説明

汚水流入量算出方法及び汚水流入量算出装置

【課題】汚水の揚水量が大きく変化した場合であっても汚水流入量を正確に算出すること。
【解決手段】制御装置10が、所定時間毎の汚水揚水量Qの積算値を利用して導出された所定時間毎の汚水流入量Qの変化を示す1次関数を利用して任意の時間tにおける汚水流入量Qi1を算出し、任意の時間tにおける汚水揚水量Qと汚水4の水位Lとを利用して任意の時間における汚水流入量Qi2を算出し、算出された汚水流入量Qi1と汚水流入量Qi2との重み付け和を任意の時間tにおける汚水流入量Qとして算出する。これにより、汚水4の揚水量が大きく変化した場合であっても汚水流入量Qを正確に算出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ井への汚水の流入量を算出する汚水流入量算出方法及び汚水流入量算出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、水処理プラント設備(以下、プラント設備と略記)は汚水が沈砂池を介してポンプ井に流れ込む構成になっているために、ポンプ井への汚水の流入量(以下、汚水流入量と略記)を正確に計測することは困難である。このため、汚水流入量を利用してプラント設備の挙動をシミュレーションする場合や汚水流入量の傾向を調査する場合には、演算によって汚水流入量を算出する必要がある。このような背景から、演算によって汚水流入量を算出するシステムが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−272336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のシステムは、ポンプ井からの汚水の揚水量とポンプ井内における汚水の水位の変化量とに基づいて汚水流入量を算出する構成になっている。このため、特許文献1記載のシステムによれば、汚水を揚水するポンプの運転台数が変化した時等、汚水の揚水量が大きく変化した時には、汚水の揚水量の変化と水位の変化との間に遅れ時間が発生するために、汚水流入量を正確に算出することができなくなる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、汚水の揚水量が大きく変化した場合であっても、汚水流入量を正確に算出可能な汚水流入量算出方法及び汚水流入量算出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る汚水流入量算出方法は、ポンプ井への汚水の流入量を算出する汚水流入量算出方法であって、所定時間毎の汚水の揚水量の積算値を利用して導出された所定時間毎の汚水の流入量の変化を示す関数を利用して、任意の時間における汚水の流入量を第1汚水流入量として算出するステップと、任意の時間における汚水の揚水量と水位とを利用して、任意の時間における汚水の流入量を第2汚水流入量として算出するステップと、第1汚水流入量と第2汚水流入量との重み付け和を任意の時間における汚水の流入量として算出するステップと、を含む。
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る汚水流入量算出装置は、ポンプ井への汚水の流入量を算出する汚水流入量算出装置であって、所定時間毎の汚水の揚水量の積算値を利用して導出された所定時間毎の汚水の流入量の変化を示す関数を利用して、任意の時間における汚水の流入量を第1汚水流入量として算出する手段と、任意の時間における汚水の揚水量と水位とを利用して任意の時間における汚水の流入量を第2汚水流入量として算出する手段と、第1汚水流入量と第2汚水流入量との重み付け和を任意の時間における汚水の流入量として算出する手段と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る汚水流入量算出方法及び汚水流入量算出装置によれば、汚水の揚水量が大きく変化した場合であっても、汚水流入量を正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である汚水流入量算出装置が適用される水処理プラント設備の構成を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態である汚水流入量演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】図3は、汚水揚水量の積算値から汚水流入量を算出する方法を説明するための図である。
【図4】図4は、汚水揚水量の積算値から汚水流入量を算出する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である汚水流入量算出装置の構成及びその動作(汚水流入量算出方法)について説明する。
