説明

沈降シリカの製造方法

【課題】 本発明は、沈降シリカの新規な製造方法を提供するものである。更に詳しくは、製紙用填料、塗工紙製造用顔料、エラストマー補強用充填剤、薬品担体などの広範囲の用途に用いられている沈降シリカの新規な製造方法を提供する。
【解決手段】 アルカリ金属珪酸塩に酸性化剤を反応させて沈降シリカを製造する方法であって、反応釜に水又は沈降珪酸のスラリーを仕込み、攪拌しながら、pH緩衝剤およびアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と、酸性化剤を含む水溶液とを同時に添加し、混合物のpHを6〜8に維持しながら反応させてシリカを沈降させることを特徴とする沈降シリカの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈降シリカの新規な製造方法に関するものである。更に詳しくは、製紙用填料、塗工紙製造用顔料、エラストマー補強用充填剤、薬品担体などの広範囲の用途に用いられている沈降シリカの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沈降シリカは広範囲の用途に使用されており、古くから工業的に大量生産されている。沈降シリカの製造は基本的には珪酸ナトリウムなどの水溶性珪酸塩の水溶液を酸性化剤で中和することにより行われる。しかし、中和条件を工夫しないとシリカが粒子として沈降せず、寒天状の珪酸のゲルを生じ、これから工業製品として有用な形態に精製することは著しく手間とコストを要する。そのため、ゲル化を回避し、なおかつ生産性の高い方法が種々工夫されてきた。
【0003】
例えば特許文献1では、SiO濃度10〜100g/lの珪酸ナトリウム水溶液に酸を添加する方法に於いて、温度、SiO濃度、アルカリ金属塩濃度を調整して、比表面積が25〜200m/gのシリカが沈殿するようにし、かつ酸の添加量は反応混合物のpHが5以上、好ましくは7以上になるように調整する製造方法が開示されている。酸としては炭酸が使用されており、24時間かけて製造する例が示されている。
【0004】
特許文献2、特許文献3では、アルカリ金属珪酸塩水溶液の酸性化を少なくとも二回に分けて行い、かつ前段の酸性化段階においてはアルカリ金属珪酸塩水溶液のSiO/NaOのモル比を4〜8にするに必要な酸を比較的徐々に添加し、次いで常温〜150℃において反応液の粘度が最高となる範囲を過ぎてしまうまで中間熟成を行い、その後残余の所要量の酸を一挙に又は断続的に反応液中に添加して後段の酸性化を完成することを特徴とし、かくして得られたシリカ懸濁液を必要に応じて50〜150℃において加熱処理し、水洗、pH調節などを行うことからなる微粉ケイ酸の製造法が開示されている。
【0005】
上記の方法ではアルカリ金属珪酸塩水溶液に酸を添加していくため、シリカの生成反応はアルカリ側で行われる。特許文献1によればシリカの沈澱は理論酸量の50〜70%が加えられると殆ど完了するとされている。そのためシリカの生成反応は実質的にpH9以上のアルカリ条件下で行われる。しかしながら珪酸モノマーが重合する速度はpHが中性に近い領域で最大になることが知られている(例えば、THE CHEMISTRY OF SILICA,RALPH K.ILER,Wiley-Interscience Publication,p.513,Fig.5.16)。従って、沈降シリカの製造を中性領域で行うことができれば、生産性は向上し、またシリカの品質を上記の方法による沈降シリカと異なったものにできる可能性がある。
【0006】
しかし、反応中のゲル化が起こりやすくなるため特別の工夫が必要である。例えば特許文献4では、
(1)反応において用いられるアルカリ金属珪酸塩の全量の内の一部を含む初期沈降物を形成させ、該沈降物中のSiOとして表わされる珪酸塩の濃度は20g/未満であり、
(2)この初期沈降物に酸性化剤を、該初期沈降物中に存在するMOの量の少なくとも5%が中和されるまで添加し、
(3)この反応媒体に酸性化剤と残量のアルカリ金属珪酸塩とを、添加された珪酸塩の量(SiOとして表わした量)/初期沈降物中に存在する珪酸塩の量(SiOとして表わした量)の比が4より大きく且つせいぜい100となるように、同時に添加することによって沈降を実施することを特徴とする沈降シリカの製造方法が開示されている。酸性化剤とアルカリ金属珪酸塩の同時添加の際のpHは7〜9が好ましいと報告されている。
【0007】
特許文献5では、
(1)アルカリ金属−又はアルカリ土類金属珪酸塩及び/又は有機及び/又は無機塩基の水溶液をpH7〜8.5で反応釜に前装入し、
(2)この前装入物に、撹拌下に55〜95℃で10〜120分間、同時的に水ガラス及び酸性化剤を添加し、
