説明

永久変形に対する向上した抵抗性を有する石膏組成物

【課題】永久変形に対する抵抗性が向上し、かつ/又は寸法安定性が向上した固化石膏組成物を提供する。
【解決手段】一態様において、この固化石膏含有組成物には、少なくとも焼石膏、水、及び向上剤で作られる固化石膏がインターロッキングマトリックスが含まれる。向上剤を、(i)有機ポリホスホニック化合物若しくはその混合物;(ii)ウレキサイト、コレマナイトから選択されるホウ酸塩、若しくはこれらの混合物;(i)及び(ii)の混合物から選択することができる。別の態様において、固化石膏含有組成物は、(i)有機ホスホニック化合物若しくはその混合物;(ii)ウレキサイト、コレマナイトから選択されるホウ酸塩、若しくはこれらの混合物;(iii)カルボキシル化合物若しくはその混合物;あるいは(i)、(ii)及び/又は(iii)の混合物から選択することができる向上剤で処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に石膏組成物に関する。より詳細には、本発明は永久変形に対する抵抗性が向上した固化(set)石膏組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
固化石膏(硫酸カルシウム二水和物)は、様々な製品に一般に含まれているよく知られた材料である。一例として、固化石膏は、伝統的なプラスタの使用により生成される最終生成物(例えば、プラスタが塗布された建物の内壁)の主成分であり、そして、表面紙付き石膏ボードにおいてもまた、建物の内壁及び天井の典型的な乾式壁構造で用いられる。さらに、固化石膏は、石膏/セルロース繊維複合ボード及び製品の主成分であり、また、石膏ボード端部の間のジョイントを埋め、滑らかにする製品にも含まれている。また、多くの特殊な材料、例えば精密に機械加工される模型の製作及び型の製作に有用な材料は、固化石膏を主成分として含む生成物を生ずる。
【0003】
通常、このような石膏含有製品は、焼石膏(硫酸カルシウム半水和物及び/又は無水硫酸カルシウム)と水(場合によっては、その他の成分)との混合物を形成することにより調製される。この混合物は望みの形状にあるいは表面上にキャストされ、それから放置されて、焼石膏と水とが反応することにより硬化して固化(すなわち再水和)石膏を生成して、結晶性水和石膏(硫酸カルシウム二水和物)マトリックスを生成する。固化石膏結晶がインターロッキングマトリックスを形成して、石膏含有製品中の石膏構造体に強度を付与するのは、焼石膏の望ましい水和である。温和な加熱により残留する遊離した(即ち、未反応の)水が除去され乾燥した製品となる。
【0004】
このような石膏含有製品の1つの問題は、それらがしばしば、特に高温多湿あるいは負荷状態の下で、永久変形(例えば、垂れ)をするということである。例えば、垂れの可能性は、石膏含有ボード及びタイルが水平状態に置かれて保管あるいは用いられる場合に特に問題である。この場合、これらの製品中の固化石膏マトリックスに永久変形に対する十分な抵抗がなければ、製品は、それらが下にある構造体に固定されているか、あるいは、支えられている箇所の間の部分で垂れ始める可能性がある。これは通常見苦しくまた製品が使用されている間に問題を引き起こす。さらに、多くの用途で、石膏含有製品は負荷、例えば断熱あるいは凝縮負荷を、認識可能な垂れを伴うことなく、支えることができなければならない。
【0005】
このような固化石膏含有製品の別の問題は、それらが製造、加工、及び販売される間、寸法安定性が損なわれるということである。例えば、固化石膏製品の調製では、石膏が固化された後、通常かなりの量の遊離した(即ち、未反応の)水がマトリックス中に残されている。余分な水を除去するために固化石膏を乾燥させるとき、マトリックス中でインターロック状態の固化石膏結晶は、水が蒸発するにつれて互いにより接近しようとする。この場合、水が石膏マトリックスの結晶間隙から出て行くにつれて、石膏結晶上の水が及ぼす毛管圧に抗する固化石膏の自然の力でマトリックスは収縮する傾向がある。水性焼石膏混合物中の水の量が増えると、寸法安定性の欠如はより大きな問題になる。
【0006】
寸法安定性はまた、最終の乾燥された製品が得られた後であっても問題であり、特に固化石膏が例えば膨張と収縮を受けやすい、温度及び湿度が変化する条件のもとで問題である。例えば、高い湿度及び温度に曝された石膏ボードあるいはタイルの石膏マトリックスの結晶間隙に取り込まれた水分は、吸湿したボードを膨張させることにより垂れの問題をいっそう悪化させる可能性がある。
【0007】
このような寸法不安定性を避け、又は、最も少なくすることができれば、様々な利益が得られるであろう。例えば、既存の石膏ボード製造方法は、ボードが乾燥中に収縮しなければ生産量が増えるであろうし、また精密な形状及び寸法特性を保持すると当てにできることが好ましい石膏含有製品(例えば、模型の作製及び型の作製における使用での)は、よりよくそれらの目的に役立つであろう。
【0008】
したがって、前記のことから当技術分野において、永久変形(例えば、垂れ)に対する抵抗性が向上し、また寸法安定性が向上した固化石膏組成物が求められているということが理解されるであろう。本発明はこれらのニーズの少なくとも1つを満足させる固化石膏組成物を提供する。本発明のこれら及び他の利点は、さらなる発明の特徴と同様、本明細書に記載される本発明の説明から明らかとなるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は永久変形(例えば、垂れ)に対する抵抗性が向上し、かつ/又は寸法安定性が向上した固化石膏組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様において、本発明は、少なくとも焼石膏から生成される固化石膏のインターロッキングマトリックスと、水と、そして、(i)有機ポリホスホニック(polyphosphonic)化合物、若しくはこの化合物の混合物;(ii)ウレキサイト、コレマナイト、又はウレキサイト及びコレマナイトの混合物から選択されるホウ酸塩;あるいは1種又は複数の有機ポリホスホニック化合物と1種又は複数のホウ酸塩の混合物を含む向上剤とを含む固化石膏含有組成物を提供する。ある実施形態では、本発明は、ホウ酸塩向上剤を固化石膏含有組成物に、前記水性組成物への直接添加以外の手段で導入することもある。例えば、促進剤材料にホウ酸塩を担持させてもよい。この場合、ホウ酸塩と促進剤材料、特に硫酸カルシウム二水和物(例えば、石膏の種)とがミル加工された混合物の形で、ホウ酸塩を水性組成物に導入することができる。
【0011】
別の態様において、本発明は、少なくとも焼石膏から生成される固化石膏のインターロッキングマトリックスと、水と、そして、(i)ポリカルボキシル化合物、若しくは、複数のポリカルボキシル化合物の混合物;及び、(ii)ポリホスフェート化合物、若しくは、複数のポリホスフェート化合物の混合物を含む向上剤とを含む固化石膏含有組成物を提供する。本発明のさらなる態様において、ポリカルボキシル化合物あるいはポリホスフェート化合物を、単独であるいは組合わせて、前記の有機ポリホスホニック化合物又はホウ酸塩、あるいはこの両方と一緒に用いることができる。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は固化石膏(例えばインターロッキング固化石膏マトリックス)を含む固化石膏含有組成物を提供する。固化石膏は固化後の処理プロセスで、(i)有機ホスホニック化合物、若しくはこの化合物の混合物;(ii)ウレキサイト、コレマナイト、若しくは、ウレキサイト及びコレマナイトの混合物から選択されるホウ酸塩;(iii)カルボキシル化合物若しくはこの化合物の混合物;又は(i)、(ii)及び/又は(iii)の混合物から選択することができる向上剤で処理される。固化後の処理が行われる場合、それは可能ではあるが、固化石膏製品を乾燥させる必要はない。本発明の固化後の処理の態様において、無機ホスフェート化合物もまた、1種又は複数の前記の他の向上剤と組合わせて用いることができる。
【0013】
さらに別の態様において、本発明はホウ酸塩及び促進剤材料を含む、水性焼石膏組成物のための促進剤を提供する。
【0014】
本発明は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明を参照すれば最もよく理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、永久変形(例えば、垂れ)に対する抵抗性が向上し、かつ/又は寸法安定性が向上した固化石膏含有組成物を提供する。一例として、この固化石膏含有組成物は石膏ボードの形態であってもよい。
【0016】
固化石膏含有組成物はインターロッキング固化石膏マトリックスを含み、そして、水及び焼石膏を含む混合物(例えば、スラリあるいは懸濁液)から調製される。焼石膏は繊維状あるいは非繊維状であってよい。好ましくは、焼石膏の主な部分(例えば、少なくとも50重量%)は非繊維状である。ある実施形態では、焼石膏は、本質的に非繊維状焼石膏からなる。さらに、焼石膏はα硫酸カルシウム半水和物、β硫酸カルシウム半水和物、水溶性無水硫酸カルシウム、あるいはこれらの混合物の形態であってもよい。ある実施形態において、焼石膏の主な部分(例えば、少なくとも50重量%)はβ硫酸カルシウム半水和物である。ある実施形態において、焼石膏は本質的にβ硫酸カルシウム半水和物からなる。
【0017】
本発明により、1又は複数の向上剤が、固化石膏含有組成物に向上した垂れ抵抗性及び/又は寸法安定性を付与するために供給される。一例として、向上剤により付与された垂れに対する抵抗性については、固化石膏含有組成物に長時間にわたりより安定な形を有利にもたらす。例えば、向上剤により付与された垂れに対する抵抗性は、水性焼石膏混合物に不純物として存在する可能性があり、また克服されなければ使用中に垂れに導くかもしれないある特定の塩(例えば、塩化物塩)の存在を克服するために有益である。さらに、向上剤により付与された向上した寸法安定性(例えば、収縮に対する抵抗性)は、例えば調製中に乾燥応力に、延いては収縮に抵抗する際に、さらにまた使用中の寸法の膨張に抵抗する際に、有益である。
