説明

永久磁石の製造方法

【課題】回転子の仕様によらず、回転子の磁石収容孔の内部に固定された永久磁石を作業効率よく回収することができる永久磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】回転子2に形成された磁石収容孔8の内部に固定された永久磁石11を取り出す永久磁石の製造方法であって、誘導加熱コイル3に通電することにより回転子2を加熱し、回転子2の外周面と磁石収容孔8との間の部位、即ち、磁石収容孔8の継ぎ目12を溶断する工程を備えた。磁石収容孔8の継ぎ目12の溶断により、磁石収容孔8の外側の部位13を容易に取り外すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可動子または固定子に形成された貫通孔の内部に固定された永久磁石を取り出す永久磁石の製造方法、貫通孔から取り出された永久磁石をリサイクルして永久磁石を製造する永久磁石の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IPM(Interior Permanent Magnet)モータでは、回転子鉄心に貫通孔である磁石収容孔が形成され、この磁石収容孔の内部に永久磁石が固定されている。従来、回転子鉄心を加熱することによって、永久磁石の固定に用いられる樹脂を半溶解させて永久磁石の固定を緩め、その後、永久磁石を磁石収容孔から押し出して取り出していた。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−110167号公報(第5頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような回転子鉄心に埋め込まれた永久磁石を取り出す方法にあっては、永久磁石を磁石収容孔から押し出す際に、例えば棒状の押圧部材で永久磁石を押圧する必要がある。従って、押圧部材と回転子との位置決めを精度よく行わなければならず、また、回転子の仕様によって位置決めを変更しなければならず、作業性が悪いという問題点があった。
【0005】
この発明は、上述のような問題を解決するためになされたもので、作業効率よく永久磁石を回収することができる永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る永久磁石の製造方法は、可動子または固定子に形成された貫通孔の内部に固定された永久磁石を取り出す永久磁石の製造方法であって、誘導加熱コイルに通電することにより可動子または固定子を加熱し、可動子または固定子の外周面と貫通孔との間の部位を溶断する工程を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る永久磁石の製造方法によれば、作業効率よく永久磁石を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1における永久磁石の製造装置を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1における永久磁石の製造装置を示す上面図である。
【図3】この発明の実施の形態1における回転子の一部を拡大して示す上面図である。
【図4】この発明の実施の形態4における永久磁石の製造方法を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態5における永久磁石の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
まず、この発明の実施の形態1における永久磁石の製造装置1の構成を説明する。図1は、この発明の実施の形態1における永久磁石の製造装置1を示す断面図である。図2は、この発明の実施の形態1における永久磁石の製造装置1を示す上面図である。尚、図1は、図2におけるA−A断面図を示している。
【0010】
図1および図2において、IPMモータの回転子2が、固定治具(図示せず)によって固定されている。そして、誘導加熱コイル3が、回転子2の外周を囲むように配置されている。
【0011】
次に、回転子2について説明する。回転子2は、略円柱状の回転子鉄心6と、回転子鉄心6に固定されたシャフト7と、を有している。シャフト7の中心軸と回転子鉄心6の中心軸とは一致しており、これら中心軸が回転子2の回転軸となる。
