説明

永久磁石埋め込み型回転子

【課題】回転子の軸長を低減し、回転子を構成する部材の低減と、漏れ磁束を少なくした永久磁石埋め込み型回転子を提供する。
【解決手段】回転子鉄心2の軸孔4と平行に、永久磁石6を挿入する磁石収容孔7と、回転子1を冷却するための冷却用の風孔8と、永久磁石6が永久磁石収容孔7から飛び出ない様に回転子鉄心2の両端部を塞ぐためのバランスウェイト一体型端板5を締結部材3で固定するための貫通孔9が複数設けられている。バランスウェイト一体型端板5は、このアンバランス量を調整するためのバランス調整の機能と、磁石収容孔7から永久磁石6が飛び出ない様に磁石収容孔7の開口部を塞ぐための端板の機能とを合わせ持っている。バランスウェイト一体型端板5の径方向外周から切欠いた切欠き部11を設けている。この切欠き部11を設けることにより端板にバランスウェイト機能を付与している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子鉄心の磁石収容孔に永久磁石を挿入した永久磁石埋め込み型回転子において、回転子の軸方向両端部にバランスウェイトを装着し締結部材にて一体に固定した永久磁石埋め込み型回転子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石を備えた回転子のバランス調整構造として、特許文献1(特開平2−184232)に示されているように、回転子鉄心の軸中心に回転軸を挿入する回転軸孔と、回転軸孔と平行に回転子鉄心の外周に永久磁石を配置して保護部材で覆い、回転子鉄心の軸方向両端部に端板とバランスウェイトをダイカスト等で一体成形したバランスウェイト一体型端板が装着され、回転軸孔と平行に貫通した貫通孔に締結部材を挿入し一体に固定した回転子において、前記バランスウェイト一体型端板の端板外周部のリング状の凸部にキリ加工等を加えアンバランス量を調整する回転子がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−184232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この様なバランスウェイト一体型端板を装着した回転子においては、回転子鉄心にバランスウェイト一体型端板を取り付けた後に、端板外周部のリング状の凸部にキリ加工等を加えアンバランス量を調整するため、回転子の組立完了後にキリ加工による加工屑が発生してしまう。また、調整するバランス量が微量であってもバランスウェイト一体型端板外周部には、アンバランス量を調整するためのリング状の凸部を設ける必要がある。このため端板自体の回転子軸長が長くなり、バランスウェイト一体型端板自体の材料費も上がってしまう。
【0005】
また、バランスウェイト一体型端板自体の目的の一つとして、回転子鉄心内に設けた磁石収容孔から永久磁石が飛び出ない様に、回転子鉄心の軸方向の両端部にバランスウェイト一体型端板を装着し締結部材にて一体に固定しているが、回転子鉄心の磁石収容孔が開口している開口部分のみをバランスウェイト一体型端板により塞ぐことができればよく、回転子鉄心の軸方向の両端部全面を覆う必要はない。
【0006】
逆に、回転子鉄心の永久磁石を挿入した磁石収容孔の回転子鉄心の軸方向両端部全面を磁性材のバランスウェイト一体型端板で覆ってしまうと、永久磁石が挿入された磁石収容孔の内側と外側を跨るように磁性材のバランスウェイト一体型端板で覆うことになるので、永久磁石の磁束が漏れる通路となり電動機の効率が低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
回転子の軸中心に回転軸を挿入する回転軸孔と、前記回転軸孔と平行に永久磁石を挿入した磁石収容孔を備えた回転子鉄心と、永久磁石が磁石収容孔から外部に飛び出さない様に回転子鉄心の軸方向両端部に装着した端板とを、前記回転軸孔と平行に貫通した貫通孔に締結部材を挿通し一体に固定した永久磁石埋め込み型回転子において、