【0018】
ある実施形態において、向上剤は、焼石膏が水和して固化石膏を生成している間、焼石膏の水性混合物中に存在している(すなわち、固化前の処理)。いくつかの固化前の処理の実施形態において、適切な向上剤には、例えば、(i)有機ポリホスホニック化合物、若しくはその混合物;(ii)ウレキサイト、コレマナイト、若しくは、ウレキサイト及びコレマナイトの混合物から選択されるホウ酸塩;又は(i)及び(ii)の混合物が含まれる。さらに、このような実施形態では任意選択で、例えば(iii)ポリカルボキシル化合物若しくはその混合物;(iv)ポリホスフェート化合物若しくはその混合物;又は(iii)及び(iv)の混合物から選択される第2の向上剤を含むことができる。当業者により、本発明の実施において向上剤の4つのグループ(i)〜(iv)の向上剤の様々な組合せ及び置換を用いることができるということが理解されるであろう。
【0019】
本発明による何らかの固化前の処理において、水性焼石膏混合物に混合される向上剤には、(i)ポリカルボキシル化合物又は複数のポリカルボキシル化合物の混合物;及び(ii)ポリホスフェート化合物又は複数のポリホスフェート化合物の混合物、が含まれる。
【0020】
焼石膏が水和して固化石膏を生成している間に、向上剤が焼石膏の水性混合物に含まれているか、あるいは添加される実施形態においては、任意の適切な時間に、また様々な形態で向上剤を含めることができる。一例として、例えば、水及び焼石膏が混合のため通常のように一緒にされる(例えば、混合装置内で)前、あるいはそのときに、向上剤を水性混合物に適切に含有させ、又は添加することができる。別の可能性は、焼石膏が水と混合されて再水和反応を起こすときにはすでに向上剤が存在しているように、原料石膏が加熱されて焼石膏を生成する前に向上剤と原料石膏を混合することである。
【0021】
さらに、すでに混合された焼石膏の水性混合物が(例えば、移動式ベルト上の)カバーシート上に置かれた後、向上剤はその上に供給されてもよい(例えばスプレーで)。通常、次に第2のカバーシートが置かれた混合物に被せられる。この方法では、向上剤溶液が置かれた混合物に染み込み、固化石膏を生成する水和反応の大部分が起るときには存在している。
【0022】
向上剤を供給する他の別の方法は当分業者には明らかであろうし、それは本発明の範囲内とみなされている。例えば、一方あるいは両方のカバーシートは、向上剤で前コートされていてもよく、その結果例えば、焼石膏の水性混合物の堆積体がコートされたカバーシートと接触するときに、向上剤が混合物中に溶け込み移行するであろう。
【0023】
ホウ酸塩が選択されるある実施形態において、少なくともある量のホウ酸塩を、促進剤材料と混合し、続いてミル加工してもよく、その後、ミル加工により得られた混合物は水性組成物に導入される。このような実施形態において、促進剤材料、すなわち、硫酸カルシウム二水和物、及びホウ酸塩は混合されて,次にミル加工される。何らかの特定の理論に束縛されることは望まないが、ミル加工によりホウ酸塩は硫酸カルシウム二水和物促進剤材料の外側表面に付着し、材料に少なくとも部分的なコーティングを与えると考えられている。しかし、理論に関係なく、ホウ酸塩と促進剤の組合せは、ミル加工の後、促進剤として望ましく機能し、また結果として垂れ抵抗性が向上した石膏製品を与える。促進剤材料表面の少なくとも部分的なコーティングとしてのホウ酸塩の存在は、促進剤の活性部位と水分との不都合な相互作用(例えば貯蔵中の)を最少化することにより、促進剤の活性を望ましく保護して、さらなるコーティング材料(例えば、糖あるいはホウ酸)の必要性及び関連する出費をなくする。ウレキサイト及びコレマナイトは天然に産出されるホウ酸塩で、ホウ酸などの合成材料よりずっと安価に入手できる。
【0024】
有利には、ホウ酸塩−促進剤混合物は、ミル加工により得られる促進剤組成物のメジアン粒子径が約5μmより小さくなるのに十分な条件で、ミル加工される。好ましくはさらに、ミル加工された組成物の表面積は、少なくとも約7,000cm/グラムである。ミル加工を行う一般的な手順が米国特許第3,573,947号に与えられているが、本明細書に記載されるホウ酸塩コート促進剤を生成す本発明のある実施形態では加熱は必要ではない。次に、望ましいレベルで焼石膏混合物の固化石膏への変換速度の制御を維持するのに有効な量で、ミル加工され得られた促進剤混合物を水性焼石膏混合物に添加することができる。ホウ酸塩のなかで、ウレキサイト及びコレマナイトがこの導入形態では特によく適しており、前者が最も好ましい。
【0025】
ある実施形態では、向上剤は、すでに生成した(あるいは部分的に生成した)固化石膏を含む固化石膏含有組成物を処理すること(すなわち、固化後の処理)により供給される。このような実施形態において、適切な向上剤には、例えば、(i)有機ホスホニック化合物、若しくはその混合物;(ii)ウレキサイト、コレマナイト、若しくはこれらの混合物から選択されるホウ酸塩;(iii)カルボキシル化合物若しくはその混合物;あるいは(i)、(ii)及び/又は(iii)の混合物、が含まれる。任意選択で、この実施形態は、例えば、ホスフェート化合物又はその混合物から選択される第2の向上剤を含むことができる。
【0026】
向上剤での固化石膏含有組成物の処理は、遊離した(即ち、未反応の)水を追い出すために、固化石膏組成物を乾燥させる(例えば、オーブンあるいはキルン内で)前あるいは後で行うことができる。この場合、好ましい処理を行うために、向上剤は固化石膏含有組成物上に(例えば、約0.01%から約2%の向上剤を含む水溶液などの溶液でスプレーされるかあるいは浸されて)塗布される。好ましくは、この処理は固化石膏含有組成物の乾燥の前に施される。処理が固化石膏含有組成物の乾燥の後に施される場合、この固化石膏組成物は、好ましくは、処理を施した後に(例えば、固化石膏含有組成物が任意選択で例えば浸漬によるなどして水に再度漬けられて)再度乾燥される。望ましくは、向上剤は、固化石膏の加工で用いられる通常の紙シートを通してさえ、固化石膏組成物内に移行していくであろう。
【0027】
本発明に従って、ある量の固化石膏が生成する前に、また同時に1つの処理として固化石膏のある部分が生成した後に、向上剤を水性焼石膏混合物に添加することができるということは注目に値する。この場合、固化前の処理及び固化後の処理は、本発明により同時に行うことができる。例えば、固化中に(例えば、ある量の固化石膏のみが生成したときに)向上剤を添加することは、固化石膏がまだ生成していない部分に関しては固化前の処理であり、固化石膏が生成した部分に関しては固化後の処理であろう。
【0028】
向上剤を最終の固化石膏製品に導入する様々な手法の組合せ、例えば、本明細書に記載される様々な利点をもたらす、固化前(例えば、促進剤とのミル加工及び/又は乾式添加)及び/又は固化後の処理(1種又は複数の向上剤の様々な組合せで)の組合せは、本発明の範囲内に含まれると想定されているということを理解されたい。
【0029】
何らかの適切な量で向上剤を含ませることができる。一例として、向上剤の量は好ましくは、本発明の利点が得られるように、例えば、固化石膏組成物に望ましい垂れ抵抗性及び/又は寸法安定性を付与するのに十分な量で選択される。この場合、向上剤の有効量は、例えば、焼石膏原材料中の不純物、例えば、塩化物アニオンなどの量、並びに、選択される向上剤のタイプ及び他の因子に応じて変化するであろう。例えば、固化前の処理で、水性焼石膏混合物に含められるかあるいは添加される向上剤の量は、好ましくは、焼石膏の約0.01重量%から約5重量%、より好ましくは、水性焼石膏混合物に含められるかあるいは添加される向上剤の量は、焼石膏の約0.1重量%から約2重量%である。固化後の処理では、本発明の実施に用いられる向上剤の量は、好ましくは、石膏の約0.01重量%から約5重量%、またより好ましくは、石膏の約0.1重量%から約2重量%である。
【0030】
固化前あるいは固化後の処理において、向上剤を、例えば向上剤を含む溶液(例えば、水性の)及び/又は乾性添加剤として導入することができる。溶液により向上剤を導入する場合においては、溶液中の向上剤の濃度は、前記のように、処理されている焼石膏あるいは固化石膏の重量に対する適正な量の向上剤が供給されるように選択される。固化後の処理に関しては、処理溶液は好ましくは、固化石膏を完全に濡らすのに十分な水を含む(例えば、石膏マトリックス全体に向上剤を均一に分布させるために)。
【0031】
ここで向上剤を参照すると、本発明の有機ホスホニック化合物(例えば、有機ホスホネートあるいはホスホン酸)には、少なくとも1個のRPO官能基が含まれ、Mはカチオン、リン、あるいは水素であり、Rは有機の基である。有機ポリホスホニック化合物の使用が、固化前及び固化後の処理のいずれに対しても好ましいが、本発明による固化後の処理に有機モノホスホニック化合物を用いることができる。好ましい有機ポリホスホニック化合物には、少なくとも2個のホスホネート塩あるいはイオン基、少なくとも2個のホスホン酸基、あるいは少なくとも1個のホスホネート塩若しくはイオン基及び少なくとも1個のホスホン酸基が含まれる。本発明による固化後の処理において有用なモノホスホニック化合物には、1個のホスホネート塩若しくはイオン基あるいは少なくとも1個のホスホン酸基が含まれる。
【0032】
有機ホスホニック化合物は、例えば湿った条件などにある、本発明による固化石膏含有組成物に垂れ抵抗性を付与することが見出されているので、向上剤としてこのような化合物を含めることは有益である。さらに、例えば、有機ホスホニック化合物は、固化石膏マトリックス結晶の結合を強化すると考えられているので、有機ホスホニック化合物を含めることはまた寸法安定性も向上させる。
【0033】
特に、有機ホスホニック化合物の有機の基はリンに直接結合している(すなわち、間に酸素なしに)。一例として、本発明で使用するのに適する有機ホスホニック化合物には、これらに限定はされないが、以下の構造式により特徴付けられる化合物が含まれる:
【0034】
【化1】

