたときは氷結が生じ、しかも全ての試料液において、ほぼ正確に浸透圧が測定されていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による浸透圧測定装置の一具体例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 浸透圧測定装置
2 セルブロック
2a 収容部
3 試料液注入管
4 第1冷却装置
5 低温装置
6 ドレイン管
7 廃液容器
8 ドレイン用ポンプ
9 温度検出部
10 エアー冷却ブロック
10a 空間部
11 エアー管
12 エアーポンプ
13 第2冷却装置
14 断熱材
S 試料液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を収容して過冷却する収容部を有するセルブロックと、該収容部から離間した位置に配置され、超低温エアーを作り出すエアー冷却ブロックとを備えた浸透圧測定装置であって、試料液が所定の過冷却温度に達したときに、エアー冷却ブロックから超低温エアーを送り出して該試料液の液面に吹きかけることによって試料液を凍結させることを特徴とする氷点降下法による浸透圧測定装置。
【請求項2】
試料液を過冷却すると共に、試料液から離間した位置において超低温エアーを作り出し、試料液が所定の過冷却温度に達したときに、超低温エアーを該試料液の液面に吹きかけることによって試料液を凍結させることを特徴とする氷点降下法による浸透圧測定方法。

【図1】
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