【0012】
回転子鉄心6は、回転子2の回転軸とほぼ平行に延びるように形成された貫通孔である磁石収容孔8を複数有しており、それぞれの磁石収容孔8の内部には永久磁石11が固定されている。複数の磁石収容孔8は、図2に示すように、回転子2の回転軸を中心とする略円状に点在するように配置される。そして、回転子鉄心6の円周面を囲むように誘導加熱コイル3が配置される。尚、図2では、6個の磁石収容孔8が形成された例を示したが、磁石収容孔8の個数は、これに限ることはなく、さらに複数に限ることもなく1個でもよい。
【0013】
図3は、この発明の実施の形態1における回転子2の一部を拡大して示す上面図である。回転子鉄心12の円周面と磁石収容孔8との間の部位、即ち、図3において、破線の丸で囲んだ部位を「磁石収容孔8の継ぎ目12」と呼ぶこととし、磁石収容孔8の継ぎ目12の厚さをPとする。また、図3において、回転子鉄心12で、破線の四角で囲んだ部位を「磁石収容孔8の外側の部位13」と呼ぶこととする。
【0014】
次に、永久磁石11について説明する。永久磁石11は、例えばネオジム磁石(Nd−Fe−B系磁石)、サマリウムコバルト磁石(Sm−Co系磁石)、プラセオジム磁石(Pr−Co系磁石)などといった希土類元素を含む材料で形成された希土類磁石である。そして、永久磁石11は、磁石収容孔8の内部に焼きばめによってそれぞれ固定されている。
【0015】
次に、誘導加熱コイル3について説明する。誘導加熱コイル3は、ソレノイド型のコイルであって、電源(図示せず)に接続され、数kHz程度〜100kH程度の交流電流を通電できるようになっている。この誘導加熱コイル3は、固定されていてもよいし、アクチュエータによって移動可能としてもよい。
【0016】
次に、この発明の実施の形態1における永久磁石の製造装置1を用いた永久磁石の製造方法について説明する。
【0017】
まず、図1および図2に示すように、回転子2の外周面を囲むように、具体的には、回転子鉄心6の円周面を囲むように、誘導加熱コイル3を配置する。つまり、誘導加熱コイル3の内部に回転子2が挿入された状態となるように配置する。ここで、回転子鉄心6の磁石収容孔8の継ぎ目12の厚さPは、0.1〜5mm程度とする。
【0018】
次に、誘導加熱コイル3に、電源(図示せず)から数kHz程度〜100kH程度の交流電流を流す。すると、回転子鉄心6に渦電流が流れてジュール加熱される。ここで、誘導加熱コイル3に供給する電力等を調整し、加熱開始から5秒以内に回転子鉄心6の表面の一部が融点を超える温度になるよう急速昇温させる。例えば、回転子鉄心6がケイ素鋼板で形成されている場合は、ケイ素鋼板の融点である1400〜1500℃程度以上まで急速昇温させる。
【0019】
すると、熱が回転子鉄心6の最表面近傍に集中し、1つの磁石収容孔8に対して継ぎ目12の少なくとも一方が熱によって溶断される。磁石収容孔8の継ぎ目12が溶断されることにより、回転子鉄心6の磁石収容孔8の外側の部位13を分離することができるようになる。
【0020】
一般に、永久磁石は加熱によって減磁されるという性質があるが、このように、回転子鉄心6の表面の一部が溶融するほどの加熱を行うことによって、この熱が伝わって、永久磁石11がキュリー温度以上にまで加熱される。キュリー温度以上にまで加熱されることによって、永久磁石11は消磁される。例えば永久磁石17がネオジム磁石の場合は、キュリー温度は300℃程度である。
【0021】
溶断された回転子鉄心6の磁石収容孔8の外側の部位13を取り外すと、永久磁石11が外側に露出するようになる。また、永久磁石11が既に消磁されて磁気吸着力もなくなっていることから、永久磁石11を容易に取り外して回収することができる。
【0022】
以下で、この発明の実施の形態1における永久磁石の製造方法を用いて行った実験結果について説明する。
【0023】
図1および図2に示す構成において、回転子鉄心6は、板厚0.35mmのケイ素鋼板を長さ方向(図1における上下方向)に積層したもので、磁石収容孔8が6個形成され、それぞれの内部に永久磁石11が焼きばめによって固定されたものを用いた。永久磁石11は、Nd−Fe−B系の焼結磁石(保磁力:2MA/m、飽和磁化:1.3T)を用いた。誘導加熱コイル3は、内径100mm、高さ100mmで、巻回数が10ターンのものを用いた。
