説明

永久磁石型回転電機およびパワーステアリング装置

【課題】インピーダンスの回転子位置依存性(突極性)を大きくし、センサレス駆動に最適な永久磁石型モータを得る。
【解決手段】電機子巻線2と固定子鉄心1を具備した固定子と、複数の永久磁石4と回転子鉄心3を具備した回転子とを備えた永久磁石型回転電機において、回転子の軸方向に延在し、回転軸5の周方向に2箇所以上配置された第1導体6と、第1導体6間を電気的に接続する第2導体10とを有し、複数の永久磁石4の周囲を取り囲むように構成された単数ないし複数の導通回路をさらに備え、2箇所以上に配置された第1導体6は、異なる抵抗値を有する2種類以上の導体で構成され、電機子巻線2に流れる電流が発生する磁束の内、第1導体と第2導体に囲まれた空間に鎖交する磁束が変化することにより回転子の回転角度に応じて大きさの異なる誘導電流が流れ、回転子の回転角度に応じてインピーダンスが変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突極性を向上させた永久磁石型回転電機に関するものであり、例えば、車両用の電動パワーステアリング装置に適用されるブラシレスモータのような永久磁石型回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、永久磁石型回転電機(永久磁石型モータ)へのコスト低減、小型化が求められている。これらの要求を満たしたモータ駆動方法には、モータの角度検出装置を不要とするセンサレス駆動方式がある。センサレス駆動方式をモータの低速域、高速域の両方で行うには、モータの突極性が必要である。
【0003】
埋込磁石型のモータは、一般に、突極性が大きい。しかしながら、コギングトルクやトルクリップル等も大きいため、操舵性フィーリングが良好であることが要求される電動パワーステアリング装置等には適していない。このような理由で、一般に、突極性が小さいが、コギングトルクやトルクリップル等も小さいため、操舵性フィーリングが良好な表面磁石型等のモータにおいて、突極性を向上するような構造が求められている。
【0004】
例えば、従来の永久磁石型回転電機では、角度検出のために、回転子の周囲に非磁性体層を、回転子のN極とS極とを区分する極間を中心として回転子の正、逆回転方向にそれぞれ電気角80〜100度の角度区間で形成している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、他の従来の永久磁石型回転電機では、角度検出のために、回転子に導電材または磁性材の筒状部材を外嵌固定している(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平9-56193号公報
【特許文献2】特開2006-109663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。
上述した従来技術である回転子の周囲に非磁性体層を回転子に形成する方法、あるいは回転子に導電材または磁性材の筒状部材を外嵌固定している方法では、回転子位置によるインピーダンスの変化が小さいという課題があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、インピーダンスの回転子位置依存性(突極性)を大きくし、センサレス駆動に適した永久磁石型回転電機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る永久磁石型回転電機は、電機子巻線と固定子鉄心を具備した固定子と、複数の永久磁石と回転子鉄心を具備した回転子とを備えた永久磁石型回転電機において、回転子の軸方向に延在し、回転軸の周方向に2箇所以上配置された第1導体と、第1導体間を電気的に接続する第2導体とを有し、複数の永久磁石の周囲を取り囲むように構成された単数ないし複数の導通回路をさらに備え、2箇所以上に配置された第1導体は、異なる抵抗値を有する2種類以上の導体で構成され、電機子巻線に流れる電流が発生する磁束の内、第1導体と第2導体に囲まれた空間に鎖交する磁束が変化することにより回転子の回転角度に応じて大きさの異なる誘導電流が流れ、回転子の回転角度に応じてインピーダンスが変化するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の永久磁石の周囲を取り囲むように、第1導体および第2導体から構成された単数ないし複数の導通回路を設けるとともに、2箇所以上に配置された第1導体が異なる抵抗値を有する2種類以上の導体で構成されることで、電機子巻線に流れる電流が発生する磁束の内、第1導体と第2導体に囲まれた空間に鎖交する磁束が変化することにより回転子の回転角度に応じて大きさの異なる誘導電流が流れ、回転子の回転角度に応じてインピーダンスが変化することとなり、この結果、インピーダンスの回転子位置依存性(突極性)を大きくし、センサレス駆動に適した永久磁石型回転電機を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の永久磁石型回転電機の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0012】
実施の形態1.
