説明

汚泥脱水装置及び汚泥脱水方法

【課題】汚泥の脱水処理で生じる脱水分離液の排出量を十分に低減することができる汚泥脱水装置及び汚泥脱水方法を提供すること。
【解決手段】本発明の汚泥脱水装置10は、凝集剤と水とを混合して凝集剤水溶液を調製する凝集剤溶液調製槽2と、凝集剤溶液調製槽2からの凝集剤水溶液と脱水処理すべき汚泥とを混和する混和部3と、混和部3からの混和物を脱水処理する脱水手段4と、脱水手段4での脱水処理によって混和物から分離された脱水分離液の少なくとも一部を、凝集剤溶液調製槽2に返送する返送手段L11とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚泥脱水装置及び汚泥脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥の脱水処理は、通常、汚泥に脱水助剤を添加して行う。脱水助剤としては高分子凝集剤及び無機凝集剤が挙げられ、これらのうち一方又は両方が汚泥に対して添加される。例えば、特許文献1には高分子凝集剤を用いて汚泥を脱水処理する方法が記載されている。
【0003】
脱水助剤として使用される高分子凝集剤は、粉体又は質量濃度150〜400g/l程度のディスパージョン型もしくはエマルジョン型の液体である。汚泥中に高分子凝集剤を十分に分散させるため、高分子凝集剤は適当な濃度の水溶液として汚泥に添加される。高分子凝集剤の水溶液の質量濃度はアニオン系で1〜2g/l、カチオン系2〜3g/lとすることが一般的である。このように、高分子凝集剤を水で溶解又は希釈することにより高分子凝集剤の水溶液が調製される。
【特許文献1】特公平7−51240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来、所定濃度の高分子凝集剤の水溶液を調製するための水として、上水や井戸水などの清浄水が使用されており、これらの清浄水は汚泥の脱水処理プロセスの系外から導入されるものである。高分子凝集剤の水溶液を上述のような質量濃度とするためには、系外から清浄水を相当量導入する必要がある。
【0005】
また、汚泥に対する高分子凝集剤の添加量は、汚泥の固形物の全質量を基準として、1〜2質量%とすることが一般的である。このため、例えば、メタン発酵汚泥のように固形物の含有量が多い汚泥を脱水処理する場合、固形物の含有量に応じた所定量の高分子凝集剤が水溶液の状態で添加される。従って、高分子凝集剤の水溶液の使用量が増大するに伴い、当該水溶液を調製するために系外から導入される清浄水の量が増大してしまう。
【0006】
例えば、固形物の質量濃度が50g/lである汚泥100mに対し、当該固形物の質量を基準として、高分子凝集剤の添加量が2質量%となるように高分子凝集剤を添加する場合において、汚泥に添加する高分子凝集剤水溶液の量について検討する。粉末の高分子凝集剤を水に溶解し、質量濃度2g/lの高分子凝集剤水溶液を調製すると仮定すると、高分子凝集剤水溶液の量は、
[100(m)×50(g/l)×2(質量%)]/2(g/l)=50(m
と算出される。このように、汚水100mに対して高分子凝集剤水溶液50mを添加する必要がある。従って、高分子凝集剤添加後の汚泥量は添加前の1.5倍となってしまう。
【0007】
上記のように系外からの清浄水の導入量が増大すると汚泥脱水機に対する負荷が高くなるのみならず、汚泥脱水機の後段に設けられる排水処理設備の流量負荷も高くなってしまうという問題が生じる。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、汚泥の脱水処理で生じる脱水分離液の排出量を十分に低減することができる汚泥脱水装置及び汚泥脱水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の汚泥脱水装置は、凝集剤と水とを混合して凝集剤水溶液を調製する凝集剤溶液調製槽と、凝集剤溶液調製槽からの凝集剤水溶液と脱水処理すべき汚泥とを混和する混和部と、混和部からの混和物を脱水処理する脱水手段と、脱水手段での脱水処理によって混和物から分離された脱水分離液の少なくとも一部を、凝集剤溶液調製槽に返送する返送手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の汚泥脱水装置によれば、脱水分離液の少なくとも一部が凝集剤溶液調製槽に返送され、凝集剤水溶液の調製に使用される。このため、本発明に係る汚泥脱水装置で生じる排水量につき、脱水分離液の返送量に相当する量を削減可能である。これにより、汚泥脱水装置の後段に設けられる排水処理設備の流量負荷を低減することができる。
