説明

油入変圧器用バルブおよび油入変圧器

【課題】 従来の油入変圧器の補修工事では、油入変圧器本体とこれに接続される冷却器の中から絶縁油を抜油したり注油したりする必要があり、酸素や水分を含んだ空気と触れる作業を長時間していた。そのため、絶縁油の絶縁特性が劣化していた。
【解決手段】 油入変圧器本体と周辺機器をつなぐ油入変圧器用バルブに、不活性ガスの入ったボンベを有する枝管と不活性ガスを排気する排気ポンプを有する枝管とを設けることにより、抜油時や注油時に絶縁油と空気との接触を抑止できる油入変圧器を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入変圧器本体と冷却器などの周辺機器とを接続する油入変圧器用バルブとこの油入変圧器用バルブを備えた油入変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から油入変圧器の補修工事は、油入変圧器本体とこの本体に接続される冷却器等の周辺機器の中から絶縁油を抜油した後に、本体から配管等を取外すことで、周辺機器を分離し、対象となる補修部位の補修作業が実施される。補修部位の補修作業完了後は、油入変圧器本体に周辺機器を再び取付け、これらに絶縁油を注油し、所定の検査を経て、一連の補修工事は終了する(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭60−169817号公報
【特許文献2】特開2009−164627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の油入変圧器の補修工事では、油入変圧器全体から絶縁油を抜油したり注油したりするために長時間の作業を伴い、また、絶縁油へ大気中から酸素や水分の浸入があって、絶縁油の劣化が進行するという課題があった。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決し、絶縁油の劣化を伴わない補修工事が可能な油入変圧器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の油入変圧器用バルブは、油入変圧器本体をつなぐ第1枝管ならびに周辺機器をつなぐ第2枝管と、前記第1、第2枝管に不活性ガスを供給するボンベを備えた第3枝管と、前記第1、第2枝管から不活性ガスを排気する排気ポンプを備えた第4枝管と、前記第1、第2、第3、第4枝管の流路を特定する開閉装置とを備えた点を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成された油入変圧器用バルブ(以下、バルブと記す)を取付けた油入変圧器(以下、変圧器と記す)においては、絶縁油の劣化を伴わない補修工事ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1の変圧器の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1の第1バルブの構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1の第2バルブの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態1について詳細に説明する。図1は、この発明の実施の形態1の変圧器の構成図、図2は第1バルブの構成図、図3は第2バルブの構成図である。なお、図中の同一符号は、同一または相当部分を示している。
【0010】
図1に示すように変圧器本体1の内部には、鉄心2に巻線3が巻き込まれた電磁気回路が内蔵され、絶縁油4に浸漬されている。電磁気回路への受配電は、変圧器本体1の外部に取付けられた気中ブッシング5や油ガスブッシング6を介して図示しない外部の電気系統から行われる。なお、補修工事中においては、受配電の実施はない。変圧器本体1の上部には、絶縁油4の劣化の防止と内部圧力調整のためのコンサベ−タ7が取付けられ、液面計8によりその絶縁油4の液量が確認されている。
【0011】
変圧器本体1と冷却機9のそれぞれの間には1対の変圧器用バルブである第1バルブ100、第2バルブ200が設けられ、これらの中を絶縁油4が循環することで、上記電磁気回路の冷却がなされる。変圧器本体1、冷却機9および第1、第2バルブ100、200のそれぞれの外壁(絶縁油4を収納するための密閉空間を構成する容器の外壁)には、絶縁油4を送り込むためのプラグないしソケットからなる取付け口が設けられ脱着可能になっている。
【0012】
図2に示すように第1バルブ100は、4方向の第1、第2、第3、第4枝管110、120、130、140を備えた4方バルブであって、それぞれの枝管に第1、第2、第3、第4開閉装置111、121、131、141が設けられ、バルブ内の流路を特定できるようになっている。第1、第2枝管110、120のそれぞれの一端には、変圧器本体1または冷却機9との接続用のプラグないしソケットが設けられている。第3枝管130には、圧力調整用のレギュレ−タ132と不活性ガスを充填したボンベ133が設けられ、変圧器からの絶縁油4の抜油に適用される。第4枝管140には、液量計142を備えた脱気用の脱気用液溜143と排気ポンプ144が設けられ、変圧器への絶縁油4の注油に適用される。
