説明

汚染土壌の浄化方法

【課題】有機塩素化合物、芳香族化合物、農薬・防腐剤等、原油・重油・軽油・潤滑油等の石油及び留分等の難分解性有機汚染物質により、汚染された土壌を容易にかつ低コストで、安全に環境に優しく無害化する新しい技術を提供する。
【解決手段】有機物質存在下で過酸化水素生成能力を有する活性炭(瀝青炭、廃菌体又はポリアクリロニトリルを原料とするものが好ましい)を、汚染土壌に添加することを特徴とする汚染土壌の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難分解性有機汚染物質で汚染された土壌の処理方法に関する。特に、有機塩素化合物、芳香族化合物、農薬・防腐剤等、原油・重油・軽油・潤滑油等の石油及び留分等の汚染物質により汚染された土壌を容易にかつ低コストで、安全に環境に優しく無害化する新しい技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年有機塩素化合物、芳香族化合物、農薬・防腐剤等、原油・重油・軽油・潤滑油等の石油及び留分等の汚染物質による土壌汚染や地下水汚染が顕在化し、大きな社会問題となってきている。 これに対して、種々の方法が提案・実行されてきている。これらの方法を大別すると、(1)汚染土壌を原位置で浄化する方法、(2)汚染土壌を原位置でそのまま封じ込めする方法、(3)汚染土壌を掘削後、原位置で浄化し、埋め戻す方法、(4)汚染土壌を掘削後、処理設備へ移送、浄化し、その後埋立処分などで廃棄する方法、等に分けられる。
【0003】
(1)の原位置で浄化する方法としては、微生物による方法(特許文献1〜5参照)、植物による方法、各種薬剤などを利用した化学的分解法(特許文献6、7参照、非特許文献1参照)、光触媒などを使用した分解(特許文献8参照)、減圧などにより土壌から発生するガスを吸引する方法(非特許文献1参照)、活性炭などを注入する方法(特許文献9、10参照)、生石灰を注入し水和反応による熱で汚染物質を揮発させる方法(非特許文献1参照)等が、(2)の原位置でそのまま封じ込めする方法としてはセメントや各種薬剤を加え、不溶化する方法等(特許文献11参照)が、(3)の掘削後、原位置で浄化し、埋め戻す方法としては、汚染土壌を掘削した後、直接、微生物を利用して分解する、各種薬剤などを利用して化学的に分解する、減圧などにより土壌から発生するガスを吸引除去して浄化する、加熱処理により発生するガスを吸引して浄化する、加熱処理により汚染物質を分解する。あるいは、汚染土壌を種々の方法で抽出した後、抽出物を種々の方法(たとえば上記方法)で処理する等の方法(非特許文献1参照)がある。(4)の掘削後、処理設備へ移送、浄化し、その後埋立処分などで廃棄する方法としては、浄化方法としては上記の方法等が適用できる。
【0004】
しかし、これらの方法はいずれの方法も完全な方法とは言い難く、より良い技術の開発が望まれている。例えば、(1)の汚染土壌を原位置にて浄化する方法は、汚染土壌を移動することなく浄化が可能という利点はあるものの、微生物や植物による方法では、分解反応ゆっくり進行するため、効果が現れるまでに長時間を要すること。各種薬剤などを利用した化学的分解法では化学薬剤の残留などによる二次汚染がありうること。光触媒などを使用した分解法では光を照射する必要があること。減圧などにより土壌から発生するガスを吸引する方法では汚染物質の揮発性で効率が左右され、比較的揮発性の高い物質は効率よく除去されるが、揮発性の低い物質の除去効率は低い。活性炭などを注入する方法では吸着能力に見合う活性炭を使用する必要があること。生石灰を注入する方法では揮発性の低い物質の除去効率が悪いこと、などの問題がある。
【0005】
(2)の汚染土壌を原位置でそのまま封じ込めする方法は、本質的に汚染物質が浄化されず、その場に残るため、常に、漏出する危険を残す問題がある。
(3)の掘削後、原位置で浄化し、埋め戻す方法は、原位置にて浄化する方法より効率は良いものの、汚染土壌を掘削したり、抽出する工程が必要となり、多大な労力を必要とする他、場合によっては地上の建造物や植裁の撤去が必要となったり、現地に大がかりな処理設備を設置するなどの対応が必要となる問題がある。
(4)の掘削後、処理設備へ移送、浄化し、その後埋立処分などで廃棄する方法は、掘削が完全であれば、現地の浄化としては良い方法であるが、汚染土壌を移動する必要があるため、汚染を広範囲に拡大する恐れがあることと、処理場での汚染浄化には上記(1)から(3)と同様の問題が発生しうること。さらには、最終埋め立て地の決定的な不足や、無害化処理が不十分であった場合には最終埋め立て地の汚染と言ったさらに深刻な問題が発生するおそれがある。
【0006】
【特許文献1】特開2003−116526号公報
【特許文献2】特開2003−102469号公報
【特許文献3】特開平8−80484号公報
【特許文献4】特開平8−3012号公報
【特許文献5】特開平10−34127号公報
【特許文献6】特開2004−321887号公報
【特許文献7】特表平11−500708号公報
【特許文献8】特開2001−19954号公報
【特許文献9】特開2003−164846号公報
【特許文献10】特開2004−216249号公報
【特許文献11】特開2003−290757号公報
【非特許文献1】大成建設株式会社パンフレット0211.1000.再S
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、土壌中の汚染物質を低コストで容易に、かつ安全で環境に優しく無害化する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の問題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、意外にも、有機物質存在下で過酸化水素を生成するある種の活性炭において、当該活性炭の過酸化水素生成能力と汚染土壌の浄化作用との間に高い関連性があることを見出した。即ち、本発明は有機物質存在下で過酸化水素生成能力を有する活性炭を、汚染土壌に添加することを特徴とする汚染土壌の浄化方法に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、本発明の方法によれば、有害物質で汚染された土壌を、極めて容易かつ安価に、原位置で浄化することができるので、産業上極めて有用な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の汚染土壌は、有機塩素化合物、芳香族化合物、農薬・防腐剤等、原油・重油・軽油・潤滑油等の石油及び留分等の汚染物質により汚染された土壌である。
【0011】
本発明の有機物質としては、ポリビニルアルコール、メタノール、エタノールなどのアルコール類、蔗糖、ブドウ糖などの糖類、各種アミノ酸類、さらには、土壌から水などで抽出される各種有機物質などが挙げられる。
