説明

永久電流用超伝導磁石及びその製造方法

薄膜型高温超伝導体線材を巻線して無接合方法で製作される永久電流モードを維持する超伝導磁石と、その製造方法とを開示する。上記方法は、超伝導線材(10)の両端部を第1ボビン(21)と第2ボビン(22)に巻線する段階と、超伝導線材(10)を長さ方向にスリッティングし、第1線材(10a)と第2線材(10b)を形成する段階と、第1及び第2線材(10a,10b)を第3ボビン(25)に一方向に巻いてパンケーキコイルを製造する段階と、第1及び第2線材(10a、10b)が巻かれた第3ボビン(25)のうち何れか一つの上下をひっくり返し、パンケーキコイルが同一方向の磁場(B、B')を発生するように第1及び第2線材(10a,10b)を配列する段階と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久電流用超伝導磁石に関するもので、より細部的には、薄膜型高温超伝導体線材をコイルに巻線して無接合方法で製作される永久電流モードを維持する超伝導磁石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超伝導現象は、物質の温度を下げたとき、物質の抵抗が消えることを意味する。超伝導現像を示す物質を使用すると、熱の発生なしに電気を流すことができ、エネルギー損失が生じない。上記のような物質を超伝導体という。前記超伝導体は、超伝導転移温度Tc以下及び臨界磁場Hc以下でのみ抵抗なしに電流を流すことができ、このとき、抵抗なしに流すことのできる最大の通電電流の密度である臨界電流密度Jcが存在する。
【0003】
前記超伝導体は、線またはテープ形態に加工され、高い磁場を生成させる超伝導電磁石に広く使用されている。前記電磁石は、線材を多様な幾何学的形態のコイルに巻線することで製作され、線材を通して電流を流すと、磁場がコイルから発生するが、線材が超伝導体である場合、抵抗による電力損失が発生しない。
【0004】
前記超伝導磁石は、MRI(Magnetic Resonance Imaging)とNMR(Nuclear Magnetic Resonance)のスペクトロスコピー(Spectroscopy)などに使用され、前記装備が規定の特性を発揮するためには一定かつ安定した磁場状態が要求されるが、超伝導コイルをなす端に超伝導接合がなされ、永久電流モードの閉回路が形成されるべきである。理想的な超伝導接合がなされると、電気抵抗によるエネルギー損失なしに磁石や接合部で通電電流が流れるようになり、磁石で生成される磁場が一定に維持され、超伝導磁石は、所望の磁場を一定かつ安定的に維持する永久電流モードになる。
【0005】
従来に公知技術として公開された米国特許US6,531,233と大韓民国公開特許公報特2001―0086623号では、一般的に、図1に示すように、金属材質の磁石加工線材700をコイル形状に製作した後、両端部を圧着または接合部材710などを用いて機械的な方法で接合する。また、大韓民国公開特許公報特1991―015512号では、セラミック高温超伝導部品を燃料ガスや酸素火炎によって750℃〜875℃で加熱し、前記各部品の端部の離隔部位において同一の物質からなるロッドを加熱し、その隙間を充填して接合する。
【0006】
しかしながら、上記のような従来技術の構成によると、酸化物系高温超伝導体の場合、超伝導線材を構成する超伝導体に脆性があり、金属超伝導体とは異なって、超伝導体どうしを接触させた後、圧力を加えて互いに接合する突合せ接合(Butt Joining)のみでは超伝導接合を達成することができない。これは、高温超伝導酸化物に金属系超伝導体を接合する場合のように多くの変形をもたらす圧力を加えると、超伝導結晶粒が破壊され、超伝導体内への超伝導電流の流れが制限されるためである。
【0007】
また、MRIとNMRで使用される超伝導磁石に適した超伝導接合を達成するためには、巻線後に磁石全体または接合部を高温で熱処理しなければならないという困難さがあり、このとき、部分的な熱処理をする場合は、熱処理されない部分と熱処理された部分の特性に差が発生しうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述したような問題点を解決するためになされたもので、その目的は、無接合方法で製作される高温超伝導線材と、前記高温超伝導線材を永久電流モードの超伝導磁石に製作するための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような目的を達成するための高温超伝導線材は、ニッケル(Ni)またはステンレス(SUS)材質で形成される金属母材と、前記金属母材の表面に蒸着または塗布され、超伝導線材を製造する熱処理過程中の前記金属母材と超伝導体薄膜との間の反応を防止する2軸配向を有する絶縁セラミックと、前記絶縁セラミックの表面に蒸着または塗布され、電流の移送通路となる超伝導体薄膜と、前記超伝導体薄膜の表面に蒸着または塗布され、銀と銅材質によって形成され、保護層を形成する金属膜とが積層されてなる。
