説明

汚染された土壌、地下水或いは底質土の修復に使用する添加剤

様々な地質状態の汚染サイトを修復することができ、低コストの修復工事が可能となる有機ハロゲン化合物、特には有機塩素化合物によって汚染された土壌又は汚染地下水或いは底質土の生物学的修復に用いる添加剤を提供する。
微生物コンソーシアムを造成・活性化する物質と、嫌気性微生物の還元的脱ハロゲン化を促進する物質と、嫌気状態を造成する物質とを有する添加剤によって、土着の微生物群(微生物コンソーシアム)は、土壌、地下水或いは底質土中の酸素を消費して修復対象を嫌気性雰囲気(嫌気状態)とし、この造成された嫌気性雰囲気において、嫌気性微生物は供給された電子供与体或いは供給された他の添加剤が分解して発生する電子供与体を利用して還元的脱ハロゲン化により電子受容体である有機ハロゲン化合物を分解し、最終的には無機ハロゲン塩にまで分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、有機ハロゲン化合物、特には有機塩素化合物によって汚染された土壌、地下水或いは底質土の修復に使用する添加剤に関する。
【背景技術】
近年、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、ダイオキシン類、ポリ塩素化ビフェニル類などの有機塩素化合物に代表される有機ハロゲン化合物による土壌、地下水或いは底質土の汚染が深刻な問題となっている。
現在、このような有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水或いは底質土などの修復技術として、汚染地下水を汲み上げた後、その汲み上げた地下水に活性炭や樹脂を投入することによる汚染物の吸着や、汚染された土壌の風乾による揮散除去などの物理的処理法が有効とされている(例えば「環境浄化技術Vol.1,No.1(第80−84頁)」参照)。しかし、いずれも初期設備投資や動力コストが高く、汚染物質を完全に無害化する技術ではないため根本的な対処策とはならない。そこで、微生物を活用して土壌、地下水或いは底質土などに含まれる難分解性の有害物質を分解して汚染を除去するバイオレメディエーション技術の開発が期待されている。
バイオレメディエーション(生物修復法)は、有害な有機化合物を生物学的に分解し、炭酸ガスやメタン、水、無機塩、バイオマスなどのような無害な物質に変換する技術である。最近では、バイオレメディエーションの概念は有害廃棄物や汚染された土壌、地下水或いは底質土を修復する技術に拡大している。そうした中、国内でのクロロカーボン汚染のバイオレメディエーションについてこれまで好気性微生物を利用した研究開発が行われてきた。
バイオスティミュレーション(微生物活性法)は、汚染現場に生息している特定の好気性微生物を増殖・活性化させることにより汚染の分解・除去を促進させるため、外部からメタンなどの炭素源物質、空気又は純酸素、栄養塩等の必要物質を供給する手法である。
バイオオーギュメンテーション(微生物添加法)は、優れた分解能を持つ単一の微生物を大量に培養・活性化し、これを酸化剤とともに汚染現場の地中に注入して汚染を分解・除去させる手法である。
また、特に有機塩素化合物を分解する手段として、嫌気性微生物による還元的脱塩素化がある(例えば「環境浄化技術Vol.1,No.1(第80−84頁)」参照)。嫌気性微生物は、有機酸などの電子供与体が供給されると、有機塩素化合物を電子受容体とする還元的脱塩素化により有機塩素化合物を分解する。したがって、このプロセスを有機塩素化合物による汚染の修復に応用する場合、汚染地域を嫌気状態とする手段が必要となる。
しかし、これらの方法には以下のような問題があった。バイオスティミュレーションは、酸化剤や大量の空気の導入に多額の設備投資と修復コストを要するという問題があった。また、バイオオーギュメンテーションは、微生物の分解能が注入された汚染地域の環境に依存し、必ずしも注入した微生物の能力が十分に発揮されないという問題があった。また、嫌気性微生物による還元的脱塩素化は、有機ハロゲン化合物の分解能を持つ嫌気性微生物を利用するために修復対象地域を嫌気性状態にする手段が考慮されていないなどという問題があった。このように、これまでに開発されたバイオレメディエーション技術のいずれもが問題を内包しており、それらを解消する修復技術の開発が求められてきた。
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、様々な土質の汚染サイトを修復することができ、低コストの修復工事が可能となる有機ハロゲン化合物、特には有機塩素化合物によって汚染された土壌、地下水或いは底質土などの生物学的修復に用いる添加剤を提供することを目的とする。