前記永久磁石埋め込み型回転子の軸方向両端部に装着した少なくともどちらか一方の端板が、重心を偏らせたバランス機能を備えたバランスウェイト一体型端板であり、
前記バランスウェイト一体型端板は、回転子鉄心に永久磁石を挿入した磁石収容孔の回転子外周側から磁石収容孔の径方向外側まで切欠いた切欠き部を少なくとも1箇所設けた永久磁石埋め込み型回転子とする。
【0008】
また、前記バランスウェイト一体型端板に、回転子鉄心に永久磁石を挿入した磁石収容孔の回転子外周側から磁石収容孔の径方向外側まで切欠いた切欠き部を設けた磁石収容孔の径方向内側に、回転子軸孔側から前記磁石収容孔の径方向内側まで切欠いた切欠き部を少なくとも1箇所設けた永久磁石埋め込み型回転子とする。
【0009】
また、バランスウェイト一体型端板は、非磁性材料である永久磁石埋め込み型回転子とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバランスウェイト一体型端板を用いた永久磁石埋め込み型回転子は、端板自体の回転子軸長を短くし、材料費も低減できる。また、アンバランス量が微量である場合でもバランス量を調節するキリ加工等を必要としないので加工屑が発生することなく容易にアンバランス量を取ることができる。
【0011】
また、磁性材のバランスウェイト一体型端板が、回転子鉄心の軸方向両端部の永久磁石を挿入した磁石収容孔を覆ったとしても、バランスウェイト一体型端板が回転子鉄心に装着した状態において、バランスウェイト一体型端板に、磁石収容孔の回転子外周側から磁石収容孔の径方向外側まで、磁石収容孔に沿うように切欠かれた切欠き部を回転子装着前に設けることにより、永久磁石の内側と外側を繋ぐ磁束通路の面積を狭くすることができ磁束の漏れを低減し電動機の効率の低下を防ぐことができる。
【0012】
更に、前記バランスウェイト一体型端板に、回転子鉄心に永久磁石を挿入した磁石収容孔の回転子外周側から磁石収容孔の径方向外側まで、磁石収容孔に沿うように切欠いた切欠き部を設けた磁石収容孔の径方向内側に、回転子軸孔側から前記磁石収容孔の径方向内側まで、磁石収容孔に沿うように切欠いた切欠き部を回転子装着前に設けることにより、永久磁石の内側と外側を繋ぐ磁束通路の面積をさらに狭くすることができ磁束の漏れを低減し電動機の効率の低下を防ぐことができる。
【0013】
また、バランスウェイト一体型端板が非磁性材とすることにより、より確実に磁束の漏れを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の回転子の軸方向上端から見た平面図。
【図2】本実施形態の回転子の軸方向下端から見た平面図。
【図3】図1及び図2におけるP−0−P′断面図。
【図4】本実施形態に用いたバランスウェイト一体型端板。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の永久磁石埋め込み型回転子(以降「回転子」と表記する)の実施の形態を、図を用いて説明する。
図1には、永久磁石6を回転子鉄心2の内部に埋め込んだ回転子1の軸方向上端部から見た図である。また、図2は、回転子1の軸方向下端部から見た図である。
図3は、図1及び図2に示した回転子のP−0―P’断面図である。
図1〜図3の回転子1は、打ち抜きプレス等で打ち抜いた薄板電磁鋼板を積層し、軸方向に隣同士の電磁鋼板に凹凸の切り込み部を設け、この凹凸の切り込み部をお互いにからませて一体にかしめた周知のオートクランプ10により回転子鉄心2が構成されている。
本実施形態では、オートクランプ10の箇所は8箇所設けられている。
【0016】
図1〜図3の回転子鉄心2は、回転子鉄心2の軸中心を回転子1の回転中心とし、回転中心を回転子1の内径中心とした軸孔4が設けられている。
【0017】
