説明

沸騰水型原子炉

【課題】キャリーアンダーをさらに低減することができる沸騰水型原子炉を提供する。
【解決手段】沸騰水型原子炉1は、原子炉圧力容器2内に、炉心3を取り囲む炉心シュラウド4を配置し、複数の気水分離器6が取り付けられたシュラウドヘッド5を、炉心シュラウド4の上端部に設置している。蒸気乾燥器7、冷却材誘導環状部材8及び複数のインターナルポンプ12を備えている。環状の蒸気乾燥器スカート11が、気水分離器6の最外周の配列を取り囲んで配置される。シュラウドヘッド5の上面に設置された冷却材誘導環状部材8が、蒸気乾燥器スカート11の下方で、全ての気水分離器6を取り囲んでいる。複数の貫通孔9が冷却材誘導環状部材8の下端部に形成される。気水分離器6から排出された冷却水が冷却材誘導環状部材8の内面に沿って上昇するとき、その冷却水に含まれた蒸気の気泡が分離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉に係り、特に、気水分離器を備えた沸騰水型原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
改良型沸騰水型原子炉(以下、ABWRという)は、原子炉圧力容器、複数の燃料集合体が装荷された炉心、炉心シュラウド及び複数のインターナルポンプを備えている。原子炉圧力容器内で、炉心シュラウドが炉心を取り囲んでいる。インターナルポンプが原子炉圧力容器の底部に設置され、インターナルポンプのインペラが炉心シュラウドと原子炉圧力容器の間に形成された環状のダウンカマ内に配置される。シュラウドヘッドが、炉心の上方で炉心シュラウドに取り付けられる。複数の気水分離器がシュラウドヘッドに取り付けられる。蒸気乾燥器が、気水分離器の上方で原子炉圧力容器内に設置される。
【0003】
ダウンカマ内の冷却水は、インターナルポンプで昇圧されて炉心に供給される。この冷却水は、炉心内において、燃料集合体に含まれる核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気なる。気水分離器が蒸気に含まれている水を除去する。気水分離器から排出された蒸気は蒸気乾燥器に供給され、蒸気に含まれた湿分が蒸気乾燥器で除去される。その後、蒸気は、原子炉圧力容器から主蒸気管に排出され、タービンに導かれる。
【0004】
タービンから排出された蒸気が、復水器で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管を通して原子炉圧力容器に供給される。気水分離器で分離された水は、給水配管で供給された給水と混合され、ダウンカマに流入する。
【0005】
気水分離器は、炉心に供給された冷却水及び炉心で発生した蒸気を含む気液二相流を蒸気と水に分離する機能を有する。気水分離器で分離されて排出される冷却水は、一定量の蒸気を含んでいる。この蒸気の、分離された冷却水に対する重量比をキャリーアンダーという。キャリーアンダーが大きい場合には、それだけ多くの蒸気が、分離された冷却水とともにシュラウドヘッドに沿ってダウンカマ内に流入することになる。このため、インターナルポンプでキャビテーションが発生する恐れがある。
【0006】
インターナルポンプの替りに再循環ポンプを用いた沸騰水型原子炉でも、キャリーアンダーが大きい場合には、再循環ポンプでキャビテーションが発生する恐れがある。また、インターナルポンプ及び再循環ポンプを備えていない自然循環型沸騰水型原子炉では、キャリーアンダーが大きい場合には、ダウンカマ内の冷却水の密度が小さくなる。このため、冷却水の自然循環流量が低下する恐れがある。
【0007】
このため、気水分離器に対し、キャリーアンダーを設定値以下にすることが要求されている。
【0008】
気水分離器で分離されてダウンカマ内に流入する冷却水に、前述したように、給水配管から供給される、冷却水より温度が低い給水が混合されるので、気水分離器で分離された冷却水に含まれる蒸気の凝縮が促進される。
【0009】