【発明の開示】
本出願の発明は、微生物コンソーシアムを造成・活性化する物質と嫌気性微生物の還元的脱ハロゲン化を促進する物質と嫌気状態を造成する物質とを有し、前記微生物コンソーシアムを造成・活性化する物質が活性酵母、不活性酵母、酵母エキスのうちから選択される1以上の物質であり、前記嫌気性微生物の還元的脱ハロゲン化を促進する物質がプロピオン酸、酪酸、乳酸またはそれらの塩のうちから1以上選択される物質であり、前記嫌気状態を造成する物質がグルコース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、デンプンのうちから1以上選択される物質である有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水或いは底質土の修復に使用する添加剤である。
本出願の発明に係る有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水或いは底質土の修復に使用する添加剤は、微生物コンソーシアムを造成・活性化する物質を有することを特徴とする。
ここでいう微生物コンソーシアムを造成・活性化する物質とは、好気性と嫌気性とのどちらの微生物にとっても、その造成、即ち繁殖に有効な物質である。
有機ハロゲン化合物、特には有機塩素化合物によって汚染された地域の土壌、地下水或いは底質土を微生物によって修復するには、複数種類の性質の異なる微生物を有効に機能させることが効果的である。
まず、土着の好気性微生物或いは偏性嫌気性微生物が硝酸イオン、硫酸イオン、および酸素等を電子受容体として消費し、土壌、地下水或いは底質土を嫌気条件にする。
そして、修復対象が嫌気状態になると、絶対嫌気性微生物が有機ハロゲン化合物、特には有機塩素化合物を電子受容体として分解することが可能となる。例えば、テトラクロロエチレンは、逐次的に起こる還元的脱塩素化反応によりトリクロロエチレン、さらにはジクロロエチレンとなり、最終的には安定な無機塩にまで分解される。
このように、微生物コンソーシアム全体を造成・活性化する物質を供給することによって、嫌気性微生物により還元的脱ハロゲン化を行う環境が速やかに提供され、修復作業が効率的に進行する。
すなわち、絶対嫌気性微生物が還元的脱塩素化の過程で生成する有害な中間生成物には、これら絶対嫌気性微生物では必ずしも効果的に分解できないもの(塩化ビニルモノマー、シス−1,2−ジクロロエチレンなど)もあるが、微生物コンソーシアム全体が活性化していれば、微生物コンソーシアムを構成する他の種類の微生物がこれらの物質を効果的に分解することができる。従って、嫌気性微生物を用いる修復作業において有害な中間生成物が残留しにくい。
以上のように、有機ハロゲン化合物、特には有機塩素化合物を分解するためには、好気性と嫌気性の両方を含む土着の微生物群(微生物コンソーシアムとも称する)全体を活性化させて嫌気状態にすることが特に重要である。
また、本発明に係る有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水或いは底質土の修復に使用する添加剤は、嫌気性微生物の還元的脱ハロゲン化を促進する物質を有することを特徴とする。
嫌気性微生物が有機ハロゲン化合物、特には有機塩素化合物の脱ハロゲン化することを促進する物質を供給することで、嫌気性微生物の機能が効果的に発揮される。
また、本発明に係る有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水或いは底質土の修復に使用する添加剤は、嫌気状態を造成する物質を有することを特徴とする。
微生物コンソーシアム全体を造成・活性化する物質以外に、嫌気状態を造成する物質、即ち好気性微生物など酸素を消費する微生物を効果的に繁殖させることができる物質も積極的に供給することで、修復対象からさらに効率よく酸素が除去されて速やかに嫌気状態となる。
このように、有機ハロゲン化合物、特に有機塩素化合物を分解する過程で関与する微生物コンソーシアム全体の働きを考慮して、複数種類の異なった機能を有する物質を添加剤として供給することで、効率的であって、しかも有害物質が残留しにくいバイオレメディエーション工法が可能となる。さらに、修復に利用する微生物が嫌気性であることから酸化剤や空気の供給を必要とせず、低コストでの修復工事が可能である。
なお、添加剤を構成するそれぞれの物質の配合比は修復対象の土質に合わせて設定することで修復の効果を高めることができる。