【0024】
そして、回転子鉄心6の外径、回転子鉄心6の長さ、誘導加熱コイル3へ通電する周波数、誘導加熱コイル3へ供給する電力、を変化させて実験を行い、加熱開始から回転子鉄心6の表面の一部が溶けるまでの時間tと、磁石収容孔8の継ぎ目12が溶断するか否かを調べた。磁石収容孔8の継ぎ目12の厚さPは、いずれも0.5mmとした。結果を表1に示す(実施例1−1〜1−5および比較例1−1)。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、実施例1−1〜1−5のように、加熱開始から回転子鉄心6の表面の一部が溶けるまでの時間tが5秒以内、特に2〜5秒の場合は、磁石収容孔8の継ぎ目12が溶断した。永久磁石11は全て消磁されており、回転子鉄心6の磁石収容孔8の外側の部位13を取り外すことにより、容易に永久磁石11を回収することができた。そして、比較例1−1のように、加熱開始から10秒かけて回転子鉄心6の表面の一部が溶けるように加熱した場合は、いたる所で溶着が発生し、その後回転子鉄心6の表面全体が溶け始め、磁石収容孔8の継ぎ目12が溶断することはなかった。
【0027】
この発明の実施の形態1では、以上のようにしたことにより、永久磁石11を押圧部材で押し出す必要が無いため、押圧部材と回転子2との位置決めをする必要が無く、この位置決めを回転子2の仕様によって変更しなければならないこともない。従って、作業効率よく永久磁石を回収することができる。
【0028】
また、加熱開始から回転子鉄心6の表面の一部が溶けるまでの時間tが5秒以内、特に2〜5秒の範囲となるように、つまり、短時間で回転子鉄心6を急速に昇温するように加熱したことにより、回転子鉄心6の全体を高温にすることなく、最表面近傍に熱を集中させて磁石収容孔8の継ぎ目12を溶断することができる。この加熱により、永久磁石11の消磁も行うことができる。これにより、永久磁石11を回転子鉄心6から分離して回収する作業効率を向上させることができる。
【0029】
また、加熱装置として、誘導加熱コイル3を用いたことにより、効率よく熱を回転子鉄心6の最表面近傍に集中させることができ、磁石収容孔8の継ぎ目12の溶断が容易となる。さらに、回転子2の外周面、具体的には回転子鉄心6の円周面を囲むように誘導加熱コイル3を配置したことにより、広い範囲を効率良く加熱することができるため、回転子鉄心6に形成された複数の磁石収容孔11の継ぎ目12を一度に溶断することが容易となる。
【0030】
上述の特許文献1に記載された従来の方法では、磁気吸着力を持ったままの永久磁石を磁石収容孔から押し出すため、押し出された永久磁石が思わぬ箇所に吸着したり、その際に割れたり砕けたりすることがあった。また、磁気吸着力を持った永久磁石が破損すると、その破片がさらに思わぬ箇所に吸着することがあった。この発明の実施の形態1では、永久磁石11を押し出すことがなく、また、加熱により永久磁石11は消磁されて磁気吸着力を失っているため、永久磁石11が思わぬ箇所に吸着したり破損したりすることなく永久磁石17を回収できる。
【0031】
また、従来の方法において、複数の永久磁石を一度に磁石収容孔から押し出すと、互いの磁気反発力によって永久磁石が跳躍したり、磁気吸引力によって互いに衝突したりする。永久磁石が跳躍した際に、思わぬ箇所に吸着したり破損したりすることもあるし、磁気吸引力によって互いに衝突した際に破損することもある。しかし、この発明の実施の形態1では、永久磁石11を押し出すことがなく、また、加熱により永久磁石11は消磁されて磁気吸着力を失っているため、複数の永久磁石17が互いの磁気反発力や磁気吸引力によって跳躍したり互いに衝突したりすることもない。
【0032】
永久磁石が希土類磁石の場合は、フェライト磁石と比べて磁力が強いため、従来の方法で磁石収容孔から取り出すと、思わぬ箇所に吸着したり、その際に破損したりする可能性が高い。しかし、この発明の実施の形態1の方法では、磁力が強い希土類磁石であっても、思わぬ箇所に吸着したり破損したりすることなく永久磁石11を回収できる。
【0033】
