説明

沸騰水型原子炉用制御棒

【課題】 シースとハンドルとの溶接部近傍の照射誘起型応力腐食割れに対する耐久性に優れた沸騰水型原子炉用制御棒を提供する
【解決手段】 断面十字形状のタイロッド1と、断面U字形状に形成されタイロッド1の十字断面の各先端部を挟んでU字開口部が溶接されるシース2と、タイロッド1の軸方向の上端部に設けられタイロッド1とシース2とに溶接されるハンドル3と、タイロッド1の軸方向の下端部に設けられタイロッド1とシース2とに溶接される下部支持部材4と、シース2のU字形の内部に収納された中性子吸収材5とから構成される沸騰水型原子炉用制御棒において、シース2とハンドル3を部分溶接する。また、シース2の上端部に切れ込みを設けるか、シース2の溶接部近傍に長穴を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉用制御棒に係り、特に、照射誘起型応力腐食割れを軽減するのに好適な沸騰水型原子炉用制御棒に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、沸騰水型原子炉における核分裂の連鎖反応量を制御するため、中性子吸収材を内部に収納する制御棒が利用される。この制御棒は、十字断面を有しており、鉛直方向に立設した4つの筒状の燃料チャンネルボックス間に形成される十字型の隙間に鉛直方向に移動させて挿入される。
【0003】
沸騰水型原子炉用制御棒は、断面十字形状のタイロッドと、断面U字形状に形成され内部に中性子吸収材を収納しタイロッドの十字断面の各先端部を挟んでU字開口部が溶接されるシースと、タイロッドの軸方向の上端部に設けられタイロッドとシースとに溶接されてなるハンドルと、タイロッドの軸方向の下端部に設けられタイロッドとシースとに溶接される下部支持部材とを備えて構成されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
このような沸騰水型原子炉用制御棒においてハンドルとシースとの溶接接合は、タイロッドと同様に十字形に形成されたハンドルの下端をシースのU字形の内側に挿入し、ハンドルの下端部にシースの板厚に合わせて設けられた段差部にシースの上端部をはめ合わせ、そのはめ合わせ部を全長に渡って溶接するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開平2003−185777
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ハンドルとシースとの部材間のはめ合わせ部を全長に渡って溶接しているため、溶接部近傍には引張残留応力が存在し、照射誘起型応力腐食割れを起こすおそれがある。
【0007】
照射誘起型応力腐食割れは、応力、照射環境、腐食環境が重なることにより生じるため、原子炉の安全な運転を維持するために、照射誘起型応力腐食割れに対する耐久性に関して改善する必要がある。
【0008】
本発明は、シースとハンドルとの溶接部近傍の照射誘起型応力腐食割れに対する耐久性に優れた沸騰水型原子炉用制御棒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の沸騰水型原子炉用制御棒は、断面十字形状のタイロッドと、断面U字形状に形成され内部に中性子吸収材を収納しタイロッドの十字断面の各先端部を挟んでU字開口部が溶接されるシースと、タイロッドの軸方向の上端部に設けられタイロッドとシースとに溶接されるハンドルと、タイロッドの軸方向の下端部に設けられタイロッドとシースとに溶接される下部支持部材とを備える沸騰水型原子炉用制御棒において、シースのU字形の内側にハンドルが挿入され、ハンドルとシースとの溶接影響部は、シースの溶接残留応力を低減可能な残留応力低減構造を有することを特徴とする。
【0010】
すなわち、ハンドルとシースとの溶接影響部に、残留応力低減構造を有することから、シースの溶接部近傍の引張残留応力を低減できるので、照射誘起型応力腐食割れを発生させる3つの因子のうちの応力を低減でき、照射誘起型応力腐食割れに対する耐久性を向上することができる。
【0011】
