説明

沈下修正基礎構造

【課題】、簡易な作業によって建物の沈下した部分の基礎を、荷重を効率良く支持しつつ安定した状態でリフトアップすることのできる沈下修正基礎構造を提供する。
【解決手段】 建物11の沈下修正を可能にする沈下修正基礎構造10であって、基礎地盤12の表層部分に設けた受圧盤13と建物11の基礎11aとの間に介在させて、扁平にプレスされた断面形状から内部に流体圧力を負荷することにより元の断面形状に戻るように膨張変形する膨張鋼管20を、建物11の沈下が予想される部分に予め配設することによって構成され、膨張鋼管20の上方に基礎11a及び建物11を構築した後に、構築された建物10に沈下が生じた際に、膨張鋼管20の内部20aに流体を加圧供給して膨張鋼管20を膨張変形させることで基礎11aを押し上げて、建物11の沈下を修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の沈下修正を可能にする沈下修正基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば後背湿地、臨海埋立地、三角州低地、おぼれ谷、海岸砂州等を構成する地盤は、泥炭質の地盤や圧密の進行の遅い地盤等によって形成されていることから、軟弱地盤となっている場合が多い。このような軟弱地盤は、地盤支持力が小さく、また引き続き圧密沈下を生じ易いことから、軟弱地盤の上方に建物を構築する場合には、構築された建物に不同沈下(不等沈下)等の沈下が生じやすい。
【0003】
建物に沈下が生じた際に、これを修正する手段としては、例えば建物の沈下が生じた部分を基礎と共にジャッキを用いてリフトアップし、リフトアップすることにより生じた基礎と基礎基盤との間の隙間に、モルタルやグラウト等を充填固化する方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−8398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ジャッキを用いて建物の基礎をリフトアップする従来の方法では、ジャッキ受け金具を介在させたり、シリンダを直接当接させた状態で、基礎がジャッキのシリンダによって押し上げられることになるが、基礎の押し上げ力が負荷される部分の面積が小さいことから、これらの部分の基礎には、設計時に予想していない過度の荷重が負荷され易い。また、建物に沈下が生じてから、例えば沈下した部分の基礎にジャッキ受け金具を取り付けたり、基礎の下方を堀り起こして鉄板等の受圧部材を敷設し、しかる後にジャッキをセットする必要があり、これらの作業に多くの手間を要することになる。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたものであり、多くの手間を要することなく、簡易な作業によって建物の沈下した部分の基礎をリフトアップすることができると共に、押し上げ時に基礎に負荷される荷重を効率良く支持しつつ安定した状態でリフトアップすることのできる沈下修正基礎構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、建物の沈下修正を可能にする沈下修正基礎構造であって、基礎地盤の表層部分に設けた受圧盤と建物の基礎との間に介在させて、扁平にプレスされた断面形状から内部に流体圧力を負荷することにより元の断面形状に戻るように膨張変形する膨張鋼管を、建物の沈下が予想される部分に予め配設することによって構成され、該膨張鋼管の上方に基礎及び建物を構築した後に、構築された建物に沈下が生じた際に、前記膨張鋼管の内部に流体を加圧供給して前記膨張鋼管を膨張変形させることで基礎を押し上げて、建物の沈下を修正する沈下修正基礎構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0007】
本発明の沈下修正基礎構造によれば、前記膨張鋼管を、扁平にプレスされた断面形状から、一方の扁平な面をさらに内側に折り込んだ断面形状を備えるようにすることもできる。
【0008】