そして、回転子鉄心2の軸孔4と平行に、永久磁石6を挿入する磁石収容孔7と、回転子1を冷却するための冷却用の風孔8と、永久磁石6が永久磁石収容孔7から飛び出ない様に回転子鉄心2の両端部を塞ぐためのバランスウェイト一体型端板5を締結部材3で固定するための貫通孔9が複数設けられている。
【0018】
図1〜図3の回転子鉄心2の軸方向端部に装着したバランスウェイト一体型端板5は、先に説明した様に、回転子鉄心2の軸方向に開口した磁石収容孔7から永久磁石6が飛び出ない様に磁石収容孔7の開口部を塞いでいる。
【0019】
また、本実施形態の回転子1は、主に、エアコンや冷蔵庫の圧縮機内に搭載する電動機の回転子として用いることが多く、この場合、圧縮機の圧縮機構部で発生する機械的なアンバランス量を調整するために回転子1の端部にバランスウェイトを付与することが多い。
本実施形態のバランスウェイト一体型端板5は、このアンバランス量を調整するためのバランス調整の機能と、前記の磁石収容孔7から永久磁石6が飛び出ない様に磁石収容孔7の開口部を塞ぐための端板の機能とを合わせ持っている。
【0020】
尚、本実施形態の回転子1の回転子鉄心2の両端部に装着したバランスウェイト一体型端板5は、装着する方向が上下180度逆になっているだけで、同形状であるため図1の軸方向上端から見た図で説明し、図2の軸方向下端から見た図の説明は図1と同様の記号を付して説明を省略する。
【0021】
本実施形態の回転子1は、回転子鉄心2の外径が円筒状、もしくは、異径形状に形成され、回転子鉄心2内の磁極が隣同士で異極と成るように永久磁石6が配置され4極(2極対)を形成している。各磁極内の永久磁石6の配置は、回転子軸孔4を中心として、V字形の頂点を軸孔側に面し、V字形の開口側を回転子外径側に面するように配置させている。尚、磁極数はこれに限定するものではない。
【0022】
従って、図1〜図3に示した実施形態のバランスウェイト一体型端板5は、回転子軸孔4を中心として、V字形の頂点を軸孔側に面し、V字形の開口側を回転子外径側に面するように永久磁石6を挿入した磁石収容孔7を塞ぐように配置している。
【0023】
また、図1〜図3に用いた、図4に示したバランスウェイト一体型端板5には、バランスウェイト一体型端板5の径方向外周から切欠いた切欠き部11を設けている。この切欠き部11を設けることにより端板にバランスウェイト機能を付与している。
【0024】
図1〜図3に用いた、図4に示したバランスウェイト一体型端板5の切欠き位置は、前述したように磁石収容孔7から永久磁石6が飛び出ない様に切欠き部11を設ければ良いため、バランスウェイト一体型端板5に、バランスウェイト一体型端板5が回転子鉄心2に装着された状態において、回転子軸孔4を中心として、V字形の頂点を軸孔側に面し、V字形の開口側を回転子外径側に面した磁石収容孔7の、回転子1の径方向外周側から磁石収容孔7の径方向外側まで、磁石収容孔7に沿うように切欠いた切欠き部11をバランスウェイト一体型端板5に設けている。
【0025】
尚、バランスウェイト一体型端板5にて磁石収容孔7を塞ぐことは、典型的には、永久磁石6が磁石収容孔7から飛び出ない様にすればよく、磁石収容孔7の全面を塞いでもよく、また一部を塞ぎ永久磁石6が磁石収容孔7から軸方向に飛び出ない様にすればよい。
また、本実施形態に用いるバランスウェイト一体型端板5は、回転子鉄心2の両端部に用いても良く、どちらか一方の端部に用いてもよい。この場合の他方の端部には、バランスウェイト機能を有していない端板を用いてもよい。
【0026】
また、図1〜図4の実施形態では、端板に更なるバランスウェイト機能を持たせるために磁石収容孔7の径方向外側においてバランスウェイト一体型端部5の径方向外側から切欠いた切欠き部11以外に、磁石収容孔7の径方向外側に切欠いた切欠き部11を設けた磁石収容孔7の径方向内側に、回転子軸孔4側から前記磁石収容孔7の径方向内側まで、磁石収容孔7に沿うように切欠いた切欠き部12を設けている。これによりバランスウェイト一体型端部5のバランスウェイト機能を向上させている。