【0011】
〔水処理プラント設備の構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態である汚水流入量算出装置が適用される水処理プラント設備の構成について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態である汚水流入量算出装置が適用される水処理プラント設備の構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である汚水流入量算出装置が適用される水処理プラント設備1は、沈砂池2からポンプ井3内に流れ込んだ汚水4を吐出渠5に揚水する吸水ポンプ6を備えている。吐出渠5に揚水された汚水4は、初沈槽,曝気槽,終沈槽などを備える水処理設備7に供給されて処理される。
【0013】
水処理プラント設備1は、制御系として、水位センサ8,汚水揚水量センサ9,及び制御装置10を備えている。水位センサ8は、ポンプ井3内における汚水4の水位Lを検出し、検出された水位Lを示す電気信号を制御装置10に入力する。汚水揚水量センサ9は、吸水ポンプ6によって吐出渠5に揚水される汚水4の流量を汚水揚水量Qとして検出し、検出された汚水揚水量Qを示す電気信号を制御装置10に入力する。
【0014】
制御装置10は、ワークステーションやパーソナルコンピュータなどの演算処理装置によって構成されている。制御装置10は、後述する汚水流入量演算処理を実行することによって任意の時間tにおける水処理プラント設備1への汚水4の流入量Q(以下、汚水流入量Qと略記)を算出する機能と、吸水ポンプ6の回転数や吐出渠5と吸水ポンプ6との間に設けられた開閉弁11の開度を制御することによって、ポンプ井3内における汚水4の水位Lを所定範囲内に制御する機能とを有している。
【0015】
〔汚水流入量算出方法〕
このような構成を有する水処理プラント設備1では、制御装置10が以下に示す汚水流入量演算処理を実行することによって、任意の時間tにおける汚水流入量Qを算出する。以下、図2に示すフローチャートを参照して、汚水流入量演算処理を実行する際の制御装置10の動作について説明する。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態である汚水流入量演算処理の流れを示すフローチャートである。図2に示すフローチャートは、制御装置10に対してオペレータが汚水流入量演算処理の開始を指示したタイミングで開始となり、汚水流入量演算処理はステップS1の処理に進む。
【0017】
ステップS1の処理では、制御装置10が、所定時間毎の汚水揚水量Qのデータ(例えば日報データなど)を用いて任意の時間tにおける汚水流入量Qを算出する。具体的には、制御装置10は、図3に示すように、汚水揚水量センサ9から入力された電気信号に基づいて、所定時間毎(本例では1時間毎)の汚水揚水量Qの積算値h〜h24を記憶している。そこで、制御装置10は、汚水流入量Qと汚水揚水量Qとが1対1対応すると仮定して、各時間帯における汚水流入量Qの変化を表す1次関数y=ax+bを導出する。ここで、1次関数中のパラメータx,yはそれぞれ時間及び汚水流入量Qを示し、パラメータa,bは時間帯n毎に定められる係数を示している。
【0018】
例えば、図4(a)に示すように0時〜1時の時間帯(n=1)では、制御装置10は、0時〜1時の間の汚水流入量Qの変化を示す1次関数y=ax+bの積分値が0〜1時の間の汚水揚水量Qの積算値hと一致すると仮定して、1次関数y=ax+bの係数a,bを算出する。また、図4(b)に示すように1時〜2時の時間帯(n=2)では、制御装置10は、1時〜1.5時の間の汚水流入量Qの変化を示す1次関数y=ax+bの積分値と1.5時〜2時の間の汚水流入量Qの変化を示す1次関数y=ax+bの積分値との和が1時〜2時の間の汚水揚水量Qの積算値hと一致すると仮定して、1次関数y=ax+bの係数a,bを算出する。
【0019】
すなわち、制御装置10は、以下に示す数式(1),(2)を以下に示す行列式(3)に当てはめることによって、各時間帯nにおける汚水流入量Qの変化を示す1次関数y=ax+bを導出する。なお、以下に示す数式(2)は、時間帯nにおける1次関数y=ax+bが隣接する時間帯n+1の中間位置において時間帯n+1の1次関数y=an+1x+bn+1に接続するための境界条件を示している。各時間帯nにおける汚水流入量Qの変化を示す1次関数y=ax+bを導出することによって、制御装置10は任意の時間tにおける汚水流入量Qを算出することができる。これにより、ステップS1の処理は完了し、汚水流入量演算処理はステップS2の処理に進む。
【0020】
【数1】