(3)酸性化剤で約3.5のpH値まで酸性にし、かつ
(4)ろ過し、かつ乾燥させることを特徴とする、沈降シリカの製法が開示されている。(2)の工程ではpHを7.5に制御することが実施例に記載されている。
【0008】
特許文献4及び特許5では反応釜の液が攪拌されているところに、酸性化剤とアルカリ金属珪酸塩が同時添加されるため、中和によって混合物のpHは中性に近くなる。中和により生成した珪酸モノマーはその重合速度の速さにより逐次消費されるため混合物中の濃度が高くならず、その結果ゲル化が抑制される。
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討結果では、酸性化剤とアルカリ金属珪酸塩を同時添加し、かつpHを中性付近に精度よく保つことはかなり困難であった。図1に珪酸ナトリウム水溶液を塩酸で中和したときの中和曲線を示すが、よく知られているように中和点近傍でのpHの変化は非常に大きい。アルカリ金属珪酸塩を100%中和したときのpHは約5であり、酸が少量でも過剰であるとpHは簡単に4以下に低下する。そのため、反応中のpHを中性付近に保つためには、酸性化剤とアルカリ金属珪酸塩両方の添加速度を適切な比率を保ちながら厳密に制御する必要があり、設備及び操業の負担が大きかった。また反応中のpHが4以下に低下すると、珪酸の重合速度が低下し、反応混合物の粘度上昇やゲル化などの好ましくない現象が起き易い。また、得られる沈降シリカの比表面積が変化するので、製造ロット毎の品質のバラツキが大きくなるという欠点もあった。
【0010】
【特許文献1】特公昭31−7275号公報
【特許文献2】特公昭38−17651号公報
【特許文献3】特開昭51−25235号公報
【特許文献4】特表平8−502716号公報
【特許文献5】特表2005−534608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、酸性化剤とアルカリ金属珪酸塩を同時添加する工程を含む沈降シリカ製造技術において、pHの制御が困難である点を改善し、一定品質の沈降シリカが容易に得られる製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記したように、酸性化剤とアルカリ金属珪酸塩を同時添加し、かつpHを中性付近に精度よく保つことは中和点付近でのpH変動が急であるために大規模な生産設備では困難である。そのためか、特許文献4の方法では同時添加工程における酸性化剤の添加を、アルカリ金属珪酸塩のMOの92%を中和するのに必要な量にとどめている(以下、Mはアルカリ金属原子を表す。)。
本発明者らは、pHの変動を抑制するためにpH緩衝剤の利用を試みた。最初は特許文献5のように、前装入物に混合しておくことを試みたが、酸性化剤とアルカリ金属珪酸塩の同時添加が進むにつれpH緩衝剤の濃度が減少していくため、同時添加が終了に近づくにつれpHの変動が大きくなった。そこで、pH緩衝剤をアルカリ金属珪酸塩水溶液に混合する方式に変更したところ、同時添加の全期間でpHが安定し本発明に至った。
【0013】
本発明は以下の態様を含む。
(1) アルカリ金属珪酸塩に酸性化剤を反応させて沈降シリカを製造する方法であって、反応釜に水又は沈降珪酸のスラリーを仕込み、攪拌しながら、pH緩衝剤およびアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と、酸性化剤を含む水溶液とを同時に添加し、混合物のpHを6〜8に維持しながら反応させてシリカを沈降させることを特徴とする沈降シリカの製造方法。
(2) 酸性化剤の量が、アルカリ金属珪酸塩を中和するのに要する理論量の100%〜110%である(1)記載の沈降シリカの製造方法。
(3) pH緩衝剤の量が、酸性化剤の1モル%〜30モル%である(1)又は(2)のいずれかに記載の沈降シリカの製造方法。
(4) pH緩衝剤がpKa値として6〜8を有する酸の水溶性塩である(1)〜(3)のいずれかに記載の沈降シリカの製造方法。
(5) pH緩衝剤がアルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩である(4)記載の沈降シリカの製造方法。