【0010】
また、前記超伝導線材を用いた永久電流モード用超伝導磁石を製造するための方法には、所定の長さを有する超伝導線材の両端部を第1ボビンと第2ボビンに巻線する第1段階と、前記超伝導線材の一端部Eから他端部Eまで長さ方向にスリッティングし、第1線材と第2線材を形成する第2段階と、前記第2段階の第1線材と第2線材の中間部に第3ボビンをそれぞれ備えて、第1線材と第2線材を一方向に巻いてパンケーキコイルを製造する第3段階と、前記第3段階で第1及び第2線材が巻かれた第3ボビンのうち何れか一つの上下をひっくり返し、最終的にパンケーキコイルが同一方向の磁場を発生するように第1線材と第2線材を配列する第4段階とを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、超伝導線材を用いて無接合方法で永久電流用超伝導磁石を製作することができ、電流損失なしに通電電流が流れることで、磁石で生成される磁場が一定かつ安定的に維持される永久電流モードで使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図2は、本発明に係る永久電流用超伝導磁石を用いて製作されるパンケーキコイルの工程図で、図3は、図2に示した加工前の超伝導線材のA−A'線断面図で、図4は、本発明の超伝導線材を加工する作業図で、図5は、図4によって加工された多様な形状の超伝導線材を示した例示図で、図6は、本発明に係る永久電流用超伝導磁石の第3ボビンの拡大図で、図7は、本発明に係る永久電流用超伝導磁石を用いた実施例で、図8は、本発明に係る永久電流用超伝導磁石を用いて多数の構成で製作されるパンケーキコイルの工程図である。
【0013】
以下、図面を参考にして構成要素を説明する。
【0014】
図2のパンケーキコイルを製作するための工程図において、図2(a)の超伝導線材10のA−A'線断面図を図3に示すが、前記超伝導線材10は、金属母材11、絶縁セラミック12、超伝導体薄膜13及び金属膜14を順に蒸着、電着または塗布することで製作される。
【0015】
前記金属母材11は、約50〜100μmの厚さを有するニッケル(Ni)、ニッケル(Ni)合金またはステンレス(SUS)材質で形成され、前記金属母材11の表面に蒸着または塗布される絶縁セラミック12は、1μm下の厚さで形成され、超伝導線材10を製造する熱処理過程中の金属母材11と超伝導体薄膜13との間の反応を防止し、超伝導体を2軸配向させる。また、前記絶縁セラミック12の表面に蒸着または塗布される超伝導体薄膜13は、1μm以下の厚さで形成され、電流iの移送通路になる。また、前記超伝導体薄膜13の表面に蒸着、塗布または電着される金属膜14は、数μm厚さの銀と数十μmの銅材質を含み、保護層を形成している。
【0016】
以下、図2を参考にして、パンケーキコイルの製作過程を説明する。
【0017】
まず、図2(a)の所定の長さを有する超伝導線材10の両端部を第1ボビン21と第2ボビン22に巻線するが、図2(a)と図2(b)では、第1及び第2ボビン21,22を省略して示している。
【0018】
上記のように巻線された超伝導線材10を、図2(b)に示すように、両端部のEからEまで長さ方向にスリッティング(S)して第1線材10aと第2線材10bを形成する。ここで、前記超伝導線材10の中間部分を長さ方向に切断するとき、両端E,Eの一部を切断しないので、導体に電流iが誘導されると、電流iが矢印方向に流れるが、超伝導体が連続的に連結されることで、電流iが損失なしに継続的に流れるようになる。
【0019】
前記スリッティング(S)作業を図4の作業図を参考にして説明すると、超伝導線材10の両端部が第1ボビン21と第2ボビン22に固定され、前記第1ボビン21に超伝導線材10が巻かれる。前記第1ボビン21に巻かれた超伝導線材10は、通常的に使用されるスリッター30の加工部31によって第1線材10aと第2線材10bに加工され、第2ボビン22に巻かれる。このとき、第1ボビン21は、図4に示すように、時計方向に回転しながら超伝導線材10を解くようになり、上下に備わるスリッター30は、反時計方向に回転しながら前記超伝導線材10を第1線材10aと第2線材10bにスリッティング(S)し、第2ボビン22は、時計方向に回転しながらスリッティング(S)作業が完了する第1線材10aと第2線材10bを巻線する。