【0035】
これらの構造式において、RはP原子に直接結合する少なくとも1個の炭素原子を含む有機部分であり、nは約1から約1,000、好ましくは約2から約50の数である。
【0036】
有機ホスホニック化合物には、例えばアミノトリ(メチレン−ホスホン酸)、アミノトリ(メチレン−ホスホン酸)五ナトリウム塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸四ナトリウム塩、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)五ナトリウム塩、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)三ナトリウム塩、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)カリウム塩などが含まれる。ある実施形態において、Solutia, Inc.(St. Louis、 Missouri)が市販する、DEQUEST(登録商標)ホスホネート(例えば、DEQUEST(登録商標)2000、DEQUEST(登録商標)2006、DEQUEST(登録商標)2016、DEQUEST(登録商標)2054、DEQUEST(登録商標)2060S、DEQUEST(登録商標)2066Aなど)が本発明で利用される。適切な有機ホスホニック化合物の他の例は、例えば米国特許第5,788,857号に見出される。
【0037】
固化前の処理で水性焼石膏混合物に含められる場合、混合物を調製するために本発明の実施に用いられる有機ホスホニック化合物の量は、好ましくは、焼石膏の約0.01重量%から約1重量%、より好ましくは石膏の約0.05重量%から約0.2重量%である。固化後の処理において、本発明の実施において用いられ、そして固化石膏組成物に導入される有機ホスホニック化合物の量は、好ましくは焼石膏の約0.01重量%から約1重量%、より好ましくは石膏の約0.05重量%から約0.2重量%である。例えば、有機ホスホニック化合物を含む溶液(例えば、水性)により、有機ホスホニック化合物を固化石膏組成物に導入することができる。
【0038】
カルボキシル化合物も本発明の向上剤として使用するのに適する。好ましくは、カルボキシル化合物は水溶性である。ポリカルボキシル化合物の使用が好ましいが、モノカルボキシル化合物を本発明による固化後の処理に用いることもできる。この場合、ポリカルボキシル化合物には、少なくとも2個のカルボキシレート塩又はイオン基、少なくとも2個のカルボン酸基、あるいは少なくとも1個のカルボキシレート塩又はイオン基及び少なくとも1個のカルボン酸基が含まれる。本発明による固化後の処理で有用なモノカルボキシル化合物には、1個のカルボキシレート塩又はイオン基、あるいは少なくとも1個のカルボン酸基が含まれる。
【0039】
カルボキシル化合物は、例えば湿った条件にある本発明による固化石膏含有組成物に垂れ抵抗性を付与することが見出されているので、向上剤としてカルボキシル化合物を含めることには利益がある。さらに、例えば、カルボキシル基が固化石膏マトリックス結晶の結合を強化すると考えられているので、カルボキシル化合物を含めることはまた寸法安定性も向上させる。一例として、また本発明を限定することなく、ポリカルボキシル化合物はポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエタクリレートなどの形でありうる。固化後の処理において、カルボキシル化合物はさらにシトレート(例えばクエン酸ナトリウムなどの、例えば塩)の形でありうる。
【0040】
固化前の処理において、本発明において用いるのに適切なポリカルボキシル化合物の分子量は、好ましくは約100,000ダルトンから約100万ダルトンである。より分子量の高いポリカルボキシル化合物は、粘度が高すぎるために望ましくなく、より分子量の低いもの(100,000ダルトン以下にしだいに減少する)には効果が少ない。固化前の処理のある実施形態において、ポリカルボキシル化合物の分子量は、例えば約400,000ダルトンから約600,000ダルトンなどのような、約200,000ダルトンから約700,000ダルトンである。ある実施形態において、カルボキシル化合物はポリアクリレートであり、その場合ポリアクリレートの分子量は好ましくは約200,000ダルトンから約700,000ダルトン、より好ましくは約400,000ダルトンから約600,000ダルトンである。
【0041】
固化後の処理において、カルボキシル化合物の分子量は、好ましくは約200ダルトンから約1,000,000ダルトンである。例えば、固化後の処理のある実施形態において、カルボキシル化合物の分子量は約200ダルトンから約100,000ダルトン(例えば、約1,000ダルトンから約100,000あるいは約10,000ダルトンから約100,000ダルトン)であり、別の実施形態においては、カルボキシル化合物の分子量は約100,000ダルトンから約100万ダルトン(例えば、約200,000ダルトンから約700,000あるいは約400,000ダルトンから約600,000ダルトン)である。
【0042】
固化前の処理で水性焼石膏混合物に含められる場合、本発明の実施において混合物を調製するために用いられるカルボキシル化合物の量は、好ましくは、焼石膏の約0.01重量%から約5重量%、より好ましくは焼石膏の約0.05重量%から約2重量%である。固化後の処理において、本発明を実施するために用いられ、そして固化石膏組成物に導入されるカルボキシル化合物の量は、好ましくは石膏の約0.01重量%から約5重量%、より好ましくは石膏の約0.05重量%から約2重量%である。例えば、カルボキシル化合物を含む溶液(例えば、水性)により、カルボキシル化合物を固化石膏組成物に導入することができる。
【0043】
ホウ酸塩、特に天然に産出するウレキサイト(NaCaB・8HO)及びコレマナイト(Ca11・5HO)、又はウレキサイト及びコレマナイトの混合物を向上剤として含めることができる。ある実施形態において、ある部分その比較的低コストによりウレキサイトが好ましい。注目すべきことに、ホウ酸塩は水に完全には溶解しない。驚くべきことに、ポリホウ素化合物であるこのような半溶解性ホウ酸塩でさえ、好ましい程度の本発明による効果を生み出す。このことは、モノホウ素化合物であるホウ酸などの他の完全に溶解するホウ素含有材料が極めて僅かしか望ましい効果を生み出さず、本発明の範囲内で使用するのには適さないために、よりいっそう驚くべきである。これらのホウ酸塩を向上剤として含めることは、水性焼石膏混合物中の不純物、例えば塩化物の存在下においてさえ、それらが固化石膏含有材料に垂れ抵抗性を付与するということが見出されているので、有益である。この発見は重要であり、理由はそれがより低級でより安いグレードの焼石膏を、いかなる有意な負の効果も垂れ抵抗性に及ぼすことなく、固化石膏製品、例えば壁ボードなどの生産に使用することを可能にするためである。さらに、ホウ酸塩は固化石膏含有組成物の生成を著しく遅延させることはない。
【0044】
固化前処理法において、ホウ酸塩を、粉末及び/又は溶液(例えば、水溶液)として水性焼石膏混合物に添加することができる。ある実施形態においては、例えば、ホウ酸塩を、前記のように硫酸カルシウム二水和物促進剤とミル加工した後、それを添加することができる。また、ある実施形態においては、ホウ酸塩は両方の手法を用いて添加される。
【0045】
固化前の処理において水性焼石膏混合物に含められる場合、本発明の実施において混合物に添加されるホウ酸塩の量は、好ましくは、焼石膏の約0.1重量%から約2重量%、より好ましくは焼石膏の約0.2重量%から約0.5重量%である。固化後の処理において、本発明の実施で固化石膏を処理するために用いられるホウ酸塩の量は、好ましくは石膏の約0.1重量%から約2重量%、より好ましくは石膏の約0.2重量%から約0.5重量%である。例えば、ホウ酸塩を含む溶液(例えば、水性)により、ホウ酸塩を固化石膏組成物に導入することができる。
【0046】
さらに、また本発明に従って、無機ホスフェートを、本明細書に記載の他の向上剤と併せて用いることができる。特に、無機ポリホスフェート化合物が好ましいが、無機モノホスフェート化合物を本発明による固化後の処理に用いることもできる。この場合、無機ポリホスフェートは、例えば、2個以上のリン酸単位をそれぞれが含む縮合リン酸、2個以上のホスフェート単位をそれぞれが含む縮合ホスフェート塩あるいはイオン、あるいは1種又は複数のリン酸単位及び1種又は複数のホスフェート塩若しくはイオン単位を含む化合物から選択される。本発明による固化後の処理において有用なモノホスフェート化合物には、1個のリン酸単位あるいは1個のホスフェート塩又はイオン単位が含まれる。
【0047】
このような無機ホスフェートを含めることは、固化石膏含有組成物の、垂れ抵抗性及び、固化後の処理に関連して、他の機械的強度(例えば、圧縮強度)をさらに向上させる。ある実施形態において、無機ホスフェートは以下の塩又はそのアニオン部分の形で存在する:トリメタホスフェート化合物(例えばトリメタリン酸ナトリウム、トリメタリン酸カルシウム、トリメタリン酸ナトリウムカルシウム、トリメタリン酸カリウム、トリメタリン酸リチウムなどの、例えば塩)、6〜27個の繰返しホスフェート単位を有するヘキサメタリン酸ナトリウム、500〜3000(好ましくは1000〜3000)個の繰返しホスフェート単位を有するポリリン酸アンモニウム、ピロリン酸四カリウム、トリポリリン酸三ナトリウム二カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、あるいは2個以上の繰返しリン酸単位を有するポリリン酸。ある実施形態において、無機ホスフェート化合物にはトリメタリン酸ナトリウム及び/又はポリリン酸アンモニウムが含まれる。固化後処理の実施形態において有用なモノホスフェート化合物(オルソホスフェート化合物とも呼ばれる)の例としてはリン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、及びリン酸がある。
【0048】