また、本発明の沈下修正基礎構造によれば、前記基礎地盤の表層部分に設けた受圧盤が、表層改良工法によって形成された面状固結体であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の沈下修正基礎構造によれば、前記膨張鋼管の内部に加圧供給される流体が水であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の沈下修正基礎構造によれば、前記膨張鋼管を、建物の前記沈下が予想される部分に井桁状に組んで複数段に重ねて配置することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の沈下修正基礎構造によれば、多くの手間を要することなく、簡易な作業によって建物の沈下した部分の基礎をリフトアップすることができると共に、押し上げ時に基礎に負荷される荷重を効率良く支持しつつ安定した状態でリフトアップすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1及び図2に示す本発明の好ましい第1実施形態に係る沈下修正基礎構造10は、例えば軟弱地盤の上方に盛土を施して形成された埋立造成地に構築された建物として、例えば住宅建築物11が、建築後に例えば数ヶ月〜数十年経過して不同沈下を生じた際に、住宅建築物11の沈下した部分を押し上げて、住宅建築物11の傾きを容易に修正できるようにするために、建築時に住宅建築物11の基礎部分に予め組み込んで設けられるものである。
【0013】
なお、図1及び図2では、本第1実施形態の沈下修正基礎構造10の要部として、住宅建築物11については躯体部分を省略して基礎11aのみが示されており、また住宅建築物11の基礎11aは、略矩形の平面形状を備えるように簡略化して示されている。
【0014】
一方、トンネル工法として公知のナトム(NATM)工法において、トンネルの内面に吹き付けたコンクリートを支持するために地山中に打ち込まれるロックボルトとして、膨張鋼管20を用いたものが知られている(例えば、特開昭55−12300号公報、特開昭57−77798号公報参照)。膨張鋼管20は、例えば図3〜図5に示すように、溶融亜鉛めっき鋼板や高耐食溶融めっき鋼板等からなり、扁平に押し潰された断面形状から、一方の扁平な面20bをさらに内側に折り込んだ断面形状を備えており、中空の内部20aに圧力水を供給して流体圧力を負荷することにより、元の断面形状に戻るように膨張変形するものであり(図3参照)、吹き付けコンクリートの表面より地山中に設けた削孔内に挿入した後に、膨張させて外周面を孔壁に押しつけることにより地山に拘束力を与えて、ロックボルトとして機能するものである。
【0015】
そして、本第1実施形態の沈下修正基礎構造10は、上述の膨張鋼管20を用いて、住宅建築物11の沈下修正を可能にする基礎部分の構造であって、図1及び図2に示すように、基礎地盤12の表層部分に設けた受圧盤13と住宅建築物11の基礎11aとの間に介在させて、扁平にプレスされた断面形状の一方の扁平な面20bをさらに内側に折り込んだ断面形状から(図4参照)、内部20aに流体圧力を負荷することにより元の断面形状に戻るように膨張変形する膨張鋼管20(図3参照)を、住宅建築物11の沈下が予想される部分に予め配設することによって構成され、膨張鋼管20の上方に基礎11a及び住宅建築物11を構築した後に、構築された住宅建築物11に沈下が生じた際に、膨張鋼管20の内部20aに流体を加圧供給して膨張鋼管20を膨張変形させることで基礎11aを押し上げて、例えば住宅建築物11の沈下による傾きを修正するようになっている。
【0016】
本第1実施形態では、基礎地盤12の表層部分に形成される受圧盤13は、好ましくは表層改良工法(浅層混合処理工法)によって形成された面状固結体として設けられている。表層改良工法は、基礎地盤12の表層部分の土砂に、例えば石灰、セメント等のセメント系固化材を混合し、例えば30〜50cm程度の層厚毎に攪拌と転圧を繰り返すことによって、所望の厚さの地盤改良層を形成する公知の工法である。本第1実施形態では、表層改良工法による受圧盤13は、例えば住宅建築物11の基礎部分11aよりも一回り大きな略矩形の平面形状を有し、例えば0.8〜1.0m(本実施形態では0.78m)程度の厚さを有する、圧縮強度が例えば20〜160kN/m2(本実施形態では150kN/m2)程度の面状固結体として形成される。
【0017】