この場合において、残留応力低減構造は、ハンドルとシースとの溶接が溶接線の方向に沿って部分溶接された構造とすることができる。これによれば、シースのU字形の全長に渡って溶接する場合と比べて溶接長さが短いためシースの溶接部近傍に発生する引張残留応力を低減することができる。
【0012】
この場合において、部分溶接を除く端部に切れ込み部を設けた構造とすることができる。これによれば、U字形の全長に渡って溶接する場合と比べて溶接長さが短いためシースの溶接部近傍に発生する引張残留応力を低減することができるとともに、溶接線に沿う方向の非溶接部の隙間が削除されたことから溶接部の隙間腐食を低減できる。
【0013】
また、残留応力低減構造は、ハンドルとシースとの溶接線の方向に沿ってシースに長穴を設けた構造とすることができる。これによれば、長穴の中央部付近の端部が自由端に近くなるため、溶接時の引張残留応力を緩和することができる。ここで、長穴の溶接線の方向の長さの総和は、ハンドルとシースとの溶接長さの総和の11%以上とし、長穴が設けられた位置のシースの断面積は、制御棒スクラム時の引張り荷重に耐えうる断面積を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シースとの溶接部近傍の引張残留応力を低減でき、照射誘起型応力腐食割れに対する耐久性に優れた沸騰水型原子炉用制御棒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0016】
(実施形態1)
図1は本発明の一実施形態の沸騰水型原子炉用制御棒の構成を示す斜視図、図2は沸騰水型原子炉用制御棒の正面図、図3(a)、(b)はシースとハンドルの溶接部を示す部分拡大図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の沸騰水型原子炉用制御棒は、断面十字形状のタイロッド1と、断面U字形状に形成されタイロッド1の十字断面の各先端部を挟んでU字開口部が溶接されるシース2と、タイロッド1の軸方向の上端部に設けられタイロッド1とシース2とに溶接されるハンドル3と、タイロッド1の軸方向の下端部に設けられタイロッド1とシース2とに溶接される下部支持部材4と、シース2のU字形の内部に収納された中性子吸収材5(例えば、ハフニウムフラットチューブ等)と、下部支持部材4に溶接され図示していない制御棒駆動機構装置と連結するためのコネクタ6とから構成されている。
【0018】
ハンドル3及び下部支持部材4は90度の角度間隔で放射状に突出して十字形を形成する4個の腕状部から構成されている。ハンドル3及び下部支持部材4を連結するタイロッド1は断面十字形状の4個の放射状に突出する腕状部の長さがハンドル3及び下部支持部材4から突出する腕状部に対して比較的短く形成されている。本実施形態においてはタイロッド1の下部に下部支持部材4を設けているが、これに代えて落下速度リミッタを設けてもよい。
【0019】
図2に示すように、冷却孔7はシース2の上端部近傍に溶接線の方向に沿って複数個設けられ、中性子吸収材5の取り付け位置を確認できるようにしている。また、冷却孔8は中性子吸収材5の冷却孔9と同軸に複数設けられている。ハンドル3には中性子吸収材5を吊り下げるための舌状部10が設けられ、下部支持部材4には中性子吸収材5と結合するための舌状部11が設けられている。また、ハンドル3にはローラ12が回転可能に軸支され、図示していない4つの筒状の燃料チャンネルボックスの間に形成される十字型の隙間を制御棒が滑らかに挿入されるようにしている。
【0020】
図3(a)に示すように、シース2のU字形の内側にはハンドル3が挿入され、シース2のハンドル3を挟む両面の上端部には凸状部が設けられ、この凸状部とハンドル3の下部に設けられた段差部に重ね合わせて部分溶接(例えば、TIG溶接等)された溶接部13が設けられている。また、図3(b)に示すように異なる2箇所を部分溶接した溶接部14、15を設けてもよい。このとき、制御棒スクラム時の引張り荷重に耐えるため、溶接部13の長さ(L1)及び溶接部14、15の長さの和(L2+L3)は、シース2の凸状部の全長(L0)の20〜65%とする。
【0021】
この構成によれば、シース2の凸状部を全長に渡って溶接する場合と比べて溶接長さが短いためシース2の溶接部近傍に発生する引張残留応力を低減できるので、照射誘起型応力腐食割れに対する耐久性を向上することができる。
