説明

汚泥削減方法

【課題】活性汚泥処理方法において、活性汚泥中の微生物活性を高める低コストな汚泥減容剤を提供し、さらに汚泥を削減する汚泥削減方法を提供する。
【解決手段】本発明は、上記課題を解決するため、Parachlorella sp.binosを、培養し、回収し、乾燥させたバイノスパウダーを汚泥に添加することを特徴とする汚泥削減方法の構成、前記Parachlorella sp.binosが、寄託番号FERM ABP−10969であることを特徴とする汚泥削減方法の構成とし、前記バイノスパウダーの添加量が、汚泥1トン対して20〜200gであることを特徴とする汚泥削減方法の構成とした。また、Parachlorella sp.binosを開放系で培養し、回収し、乾燥させたことを特徴とする余剰汚泥減容剤の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性汚泥処理方法において、微生物活性を高め汚泥を削減する汚泥削減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家庭排水、各種産業から排出された汚水等の被処理水の処理方法として、微生物(酵母、カビ、藍藻、放線菌など各種細菌、植物性プランクトン、動物性プランクトンなど活性汚泥処理に用いられる有用微細動植物を含むものとする。)による活性汚泥処理方法が用いられてきた。
【0003】
図12に示すように、ワムシに代表される原生動物などの有用な微生物相を形成することにより、活性汚泥は活性化され、汚泥の低減、悪臭の抑制、処理水の水質向上が可能とされている。
【0004】
活性汚泥中の微生物を活性化させるため、微生物に資化される栄養素、取り分けビタミン類を活性汚泥に添加する手法が1970年代から研究され、多数の論文(非特許文献1〜16)が発表されている。
【0005】
非特許文献1〜16に記載のビタミンの作用・効果等を図13にまとめた。非特許文献1には、糸状性細菌の発生抑制としてビタミンB、B12が作用しており、代表的な糸状性細菌であるtype021Nを捕食する有用原生動物トリティグモストマ ククルルスの成長因子にビタミンB、B12が必須であることが報告されている。
【0006】
また、活性汚泥中でビタミンB群を必要とする微生物種については工業排水、生活排水などの各分野で調査されており(非特許文献3)、製紙業、石油化学業、廃棄物処理場で多くのビタミンB群を必要とする微生物の存在が報告されている(非特許文献2、9)。図14は、非特許文献2を引用したもので、産業別活性汚泥中のビタミンB群を必要とする微生物種の存在比率である。
【0007】
さらに、非特許文献7〜13にはビタミンB群が活性汚泥に必要不可欠であると報告されている。また非特許文献14〜16にはビタミンB群を活性汚泥に添加した場合、活性汚泥の活性が高まるとことが報告されている。
【0008】
しかし、ビタミンなどの栄養素を別途、活性汚泥に添加する手法はコストが嵩み実現性がなかった。
【0009】
他方、特許文献1には、排水処理施設の処理機能に悪影響を及ぼすことなく、余剰汚泥の低減化を図ることを目的として、茶葉またはその浸出液あるいは、茶葉に含まれるアミノ酸等の微生物活性化成分及びタンニン等の汚泥可溶化成分からなる組成物を、バイオマスに接触させることを特徴とする排水処理施設の汚泥低減化方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献2には、海水および淡水底面の汚泥を、環境に負荷をかけることなく、簡便かつ高効率に、工業的規模で処理するための浄化処理装置が開示されている。特に請求項1には、海水または淡水底面の汚泥を浄化処理するための装置であって、少なくとも、海底汚泥を含有する汚泥を充填し、ビタミン類を添加して分解反応を行うための第1反応槽が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−15568号公報
【特許文献2】特開2003−47996号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Y.Inamori,Y.Kuniyasu, R.Sudo, and M.Koga Control of the growth of filamentousmicroorganisms using predacous ciliated protozoa. Water Science Technology.1991;23 963-971
【非特許文献2】J.E.Burgess,J.Quarmby, and T.Stephenson Role of micronutrients in activated sludge-basedbiotreatment of industrial effluents. Biotechnology Advances 17(1999)49-47
【非特許文献3】LindG, Schade M, Metzner G, Lemmer H Use of vitamins in biological waste watertreatment. GWF-Wasser/Abwasser 1994;135:595-600.