また、希土類磁石は、リサイクルのニーズが高いが、磁石収容孔8から取り出す際に破損すると、破損箇所の酸化が進む。そうすると、酸化によって取り込まれた酸素が不純物となるため、リサイクルに要するコストが高くなってしまう。この発明の実施の形態1の方法では、破損することなく永久磁石11を回収することができるため、破損箇所から酸化が進むこともなく、リサイクルに要するコストを低減することができる。
【0034】
希土類磁石の中でもネオジム磁石(Nd−Fe−B系磁石)は、他の希土類磁石と比べて、磁力が強く、機械的に壊れ易く、酸化し易い、という特徴を持っているため、この発明の実施の形態1の方法によって得られる効果が特に大きい。
【0035】
尚、この発明の実施の形態1では、加熱により永久磁石11を消磁した。しかし、必ずしも完全に消磁するまで至る必要はなく、例えば、永久磁石11が弱い磁気吸着力を持った状態になるまで減磁されるだけでもよい。
【0036】
また、この発明の実施の形態1では、永久磁石11を希土類磁石としたが、これに限ることはなく、フェライト磁石であってもこの発明の実施の形態1を適用できる。
【0037】
また、この発明の実施の形態1では、モータの回転子鉄心6に永久磁石11が埋め込まれたものを例に挙げて説明した。しかし、固定子鉄心に永久磁石11が埋め込まれているものにも適用できるし、回転するモータに限ることもなく、直線運動をするリニアモータの固定子や可動子に永久磁石11が埋め込まれたものにも適用できる。
【0038】
この発明の実施の形態1では、磁石収容孔8の内部に焼きばめによって永久磁石11が固定された場合について説明した。しかし、永久磁石11の固定方法は焼きばめに限ることはなく、磁石収容孔8の大きさよりも少し小さい大きさの永久磁石11を例えば樹脂のような接着剤によって固定したものにも適用できる。
【0039】
実施の形態2.
上述したこの発明の実施の形態1では、加熱開始から回転子鉄心6の表面の一部が溶けるまでの時間tが5秒以内、特に2〜5秒の範囲となるよう回転子鉄心6を加熱したが、この発明の実施の形態2では、特に、誘導加熱コイル3へ通電する周波数に注目して実験を行った。以下で、この発明の実施の形態2における実験結果について説明する。尚、実験には、この発明の実施の形態1と同様の永久磁石の製造装置1を用い、実験の手順についてもこの発明の実施の形態1と同様とした。
【0040】
回転子鉄心6の外径、回転子鉄心6の長さ、誘導加熱コイル3へ通電する周波数、誘導加熱コイル3へ供給する電力、を変化させ、加熱開始から回転子鉄心6の表面の一部が溶けるまでの時間tは5秒に固定し、磁石収容孔8の継ぎ目12が溶断するか否かを調べた。磁石収容孔8の継ぎ目12の厚さPは、いずれも0.5mmとした。他の条件は、この発明の実施の形態1で行った実験と同じとした。結果を表2に示す(実施例2−1〜2−6および比較例2−1〜2−2)。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すように、実施例2−1〜2−6のように、誘導加熱コイル3へ通電する周波数が2kHz以上、特に2〜100kHzの場合は、磁石収容孔8の継ぎ目12が溶断した。永久磁石11は全て消磁されており、回転子鉄心6の磁石収容孔8の外側の部位13を取り外すことにより、容易に永久磁石11を回収することができた。そして、比較例2−1〜2−2のように、誘導加熱コイル3へ通電する周波数が1kHz以下の場合は、回転子鉄心6の表面全体が溶け始め、磁石収容孔8の継ぎ目12が溶断することはなかった。以上から、磁石収容孔8の継ぎ目12が溶断するためには、誘導加熱コイル3へ通電する周波数を2kHz以上とすればよいことが分かった。
【0043】
この発明の実施の形態2では、以上のように、誘導加熱コイル3へ通電する周波数が2kHz以上、特に2〜100kHzとしたことにより、回転子鉄心6の全体を高温にすることなく、最表面近傍に熱を集中させて磁石収容孔8の継ぎ目12を溶断することができる。この加熱により、永久磁石11の消磁も行うことができる。これにより、永久磁石11を回転子鉄心6から分離して回収する作業効率を向上させることができる。
【0044】
尚、この発明の実施の形態2では、この発明の実施の形態1と相違する部分について説明し、同一または対応する部分についての説明は省略した。
【0045】
実施の形態3.
