説明

油の酸化劣化の簡易判定法と再生法

【課題】実際の(実地の)機械装置系に適用できる簡単、簡便な油の酸化劣化の簡易判定法とその結果を利用した簡単、簡便な油の再生法(油の酸化劣化の簡易制御法)を提供する。
【解決手段】 所定の機械装置系に適用されている、酸化防止剤を特定することが困難であるが不特定の酸化防止剤を含有している油(潤滑油、油圧作動油)、の酸化劣化の進行状況を簡易に判定する方法において、当該機械装置系に適用されている油をメンブランフィルター分析により、
(1).第1回目のメンブランフィルター測定時、及び、
(2).前記第1回目のメンブランフィルター測定時より所定の時間後の第2回目のメンブランフィルター測定時、
の結果を比較し、油の酸化劣化の進行状況を判定する、ことを特徴とする油の酸化劣化の簡易判定法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の機械装置系に適用されている潤滑油や油圧作動油などの油(以下、単に「油」という。)の酸化劣化の進行状況を簡単、簡便に判定する方法とそれに基づく油の再生法に関する。
【0002】
更に詳しくは、本発明は、メンブランフィルター分析という簡単、簡便な分析手法によって油の酸化劣化の進行状況を正確に判定する油の酸化劣化の簡易判定法、及び、前記簡易判定法をベースにして油の酸化劣化を適切に制御する方法、別言すれば、油の再生法に関する。
【背景技術】
【0003】
各種の機械装置系に適用される潤滑油や油圧作動油は、熱などにより酸化劣化を受けるため、油には必須的に酸化防止剤が配合され、かつ、その他の粘度調整剤や防錆剤などの各種の目的に応じた添加成分が配合されて構成されている。
【0004】
新しい油(新油)の製造・供給メーカーにおいて、これら酸化防止剤などの全ての添加成分やその調合法(調合の内容)は、正確には外部の者に開示していないのが現状である。
また、添加される酸化防止剤の化合物名や配合量が正確にわかったとしても、酸化防止剤と他の配合成分との相互作用、相互反応などにより、その酸化防止機能が経時的にどのように変化していくのかは、正確に把握することが困難な状況にある。
【0005】
一般に、油の酸化防止剤の残存率(残存量)を調べる方法としては、次のものがある。
(1).RPVOT法(Rotating Pressure Vessel Oxidation Test )/回転圧力容器の酸化テスト[ASTM D2272]:
これは、JIS K 2514 に関係するテスト法であり、潤滑油の基油やタービン油などの酸化安定度を評価する方法である。また、この方法は、油製品の管理や使用中の油の残存寿命の推定などに用いられている。
【0006】
(2).RULER法(Remaining Useful Life Evaluation Routine )[ASTM D6810]:
これは、電気化学的な測定技術であり、コンパクトで携帯型であり、石油製品の酸化防止剤のレベルを測定するのに有用である。しかし、この測定法で酸化防止剤が十分に残存していると判定されても、機械の中に茶色の油の酸化変質物が存在したり、油をメンブランフィルターで分析すると、メンブランフィルター上に油の酸化生成物である茶色の物質が検出されることが多々ある。
【0007】
油の酸化変質はホットスポットといわれ、機械内の極く限られた箇所で瞬間的に高温の状態が作られ、それによって油の酸化変質が始まる。従って、バルクの状態での油中の酸化変質物の有無を調べても、ホットスポットで油の酸化変質が始まったかどうかを知ることができない。
前記した従来の油の酸化防止剤の残存率(残存量)の測定方法は、バルク状態での油の酸化安定性を正確に測定することができても、これをもって実際の(実地の)機械装置系に適用されている油の酸化安定性を評価するために使用することができないという欠点がある。
これは、実際の(実地の)機械装置系においては、機器の内面等においては沢山の油の酸化生成物(油の酸化変質物)が存在し、これが油圧フィルターの目詰まりや油圧制御弁の固着などの欠点を誘発させるためである。
【0008】
従って、実際の機械装置系において、油に必須的に配合されている酸化防止剤の化合物名や配合量、あるいは、他の添加剤などが油供給メーカーによって詳しい情報が提供さていなくとも、油の酸化安定性を実際の機械装置系に則して簡単・簡便に、かつ、正確に判定、評価することができる油の酸化劣化の簡易判定法が強く求められている。