固化前の処理において水性焼石膏混合物に含められる場合、本発明の実施において用いられ、又は、混合物に添加されるこの種の無機ホスフェートの量は、好ましくは、焼石膏の約0.004重量%から約2重量%、より好ましくは焼石膏の約0.04重量%から約0.16重量%である。固化後の処理において、本発明を実施するために用いられる無機ホスフェートの量は、好ましくは石膏の約0.004重量%から約2重量%、より好ましくは石膏の約0.04重量%から約0.16重量%である。例えば、ホスフェートを含む溶液(例えば、水性)により、無機ホスフェートを固化石膏組成物に導入することができる。
【0049】
さらに、例えば有機ホスホニック化合物、カルボキシル化合物、あるいはホスフェート(ポリリン酸アンモニウムあるいはトリメタホスフェート化合物以外の)に関連してのように、いずれかの向上剤が固化石膏生成の水和速度を遅くする(また固化石膏含有組成物の強度に悪影響を及ぼす)程度に応じて、混合物に促進剤、特に硫酸カルシウム二水和物を含めることにより、何らかのこのような遅れを改善するかあるいは克服することさえ可能である。もちろん、当分野で知られる他の促進剤、例えば硫酸アルミニウム、重硫酸ナトリウム、硫酸亜鉛などを含めることもできる。
【0050】
本発明により、本発明の固化石膏含有組成物は、ASTM C 473−95により規定された場合、垂れ抵抗性は好ましくは、2フィート(≒0.61m)の長さのボードあたり約0.1インチ(≒0.254cm)より小さい石膏ボードの形態であってもよい。さらに、この石膏ボードは、その調製中(例えば、固化石膏含有化合物が乾燥されるとき)の収縮率が好ましくは、幅4フィート(≒1.22m)あたり約0.02インチ(≒0.051cm)より小さく、また長さ12フィート(≒3.66m)あたり約0.05インチ(≒0.127cm)より小さい。
【0051】
石膏組成物はまた、任意選択の添加物、これらに限定されないが、例えば、強化用添加材、バインダ(例えば、ラテックスなどのポリマー)、膨張パーライト、水性の泡により生成する空孔、アルファ化デンプンなどのデンプン、促進剤、遅延剤、耐水剤、殺菌剤、殺真菌剤、殺生物剤、繊維マット(例えば、本発明の石膏組成物を含む石膏ボード上に)、及び、当業者により認められる他の添加物、又はこれらの組合せを含んでいてもよい。
【0052】
加工中の強度を向上させるために、望ましい場合、本発明の石膏組成物に強化用添加材を含めることができる。例えば、強化用添加材には、セルロース繊維(例えば、紙繊維)、鉱物繊維、他の合成繊維その他、あるいはこれらの組合せを含めることができる。何らかの適切な量で強化用添加材、例えば紙繊維を加えることができる。例えば、ある実施形態において、強化用添加材は固化石膏組成物の約0.1重量%から約5重量%の量で存在する。
【0053】
密度の減少を促進するために、本発明の固化石膏組成物は、任意選択で、水性の泡により形成された空孔を有していてもよい。特に、調製中に水性焼石膏混合物に起泡剤を添加してもよい。起泡剤の主な部分が、水性焼石膏スラリに接触したとき、比較的不安定な泡を生成することが望ましい。また、起泡剤の少量部分は、望ましくは比較的安定な泡を生成する。一例として、ある実施形態において、水性の泡は少なくとも1種の以下の式、
CH(CHCH(OCHCHOSO
の起泡剤から形成される。具体的には、Mはカチオン、Xは2から約20の整数、Yは0から約10の整数であって、少なくとも1種の起泡剤の少なくとも約50重量%で0である。好ましくは、Yは、少なくとも1種の起泡剤の約86から約99重量%で0である。
【0054】
さらに、石膏組成物は、任意選択でデンプン、例えばアルファ化デンプンあるいは酸変性デンプンなどを含んでいてもよい。アルファ化デンプンを含めると、高湿条件下で紙が剥がれる危険が最少化あるいは避けられる。当業者は、原料デンプン、例えば調理用原料デンプンを、少なくとも華氏185度(≒85℃)の温度の水で予めゼラチン化させる(pregelatinizing)方法、あるいは他の方法を認識しているであろう。予めゼラチン化されたデンプンの適切な例には、限定はされないが、Lauhoff Grain Companyが市販するPCF1000デンプン、並びに、何れもArcher Daniels Midland Companyが市販するAMERIKOR 818及びHQM PREGELデンプンがある。含有する場合、予めゼラチン化されたデンプンは何らかの適切な量で存在していればよい。例えば、含められる場合、予めゼラチン化されたデンプンは、組成物の約0.1重量%から約5重量%の量で存在する。
【0055】
石膏組成物はまた繊維マットを含んでいてもよい。繊維マットは、織布又は不織布であってもよい。望ましくは、繊維マットは、水和の間の石膏組成物の膨張に適応できる材料からなる。一例として、繊維マットは紙マット、ガラス繊維マット、あるいは他の合成繊維マットの形であってもよい。ある実施形態において、繊維マットは不織布であり、ガラス繊維を含んでいてもよい。製造、取扱い、及び現場施工中の乾燥石膏キャストの一体性及び取扱い易さを改善するために、望ましくは繊維マットを、表面に付け、かつ/又は生成中の石膏キャスト内に組み込むことができる。さらに、最終製品(例えば、天井タイル)の露出表面として繊維マットを用いることができ、また、この種の繊維マットは、通常望ましく均質であり、美しい一体化された外観を与える。使われる場合、繊維マットは何らかの適切な厚さを有していればよい。例えば、ある実施形態において、繊維マットの厚さは、約0.003インチ(≒0.00762cm)から約0.15インチ(≒0.381cm)である。
【0056】
以下の実施例は本発明をさらに例示するが、勿論、如何なる場合においてもその範囲を制限していると解釈されるべきではない。以下に記載の実施例において、以下の省略形は指示された意味を有する:
OPPC 有機ポリホスホニック化合物を表す;
OPPC1 アミノトリ(メチレン−ホスホン酸)である;
OPPC2 アミノトリ(メチレン−ホスホン酸)五ナトリウム塩である;
OPPC3 1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸四ナトリウム塩である;
OPPC4 ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)カリウム塩である;
OPPC5 ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)である;
OPPC6 ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)三ナトリウム塩である;
PAA ポリ(アクリル酸)を表す;
PAA1 分子量が約2,000ダルトンのポリ(アクリル酸)である;
PAA2 分子量が約30,000ダルトンのポリ(アクリル酸)である;
PAA3 分子量が約250,000ダルトンのポリ(アクリル酸)である;
PAA4 分子量が約450,000ダルトンのポリ(アクリル酸)である;
PAA5 分子量が約750,000ダルトンのポリ(アクリル酸)である;
PAA6 Belclene 283(FMC Corporation、Princeton、 New Jerseyが市販)である;
PAA7 Belclene 200(FMC Corporationが市販)である;また
PAA8 Belsperse 161(FMC Corporationが市販)である;
【実施例】
【0057】
実施例1
永久変形に対する抵抗性(実験室石膏ボード垂れ抵抗性)
石膏含有ボードの試料を本発明に従って実験室で調製し、永久変形に対する抵抗性に関して、本発明の範囲外の方法及び組成物を用いて調製された試験ボードと比較した。
【0058】
5リットルのWARINGブレンダ中で、10秒間低速で混合することにより試料を調製した:1.5kgのβ硫酸カルシウム半水和物;米国特許第3,573,947号−その開示を参照によりここに組み込む−に記載されるように、効能を維持するために糖でコートされ加熱された硫酸カルシウム二水和物の微粉砕粒子を含む2gの固化促進剤;2リットルの水道水;及び添加剤0g(コントロール試料)、1.5gの有機ポリホスホニック化合物、あるいは1.5gの他の添加剤。こうして生成したスラリをトレーにキャストして、各々が約6×24×1/2インチの寸法である平坦な石膏ボード試料を調製した。硫酸カルシウム半水和物が固化して石膏(硫酸カルシウム二水和物)を生成した後で、ボードを華氏112度(≒44.4℃)のオーブンで、ボードの重量が変化しなくなるまで乾燥した。最終的な各ボードの重量測定値を記録した。紙のカバーが高湿条件下で石膏ボードの垂れ性能に及ぼす影響を避けるために、これらのボードに表面紙は付けられなかった。
【0059】
次に、乾燥された各ボードを、長さがボードの全幅であり幅が1/2インチの2つの支えの上に、ボードの各端に1つの支えを用いて水平に置いた。この配置にあるボードを、指定された期間(この例では、4日)、華氏90度(≒32.2℃)の温度で相対湿度90パーセントの連続雰囲気条件に保った。次に、ボードの垂れの大きさ、ボード端部の上部エッジ間に広がる仮想的水平面からのボードの上部表面中央の距離(インチで)を測定することにより求めた。ボードの固化石膏マトリックスの永久変形に対する抵抗性は、ボードの垂れの大きさに反比例すると考えられる。したがって、垂れが大きくなるほど、ボードを構成する固化石膏マトリックスの永久変形に対する相対的抵抗性は低くなる。
【0060】
永久変形に対する抵抗性試験は、添加剤の組成及び濃度(硫酸カルシウム半水和物の重量に対する重量パーセント)、ボードの最終重量、並びに、測定された垂れの大きさを含めて、表Iに報告されている。
【0061】
これらの実験室実験において、垂れ撓み(deflection)は、試験された石膏ボードがウォールボード紙を含まず、また試験されたボードが1フィート(≒0.305m)×2フィート(≒0.61m)ではなく0.5フィート(≒0.154m)×2フィート(≒0.61m)であったということ以外は、ASTM C 473−95の加湿撓み試験(Humidified Deflection Test)に従って求めた。しかし、実験室で調製されたボードの垂れ撓みが、ASTM C 473−95試験に記載される1フィート(≒0.305m)×2フィート(≒0.61m)のボードの垂れ撓みに対応するということが見出され、相違があるとすれば、その相違は、垂れ撓みは実験室で調製されたボードの方が大きいということであろう。このため、本発明による実験室調製ボードが好ましい垂れ抵抗性基準を満たせば、ASTM C 473−95に従って調製された本発明によるボードもまた、好ましい垂れ抵抗性基準を満たすであろう。
【0062】
【表1】