上述したこの発明の実施の形態1では、加熱開始から回転子鉄心6の表面の一部が溶けるまでの時間tに着目し、この発明の実施の形態2では、誘導加熱コイル3へ通電する周波数に注目して実験を行ったが、この発明の実施の形態3では、回転子鉄心6の磁石収容孔8の継ぎ目12の厚さPに着目して実験を行った。以下で、この発明の実施の形態3における実験結果について説明する。尚、実験には、この発明の実施の形態1およびこの発明の実施の形態2と同様の永久磁石の製造装置1を用い、実験の手順についてもこの発明の実施の形態1と同様とした。
【0046】
回転子鉄心6の磁石収容孔8の継ぎ目12の厚さP、誘導加熱コイル3へ供給する電力、加熱開始から回転子鉄心6の表面の一部が溶けるまでの時間t、を変化させ、回転子鉄心6の外径は75mm、回転子鉄心6の長さは80mm、誘導加熱コイル3へ通電する周波数は2kHzに固定し、磁石収容孔8の継ぎ目12が溶断するか否かを調べた。他の条件は、この発明の実施の形態1で行った実験と同じとした。結果を表3に示す(実施例3−1〜3−5および比較例3−1〜3−2)。
【0047】
【表3】

【0048】
表3に示すように、実施例3−1〜3−5のように、磁石収容孔8の継ぎ目12の厚さPが3mm以下の場合は、磁石収容孔8の継ぎ目12が溶断した。永久磁石11は全て消磁されており、回転子鉄心6の磁石収容孔8の外側の部位13を取り外すことにより、容易に永久磁石11を回収することができた。そして、比較例3−1〜3−2のように、磁石収容孔8の継ぎ目12の厚さPが4mm以上の場合は、回転子鉄心6の表面全体が溶け始め、磁石収容孔8の継ぎ目12が溶断することはなかった。以上から、磁石収容孔8の継ぎ目12を溶断するためには、継ぎ目12の厚さPを3mm以下とすればよいことが分かった。
【0049】
この発明の実施の形態3では、以上のように、磁石収容孔8の継ぎ目12の厚さPを3mm以下としたことにより、回転子鉄心6の全体を高温にすることなく、最表面近傍に熱を集中させて磁石収容孔8の継ぎ目12を溶断することができる。この加熱により、永久磁石11の消磁も行うことができる。これにより、永久磁石11を回転子鉄心6から分離して回収する作業効率を向上させることができる。
【0050】
尚、この発明の実施の形態3では、この発明の実施の形態1と相違する部分について説明し、同一または対応する部分についての説明は省略した。
【0051】
実施の形態4.