【非特許文献4】SingletonJ. Microbial metabolism of xenobiotics:Fundamental and applied research. J ChemTechnol Biotechnol 1994;59:9-23.
【非特許文献5】WoodDK, Tchobanoglous G. Trace elements in biological waste treatment. J Wat PollutControl Fed 1975;47:1933-45.
【非特許文献6】GostickN. A study of the effect of substrate composition on the settlement ofactivated sludge PhD Thesis, Cranfield University, U.K. 1991.
【非特許文献7】BeardsleyML, Coffey JM Bioaugmentation: optimizing biological wastewater treatment.Pollution Engineering 1985;December:30-3.
【非特許文献8】JEBurgess, J Quarmby and T Stephenson Vitamin addition: an option for sustainableactivated sludge process effluent quality. Journal of Industrial Microbiology& Biotechnology (2000) 24, 267-274
【非特許文献9】HildeLemmer, George Lind, Gerhard Metzner, Lutz Nitschke and Margit Schade Vitaminaddition in biological wastewater treatment Water Science and Technology Volume37, Issues 4-5, 1998, Pages 395-398
【非特許文献10】KidderGW, Dewey VC. Studies on the biochemistry of Tetrahymena XIII. B vitamin requirements. Arch Biochem 1949;21:66-73.
【非特許文献11】SchormullerJ. Vitamins as growth material for bacteria. A comprehensive review. Z LebensmUntersuchung undForschung 1948;88:408-36.
【非特許文献12】VoigtMN, Eitenmiller RR, Ware GO. Vitamin analysis by microbial and protozoanorganisms: response to vitaminconcentration, incubation time and assay vessel size. J Food Sci1979;43:1418-23.
【非特許文献13】YamadaK, Kawasaki T. Properties of the thiamine transport system in Escherichia coli.J Bact 1980;141:254-61.
【非特許文献14】LemmerH, Nitschke L. Vitamin content of four sludge fractions in the activated sludgewaste water treatment process. Water Res 1994;28:737-9
【非特許文献15】LemmerH. Biological additives for waste water treatment-Theory and practice.Munchener Beitrage zur Abwasser-, Fischerei- und Flusbiologie 1992;46:254-82.