【0063】
表Iのデータは、本発明に従って有機ポリホスホニック化合物を用いて調製されたボードは、コントロールのボードよりずっと大きな垂れに対する抵抗性(したがって永久変形に対してずっと大きな抵抗性)を有していたことを示している。さらに、いくつかの有機ポリホスホニック化合物を用いて調製されたボードの垂れは、2フィート(≒0.61m)の長さのボードあたり0.1インチ(≒0.254cm)よりずっと小さく、従って、目視により確認することができなかった。他の有機ポリホスホニック化合物、例えばOPPC3及びOPPC5は、コントロールと比較した場合垂れにおいて著しい改善を示した。
【0064】
有機ポリホスホニック化合物により引き起こされる可能性がある遅延及び強度低下効果を克服するために、ある程度の促進剤を用いることが可能であることが認められるであろう。前記の例においては、このような影響を克服するためにいかなる試みもなされなかった。しかし、促進剤がこのような影響を克服するために添加されたとすると、その場合これらの有機ポリホスホニック化合物のいずれかを用いて製造されたボードの垂れは、2フィート(≒0.61m)の長さのボードあたり0.1インチ(≒0.254cm)より小さいと期待されるであろう。
【0065】
実施例2
この実施例では、石膏ボードの垂れ抵抗性を改善するため、ウレキサイトを向上剤として使用することを例示する。ウレキサイトを、それ自体としてまた前記のように硫酸カルシウム二水和物の微粉砕粒子を含む固化促進剤とミル加工された添加剤として用い、永久変形に対する抵抗性を実施例Iに記載のようにして求めた。
【0066】
さらに、高含量で塩化物塩の不純物が存在するときにウレキサイトを用いることによる有益な効果もまた例示される。石膏ボードは、塩化物イオンをウレキサイト添加剤と共に混合物に入れたこと以外は、実施例1に記載したようにして調製された。垂れ撓みを、前記の実験室調製ボードについてASTM C 473−95の手順に従って試験した。
【0067】
これらの実施例において、促進剤材料とミル加工された混合物として添加することにより水性焼石膏スラリに添加されたウレキサイトの量は、焼石膏の約0.05重量%である。表IIの最後の実施例において、水性焼石膏スラリに添加された全ウレキサイトは焼石膏の約0.15重量%(促進剤材料とミル加工された混合物の形の0.05重量%+さらに添加された0.10重量%)である。
【0068】
【表2】

