説明

油中水型エマルション爆薬組成物

【課題】 乳化性及び経時安定性に優れ、機械装填に適した薬質を有すると共に、良好な耐水性を発揮することができる油中水型エマルション爆薬組成物を提供する。
【解決手段】 油中水型エマルション爆薬組成物は、油相を形成する油類、水相を形成する無機酸化酸塩、水相を油相に分散させるための乳化剤及び微小中空球体を含有する。乳化剤としては、親水性親油性比(HLB)が2〜5である非イオン界面活性剤とHLBが8〜14である非イオン界面活性剤とよりなり、それらの加重平均HLBが3〜6である混合乳化剤が用いられる。また、油類により形成される油相中にはα−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂が配合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は隧道掘進、採石、採鉱等の産業用の爆破作業に利用される油中水型エマルション爆薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用の爆破作業に利用される爆薬として、硝安油剤爆薬(以下、ANFO爆薬と略記する)、含水爆薬、ダイナマイト、アンモン爆薬等が使用されている。ANFO爆薬は雷管1本では起爆できないため、ブースターとよばれる伝爆薬が使用される。これは、ANFO爆薬の起爆感度が、他の一般爆薬に比べて鈍感であるからであり、それだけ取扱性が良好であるともいえる。一方、含水爆薬である油中水型(以下、W/O型とも称する)エマルション爆薬組成物は特許文献1により初めて開示されて以来、その目的に応じて種々の爆薬組成物が提案されている。
【0003】
含水爆薬は基本的には炭素質燃料からなる油相、無機酸化酸塩の水溶液からなる分散相、乳化剤及び気泡保持剤を含んでなるものであり、気泡保持剤としては通常微小中空球体が用いられる。この含水爆薬組成物中には火薬類が含まれないことから膠質ダイナマイトに比べて取扱性に優れ、次第にその利用が広まっている。
【0004】
産業用爆薬の消費現場における爆薬の装填作業は人力によるものが主流であり、特に山岳トンネル工事の発破掘削工程における装填作業は、肌落ちや崩落発生の可能性が高い切羽に定着しての作業となっている。従って、近年消費現場においては、爆薬取扱時の良好な取扱性の確保だけではなく、装薬時における装填作業者の良好な作業環境の確保が重要な改善事項になっている。そういった背景の中、爆薬の装填作業については、取扱性の良い爆薬を使用した機械による遠隔装薬の要望が高まっている。
【0005】
機械を使用した爆薬の装填としては、ANFO爆薬を貯留ホッパーに入れ、これをホースを通して穿孔内に空気圧送する方式、流動性のあるバルク状の含水爆薬をモーノポンプを使用し、ホースを介して穿孔内に直接装填する方式等がある。しかし、ANFO爆薬は耐水性に劣るため、穿孔内に水が存在したり、湧水のある箇所では使用が困難である。また、発破後に人体に有害なガス成分が多量に発生するため、坑内で使用する場合には、通常より能力の高い換気設備を設置する必要がある。
【0006】
バルク状の含水爆薬に関しては、流動性がある反面、爆薬の粘着性により装填装置内及び装填ホース内に爆薬が付着する。そのため、消費現場での薬量管理が煩雑になると共に、残薬の分解処理等の付帯作業が発生する。このような課題を解決する方法として、特定の樹脂を使用してW/O型エマルションを生成し、エマルション構造を維持した状態のまま柱状に成型した爆薬の開発が進められている(例えば、特許文献2を参照)。即ち、W/O型エマルション爆薬は、エマルションの油相中にエチレン−酢酸ビニル共重合体を含有するものである。
【特許文献1】米国特許第3161551号公報(第1頁及び第2頁)
【特許文献2】特開2003−246694号公報(第2頁、第3頁及び第7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献2に記載されているエチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂を使用したW/O型エマルション爆薬では、従来からの主に石油質ワックス等を油類として使用したW/O型エマルション爆薬における乳化剤として最適化された乳化剤がそのまま使用されている。そのため、従来からの主に石油質ワックス等を油類として使用したW/O型エマルション爆薬に比較し、乳化性及び経時安定性が劣り、W/O型エマルションの構造を長期間に渡って維持できないという問題があった。W/O型エマルション爆薬はエマルション構造が破壊されると、爆薬としての反応性が著しく低下し、初期の性能を発揮できず、また主成分である硝酸アンモニウムの吸湿等により固化するといった問題も発生する。従って、爆薬の性能及び機械による装填を考慮した場合、長期間に渡るエマルション構造の維持、即ち経時安定性が求められている。加えて、エマルションの油相中に含まれるエチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニルの含有量にもよるが、一般に加水分解されやすく、十分な耐水性を得ることができなかった。
【0008】
そこで本発明の目的とするところは、乳化性及び経時安定性に優れ、機械装填に適した薬質を有すると共に、良好な耐水性を発揮することができる油中水型エマルション爆薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこのような課題を解決するために鋭意研究した結果、W/O型エマルションの油相中の一部をα−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂で置き換え、特定のHLBにある非イオン型の混合乳化剤を使用してW/O型エマルションを生成し爆薬とすることで、経時安定性に優れ、機械装填に適した薬質を有する爆薬が得られるとの知見を得て本発明を完成させた。
【0010】
即ち、第1の発明の油中水型エマルション爆薬組成物は、油相を形成する油類、水相を形成する無機酸化酸塩、油相中に水相を乳化させる乳化剤及び微小中空球体を含む油中水型エマルション爆薬組成物において、乳化剤として親水性親油性比(HLB)が2〜5である非イオン界面活性剤とHLBが8〜14である非イオン界面活性剤とよりなり、それらの加重平均HLBが3〜6である混合乳化剤を用い、さらにα−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂を油相中に含有することを特徴とするものである。
【0011】