【非特許文献16】SarfertF, Eikelboom DH, Klein B, Kowalsky H, Lemmer H, Matsche N, Popp W, Reinnarth G,Wagner F. Biological additives in waste watertreatment-bacteria-enzymes-vitamins-algal preparations. Korrespondez Abwasser1990;7:793-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、活性汚泥処理方法において、活性汚泥中の微生物活性を高める低コストな汚泥減容剤を提供し、さらに汚泥を削減する汚泥削減方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するために、Parachlorella sp.binosを、培養し、回収し、乾燥させたバイノスパウダーを汚泥に添加することを特徴とする汚泥削減方法の構成とし、前記Parachlorella sp.binosが、細胞外にアルギン酸を分泌することを特徴とする前記汚泥削減方法の構成とし、前記Parachlorella sp.binosが、寄託番号FERM ABP−10969であることを特徴とする前記汚泥削減方法の構成とし、前記培養が、純粋培養した後、濃縮し、濃縮液をpH10に調整し、1日〜5日間開放状態で放置することを特徴とする前記何れかに記載の汚泥削減方法の構成とした。
【0015】
また、前記バイノスパウダーの添加量が、汚泥1トン対して20〜200gであることを特徴とする前記何れかに記載の汚泥削減方法の構成とした。なお、汚泥1トンに対して20gより少ない場合には効果が希薄である。一方、200gより多い場合であっても汚泥の削減効果は発揮するが頭打ちになり、費用が嵩み好ましくない。
【0016】
また、前記アルギン酸がアルギン酸オリゴマーであることを特徴とする前記何れかに記載の汚泥削減方法の構成とした。また前記アルギン酸オリゴマーが、β−D−マンヌロン酸(M)とα−L−グルロン酸(G)の合計が3〜10残基であることを特徴とする前記汚泥削減方法の構成とした。
【0017】
さらに、Parachlorella sp.binosを開放系で培養し、回収し、乾燥させたことを特徴とする余剰汚泥減容剤の構成とした。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記構成であるので以下の効果を発揮する。光合成により増殖したバイノスを乾燥し粉末化した物を用いることにより、汚泥中の微生物相を最適化し、低コストで活性汚泥を活性化するビタミン源を提供するとともに、それにより活性汚泥の削減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】バイノス(A)とクロレラ(B)の透過型電子顕微鏡像(10,000倍)である。
【図2】バイノスと各種試料のビタミンB群の含有量の比較表である。
【図3】バイノス培養液の微分干渉顕微鏡像(400倍)である。
【図4】バイノス培養物の細胞溶解物及びアルギン酸ナトリウム(標準品)のFT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)測定結果(スペクトル)である。
【図5】汚泥活性化確認実験の結果である。
【図6】汚泥活性化後の瀑気槽液の顕微鏡像(100倍)である。
【図7】バイノスパウダー添加による汚泥削減化実験の結果である。
【図8】汚泥削減化実験後の残存した汚泥の成分分析結果である。
【図9】曝気槽のDGGE解析結果である。
【図10】DGGE解析時の活性汚泥の顕微鏡写真である。
【図11】アルギン酸オリゴマーの微生物増殖に対する影響を調べた結果である。
【図12】汚泥削減メカニズムの説明図である。
【図13】ビタミンB群の微生物に対する作用をまとめた表である。
【図14】活性汚泥中でビタミンB群を必要とする微生物の割合である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、バイノス(A)とクロレラ(B)の透過型電子顕微鏡像(10,000倍)である。バイノスとは、光合成緑藻類のパラクロレラ属微細藻類パラクロレラ・エスピー・バイノス(Parachlorella sp.binos、以下「バイノス」という。)のことである。
【0021】
その内の1種については、発明者等が、既に岐阜県内の工場排水処理場から新たに単離し、(独)産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、2008年2月28日付けで寄託し、寄託番号FERM ABP−10969が付与されている。今現在入手可能である。
【0022】
光合成緑藻類には、図1(B)に示したサプリメントとして利用されるクロレラ、重油を生産するボトリオコッカス、アスタキサンチンを生産することで知られるヘマトコッカスなどが含まれる。
【0023】
発明者等が単離したFERM ABP−10969株は、分裂時間約7.8時間と早く、光合成能力が非常に高い。また、クロロフィル量が一般的なクロレラと比べ、乾燥重量100gあたりの2倍以上含まれている。