(6) シリカを沈降させるときの温度が5℃〜50℃である(1)〜(5)のいずれかに記載の沈降シリカの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、酸性化剤とアルカリ金属珪酸塩を同時添加する工程を含む沈降シリカ製造方法において、一定品質の沈降シリカを容易に得ることができる。製造された沈降シリカは、製紙用填料、塗工紙製造用顔料、エラストマー補強用充填剤、薬品担体などの広範囲の用途に使用しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の沈降シリカの製造に用いる反応釜は攪拌機と加熱装置を備えたものであれば良く、その形状、大きさ、材質は問わない。攪拌機は通常、攪拌羽根をモーターで回転させて、反応釜内部の液を攪拌する方式が一般的である。ただし、これに限定されるものではなく、反応釜内部の液をポンプで外部に取り出し、再度反応釜に循環させる方式でも構わない。加熱方式は、反応釜内部に蒸気を直接吹き込む方式や、反応釜外部から蒸気や電熱によって加熱する方式でも良い。
【0016】
本発明の製造方法では、まず反応釜に水又は沈降珪酸のスラリーを仕込む。この仕込み液は、添加されるアルカリ金属珪酸塩と酸性化剤の濃度を下げ、かつ速やかに混合するのを助ける役割を果たす。最初の仕込み液がない場合、アルカリ金属珪酸塩と酸性化剤の同時添加の初期に攪拌による混合が困難であるし、アルカリ金属珪酸塩と酸性化剤濃度が高くなってゲル化しやすい。仕込み液はpH6〜7の水が好ましいが、製造済みの沈降珪酸スラリーでも良い。この場合、沈降珪酸の製造後に反応釜からすべての沈降珪酸スラリーを取り出さず、一部を残して次の製造の仕込み液とすることもできる。
【0017】
仕込み液の量は反応中の粘度により適宜調整すれば良いが、目安としてはアルカリ金属珪酸塩を添加し終わったときの反応混合物中のSiO濃度がおよそ1%〜10%に調整すれば良い。
【0018】
アルカリ金属珪酸塩としては、SiO/MO(但し、Mはアルカリ金属原子を表す)モル比として2〜4程度のナトリウム水ガラスを用いるのが価格も安く好ましいが、これに限定されるものではなく、オルト珪酸ナトリウム及びメタ珪酸ナトリウムなど市販工業製品として入手できるものを単独あるいは併用して使用することもできる。またカリウム塩も同様に使用可能である。
【0019】
次に、このアルカリ金属珪酸塩水溶液にpH緩衝剤を混合する。
pH緩衝剤としては、pH6〜8の間で緩衝効果を発揮するものであれば良い。
そのためには6〜8のpKa値を有する酸のアルカリ金属塩が好ましい。多塩基酸の場合、複数のpKaを有するが、6〜8の範囲のpKaを1つ有していれば良い。
具体的には、炭酸(6.4)リン酸(7.2)、メタリン酸(6.6)、マレイン酸(6.2)が挙げられるが、価格が安価な炭酸塩又は炭酸水素塩が好ましい。
【0020】
pH緩衝剤とアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液において、SiO濃度は2%〜30%が好ましく、より好ましくは5%〜15%である。SiO濃度が2%未満では沈降シリカの生産性が低下するおそれがある。また30%より大きい場合には、水溶液粘度が著しく上昇し、正確な添加速度を維持することが困難となる。pH緩衝剤の量は酸性化剤の1モル%〜30モル%に相当する量が好ましい。1モル%未満ではpHの緩衝効果が不足し、30モル%より大きい場合には消費されずに余る量が増えるので不経済である。
【0021】
酸性化剤としては、pHを6以下に下げうる物質であれば、無機・有機を問わず使用できる。例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、スルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸など)、リン酸、メタリン酸、カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、サリチル酸など)などが挙げられる。また、強酸の酸性塩や、強酸と弱塩基の塩、例えば硫酸アルミニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムなども使用できる。好ましくは、硫酸または塩酸である。酸性化剤の濃度に限定は無いが、0.5モル/リットル未満では添加すべき酸性化剤を含む水溶液の体積が増えるので、仕上がりの沈降シリカ濃度が下がって生産性が低下するおそれがある。最も用いられている硫酸の場合には50〜150g/リットルが好ましい。
【0022】
上記のごとく準備した仕込み液の中に、仕込み液を絶えず攪拌しながら、pH緩衝剤とアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と、酸性化剤を含む水溶液を同時に添加する。この時、混合物のpHは6〜8に維持するように調整する。この範囲に調整することにより、珪酸モノマーの高い重合速度が維持され、効率的に沈降シリカが生産できる。添加する速度は生産する沈降シリカの品質、または同時添加中の反応混合液の粘度上昇による攪拌機の負荷などにより適宜選択すれば良いが、目安としては10分〜120分程度である。