本実施の形態では、永久磁石型モータの回転子に導体からなる誘導電流回路(導通回路)を設け、回転センサなしで回転子の回転角度を検出する場合について説明する。
【0013】
まず始めに、回転センサなしで回転角度の検出が可能となる原理について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における永久磁石型回転電機に誘導電流が流れる原理の説明図である。理解を助けるために、図1においては、永久磁石型回転電機を直線状に描いており、2通りの回転子位置d、qを示している。通常の永久磁石型モータは、固定子鉄心1と電機子巻線2を具備した固定子と、回転子鉄心と永久磁石4を具備した回転子で構成されている。
【0014】
図1は、断面図であるが、実際には、この図1に示した構成要素は、回転軸方向に平行またはほぼ平行に延在する。図1に示すモータには、永久磁石間に回転軸と平行またはほぼ平行な方向に延在する導体6を配置し、その導体を別の導体で電気的に接続している。図1では、4極のモータを示しているが、極数やスロット数は、これに限定されない。また、図1におけるNとSは、永久磁石の極性を示している。
【0015】
図2は、本発明の実施の形態1におけるモータの回転子の斜視図であり、8極の回転子の場合の図1に対応する構成例を示すものである。図2に示すように、永久磁石4間には、回転軸と平行またはほぼ平行な方向に延在する導体6と、その導体6を電気的に接続する別の導体10が回転子に配置されている。
【0016】
ここで、導体6は、第1導体に相当し、導体10は、第2導体に相当する。また、第1導体と第2導体により構成される回路が、導通回路に相当する。以下の実施の形態においても、同様に、第1導体と第2導体により導通回路が構成されることになる。
【0017】
回転角度の検出には、突極性を用いる。ここで、突極性とは、インピーダンスの回転子位置に対する依存性を意味している。また、ここでのインピーダンスとは、例えば、電機子巻線の線間のインピーダンスを意味しており、このようなインピーダンスを以下では単にインピーダンスと呼ぶ。永久磁石4間に導体6を配置し、導体6を導体10で電気的に接続し構成される導通回路を有することにより、モータに高周波電圧を印加したときの突極性を大きくすることができ、モータのセンサレス駆動が可能となる。
【0018】
図1に戻って、回転子位置に対するインピーダンスの差異が最も大きい回転子位置dとqを比較する。図1の波形は、高周波電圧印加時の電機子電流により発生する磁束9を表している。ただし、簡単のため、基本波成分のみを示している。
【0019】
まず、回転子位置がdの場合には、電機子電流により発生する磁束が、例えば、導体Aと導体Bの間に鎖交し、導体6に誘導電流が流れる。その誘導電流により、電機子電流によって発生する磁束が打ち消され、インピーダンスが小さくなる。
【0020】
一方、回転子位置がqの場合には、電機子電流により発生する磁束のうち、例えば、導体Aと導体Bの間に鎖交する分が互いに打ち消すため、導体に誘導電流が流れず、インピーダンスも変化しない。このように、回転子の位置によって、インピーダンスに差異が生じる現象を利用して、回転子の位置検出が可能となる。
【0021】
図3は、本発明の実施の形態1における回転子の回転角度とインピーダンスとの関係を示した図であり、突極性を示したものである。図3において、横軸は角度(電気角)、縦軸はインピーダンスをそれぞれ示している。図3では、インピーダンスの変化する周期は、電気角180度である。これは、導体の中心を、隣り合う永久磁石の磁極間の中心に配置しているため、可能となる。
【0022】
図4は、本発明の実施の形態1において、無負荷のときの高周波電圧印加時に電機子巻線に流れる電流をdq変換した電流ベクトルの軌跡を示す図である。一方、図5は、本発明の実施の形態1において、負荷があるときの高周波電圧印加時に電機子巻線に流れる電流をdq変換した電流ベクトルの軌跡を示す図である。これら図4、図5においては、d軸電流を横軸、q軸電流を縦軸としている。