受圧盤13は、基礎地盤12に対する広い接地面積によって、住宅建築物11の重量を分散しながら基礎地盤12に均等に伝達し、住宅建築物11の沈下や不同沈下を効果的に抑制する機能を備えている。また、後述するように住宅建築物11の不同沈下による傾きを修正するために、膨張鋼管20を膨張させて基礎11aを押し上げる際には、膨張時の反力を受ける反力受けとしての機能を発揮する。さらに、受圧盤13は、地震時等において、下方の地盤の液状化を抑制する表面拘束効果を発揮することも可能である。なお、受圧盤13は、表層改良工法による面状固結体によって形成する必要は必ずしもなく、例えばコンクリートを用いて形成したり、鉄板を敷設して設けることもできる。
【0018】
本第1実施形態では、住宅建築物11の基礎11aは、べた基礎であって、コンクリートや鉄筋コンクリートを用いて構築される。べた基礎11aを構築するには、例えば表層改良工法によって形成した受圧盤13の上に、膨張鋼管20を沈下が予想される所定の部位に配管すると共に、配管した膨張鋼管20の天面部を露出させるようにして、膨張鋼管20の周囲に砕石や砂等を敷き均すことにより基盤層14を形成する。そして、形成した基盤層14の上面を面一に仕上げて、好ましくは防湿フィルム15を敷設した後に、型枠や、必要に応じて鉄筋を配置してコンクリートを打設することにより、受圧盤13との間に膨張鋼管20及び基盤層14を介在させた状態で、べた基礎11aが形成されることになる。
【0019】
なお、べた基礎11aの上面側には、住宅建築物11の躯体部分の間取り形状に合わせて、立上り壁16が立設して設けられる。また、立上り壁16の上面には、例えば土台が設置されると共に、さらに上方に躯体部分が組み立てられて、住宅建築物11が建築されることになる。べた基礎11aの立上り壁15によって囲まれる部分には、膨張鋼管20を膨張させてべた基礎11aを押し上げた際に生じるべた基礎11aの下面と基盤層14との間の隙間を充填固化する、モルタルやグラウト等の固化材を注入するための注入孔を、適宜の位置に開口形成しておくこともできる。
【0020】
住宅建築物11の基礎11aと受圧盤13との間に介在させて配設される膨張鋼管20は、上述のように、例えば溶融亜鉛めっき鋼板や高耐食溶融めっき鋼板等からなる公知のものであり、これに適宜改良を加えて、住宅建築物11の沈下修正用の部材として使用する。膨張鋼管20としては、より具体的には、商品名「RPEロックボルト」(日新鋼管(株)製)を用いることができる。膨張鋼管20は、図3〜図5に示すように、例えば外径φ54.0〜76.3mm程度、肉厚2〜3mm程度の円管の外周面の一部20bを中空の内部20aに凹形状に折り込むことにより、例えば外径φ36.0〜51.0mm程度に折り畳んだ断面形状を有するものとして用いられる。膨張鋼管20は、好ましくは造管ライン出側のサイジング工程において、図4に示すような4段の成形フラワーによるパススケジュールによって容易に成形することが可能である。
【0021】
また、膨張鋼管20は、中空の内部20aに外周面の一部20bを折り込んだ断面形状で、例えば2〜6m程度の長さに形成した後に、図5に示すように、両端部に先端側スリーブ21や注水側スリーブ22を装着した状態で使用する。膨張鋼管20の両端部にスリーブ21,22を取り付けるには、例えば膨張鋼管20の両端部をスリーブ21,22の内径と略等しい外径となるようにスエージ加工した後に、膨張鋼管20の各端部にスリーブ21,22を圧入すると共に、膨張鋼管20の各端部をスリーブ21,22の内側に押し広げて密着させる。さらに、水密性と接合強度を確保するためにスリーブ21,22と膨張鋼管20の各端部とを例えばCO2アーク溶接により溶着接合する。
【0022】
上述のようにして形成された膨張鋼管20は、例えば注水側スリーブ22を介して、中空の内部20aに流体として好ましくは水を加圧供給することにより、容易に膨張することができる(図3参照)。加圧水を供給するには、例えばナトム工法において用いられている公知の注水システムを用いることができる。注水システムは、核となる高水圧発生装置として、好ましくは圧縮空気を動力源とするエアコンバータが用いられ、エア用ピストンと水用ピストンとを直結して、双方の面積比により水を加圧して送り出すようになっている。
【0023】