また、前記した油の酸化劣化の簡易判定法は、実際の機械装置系における油の酸化劣化を防止するツールとして使用することができること、別言すれば、実際の機械装置系に適用されている油の中に油の酸化生成物が発生しているかどうかを確かめること、また油の酸化防止剤が酸化生成物の発生を十分抑制できているかを知ること、ならびにタイムリーな(時宜を得た)再生を行う時期(時宜を得て酸化劣化の防止を図るために)を判定すること、が強く求められている。
【0009】
前記した観点からみた簡単、簡便な油の酸化劣化の簡易判定法と、それに基づく簡単、簡便な油の再生法(油の酸化劣化の簡易制御法)は、従来技術には存在しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、前記した従来技術の限界に鑑み、新しい油の酸化劣化の評価法と油の再生法について、鋭意、検討を加えた。
その結果、本発明者は、メンブランフィルター分析法という極めて簡単、簡便な分析手法を採用することにより、極めて実用的な油の酸化劣化の評価法と油の再生法を確立することができる、という知見を見出した。
本発明は、前記知見をベースにして創案されたものであり、本発明により簡単、簡便な油の酸化劣化の簡易判定法と、それを利用した簡単、簡便な油の再生法(油の酸化劣化の簡易制御法)が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、所定の機械装置系に適用されている、酸化防止剤を特定することが困難であるが不特定の酸化防止剤を含有している油(潤滑油、油圧作動油)、の酸化劣化の進行状況を簡易に判定する方法において、当該機械装置系に適用されている油をメンブランフィルター分析により、
(1).第1回目のメンブランフィルター測定時、及び、
(2).前記第1回目のメンブランフィルター測定時より所定の時間後の第2回目のメンブランフィルター測定時、
の結果を比較し、油の酸化劣化の進行状況を判定する、ことを特徴とする油の酸化劣化の簡易判定法、および、前記油の酸化劣化の簡易判定法をベースとした油の再生法(油の酸化劣化の簡易制御法)に関する。
【0012】
更にまた、本発明の第2の発明は、所定の機械装置系に適用されている、酸化防止剤を特定することが困難であるが不特定の酸化防止剤を含有している油(潤滑油、油圧作動油)、の酸化劣化の進行状況を簡易に把握する方法において、当該機械装置系に適用されている油をメンブランフィルター分析により、
(1).第1回目のメンブランフィルター測定時に採取したサンプル油のメンブランフィルター結果を求め、かつ、
(2).前記第1回目のメンブランフィルター測定時に採取したサンプル油に所定割合の同種の新油を添加した新油添加油を作製し、次いで、
(3).前記第1回目のメンブランフィルター測定時より所定の時間後に、これらサンプル油及び新油添加油のメンブランフィルター結果を求め、
(4).前記サンプル油及び新油添加油の第1回目〜第2回目のメンブランフィルター結果を比較し、油の酸化劣化の進行状況を判定する、
ことを特徴とする油の酸化劣化の簡易判定法、および、前記油の酸化劣化の簡易判定法をベースとした油の再生法(油の酸化劣化の簡易制御法)に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、実際の機械装置系に適用されている潤滑油や油圧作動油などの機械油の酸化劣化の進行状況をメンブランフィルター分析という極めて簡単、簡便な分析手法により正しく評価することができる油の酸化劣化の簡易判定法が提供される。
【0014】
また、本発明により、前記油の酸化劣化の簡易判定法を利用して所定の期間使用された機械装置系に対し、同種の新しい油(新油)の追油を行うことによる簡単、簡便な油の再生法(油の酸化劣化の簡易制御法)が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の技術的構成について、実施例とともに更に詳しく説明する。
【0016】
酸化防止剤が必須的に配合されている油を各種の機械装置系で長期間使用したり、あるいは、短期間であっても高温下で使用したり、過酷な条件下で使用したりすると、油は酸化劣化し、当然のことながら酸化防止剤は消耗する。