【0012】
本発明で使用する活性炭は、過酸化水素生成能力を有するもので、有害な重金属や有機物、植物の生育阻害を伴うような成分を含まないものであれば何れでもよく、その由来は特に限定されない。通常は、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭などの石炭系鉱物質を原料としたもの、石油残渣、硫酸スラッジ、オイルカーボンなどの石油系鉱物質を原料としたもの、蛋白質を原料としたもの、蛋白質を含有する汚泥もしくは廃棄物を出発原料としたもの、発酵生産の廃菌体を原料としたもの、ポリアクリロニトリル(PAN)を原料としたもの、などが好適に使用される。
【0013】
また、これら活性炭に処理を加えることにより、過酸化水素生成能力を付与する、或いは向上させて使用することもできる。たとえば、使用する活性炭を微粉末とすることで過酸化水素生成能力を高めることができ、特に1000μm以下の平均粒子径、望ましくは300μm以下の平均粒子径を有する微粉末の使用が望ましい。これは微粉末化とすることにより拡散性が良くなり、もって過酸化水素生成率が上がることに由来すると考えられる。平均粒子径が1000μm以上、例えば10mmであっても、過酸化水素生成能力があれば本発明の目的は達することができるが、使用量が多くなる。
【0014】
微粉末にする方法としては、古くからある石臼の様に粉砕する石臼式、胴体の回転等によるロッドの落下衝撃力で粉砕するロッド式、胴体の回転等によるボールの落下衝撃力で粉砕するボール式、遠心力が作用するローラーとタイヤの間で粉砕する遠心ローラー式、粉体の流動層内へジェット気流を吹き込み粉体同士の衝突で粉砕するジェット式、遠心場内で小さなボールを運動させ粉砕する攪拌式などが挙げられる。さらに、各機器メーカーにより、これらを組み合わせた形の粉砕器も多数開発されている。また、乾燥状態で粉砕する乾式法と、水などで湿潤化させた状態で粉砕する湿式法が各々適用できる場合もある。活性炭を微粉末にする方法に特に限定はないが、より微粉末とすることができ、粉砕時の発塵などを防止できる点で、ボール式や攪拌式などが好適に使用できる。
【0015】
本発明に使用する活性炭の過酸化水素生成能力は、500ppmのポリビニルアルコール水溶液に800ppmの当該活性炭を添加したものへ、直ちに過酸化水素濃度試験紙(菱江化学株式会社製あるいはMERCK社製)を浸け、温度25℃で30分間空気中に放置し、生成した過酸化水素を測定することで表される。
【0016】
本発明においては上記過酸化水素生成濃度が0.5ppm以上、好ましくは2ppm以上の活性炭を用いる。過酸化水素生成活性が高いほど、培土中での過酸化水素の生成が効率的に進み、活性炭使用量を少なく、あるいはまた、大きな汚染土壌の洗浄促進効果を得ることができる。
【0017】
活性炭は通常水分吸着などによりその吸着能力を減ずるが、本発明においては、活性炭の吸着能力を利用することはないので、水などの分散媒中に懸濁して使用することができる。培土への活性炭の供給方法には特に制限は無く、固体あるいは粉体の活性炭をそのまま供給してもよいが、懸濁液を散布し、さらにすき込むなどして供給しても良い。実用的には、粉塵発生抑制、操作性の点から顆粒あるいは懸濁液として供給した方が便利であり好ましい。
【0018】
本発明により、発生した過酸化水素が土壌中の汚染物質を分解し、生分解性を大幅に向上させる。生分解性が大幅に向上した汚染物質の分解物は、土壌中に存在する微生物により、最終的に完全に無害な物質にまで分解される。なお、分解に関与する微生物は、土壌中に自生する物以外に、外部から強化することもできるし、さらには、微生物の成育を促進するために、不足する栄養分など(窒素分、炭素分、無機塩類、pH調整剤など)を外部から補強することも可能である。また、微生物の活動をより活発にするために、適宜土壌を攪拌する、パイプなどを土壌中に打ち込んで通気するなどの方法も有用である。また、各種の植物の生育も土壌の汚染除去には有効である。さらに、有機物質存在下で過酸化水素の生成能力を有する活性炭を利用した植物の生育促進方法(特開2004−277288号公報)も知られており、合わせた効果が期待される。
【実施例】
【0019】
以下実施例にて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。また、実施例中の「活性炭過酸化水素生成力」とは、500ppmのポリビニルアルコール水溶液に800ppmの活性炭を添加したものへ、直ちに過酸化水素濃度試験紙(菱江化学株式会社製あるいはMERCK社製)を浸け、温度25℃で30分間空気中に放置し、生成した過酸化水素を測定することで表される。
【0020】
実施例1
蒸留水あるいは500ppmのポリビニルアルコール水溶液に800ppmの市販の各種活性炭を添加したものへ、直ちに過酸化水素濃度試験紙(菱江化学株式会社製)を浸け、温度25℃で30分間空気中に放置し、生成した過酸化水素を測定した。結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例2
蒸留水または500ppmの各種有機物質水溶液、あるいは各種土壌に当重量の蒸留水を添加し攪拌後遠心分離して得られた上澄液に、800ppmの市販の各種活性炭を添加したものへ、直ちに過酸化水素濃度試験紙(菱江化学株式会社製)を浸け、温度25℃で30分間空気中に放置し、生成した過酸化水素を測定した。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
実施例3
500ppmのポリビニルアルコール水溶液に表3の平均粒子径を有する廃菌体系活性炭を800ppm添加したものへ、直ちに過酸化水素濃度試験紙(菱江化学株式会社製)を浸け、温度25℃で30分間空気中に放置し、生成した過酸化水素を測定した。結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
実施例4
活性炭として石炭系活性炭の10%水スラリー液の8000ppmを用いた以外は、実施例3と同様に実験を行った。結果を表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
実施例5
園芸用の培養土10kgへA重油を10g添加し模擬汚染土壌を作製した。これを深さ20cmの植木鉢へ1kgずつ充填した。この表面へ実施例3の試験2の活性炭5gを均一に撒いた後、100mlの水道水を均一に撒き、その後屋外へ放置した。対照として活性炭を撒かないものを使用した。所定日数毎にサンプリングし、臭い、TPH(Total Petroleum Hydro Carbon)を測定した。結果を表5に示す。
【0029】
【表5】