本第1実施形態では、膨張鋼管20は、例えば20〜30MPa程度の高水圧が負荷されて膨張するようになっており、基礎11aを住宅建築物11と共に押し上げる際のリフトアップ力が、膨張鋼管20を扁平にプレスする際のプレス力と略等しくなるように設計されていることが好ましい。また、膨張鋼管20は、住宅建築物11に不同沈下が生じ、例えば6/1000程度の許容範囲の傾きを超えて住宅建築物11が傾いた際の沈下修正を適正に行えるようにするために、図3に示すように、好ましくは100mm程度のリフトアップ量Hを確保できる垂直方向への変形量で膨量変形できるように設計されていることが好ましい。
【0024】
なお、1本又は1段の膨張鋼管20の膨量変形では、必要なリフトアップ量Hを十分に確保できない場合には、例えば図6に示すように、復数の膨張鋼管20を井桁状に組んで2段又は3段以上に積み重ね、加算したリフトアップ量で基礎11aの高さを調整可能とすることもできる。また、膨張後の膨張鋼管20の形状や、外周面の一部20bを折り込んだ後の膨張鋼管20の断面形状等を工夫することによって、リフトアップ量Hを増減変更することもできる。さらに、リフトアップ量Hが不足して、例えば20〜30mm程度のリフトアップ量Hしか確保できない場合でも、一旦基礎11aを浮かすことができれば、既存のジャッキ等によるリフトアップ手段を容易に使用することが可能になるので、このように他のリフトアップ手段と組み合わせて使用する場合にも、本発明の沈下修正基礎構造は有効である。
【0025】
本第1実施形態では、図1及び図2に示すように、住宅建築物11の沈下が予想される部分として、住宅建築物11の4隅の角部分に、各々2本づつ膨張鋼管20を略平行に並べて配置すると共に、配置した膨張鋼管20を、表層改良工法による受圧盤13とべた基礎11aの下面との間の基盤層14に埋設設置することにより、沈下修正基礎構造10が設けられる。各膨張鋼管20は、注水側スリーブ22が装着された端部をべた基礎11aの外側に臨ませて配置され、沈下修正を行う際に注水側スリーブ22を容易に掘り起こさせて、加圧水を供給する注水システムとスムーズに接続できるようにする。また、各膨張鋼管20を受圧盤13の上面に配置する際に、受圧盤13との間に例えば帯状の鉄板からなる反力受け板23を介在させる。受圧盤13の上面に反力受け板23を取り付けて膨張鋼管20を設置することにより、膨張鋼管20を膨張させて基礎11aを押し上げる際の反力を、反力受け板23を介してさらに効率良く受圧盤13に支持させることが可能になる。
【0026】
そして、上述の構成を備える本第1実施形態の沈下修正基礎構造10によれば、例えば不同沈下が生じて住宅建築物11が6/1000程度の許容範囲の傾きを超えて傾いた際に、沈下した部分に配置された膨張鋼管20を膨張させて、当該沈下した部分の基礎11aを住宅建築物11の躯体部分と共に押し上げることにより、住宅建築物11の傾きを容易に修正することができる。すなわち、本実施形態によれば、沈下した部分に配置された膨張鋼管20の注水側スリーブ22を掘り起こして注水システムと接続し、加圧水を送り込んで膨張鋼管20の内部20aに所定の流体圧力を負荷すれば、膨張鋼管20は膨張変形して、所定のリフトアップ量Hで基礎11aと共に住宅建築物11を押し上げることが可能になり、これによって住宅建築物11の不同沈下による傾きを、短い工事期間で容易に修正することが可能になる。また、膨張鋼管20は、住宅建築物11を押し上げる際に、基礎11aによって上方から押し付けられつつ膨張変形して、その略全長に亘って線状に基礎11aと接触しつつ当該基礎11aを押し上げるので、広範囲な接触面積(接触延長)を確保し、押し上げ時に基礎11aから負荷される住宅建築物11の荷重を分散して効率良く支持しながら、安定した状態で住宅建築物11を押し上げることが可能になる。
【0027】
したがって、本実施形態の沈下修正基礎構造10によれば、多くの手間を要することなく、簡易な作業によって住宅建築物11の沈下した部分の基礎11aをリフトアップすることができると共に、押し上げ時に基礎11aに負荷される荷重を効率良く支持しつつ安定した状態でリフトアップすることが可能になる。
【0028】
なお、本第1実施形態の沈下修正基礎構造10によって基礎11aを押し上げたら、これによって生じた基礎11aの下面と基盤層14との間の隙間には、例えば上述のべた基礎11aの立上り壁15によって囲まれる部分に形成した注入孔や、当該隙間に挿入した注入管からモルタルやグラウト等の固化材を注入して、これらの隙間を充填固化する。
【0029】