【0011】
本発明の汚泥脱水装置は、脱水分離液に含まれる浮遊物質を除去する除去手段を更に備えることが好ましい。浮遊物質の濃度が十分に低減された脱水分離液は、当該濃度が高い脱水分離液と比較して凝集剤水溶液の調製に使用する水として好適なためである。浮遊物質の濃度が十分に低減された脱水分離液を用いて調製された高分子凝集剤水溶液を使用すると、脱水汚泥の含水率を十分に低下させることができると共に浮遊物質(以下、「SS」という。)の回収率を十分に高くすることができる。
【0012】
また、本発明の汚泥脱水装置は、返送手段で返送される脱水分離液よりも浮遊物質の濃度が低い清浄水を凝集剤溶液調製槽に供給する清浄水供給手段と、凝集剤水溶液の調製に使用する清浄水供給手段からの清浄水と返送手段で返送される脱水分離液との混合比率を変化自在な混合比率可変手段とを更に備えることが好ましい。
【0013】
このような清浄水供給手段及び混合比率可変手段を備える汚泥脱水装置によれば、返送される脱水分離液のSS濃度に応じて脱水分離液と清浄水とを混合することができる。これにより、凝集剤水溶液の調製に使用する水のSS濃度を所定値以下となるように混合比率を変更することが可能となる。
【0014】
また、本発明では、上記の混合比率可変手段を制御する混合比率制御手段を更に備えることが好ましい。これにより、凝集剤水溶液の調製に使用する水のSS濃度を所定値以下に制御することが容易となる。SS濃度が所定値以下である水を用いて調製された凝集剤水溶液を使用することで脱水汚泥の含水率を十分に低下させることができると共にSS物質の回収率を十分に高くすることができる。
【0015】
本発明では、凝集剤溶液調製槽に返送される脱水分離液のSS濃度を測定する濃度測定手段を備えることが好ましい。このような濃度測定手段を備える汚泥脱水装置によれば、返送される脱水分離液のSS濃度を測定することが可能である。この測定結果に基づき、上記の混合比率可変手段及び混合比率制御手段を連動させることで、脱水分離液と清浄水との混合比率を自動的に制御することが容易となる。
【0016】
また、凝集剤溶液調製槽内において凝集剤水溶液の調製に使用される水のSS濃度は3000mg/l以下であることが好ましい。SS濃度が3000mg/l以下である水を用いて調製された凝集剤水溶液を使用することで脱水汚泥の含水率を十分に低下させることができると共にSS物質の回収率を十分に高くすることができる。
【0017】
本発明の汚泥脱水方法は、凝集剤と水とを混合して凝集剤水溶液を凝集剤溶液調製槽にて調製する凝集剤溶液調製工程と、凝集剤水溶液と脱水処理すべき汚泥とを混和して混和物を得る混和工程と、混和物を脱水処理する脱水工程と、脱水工程によって分離された脱水分離液の少なくとも一部を、凝集剤溶液調製槽に返送する返送工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の汚泥脱水方法によれば、脱水分離液の少なくとも一部が凝集剤溶液調製槽に返送され、凝集剤水溶液の調製に使用される。このため、本発明に係る汚泥脱水方法で生じる脱水分離液の排水量につき、脱水分離液の返送量に相当する量を削減可能である。これにより、汚泥脱水装置の後段に設けられる排水処理設備の流量負荷を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、汚泥の脱水処理で生じる脱水分離液の排出量を十分に低減することができる。このため、汚泥の脱水処理で生じる排水の浄化を行う排水処理設備の水量負荷を十分に軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0021】