【数2】

【数3】

【0021】
ステップS2の処理では、制御装置10が、汚水揚水量センサ9によって検出された汚水揚水量Qの瞬時値を用いて任意の時間tにおける汚水流入量Qを算出する。具体的には、制御装置10は、汚水揚水量センサ9によって検出された汚水揚水量Q,水位センサ8によって検出された汚水4の水位Lの時間変化量dL/dt,及び水位センサ8によって検出された汚水4の水位Lにおけるポンプ井3の断面積S(L)を以下に示す数式(4)に代入することによって、任意の時間tにおける汚水流入量Qを算出する。
【0022】
なお、制御装置10内には予め汚水4の水位Lとポンプ井3の断面積S(L)との関係を示すテーブルデータが格納されており、制御装置10はこのテーブルデータを参照して汚水4の水位Lにおけるポンプ井3の断面積S(L)を特定する。また、制御装置10は、任意の時間t前後の瞬時値の平均値を利用する、すなわち瞬時値を平滑化することによって汚水流入量Qを算出することにより、汚水の揚水量が大きく変化した場合であっても汚水流入量を正確に算出できるようにするとよい。これにより、ステップS2の処理は完了し、汚水流入量演算処理はステップS3の処理に進む。
【0023】
【数4】

【0024】
ステップS3の処理では、制御装置10が、ステップS1の処理によって算出された汚水流入量QとステップS2の処理によって算出された汚水流入量Qとの重み付け和を算出し、算出された重み付け和の値を水処理プラント設備1への汚水4の流入量Qとする。具体的には、制御装置10は、ステップS1の処理によって算出された汚水流入量Qを汚水流入量Qi1、ステップS2の処理によって算出された汚水流入量Qを汚水流入量Qi2として、以下に示す数式(5)に汚水流入量Q及び汚水流入量Qi2を代入することによって、任意の時間tにおける汚水流入量Qを算出する。ここで、数式(5)中のパラメータrは、0以上1以下の値であり、オペレータが適宜設定可能な値である。これにより、ステップS3の処理は完了し、一連の汚水流入量演算処理は終了する。
【0025】
【数5】

【0026】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である汚水流入量演算処理では、制御装置10が、所定時間毎の汚水揚水量Qの積算値を利用して導出された所定時間毎の汚水流入量Qの変化を示す1次関数を利用して任意の時間tにおける汚水流入量Qi1を算出し、任意の時間tにおける汚水揚水量Qと汚水4の水位Lとを利用して任意の時間tにおける汚水流入量Qi2を算出し、算出された汚水流入量Qi1と汚水流入量Qi2との重み付け和を任意の時間tにおける汚水流入量Qとして算出するので、汚水4の揚水量が大きく変化した場合であっても汚水流入量Qを正確に算出することができる。
【0027】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者などによりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
1 水処理プラント設備
2 沈砂池
3 ポンプ井
4 汚水
5 吐出渠
6 吸水ポンプ
7 水処理設備
8 水位センサ
9 汚水揚水量センサ
10 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ井への汚水の流入量を算出する汚水流入量算出方法であって、
所定時間毎の汚水の揚水量の積算値を利用して導出された所定時間毎の汚水の流入量の変化を示す関数を利用して、任意の時間における汚水の流入量を第1汚水流入量として算出するステップと、
任意の時間における汚水の揚水量と水位とを利用して、任意の時間における汚水の流入量を第2汚水流入量として算出するステップと、
第1汚水流入量と第2汚水流入量との重み付け和を任意の時間における汚水の流入量として算出するステップと、
を含むことを特徴とする汚水流入量算出方法。
【請求項2】
ポンプ井への汚水の流入量を算出する汚水流入量算出装置であって、
所定時間毎の汚水の揚水量の積算値を利用して導出された所定時間毎の汚水の流入量の変化を示す関数を利用して、任意の時間における汚水の流入量を第1汚水流入量として算出する手段と、
任意の時間における汚水の揚水量と水位とを利用して任意の時間における汚水の流入量を第2汚水流入量として算出する手段と、
第1汚水流入量と第2汚水流入量との重み付け和を任意の時間における汚水の流入量として算出する手段と、
を備えることを特徴とする汚水流入量算出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−252671(P2012−252671A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127132(P2011−127132)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】