また、本発明における修復対象は、有機ハロゲン化合物、特には有機塩素化合物により汚染された土壌、地下水或いは底質土などである。また、有機ハロゲン化合物とは、脂肪族、または芳香族炭化水素の水素原子とハロゲン(フッ素、塩素など)原子が置換した物質である。例えば、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン及びジクロロエチレンなどの脂肪族有機塩素化合物、ポリ塩素化ジベンゾジオキシン(PCDD)及びポリ塩素化ジベンゾフラン(PCDF)などのダイオキシン類、コプラナーポリ塩素化ビフェニルなどのPCB類及びクロロベンゼンなどの芳香族有機塩素化合物がこれに該当する。なお、以上の記載は例示であり、その記載によっては本発明の修復対象や除去すべき化学物質は限定されない。
また、本発明に係る有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水或いは底質土の修復に使用する添加剤における微生物コンソーシアムを造成・活性化する物質が活性酵母、不活性酵母、および酵母エキスからなる群から選択される少なくとも一の物質であることを特とする。
活性酵母、不活性酵母、および酵母エキスは、いずれも微生物コンソーシアムを構成する複数種類の微生物により分解される。また分解生成物である蛋白質、アミノ酸、ビタミン類もまた微生物コンソーシアムを構成する微生物の栄養源であり、効果的に微生物コンソーシアムが活性化される。微生物コンソーシアムが活性化することによって修復対象が速やかに嫌気性になり、修復対象に有害物質が残留しにくい。
また、本発明に係る有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水或いは底質土の修復に使用する添加剤における嫌気性微生物の還元的脱ハロゲン化を促進する物質がプロピオン酸、酪酸、乳酸、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一の物質であることを特徴とする。
プロピオン酸、酪酸、乳酸、およびそれらの塩は優れた電子供与性を有し、かつ有機ハロゲン化合物の脱ハロゲン化反応において水素の供給源となる。しかも、安定的にか且つ安価に入手可能である。
また、本発明に係る有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水或いは底質土の修復に使用する添加剤における嫌気状態を造成する物質がグルコース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、およびデンプンからなる群から選択される少なくとも一の物質であることを特徴とする。
グルコース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、およびデンプンは、好気性微生物にとって有効な栄養源である糖類の一種であり、その中でも分解されやすく、しかも安定的にかつ安価に入手可能である。
従って、これらの物質を添加剤として用いることで、有機ハロゲン化合物、特には有機塩素化合物により汚染された地下水、土壌或いは底質土の修復が短期間で且つ安価に行われる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例1における処理1の場合の有機塩素化合物及びエチレン濃度の変化を示すグラフ図である。
第2図は、実施例1における処理2の場合の有機塩素化合物及びエチレン濃度の変化を示すグラフ図である。
第3図は、実施例1における処理3の場合の有機塩素化合物及びエチレン濃度の変化を示すグラフ図である。
第4図は、実施例1における処理4の場合の有機塩素化合物及びエチレン濃度の変化を示すグラフ図である。
第5図は、実施例1における処理5の場合の有機塩素化合物及びエチレン濃度の変化を示すグラフ図である。
第6図は、実施例2における添加剤の注入による溶存酸素量及び硝酸イオン濃度の変化を示すグラフ図である。
第7図は、実施例2における添加剤の注入による硫酸イオン濃度の変化を示すグラフ図である。
第8図は、実施例2における添加剤の注入による酸化還元電位の変化を示すグラフ図である。
第9図は、実施例2における添加剤の注入による有機塩素化合物濃度の変化を示すグラフ図である。