【0024】
特に、クロロフィルbがクロレラに比べ極めて多く(約8倍)で、深部水環境でも青色を効率的に利用し、光合成が可能である。また、代謝物として、多種多量のビタミンB群を代謝する(図2)。また、一般的なクロレラは細胞最外層に厚い細胞壁を有しているが、バイノスは細胞壁が非常に薄いことが特徴である。
【0025】
図2は、バイノスと各種試料のビタミンB群の含有量の比較表である。表AがビタミンB、BがビタミンB、CがビタミンB、DがビタミンB12である。バイノスについては、開放系での培養物を凍結乾燥したものである。
【0026】
図2に示すように、バイノスの乾燥物(以下、バイノスパウダーという。)のビタミンB群の含有量は次の通りである。なお、図2のデーターはFERM ABP−10969株のものである。
【0027】
ビタミンBは585.00mg/乾燥100g(小麦胚芽の約321倍)、ビタミンBは30.0mg/乾燥100g(豚・肝臓の約17倍)、ビタミンBは475.00mg/乾燥100g(ニンニクの約317倍)、ビタミンB12は10,000μg/乾燥100g(アマノリの約130倍)である。バイノスは、他の試料に比べビタミンB群の含有量が非常に多く、ビタミン源として極めて有効であると言える。
【0028】
図3は、バイノス培養液の微分干渉顕微鏡像(400倍)である。試料は、バイノスFERM ABP−10969株の純培養液を開放系で拡大培養したときの培養液を用いた。
【0029】
バイノスの培養液は以下のようにして調整した。液体培地;KNO(2.5g/L)、MgSO・7HO(7.5g/L)、KHPO(17.5/L)、CaCl(2.5g/L)、NaCl(2.5g/L)、NHPO(20g/L)の各水溶液を10mLずつ940mL蒸留水に添加し、1%(w/v)FeClを1滴及びArnons A5溶液を2mL添加し、pHを6.5に調整した後、121℃、15分間のオートクレーブ処置した。
【0030】
平板培地;固体培地は、前記液体培地のpH調整前に、1.5%(w/v)寒天を加えて前記同様に調整した。また、種々の容量の液体培地は上記比率で適宜作ることができる。なお、単一コロニーの判定にはLB培地を使用し、植菌してコンタミネーションの有無で判断する。
【0031】
培養条件;バイノスの培養は、前記培養液にバイノスの純粋培養液、又は開放系での培養液を種菌として添加し、室温〜30℃、明条件(最低700Lux、好ましくは約2,000〜20,000Lux程度、最も好ましくは約3,000〜8,000Lux)、好気的条件(振とう培養など)下で行った。
【0032】
なお、バイノスは、淡水又はLB培地等の一般的な培地中で、好気的条件下にて生育可能である。
【0033】
図3の丸で囲まれた中の球状物がバイノスである。点線で囲まれ部分はバイノスの分泌物で、アルギン酸である(図4)。抽出物内には、無数の微生物群(共生微生物群)が確認できる。
【0034】
図4は、バイノス培養物の細胞溶解物及びアルギン酸ナトリウム(標準品)のFT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)測定結果(スペクトル)である。
【0035】
上述の液体培地で純粋培養したバイノス(2g/L)に、NaCOを終濃度で2%(w/v)になるように添加し、細胞を溶解させた。この溶解物を3,000rpmで10分間遠心分離して上澄み回収し、0.4μmフィルターにて濾過した。前記フィルター上の残渣を、1N HCl及び1N NaOHで洗浄し、FT−IR測定に供した。
【0036】
バイノス抽出物のスペクトルをアルギン酸ナトリウム(標準品)のスペクトルと比較したところ、バイノスFERM ABP−10969株が細胞外に分泌する分泌物はアルギン酸であることが明らかになった。
【0037】
アルギン酸は、褐藻などに含まれる分子量20万〜30万の多糖類で、食物繊維の一種である。ほかに紅藻のサンゴモ、一部の細菌(アゾトバクターなど)が部分的に酢酸エステル化されたアルギン酸を生成するとされるが、これらによる工業的生産は未だ成功していないとされる。
【0038】
純粋のアルギン酸は白ないし淡黄色で、繊維状、顆粒状または粉末状の形態をとる。水に不溶性であるが、アルギン酸ナトリウムなどの可溶性塩として抽出され、食品添加物その他の目的で利用される。
【0039】
β−D−マンヌロン酸
(M) とそのC−5エピマーであるα−L−グルロン酸
(G) の2種のいずれもカルボキシル基をもつ単糖ブロックが、(1−4)−結合した直線状のポリマーである。M、Gブロックの量比は起源により異なる。
【0040】