【0023】
導体を配置しない一般的なモータの電流ベクトルの軌跡は、図4、図5に示すように、d軸とq軸のインピーダンスが回転子位置に依存しない(すなわち、突極性がほとんどない)ため、真円、またはほぼ真円となる。
【0024】
一方、導体を配置したモータの電流ベクトルの軌跡は、図4、図5に示すように、楕円となる。これは、導体を配置することにより、d軸とq軸のインピーダンスが回転子位置に依存し、電流が変化するためである。また、負荷時に磁気飽和した場合には、図5に示すように、楕円が傾くことがある。しかしながら、このような場合でも、負荷電流と長軸方向の傾きから位置検出が可能である。
【0025】
以下に、具体例を用いて、本実施の形態1における永久磁石型回転電機を詳細に説明する。図6は、本発明の実施の形態1における永久磁石型回転電機の第1の具体例を示した断面図であり、10極12スロットの表面磁石型モータの断面図を示している。本モータは、電機子巻線2と固定子鉄心1を具備した固定子と、永久磁石4と回転子鉄心3を具備した回転子で構成されている。回転子の回転方向を反時計回りとすると、巻線配置は、反時計回りにU+、U−、V−、V+、W+、W−、U−、U+、V+、V−、W−、W+となる。
【0026】
回転軸5と平行またはほぼ平行な方向に延在する導体6は、全永久磁石4間に配置されるのではなく、1箇所の永久磁石間を除いて配置されている。さらに、これら導体6は、別の導体10(図示せず)で電気的に接続されている。本発明の形態1では、回転軸5と平行またはほぼ平行な方向に延在する導体6が、周方向に少なくとも1箇所以上の永久磁石4間の位置を除いて配置され、また、少なくとも2箇所以上の永久磁石4間の位置に配置されている。また、それらの導体6は、別の導体で電気的に接続されている。
【0027】
図7、図8は、本発明の実施の形態1における表面磁石型モータの斜視図である。より具体的には、図7は、8極のモータの回転子を示しており、その回転子には2箇所の永久磁石4間を除いて他の永久磁石4間(すなわち、6箇所)に導体6が配置され、その導体6が別の導体10で電気的に接続されている。また、図8は、図7で示したモータの導体部分(6、10)のみを示している。
【0028】
モータの突極性を評価するため、突極性の指標をd軸インダクタンスLdhとq軸インダクタンスLqhを用いて、下式(1)で定義した。
1/Ldh−1/Lqh (1)
【0029】
図9は、本発明の実施の形態1における永久磁石型回転電機の第2の具体例を示した断面図であり、10極12スロットの表面磁石型モータにおいて、永久磁石間の連続する3箇所の位置を除いて導体を配置した場合の断面図を示している。また、図10は、本発明の実施の形態1における永久磁石型回転電機の第3の具体例を示した断面図であり、10極12スロットの表面磁石型モータにおいて、永久磁石間に2箇所分間隔を開けて2箇所を除いて導体を配置した場合の断面図を示している。
【0030】
図11は、本発明の実施の形態1の永久磁石型回転電機において、導体を配置しない永久磁石間の位置の数と突極性の指標との相関関係を示した図である。図11に示すように、全ての永久磁石間に導体を配置した場合に比べて、導体6を1箇所以上の永久磁石4間に配置しない場合の方が、突極性が大きくなる。このような構成により、回転子位置によるインピーダンスの変化を大きくすることのできる永久磁石型回転電機を得ることができる。
【0031】
以上のように、実施の形態1によれば、複数の永久磁石の周囲を取り囲むように、第1導体および第2導体から構成された単数ないし複数の導通回路を設けるとともに、2箇所以上に配置された第1導体が異なる抵抗値を有する2種類以上の導体で構成される。従って、レゾルバやエンコーダ等の回転角度検出装置を用いることなく、モータを駆動できるようになる。この結果、従来よりも安価で小型のモータ駆動が実現でき、センサレス駆動の精度も高めることができる。さらに、導体を全永久磁石間に配置した場合に比べ、永久磁石間に配置しない導体の分だけ材料が減らせ、安価にできる。
【0032】