この油の酸化劣化の経時変化の過程(プロセス)は、後述する実施例1で参照される図1に示されるように、油に溶けない物質ならば、サイズに関係なくサブミクロンの粒子まで除去することができる本出願人の(株)クリーンテック社で製造販売している静電浄油機[ 高圧電場内での集塵体による油の浄油装置]のEDC−R50を用いて使用油を浄化し、この浄化された使用油を化学分析用のメンブランフィルターによりろ過して確認することができる。図示されるように、浄油直後のサンプル油あるいは一日放置したサンプル油では、メンブランフィルターは真っ白で汚染物は見当たらない。しかし、経時変化の過程(プロセス)を見て取れる。
【0017】
しかしながら、前記した浄油直後のサンプル油あるいは一日放置したサンプル油を放置日数を長くして放置すると、それに応じてメンブランフィルターの色が茶色になるとともに色調が濃くなる。
これは、サンプル油中に存在していた油劣化成分であるフリーラジカルにより油が酸化劣化し、高分子化した油の酸化変質物が生成し、これがフィルター上に析出したためである。
【0018】
油を含めた炭化水素化合物の酸化劣化反応は、よく知られた次の3段階の反応を経て高分子化したスラッジを生成する。
1.第一段階反応:下式(1)による炭化水素化合物分子のせん断によるフリーラジカルの生成反応。
(1)RH→R・ + H・
[但し、RHは炭化水素化合物、R・はフリーラジカル、H・は水素原子や低分子炭化水素のフリーラジカルを示す。]
2.連鎖反応:上式(1)で出来たフリーラジカルが油中の酸素と反応した下式(2)によるパーオキシラジカル(RCOO・)の生成反応と、下式(3)によるパーオキシラジカル(RCOO・)と他の新しい炭化水素化合物(RH)との反応によるハイドロパーオキサイド(RCOOH)と新たなフリーラジカル(R・)の生成反応。
(2)R・ + O → ROO・
(3)ROO・ + RH → ROOH + R・
3.油の酸化変質物の高分子化反応:この反応は複雑のため反応式で示さないが、要すれば、この反応はハイドロパーオキサイドの分解、重合、縮合反応により油の酸化変質物が高分子化する反応である。
【0019】
油に必須的に添加、配合される酸化防止剤は、前記したフリーラジカルを不活性化して連鎖反応を停止させたり、ハイドロパーオキサイドと反応して不活性な化合物にする働きを有するものである。
油の酸化変質物の生成を抑えるために酸化防止剤は、必須の添加成分であるが、これは油の使用下で当然のことながら消耗することになる。
前記したように実際の(実地の)機械装置系において、酸化防止剤がどの程度、消耗したかを正確に、かつ、簡便に測定する方法は開発されておらず、また、油の酸化劣化を時宜を得て(タイムリーに)回復させる(再生させる)再生方法も開発されていないのが現状である。
【0020】
本発明は、前記したようにメンブランフィルター分析という簡単、簡便な分析手法をベースにして、油に配合される酸化防止剤、あるいは、酸化防止剤の機能発現に何らかの影響力があると思われる他の添加成分の成分名や配合量などが不明であっても(新油の製造・供給メーカーによっては、企業秘密・差別化戦略などの観点から、これら情報を完全に提供していないのが現状である。)、実際の(実地の)機械装置系における油の酸化劣化の進行状況(酸化劣化の進展具合)を正確に、かつ、簡便に評価することができる油の酸化劣化の簡易判定法を提供しようとするものである。
【0021】
また、本発明は、前記メンブランフィルター分析法をベースとした油の酸化劣化の簡易判定法の結果を利用して、当該機械装置系に適用されている同種の新油(同一メーカー、同一品番の新油であり、当然のことながら元の油と同じ酸化防止剤などの添加剤が入っていて、ここには消耗されていない残りの添加成分などとの反応によって油に不溶性の物質を生成することもない。)を時宜を得て(タイムリーに)当該機械装置系に追油することにより、当該機械装置系の安全、安定運転を可能とする簡便な油の再生法(油の酸化劣化の制御法)を提供しようとするものである。
【0022】
本発明において、機械装置系の使用油の酸化安定性の評価において、前記したようにメンブランフィルター分析という簡単、簡便な手法を用いる。
このメンブランフィルター分析は、通常のメンブランフィルター分析装置、即ち、直径25mm、あるいは47mm、孔径0.8ミクロンのメンブランフィルター、ろ過セット、ろ過瓶、真空ポンプ、真空ホースなどを備えた通常のメンブランフィルター分析装置を用いればよい。