<第1実施形態>
まず、図1を参照し、本発明に係る汚泥脱水装置の第1実施形態について説明する。図1に示す汚泥脱水装置10は、汚泥貯槽1、凝集剤溶液調製槽2、混和槽(混和部)3、脱水機(脱水手段)4、脱水分離液槽5、ポンプ、流量計などの測定器及びこれらの構成を連結するライン並びに運転条件を自動制御するための自動制御手段15を備えている。
【0022】
汚泥貯槽1は、脱水処理すべき汚泥(以下、場合により「被処理汚泥」という。)を貯留するための槽である。凝集剤溶液調製槽2は被処理汚泥に添加する高分子凝集剤水溶液を調製するための槽である。混和槽3は被処理汚泥と高分子凝集剤水溶液とを混和するための槽である。脱水機4は混和槽3で得られた混和物を脱水処理して脱水分離液と脱水汚泥とに分離するための装置である。脱水分離液槽5は脱水機4で分離された脱水分離液を貯留するための槽である。
【0023】
汚泥貯槽1は、汚泥を汚泥貯槽1に供給するラインL1と、貯留されている被処理汚泥を混和槽3に移送するラインL2とを備えている。ラインL2は、被処理汚泥を混和槽3に供給するポンプP1及びラインL2内を流れる被処理汚泥の流量を測定する流量計F1を備えている。汚泥供給手段は、汚泥貯槽1、ラインL2並びにラインL2に設けられたポンプP1及び流量計F1により構成されている。
【0024】
凝集剤溶液調製槽2は、攪拌機を備えており、高分子凝集剤と水とを混合攪拌できる構成となっている。また、凝集剤溶液調製槽2は、高分子凝集剤及び清浄水をそれぞれ汚泥脱水装置10に供給するラインL3及びラインL4と、調製された高分子凝集剤水溶液を混和槽3に供給するラインL5とを備えている。ラインL3は凝集剤溶液調製槽2に所定量の高分子凝集剤を供給する凝集剤供給器W1、ラインL4は供給する清浄水の流量を測定する流量計F3及び当該流量を調整する自動弁V2、ラインL5は高分子凝集剤水溶液を混和槽3に移送するポンプP4及びラインL5内を流れる当該水溶液の流量を測定する流量計F2をそれぞれ備えている。清浄水供給手段は、ラインL4並びにこれに設けられた自動弁V2及び流量計F3により構成されている。
【0025】
凝集剤供給器W1は、ラインL3により供給される高分子凝集剤が粉体又は液体であるかに応じて好適な構成のものを用いればよい。高分子凝集剤が、粉体である場合は定量フィーダ及び重量計などを、液体である場合はレベル計、重量計及び流量計などを用いることができる。
【0026】
混和槽3は、攪拌機を備えており、被処理汚泥と高分子凝集剤水溶液とを混合攪拌できる構成となっている。また、混和槽3は、被処理汚泥と高分子凝集剤水溶液との混和物を脱水機4に供給するラインL6を備えている。なお、被処理汚泥と高分子凝集剤水溶液とを混和できるものであれば、混和部としては槽に限定されず、例えば、ラインL2で移送される被処理汚泥に対して高分子凝集剤水溶液をラインL2中に直接添加してもよい。
【0027】
脱水機4は、混和物から分離された脱水分離液及び脱水汚泥をそれぞれ、脱水分離液槽5に移送するラインL7及び汚泥処理設備に移送するラインL8を備えている。脱水機4としては、あらゆる脱水機が適用可能であり、例えば、スクリュープレス脱水機、遠心脱水機、多重円板型脱水機、ベルトプレス脱水機、フィルタープレス脱水機、ロータリープレス脱水機などが挙げられる。これらの脱水機は1種を単独もしくは複数で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
脱水分離液槽5は、貯留されている脱水分離液を移送するラインL9と、脱水分離液を脱水分離液槽5に返送する循環ラインL10を備えている。ラインL9及び循環ラインL10にはそれぞれ、ポンプP2及びポンプP3が設けられている。
【0029】