第2の発明の油中水型エマルション爆薬組成物は、第1の発明において、HLBが2〜5である非イオン界面活性剤がソルビタン脂肪酸エステルであり、HLBが8〜14である非イオン界面活性剤がエチレンオキシド単位を有する非イオン界面活性剤であることを特徴とするものである。
【0012】
第3の発明の油中水型エマルション爆薬組成物は、第1又は第2の発明において、α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂の融点が55〜80℃であることを特徴とするものである。
【0013】
第4の発明の油中水型エマルション爆薬組成物は、第1から第3のいずれかの発明において、α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂が、炭素数20〜24のα−オレフィンオリゴマーと無水マレイン酸の共重合体をステアリルアルコールで部分エステル化したものであることを特徴とするものである。
【0014】
第5の発明の油中水型エマルション爆薬組成物は、第1から第4のいずれかの発明において、α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂の配合割合が、油類と前記樹脂の合計質量に対して、10〜50質量%であることを特徴とするものである。
【0015】
第6の発明の油中水型エマルション爆薬組成物は、第1から第5のいずれかの発明において、温度による粘性の変化を示す最大応力値が20℃で8.0〜13.0N、70℃で1.0〜3.0Nであることを特徴とするものである。
【0016】
第7の発明の油中水型エマルション爆薬組成物は、第1から第6のいずれかの発明において、体積が0.1〜3.5cmとなる粒子状に成形されたものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明の油中水型エマルション爆薬組成物においては、乳化剤として親水性親油性比(HLB)が2〜5である非イオン界面活性剤とHLBが8〜14である非イオン界面活性剤とよりなり、それらの加重平均HLBが3〜6である混合乳化剤が使用される。このため、特にW/O型エマルションの油類により形成される油相に適した親水性親油性バランスが得られ、乳化性を向上させることができると考えられる。また、油類により形成される油相中には、α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂が含まれている。係る樹脂の部分エステル化物という特定構造に対し、乳化剤が親和してエマルションの経時安定性を向上させることができるものと推測される。
【0018】
さらに、前記樹脂は結晶性が高いことから、エマルション爆薬組成物は例えば粒状化して保管する場合に粒子同士が付着しにくくなると共に、表面のべたつきが抑制され、機械装填に適した薬質を発揮することができる。加えて、前記樹脂は分子量が高く、疎水性が高いため、その樹脂を含む油相によって無機酸化酸塩の水性分散相が覆われる。従って、エマルションの耐水性を向上させることができると考えられる。
【0019】
第2の発明の油中水型エマルション爆薬組成物では、HLBが2〜5である非イオン界面活性剤がソルビタン脂肪酸エステルであり、HLBが8〜14である非イオン界面活性剤がエチレンオキシド単位を有する非イオン界面活性剤である。このため、ソルビタン脂肪酸エステルが樹脂を含む油相に対して一層親和性を示し、エチレンオキシド単位を有する非イオン界面活性剤が水相に対して一層親和性を示し、第1の発明の効果に加え、エマルションの乳化性及び経時安定性を向上させることができる。
【0020】
第3の発明の油中水型エマルション爆薬組成物では、α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂の融点が55〜80℃である。このように、樹脂の融点はエマルション爆薬組成物の使用環境での温度より高く設定されていることから、第1又は第2の発明の効果に加え、油中水型エマルション爆薬組成物は機械装填により適した硬い薬質になると共に、製造時の取扱性を向上させることができる。
【0021】
第4の発明の油中水型エマルション爆薬組成物では、α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂が、炭素数20〜24のα−オレフィンオリゴマーと無水マレイン酸の共重合体をステアリルアルコールで部分エステル化したものである。この特定の樹脂は、油類により形成される油相及び乳化剤に対する親和性が向上することから、第1から第3のいずれかの発明の効果に加え、油中水型エマルション爆薬組成物はさらに乳化性に優れ、機械装填により適した薬質となる。
【0022】
第5の発明の油中水型エマルション爆薬組成物では、α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂の配合割合が、油類と前記樹脂の合計質量に対して、10〜50質量%である。樹脂の配合割合をこのような範囲に設定することにより、第1から第4のいずれかの発明の効果に加え、エマルション爆薬組成物の乳化性、経時安定性及び機械装填に適した薬質の各効果をバランス良く発揮することができる。
【0023】
第6の発明の油中水型エマルション爆薬組成物では、温度による粘性の変化を示す最大応力値が20℃で8.0〜13.0N、70℃で1.0〜3.0Nである。従って、第1から第5のいずれかの発明の効果に加え、機械装填時の常温では流動性が抑えられ、製造時の高温では十分な流動性を発現でき、機械装填に適した薬質と製造時における良好な取扱性とを発揮することができる。
【0024】
第7の発明の油中水型エマルション爆薬組成物では、体積が0.1〜3.5cmとなる粒子状に成形されているため、請求項1から請求項6のいずれかの発明の効果に加え、エマルション爆薬組成物を機械装填に適した流動性のあるものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態のW/O型エマルション爆薬組成物は、無機酸化酸塩、油類、乳化剤及び微小中空球体を含む組成物である。W/O型エマルションは、油類により形成される油相(連続相)中に無機酸化酸塩の水溶液により形成される水相(分散相)が乳化剤により乳化(分散)されて形成されている。エマルションの乳化性とその安定性は、油相及び水相の種類に対して適切な乳化剤を選択することにより得られる。
【0026】