さらに、複数の永久磁石の周囲を取り囲むように、第1導体および第2導体から構成された単数ないし複数の導通回路を設けるとともに、前記第1導体が、周方向において少なくとも1箇所以上の永久磁石間の位置を除いて配置されて構成される。従って、電機子巻線に流れる電流が発生する磁束の内、第1導体と第2導体に囲まれた空間に鎖交する磁束が変化することにより回転子の回転角度に応じて大きさの異なる誘導電流が流れ、回転子の回転角度に応じてインピーダンスが変化する。この結果、突極性を大きくし、センサレス駆動に適した永久磁石型回転電機を得ることができる。
【0033】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、永久磁石4間に導体6を配置しない箇所を設けることによって、配置された導体6に流れる誘導電流を不平衡にした場合について説明した。これに対して、本実施の形態2では、導体6の抵抗を変えることにより、誘導電流を不平衡とする場合について説明する。
【0034】
導体6を永久磁石4間に配置すると、永久磁石4間に導体6を配置しない通常の回転電機よりも、大きな突極性が得られることを説明したが、本実施の形態2では、導体6の抵抗を変える構成を備えることにより、さらに大きな突極性を得ることができる。
【0035】
導体6を配置する箇所は、2箇所以上あれば、全ての永久磁石4間に配置してもよい。固定子鉄心1、電機子巻線2、回転子鉄心3、永久磁石4の構成は、先の実施の形態1と同じである。また、永久磁石4間に配置される、回転軸5と平行またはほぼ平行な方向に延在する導体6は、先の実施の形態1と同様に、別の導体10で電気的に接続されている。
【0036】
導体6の材質の種類を変える、または導体6の断面積を変える等して導体6の抵抗に、差異を与える。図12は、本発明の実施の形態2における永久磁石型回転電機の第1の具体例を示した断面図であり、導体の材質の種類を2種類とした例を示している(導体6、6a)。一般的に、導体6、6aに用いる材質は、銅や、アルミニウムであるが、導電率が大きければ、他の材質でもよい。
【0037】
また、導体の材質は、3種類以上でもよい。このような導体の種類を複数とする構成では、突極性が向上する以外に、次のような効果が得られる。導体の材質が違うだけで、導体の大きさは同じにできるため、製造方法が容易である。例えば、導体同士や回転子への貼り付けや溶接等で、導体を回転子に固定し易い。
【0038】
図13は、本発明の実施の形態2における永久磁石型回転電機の第2の具体例を示した断面図であり、断面積の大きさを2種類とした例を示している(導体6、6b)。もちろん、断面積の大きさは3種類以上でもよい。断面積の大きさを変えることにより、導体の抵抗値が変わる。このような構成では、突極性が向上するだけでなく、導体の断面積が違うだけなので、製造方法が容易である。例えば、導体は、同じ材質で構成されるので、ダイキャスト加工も可能である。
【0039】
図14は、本発明の実施の形態2における永久磁石型回転電機の第3の具体例を示した断面図であり、導体の材質の種類を2種類とし、永久磁石4間の1箇所に導体を配置していない例を示している。この場合、導体が配置されていない箇所は、抵抗が無限大、つまり、その箇所を流れる電流が0と等価であると考えることができる。
【0040】
このように、導体の抵抗の種類を2種類以上にし、導体を全永久磁石4間に配置するのではなく、導体を2箇所以上の位置に1箇所以上の位置を除いて配置してもよい。この例に限らず、導体の材質の種類、断面積の種類、導体の配置の有無を組み合わせることにより、容易に各導体に流れる誘導電流の種類を増やすことができる。
【0041】
以上のように、実施の形態2によれば、導体の材質の種類、断面積の種類、導体の配置の有無を組み合わせることにより、配置された導体に流れる誘導電流を不平衡にできる。この結果、回転子位置によるインピーダンスの変化を大きくすることのできる永久磁石型回転電機を得ることができるとともに、設計、製造の自由度が増大する。
【0042】
実施の形態3.