MとGが交互につながったブロックが最も柔軟性があり、中性に近いpHで溶けやすい。Gからなるブロックは固く、6残基以上からなるGブロックは2価カチオン(Ca2+など)と安定な複合体の3次元ゲルを形成する。
【0041】
発明者等は、単離したバイノスFERM ABP−10969株において、緑藻類として初めてアルギン酸を生合成することを発見し、既に特許出願をしている。
【0042】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0043】
図5は、汚泥の活性化確認実験の結果である。曝気槽の活性汚泥を500mL量り取り、10mgの乾燥バイノスパウダーを添加し、DO値(mg/L)が飽和状態になるまで800rpmで攪拌した後、攪拌速度を200rpmにし、DO値の推移を30分毎に測定した。なお、DO値とは、溶存酸素濃度のことである。
【0044】
その結果、図5に示した通り、バイノスパウダーを添加(●)することで実験開始30分後にDO値がバイノスパウダー無添加のコントロール(■)に比べ急激に低下していることから、微生物の呼吸量が倍増していることが分かる。従って、バイノスパウダーの添加によって活性汚泥中の微生物群が活性化されたことが明らかになった。
【0045】
図6は、汚泥活性化後の曝気槽液の顕微鏡像(100倍)である。活性汚泥にビタミンB群を添加することにより、汚泥中の微生物群が最適化されることはよく知られている(非特許文献7〜13)。そこで、図5で使用したバイノスパウダーを添加した実験サンプルを、7日間放置し、微生物群の変化を観察した。
【0046】
その結果、図6に示す通り、バイノスパウダー添加前(A)では原生動物(ワムシ、ゾウリムシ)はわずかしか確認できなかったが、バイノスパウダー添加後(C)では原生動物(ワムシ、ゾウリムシ)の個体数と種類が増加していた。その処理水においてはバイノスパウダー無添加に比べ透明感が向上していた。微生物群の最適化により処理水の水質が向上されることは、非特許文献3〜5でも報告されている。
【実施例2】
【0047】
次に、バイノスパウダーの添加によって汚泥が削減されるか調べた。汚泥濃縮槽の汚泥1Lに対してバイノスパウダー0.3mg添加(汚泥1gに対してバイノスパウダー0.02mg添加に相当)し、マグネティックスターラーにて攪拌(400rpm)し、日毎にMLSSを測定した。MLSSの測定は、1997年版「下水試験方法」上巻第6節[活性汚泥浮遊物質]の測定方法に準じて行った。なお、MLSS(Mixed
liquor Suspended Solid)とは、一般に曝気槽内の活性汚泥浮遊物質で、重量法(mg/L)で表示される。その結果を図7、図8に示す。
【0048】
図7は、バイノスパウダー添加による汚泥削減化実験の結果である。図7のMSSLの測定結果より、汚泥発生量の約40%削減(6日目)が確認できた。
【0049】
図8は、汚泥削減化実験後の残存した汚泥の成分分析結果である。図7の6日目のサンプルを強熱減量試験に供した。強熱減量試験は、JIS K0102 14.5[強熱減量]に準じておこなった。
【0050】
図8の強熱減量試験の結果、無添加の有機物が約11,000mg/Lであるところ、バイノスパウダーを添加することで有機物が約5,000であり、バイノスパウダーの添加によって有機物の約55%が分解されたことが確認できた。
【実施例3】
【0051】
活性汚泥にバイノスパウダーを添加し活性汚泥の微生物相変化をDGGE(Denaturing
Gradient Gel Electrophoresis 変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)で調べた。
【0052】
(1)バイノス培養方法(大量培養)
上述の平板培地にて、FERM ABP−10969株の単一コロニー釣菌し、同平板培地に上述の条件で拡線培養する。増殖した少量のFERM ABP−10969株を試験管中の上述の液体培地1〜10mLに植え継ぎ増殖させ、さらに50〜1000倍の同液体培地(フラスコ)に植え継ぎ振とう培養し、第1次培養液を調整する。試験管培養からフラスコ培養まで約7日間要する。
【0053】
次に、第1次培養液(例えば200L)を約10倍(2,000L)の上述の液体培地の浴槽に植え継ぎ7日間静地(又は対流或いはエアレーション)下で培養して第2次培養液を調整する。
【0054】
さらに、第2次培養液(2,000L)を約10倍(20,000L)の上述の培養液槽に植え継ぎ7日間静地(又は対流或いはエアレーション)下で培養して大量培養液を調整する。
【0055】
そして、大量培養液からFERM ABP−10969株を凝集沈殿にて濃縮物を得る。凝集沈殿には、カチオン系の高分子凝集剤を用いた。続いて、濃縮物にNaOH溶液などを添加して、濃縮物をpH10に調整する。pH10に調節するのは、細胞外分泌多糖類であるアルギン酸をより多く分泌させるためである。