気水分離器におけるキャリーアンダーの低減は、例えば、気水分離器に形成された、分離された冷却水の排水流路に流量制限体などを設置して排水量を調整することによって行われる。気水分離器に流量制限体を設けてキャリーアンダーを低減する気水分離器が、特開平7−151892号公報に記載されている。キャリーアンダー性能を広範囲の運転条件において最適化するように、原子炉水位が高く、気水分離器の排水流路にかかる静水圧が大きいときには、その流量制限体の抵抗値が小さくなる。
【0010】
キャリーアンダーを低減する沸騰水型原子炉の他の例が、特開平4−231898号公報に記載されている。この沸騰水型原子炉は、気水分離器を備えていなく、炉心シュラウドの上端を、上方に伸ばして原子炉圧力容器内の冷却水液面近くに配置している。炉心シュラウドの中心軸から四方に伸びる複数の桶形構造物を有する桶形部材を、炉心シュラウドの上端部に設置している。炉心から排出されて炉心シュラウド内を上昇する気液二相流に含まれた冷却水は、それぞれの桶形構造物内に流入し、炉心シュラウドの側壁に向って桶形構造物内を流れる。桶形構造物の、炉心シュラウドの側壁側の端から流出した冷却水は、ダウンカマ内に流入する。気液二相流に含まれた蒸気は、浮力により炉心シュラウドの上端から流出し、蒸気乾燥器に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−151892号公報
【特許文献2】特開平4−231898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
既設の沸騰水型原子炉に対して出力向上が検討されている。この出力向上では、炉心の熱出力を増加させるため、気水分離器の入口部でのクオリティ(全質量流量に対する蒸気質量流量の割合)が大きくなり、蒸気量が増大する。このため、気水分離器で分離されてシュラウドヘッドに沿ってダウンカマ内に流入する冷却水に含まれる蒸気の量が増加する可能性がある。沸騰水型原子炉の出力向上を行うに際して、さらなるキャリーアンダーの低減が望まれる。
【0013】
特開平7−151892号公報に記載された、流量制限体を有する気水分離器では、流量制限体の抵抗値が想定値ほど大きくならないとき、気水分離器で分離された冷却水に多量の蒸気が含まれ、キャリーアンダーを増大させる可能性がある。特に、上記した出力向上では、その懸念が大きくなる。
【0014】
特開平4−231898号公報に記載された沸騰水型原子炉は、気水分離器が設けられていないので、気水分離の効率が低くなる。桶形構造物内に流入する冷却水に同伴する蒸気の量も多くなり、キャリーアンダーが大きくなる。気水分離器を設けた沸騰水型原子炉に対して、桶形構造物を設置することは困難である。
【0015】
本発明の目的は、キャリーアンダーをさらに低減することができる沸騰水型原子炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、炉心の上方に配置されたシュラウドヘッドに取り付けられた複数の気水分離器の少なくとも一部を取り囲み、気水分離器から排出された冷却水の上昇流を発生させる上昇流発生部材を、シュラウドヘッドに設置していることにある。
【0017】
気水分離器から排出されて蒸気の気泡を含む冷却水が上昇流発生部材によって上昇流になったとき、この上昇流に含まれるその気泡に、気泡の浮力に加えて上昇流による上向きの速度が作用する。このため、気泡の上昇力が増大し、冷却水の上昇流から分離されて原子炉圧力容器内に形成された液面よりも上方に抜け出す蒸気の気泡が増大する。このため、沸騰水型原子炉のキャリーアンダーをさらに低減することができる。
【0018】
好ましくは、複数の気水分離器の全てを取り囲む上昇流発生部材は、複数の気水分離器の全てを取り囲んで原子炉圧力容器に設置された筒状の蒸気乾燥器スカートよりも原子炉圧力容器の軸心側に配置され、上昇流発生部材の上端は蒸気乾燥器スカートの下端よりも下方に位置していることが望ましい。
【0019】