【0030】
実施例6
園芸用の培養土10kgへA重油を10g添加し模擬汚染土壌を作成した。これを深さ20cmの植木鉢へ1kgずつ充填した。この表面へ実施例4の試験2の活性炭50gを均一に撒き、その後屋外へ放置した。対照として活性炭を撒かないものを使用した。所定日数毎にサンプリングし、臭い、TPH(Total Petroleum Hydro Carbon)を測定した。結果を表6に示す。
【0031】
【表6】

【0032】
実施例7
園芸用の培養土10kgへトリクロロエチレン(TLC)を10mg加え模擬汚染土壌を作成した。これを深さ20cmの植木鉢へ1kgずつ充填した。この表面へ実施例4の試験2の活性炭50gを均一に撒き、その後屋外へ放置した。対照として活性炭を撒かないものを使用した。所定日数毎にサンプリングし、ガスクロマトグラフィーのヘッドスペース法によりTLC濃度を測定した。結果を表7に示す。
【0033】
【表7】

【0034】
実施例8
園芸用の培養土10kgへジクロロメタン(DCM)を200mg加え模擬汚染土壌を作成した。これを深さ20cmの植木鉢へ1kgずつ充填した。この表面へ実施例4の試験2の活性炭50gを均一に撒き、その後屋外へ放置した。対照として活性炭を撒かないものを使用した。所定日数毎にサンプリングし、ガスクロマトグラフィーのヘッドスペース法によりDCM濃度を測定した。結果を表8に示す。
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物質存在下で過酸化水素生成能力を有する活性炭を、汚染土壌に添加することを特徴とする汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
活性炭が、500ppmのポリビニルアルコールと800ppmの当該活性炭の存在下で過酸化水素濃度試験紙を用いて測定する場合、温度25℃、30分の反応条件で0.5ppm以上の過酸化水素生成能力を有するものである請求項1記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項3】
活性炭が、瀝青炭、廃菌体又はポリアクリロニトリルを原料とする請求項1又は2記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項4】
活性炭が、1000μm以下の平均粒子径を有する微粉末である請求項1又は2記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項5】
活性炭が、1000μm以下の平均粒子径を有する微粉末の懸濁液である請求項1又は2記載の汚染土壌の浄化方法。

【公開番号】特開2006−223969(P2006−223969A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39827(P2005−39827)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】