第10図は、実施例2における添加剤の注入による有機塩素化合物濃度の変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本実施形態においては、実験室におけるミクロコスムの研究により汚染地域に土着の微生物群、すなわち微生物コンソーシアムに応じた適切な電子供与体の混合比率が決定される。ミクロコスムは、汚染地域から採取した土壌、地下水或いは底質土で形成される。添加剤の原料を種々の比率で混合してミクロコスムに加えて一定温度の下で培養する。嫌気条件において土又は水をミクロコスムから定期的に採取し、有機塩素化合物、メタン、塩化ビニル、塩素イオン、溶存酸素量、酸化還元電位、硝酸イオン、硫酸イオンの濃度を観察する。有機塩素化合物、メタン、塩化ビニル及び塩素イオンは、汚染物及びその分解生成物の濃度を確認するためである。溶存酸素量及び酸化還元電位は、ミクロコスムが絶対嫌気雰囲気になっていることを確認するためである。これらがそれぞれ0.5mg/L、−50mVとなると絶対嫌気条件である。硝酸イオン及び硫酸イオンは、嫌気性微生物の還元反応において有機塩素化合物よりも優先して消費される。したがって、硝酸イオン及び硫酸イオンの濃度を測定することで、ミクロコスムにおける還元反応が開始されたことが確認できる。一定期間、通常は一から二ヶ月程度の実験の結果に基づき、汚染地域の修復対象に最適な添加剤の配合比が決定される。
添加剤は、汚染地域の土壌、地下水或いは底質土中に添加される。添加剤の形態は、固体状、液体状、スラリー状などであり、汚染地域の地層などの地質状態や、汚染地域の汚染状況に基づいて決定される。
微生物コンソーシアムは、添加剤に含まれる物質を分解したり、その分解で生成した電子供与体を利用したりすることで、土壌、地下水或いは底質土中の溶存酸素を消費し、修復対象の環境を嫌気性雰囲気である嫌気状態とする。この際、硝酸イオン、硫酸イオンなど元来汚染地域に存在する電子受容体も同時に消費する。そして、微生物コンソーシアムに含まれる絶対嫌気性微生物は、造成された嫌気状態において、供給された或いは分解生成物として発生した電子供与体を利用して電子受容体である有機塩素化合物を還元的脱塩素化により分解する。嫌気性微生物の脱塩素化による有機塩素化合物の分解は、高い塩素化数の化合物から逐次的に生じ、最終的には無機塩化物にまで分解する。
以下に本発明の実施例を示す。
【実施例1】
有機塩素化合物により汚染された地下水の浄化において、添加剤による汚染浄化促進の効果を実証するため、実験室規模のミクロコスムの実験を行った。実験に使用する地下水は、テトラクロロエチレン(以下、PCEと称する)、トリクロロエチレン(以下、TCEと称する)、シス−1,2−ジクロロエチレン(以下、C−DCEと称する)、などの有機塩素化合物により汚染されたサイトにおいて嫌気的に採取した。地下水は、予め滅菌した125本の100mLの褐色ガラス容器に満杯になるまで入れ、4℃で冷蔵しながら実験室に運搬した。
採取した地下水に下記の5種類の添加剤を加えて浄化効果の比較を実施した。嫌気条件において125個の地下水の試料に対して25個の地下水試料につき1種類の下記添加剤を加えて混合し、各容器の頭隙(ヘッドスペース)の空気を窒素ガスと置換した後に封印した。
処理1:不活性乾燥酵母0.5g、グルコース1.0g、プロピオン酸カルシウム0.5gを混合して調製した添加剤を加えたもの
処理2:酵母エキス0.5g、スクロース1.0g、乳酸カルシウム0.5gを混合して調製した添加剤を加えたもの
処理3:活性乾燥酵母0.5g、ラクトース0.5g、マルトース0.5g、酪酸ナトリウム0.5gを混合して調製した添加剤を加えたもの
処理4:酵母エキス0.5g、フルクトース1.0g、ガラクトース0.5g、プロピオン酸ナトリウム0.5gを混合して調製した添加剤を加えたもの
処理5:対照であり、添加剤を加えていないもの
次に、浄化処理前の有機塩素化合物の濃度を測定するため、培養開始直前に125個の試料のうちから各処理につき5本の計25個の試料をとりわけた。ガスクロマトグラフにより試料中の有機塩素化合物及びエチレンを分析し、5つの試料の平均値より各処理毎の初期濃度を決定した。
残りの100個の試料を暗所において25℃で60日間培養した。15日経過する毎に各処理につき5本の計25本の試料に含まれる有機塩素化合物及びエチレンの濃度をガスクロマトグラフにより測定し、5つの試料の平均値から各時点・各処理毎の有機塩素化合物及びエチレンの濃度を決定した。5種類の処理を施した試料に含まれる有機塩素化合物及びエチレンの濃度の推移を図1から図5に示す。