循環ラインL10は、脱水分離液のSS濃度を測定する濃度測定器(濃度測定手段)X1を備えている。濃度測定器X1としては、超音波、赤外線、マイクロ波及びレーザー光から選ばれる1つ又は2つ以上を組み合わせて利用した構成の濃度測定器を採用することができる。なお、濃度測定器X1の設置位置は、凝集剤溶液調製槽2に返送される脱水分離液のSS濃度を測定できる位置であれば、循環ラインL10に限定されない。濃度測定器X1は、例えば、脱水分離液槽5に直接設置してもよく、後述する返送ラインL11に設置してもよい。
【0030】
ポンプP2によって脱水分離液槽5に貯留されている脱水分離液が排出される。ポンプP2から吐出される脱水分離液の一部又は全量が凝集剤溶液調製槽2に移送され、凝集剤溶液調製槽2に移送されない脱水分離液は排水処理設備へと移送される。
【0031】
返送ラインL11は、ポンプP2から吐出される脱水分離液の少なくとも一部を凝集剤溶液調製槽2に返送するラインである。本実施形態において返送手段は、返送ラインL11及びポンプP2によって構成されている。
【0032】
返送ラインL11の一端はラインL9のポンプP2の吐出側と接続されており、他の一端は凝集剤溶液調製槽2に接続されている。返送ラインL11は返送する脱水分離液の流量を測定する流量計F4及び当該流量を調整する自動弁V1を備えている。
【0033】
自動制御手段(混合比率制御手段)15は、凝集剤溶液調製槽2への清浄水の供給量と脱水分離液の返送量とを自動的に調整するためのものである。自動制御手段15によって凝集剤溶液調製槽2内の高分子凝集剤水溶液の調製に使用する水のSS濃度が好適な範囲内となるように調整される。
【0034】
自動制御手段15は、流量計F3、流量計F4及び濃度測定器X1で測定されるそれぞれの測定値を受信するデータ受信部16と、データ受信部16で受信された各測定値に基づき、自動弁V2及び自動弁V1の開度をそれぞれ調節する指示を出力する指示出力部17とを有する。自動制御手段15は、例えば、ECU(Electric Control Unit)等のマイクロコンピュータのハードウェア及びソフトウェアを利用して構成されている。混合比率可変手段は、自動弁V1及び自動弁V2により構成されている。
【0035】
以下、汚泥脱水装置10で行われる脱水処理の方法について説明するが、その説明に先立ち、汚泥脱水装置10に供給される汚泥、高分子凝集剤及び清浄水について説明する。
【0036】
ラインL1を通じて汚泥貯槽1に供給される汚泥としては、有機汚泥及び無機汚泥が挙げられ、例えば、有機汚泥としてはし尿、下水汚泥、食品・化学・紙パルプ工場等から排出される汚泥などが挙げられる。
【0037】
汚泥脱水装置10によって脱水処理をする汚泥としては、固形物の質量濃度が20〜300g/l(より好ましくは50〜100g/l)のものが好適である。
【0038】
ラインL3を通じて凝集剤溶液調製槽2に供給する高分子凝集剤の種類としては、アニオン系及びカチオン系が挙げられる。アニオン系高分子凝集剤として、例えば、アクリルアミド、アクリル酸ソーダ共重合物などが挙げられる。カチオン系高分子凝集剤として、例えば、ポリジシアンジアミド系、ポリジアリルアミン系、ポリアミン系等の共重合物及びジシアンジアミドとホルムアルデヒドとの重縮合物などが挙げられる。これらの高分子凝集剤は、粉体又は液体のいずれであってもよい。液体の高分子凝集剤としては、質量濃度150〜400g/l程度のディスパージョン型もしくはエマルジョン型のものが挙げられる。
【0039】
ラインL4を通じて凝集剤溶液調製槽2に供給する清浄水は、脱水分離液を希釈してこれを高分子凝集剤水溶液の調製に使用し得る程度にSS濃度を低減するために使用される。従って、清浄水のSS濃度は、返送ラインL11で返送される脱水分離液のそれよりも低い必要がある。上記の用途で用いられるため、清浄水としてはSS濃度及び蒸発残留物濃度(以下、「TS濃度」という。)がより低く且つ一定に保たれているものが好ましく、例えば、上水、井戸水及び工水などが好適である。
【0040】
次に、汚泥の脱水処理の方法について詳細に説明する。
【0041】