【0069】
表IIのデータは、ウレキサイトと促進剤としての硫酸カルシウム二水和物とをミル加工した混合物として、又は、単独の添加剤としての何れかでウレキサイトを、乾燥粉末あるいは水溶液で添加することにより、ウレキサイトを用いる場合に得られる(垂れ撓みにより与えられる)垂れ抵抗性の向上を示す。このデータはまた、かなりの量の塩化物アニオン不純物(例えば、NaCl)が水性焼石膏混合物中に存在する場合(比較的低品質の焼石膏に存在する)、また最終の石膏ボード製品で吸水が比較的大きい場合であっても、ホウ酸塩のウレキサイトが垂れ撓みを向上させることを示している。
【0070】
実施例3
硫酸カルシウム二水和物の固化後の処理
本発明のいくつかの別の好ましい実施形態において、硫酸カルシウム二水和物キャストは、再乾燥後の固化石膏含有製品の永久変形(例えば、垂れ抵抗性)に対する抵抗性、及び寸法安定性を向上するために、向上剤の水溶液で処理される。より詳細には、硫酸カルシウム二水和物キャストを、本発明による様々な向上剤で処理することにより、永久変形(例えば、垂れ抵抗性)に対する抵抗性及び寸法安定性が向上するということが知見された。このように、固化石膏に向上剤が付加されるこの実施形態は、限定はされないが、ボード、パネル、プラスタ、タイル、石膏/セルロース繊維複合体などを含む改良された石膏含有組成物を製造するための新しい組成物及び方法を提供する。したがって、垂れ抵抗性の厳重な制御が必要な何らかの石膏系製品は本発明のこの実施形態から利益を得るであろう。
【0071】
固化石膏の後処理に関する2つの代表的方法は下記の通りである。
1)
スタッコ及び他の(乾式)添加剤を水と混合してスラリを形成