本実施形態ではそのような乳化剤として、親水性親油性比(HLB)が2〜5である非イオン界面活性剤とHLBが8〜14である非イオン界面活性剤とよりなり、それらの加重平均HLBが3〜6である混合乳化剤が用いられる。さらに、油類により形成される油相中には、α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂(以下、単に部分エステル化樹脂ともいう)が含まれる。
【0027】
油相は、従来から一般的に使用される油類に前記部分エステル化樹脂を混合した混合物である。部分エステル化樹脂を油類であるワックス等に配合することで、W/O型エマルション爆薬の薬質を改善する作用が発現される。機械装填に適し、粒状爆薬を使用したW/O型エマルション爆薬の薬質を考えた場合、爆薬の薬質は、製造時の高温状態では粘性が低く変形が容易で、従来と同様の取扱いができる薬質が好ましい。一方、貯蔵、運搬及び消費の過程においては、外部環境温度下で従来より硬く、変形しづらく、粒子同士の接着による凝集といった現象が発生しないものが好ましい。
【0028】
油類としては例えば、石油から誘導される未精製マイクロクリスタリンワックス、精製マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等、鉱物性ワックスであるモンタンワックス、オゾケライト等、動物性ワックスである鯨ロウ等、昆虫ワックスである蜜ロウ等、合成ワックスであるポリエチレンワックス等が挙げられる。これらの油類は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。W/O型エマルション爆薬の薬質は油相の影響を大きく受ける。従って、夏季の外部環境温度の比較的高い条件下においても、爆薬が凝集しづらい薬質とするためには融点が60℃以上の油類を使用するのが好ましい。
【0029】
部分エステル化樹脂は油類と相溶性があり、融点が55〜80℃の範囲にあるものが好ましい。係る樹脂の融点が80℃を越える場合には、樹脂の製造時には溶融状態の樹脂が油類と混合するため、油相の温度をより高く調温する必要があり、また製造直後の高温状態においても爆薬の粘性が高いため、取扱いの容易性が損なわれる。一方、融点が55℃未満の場合には、貯蔵、運搬及び消費の過程で外部環境温度の影響を受け、爆薬の変形或いは凝集といった現象が発生する。
【0030】
部分エステル化樹脂を形成するためのα−オレフィンオリゴマーとしては、炭素数10〜30のα−オレフィンオリゴマーが好ましく、炭素数20〜24のα−オレフィンオリゴマーが特に好ましい。また、不飽和ジカルボン酸又はその無水物としては、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸等が挙げられるが、特に無水マレイン酸が好ましい。また、α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物との共重合体は高級アルコールで部分エステル化することにより油類への相溶性が増す。高級アルコールとしては、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数12〜18の高級アルコールが好ましい。部分エステル化樹脂の分子量は特に限定されないが、通常5,000〜15,000、好ましくは7,000〜9,000である。
【0031】
W/O型エマルション爆薬組成物の均一な薬質を得るためには、乳化する前に油類と部分エステル化樹脂とを溶融状態で均一に混合する必要がある。部分エステル化樹脂は、油類と前記樹脂の合計質量に対して、10〜50質量%の範囲で配合するのが好ましい。この配合割合が10質量%未満の場合には、前記外部環境温度下において、薬質が硬くならず(従来と同程度)、凝集といった現象が発生する傾向がある。一方、50質量%を越える場合には、著しい薬質の改善効果が見られず、エマルションの経時安定性が損なわれる傾向にある。
【0032】
全組成物中における油類と部分エステル化樹脂との混合物の占める割合は、通常1.5〜7質量%、好ましくは2〜4質量%である。この割合が1.5質量%未満の場合にはW/O型エマルションの形成が困難であり、一方7質量%を越える場合にはエマルション中の分散液滴である水相を囲む油相の膜厚が大きくなり反応性が低下すると共に、爆発後の生成ガス中の有害ガス成分の割合が増加するといった問題がある。その他、本発明の効果が発揮される限り、連続相である油相中に、フェノール樹脂,エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂等のその他樹脂を少量配合することが可能である。
【0033】
機械装填に適した薬質とは前述したように、製造時の高温状態では粘性が低く、取扱いが容易で、消費時の外部環境温度下においては、従来より硬く変形しづらいものが好ましい。そのような薬質を得るために、温度による粘性の変化を示す最大応力値(N)が用いられる。具体的には粘性流体のレオロジー評価等に使用されるレオメータによる最大応力値をもって評価できる。W/O型エマルション爆薬組成物は、通常90℃前後の温度で乳化してW/O型エマルションを生成し、次いで高温状態で微小中空球体等の粉体成分を混合して製造される。従って、製造時の取扱温度は通常約70℃以上となるため、70℃におけるレオメータの最大応力値を測定することで、製造時の薬質を判断することが可能である。また、爆薬の消費は外部環境温度下で実施されるため、20℃におけるレオメータの最大応力値で機械装填時の薬質を判断することが可能である。
【0034】
このため、温度による粘性の変化を示す最大応力値が20℃で8.0N(800gf)〜13.0N(1300gf)、70℃で1.0N(100gf)〜3.0N(300gf)であることが好ましい。この最大応力値が20℃において8.0N未満の場合、貯蔵、運搬及び消費の過程で、エマルション爆薬の変形、固結といった現象が発生する傾向を示す。一方、13.0Nを越える場合、エマルション爆薬の薬質が硬くなり過ぎて、かえって機械装填に不都合を来たすおそれがある。また、最大応力値が70℃において1.0N未満の場合、エマルション爆薬の流動性が高くなり過ぎてエマルション爆薬の製造時における取扱性が悪くなりやすい。一方、3.0Nを越える場合、流動性が低いため、例えば吸引式の包装機における包装性が低下する場合がある。
【0035】
レオメータでの最大応力値の測定は次のようにして行われる。即ち、試料台の上に円筒状をなす試料容器を支持し、その試料容器内にエマルション爆薬組成物を気泡が入らないように均一に入れる。次いで、エマルション爆薬組成物の表面に、支持体で支持された円柱状をなすアダプターの先端面を合わせた後、試料台を例えば200mm/secの速度で上昇させて、アダプターに加わる応力(荷重)の変化を測定する。そして、アダプターに加わる最大応力値(N)をエマルション爆薬組成物の薬質として評価する。エマルション爆薬組成物の温度が+20℃及び+70℃の場合について最大応力値を測定する。