また、本第1実施形態によれば、膨張鋼管20の膨張量を調整して、精度良く住宅建築物11の沈下を修正できると共に、膨張鋼管20の膨張量に余裕があれば、何度でも繰り返し沈下を修正することが可能になる。さらに、膨張鋼管20は、例えば溶融亜鉛めっき鋼板や高耐食溶融めっき鋼板等からなり、80〜100年程度の耐用年数を有していることから、住宅建築物11に用いる基礎構造として長期に亘って十分な信頼性を確保することが可能になる。
【0030】
さらにまた、本第1実施形態では、膨張鋼管20を膨張させる加圧流体として水を用いるので、基盤層14に埋設されることと相俟って、膨張時に例えば20〜30MPaとなる高圧水が漏れ出ても、短い距離で水圧が減衰して安全性が保たれると共に、油等を用いる場合と比較して、環境に与える影響がほとんどない。加圧水を供給する公知の注水システムは、例えばライトバンに積載できる程度のコンパクトな形状を有しており、搬入が容易でスムーズに作業を行うことができる。
【0031】
図7は、本発明の好ましい第2実施形態に係る沈下修正基礎構造30を示すものである。本第2実施形態では、図8(a),(b)に示すように、扁平にプレスされた断面形状から内部に流体圧力を負荷することにより元の断面形状に戻るように膨張変形する膨張鋼管31を、例えば一対平行に並べて配置すると共に、上方及び下方から一対の鉄板32によって挟み込むことによって、沈下修正ユニット33を形成し、この沈下修正ユニット33を、基礎地盤12の表層部分に設けた受圧盤13と住宅建築物11の基礎11aとの間に介在させて、沈下修正基礎構造30を形成したものである。
【0032】
ここで、本第2実施形態では、膨張鋼管31は、住宅建築物11の沈下修正用に用いるものとしてコストの低減を図るべく、簡易な構造に形成されている。すなわち、本第2実施形態の膨張鋼管31では、加圧水の注入側の端部に、例えば注水システムからの注入管が接続される雄ネジスリーブ34が接合一体化されている。また加圧水の注入側とは反対側の端部には、図9(a),(b)にも示すように、膨張鋼管31をプレスする前の円形断面の状態で当該膨張鋼管30の先端開口を閉塞する円形の閉塞板35を溶接して取り付けておき、膨張鋼管31を扁平にプレスする際に、閉塞板35を、膨張鋼管31の端部に沿わせるようにして、その半円部分を当該端部に重ねて配置した状態で折り畳んで設けるようになっている。さらに、雄ネジスリーブ34と閉塞板35との間の膨張鋼管31は、円形断面を扁平な略楕円形状又は略長円形状となるようにプレスしたシンプルな断面形状を備えている。これらによって、雄ネジスリーブ34に注水システムの注入管を接続して膨張鋼管31を膨張させた際に、膨張鋼管31の先端開口を閉塞板35によって強固に閉塞することが可能になり、また膨張鋼管31の先端部分を安定した円形断面形状に戻すことが可能になる。
【0033】
上述の構成を備える沈下修正ユニット33は、図10に示すように、例えば住宅建築物11の基礎11aの各角部分に、雄ネジスリーブ34を基礎11aの外側にはみ出させた状態で配設されて、本第2実施形態に係る沈下修正基礎構造30を形成する。そして、例えば不同沈下が生じて住宅建築物11が傾いた際に、沈下した部分に配置された沈下修正ユニット33の膨張鋼管31を膨張させて、上下の鉄板32を介した大きな支圧面積で、沈下した部分の基礎11aを躯体部分と共に押し上げることにより、住宅建築物11の傾きを容易に修正することが可能になり、これによって上記第1実施形態の沈下修正基礎構造10と同様の作用効果を奏することになる。
【0034】
また、本第2実施形態の沈下修正基礎構造30によって基礎11aを押し上げたら、これによって生じた基礎11aの下面と基盤層14との間の隙間や、上下の鉄板32の間の隙間には、上記第1実施形態の沈下修正基礎構造10と同様に、例えば上述のべた基礎11aの立上り壁15によって囲まれる部分に形成した注入孔や、当該隙間に挿入した注入管からモルタルやグラウト等の固化材を注入して、これらの隙間を充填固化する。また、基礎11aの下面と基盤層14との間の隙間に例えば布状パッカーを差し込んで膨張させることにより、さらに安定的に基礎11aをリフトアップすることが可能になる。さらに、基礎11aの施工時に、住宅建築物11の中央部分に沈下修正ユニット33を埋設して沈下修正基礎構造30を形成すると共に、膨張鋼管31の注入側端部に接続した圧力水の注入管36や、上下の鉄板32の間の隙間に接続するモルタルやグラウト等の固化材の注入管37を基礎11aの外側まで延設させて設けておき、注入管36から圧力水を圧入して膨張鋼管31を膨張させることにより、住宅建築物11の中央部分の沈下を修正できるようにすることもできる。