図1から図4より、添加剤を加えた処理1から4の場合には、PCEやTCEなどの塩素化数の大きな物質は15日から30日間で浄化されていることがわかる。DCEは、培養開始15日後から30日後まで増加し、その後次第に減少して30日から60日後には浄化されている。DCEの濃度が一時的に増加している理由は、PCEやTCEが微生物により脱塩素化されるとDCEになり、その速度が分解速度を上回っているためである。有機塩素化合物の浄化において問題視される塩化ビニルモノマー(VC)は、30日から45日後に最大値を示し、その後は減少して60日後には浄化されている。微生物による有機塩素化合物の脱塩素化における最終生成物の一つであるエチレンは、処理1から4の場合、日数の経過にしたがって濃度が増加している。したがって、処理1から処理4の本発明の添加剤を加えて培養した地下水において、PCE、TCEなどの汚染物質、DCE、VCのような浄化時に生成する有害物質を浄化することができた。一方、添加剤を加えなかった処理5においては、PCE,TCEなどの濃度は、60日間の培養期間中ほとんど変化していない。以上のことから、本発明の添加剤の使用により、地下水を汚染する有機塩素化合物を速やかに浄化することが可能であることが判明した。
【実施例2】
有機塩素化合物により汚染された地下水の原位置浄化において、添加剤による還元脱塩素化反応の促進効果を実証するため、有機塩素化合物による地下水汚染が確認されているサイトにおいてパイロット試験を実施した。パイロット試験現場は、縦30m×横30m×地表からの深さ8mの範囲である。この試験においては、有機塩素化合物(PCE、TCE、トリクロロエタン(以下、TCAと称する)、C−DCE、ジクロロエタン(以下、DCAと称する)、塩化ビニル(以下、VCと称する))の濃度、硝酸イオン、硫酸イオン濃度、溶存酸素量(DO)、酸化還元電位(ORP)をパラメータとして測定した。有機塩素化合物濃度は、公定分析法(JIS−K0125)に準拠してガスクロマトグラフィー質量分析計を用いて測定した。硝酸・硫酸イオン濃度は、イオンクロマトグラフを使用して測定した。この試験において使用した添加剤は、酵母エキス150kg、グルコース100kg、ラクトース100kg、乳酸ナトリウム50kg乳酸250ml、プロピオン酸ナトリウム50kgの混合物である。現場において汲み上げた地下水25トンとこの添加剤をタンクにおいて混合しながら注入井戸から地下水に注入した。注入井戸から地下水流の下流25mの位置に設置した観測井戸において、1ヶ月ごとに有機塩素化合物濃度及び化学的パラメータ(溶存酸素量、硝酸イオン、硫酸イオン濃度、酸化還元電位)を測定した。化学的パラメータの測定結果を図6から図8に示す。
図6から図8より添加剤の注入により汚染地域の溶存酸素、硝酸イオン、硫酸イオンなどの電子受容体と酸化還元電位が急激に減少していることがわかる。添加剤の注入から30日後には溶存酸素が0.5mg/L以下となり、酸化還元電位が−50mV以下となっていることから、注入された添加剤によりこのサイトの地下水が絶対嫌気状態になったことがわかる。有機塩素化合物を脱塩素化する能力を持つ微生物は、嫌気状態において有機塩素化合物を電子受容体として利用して分解する。地下水に注入された添加剤は、有機塩素化合物によって汚染された地下水を微生物による脱塩素化に適当な嫌気条件とし、さらに土着の好気性微生物及び偏性嫌気性微生物が汚染地域に存在した電子受容体を消費して、嫌気性微生物による有機塩素化合物の分解が生じやすい条件を造成したと考えられる。
次に図9及び10に添加剤注入後1ヶ月毎の地下水中の有機塩素化合物の濃度の推移を示す。図9よりTCEが添加剤の注入以後次第に減少し、60日後にはほぼ浄化が完了していることがわかる。また、DCEやVCなど、TCEの脱塩素化における副生成物は、それぞれ30日、60日後に最大となりその後は減少して90日後には浄化が完了している。図10より汚染物であるTCAは、30日後にはほとんど浄化されていることがわかる。TCAが脱塩素化されて生成するDCA、CAは、それぞれ30日後と60日後に最大となり、その後は減少して90日後には検出下限以下となった。TCEとTCAの脱塩素化における最終生成物のひとつであるエチレンは、注入から時間が経過するに従い濃度が増加している。
以上の結果より、添加剤の注入により30日後に地下水が絶対嫌気状態となり、地下水中の汚染物であるTCEやTCAは、90日間のパイロット試験において嫌気性微生物により最終的にはエチレンまで脱塩素化されて無害化されたことがわかる。このことから本発明の添加剤が有機塩素化合物の浄化に有効であることがわかる。
上記の汚染地域において実施したパイロット試験結果から、本発明の添加剤は、有機塩素化合物により汚染された地下水を原位置において修復するために有効であることが実証された。
【実施例3】
有機塩素化合物、特にダイオキシン類により汚染された底質土の浄化において、添加剤による還元脱塩素化反応の促進効果を実証するため、実験室規模のミクロコスムの実験を行った。まず、ダイオキシンによって汚染された運河の底質土と水を採取し、4℃で冷蔵しながら実験室に運搬した。嫌気条件下において採取した土を容量300mlのガラス容器24本に300mlずつ入れた。次に下記の物質を混合して添加剤を調製し、嫌気条件下において各処理につき6本づつの容器に入れて土とよく混合した。さらに運河において採取した水を容器内の空間が無くなるまで入れて試料とした。