【0023】
本発明において、実際の(実地の)機械装置系において、所定期間後に使用油の酸化安定性(酸化防止剤の消耗度)を評価するために使用油のサンプリングを行い、次いでメンブランフィルター分析に付される。サンプリング油は、サンプリング当日、及び、その後、所定のインターバル、例えば、2日後、3日後、7日後、1〜2週間後にメンブランフィルター分析に付され、使用油の酸化安定性(酸化防止剤の消耗度)が評価される。
【0024】
本発明において、実際の(実地の)機械装置系において、使用油と同種の追油による使用油の再生(油の酸化劣化の制御)を図るために、所定期間後に使用油のサンプリングを行い、その直後にサンプリング油(新油を添加、追油しないもの)、10%、20%、30%、40%など所定量の新油を添加、追油した試験油を作成し、これらについて経時にメンブランフィルター分析を行い、使用油の再生にとって最適な新油の添加量、追油量を決定する。
【実施例1】
【0025】
この実施例1は、所定の機械装置系を静電浄油機で浄油しながら作動させ、所定期間後に使用油中の酸化防止剤の消耗度がどのように変化しているかを確認するものである。

(1)機械装置系と浄油システム:
1日20時間稼動しているプラスチック成形用の射出成形機において3年間使用している油圧作動油(2000リッター)に本出願人の(株)クリーンテック社で製造販売している静電浄油機、EDC−R50を取り付け、射出成形機を運転しながら20日間、浄油した。
(2)サンプル油とメンブランフィルター分析:
浄油が完了した油を浄油機のポンプのすぐ後に取り付けた油サンプル採取用コックから油槽内の油を抜き取り、試料油とした。
試料油をろ過するメンブランフィルター分析には、本出願人の(株)クリーンテック社で製造販売しているコンタミチェッカー(ろ過器具)を用い、メンブランフィルターとしてミリポア社の直径25mm、孔径0.8ミクロンのものを使用し、試料油20mlをろ過した。ろ過後、メンブランフィルター上に残っている油は、揮発性のよい石油エーテル(無極性の油を溶解するが、極性物質である油の酸化変質物を溶解しない溶剤)を用いて洗い出した。このことは、フリーラジカル反応により油の酸化変質物が少し発生して一ことを示している。
試料油は、採油の翌日、3日後、5日後、7日後、10日後、12日後、14日後に前記コンタミチェッカーを用いてメンブランフィルターでろ過した。
(3)メンブランフィルター分析の結果(図1参照)
採油した翌日の試料油をろ過したメンブランフィルターは、真っ白であり、油中に油の酸化生成物は発生していないことを示した。採油3日後のメンブランフィルター上には薄黄色の汚染物が捕集された。このことは、フリーラジカル反応により油の酸化変質物が少し発生していることを示している。5日目以降には、メンブランフィルター上の物質の色は茶色になり、浄油後、日数が経過するにつれて、茶色の度合いが濃くなっている。この現象は、油の使用中に酸化防止剤がほとんど消耗されていることを示している。
前記した知見は、使用油中の酸化防止剤が消耗すると、静電浄油機により油に溶けなくなった分子サイズの汚染物までをも除去したとしても、この種の射出成形機の油圧装置に使用されている通常タイプの油の酸化変質物を除去するための比較的大きな固形物しか除去できないフィルターを使用したときにみられる油の酸化変質物を取り残したのと同じ結果になることを示している。
更に、前記した知見は、油の酸化変質が起こるメカニズムを示しているだけでなく、油の酸化変質が室温という低温で、しかも攪拌により新たな空気を油中に巻き込まないという酸化反応がおき難い条件下においても、油中にフリーラジカルが存在すれば、酸化防止剤の消耗が油の酸化安定性にとって致命的になることを示しており、機械装置の潤滑不良を予防するために何をなすべきかを明確に示している。
ASTM規格などの従来の油管理の指針を使用しても、油の酸化変質の度合い(油の寿命)を一概に判定できなかったのは、機械の運転状況が工場によって、機械によって、又は加工する製品などによって千差万別であるためであり、それらの条件に左右されずに油の酸化度合いを判定する方法がないのが現状である。