【0035】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、建物の基礎部分及び基盤層は、略矩形の平面形状を備えている必要は必ずしもなく、建物の間取りに応じて種々の形状の基礎部分や基盤層とすることができる。また、建築される建物は、住宅建築物である必要は必ずしもない。さらに、膨張鋼管の内部に加圧供給される流体は、水以外の例えば油であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態の好ましい第1実施形態に係る沈下修正基礎構造を設けた建物の要部を示す略示斜視図である。
【図2】本実施形態の好ましい第1実施形態に係る沈下修正基礎構造を設けた建物の要部を示す略示部分断面図である。
【図3】本実施形態の好ましい第1実施形態において用いる膨張鋼管が膨張変形する状態を説明する断面図である。
【図4】本実施形態の好ましい第1実施形態において用いる膨張鋼管を加工する工程の説明図である。
【図5】本実施形態の好ましい第1実施形態において用いる膨張鋼管の端部にスリーブを取り付ける状況の説明図である。
【図6】膨張鋼管を井桁嬢に組んだ状態の説明図である。
【図7】本実施形態の好ましい第2実施形態に係る沈下修正基礎構造を設けた建物の要部を示す略示断面図である。
【図8】(a)は本実施形態の好ましい第2実施形態において用いる沈下修正ユニット33の略示斜視図、(b)は略示側面図である。
【図9】(a)は本実施形態の好ましい第2実施形態において用いる膨張鋼管の扁平にプレスする前の状態を説明する部分斜視図、(b)は扁平にプレスした後に状態を説明する部分斜視図である。
【図10】本実施形態の好ましい第2実施形態に係る沈下修正基礎構造の配設位置を説明する建物の基礎部分の略示平面図である。
【符号の説明】
【0037】
10,30 沈下修正基礎構造
11 住宅建築物(建物)
11a 住宅建築物の基礎
12 基礎地盤
13 受圧盤
14 基盤層
15 基盤層とべた基礎との間の隙間
16 立上り壁
20,31 膨張鋼管
20a 膨張鋼管の中空の内部
20b 一方の扁平な面(内側に折り込まれる外周面の一部)
21 先端側スリーブ
22 注水側スリーブ
23 反力受け板
32 鉄板
33 沈下修正ユニット
34 雄ネジスリーブ
35 閉塞板
36 圧力水の注入管
37 固化材の注入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の沈下修正を可能にする沈下修正基礎構造であって、基礎地盤の表層部分に設けた受圧盤と建物の基礎との間に介在させて、扁平にプレスされた断面形状から内部に流体圧力を負荷することにより元の断面形状に戻るように膨張変形する膨張鋼管を、建物の沈下が予想される部分に予め配設することによって構成され、該膨張鋼管の上方に基礎及び建物を構築した後に、構築された建物に沈下が生じた際に、前記膨張鋼管の内部に流体を加圧供給して前記膨張鋼管を膨張変形させることで基礎を押し上げて、建物の沈下を修正する沈下修正基礎構造。
【請求項2】
前記膨張鋼管が、扁平にプレスされた断面形状から、一方の扁平な面をさらに内側に折り込んだ断面形状を備える請求項1に記載の沈下修正基礎構造。
【請求項3】
前記基礎地盤の表層部分に設けた受圧盤が、表層改良工法によって形成された面状固結体である請求項1又は2に記載の沈下修正基礎構造。
【請求項4】
前記膨張鋼管の内部に加圧供給される流体が水である請求項1〜3のいずれかに記載の沈下修正基礎構造。
【請求項5】
前記膨張鋼管は、建物の前記沈下が予想される部分に井桁状に組まれて複数段に重ねて配置される請求項1〜3のいずれかに記載の沈下修正基礎構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−154525(P2007−154525A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351906(P2005−351906)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】