【0023】
同時添加を行う時の温度は5℃から100℃の任意の温度で行い得るが、5〜50℃で行うと、比表面積が大きい沈降シリカを得やすく、インクジェット記録紙製造用として好ましい。ただし、5℃未満になると珪酸モノマーの重合速度が低下しすぎ、ゲル化しやすくなる虞れがある。
【0024】
同時添加を行う途中で、添加を中断し熟成を促進することは好ましい。熟成工程は複数回行っても良く、同時添加終了後に熟成を行うことも好ましい。
【0025】
上記の工程によって沈降珪酸を含むスラリーが得られ、そのまま利用することもできる。或いはろ過、濃縮、洗浄、乾燥、粉砕、分級などを任意に行って利用することもできる。エラストマー補強用充填剤用途には沈降珪酸中のアルカリ金属分を下げることが好ましく、同時添加終了後のスラリーpHを6以下、好ましくは2〜4に下げてから、洗浄するのが良い。またpHを下げる薬品として硫酸アルミニウムなどの酸性金属塩を用いると残留アルカリ金属分の減少を促進し、スラリー粘度を下げる効果もある。
【0026】
ろ過、濃縮、洗浄方法は公知のものが使用できる。例えばフィルタープレス、ベルトフィルター、回転式真空フィルターなどが挙げられる。
【0027】
乾燥方法は、従来公知の方法によって適宜実施することができる。中でも、スプレードライによる方法が好ましい。噴霧はノズル式噴霧器、加圧液体噴霧器又はダブル流体噴霧器を用いることができる。スプレードライを行う時の沈降シリカ濃度は10質量%以上が好ましく、さらに好ましくは15質量%以上である。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の更に詳しい説明を実施例により行うが、本発明はそれらによって限定されるものではない。尚、%は質量%を意味する。
まず、実施例及び比較例に記載した物性の測定方法について、以下に説明する。
【0029】
(比表面積、細孔容積測定方法)
マイクロメトリックス ポアサイザ9320((株)島津製作所製)を用いて、水銀圧入法により、比表面積、及び細孔容積を求めた。平均細孔径の測定は細孔の断面を円形として仮定して導かれた下記の式を用いて計算した。
D=−4γCOSθ/P
ただし、D:細孔直径、γ:水銀の表面張力、θ:接触角、P:圧力とする。水銀の表面張力は482.536dyn/cmとし、使用接触角は130°とし、高圧部測定(0〜30000psia、測定細孔径レンジ10μm〜6nm)を行った。
【0030】
(インクジェット記録紙製造法並びに評価方法)
沈降シリカ10gに水を加えて濃度20%のスラリーとし、直径0.8mmのガラスビーズを加えてペイントシェーカー((株)東洋精機製作所製)にて平均粒子径が2μmに粉砕した。尚、平均粒子径の測定はレーザー散乱式粒度計(島津製作所製SALD−200J)で行った。
粉砕後のスラリー100gに、8%ポリビニルアルコール水溶液((株)クラレ製PVA117)60g、10%カチオン性樹脂水溶液((株)センカ製、ユニセンスCP101)16gを加えて良く混合し、塗工用の塗料を作成した。
この塗料を坪量が127g/mの上質紙に乾燥質量で10g/mになるように塗工し、100℃で乾燥してインクジェット記録紙を作成した。
このインクジェット記録紙にキャノン社製インクジェットプリンターiP 4100の高品位専用紙モードによりブラックでベタ印字し、印字濃度をマクベスRD914で測定した。
【0031】
実施例1
水284.4gにpH緩衝剤としての炭酸水素ナトリウム(関東化学(株)製、試薬特級)3.6gを溶解し、次に三号珪酸ナトリウム水溶液(東曹産業(株)製、SiO濃度28.8%、NaO濃度9.5%)312gを溶解して、pH緩衝剤とアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液600gを調製した。
次に水552.2gに98%硫酸(関東化学(株)製、試薬特級)47.8gを溶解し、希硫酸600gを調製した。
三号珪酸ナトリウムに含まれるNaOは0.478モル、硫酸も0.478モルであり、三号珪酸ナトリウムに含まれるNaOを100%中和できる量である。炭酸水素ナトリウムは0.043モルであり、硫酸の9モル%である。
攪拌羽根方式の攪拌機と温度計を備えた2リットルのガラス製反応釜中に、pH6.5の水300gを仕込み、室温(25℃)で攪拌を開始した。この反応釜に、pH緩衝剤とアルカリ金属珪酸塩を含む上記水溶液600gをチューブポンプを用いて、10g/分の速度で、希硫酸も10g/分の速度で同時に添加を行った。同時添加を行っているときのpHは6.5〜6.9に維持された。添加終了後には混合物の温度は37℃に上昇した。そのまま30分攪拌を継続したあと、減圧濾過で沈降シリカをろ過し、ろ液の導電率が0.5mS/cmになるまで水で洗浄して105℃の乾燥器で乾燥した。この沈降シリカの比表面積及び細孔容積を求め、インクジェット記録紙を製作してその品質を評価し、表1に示した。