汚泥貯槽1に貯留された汚泥は、ポンプP1によってラインL2を通じて被処理汚泥として混和槽3に移送される。ポンプP1の吐出量は流量計F1により測定し、設定した値となるようにポンプP1のインバータにより制御される。
【0042】
ラインL3及びラインL4を通じ、それぞれ高分子凝集剤及び清浄水が凝集剤溶液調製槽2に供給される。また、凝集剤溶液調製槽2には返送ラインL11を通じて脱水分離液槽5から脱水分離液が供給される。凝集剤溶液調製槽2において高分子凝集剤と、清浄水及び脱水分離液とが混合され、高分子凝集剤水溶液が調製される(凝集剤溶液調製工程)。
【0043】
高分子凝集剤水溶液の質量濃度は、アニオン系で1〜2g/l、カチオン系で2〜3g/lとなるように調整することが好ましい。
【0044】
凝集剤溶液調製槽2で調整された高分子凝集剤水溶液は、ポンプP4によってラインL5を通じて混和槽3に移送される。ポンプP4の吐出量は流量計F2により測定し、設定した値となるようにポンプP4のインバータにより制御される。なお、ポンプP4の吐出量は、高分子凝集剤水溶液に含まれる高分子凝集剤(乾燥状態)の質量が被処理汚泥の固形物の質量を基準として、1〜2質量%となるように設定することが好ましい。混和槽3において、被処理汚泥の固形物に対する高分子凝集剤の質量が1質量%未満であると脱水汚泥の含水率を十分に低くすることが困難となる傾向がある。他方、2質量%を越えて高分子凝集剤を添加することもできるが経済性の観点から上限を2質量%とすることが好ましい。
【0045】
混和槽3において被処理汚泥と高分子凝集剤水溶液とが混和される(混和工程)。混和工程においては、脱水汚泥の含水率をより低減する観点から、無機凝集剤を添加して混和物を調製してもよい。無機凝集剤として、例えば、鉄系及びアルミ系などのものが挙げられる。無機凝集剤を添加する場合は水酸化ナトリウム等のpH調整剤を更に添加して混和物のpHを好適な値に調整することが好ましい。
【0046】
なお、無機凝集剤の添加は、混和工程で行う場合に限られるものではなく、混和される以前の被処理汚泥又は混和後の被処理汚泥に対して無機凝集剤を添加してもよい。また、無機凝集剤を添加して脱水処理を行う場合の脱水機4としては、例えば、フィルタープレス、スクリュープレス又はベルトプレス等が好ましい。
【0047】
混和工程で得られた混和物は、ラインL6を介して脱水機4に移送される。混和物は脱水機4による脱水処理によって脱水分離液と脱水汚泥とに分離される(脱水工程)。脱水処理によって分離された脱水分離液はラインL7を介して脱水分離液槽5に移送される。他方、混和物から分離された脱水汚泥はラインL8を介して汚泥処理設備に移送される。汚泥処理設備において脱水汚泥の堆肥化や炭化又は焼却といった処理が行われる。
【0048】
脱水分離液槽5に貯留された脱水分離液は、返送ラインL11を介して凝集剤溶液調製槽2に返送される(返送工程)。凝集剤溶液調製槽2に返送する脱水分離液の量は、流量計F4により測定され、自動弁V1により設定された量に調整される。
【0049】
凝集剤溶液調製槽2に導入される脱水分離液及び清浄水の量の比率は、脱水分離液のSS濃度に基づき設定することができる。具体的には、脱水分離液のSS濃度が所定値以下の場合は、高分子凝集剤水溶液の調製に必要な水の全量を脱水分離液で賄うことが可能である。他方、脱水分離液のSS濃度が所定値を超える場合は、高分子凝集剤水溶液の調製に使用する水(以下、「高分子凝集剤溶解水」)のSS濃度が所定値以下となるように、ラインL4を通じて凝集剤溶液調製槽2に清浄水を供給する。凝集剤溶液調製槽2に供給する清浄水の量は、流量計F3により測定され、自動弁V2により設定された量に調整される。
【0050】
高分子凝集剤溶解水のSS濃度の上記所定値は、脱水処理する汚泥の特性に応じて決定することが好ましいが、例えば、汚泥がメタン発酵汚泥の場合、経験的に3000mg/lとすることができる。また、高分子凝集剤溶解水は、TS濃度9000mg/l以下、塩素イオン濃度10000mg/l以下、アンモニアイオン濃度4000mg/l以下、鉄イオン濃度(Fe2+及びFe3+の総量)100mg/l以下、pH6〜8であることが好ましい。