先の実施の形態1では、永久磁石4間に導体6を配置しない箇所を設けることによって、配置された導体6に流れる誘導電流を不平衡にした場合について説明した。これに対して、本実施の形態3では、永久磁石4間の導体6の有無により生じる質量の不平衡をなくす方法について説明する。
【0043】
図15は、本発明の実施の形態3における永久磁石型回転電機の第1の具体例を示した断面図であり、永久磁石4間の1箇所に絶縁体7を配置し、残りの位置に導体6を配置した例を示している。
【0044】
その絶縁体7は、導体6が配置されていない永久磁石4間に、回転バランスがよくなるように配置される。この構成により、導体6を全永久磁石4間に配置しないために起こる質量の不平衡を解消し、モータの振動を抑制することができる。また、磁気的に対称なため、コギングトルクやトルクリップル等が低減できる。それに加え、回転子鉄心3の形状を非対称にする必要がなく、製造が容易となる利点がある。
【0045】
図16は、本発明の実施の形態3における永久磁石型回転電機の第2の具体例を示した断面図であり、永久磁石4間のうち、導体6を配置していない位置の鉄心形状を変更した例を示している(鉄心形状を変更した部分8)。これにより、導体6を全永久磁石4間に配置しないために起こる質量の不平衡を解消し、モータの振動を低減する効果がある。また、磁気的に対称となるようにしているため、コギングトルクやトルクリップル等が低減できる。
【0046】
以上のように、実施の形態3によれば、永久磁石4間の導体6の有無により生じる質量の不平衡をなくす構成を備えることにより、モータの振動を抑制することができ、さらに、磁気的に対称なため、コギングトルクやトルクリップル等が低減できる。
【0047】
実施の形態4.
一般に、表面磁石型モータは、突極性がほとんどないので、先の実施の形態1、2のような構成とすることで、一般の表面磁石型モータに比べ、突極性を大きくすることができる。さらに、これらの構成では、全永久磁石4間に導体を配置した場合よりも、突極性が大きくなる。さらに、一般に、表面磁石型モータは、コギングトルク、トルクリップルが小さく、導体を配置することによるコギングトルク、トルクリップルへの影響はない。従って、表面磁石型モータの本来の利点を生かすこともできる。
【0048】
実施の形態5.
先の実施の形態1〜4では、表面磁石型モータに対して回転子位置によるインピーダンスの変化を大きくすることのできる構成を説明した。これに対して、本実施の形態5では、埋め込み磁石型モータに対して同様の構成を適用する場合について説明する。
【0049】
図17は、本発明の実施の形態5における永久磁石型回転電機の具体例を示した断面図であり、埋め込み磁石型モータの例を示している。このモータは、固定子鉄心1と電機子巻線2を具備した固定子、永久磁石4が埋設された回転子鉄心3で構成されている。そして、永久磁石4間に回転軸5と平行またはほぼ平行な方向に延在する導体6を配置し、その導体6を別の導体10(図示せず)で電気的に接続している。
【0050】
この例では、永久磁石4間に1箇所、導体6が配置されていない箇所があるが、2箇所以上に導体6が配置されていれば、配置されない箇所は、1箇所以上なら何箇所でもよい。このような構成により、表面磁石型モータに対する効果と同様に、全ての永久磁石4間に導体6を配置した場合に比べ、突極性が大きくなる効果が得られる。
【0051】
さらに、この埋め込み磁石型モータは、表面磁石型モータと比べて、磁石保持が容易なため、ステンレス等の非磁性体の管等を設けなくてよいという効果がある。また、埋め込み磁石型モータは、元来突極性があるため、表面磁石型モータに比べて、突極性がさらに向上するという効果も得られる。
【0052】
実施の形態6.