【0036】
従来、W/O型エマルション爆薬に使用される乳化剤としては、一般的なW/O型エマルション用の乳化剤(HLB2〜7程度)から適正なものを選別し単独、或いは混合して使用されていた。本実施形態のW/O型エマルション爆薬は、一般的なW/O型エマルションと異なり、連続相である油相が分散相(液滴)である酸化剤水溶液の水相に比べて、極端に少ない配合比(体積比)となっている。これはエマルション爆薬組成物としての酸素バランスを0付近に調整する必要があることに起因しているが、エマルションの生成、安定性という面では非常にマイナス要因となっている。
【0037】
従って、油相中に部分エステル化樹脂を配合することで、系のバランスが崩れ、よりエマルションが不安定となる。特定のHLB範囲にあるW/O型エマルション用非イオン界面活性剤と特定のHLB範囲にある水中油型(以下、O/W型とも称する)エマルション用非イオン界面活性剤とを組み合わせることで、油相に樹脂を混合した系におけるエマルションの乳化性及び経時安定性を著しく改善することができる。
【0038】
混合乳化剤は、W/O型エマルション用非イオン界面活性剤をベースに、O/W型エマルション用非イオン界面活性剤を混合することによって生成される。混合乳化剤の加重平均HLBは下記の式(1)で導かれる。
【0039】
Z=Xo×Yo/100+Xw×Yw/100 ・・・(1)
ここで、Z;混合乳化剤のHLB値、Xo;ベースとなるW/O型エマルション用非イオン界面活性剤のHLBの値、Yo;混合乳化剤中のW/O型エマルション用非イオン界面活性剤の配合割合(質量%)、Xw;O/W型エマルション用非イオン界面活性剤のHLBの値、Yw;混合乳化剤中のO/W型エマルション用非イオン界面活性剤の配合割合(質量%)。
【0040】
式(1)で求められる混合乳化剤の加重平均HLBの範囲は3〜6の間にあることが必要で、4〜5の間にあることが好ましい。混合乳化剤のHLBが3未満の場合にはエマルションの乳化性が悪く、エマルション生成に時間を要すると共に、エマルションの生成過程で酸化剤水溶液の全量を包含できず、油水分離する事態を招く。一方、HLBが6を越える場合には、エマルションの安定性が極端に悪く、エマルション生成後に短時間でエマルション構造が破壊するといった問題が発生する。混合乳化剤の効果を発現させるためには、W/O型エマルション用非イオン界面活性剤とO/W型エマルション用非イオン界面活性剤をエマルション生成前に十分に混合しておく必要がある。常温で固体又はペースト状の界面活性剤に関しては、融点以上で加温混合し均一にしておくのが好ましい。
【0041】
混合乳化剤に適したW/O型エマルション用非イオン系界面活性剤としては、HLBの範囲が2〜5のものであり、O/W型エマルション用非イオン系界面活性剤のHLBは8〜14のものである。ベースとなるW/O型エマルション用非イオン系界面活性剤のHLBの範囲が2〜5から外れた場合には、エマルションの生成過程で酸化剤水溶液の全量を包含できず、油水分離する現象が発生する。O/W型エマルション用非イオン系界面活性剤のHLBが14を越える場合には爆薬の経時安定性が極端に悪くなり、一方8未満の場合には乳化性向上の効果が見られなくなる。混合乳化剤中のO/W型エマルション用非イオン系界面活性剤の配合割合は、3〜20質量%の範囲で配合されるのが好ましい。この配合割合が3質量%未満では乳化性向上の効果が見られず、20質量%を越えると経時安定性が著しく悪くなる傾向がある。
【0042】
W/O型エマルション用非イオン系界面活性剤としては、HLBが2〜5の範囲にあるソルビタンモノオレエート、ソルビタンイソステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル、グリセリルモノイソステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらのうち、特にソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。また、O/W型エマルション用非イオン系界面活性剤としては、HLBが8〜14の範囲にあるソルビタンモノラウレート等のソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型の界面活性剤、ポリオキシエチレンモノオレエート等のアルキルエステル型の界面活性剤等が挙げられる。これらのうち、特にエチレンオキシド単位を有する非イオン界面活性剤が好ましい。エチレンオキシド単位は酸素原子を有し、水分子との間に水素結合を形成することができ、水相への非イオン界面活性剤の親和性を高めることができるからである。エチレンオキシド単位の含有量は、エチレンオキシド単位を有する非イオン界面活性剤の製造時におけるエチレンオキシドの付加モル数により決定される。
【0043】
エマルション爆薬組成物中に占める混合乳化剤の割合は、通常1〜7質量%、好ましくは1.5〜4質量%である。この割合が1質量%未満にはW/O型エマルションの形成が困難であり、一方7質量%を越える場合には薬質を硬くする効果が阻害されるおそれがある。また、油類と部分エステル化樹脂の混合物と混合乳化剤の合計質量中に占める混合乳化剤の配合割合は、30〜50質量%の範囲にあることが好ましい。
【0044】
次に、水相を構成する無機酸化酸塩は、従来からW/O型エマルション爆薬に用いられているものすべてが包含される。無機酸化酸塩の具体例としては、例えば硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の硝酸塩や過塩素酸アンモニウム、過塩素酸ナトリウム等の無機過塩素酸塩、硝酸ヒドラジン、硝酸モノメチルアミン等の水溶性アミン硝酸塩等が挙げられる。これらのうち、溶解温度が低く、かつ溶解量が多い点から、硝酸アンモニウム単独又は硝酸アンモニウムと他の無機酸化酸塩との混合物が好ましい。
【0045】
これら無機酸化酸塩のエマルション爆薬組成物中に占める配合割合は、通常68〜87質量%、好ましくは75〜85質量%である。この配合割合が68質量%未満の場合には爆薬の爆発力が弱く、逆に87質量%を越える場合にはW/O型エマルション爆薬を形成する際の温度が高くなり、製造に適さない。これら無機酸化酸塩は、水に溶解させて酸化剤水溶液とし、W/O型エマルション生成時に分散されて分散液滴となる。この場合の水の配合割合は、爆薬の反応性を考慮し、酸化剤水溶液の結晶析出温度が70〜95℃になるように添加するのが好ましい。本実施形態のエマルション爆薬組成物としての目的を達成できる限り、水の配合割合は特に制限されないが、エマルション爆薬組成中に通常7〜15質量%である。