【0051】
高分子凝集剤溶解水に含まれる浮遊物質や塩素イオン、アンモニアイオン及び鉄イオンなどの溶解物並びに高分子凝集剤溶解水のpHは、汚泥の脱水処理において脱水汚泥の含水率及びSSの回収率に影響を与えるものである。このため、各濃度又はpHが上記範囲外である高分子凝集剤溶解水を用いた場合、脱水性が悪化する傾向がある。
【0052】
汚泥脱水装置10で汚泥の脱水処理を開始するにあたり、予め脱水処理対象の汚泥の脱水処理を行って脱水分離液の特性を測定する工程(脱水分離液測定工程)を行うことが好ましい。この結果に基づき、汚泥脱水装置10に供する汚泥の性質に合わせて高分子凝集剤溶解水のSS濃度の所定値を決定することができる。測定すべき脱水分離液の特性として、SS濃度、TS濃度、塩素イオン濃度、アンモニアイオン濃度、鉄イオン濃度及びpHなどが挙げられる。例えば、脱水分離液測定工程において、種々の運転条件のメタン発酵槽から生じる汚泥の脱水処理を行い、脱水分離液のSS濃度とTS濃度との関係及び脱水処理された脱水汚泥の含水率を測定する。この結果に基づき、SS濃度の所定値を決定すればよい。
【0053】
図2にメタン発酵汚泥を脱水処理して得た脱水分離液のSS濃度とTS濃度との関係を例示する。これらの値はほぼ比例関係にあり、このメタン発酵汚泥の場合、SS濃度の値に5000〜6000を加えた値がTS濃度の値となることがわかる。このように、脱水分離液測定工程を行って予め脱水分離液のTS濃度とSS濃度との関係を調べることで、濃度測定器X1によりSS濃度を監視すればTS濃度を推定することができる。
【0054】
なお、SS濃度及びTS濃度はいずれも汚泥の脱水性などに影響を与えるものであるが、SS濃度の測定結果からTS濃度の値を推定する理由は、TS濃度の自動、連続測定が困難なためである。
【0055】
更に、汚泥脱水装置10に供される汚泥の性質が経時的に変化し、例えば、脱水分離液のTS濃度のみが上昇した場合、SS濃度を監視する濃度測定器X1ではその経時的な変化を捉えることができない。脱水分離液のTS濃度の上昇に伴い、高分子凝集剤溶解水のTS濃度も上昇するため、汚泥の脱水性などが低下してしまう。
【0056】
上記のような事態を防止するため、脱水分離液のTS濃度を測定する工程(TS濃度測定工程)を適宜行うことが好ましい。このTS濃度測定工程で測定されるTS濃度と濃度測定器X1によるSS濃度に基づき、SS濃度の所定値を再設定することで、好適な条件で脱水処理を行うことができる。
【0057】
以上、第1実施形態に係る汚泥脱水装置ついて説明したが、汚泥脱水装置10としては以下のような形態であってもよい。例えば、自動制御手段15につき、流量計F3、流量計F4及び濃度測定器X1からの測定値に加え、凝集剤供給器W1、流量計F1及び流量計F2からの測定値がデータ受信部16で受信される構成としてもよい。そして、データ受信部16で受信された各測定値に基づき、指示出力部17から自動弁V2及び自動弁V1の開度、並びに、凝集剤供給器W1、ポンプP1、ポンプP2、ポンプP3及びポンプ4の吐出量を設定する構成としてもよい。
【0058】
また、上記実施形態は自動弁V1,V2により構成される混合比率可変手段を自動制御する構成であるが、自動弁の代わりに手動弁を用い、これらを手動制御することで脱水分離液と清浄水との混合比率を制御する構成としてもよい。
【0059】
<第2実施形態>
図3を参照し、本発明に係る汚泥脱水装置の第2実施形態について説明する。図3に示す汚泥脱水装置20は、脱水分離液に含まれる浮遊物質を除去するための除去手段として沈殿槽7を備え、更にこれの後段に沈殿分離液槽9を備える点において第1実施形態に係る汚泥脱水装置10と相違する。汚泥脱水装置20は、汚泥脱水装置10のラインL9のポンプP2の後に沈殿槽7及び沈殿分離液槽9が設置された構成となっている。沈殿槽7及び沈殿分離液槽9を備えることに伴い、ポンプの設置位置及び各構成を連結するラインについても汚泥脱水装置10と相違する。以下、これらの相違点及びこれに由来する本実施形態の作用について説明する。