上昇流発生部材は、複数の気水分離器の全てを取り囲んで原子炉圧力容器に設置された筒状の蒸気乾燥器スカートよりも原子炉圧力容器の軸心側に配置されているので、上昇流発生部材の作用によって冷却水の流れから分離された蒸気は蒸気乾燥器内に導かれ、この蒸気に含まれた湿分が蒸気乾燥器で除去される。このため、原子炉圧力容器からタービンに供給される蒸気の湿り度が減少する。また、上昇流発生部材の上端が蒸気乾燥器スカートの下端よりも下方に位置しているので、上昇流発生部材の内側から、炉心を取り囲む炉心シュラウドと原子炉圧力容器の間に形成されたダウンカマに冷却水を導く通路の圧力損失が低減され、上昇流発生部材よって上昇した冷却水を容易にダウンカマに導くことができる。
【0020】
好ましくは、上昇流発生部材は、筒状体であり、前記冷却水の一部を通す冷却水通路を形成していることが望ましい。この冷却水通路の形成によって、上昇流発生部材の設置による圧力損失の増加を抑制し、気水分離器間に形成される上記液面の上昇を抑えることができる。その冷却水通路は、例えば、貫通孔及びスリットである。
【0021】
好ましくは、筒状体である上昇流発生部材の内面に、蒸気溜まりを下側に生成する突起部材を設けることが望ましい。この突起部材によって、上昇流に伴って上昇する蒸気の複数の気泡が捕捉されて合体する。合体によって生成された気泡は、体積が増大し、その分、浮力も大きくなる。突起部材の下方から上昇流中に放出された、合体した気泡は、浮力が大きくなる分、上昇流から分離されやすくなる。この結果、沸騰水型原子炉のキャリーアンダーがさらに低減される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、沸騰水型原子炉のキャリーアンダーをさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の沸騰水型原子炉の縦断面図である。
【図2】図1に示す冷却材誘導環状部材の斜視図である。
【図3】図2に示す冷却材誘導環状部材の縦断面図である。
【図4】本発明の他の実施例である実施例2の沸騰水型原子炉の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0025】
本発明の好適な一実施例である実施例1の沸騰水型原子炉を、図1、図2及び図3を用いて説明する。
【0026】
本実施例の沸騰水型原子炉1は、原子炉圧力容器2、炉心3、炉心シュラウド4、シュラウドヘッド5、複数の気水分離器6、蒸気乾燥器7、冷却材誘導環状部材(上昇流発生部材)8及び複数のインターナルポンプ12を備えている。沸騰水型原子炉1はABWRである。
【0027】
複数の燃料集合体(図示せず)が装荷された炉心3が、原子炉圧力容器2内に配置される。炉心シュラウド4は、原子炉圧力容器2内に設置され、炉心3を取り囲んでいる。環状の領域であるダウンカマ13が、原子炉圧力容器2と炉心シュラウド4の間に形成される。シュラウドヘッド5が、炉心シュラウド4の上端部に取り付けられて、炉心3を覆っている。複数の気水分離器6が、原子炉圧力容器2内に配置されてシュラウドヘッド5に取り付けられ、シュラウドヘッド5から上方に向かって伸びている。蒸気乾燥器7が、原子炉圧力容器2内で気水分離器6の上方に配置され、原子炉圧力容器2の内面に設置された複数の支持部材16で支持されている。
【0028】
複数のインターナルポンプ12が原子炉圧力容器2の底部に設置され、インターナルポンプ12のインペラ(図示せず)がダウンカマ13内に配置される。主蒸気配管14が支持部材16よりも上方で原子炉圧力容器2に接続され、給水配管15が支持部材16よりも下方で原子炉圧力容器2に接続される。
【0029】
円筒である蒸気乾燥器スカート11が、気水分離器6の最外周の配列を取り囲み、原子炉圧力容器2内に配置される。蒸気乾燥器スカート11の上端部が各支持部材16に取り付けられ、蒸気乾燥器スカート11が支持部材16から下方に向かって伸びている。
【0030】
冷却材誘導環状部材8がシュラウドヘッド5の上面に設置され、シュラウドヘッド5に取り付けられた、全ての気水分離器6の周囲、具体的には、全ての気水分離器6のスタンドパイプ17の周囲を取り囲んでいる。複数の貫通孔(またはスリット)9が、冷却材誘導管状部材8の下端部に形成される(図2参照)。冷却材誘導管状部材8から内側に突出して下側に蒸気溜まり19を形成する複数の環状突起部材10が、冷却材誘導管状部材8の内面に設置される(図3参照)。これらの環状突起部材10が冷却材誘導管状部材8の軸方向に配置されている。冷却材誘導管状部材8の下端部は内側に向って傾斜している。冷却材誘導管状部材8の下端の内径は、環状突起部材10が設けられている冷却材誘導管状部材8の円筒部の内径よりも小さくなっている。