【0046】
W/O型エマルション爆薬は比重調整材としての微小中空球体を含有させることにより、その仮比重が0.85〜1.27の範囲に調整される。より好ましい比重範囲は1.00〜1.20である。この比重が0.85未満の場合には、起爆感度は良好であるが、爆速が低いため威力が小さくなる。一方、比重が1.27を越える場合、反応性が低下するため起爆不良が発生する傾向にある。微小中空球体は、エマルション爆薬組成物の比重調整材として使用されるものであり、従来からW/O型エマルション爆薬組成物に用いられているものすべてが包含される。
【0047】
微小中空球体の具体例としては、例えばガラス、アルミナ、頁岩、シラス、珪砂、火山岩、ケイ酸ナトリウム、ホウ砂、真珠岩、黒曜石等から得られる無機質微小中空球体、ピッチ、石炭等から得られる炭素質微小中空球体、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、尿素樹脂等から得られる合成樹脂微小中空球体等が挙げられる。これらの微小中空球体は、1種又は2種以上の混合物として用いられる。微小中空球体の配合割合は、使用する微小中空球体の比重等によるが、エマルション爆薬組成物中に、通常7質量%以下、好ましくは0.1〜5質量%の範囲である。
【0048】
W/O型エマルション爆薬組成物の製造法は例えば次の通りである。即ち、まず硝酸アンモニウム又は硝酸アンモニウムと他の無機酸化酸塩との混合物を約85〜95℃で水に溶解させた酸化剤水溶液を得る。一方、油相成分として油類と、部分エステル化樹脂とを約85〜95℃に加温し、均一になるよう溶融混合する。また、W/O型エマルション用の非イオン界面活性剤と、O/W型エマルション用の非イオン界面活性剤とを油相成分同様、加温下で均一になるように溶融混合し、続いて前記油相成分と約85〜95℃で均一混合させた混合物(以下、可燃剤混合物という)を得る。
【0049】
次いで、一定容量の保温可能な容器内にまず可燃剤混合物を入れ、それに酸化剤水溶液を徐々に添加しながら通常使用されるプロペラ羽根式攪拌機を用いて約800rpmで混合攪拌し、予乳化を行う。その後、酸化剤水溶液全量を添加後、攪拌機回転数を約1600rpmに上げて混合攪拌を行い、約85℃のW/O型エマルションを得る。次に、微小中空球体を前記W/O型エマルションに縦型混和機を用いて約30rpmで混合することにより、W/O型エマルション爆薬組成物を得ることができる。
【0050】
得られたW/O型エマルション爆薬組成物は適当な形状に成形されて使用される。その形状については特に限定されないが、機械装填する際の流動性を考慮し、体積が0.1〜3.5cmとなるように粒状に成形したものが好ましい。一般的な粒状化の方法としては、圧伸機等を使用して一定の内径に成形され、排出された爆薬をスリッター等を通して裁断する方法が挙げられる。
【0051】
さて、W/O型エマルション爆薬組成物は、油相を形成する油類、水相を形成する無機酸化酸塩、水相を油相中に分散させるための乳化剤及び微小中空球体を配合することによって得られる。その場合、乳化剤としてはHLBが2〜5である非イオン界面活性剤とHLBが8〜14である非イオン界面活性剤とよりなり、それらの加重平均HLBが3〜6である混合乳化剤が用いられる。本実施形態のW/O型エマルション爆薬組成物は水相に対する油相の割合が少ないことから、乳化剤としてHLBが2〜5であるW/O型の非イオン界面活性剤をベースとし、それにHLBが8〜14であるO/W型の非イオン界面活性剤を配合し、加重平均HLBが3〜6となるように調整する。これにより、エマルション爆薬組成物の乳化性と経時安定性を高めることができる。
【0052】
さらに、油相にはα−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂が配合される。この部分エステル化樹脂は油相を形成するワックスに対する相溶性が良く、均一な油相が形成される。さらに、部分エステル化樹脂はエマルション爆薬の薬質を硬くするに必要な融点を有し、かつワックスより高い分子量を有している。このような部分エステル化樹脂が配合された疎水性の高い油相により水相が覆われることから、エマルション爆薬組成物の耐水性が高められる。
【0053】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の油中水型エマルション爆薬組成物においては、乳化剤として親水性親油性比(HLB)が2〜5である非イオン界面活性剤とHLBが8〜14である非イオン界面活性剤とよりなり、それらの加重平均HLBが3〜6である混合乳化剤が使用される。このため、特にワックスにより形成される油相に適した親水性親油性バランスが得られ、乳化性を向上させることができると考えられる。また、油相中には、部分エステル化樹脂が含まれている。係る部分エステル化樹脂は、そのジカルボン酸の一方のカルボキシル基がエステル化され(親油性)、他方のカルボキシル基がエステル化されないでカルボキシル基の状態で存在する(親水性)という特定構造を有している。そのような部分エステル化樹脂の特定構造に対し、乳化剤が親和してエマルションの経時安定性を向上させることができるものと推測される。
【0054】
さらに、前記部分エステル化樹脂は結晶性が高いことから、エマルション爆薬組成物は例えば粒状化(具体的には直径6mm、長さ10mm)してそれを袋等に入れて保管する場合に粒子同士が付着しにくくなると共に、表面のべたつきが抑制され、機械装填に適した薬質を発揮することができる。加えて、前記部分エステル化樹脂は分子量が高く、疎水性が高いため、その樹脂を含む油相によって無機酸化酸塩の水相が覆われる。従って、エマルションの耐水性を向上させることができると考えられる。
【0055】
・ また、HLBが2〜5である非イオン界面活性剤がソルビタン脂肪酸エステルであり、HLBが8〜14である非イオン界面活性剤がエチレンオキシド単位を有する非イオン界面活性剤である。このため、エチレンオキシド単位を有する非イオン界面活性剤のエチレンオキシド単位の酸素原子が水分子と水素結合を形成し、水相に溶解しやすくなり、温度上昇によって水素結合が切断されると水相から分離して油相に可溶となると推測される。一方、ソルビタン脂肪酸エステルが樹脂を含む油相に対して一層親和性を示す。従って、エマルション爆薬組成物の乳化性及び経時安定性を向上させることができる。