【0022】
本実施形態においては、シース2とハンドル3とをTIG溶接しているが、YAGレーザ光又はCOレーザ光による溶接方法等を用いてもよい。また、図3(a)、(b)は、シース2のU字形の一面の溶接部について示しているが、ハンドル3を挟んで反対側の面についても図3(a)、(b)と対象な位置に溶接部が設けられている。また、溶接部は1箇所又は2箇所に設けたが、必要に応じて複数箇所に設けてもよい。
【0023】
(実施形態2)
図4(a)、(b)は本発明の他の実施形態の沸騰水型原子炉用制御棒のシースとハンドルの溶接部を示す部分拡大図、図4(c)は(a)のA−A矢視断面図である。図示のように、本実施形態の沸騰水型原子炉用制御棒が実施形態1と異なる点は、冷却孔7に代えてシース2の上端部に切れ込み部16を設けたことにある。その他の構成は図1、2、3と同じであるから、詳細な説明を省略する。
【0024】
図4(a)に示すように、切れ込み部16は角部が円弧状に形成された矩形の凹部であり、切れ込み部16を除く上端部の凸状部位をハンドル3下部に設けられた段差部に重ね合わせて溶接された溶接部19、20が設けられている。また、図4(b)に示すように、シース2の上端部の異なる2箇所に切れ込み部17、18を設け、切れ込み部17、18を除くシース2の上端部の凸状部位をハンドル3下部に設けられた段差部に重ね合わせて溶接された溶接部21、22、23を設けてもよい。このとき、制御棒スクラム時の引張り荷重に耐えうる長さとするため、溶接部19と20の長さの和(L4+L5)及び溶接部21、22、23の長さの和(L6+L7+L8)は凸状部の全長(L0)の20〜65%とする。また、シース2に発生する引張残留応力を有効に低減し、所定の強度を確保するため、切れ込み部16、17、18のタイロッド1の軸方向の長さ(L9)は、20mm以下とする。
【0025】
この構成によれば、シース2の凸状部を全長に渡って溶接する場合と比べて溶接長さが短いためシース2の溶接部近傍に発生する引張残留応力を低減できる。また、実施形態1と比較して溶接線に沿う方向の非溶接部の隙間が削除されたことから、溶接部の隙間腐食を低減できる。
【0026】
本実施形態では、切れ込み部16、17、18の形状を角部に曲率を設けた矩形としたが、引張残留応力を緩和できるものであればこれに限るものではない。
【0027】
(実施形態3)
図5(a)、(b)は本発明の他の実施形態の沸騰水型原子炉用制御棒のシースとハンドルの溶接部を示す部分拡大図、図5(c)は(a)のB−B矢視断面図である。図示のように、本実施形態の沸騰水型原子炉用制御棒が実施形態1と異なる点は、冷却孔7に代えて溶接線の方向に長く形成された矩形の穴24を設け、シース2の凸状部位をハンドル3の下部に設けられた段差部に重ね合わせて全長(L0)にわたって溶接された溶接部25を有していることにある。
【0028】
図5(a)に示すように、穴24は矩形の角部が円弧状に形成され、溶接部25と舌状部10の下端との間に配置される。また、図5(b)に示すように、溶接線の方向の異なる2箇所に穴26、27を設けてもよい。このとき、穴24の長さ(L10)又は穴26、27の長さの和(L11+L12)は溶接部25の全長(L0)の11%以上に設定される。また、穴24又は穴26、27が設けられた位置からシース2が残存する最も短い部分の長さ(L13+L14)又は(L15+L16+L17)が、凸状部の全長(L0)の20〜65%とすれば、制御棒スクラム時の引張り荷重に耐えうる断面積を有することができる。
【0029】
従来、溶接部近傍に設けられた冷却孔の溶接線の方向の長さの総和は溶接部長さの約10%となっている。これに対して、本実施形態では、例えば、図5(a)において、穴24の溶接線の方向の長さは溶接部の長さの総和の11%以上であり、穴24の中央部付近の端部がより自由端に近くなるため、溶接部25と穴24の間のシース表面に生じる引張残留応力及び穴24に対して溶接部25と反対側のシースの表面に生じる引張残留応力を緩和することができる。
【0030】
また、シース2に発生する引張残留応力を有効に低減するため、穴24又は穴26、27の下端部から溶接部までのタイロッド1の軸方向の長さ(L18)は30mm以下の範囲に配置される。また、本実施形態の穴24又は穴26、27は矩形に形成されているが、長穴であればよく、例えば、長円径等に形成することができ、引張残留応力を緩和することができるものであればこれに限るものではない。