本実施の形態6では、電機子巻線2が集中巻の場合について説明する。
図18は、本発明の実施の形態6における永久磁石型回転電機の第1の具体例を示した断面図であり、電機子巻線2が集中巻の例を示している。図18に示す永久磁石型モータは、固定子鉄心1と集中巻をされた電機子巻線2を具備した固定子、回転子鉄心3と永久磁石4を具備した回転子で構成されている。そして、永久磁石4間に回転軸5と平行またはほぼ平行な方向に延在する導体6を配置し、その導体6を別の導体10(図示せず)で電気的に接続している。
【0053】
図18のモータは、8極12スロットであり、回転子の回転方向を反時計回りとすると、巻線配置は、反時計回りにU+、V+、W+の順に4回繰り返す。この例では、永久磁石4間に1箇所導体6が配置されていない箇所があるが、2箇所以上に導体6が配置されていれば、配置しない箇所は1箇所以上であれば何箇所でもよい。集中巻のモータは、元々は突極性が小さいが、このような構成とすることにより、突極性が大きくなる効果が得られる。そのため、回転センサレス化が可能である。
【0054】
極数とスロット数の比率が以下に示すようになるモータは、空間次数の低い成分の電機子起磁力成分を含んでいるため、突極性が小さいという課題があった。
極数:スロット数=12n±2n:12n(ただし、nは1以上の整数)
極数:スロット数=9n±n:9n(ただし、nは1以上の整数)
しかしながら、本実施の形態6の構成を備えることにより、空間次数の低い起磁力の成分の影響が小さくなり、一般の集中巻の回転電機に比べ、突極性を大きくすることができる。
【0055】
先の実施の形態1で用いた図6は、本発明の実施の形態6における永久磁石型回転電機の第2の具体例を示した断面図にも相当し、10極12スロットで巻線が集中巻の永久磁石型モータの例を示している。また、図19は、本発明の実施の形態6における永久磁石型回転電機の第3の具体例を示した断面図であり、14極12スロットで巻線が集中巻の永久磁石型モータの例を示している。さらに、図20は、本発明の実施の形態6における永久磁石型回転電機の第4の具体例を示した断面図であり、8極9スロットで巻線が集中巻の永久磁石型モータの例を示している。
【0056】
図19における14極12スロットの巻線配置は、回転子の回転方向を反時計回りとすると、反時計回りにU+、U−、W−、W+、V+、V−、U−、U+、W+、W−、V−、V+となる。また、図20における8極9スロットの巻線配置は、回転子の回転方向を反時計回りとすると、反時計回りにU+、U−、U+、V+、V−、V+、W+、W−、W+となる。
【0057】
実施の形態7.