この発明の実施の形態4では、この発明の実施の形態1〜3で説明した永久磁石の製造方法を用いて回転子鉄心6から回収した永久磁石11をリサイクルして新たに永久磁石を製造する方法について説明する。図4は、この発明の実施の形態4における永久磁石の製造方法を示すフローチャートである。
【0052】
はじめに、図4を参照して通常の希土類磁石の製造方法について説明する。
【0053】
まず、例えばネオジムなどの希土類を含む鉱石を製錬し、希土類金属の単体を取り出す(S1)。この後、必要ならば精錬を行って希土類金属の純度を上げる。
【0054】
次に、例えばネオジム磁石を製造する場合はネオジム、鉄、ホウ素など、といった原料を配合し、加熱、溶解することにより、原料を合金化する(S2)。この溶解工程は、真空中またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で行い、加熱は誘導加熱を用いることが好ましい。
【0055】
次に、溶解工程で溶解した原料を冷却し、インゴットを形成する(S3)。
【0056】
次に、インゴットを粉砕して粉状体を形成する(S4)。この粉砕工程では、平均粉径3〜5μm程度の微粉となるように粉砕することが好ましい。
【0057】
次に、インゴットを粉砕した粉状体を所望の形状の金型内に充填し、磁場を印加しながら加圧して成形体を形成する(S5)。ここで粉末同士の摩擦を減らすための有機系減摩剤などを使用した場合は、成形後に200℃程度で加熱して揮発させておく。
【0058】
次に、焼結を行って焼結体を形成する(S6)。焼結温度は、ネオジム磁石の場合は例えば1100℃程度であって、焼結を行う時間は例えば1時間程度である。
【0059】
次に、焼結よりも低い温度で熱処理を行う(S7)。この熱処理工程は、ネオジム磁石の場合は例えば400〜1000℃程度で行う。
【0060】
次に、表面の研削や研磨、切断などの加工を行い、必要に応じて耐蝕性のコーティングなどの表面処理を施す(S8)。例えば、ネオジム磁石は酸化しやすいため、ニッケルなどでコーティングを行うことが好ましい。
【0061】
次に、例えば固有保磁力の1.5〜2倍程度の磁場を印加し、希土類磁石を着磁する(S9)。これにより、希土類磁石が完成する。
【0062】
以上で説明した一連の流れとは別に、この発明の実施の形態1〜3で説明した永久磁石の製造方法を用いて回転子鉄心6から希土類磁石である永久磁石11を回収する(S20)。
【0063】
この発明の実施の形態4では、永久磁石回収工程(S20)で回収(製造)した永久磁石11を溶解工程(S2)へ投入し、例えばネオジム磁石の場合はネオジム、鉄、ホウ素など、といった原料と共に加熱、溶解する。
【0064】
そして、インゴットを形成し(S3)、その後の工程(S4〜S9)を行って、リサイクル永久磁石を完成させる。
【0065】
この発明の実施の形態1〜3で説明した永久磁石の製造方法を使用せずに回転子鉄心6から永久磁石11を回収した場合、磁石収容孔8から取り出す際に破損することがある。破損した希土類磁石は破損箇所から酸化が進む、つまり不純物である酸素が取り込まれるため、破損した希土類磁石をリサイクルするためには、より上流の工程である製錬工程(S1)に投入する必要がある。これにより、リサイクルに要するコストが高くなってしまう。
【0066】
回収した永久磁石11を溶解工程(S2)に投入するためには、含まれる酸素量を10000ppm程度以下とすることが好ましいが、この発明の実施の形態4では、この発明の実施の形態1〜3で説明した永久磁石の製造方法を用いて回転子鉄心6から永久磁石11を回収することによって、永久磁石11を破損することなく回収することができるため、含まれる酸素量を10000ppm程度以下とすることができる。これにより、回収した永久磁石11を溶解工程(S2)に投入することができ、リサイクルに要するコストを下げることができる。
【0067】
尚、この発明の実施の形態4では、この発明の実施の形態1と相違する部分について説明し、同一または対応する部分についての説明は省略した。
【0068】
実施の形態5.