泡(重量又は密度低下のため)の生成

石膏キャスト/最終固化及び乾燥

向上剤で後処理(スプレー又は浸漬)

石膏キャストの再乾燥

改良石膏製品
2)
スタッコ及び他の(乾式)添加剤を水と混合してスラリを形成

混合/攪拌(湿式)

石膏キャスト/最終固化

向上剤で後処理(表面にスプレー)

石膏製品の乾燥

改良石膏製品
前記方法の何れにおいても、向上剤の水溶液は、好ましくは、固化石膏に適用される。
【0072】
向上剤を、固化石膏組成物上に向上剤の水溶液としてスプレーした。溶液中の向上剤の量は、硫酸カルシウム二水和物(固化石膏)の重量に対するものである。
【0073】
実験室調製ボードを実施例1に記載されたようにして調製し、ASTM C 473−95の加湿垂れ撓み試験を、実施例1に記載されたと同様に、実験室ボードについて実施した。
【0074】
表IIIは、向上剤又は添加剤が有機ポリホスホニック化合物である場合に達成される垂れ撓みの向上を示す。表IVは、添加剤がポリ(アクリル酸)である場合に達成される垂れ撓みの向上を示す。表Vは、添加剤が少なくとも2個のカルボキシレート基を含むカルボキシル化合物のクエン酸ナトリウムである場合に達成される垂れ撓みの向上を示す。
【0075】
【表3】

【0076】
表IIIのデータは、固化石膏に有機ポリホスホネートを用いるとボードの垂れ撓みが改良されるということを示している。本発明に従って固化後の処理に有機ポリホスホネートが用いられた場合、すべてのボードが、2フィート(≒0.61m)の長さのボードあたり0.1インチ(≒0.254cm)よりずっと小さい望ましい垂れ抵抗性を示した。
【0077】
【表4】