本実施の形態7では、本発明による回転位置検出を電動パワーステアリング装置に適用する具体例について説明する。図21は、本発明の実施の形態7による電動パワーステアリング装置の構成を示す概略図である。
【0058】
ステアリングホイール31に結合してステアリングホイール31の操舵力を受けるコラムシャフト32が設けられている。さらに、コラムシャフト32には、ウォームギヤ33(図21では詳細な記載を省略し、ギヤボックスのみ示している)が接続されており、操舵力は、ウォームギヤ33に伝わる。
【0059】
ウォームギヤ33は、コントローラ34によって駆動されるモータ35の出力(トルク、回転数)を、回転方向を直角に変えるとともに回転を減速しながら伝達して、操舵力にモータ35のアシストトルクを加えている。操舵力は、ウォームギヤ33に接続されたハンドルジョイント36を伝わり、方向も変えられる。
【0060】
ステアリングギヤ37(図21では詳細な記載を省略し、ギヤボックスのみ示している)は、ハンドルジョイント36の回転を減速し、同時にラック38の直線運動に変換し、所要の変位を得る。このラック38の直線運動により車輪を動かし、車両の方向転換等を可能とする。
【0061】
このような電動パワーステアリング装置において、モータ35を適切に駆動するには、回転角度を検出する必要がある。そこで、従来のモータは、ホールセンサやレゾルバなどの回転角度検出装置を具備している。しかしながら、ホールセンサやレゾルバがあると、部品点数が増え、コストも増加する。また、モータの体格も回転角度検出装置があるために大きくなってしまう。
【0062】
しかしながら、上述したような本発明の実施の形態1〜6に示したいずれかのモータ35を電動パワーステアリング装置に組み込むことで、回転角度検出装置がなくても、導体に流れる誘導電流によって発生するインピーダンスの違いを利用して、電機子電流を測定することにより、回転角度検出が可能となる。コントローラにより、モータを駆動するための電圧に重畳して、例えば1〜10kHzの高周波電圧をモータに印加し、それにより生じる高周波電流を計測することにより、回転角度検出が可能である。すなわち、回転センサレス駆動が可能となる。これにより、部品点数を減らすことができ、コストも低減できる。さらに、モータ35の体格を小さくでき、軽量化できるという効果が得られる。
【0063】
このような電動パワーステアリング装置では、モータにて発生するコギングトルクやトルクリップルがウォームギヤ33とコラムシャフト32を介して、ステアリングホイール31に伝達される。従って、モータが大きなコギングトルクやトルクリップルを発生する場合、滑らかなステアリング感覚を得ることができない。
【0064】
しかしながら、本発明のモータ35では、表面磁石型のモータでもホールセンサやレゾルバなしに、回転角度検出が可能である。表面磁石型は、一般に、突極性の大きい磁石埋め込み型に比べて、コギングトルクやトルクリップルが小さい傾向にある。従来は、突極性の大きい磁石埋め込み型に対しては、回転センサレス駆動が可能であったが、本発明のモータ35によって、表面磁石型に対しても、回転センサレス駆動が可能となる。
【0065】
以上のように、実施の形態7によれば、本発明の永久磁石型回転電機を用いた回転位置検出手段を電動パワーステアリング装置に適用することにより、表面磁石型に対しても、部品点数低減、コスト低減、モータサイズ低減・軽量化という効果に加えて、「低コギングトルクと低トルクリップル」の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態1における永久磁石型回転電機に誘導電流が流れる原理の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるモータの回転子の斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1における回転子の回転角度とインピーダンスとの関係を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態1において、無負荷のときの高周波電圧印加時に電機子巻線に流れる電流をdq変換した電流ベクトルの軌跡を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1において、負荷があるときの高周波電圧印加時に電機子巻線に流れる電流をdq変換した電流ベクトルの軌跡を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1における永久磁石型回転電機の第1の具体例を示した断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1における表面磁石型モータの斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態1における表面磁石型モータの斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態1における永久磁石型回転電機の第2の具体例を示した断面図である。
【図10】本発明の実施の形態1における永久磁石型回転電機の第3の具体例を示した断面図である。
【図11】本発明の実施の形態1の永久磁石型回転電機において、導体を配置しない永久磁石間の位置の数と突極性の指標との相関関係を示した図である。
【図12】本発明の実施の形態2における永久磁石型回転電機の第1の具体例を示した断面図である。
【図13】本発明の実施の形態2における永久磁石型回転電機の第2の具体例を示した断面図である。
【図14】本発明の実施の形態2における永久磁石型回転電機の第3の具体例を示した断面図である。
【図15】本発明の実施の形態3における永久磁石型回転電機の第1の具体例を示した断面図である。