【0060】
沈殿槽7は、脱水分離液槽5の後段に設けられている。ポンプP2から吐出される脱水分離液がラインL9aを通じて沈殿槽7に供給される。沈殿槽7は、底部に沈殿した汚泥を掻き寄せるための汚泥掻寄機18と、掻き寄せられた汚泥を汚泥貯槽1に返送するラインL12と、沈殿槽7で処理された脱水分離液を沈殿分離液槽9に移送するラインL9bとを備えている。沈殿槽7において脱水分離液に含まれる浮遊物質を沈降及び濃縮させ、これをポンプP5により引抜き、汚泥貯槽1に返送する。このように脱水分離液のSS濃度を低減することができる。汚泥貯槽1に返送された汚泥は、再度脱水処理に供される。
【0061】
なお、脱水分離液に含まれる浮遊物質を分離できるものであれば、特に沈殿槽に限定されず、加圧浮上槽、回転式のスクリーンなどを用いてもよい。
【0062】
沈殿分離液槽9は、沈殿槽7からの脱水分離液を貯留するための槽であり、沈殿槽7の後段に設けられている。沈殿分離液槽9は、貯留されている脱水分離液を移送するラインL9cと、脱水分離液を沈殿分離液槽9に返送する循環ラインL13を備えている。ラインL9c及び循環ラインL13にはそれぞれ、ポンプP6及びポンプP7が設けられている。
【0063】
循環ラインL13は、脱水分離液のSS濃度を測定する濃度測定器X2を備えている。濃度測定器X2としては、濃度測定器X1と同様の構成のものを使用することができる。また、濃度測定器X2の設置位置は、凝集剤溶液調製槽2に返送される脱水分離液のSS濃度を測定できる位置であれば、循環ラインL13に限定されない。濃度測定器X2は、例えば、沈殿分離液槽9に直接設置してもよく、返送ラインL11に設置してもよい。
【0064】
ポンプP6によって沈殿分離液槽9に貯留されている脱水分離液が排出される。ポンプP6から吐出される脱水分離液の一部又は全量が凝集剤溶液調製槽2に移送され、凝集剤溶液調製槽2に移送されない脱水分離液は排水処理設備へと移送される。
【0065】
本実施形態においては、ポンプP6から吐出される脱水分離液の少なくとも一部が返送ラインL11を通じて凝集剤溶液調製槽2に返送される。本実施形態において返送手段は、返送ラインL11及びポンプP6によって構成されている。なお、返送ラインL11の一端はラインL9のポンプP6の吐出側と接続されており、他の一端は凝集剤溶液調製槽2に接続されている。
【0066】
本実施形態においては、自動制御手段15のデータ受信部16は、流量計F3、流量計F4及び濃度測定器X2で測定されるそれぞれの測定値を受信する構成となっている。そして、指示出力部17はデータ受信部16で受信された各測定値に基づき、自動弁V2及び自動弁V1の開度をそれぞれ調節する指示を出力する。
【0067】
本実施形態に係る汚泥脱水装置20によれば、沈殿槽7において脱水分離液に含まれる浮遊物質が除去される。このため、脱水機4で分離された脱水分離液のSS濃度が比較的高い場合であっても、これを十分に低減することができる。脱水分離液のSS濃度が十分に低下しているため、これを希釈するための清浄水の量をより低減することができる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例に基づき、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
図1に示す汚泥脱水装置と同様の構成からなる装置を用いてメタン発酵汚泥に対してカチオン系高分子凝集剤を添加して脱水処理を行った。脱水処理に供したメタン発酵汚泥に含まれる固形物の質量濃度は平均30g/lであった。高分子凝集剤は汚泥の固形物の全質量に対して1.5質量%となるように添加した。
【0070】
また、凝集剤溶液調製槽にSS濃度が3000mg/lを超える脱水分離液が返送されると、凝集剤溶液調製槽に清浄水が供給されるように自動制御装置を設定した。
【0071】