【0020】
図2(c)に示すように、前記第2ボビン22にスリッティング(S)されて巻線された第1線材10aと第2線材10bの中間部一側に第3ボビン25をそれぞれ備え、第1線材10aと第2線材10bを一方向に巻いてパンケーキコイル(Pancake Coil)を製造する。このとき、前記第1ボビン21に固定された超伝導線材10の端部は、別途に設けられる固定装置(図示せず)に固定され、前記第3ボビン25と一緒に回転するようになる。第2ボビン22が反時計方向に回転しながら、第1線材10aと第2線材10bが第3ボビン25に巻かれるが、上記のように巻線されたそれぞれの第3ボビン25には、互いに反対方向の磁場B,B'が発生する。
【0021】
図2(d)に示すように、図2(c)のように巻線された第3ボビン25のうち何れか一つの上下部をひっくり返してパンケーキコイルを最終的に配列することで、前記磁場B,B'が同一方向に発生するようになる。
【0022】
図5は、スリッター30によって多様な形状に製作された超伝導線材10の例示図である。このとき、図5(a)と図5(b)に示した単一形状のみならず、図5(c)に示すように、加工前の超伝導線材10の線幅を広くし、多数個の線材10a,10b,10c,10d,10e,10fを製造することができる。そのため、電流iは、図5(c)に示すように閉ループ方向に流れるようになる。図5(c)のような超伝導線材10の幅方向へのスリッティング(S)作業は、ダイアモンドホイール(図示せず)を用いて行われるが、レーザーやウォータージェットなどの切断工具を用いた作業も可能である。
【0023】
図6は、図2に示した第3ボビン25の拡大図である。
【0024】
前記第3ボビン25には、図6(a)及び図6(b)に示すように、本体252の左右に羽根部251が一体に備わり、側面に通孔253が形成され、一側の羽部251には、超伝導線材10が斜めに挿入されて巻かれるように溝254が形成される。
【0025】
図7は、本発明に係る永久電流用超伝導磁石を用いた実施例で、図2(d)の第1ボビン21に固定される超伝導線材10の端部に超伝導スイッチを製作して付着する。図7(a)に示すように、前記超伝導線材10を転移温度Tc以下に冷却した後、電源供給装置40から供給される電流iを電流引き込み用電線41を通して前記超伝導線材10に供給しながら、ヒーター装置50によって超伝導線材10を加熱すると、電流iは、第1線材10aと第2線材10bに沿って流れるようになる。このとき、ヒーター装置50の電源を遮断すると、第3ボビン25の磁場B,B'部分が超伝導状態になりながら電流iが第3ボビン25に沿って流れることで、二つのコイルを構成する超伝導線材10が閉回路をなすようになる。
【0026】
そして、前記電源供給装置40の電源を遮断すると、前記二つに形成された超伝導線材10は、抵抗成分がないので、外部から供給される電流iがそれ以上なくても、電流iが継続的に流れる永久電流モードになる。
【0027】
図7(b)の平面図を参考にして、電流(i)の流れを順に説明すると、電源供給装置40から電流iを供給しながらヒーター装置50が超伝導線材10を加熱すると、電流iの流れは、1→2→3→4→5→6→8になる。このとき、前記7部分は、抵抗のある常伝導状態になり、超伝導線材10の他の部分2,3,4,5,6は、抵抗のない超伝導状態になる。
【0028】
前記加熱されたヒーター装置50の電源を遮断すると、電流iの流れは、2→3→4→5→6→7になる。このとき、前記7部分も超伝導状態になり、電流が1→2と6→8の間の常伝導線材に流れず、7部分に流れることで、超伝導閉回路が形成される。
【0029】
図7に基づいて説明する永久電流モードの実施例は、MRI(Magnetic Resonance Imaging)とNMR(Nuclear Magnetic Resonance)の分析装備及び実験室で時間による磁場の強さが一定である安定的な高磁場を得るときに使用され、小型の超伝導アンテナと一緒にその他の多様な用途に活用される。
【0030】