図5は、この発明の実施の形態5における永久磁石の製造方法を示すフローチャートである。この発明の実施の形態4とは、永久磁石回収工程(S20)で回収した永久磁石17を粉砕工程(S4)へ投入する点が相違している。
【0069】
粉砕工程(S4)では、上述の永久磁石11と原料のインゴットとを粉砕して粉状体を形成する。そして、その後の工程(S5〜S9)を行って、リサイクル永久磁石を完成させる。
【0070】
回収した永久磁石11を粉砕工程(S4)に投入するためには、含まれる酸素量を2000ppm程度以下とすることが好ましいが、この発明の実施の形態5では、この発明の実施の形態1〜3で説明した永久磁石の製造方法を用いて回転子鉄心6から永久磁石11を回収することによって、永久磁石11を破損することなく回収することができるため、含まれる酸素量を2000ppm程度以下とすることができる。これにより、回収した永久磁石11を粉砕工程(S4)に投入することができ、リサイクルに要するコストをさらに下げることができる。
【0071】
尚、この発明の実施の形態5では、この発明の実施の形態4と相違する部分について説明し、同一または対応する部分についての説明は省略した。
【0072】
以上、この発明の実施の形態1〜5について説明した。これらの、この発明の実施の形態1〜5で説明した構成は互いに組合せることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 永久磁石の製造装置
2 回転子
3 誘導加熱コイル
6 回転子鉄心
7 シャフト
8 磁石収容孔
11 永久磁石
12 磁石収容孔の継ぎ目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動子または固定子に形成された貫通孔の内部に固定された永久磁石を取り出す永久磁石の製造方法であって、
誘導加熱コイルに通電することにより前記可動子または前記固定子を加熱し、前記可動子または前記固定子の外周面と前記貫通孔との間の部位を溶断する工程を備えた永久磁石の製造方法。
【請求項2】
溶断する工程では、加熱開始から5秒以内に、可動子または固定子の表面の一部が融点を超える温度に達するように加熱することを特徴とする請求項1記載の永久磁石の製造方法。
【請求項3】
溶断する工程では、誘導加熱コイルに通電する周波数は、2kHz以上であることを特徴とする請求項2記載の永久磁石の製造方法。
【請求項4】
可動子または固定子の外周面と貫通孔との間の部位の厚さは、3mm以下であることを特徴とする請求項3記載の永久磁石の製造方法。
【請求項5】
可動子または固定子は、複数の貫通孔を有し、
前記複数の貫通孔の内部にはそれぞれ永久磁石が固定され、
溶断する工程では、前記可動子または前記固定子の外周を囲むように配置した誘導加熱コイルによって前記可動子または前記固定子を加熱し、前記可動子または前記固定子の外周面と前記複数の貫通孔との間の部位をそれぞれ溶断することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の永久磁石の製造方法。
【請求項6】
可動子は略円柱状に形成された回転子であり、
複数の貫通孔は、前記回転子の回転軸を中心とする略円状に点在するよう配置され、
溶断する工程では、前記回転子の円周面を囲むように配置された誘導加熱コイルによって前記回転子を加熱することを特徴とする請求項5記載の永久磁石の製造方法。
【請求項7】
永久磁石は、希土類元素を含む材料で形成された希土類磁石であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の永久磁石の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の永久磁石の製造方法により製造された永久磁石を含む永久磁石の原料を溶解する工程と、
溶解した原料からインゴットを形成する工程と、
前記インゴットを粉砕して粉状体を形成する工程と、
前記粉状体を加圧して成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼結して焼結体を形成する工程と、
を備えた永久磁石の製造方法。
【請求項9】
請求項7記載の永久磁石の製造方法により製造された永久磁石を粉砕する工程と、
前記永久磁石を粉砕した粉末を含む永久磁石の原料の粉状体を、加圧して成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼結して焼結体を形成する工程と、
を備えた永久磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−228140(P2012−228140A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96217(P2011−96217)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】