【0078】
表IVのデータは、カルボキシレートが固化後の処理で固化石膏組成物の強度を向上させるということを示している。データは、可溶性カルボキシレート、すなわち、PAA 1〜4、並びに、PAA6及びPAA7を用いることは、水にそれほどよく溶けないカルボキシレート、例えばPAA5を用いることより有益であるが、PAA5での後処理でさえコントロールに比べてボードの垂れ抵抗性を向上させたことを示している。
【0079】
【表5】

【0080】
表Vは固化後処理の予想外の利益を示す。クエン酸ナトリウムは通常固化の遅延剤と考えられており、また、それが前処理で添加剤として用いられた場合、その使用が強度及び垂れ抵抗性に悪影響を与える。しかし、固化後処理の場合、クエン酸ナトリウムは垂れ抵抗性をよくするということが見出された。
【0081】
特許、特許出願、及び公開を含む本明細書で引用された参照文献のすべてを、参照によりここで全体として組み込む。
【0082】
本発明は好ましい実施形態を強調して記載されたが、当業者であれば、好ましい実施形態の変形形態を用いることができ、また本発明は具体的に本明細書に記載されたものとは別な方法で実施することもできるということは明らかであろう。したがって、本発明は特許請求の範囲に定められる本発明の精神及び範囲内に含まれるすべての変形例を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも焼石膏から生成される固化石膏のインターロッキングマトリックスと、水と、そして、向上剤とを含む固化石膏含有組成物であって、前記向上剤が、
有機ポリホスホニック化合物、若しくは、複数の有機ポリホスホニック化合物の混合物;又は
(i)有機ポリホスホニック化合物、若しくは、複数の有機ポリホスホニック化合物の混合物と、(ii)ウレキサイト、コレマナイト、若しくは、ウレキサイト及びコレマナイトの混合物を含むホウ酸塩との混合物
を含む固化石膏含有組成物。
【請求項2】
ポリカルボキシル化合物若しくは複数のポリカルボキシル化合物の混合物を含む第2の向上剤を更に含み、又は、ポリホスフェート化合物又は複数のポリホスフェート化合物の混合物を含む第3の向上剤を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
促進剤を更に含み、そして、ホウ酸塩の少なくとも一部が促進剤に坦持される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記固化石膏が、前記焼石膏の重量に対して0.01重量%から5重量%の向上剤から生成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリカルボキシル化合物の分子量が、100,000ダルトンから100万ダルトンであり、前記ポリカルボキシル化合物が、ポリアクリレート、ポリエタクリレート、及びポリメタクリレートからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリホスフェート化合物が、トリメタホスフェート化合物、6〜27個の繰返しホスフェート単位を有するヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸アンモニウム、ピロリン酸四カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、及び2個以上の繰返しリン酸単位を有するポリリン酸からなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも焼石膏から生成される固化石膏のインターロッキングマトリックスと、
水と、そして、
(i)ポリカルボキシル化合物、若しくは、複数のポリカルボキシル化合物の混合物;及び
(ii)ポリホスフェート化合物、若しくは、複数のポリホスフェート化合物の混合物を含む向上剤と
を含む固化石膏含有組成物。
【請求項8】
固化石膏を含む、固化石膏含有組成物であって、前記固化石膏が、
液体と
(i)有機ホスホニック化合物、若しくは、複数の有機ホスホニック化合物の混合物;
(ii)ウレキサイト、コレマナイト、若しくは、ウレキサイト及びコレマナイトの混合物を含むホウ酸塩;若しくは
(iii)カルボキシル化合物、若しくは、複数のカルボキシル化合物の混合物;
又は(i)、(ii)、及び/又は(iii)の混合物
を含む向上剤と
の混合物で処理される固化石膏含有組成物。
【請求項9】
前記組成物が、ホスフェート化合物、若しくは、複数のホスフェート化合物の混合物、好ましくはポリホスフェート化合物を含む第2の向上剤でさらに処理される、請求項8に記載の固化石膏含有組成物。
【請求項10】
前記有機ホスホニック化合物が、アミノトリ(メチレン−ホスホン酸)、アミノトリ(メチレン−ホスホン酸)五ナトリウム塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸四ナトリウム塩、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)五ナトリウム塩、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)三ナトリウム塩、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、又は、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)カリウム塩である、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリカルボキシル化合物の分子量が、200ダルトンから100万ダルトンである、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
前記カルボキシル化合物がポリアクリレート、ポリエタクリレート、ポリメタクリレート、及びシトレートからなる群から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリカルボキシル化合物がポリアクリレートである、請求項1又は11に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1又は8に記載した組成物を含む石膏ボードであって、前記石膏ボードの垂れ抵抗性が、ASTM C473−95により規定された、60.8cm(2フィート)の長さの前記ボードあたり0.25cm(0.1インチ)より小さいか、又は、前記石膏ボードの収縮率が幅121.6cm(4フィート)あたり0.05cm(0.02インチ)より小さく、そして、長さ364.8cm(12フィート)あたり0.13cm(0.05インチ)より小さいことを特徴とする石膏ボード。
【請求項15】
ホウ酸塩及び促進剤材料を含む水性焼石膏組成物のための促進剤。
【請求項16】
前記促進剤材料が硫酸カルシウム二水和物である、請求項15に記載の促進剤。
【請求項17】
前記ホウ酸塩及び前記促進剤材料がミル加工された混合物として提供され、そして、ミル加工された前記混合物のメジアン粒子径が5μm未満であり、そして、ミル加工された前記混合物の表面積が好ましくは少なくとも7,000cm/グラムである、請求項15に記載の促進剤。
【請求項18】
少なくとも焼石膏から生成される固化石膏のインターロッキングマトリックスと、水と、そして、向上剤とを含む固化石膏含有組成物であって、前記向上剤が、
(i)ポリカルボキシル化合物若しくは複数のポリカルボキシル化合物の混合物と、(ii)ポリホスフェート化合物又は複数のポリホスフェート化合物の混合物と
を含む固化石膏含有組成物。
【請求項19】
前記ポリカルボキシル化合物の分子量が、100,000ダルトンから100万ダルトンである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記ポリカルボキシル化合物の分子量が、400,000ダルトンから600,000ダルトンである、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
前記カルボキシル化合物がポリアクリレート、ポリエタクリレート、及びポリメタクリレートからなる群から選択される、請求項18に記載の組成物。

【公開番号】特開2011−68562(P2011−68562A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268757(P2010−268757)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【分割の表示】特願2001−578363(P2001−578363)の分割
【原出願日】平成13年4月11日(2001.4.11)
【出願人】(596172325)ユナイテッド・ステイツ・ジプサム・カンパニー (100)
【Fターム(参考)】