図4は脱水処理期間中の各種パラメータの変動を示すグラフである。図4に示すように、脱水分離液のSS濃度は、脱水処理を行っている全期間(100日)にわたって2000mg/l以下に保たれていたため、高分子凝集剤溶解水はすべて脱水分離液で賄うことができた。なお、脱水処理期間中、脱水汚泥の含水率は60〜70質量%(脱水汚泥の全質量基準)、脱水分離液のTS濃度は8000mg/l以下で安定した運転が可能であった。また、脱水分離液の塩素イオン濃度、アンモニアイオン濃度及pHはそれぞれ、1700mg/l以下、1600mg/l以下及び7.9〜8.6であった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る汚泥脱水装置の第1実施形態の構成を示す図である。
【図2】消化汚泥のSS濃度とTS濃度の関係を例示するグラフである。
【図3】本発明に係る汚泥脱水装置の第2実施形態の構成を示す図である。
【図4】脱水処理期間中の各種パラメータの変動を示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
10,20…汚泥脱水装置、1…汚泥貯槽(汚泥供給手段)、2…凝集剤溶液調製槽、3…混和槽(混和部)、4…脱水機(脱水手段)、5…脱水分離液槽、7…沈殿槽(除去手段)、9…沈殿分離液槽、15…自動制御手段(混合比率制御手段)、L4…ライン(清浄水供給手段)、L11…返送ライン(返送手段)、V1,V2…自動弁(混合比率可変手段)、X1,X2…濃度測定器(濃度測定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集剤と水とを混合して凝集剤水溶液を調製する凝集剤溶液調製槽と、
前記凝集剤溶液調製槽からの前記凝集剤水溶液と脱水処理すべき汚泥とを混和する混和部と、
前記混和部からの混和物を脱水処理する脱水手段と、
前記脱水手段での脱水処理によって前記混和物から分離された脱水分離液の少なくとも一部を、前記凝集剤溶液調製槽に返送する返送手段と、
を備えることを特徴とする汚泥脱水装置。
【請求項2】
前記脱水分離液に含まれる浮遊物質を除去する除去手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載の汚泥脱水装置。
【請求項3】
前記返送手段で返送される脱水分離液よりも浮遊物質の濃度が低い清浄水を前記凝集剤溶液調製槽に供給する清浄水供給手段と、前記凝集剤水溶液の調製に使用する前記清浄水供給手段からの前記清浄水と前記返送手段で返送される脱水分離液との混合比率を変化自在な混合比率可変手段とを更に備えることを特徴とする請求項1又は2記載の汚泥脱水装置。
【請求項4】
前記混合比率可変手段を制御する混合比率制御手段を更に備えることを特徴とする請求項3記載の汚泥脱水装置。
【請求項5】
前記凝集剤溶液調製槽に返送される前記脱水分離液の浮遊物質濃度を測定する濃度測定手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の汚泥脱水装置。
【請求項6】
前記凝集剤溶液調製槽内において前記凝集剤水溶液の調製に使用される水の浮遊物質濃度が3000mg/l以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の汚泥脱水装置。
【請求項7】
凝集剤と水とを混合して凝集剤水溶液を凝集剤溶液調製槽にて調製する凝集剤溶液調製工程と、
前記凝集剤水溶液と脱水処理すべき汚泥とを混和して混和物を得る混和工程と、
前記混和物を脱水処理する脱水工程と、
前記脱水工程によって分離された脱水分離液の少なくとも一部を、前記凝集剤溶液調製槽に返送する返送工程と、
を備えることを特徴とする汚泥脱水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−275790(P2007−275790A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106121(P2006−106121)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】