【0031】
冷却材誘導管状部材8の上端は蒸気乾燥器スカート11の下端よりも下方に位置しており、冷却材誘導管状部材8の上端と蒸気乾燥器スカート11の下端の間には、スタンドパイプ17の間を流れる冷却水をダウンカマ13に導く通路が形成されている。冷却材誘導管状部材8の直径は蒸気乾燥器スカート11の直径よりも小さい。このため、冷却材誘導管状部材8は、蒸気乾燥器スカート11よりも、原子炉圧力容器2の軸心側に配置されている。
【0032】
沸騰水型原子炉1の運転時において、ダウンカマ13内の冷却水がインターナルポンプ12で昇圧されて炉心3に供給される。この冷却水は、炉心3内で、燃料集合体に含まれる核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気なる。蒸気の発生によって生成される、蒸気及び冷却水を含む気液二相流が、炉心3から上昇して各気水分離器6内に供給される。各気水分離器6は、気液二相流に含まれている冷却水を分離し、蒸気を上方に排出する。気水分離器6から排出された蒸気は蒸気乾燥器7に供給される。蒸気に含まれた湿分が蒸気乾燥器7によってさらに除去される。その後、蒸気は、原子炉圧力容器2から主蒸気管14に排出され、主蒸気管14を通してタービン(図示せず)に供給される。タービンが蒸気によって回転され、タービンに連結された発電機(図示せず)も回転する。この発電機によって発電が行われる。タービンから排出された蒸気が、復水器(図示せず)で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管15を通して原子炉圧力容器2内に供給される。
【0033】
気水分離器6で分離された冷却水は、気水分離器6相互間に形成された領域20に排出される。気水分離器6は、軸方向に、三段の気水分離機構を備えている。最も上流に位置する一段目の気水分離機構に形成された、分離された冷却水を排出する第1排出口は、原子炉圧力容器2内で蒸気乾燥器スカート11の内側に形成される冷却水の液面21よりも下方に配置される。上流から二段目の気水分離機構に形成された、分離された冷却水を排出する第2排出口、及び三段目の気水分離機構に形成された、分離された冷却水を排出する第3排出口は、キャリーアンダーを抑制するために、それぞれ、液面21よりも上方に配置される。各段の気水分離機構は、気液二相流に含まれた冷却水を分離する。流入する気液二相流に含まれた冷却水の大部分が、一段目の気水分離機構で除去される。二段目の気水分離機構及び三段目の気水分離機構と下流に行くほど、分離された冷却水と共に第2排出口及び第3排出口から排出される蒸気の量が増える。しかしながら、気液二相流に含まれた蒸気の大部分は、三段目の気水分離機構の上端に形成された蒸気排出口から排出される。
【0034】
蒸気乾燥器スカート11が、気水分離器6の最外周の配列を取り囲み、原子炉圧力容器2内に配置されていることにより、第1排出口から分離された冷却水と共に排出された蒸気の一部は、領域20内の冷却水中を浮力により上昇し、液面21の上方の空間に到達する。この蒸気は、第2及び第3排出口からそれぞれ排出される蒸気と共に上昇し、蒸気乾燥器7内に流入する。
【0035】
蒸気乾燥器スカート11の設置によって、第1、第2及び第3排出口から排出された蒸気が蒸気乾燥器7を通過しないで支持部材16の間を通って蒸気乾燥器7の上方に到達することが防止される。蒸気乾燥器スカート11は、第1、第2及び第3排出口から排出されて上昇する蒸気を蒸気乾燥器7に導く機能を有する。
【0036】
二段目の気水分離機構で分離されて第2排出口から排出された冷却水、及び三段目の気水分離機構で分離されて第3排出口から排出された冷却水は、気水分離器6の相互間に形成された液面21に向って落下する。一段目の気水分離機構で分離されて第1排出口から排出された冷却水は、第1排出口から排出された蒸気のうち、液面21に向って上昇しなかった蒸気を含み、さらに、第2及び第3排出口から落下した冷却水と共に、領域20内を、シュラウドヘッド5の上面に沿ってダウンカマ13に向って流れる。