そのため、一定期間を経過すると、古い油の一部を抜き取り、それに見合った新油を追油する方法が行われているが、これには明確な基準がなく、効果の判定方法もない。従って、重要な資源である油を無駄に使用するとともに、機械装置の潤滑不良を招いているのが現状である。本発明は、前記した問題に対する一つの解決方法を提供するものである。
【実施例2】
【0026】
この実施例2は、前記実施例1の所定期間後の機械装置系において、使用油中に同種の新油を追油するとき、その後の使用油の酸化安定性がどのように推移し、使用油の実用的な再生法を確立することができるかを確認するものである。
(1)機械装置系と浄油システム:
実施例1の射出成形機において、油を常時、新油のような安定した条件で使用することができる方法を確立するために、実施例1と同様に静電浄油機により浄油した。
(2)サンプル油とメンブランフィルター分析:
浄油直後の使用油を5リッター抜き取り、各1リッターずつ小分けして、5個のプラスチック・ボトルに取り分けた。
第1のボトルには新油を添加せず、残りの4個の試料油には、夫々10%、20%、30%、40%、の新油を添加して、室温で保管した。
次に、前記室温で保管した試料油を、前記実施例1の「サンプル油とメンブランフィルター分析」で説明した方法で、7日後と14日後に、0.8ミクロンのメンブランフィルターを使ってろ過した。
(3)メンブランフィルター分析の結果(図2参照)
図2の第1段目のメンブランフィルターは、新油を添加しなかった場合、7日後と14日後には明らかにフリーラジカルの反応によって茶色の酸化生成物が生成したことを示している。
第2段目のメンブランフィルターは、使用油に10%の新油を添加した場合、7日目にごく僅かの黄色い物質が析出する程度であり油の酸化防止性能が回復していること、また、同油を14日後にろ過するとはっきりと黄褐色の物質が析出することを示し、このことは10%の新油の追油ではまだフリーラジカル反応を完全に抑えるには不十分であることを示している。
第3段目と第4段目のメンブランフィルターは、使用油に20%と30%の新油を添加した場合、フリーラジカル反応を完全に抑えるのに十分であることを示している。即ち、20%以上の新油を追油すれば、使用油中のフリーラジカル反応を抑えることができることを示している。その後のフォロー試験により、20%の新油を使用油中に追油することのよって使用油の酸化安定性は約6カ月以上、30%の新油を追油したときは使用油の酸化安定性は約1年以上延び、その間、油の中には油の酸化変質物であるスラッジの発生はなかった。
【実施例3】
【0027】
この実施例3は、基油(基油それ自体)が酸化防止性能を保持し得なくなるまで使用されると、酸化防止剤を含有した新油をいくら多量に追油しても、使用油の酸化安定性を回復できないことを実証するものである。
実施例1と同じような射出成形機の油圧作動油に対して新油を添加し、油の酸化安定性を回復しようとする場合、例えば40%以上の多量を追油しても、油の酸化安定性を回復させることができないことがある。
図3は、6ミクロンのフィルターが油の主流路上に取り付けられた射出成形機の油圧作動油を2年間使用した後、実施例1と同様に本出願人の(株)クリーンテック社で製造販売している静電浄油機、EDC−R50により油中の汚染物が完全に取り除かれてメンブランフィルターが真っ白になるまで浄油した油のメンブランフィルター分析の結果を示すものである。
図3の第1段目は、静電浄油後に採取した試料油を翌日にメンブランフィルター分析したときのメンブランフィルターを示している。
翌日(1日目)の結果では全く汚染物質はみられないが、同じ油を7日後と14日後にろ過したところ、メンブランフィルター上には茶色の汚染物質が検出された。これは、油中の酸化防止剤がフリーラジカル反応を抑えることが出来なくなっていると、一応、考えることが出来る。
第2段目と第3段目は、前記試料油に20%と40%の新油を添加し、それぞれ7日後と14日後にメンブランフィルターでろ過した結果を示している。
図示されるように、20%の新油を添加しても、新油を添加しなかったときとほとんど変わらない程度の茶色の物質が検出された。これは、20%の新油ではフリーラジカル反応を抑える効果が全くないと、一応、考えることが出来る。
また、40%の新油を添加した場合、メンブランフィルターの色は薄くなっているが、まだフリーラジカル反応が起こっていると、一応、考えることが出来る。