【0031】
本実施形態の溶接部25は全長(L0)にわたって溶接しているが、実施形態1のように1箇所又は複数箇所に部分溶接してもよい。また、穴の数を1箇所又は2箇所に設けたが、必要に応じて複数箇所に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態の沸騰水型原子炉用制御棒の構成を示す斜視図である。
【図2】沸騰水型原子炉用制御棒の正面図である。
【図3】シースとハンドルの溶接部を示す部分拡大図である。
【図4】(a)、(b)は本発明の他の実施形態の沸騰水型原子炉用制御棒のシースとハンドルの溶接部を示す部分拡大図、及び(c)は(a)のA−A矢視断面図である。
【図5】(a)、(b)は本発明の他の実施形態の沸騰水型原子炉用制御棒のシースとハンドルの溶接部を示す部分拡大図、及び(c)は(a)のB−B矢視断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 タイロッド
2 シース
3 ハンドル
4 下部支持部材
5 中性子吸収材
6 コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面十字形状のタイロッドと、断面U字形状に形成され内部に中性子吸収材を収納し前記タイロッドの十字断面の各先端部を挟んでU字開口部が溶接されるシースと、前記タイロッドの軸方向の上端部に設けられ前記タイロッドと前記シースとに溶接されるハンドルと、前記タイロッドの軸方向の下端部に設けられ前記タイロッドと前記シースとに溶接される下部支持部材とを備える沸騰水型原子炉用制御棒において、
前記シースのU字形の内側に前記ハンドルが挿入され、前記ハンドルと前記シースとの溶接影響部は、前記シースの溶接残留応力を低減可能な残留応力低減構造を有することを特徴とする沸騰水型原子炉用制御棒。
【請求項2】
請求項1に記載の沸騰水型原子炉用制御棒において、
前記残留応力低減構造は、前記ハンドルと前記シースとの溶接が溶接線の方向に沿って部分溶接された構造であることを特徴とする沸騰水型原子炉用制御棒。
【請求項3】
請求項2に記載の沸騰水型原子炉用制御棒において、
前記残留応力低減構造は、前記部分溶接を除く前記シースの端部に切れ込み部を設けた構造であることを特徴とする沸騰水型原子炉用制御棒。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の沸騰水型原子炉用制御棒において、
前記部分溶接の溶接長さの総和は、制御棒スクラム時の引張り荷重に耐えうる長さであることを特徴とする沸騰水型原子炉用制御棒。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の沸騰水型原子炉用制御棒において、
前記部分溶接の溶接長さの総和は、前記シースのU字形の直線部の全長の20〜65%であることを特徴とする沸騰水型原子炉用制御棒。
【請求項6】
請求項1に記載の沸騰水型原子炉用制御棒において、
前記残留応力低減構造は、前記ハンドルと前記シースとの溶接線の方向に沿って前記シースに長穴を設けた構造であることを特徴とする沸騰水型原子炉用制御棒。
【請求項7】
請求項6に記載の沸騰水型原子炉用制御棒において、
前記長穴の前記溶接線の方向の長さの総和は、前記ハンドルと前記シースとの溶接長さの総和の11%以上であることを特徴とする沸騰水型原子炉用制御棒。
【請求項8】
請求項6乃至7のいずれか一項に記載の沸騰水型原子炉用制御棒において、
前記長穴が設けられた位置の前記シースの断面積は、制御棒スクラム時の引張り荷重に耐えうる断面積を有することを特徴とする沸騰水型原子炉用制御棒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−42006(P2009−42006A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205901(P2007−205901)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)