【0027】
また、通常、端部は磁石収容孔7から永久磁石6が飛び出ない様に磁石収容孔7の径方向の内側と外側を跨るよう配置しているので永久磁石6の径方向の内側と外側を繋ぐ磁束通路となってしまい磁束の漏れが発生する。本実施形態では、バランスウェイト一体型端板5の径方向外周側から磁石収容孔7の径方向外側まで、磁石収容孔7に沿うように切欠いた切欠き部11を設け、更に、前記磁石収容孔7の回転子軸孔4側から前記磁石収容孔7の径方向内側まで、磁石収容孔7に沿うように切欠いた切欠き部12を設けているので、磁石収容孔7の径方向の内側と外側を跨るような磁束通路の面積を減らすことができ、磁石収容孔7から永久磁石6が飛び出ない様にすることは無論、漏れ磁束を低減し電動機効率の低下を防ぐことができる。
【0028】
また、この様なバランスウェイト一体型端板5を用いて、更に磁束漏れを低減する場合、バランスウェイト一体型端板5の材料として非磁性材料を用いることが好ましい。
例えば、非磁性材料として真鍮、アルミニウム、ステンレス等を用いることができる。
また、本実施形態で用いたバランスウェイト一体型端板5の板厚はt0.3〜t2.0を用いているが、これに限定されない。また、回転子1の回転子鉄心2の軸方向両端部に装着したバランスウェイト一体型端板5の其々の板厚の厚さは同じでなくてもよく、また、バランスウェイト一体型端板5は、回転子鉄心2の両端部に用いても良いし、回転子鉄心2のどちらか一方の端部に用いてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1・・・回転子
2・・・回転子鉄心
3・・・締結部材
4・・・軸孔
5・・・バランスウェイト一体型端板
6・・・永久磁石
7・・・磁石収容孔
8・・・風孔
9・・・貫通孔
10・・・オートクランプ
11、12・・・切欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子の軸中心に回転軸を挿入する回転軸孔と、前記回転軸孔と平行に永久磁石を挿入した磁石収容孔を備えた回転子鉄心と、
永久磁石が磁石収容孔から外部に飛び出さない様に回転子鉄心の軸方向両端部に装着した端板とを、
前記回転軸孔と平行に貫通した貫通孔に締結部材を挿通し一体に固定した永久磁石埋め込み型回転子において、
前記永久磁石埋め込み型回転子の軸方向両端部に装着した少なくともどちらか一方の端板が、重心を偏らせたバランス機能を備えたバランスウェイト一体型端板であり、
前記バランスウェイト一体型端板は、回転子鉄心に永久磁石を挿入した磁石収容孔の回転子外周側から磁石収容孔の径方向外側まで切欠いた切欠き部を少なくとも1箇所設けたことを特徴とする永久磁石埋め込み型回転子。
【請求項2】
前記バランスウェイト一体型端板は、回転子鉄心に永久磁石を挿入した磁石収容孔の回転子外周側から磁石収容孔の径方向外側まで切欠いた切欠き部を設けた磁石収容孔の径方向内側に、回転子軸孔側から磁石収容孔の径方向内側まで切欠いた切欠き部を少なくとも1箇所設けたことを特徴とする請求項1項記載の永久磁石埋め込み型回転子。
【請求項3】
前記バランスウェイト一体型端板は、非磁性材料であることを特徴とする請求項1項または請求項2項記載の永久磁石埋め込み型回転子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−27258(P2013−27258A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162674(P2011−162674)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000100872)アイチエレック株式会社 (58)
【Fターム(参考)】