図8は、多数の線材で製作されるパンケーキコイルの工程図で、前記超伝導線材10を幅方向に多数の線材10a,10b,10c,10d,10e,10fに分割するとき、永久電流が線材10a,10b,10c,10d,10e,10fに沿って抵抗なしに流れるようになる。ここで、前記多数のパンケーキコイルの製造過程は、図2に示した製造過程と同一である。
【0031】
また、ソレノイド型磁石を製作する場合も、上記のような方法で二つのソレノイドコイルを製作した後、一つのコイルをひっくり返すことで、永久電流モードで動作するソレノイド型超伝導磁石を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来の機械的接合による永久磁石の製作図である。
【図2】本発明に係る永久電流用超伝導磁石を用いて製作されるパンケーキコイルの工程図である。
【図3】図2に示した加工前の超伝導線材のA−A’線断面図である。
【図4】本発明の超伝導線材を加工する作業図である。
【図5】図4によって加工された多様な形状の超伝導線材を示した例示図である。
【図6】本発明に係る永久電流用超伝導磁石の第3ボビンの拡大図である。
【図7】本発明に係る永久電流用超伝導磁石を用いた実施例である。
【図8】本発明に係る永久電流用超伝導磁石を用いて多数の線材で製作されるパンケーキコイルの工程図である。
【符号の説明】
【0033】
10 超伝導線材
11 金属母材
12 絶縁セラミック
13 超伝導体薄膜
14 金属膜
20 ボビン
21 第1ボビン
22 第2ボビン
25 第3ボビン
30 スリッター
31 加工部
40 電源供給装置
41 電流引き込み用電線
50 ヒーター装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向に分割される超伝導線材を具備する永久電流用超伝導磁石において、
前記超伝導線材は、
ニッケル(Ni)またはステンレス(SUS)材質で形成される金属母材(11)と、
前記金属母材(11)の表面に蒸着または塗布され、超伝導線材(10)を製造する熱処理過程中の前記金属母材(11)と超伝導体薄膜(13)との間の反応を防止する2軸配向を有する絶縁セラミック(12)と、
前記絶縁セラミック(12)の表面に蒸着または塗布され、電流(i)の移送通路となる超伝導体薄膜(13)と、
前記超伝導体薄膜(13)の表面に蒸着または塗布され、銀と銅材質によって形成され、保護層を形成する金属膜(14)と、が積層されてなることを特徴とする永久電流用超伝導磁石。
【請求項2】
前記超伝導線材(10)は、線幅方向に2個以上に分割された閉ループ構成で超伝導磁石を構成することを特徴とする請求項1に記載の永久電流用超伝導磁石。
【請求項3】
永久電流用超伝導磁石の製造方法において、
所定の長さを有する超伝導線材(10)の両端部を第1ボビン(21)と第2ボビン(22)に巻線する第1段階(S10)と、
前記超伝導線材(10)の一端部Eから他端部Eまで長さ方向にスリッティング(S)し、第1線材(10a)と第2線材(10b)を形成する第2段階(S20)と、
前記第2段階(S20)の第1線材(10a)と第2線材(10b)の中間部に第3ボビン(25)をそれぞれ備えて、第1線材(10a)と第2線材(10b)を一方向に巻いてパンケーキコイルを製造する第3段階(S30)と、
前記第3段階(S30)で第1及び第2線材(10a、10b)が巻かれた第3ボビン(25)のうち何れか一つの上下をひっくり返し、最終的にパンケーキコイルが同一方向の磁場(B、B')を発生するように第1線材(10a)と第2線材(10b)を配列する第4段階(S40)と、を含むことを特徴とする永久電流用超伝導磁石の製造方法。
【請求項4】
前記第2段階(S20)における超伝導線材(10)のスリッティング(S)作業は、前記超伝導線材(10)の上下に備わるスリッター(30)によって行われることを特徴とする請求項3に記載の永久電流用超伝導磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−500843(P2009−500843A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520170(P2008−520170)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【国際出願番号】PCT/KR2006/002017
【国際公開番号】WO2007/004787
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(508005107)コリアポリテクニック大学 (1)
【Fターム(参考)】