【0056】
・ さらに、部分エステル化樹脂の融点が55〜80℃であり、エマルション爆薬組成物の使用環境での温度より高く設定されていることから、機械装填により適した薬質になると共に、製造時の取扱性を向上させることができる。
【0057】
・ 部分エステル化樹脂が、炭素数20〜24のα−オレフィンオリゴマーと無水マレイン酸の共重合体をステアリルアルコールで部分エステル化したものである。この特定の樹脂は、油相及び乳化剤に対する親和性が向上することから、さらに乳化性に優れ、機械装填により適した薬質となる。
【0058】
・ 部分エステル化樹脂の配合割合が、油類と前記部分エステル化樹脂の合計質量に対して、10〜50質量%である。樹脂の配合割合をこのような範囲に設定することにより、エマルション爆薬組成物の乳化性、経時安定性及び機械装填に適した薬質の各効果をバランス良く発揮することができる。
【0059】
・ 温度による粘性の変化を示す最大応力値が20℃で8.0〜13.0N、70℃で1.0〜3.0Nである。従って、機械装填時の常温では流動性が抑えられ、製造時の高温では十分な流動性を発現でき、機械装填に適した薬質と製造時における良好な取扱性とを発揮することができる。
【0060】
油中水型エマルション爆薬組成物を体積が0.1〜3.5cmとなる粒子状に成形することにより、エマルション爆薬組成物を機械装填に適した流動性のあるものにすることができる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、各例における部は質量部を表す。
(実施例1)
まず、硝酸アンモニウム76.3部、硝酸ナトリウム4.57部を水11.05部に加えて加温することにより溶解させ、約90℃の酸化剤水溶液を得た。一方、融点78℃のマイクロクリスタリンワックス1.55部と炭素数20,24のα−オレフィンオリゴマーと無水マレイン酸の共重合体をステアリルアルコールで部分エステル化した樹脂(融点58℃)1.03部とを加温して油相成分の溶融混合物を得た。さらに、HLB4.3のソルビタンイソステアレート(W/O型エマルション用非イオン界面活性剤)2.32部とHLB11.5のポリオキエチレンモノオレエート(O/W型エマルション用非イオン界面活性剤、エチレンオキシドの付加モル数は9)0.26部を加温して溶融混合した。これを前記油相成分の溶融混合物と約90℃で溶融混合し、可燃剤混合物を得た。
【0062】
次いで、保温可能な容器内にまず可燃剤混合物5.16部を入れ、それに酸化剤水溶液91.92部を徐々に添加しながら、通常使用されるプロペラ羽根式攪拌機を用いて約600rpmで混合攪拌し、粗エマルション97.08部を得た。酸化剤水溶液全量を添加し粗エマルション生成後、攪拌機回転数を約1600rpmに上げて3分間混合攪拌を行い、約85℃のW/O型エマルションを得た。次に、微小中空球体としてのガラスマイクロバルーン2.92部と前記W/O型エマルションとを縦型混和機を用いて約30rpmで混合することにより、W/O型エマルション爆薬組成物を得た。得られた爆薬の比重は1.15であった。このW/O型エマルション爆薬を、直径25mm,長さ150mmに成形し、ラミネートクラフト紙で包装した薬包又はダイス径6mmの圧伸機で爆薬を押し出し、長さ10mm(体積約0.3cm3)となるように切断した粒状の爆薬として下記に示す性能試験に供した。
(実施例2)
まず、硝酸アンモニウム76.3部、硝酸ナトリウム4.57部を水11.05部に加えて加温することにより溶解させ、約90℃の酸化剤水溶液を得た。一方、融点78℃のマイクロクリスタリンワックス1.90部と炭素数20,24のα−オレフィンオリゴマーと無水マレイン酸の共重合体をステアリルアルコールで部分エステル化した樹脂(融点58℃)1.20部とを加温して油相成分の溶融混合物を得た。また、HLB4.8のソルビタンモノオレエート(W/O型エマルション用非イオン界面活性剤)1.85部とHLB8.5のソルビタンモノラウレート(O/W型エマルション用非イオン界面活性剤)0.21部を加温して溶融混合し、これを前記油相成分の溶融混合物と約90℃で溶融混合して可燃剤混合物を得た。
【0063】
続いて、保温可能な容器内にまず可燃剤混合物5.16部を入れ、酸化剤水溶液91.92部を徐々に添加しながら、通常使用されるプロペラ羽根式攪拌機を用いて約600rpmで混合攪拌し、粗エマルション97.08部を得た。それに酸化剤水溶液全量を添加し、粗エマルション生成後、攪拌機回転数を約1600rpmに上げて3分間混合攪拌を行い、約85℃のW/O型エマルションを得た。次に、微小中空球体としてのガラスマイクロバルーン2.92部と前記W/O型エマルションとを縦型混和機を用いて約30rpmで混合することにより、W/O型エマルション爆薬組成物を得た。得られたエマルション爆薬組成物の比重は1.15であった。このW/O型エマルション爆薬組成物を、直径25mm、長さ150mmに成形し、ラミネートクラフト紙で包装した薬包又はダイス径6mmの圧伸機で爆薬を押し出し、長さ10mm(体積約0.3cm3)となるように切断した粒状の爆薬として下記に示す性能試験に供した。
(実施例3)
まず、硝酸アンモニウム76.3部、硝酸ナトリウム4.57部を水11.05部に加えて加温することにより溶解させ、約90℃の酸化剤水溶液を得た。一方、融点78℃のマイクロクリスタリンワックス1.80部と炭素数20,24のα−オレフィンオリゴマーと無水マレイン酸の共重合体をステアリルアルコールで部分エステル化した樹脂(融点58℃)1.70部とを加温して油相成分の溶融混合物を得た。また、HLB3.6のソルビタンセスキオレエート(W/O型エマルション用非イオン界面活性剤)2.39部とHLB8.5のソルビタンモノラウレート(O/W型エマルション用非イオン界面活性剤)0.27部とを加温して溶融混合し、これを前記油相成分の溶融混合物と約90℃で溶融混合して可燃剤混合物を得た。
【0064】
次いで、保温可能な容器内にまず可燃剤混合物5.16部を入れ、それに酸化剤水溶液91.92部を徐々に添加しながら、通常使用されるプロペラ羽根式攪拌機を用いて約600rpmで混合攪拌し粗エマルション97.08部を得た。酸化剤水溶液全量を添加し粗エマルション生成後、攪拌機回転数を約1600rpmに上げて3分間混合攪拌を行い、約85℃のW/O型エマルションを得た。次に、微小中空球体としてのガラスマイクロバルーン2.92部と前記W/O型エマルションとを縦型混和機を用いて約30rpmで混合することにより、W/O型エマルション爆薬組成物を得た。得られた爆薬の比重は1.15であった。このW/O型エマルション爆薬を、直径25mm、長さ150mmに成形し、ラミネートクラフト紙で包装した薬包又はダイス径6mmの圧伸機で爆薬を押し出し、長さ10mm(体積約0.3cm3)となるように切断した粒状の爆薬として下記に示す性能試験に供した。