【0037】
この冷却水の流れの一部は、冷却材誘導環状部材8に形成された複数の貫通孔9を通ってダウンカマ13内に達する。残りの冷却水流、すなわち、シュラウドヘッド5の上面に沿って流れる冷却水流の大部分は、冷却材誘導環状部材8の内面に沿って上昇し、冷却材誘導管状部材8の上端と蒸気乾燥器スカート11の下端の間を通って冷却材誘導環状部材8と原子炉圧力容器2の間に形成される環状領域に流入する。ここで、給水配管15から供給された給水が、冷却材誘導環状部材8の上端を越えて流下する冷却水に混合される。
【0038】
冷却材誘導環状部材8の上端を越えて流下して給水が混合された冷却水、及び貫通孔9を通過した冷却水は、ダウンカマ13内を下降し、インターナルポンプ12によって加圧されて炉心3に供給される。
【0039】
本実施例では、冷却材誘導環状部材8の設置により、領域20内をシュラウドヘッド5の上面に沿って流れる冷却水が、この冷却水に含まれた蒸気の気泡の浮力が作用する上方に向かって、冷却材誘導環状部材8の内面に沿って流れる。これは、浮力が作用している、冷却水中の蒸気の気泡に、冷却水流による上向きの速度を付与することになる。このため、その冷却水流に含まれる、密度が小さい蒸気の気泡の上昇力が、冷却水流の上向きの速度、及び浮力の作用によって大きくなり、液面21よりも上方に到達しやすくなる。それだけ、冷却水に含まれる蒸気の気泡が、冷却水から分離されることになる。この結果、冷却材誘導環状部材8の上端を越えてダウンカマ13内に流入する冷却水に含まれる蒸気の気泡が減少する。すなわち、キャリーアンダーが低減される。
【0040】
冷却材誘導環状部材8の設置によりキャリーアンダーを低減できるので、インターナルポンプ12でのキャビテーションの発生を防止することができ、沸騰水型原子炉1で出力向上を行うことができる。
【0041】
冷却材誘導環状部材8の内面に沿って流れる冷却水の上昇流の発生によって冷却水から分離された蒸気の気泡は、蒸気乾燥器スカート11の内側で、液面21よりも上方に到達する。冷却材誘導環状部材8の外径が蒸気乾燥器スカート11の内径よりも小さいので、冷却材誘導環状部材8の設置によって生じる上記した上昇流によって冷却水から分離された蒸気の気泡が、原子炉圧力容器2と蒸気乾燥器スカート11の間に形成される環状領域に流入することがなくなる。このため、原子炉圧力容器2から主蒸気管14に排出される蒸気は、必ず、蒸気乾燥器7を通った蒸気となり、タービンに供給される蒸気の湿り度を低下させることができる。
【0042】
領域20内を流れる冷却水の温度よりも低い温度の給水が給水配管15から原子炉圧力容器2内に供給される。冷却材誘導環状部材8の上端を越えて流れる冷却水がその給水と混合されるので、領域20内を流れる冷却水に含まれている蒸気の凝縮が促進される。このため、インターナルポンプ12に流入する冷却水に含まれた蒸気の気泡がさらに低減される。
【0043】
本実施例は冷却材誘導環状部材8の下端部に複数の貫通孔9を形成しているが、これらの貫通孔9を形成していない冷却材誘導環状部材8を用いることも可能である。貫通孔9を形成しない場合には、貫通孔9を通過していた冷却水も冷却材誘導環状部材8に沿って上昇するので、上昇する冷却水の量が増加する。このため、貫通孔9を形成していない冷却材誘導環状部材8の設置は、その上昇流の作用により分離される蒸気の気泡を増大させる。この結果、キャリーアンダーがさらに低減される。
【0044】
しかしながら、上記の効果をもたらす貫通孔9を形成していない冷却材誘導環状部材8は、冷却材誘導環状部材8が設置されていない場合に比べて、領域20内を原子炉圧力容器2の内面に向かって流れる冷却水流に対して流動抵抗を増大させる。貫通孔9を形成していない冷却材誘導環状部材8により上記の冷却水流の流動が抑制されることによって生じる圧力損失の増大分だけ、気水分離器6の相互間に形成される液面21が上昇する。液面21の上昇は、原子炉水位制御の余裕を減少させることになる。
【0045】