【0056】
その後、濃縮物を開放系で1〜5日間、望ましくは3日間放置し、最終培養物を得る。開放系で培養することで、落下菌がFERM ABP−10969株の分泌物であるアルギン酸を資化する。共生菌としてはShewanellaやRhizobiumなどが確認されている。培地中に上記のようなビタミンB群を積極的に生産する細菌群が豊富に含まれるため、培養物中のビタミンの蓄積含量も増加する。
【0057】
(2)バイノスパウダーの調整
上述のように培養して得た最終培養物を、真空乾燥、スプレードライヤー、凍結乾燥法などで乾燥してバイノスパウダーが得られる。得られたバイノスパウダーは、汚泥の活性化剤として汚泥に添加する。バイノスパウダーは、乾燥工程により細胞が傷つき、或いは破砕され、菌体内蓄積物が溶出し易くなっており、ビタミンB源、そしてアルギン酸源として有効である。
【0058】
(3)活性汚泥への添加方法
室内実験室にて、容量2Lの模擬曝気槽に曝気槽流入水(活性汚泥)を1L量り取り、曝気槽内DO1〜3mg/L程度になるようにエアレーションを7日間行った。24時間毎に上記(2)で調整したバイノスパウダーを全活性汚泥量に対して0.02%(w/w)添加した。
【0059】
活性汚泥は、fill
and draw法によって回分式に適宜供給した。TOC、MLSS、強熱減量、酸素利用速度(1997年版「下水試験方法」上巻10節[酸素利用速度])、汚泥脱水性の測定を行った。
【0060】
(4)DGGE解析
DGGE解析は以下のように行った。前記(3)で調整した4日目の活性汚泥1mLを1.5mLの遠心チューブにとり、1分間1350rpmで遠心し、汚泥を凝集させる。この汚泥からのDNAの抽出にはISOPLANT(ニッポンジーン社製)を用い、添付のプロトコル通りにDNAを抽出させた。その後、DNA溶液を0.1μg/μLに調整し、これをDGGE解析のPCR反応に用いた。PCR反応では16srRNA遺伝子の一部を増幅させた。PCR反応に用いたプライマーの配列を以下に記す。
【0061】
フォワード(F):cgcccgccgcgcgcggcgggcggggcgggggcacggggggcctacggggaggcagcag
リバース(R) :attaccgcggctggtgg
【0062】
PCRはTakara
ExTaq PCR kitを用い、プロトコル通りにパーキンエルマー社製サーマルサイクラー9700を用いてPCR反応を行った。PCRサイクルは94℃5分→30サイクル(94℃0.5分→55℃0.5分→72℃0.5分)→72℃5分→10℃にて行った。
【0063】
PCR反応産物は、1%アガロースゲル電気泳動にて目的遺伝子が増幅されていることを確認した後、バイオラッド社製のDcode systemを用いてDGGE解析を行った。変性ゲルは添付のプロトコル通りに作成し、変性剤の濃度勾配を35−60%とした。電気泳動は60Vにて最低10時間ほど行った後、サイバーゴールド(フナコシ社製)を用いてゲルを染色した。染色したゲルはGBOX(フナコシ社製)を用いて写真撮影を行った。
【0064】
図9に、活性汚泥に(1)で調整したバイノスパウダーを添加したときのDGGE解析結果を示す。レーンMはサイズマーカー((株)ニッポンジーン社、DGGEマーカーI)、レーン1はコントロールで、活性汚泥にバイノスパウダーの添加なしで処理した処理物(4)である。レーン2がコントロールと同一の活性汚泥にバイノスパウダーを添加した後処理(4)した処理物である。
【0065】
図9の白線で囲まれたエリア(A)は、バイノスパウダーの添加により特異的に出願する微生物のバンドである。エリア(B)は、バイノスパウダーの添加により菌数が増加した微生物のバンドである。エリア(C)は、バイノスパウダーの添加により菌数が減少した微生物のバンドである。
【0066】
図9の結果から、バイノスパウダーを汚泥に添加することで、分子生物学的な側面からも汚泥中の微生物相の変化が確認できた。
【0067】
図10は、DGGE解析時(7日目)の活性汚泥の顕微鏡写真である。図10(A)はバイノスパウダー無添加のコントロールで、図10(B)、(C)がバイノスパウダー添加区の写真である。図10(C)に示されたように、バイノスパウダーを汚泥に添加することで、糸状細菌を捕食する原生動物(ヒルガタワムシなど)の増殖が確認できた。当該試験においては、実験施設の汚泥を約24%削減(MSSL値)できた。
【実施例4】
【0068】