前記したように多量の新油を添加しても油の酸化安定性を回復することができないことは、基油自体の酸化安定性に問題が生じていることを示していると、考えることが出来る。
油の酸化安定性を回復、改善するためには、二つの基本的な問題を考えなければならない。
一つは、酸化防止剤の消耗だけに起因する場合であり、このような場合には前記実施例2で説明したように、適量の新油(この中には適量の酸化防止剤が含有されている)を添加すれば油の酸化安定性は回復する。
もう一つの問題は、基油そのもの(基油自体)が本来もっている酸化に対する抵抗力を失っている場合である。このような場合、多量の新油をいくら添加しても、別言すれば、新油の添加による酸化防止剤の補給だけでは、基油が失った酸化に対する抵抗力を回復させることはできない。これは、人体が病気に対する免疫力を失ったとき、薬をいくら投与しても病気を根治することができないのと同じである。
従来、基油(基油自体)が、酸化安定性を保持、維持しているかどうかを判定する方法は知られていない。このため、従来においては、やみくもに多量の新油を添加しても効果がないために、全油量を取り替えなければならないことがあり、何故そのようなことが起こるのか、その理由がわからずに貴重な資源である新油を無駄にしていることが少なくなかった。
本発明は、少量の油を使用して、前記した基油(基油自体)の酸化安定性を簡単、簡便に判定することもできる優れた方法であり、省資源の観点からも実用的で極めて有効なものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1のメンブランフィルター分析の結果(汚染度変化)を示す図である。
【図2】本発明の実施例2のメンブランフィルター分析の結果(汚染度変化)を示す図である。
【図3】本発明の実施例3のメンブランフィルター分析の結果(汚染度変化)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の機械装置系に適用されている、酸化防止剤を特定することが困難であるが不特定の酸化防止剤を含有している油(潤滑油、油圧作動油)、の酸化劣化の進行状況を簡易に判定する方法において、当該機械装置系に適用されている油をメンブランフィルター分析により、
(1).第1回目のメンブランフィルター測定時、及び、
(2).前記第1回目のメンブランフィルター測定時より所定の時間後の第2回目のメンブランフィルター測定時、
の結果を比較し、油の酸化劣化の進行状況を判定する、ことを特徴とする油の酸化劣化の簡易判定法。
【請求項2】
請求項1の判定結果に基づいて、同種の新油を追油し、油の酸化劣化を制御(防止)することを特徴とする油の再生法。
【請求項3】
所定の機械装置系に適用されている、酸化防止剤を特定することが困難であるが不特定の酸化防止剤を含有している油(潤滑油、油圧作動油)、の酸化劣化の進行状況を簡易に把握する方法において、当該機械装置系に適用されている油をメンブランフィルター分析により、
(1).第1回目のメンブランフィルター測定時に採取したサンプル油のメンブランフィルター結果を求め、かつ、
(2).前記第1回目のメンブランフィルター測定時に採取したサンプル油に所定割合の同種の新油を添加した新油添加油を作製し、次いで、
(3).前記第1回目のメンブランフィルター測定時より所定の時間後に、これらサンプル油及び新油添加油のメンブランフィルター結果を求め、
(4).前記サンプル油及び新油添加油の第1回目〜第2回目のメンブランフィルター結果を比較し、油の酸化劣化の進行状況を判定する、
ことを特徴とする油の酸化劣化の簡易判定法。
【請求項4】
請求項3の判定結果に基づいて、同種の新油の追油量を求めるとともに追油し、油の酸化劣化を制御(防止)することを特徴とする油の再生法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−256213(P2007−256213A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84248(P2006−84248)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(506100381)株式会社 クリーンテック (1)
【Fターム(参考)】