処理1:不活性乾燥酵母0.5g、グルコース1.0g、プロピオン酸カルシウム0.5gを混合して調製した添加剤を加えたもの
処理2:酵母エキス0.5g、デンプン1.0g、乳酸カルシウム0.5gを混合して調製した添加剤を加えたもの
処理3:活性乾燥酵母0.5g、ラクトース1.0g、酪酸ナトリウム0.5gを混合して調製した添加剤を加えたもの
処理4:対照であり、添加剤を加えていないもの
まず、培養開始前の試料のうち各処理につき3本づつの計12本から土を採取し、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC−MS)によってダイオキシン類、コプラナーポリ塩素化ビフェニルの質量を測定した。分析方法は、「ダイオキシン類に係る底質調査測定マニュアル(平成12年3月 環境庁水質保全局水質管理課)」に準拠した。各処理につき3つの試料を平均して決定した初期濃度を表1に示す。
初期濃度を測定した残りの試料の容器を摂氏25度に制御された暗所において180日間培養した。培養後の試料から土を採取し、GC−MSによってダイオキシン類、コプラナーポリ塩素化ビフェニルの質量を測定した。分析方法は、「ダイオキシン類に係る底質調査測定マニュアル(平成12年3月 環境庁水質保全局水質管理課)」に準拠した。各処理につき3つの試料の分析値を平均して決定した結果を、分解試験後の毒性等量(TEQ)の平均値、分解率{(1−培養後/培養開始時)×100}として表1に示す。

表1より、処理4の添加剤を加えていない試料においては、ダイオキシン類、ジベンゾフラン、コプラナーPCBのいずれの場合もほとんど減少していないことがわかる。一方、処理1から3の試料においては、ダイオキシン類、ジベンゾフラン、コプラナーポリ塩素化ビフェニルの減少が見受けられる。特にダイオキシン類とPCBの分解率は90%超と極めて高い。したがって、添加剤により土着の微生物を活性化してダイオキシン類、ジベンゾフラン、コプラナーポリ塩素化ビフェニルなどのポリ塩素化芳香族化合物の浄化を促進できたといえる。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明に係る添加剤を有機ハロゲン化合物、特には有機塩素化合物により汚染された土壌、地下水或いは底質土などに添加することによって、修復対象内の土着の好気性及び嫌気性微生物を含む微生物コンソーシアム全体を活性化させる物質と、嫌気性微生物の還元的脱ハロゲン化を促進する物質と、嫌気状態を造成する物質とが修復対象に供給されるため、微生物コンソーシアムが速やかに嫌気状態を造成し、係る嫌気状態で効率的に脱ハロゲン化が進行する。従って、短期間で、有害な物質が残留しにくい修復工事が可能となる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物コンソーシアムを造成・活性化する物質と嫌気性微生物の還元的脱ハロゲン化を促進する物質と嫌気状態を造成する物質とを有し、前記微生物コンソーシアムを造成・活性化する物質が活性酵母、不活性酵母、および酵母エキスからなる群から選択される少なくとも一の物質であり、前記嫌気性微生物の還元的脱ハロゲン化を促進する物質がプロピオン酸、酪酸、乳酸、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一の物質であり、前記嫌気状態を造成する物質がグルコース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、およびデンプンからなる群から選択される少なくとも一の物質である有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水或いは底質土の修復に使用する添加剤。

【国際公開番号】WO2004/078375
【国際公開日】平成16年3月1日(2004.3.1)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544189(P2004−544189)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002461
【国際出願日】平成16年3月1日(2004.3.1)
【出願人】(302008467)エコサイクル株式会社 (9)
【出願人】(504121944)ジーゼットエー ジオエンバイロメンタル インク (1)
【Fターム(参考)】