図11は、アルギン酸オリゴマーの微生物増殖に対する影響を調べた結果である。微生物とした糸状性の藍藻Oscillatoria(以下、オシラトリアという。)を使用した。オシラトリアは、富栄養化が進んだ湖沼等において大量に発生するアオコを構成する代表的な種である。
【0069】
試験方法は、試験槽(容量30L)にサンプル水20Lを量り取り、バイノス分泌物の投入試験区、未投入区(コントロール)を設けた。試験槽は攪拌機にて600rpmで攪拌を行い、毎日の生物数を測定した。
【0070】
実験に使用したサンプル水は、茨城県企業局県南水道事務所 霞ヶ浦浄水場施設内の着水井からサンプリングした。個体数の測定方法は、トーマ血球計にサンプル水5μLを量り取り、光学顕微鏡を用いて倍率200倍で全視野10反復の平均値からオシラトリア、Phormidiumの数を定量した。
【0071】
■はコントロールで、○はコントロールと同組成の培地に、バイノスから分泌されているアルギン酸オリゴマーを毎日3mg/L培地に添加した。バイノスが分泌するアルギン酸にはオリゴマーが含まれている。
【0072】
実験の結果、コントロール■においては、0〜4日まで固体数が減少し、5日目に増殖が観られるもののその後急速に菌数が減少している。一方、アルギン酸オリゴマーを添加した培地○においては、0〜5日目まで増殖は見られないもののその増殖に転じている。
【0073】
このことから、アルギン酸オリゴマーには微生物増殖を促進する作用があることが明らかになった。
【0074】
従って、バイノスFERM ABP−10969株等のバイノスが細胞外に分泌するアルギン酸、特にアルギンオリゴマーが、共生微生物の増殖を促進させ、それら共生微生物においてもビタミンB群の生合成が行われ、バイノス純粋培養で蓄積されるビタミンB群より、開放系で培養したバイノスパウダーにおいてより多量のビタミンB群が蓄積されるものと思われる。
【0075】
バイノスの開放系での拡大培養物は、活性汚泥中の分解作用に有効な微生物の増殖を菌体分泌物であるアルギン酸、取り分けアルギン酸オリゴマーの効果、さらにビタミンB群の効果により、促進させ低コストで汚泥の活性剤としての効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明である汚泥削減方法は、下水処理場、食品、薬品、繊維業界などの各種産業から排出される汚泥を削減することを可能にし、汚泥処理費用、エネルギーを削減し、温暖化防止も期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Parachlorella sp.binosを、培養し、回収し、乾燥させたバイノスパウダーを汚泥に添加することを特徴とする汚泥削減方法。
【請求項2】
前記Parachlorella sp.binosが、細胞外にアルギン酸を分泌することを特徴とする請求項1に記載の汚泥削減方法。
【請求項3】
前記Parachlorella sp.binosが、寄託番号FERM ABP−10969であることを特徴とする請求項2に記載の汚泥削減方法。
【請求項4】
前記培養が、純粋培養した後、濃縮し、濃縮液をpH10に調整し、1日〜5日間開放状態で放置することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の汚泥削減方法。
【請求項5】
前記バイノスパウダーの添加量が、汚泥1トン対して20〜200gであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の汚泥削減方法。
【請求項6】
前記アルギン酸が、アルギン酸オリゴマーであることを特徴とする請求項2〜5の何れか1項に記載の汚泥削減方法。
【請求項7】
前記アルギン酸オリゴマーが、β−D−マンヌロン酸(M)とα−L−グルロン酸(G)の合計が、3〜10残基であることを特徴とする請求項6に記載の汚泥削減方法。
【請求項8】
Parachlorella sp.binosを、開放系で培養し、回収し、乾燥させたことを特徴とする余剰汚泥減容剤。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−11140(P2011−11140A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157212(P2009−157212)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【特許番号】特許第4573187号(P4573187)
【特許公報発行日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(506066098)株式会社日本バイオマス研究所 (8)
【Fターム(参考)】