【図16】本発明の実施の形態3における永久磁石型回転電機の第2の具体例を示した断面図である。
【図17】本発明の実施の形態5における永久磁石型回転電機の具体例を示した断面図である。
【図18】本発明の実施の形態6における永久磁石型回転電機の第1の具体例を示した断面図である。
【図19】本発明の実施の形態6における永久磁石型回転電機の第3の具体例を示した断面図である。
【図20】本発明の実施の形態6における永久磁石型回転電機の第4の具体例を示した断面図である。
【図21】本発明の実施の形態7による電動パワーステアリング装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0067】
1 固定子鉄心、2 電機子巻線、3 回転子鉄心、4 永久磁石、5 回転軸、6、6a、6b 導体(第1導体)、7 絶縁体、8 鉄心形状を変更した部分、10 導体(第2導体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子巻線と固定子鉄心を具備した固定子と、複数の永久磁石と回転子鉄心を具備した回転子とを備えた永久磁石型回転電機において、
前記回転子の軸方向に延在し、前記回転軸の周方向に2箇所以上配置された第1導体と、前記第1導体間を電気的に接続する第2導体とを有し、前記複数の永久磁石の周囲を取り囲むように構成された単数ないし複数の導通回路をさらに備え、
2箇所以上に配置された前記第1導体は、異なる抵抗値を有する2種類以上の導体で構成され、前記電機子巻線に流れる電流が発生する磁束の内、前記第1導体と前記第2導体に囲まれた空間に鎖交する磁束が変化することにより前記回転子の回転角度に応じて大きさの異なる誘導電流が流れ、前記回転子の回転角度に応じてインピーダンスが変化する
ことを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項2】
電機子巻線と固定子鉄心を具備した固定子と、複数の永久磁石と回転子鉄心を具備した回転子とを備えた永久磁石型回転電機において、
前記回転子の軸方向に延在し、前記回転軸の周方向に2箇所以上配置された第1導体と、前記第1導体間を電気的に接続する第2導体とを有し、前記複数の永久磁石の周囲を取り囲むように構成された単数ないし複数の導通回路をさらに備え、
前記第1導体は、周方向において少なくとも1箇所以上の永久磁石間の位置を除いて配置され、前記電機子巻線に流れる電流が発生する磁束の内、前記第1導体と前記第2導体に囲まれた空間に鎖交する磁束が変化することにより前記回転子の回転角度に応じて大きさの異なる誘導電流が流れ、前記回転子の回転角度に応じてインピーダンスが変化する
ことを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の永久磁石型回転電機において、
前記第1導体は、永久磁石間に配置されない箇所が3箇所以下となるように配置されることを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項4】
請求項1または2に記載の永久磁石型回転電機において、
前記第1導体は、異なる抵抗値を有する材質の異なる2種類以上の導体で構成されることを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項5】
請求項1または2に記載の永久磁石型回転電機において、
前記第1導体は、異なる抵抗値を有するように、断面積の大きさが異なる2種類以上の導体で構成されることを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項6】
請求項1または2に記載の永久磁石型回転電機において、
前記第1導体の配置されていない永久磁石間の位置に配置された絶縁体をさらに備えることを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項7】
請求項1または2に記載の永久磁石型回転電機において、
前記第1導体の配置されていない永久磁石間の位置における前記回転子鉄心を、前記第1導体の代替となるような突部形状とすることを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の永久磁石型回転電機において、
前記永久磁石は、前記回転子の表面に配置されることを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の永久磁石型回転電機において、
前記永久磁石は、前記回転子鉄心に埋設して配置されることを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の永久磁石型回転電機において、
前記電機子巻線は、集中巻であることを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の永久磁石型回転電機において、
回転電機の極数は、12n±2nであり、スロット数は、12n(ただし、nは1以上の整数)であることを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項12】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の永久磁石型回転電機において、
回転電機の極数は、9n±nであり、スロット数は、9n(ただし、nは1以上の整数)であることを特徴とする永久磁石型回転電機。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の永久磁石型回転電機と、
モータの駆動と高周波電圧の重畳を行うためのコントローラと
を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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