本実施例は、冷却材誘導環状部材8に複数の貫通孔9を形成しているので、冷却材誘導環状部材8の設置による圧力損失の増加を低減することができ、領域20内での液面21の上昇を抑制することができる。貫通孔9を通過する冷却水に一部の蒸気の気泡が含まれているが、冷却材誘導環状部材8の設置によって生じる冷却水の上昇流の作用によって分離される蒸気の気泡の量が多いので、キャリーアンダーを低減することができる。
【0046】
貫通孔9の形成によって、冷却材喪失事故時に炉心3内の燃料集合体を冷やす冷却水が冷却材誘導環状部材8内に溜まらないようにすることも可能である。
【0047】
本実施例の沸騰水型原子炉1が既設の原子炉である場合で出力向上を行った場合には、炉心流量が増加するため、蒸気乾燥器7における蒸気速度が大きくなり、蒸気乾燥器7の圧力損失が大きくなる。このとき、領域20内で気水分離器6の相互間に形成される液面21が、原子炉圧力容器2と蒸気乾燥器スカート11の間に形成される液面22が同じように制御されるとすれば、蒸気乾燥器7の圧力損失の増大分だけ、液面21が液面22よりも低くなる。液面21が蒸気乾燥器スカート11の下端よりも低くなった場合には、気水分離器6から排出された蒸気であって、蒸気乾燥器スカート11の下端と低下した液面21の間、及び原子炉圧力容器2と蒸気乾燥器スカート11の間を通って主蒸気管14に排出される蒸気が多くなる。この蒸気は、蒸気乾燥器7を通っていないので、湿分を多く含んでいる。このため、主蒸気管14を通して湿分の多い蒸気がタービンに供給される恐れがある。
【0048】
本実施例では、貫通孔9を形成した冷却材誘導環状部材8による圧力損失の増加分だけ、液面21が上昇するので、沸騰水型原子炉1で出力向上を行っても、液面21が蒸気乾燥器スカート11の下端よりも上方に位置している。このため、気水分離器6から排出された蒸気が、原子炉圧力容器2と蒸気乾燥器スカート11の間を通って主蒸気管14に排出されることがなくなり、必ず、蒸気乾燥器7を通過する。タービンに供給する蒸気の湿分含有量が著しく低下する。
【0049】
冷却材誘導環状部材8は内面から中心軸に向って突出した環状突起部材10を設けているので、この環状突起部材10の作用によって分離される蒸気の気泡がさらに増加する。蒸気の気泡を含む冷却水が冷却材誘導環状部材8の内面に沿って上昇するとき、環状突起部材10によって冷却水の上昇流に含まれる蒸気の気泡が捕捉される。捕捉された蒸気の気泡が各環状突起部10の下方に溜まり、各環状突起部10の下方に蒸気溜まり19が形成される。上昇流に含まれた体積が小さいその気泡も、各環状突起部10の下方に形成された蒸気溜まり19に集まることによって気泡の合体が促進される。合体によって大きくなった気泡は、各環状突起部10の内側端から上昇流中に放出される。放出された蒸気の気泡は、体積が大きいので、その分、浮力が大きくなり、蒸気乾燥器スカート11の下端よりも上方に上昇しやすくなる。したがって、液面21よりも上方に達する、体積の大きな蒸気の気泡が増加する。環状突起部材10を設けた冷却材誘導環状部材8は、環状突起部材10を設けていない冷却材誘導環状部材8に比べて、ダウンカマ13内に流入する冷却水に含まれた蒸気の気泡がさらに低減され、キャリーアンダーがさらに低減される。
【0050】
本実施例は、インターナルポンプではなく再循環ポンプを設けた再循環系配管を備えた沸騰水型原子炉、及び自然循環型沸騰水型原子炉にも適用することができる。
【実施例2】
【0051】
本発明の他の実施例である実施例2の沸騰水型原子炉を、図4を用いて説明する。本実施例の沸騰水型原子炉1Aは、実施例1の沸騰水型原子炉1において複数の冷却材誘導環状部材24を追加した構成を有する。沸騰水型原子炉1Aの他の構成は沸騰水型原子炉1と同じである。
【0052】