(実施例4)
まず、硝酸アンモニウム76.3部、硝酸ナトリウム4.57部を水11.05部に加えて加温することにより溶解させ、約90℃の酸化剤水溶液を得た。一方、融点78℃のマイクロクリスタリンワックス1.55部と炭素数16,18のα−オレフィンオリゴマーと無水マレイン酸の共重合体をステアリルアルコールで部分エステル化した樹脂(融点60℃)1.03部とを加温して油相成分の溶融混合物を得た。また、HLB4.8のソルビタンモノオレエート(W/O型エマルション用非イオン界面活性剤)2.43部とHLB8.1のポリオキシエチレンモノオレエート(O/W型エマルション用非イオン界面活性剤、エチレンオキシドの付加モル数は3)0.15部を加温して溶融混合した。これを前記油相成分の溶融混合物と約90℃で溶融混合し、可燃剤混合物を得た。
【0065】
続いて、保温可能な容器内にまず可燃剤混合物5.16部を入れ、酸化剤水溶液91.92部を徐々に添加しながら、通常使用されるプロペラ羽根式攪拌機を用いて約600rpmで混合攪拌し、粗エマルション97.08部を得た。酸化剤水溶液全量を添加し粗エマルション生成後、攪拌機回転数を約1600rpmに上げて3分間混合攪拌を行い、約85℃のW/O型エマルションを得た。次に、微小中空球体としてのガラスマイクロバルーン2.92部と前記W/O型エマルションとを縦型混和機を用いて約30rpmで混合することにより、W/O型エマルション爆薬組成物を得た。得られた爆薬の比重は1.15であった。このW/O型エマルション爆薬を、直径25mm、長さ150mmに成形し、ラミネートクラフト紙で包装した薬包又はダイス径6mmの圧伸機で爆薬を押し出し、長さ10mm(体積約0.3cm3)となるように切断した粒状の爆薬として下記に示す性能試験に供した。
(比較例1)
実施例1に準拠し、油相としてマイクロクリスタリンワックスのみを含有し、乳化剤として混合乳化剤を使用せず、従来から知られているソルビタンモノオレエートのみを使用してW/O型エマルションを生成した。比較例1の配合組成を表1に示す。それに、微小中空球体としてガラスマイクロバルーンを添加混合して、W/O型エマルション爆薬組成物を得た。得られたエマルション爆薬組成物の比重は1.15であった。このW/O型エマルション爆薬組成物を実施例1と同様に成形し、下記に示す性能試験に供した。
(比較例2)
実施例1に準拠し、油相としてマイクロクリスタリンワックスと炭素数20,22のα−オレフィンオリゴマーと無水マレイン酸の共重合体をステアリルアルコールで部分エステル化した樹脂(融点58℃)を含有し、乳化剤として混合乳化剤を使用せず、従来からあるソルビタンモノオレエートのみを使用してW/O型エマルションを生成した。比較例2の配合組成を表1に示す。それに、微小中空球体としてガラスマイクロバルーンを添加混合して、W/O型エマルション爆薬組成物を得た。得られたエマルション爆薬組成物の比重は1.15であった。
(比較例3)
実施例1に準拠し、油相としてマイクロクリスタリンワックス(融点78℃)とポリエチレンワックス(融点88℃)とを含有し、乳化剤としてHLB4.8のソルビタンモノオレエートとHLB8.5のソルビタンモノラウレートの混合乳化剤を使用してW/O型エマルションを生成した。比較例3の配合組成を表1に示す。それに、微小中空球体としてガラスマイクロバルーンを添加混合して、W/O型エマルション爆薬組成物を得た。得られたW/O型エマルション爆薬組成物の比重は1.15であった。
【0066】
このW/O型エマルション爆薬組成物を、直径25mm、長さ150mmに手動成形し、ラミネートクラフト紙で包装した薬包又はダイス径6mmの圧伸機で爆薬を押し出し、長さ10mm(体積約0.3cm3)となるように切断した粒状の爆薬として下記に示す性能試験に供した。また、このW/O型エマルション爆薬を吸引式の自動包装機により25mmφ×100g(長さ約170mm)のサイズに包装したところ、吸引が不十分であったため、紙筒(規定容積)中の爆薬の充填率は約70%であった。このW/O型エマルション爆薬組成物を実施例1と同様に成形し、下記に示す性能試験に供した。
【0067】
表1に実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた各W/O型エマルション爆薬の組成比を示す。
【0068】
【表1】

(性能試験)
1)乳化性試験
前記エマルションの乳化工程中の粗エマルション生成過程において、酸化剤水溶液の滴下から、滴下が終了して酸化剤水溶液全量が油相中に包含されるまでの時間を計測した。時間が短いほど乳化性が良好と判断され、製造規模が大きくなった場合により短時間で安定なエマルションが生成されるという効果がある。
2)経時安定性
W/O型エマルション爆薬組成物を直径25mm、長さ150mmに成形し、ラミネートクラフト紙で包装した薬包を使用し、+50℃で19時間、−30℃で1時間、その間の調温に各2時間、合計24時間を1サイクルとする温度負荷試験を10サイクル行った。サイクルを行った後の爆薬組成物を−20℃に調温し、6号電気雷管で起爆して爆轟の有無を確認した。
3)耐水性
ダイス径6mmの圧伸機で爆薬組成物を押し出し、体積0.1〜3.5cm3となるように切断した粒状の爆薬を6ヶ月間常温で保管した。これを32A鋼管に充填し、火薬学会規格ES−41(2)イオンギャップ法により爆薬の爆轟速度を測定した。また、耐水性評価のため、予め32A鋼管内に水を入れ、この中に前記粒状に成形した爆薬組成物を充填し、同様の方法で爆轟速度を測定した。
4)薬質
レオメータ(不動工業(株)製 NRM-2002D-D)を使用して測定した。即ち、試料台の上に内径21.3mm、長さ70mmの円筒状をなすステンレス鋼製の試料容器を支持し、試料容器内にエマルション爆薬組成物を気泡が入らないように均一に入れた。そして、エマルション爆薬組成物の略中心に、支持体で支持された直径5mmの円柱状をなすアダプターを沈めた後、試料台を200mm/secの速度で上昇させて、アダプターに加わる応力(荷重)の変化を測定した。試料台のストロークを20mmとした。そして、アダプターに加わる最大応力値(N)をエマルション爆薬組成物の薬質として評価した。エマルション爆薬組成物の温度を+20℃及び+70℃に調温し、それぞれの温度における最大応力値を測定した。