実施例2
実施例1と同様の操作を行ったが中和用硫酸と炭酸水素ナトリウムの添加量を変更した。即ち、水279.6gに炭酸水素ナトリウム8.4gを溶解し、次に三号珪酸ナトリウム水溶液(SiO濃度28.8%、NaO濃度9.5%)312gを溶解して、pH緩衝剤とアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液600gを調製した。
次に水549.8gに98%硫酸50.2gを溶解し、希硫酸600gを調製した。
三号珪酸ナトリウムに含まれるNaOは0.478モル、硫酸は0.502モルであり、三号珪酸ナトリウムに含まれるNaOの理論中和量に対し105%である。炭酸水素ナトリウムは0.1モルであり、硫酸の20モル%である。
このpH緩衝剤とアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と希硫酸を用いて、実施例1と同様に同時添加を行った。同時添加時のpHは6.3〜6.6に維持された。実施例1と同様にろ過、洗浄、乾燥行い、比表面積及び細孔容積を求め、インクジェット記録紙を製作してその品質を評価し、表1に示した。
【0032】
実施例3
実施例2と同様の操作を行ったが、pH緩衝剤の種類と量を変更した。即ち、水284.3gに無水炭酸ナトリウム(関東化学(株)製、試薬特級)3.7gを溶解し、次に三号珪酸ナトリウム水溶液(SiO濃度28.8%、NaO濃度9.5%)312gを溶解して、pH緩衝剤とアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液600gを調製した。
次に水549.8gに98%硫酸50.2gを溶解し、希硫酸600gを調製した。
三号珪酸ナトリウムに含まれるNaOは0.478モル、硫酸は0.502モルであり、三号珪酸ナトリウムに含まれるNaOの理論中和量に対し105%である。炭酸ナトリウムは0.035モルであり、硫酸の7モル%である。
このpH緩衝剤とアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と希硫酸を用いて、実施例1と同様に同時添加を行った。同時添加時のpHは6.6〜6.7に維持された。実施例1と同様にろ過、洗浄、乾燥行い、比表面積、細孔容積、及び平均細孔径を求め、インクジェット記録紙を製作してその品質を評価し、表1に示した。
【0033】
実施例4
実施例2と同様の操作を行ったが、pH緩衝剤の種類を変更した。即ち、水273.8gにリン酸水素二ナトリウム(関東化学(株)製、試薬特級)14.2gを溶解し、次に三号珪酸ナトリウム水溶液(SiO濃度28.8%、NaO濃度9.5%)312gを溶解して、pH緩衝剤とアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液600gを調製した。
次に水549.8gに98%硫酸50.2gを溶解し、希硫酸600gを調製した。
三号珪酸ナトリウムに含まれるNaOは0.478モル、硫酸は0.502モルであり、硫酸の量は三号珪酸ナトリウムに含まれるNaOの理論中和量に対し105%である。リン酸水素二ナトリウムは0.1モルであり、硫酸の20モル%である。
このpH緩衝剤とアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と希硫酸を用いて、実施例1と同様に同時添加を行った。同時添加時のpHは7.2〜7.5に維持された。実施例1と同様にろ過、洗浄、乾燥行い、比表面積及び細孔容積を求め、インクジェット記録紙を製作してその品質を評価し、表1に示した。
【0034】
実施例5
実施例4と同様の操作を行ったが、反応温度を変更した。反応釜に仕込んだ水300gをオイルバスで加熱し、70℃にした。続いて70℃を維持しながら実施例4と同じpH緩衝剤とアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と、希硫酸を同時添加した。反応中のpH(室温でのpH)は7.3〜7.6に維持された。実施例1と同様にろ過、洗浄、乾燥行い、比表面積及び細孔容積を求め、インクジェット記録紙を製作してその品質を評価し、表1に示した。
【0035】
実施例6