円筒部材である複数の冷却材誘導環状部材24は、例えば、同心円状にシュラウドヘッド5の上面に設置され、気水分離器6のスタンドパイプ17間に配置される。これらの冷却材誘導環状部材24にも、冷却材誘導環状部材8と同様に、複数の貫通孔9及び環状突起部材10を設けてもよい。 本実施例も、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は、複数の冷却材誘導環状部材24を設置しているので、以下の効果を得ることができる。周辺部に配置された気水分離器6を除いた各気水分離器6で分離された冷却水は、少なくとも1つの冷却材誘導環状部材24の内面に沿って上昇する上昇流となる。この上昇流の生成によって、冷却材誘導環状部材8と同様に、この上昇流含まれている蒸気の気泡の分離を促進することができる。本実施例は、冷却材誘導環状部材8だけでなく、冷却材誘導環状部材24によっても蒸気の気泡の分離を行うことができるので、実施例1よりもさらにキャリーアンダーを低減することができる。
【0053】
冷却材誘導環状部材8を設置しないで冷却材誘導環状部材24を1つだけ設けても、冷却材誘導環状部材24も設置しない場合に比べてキャリーアンダーを低減することができる。
【0054】
本実施例も、再循環ポンプを設けた再循環系配管を備えた沸騰水型原子炉、及び自然循環型沸騰水型原子炉に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、沸騰水型原子炉に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1,1A…沸騰水型原子炉、2…原子炉圧力容器、3…炉心、4…炉心シュラウド、5…シュラウドヘッド、6…気水分離器、7…蒸気乾燥器、8,24…冷却材誘導管状部材、9…貫通孔、10…環状突起部材、11…蒸気乾燥器スカート、12…インターナルポンプ、13…ダウンカマ、17…スタンドパイプ、20…領域、21,22…液面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器内に設置され、前記原子炉圧力容器内に配置された炉心を取り囲む炉心シュラウドと、前記原子炉圧力容器内で前記炉心の上方に配置され、前記炉心シュラウドの上端部に取り付けられたシュラウドヘッドと、前記シュラウドヘッドに取り付けられ、前記原子炉圧力容器内で前記シュラウドヘッドより上方に伸びている複数の気水分離器と、前記シュラウドヘッドに取り付けられて前記複数の気水分離器の少なくとも一部を取り囲み、前記気水分離器から排出された冷却水の上昇流を発生させる上昇流発生部材とを備えたことを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項2】
前記上昇流発生部材は、前記複数の気水分離器の全てを取り囲んでいる請求項1に記載の沸騰水型原子炉。
【請求項3】
前記原子炉圧力容器内で前記気水分離器の上方に配置され、前記原子炉圧力容器に設置される蒸気乾燥器と、前記蒸気乾燥器の下方に配置され、前記複数の気水分離器の全てを取り囲んで前記原子炉圧力容器に設置された筒状の蒸気乾燥器スカートとを備え、
前記上昇流発生部材は、蒸気乾燥器スカートよりも前記原子炉圧力容器の軸心側に配置され、前記上昇流発生部材の上端は前記蒸気乾燥器スカートの下端よりも下方に位置している請求項2に記載の沸騰水型原子炉。
【請求項4】
前記上昇流発生部材は、筒状体であり、前記冷却水の一部を通す冷却水通路を形成している請求項1ないし3のいずれか1項に記載の沸騰水型原子炉。
【請求項5】
筒状体である前記上昇流発生部材の内面に、蒸気溜まりを下側に生成する突起部材を設けた請求項1ないし4のいずれか1項に記載の沸騰水型原子炉。
【請求項6】
筒状体であって横断面の大きさが異なる複数の前記上昇流発生部材が、横断面の大きさが小さい前記上昇流発生部材を横断面の大きさが大きい他の前記上昇流発生部材で取り囲むように配置されている請求項1に記載の沸騰水型原子炉。
【請求項7】
最も外側に配置された前記上昇流発生部材が、前記複数の気水分離器を全て取り囲んでいる請求項6に記載の沸騰水型原子炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−210529(P2010−210529A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58797(P2009−58797)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)