【0069】
最大応力値の数値が大きいほど薬質が硬く変形しづらいといえ、また数値が小さいほど薬質が軟らかく流動性があるといえる。従って、+70℃においては小さな数値を、+20℃においては大きな数値を示す薬質が、製造時の取扱性及び機械装填に適した薬質であるということができる。
5)固結性
ダイス径6mmの圧伸機で爆薬を押し出し、体積0.1〜3.5cm3となるように切断した粒状の爆薬を高さ300mmになるようにポリエチレン製袋に入れて6ヶ月保管した。6ヶ月後に袋底部における爆薬粒子の固結状態を観察した。
【0070】
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた各W/O型エマルション爆薬組成物の性能試験結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

表2に示すように、実施例1から実施例4においては、乳化性について、部分エステル化樹脂を配合し、かつ特定の混合乳化剤を配合することにより、比較例2に比べて乳化性が向上すると共に、十分な経時安定性を発揮できることが明らかとなった。また、水のある環境下においても正常に爆轟しており、耐水性を有することが確認された。さらに、薬質について、通常取り扱われる温度では従来のW/O型エマルション爆薬組成物より硬く、機械装填に適した薬質を維持でき、製造時の高温環境下においては従来のW/O型エマルション爆薬組成物と同等の薬質を持ち、製造時の取扱性の良好な薬質が得られていることが示された。加えて、貯蔵においても著しい固結は発生せず、取扱性に優れることが明らかとなった。
【0072】
また、実施例1及び実施例4ではHLBが2〜5であるソルビタン脂肪酸エステルと、HLBが8〜14であるエチレンオキシド単位を有するポリオキシエチレンモノオレエートとを組合せて用いていることから、実施例2に比べて乳化性を向上させることができた。さらに、実施例1、2及び4では、炭素数20,24のα−オレフィンオリゴマーと無水マレイン酸の共重合体をステアリルアルコールで部分エステル化したものを用いていることから、実施例3に比べて乳化性が向上すると共に、薬質も向上することがわかった。
【0073】
一方、比較例1では部分エステル化樹脂を配合せず、かつ前記2種類の乳化剤を組合せて使用しなかったことから、20℃での薬質が軟らかく、固結性についても大部分の粒子が凝集し、容易に解れなかった。比較例2では部分エステル化樹脂を配合したものの、2種類の乳化剤を組合せて使用しなかったことから、乳化性が悪く、経時安定性も悪く、爆轟しないという結果であった。比較例3では部分エステル化樹脂を配合しなかったことから、70℃での薬質が硬く、製造時の高温環境下で取扱性が悪いものであった。しかも、固結性について、一部粒子が凝集し、容易に解れなかった。
【0074】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ HLBが2〜5及び8〜14の非イオン界面活性剤をそれぞれ複数種類配合したり、部分エステル化樹脂を複数種類配合することも可能である。
【0075】
・ 部分エステル化樹脂を形成するためのα−オレフィンオリゴマーは、α−オレフィンとそれ以外の単量体との共重合体であってもよい。
・ 部分エステル化樹脂は、全体としてジカルボン酸が部分エステル化されておればよく、ジカルボン酸の両方のカルボキシル基がエステル化された部分を含んでいてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相を形成する油類、水相を形成する無機酸化酸塩、油相中に水相を乳化させる乳化剤及び微小中空球体を含む油中水型エマルション爆薬組成物において、乳化剤として親水性親油性比(HLB)が2〜5である非イオン界面活性剤とHLBが8〜14である非イオン界面活性剤とよりなり、それらの加重平均HLBが3〜6である混合乳化剤を用い、さらにα−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂を油相中に含有することを特徴とする油中水型エマルション爆薬組成物。
【請求項2】
HLBが2〜5である非イオン界面活性剤がソルビタン脂肪酸エステルであり、HLBが8〜14である非イオン界面活性剤がエチレンオキシド単位を有する非イオン界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載の油中水型エマルション爆薬組成物。
【請求項3】
α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂の融点が55〜80℃であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の油中水型エマルション爆薬組成物。
【請求項4】
α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂が、炭素数20〜24のα−オレフィンオリゴマーと無水マレイン酸の共重合体をステアリルアルコールで部分エステル化したものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の油中水型エマルション爆薬組成物。
【請求項5】
α−オレフィンオリゴマーと不飽和ジカルボン酸又はその無水物の共重合体を高級アルコールで部分エステル化した樹脂の配合割合が、油類と前記樹脂の合計質量に対して、10〜50質量%であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の油中水型エマルション爆薬組成物。
【請求項6】
温度による粘性の変化を示す最大応力値が20℃で8.0〜13.0N、70℃で1.0〜3.0Nであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の油中水型エマルション爆薬組成物。
【請求項7】
体積が0.1〜3.5cmとなる粒子状に成形されたものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の油中水型エマルション爆薬組成物。

【公開番号】特開2006−248881(P2006−248881A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71797(P2005−71797)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)