まず実施例2に従って沈降シリカスラリーを調製した。このスラリーを300gだけ反応釜に残して仕込み水300gの代わりとし、実施例2と同じ操作を再度行って沈降シリカを得た。この沈降シリカの比表面積及び細孔容積を求め、インクジェット記録紙を製作してその品質を評価し表1に示した。
【0036】
比較例1
実施例1と同様の操作を行ったが、炭酸水素ナトリウムを用いなかった。即ち、水288gに三号珪酸ナトリウム水溶液(SiO濃度28.8%、NaO濃度9.5%)312gを溶解してアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液600gを調製して用いたこと以外は実施例2と同じ操作を行った。同時添加時のpHはチューブポンプの流量変動により3.6〜〜8.1の範囲で変動し、添加終了時には5.1となった。添加終了から30分後にはスラリー粘度がかなり上昇し、ろ過が困難であった。
【0037】
比較例2
実施例2と同様の操作を行ったが、炭酸水素ナトリウムを用いなかった。即ち、水288gに三号珪酸ナトリウム水溶液(SiO濃度28.8%、NaO濃度9.5%)312gを溶解してアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液600gを調製して用いたこと以外は実施例2と同じ操作を行った。同時添加時のpHは3.1であり、添加中に徐々に混合物の粘度が上昇し、添加終了から30分後には流動性が無くなってしまい、以後の処理が行えなかった。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1〜6が示しているように、pH緩衝剤をアルカリ金属珪酸塩水溶液に混合して使用することにより、同時添加時のpHを中性近くに安定して保つことができ、特に加熱しなくても沈降シリカを得ることができた。得られた沈降シリカはインクジェット記録紙製造に好適に用いることができた。反応温度を高くしても問題なく沈降シリカが得られたが、比表面積が小さくなり、インクジェット記録紙の印字濃度が低下傾向であった(実施例5)。pH緩衝剤を用いないで、沈降シリカの製造を試みたところ、スラリーが増粘したりゲル化し、工業的な沈降シリカ製造方法として不適当であった(比較例1、比較例2)。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は沈降シリカを効率的に生産するのに有用である。製造される沈降シリカは既知の用途に用いうる。例えば、製紙用填料、塗工紙用顔料、エラストマー補強用充填剤、薬品担体などの広範囲の用途に用いられる。特に、インクジェット紙用顔料に好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1はSiO濃度が0.5%の三号珪酸ナトリウム水溶液100gを0.5M塩酸で滴定したときのpH変化を示している。この三号珪酸ナトリウム水溶液に含まれるNaOを100%中和したときのpHは弱酸性の約5であり、中和点前後のpH変化は非常に大きいことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属珪酸塩に酸性化剤を反応させて沈降シリカを製造する方法であって、反応釜に水又は沈降珪酸のスラリーを仕込み、攪拌しながら、pH緩衝剤およびアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と、酸性化剤を含む水溶液とを同時に添加し、混合物のpHを6〜8に維持しながら反応させてシリカを沈降させることを特徴とする沈降シリカの製造方法。
【請求項2】
酸性化剤の量が、アルカリ金属珪酸塩を中和するのに要する理論量の100%〜110%である請求項1記載の沈降シリカの製造方法。
【請求項3】
pH緩衝剤の量が、酸性化剤の1モル%〜30モル%である請求項1又は請求項2のいずれかに記載の沈降シリカの製造方法。
【請求項4】
pH緩衝剤がpKa値として6〜8を有する酸の水溶性塩である請求項1〜3のいずれかに記載の沈降シリカの製造方法。
【請求項5】
pH緩衝剤がアルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属炭酸水素塩である請求項4記載の沈降シリカの製造方法。
【請求項6】
シリカを沈降させるときの温度が5℃〜50℃である請求項1〜5のいずれかに記載の沈降シリカの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−254956(P2008−254956A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97781(P2007−97781)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】