【0013】
図3に示すように第2バルブ200は、3方向の第1、第2、第3枝管210、220、230を備えた3方バルブであって、それぞれの枝管に第1、第2、第3開閉装置211、221、231が設けられ、バルブ内の流路を特定できるようになっている。第1、第2枝管210、220のそれぞれの一端には、冷却機9または変圧器本体1との接続用のプラグないしソケットが設けられている。第3枝管230の一端は絶縁油4を回収する気密性の伸縮自在の密閉袋232が接続されている。上記の伸縮自在の密閉袋232とは、例えば、ゴム風船のようなものであっても良いし、材質自体の伸縮は無いが、収納袋のように構造的(折りたたみ等)に膨らんだりしぼんだりするようなものである。この密閉袋232は、変形しにくい定型容器からなる圧力タンク233内にその底面を接するように収納されている。この圧力タンク233には、加減圧可能な圧力調整ポンプ234が設けられ、密閉袋232の伸縮を制御する目的で、抜油時や注油時に必要に応じて稼動させることができる。なお、第3枝管230に設けられた密閉袋232は、圧力タンク233と共に脱着可能な構造にしておいても良い。以下、実施の形態1の変圧器の動作について説明する。
【0014】
抜油前の各開閉装置の状態は、第1バルブ100の第3、第4開閉装置131と141ならびに第2バルブ200の第3開閉装置231が閉じられ、第1バルブ100の第1、第2開閉装置111と121ならびに第2バルブ200の第1、第2開閉装置211、221が開けられている。以下、変圧器本体1と冷却機9から絶縁油4を密閉袋232に回収する抜油手順について記す。
【0015】
第2バルブ200の第3開閉装置231を開ける。すると、第3枝管230から密閉袋232に向けて絶縁油4がゆっくりと流れ出す。第1バルブ100の第3開閉装置131を開けると、第1バルブ100のボンベ133に充填される不活性ガスがレギュレ−タ132を介して変圧器本体1ならびに冷却機9に向けて流れ込み、変圧器本体1ならびに冷却機9内の絶縁油4との置換が始まる。その結果、変圧器本体1ならびに冷却機9内の絶縁油4は、密閉袋232に向けて急速に流れ出す。このとき必要に応じて、圧力調整ポンプ234を減圧に稼動させることで絶縁油4の抜油速度をさらに上昇させることが可能である。
【0016】
これによって、密閉袋232は圧力タンク233内で膨らみながら、やがて変圧器本体1と冷却機9内の全ての絶縁油4は抜油される。なお、膨らんだ密閉袋232は圧力タンク233の内壁で支持されるため、膨張しすぎ破裂することは無い。また、膨らんだ密閉袋232内の圧力とレギュレ−タ132の圧力が等しくなるので、変圧器本体1ならびに冷却機9への不活性ガスの供給は止まる。第1バルブ100の第3開閉装置131を閉じると共に、第2バルブ200の第3開閉装置231を閉じることで、抜油作業は終了する。なお、絶縁油4は不活性ガス以外と触れることが無いので、劣化することはない。次に、補修作業の手順について記す。
【0017】
第1バルブ100の第1、第2開閉装置111、121を閉じると共に、第2バルブ200の第1、第2開閉装置211、221を閉じる。変圧器本体1と冷却機9の容器内の圧力を減圧した後、冷却機9ないし変圧器本体1から第1、第2バルブ100、200を取外し、所望の補修部位の補修作業を実施する。補修部位の補修作業完了後は、冷却機9ないし変圧器本体1から取外した第1、第2バルブ100、200を接続し、第1バルブ100の第1、第2開閉装置111、121を開けると共に、第2バルブ200の第1、第2開閉装置211、221を開ける。次に注油手順について記す。
【0018】
第1バルブ100の第3開閉装置131を開ける。第1バルブ100のボンベ133に充填される不活性ガスがレギュレ−タ132を介して変圧器本体1ならびに冷却機9に向けて流れ込み、変圧器本体1ならびに冷却機9の容器内の空気の希薄化が進む。やがて、変圧器本体1ならびに冷却機9の容器内の圧力とレギュレ−タ132の圧力が等しくなるので、変圧器本体1ならびに冷却機9への不活性ガスの供給は止まる。第1バルブ100の排気ポンプ144を駆動させる。第1バルブ100の第3開閉装置131を閉じ、第4開閉装置141を開ける。変圧器本体1ならびに冷却機9の容器内の不活性ガスで希薄化された空気は、第4枝管140の排気ポンプ144により排気され真空になる。
【0019】
第2バルブ200の第3開閉装置231を開ける。その結果、密閉袋232内の絶縁油4は変圧器本体1ならびに冷却機9に向けて急速に流入する。このとき必要に応じて、圧力調整ポンプ234を加圧に稼動させることで絶縁油4の注油速度をさらに上昇させることが可能である。やがて、絶縁油4は第4枝管140の脱気用液溜143にまで注油され、それに備えられた液量計142でその液量が確認される。第2バルブ200の第3開閉装置231を閉じる。しばらく、排気ポンプ144を駆動し続けることで、変圧器本体1ならびに冷却機9の容器内ならびに第1、第2バルブ100、200内の絶縁油4内の気体は脱気される。第4開閉装置141を閉じ、排気ポンプ144を停止する。これにより、注油作業は終了する。次に所定の検査を施し、一連の補修工事は終了する。なお、絶縁油4は不活性ガス以外と触れることが無いので、劣化することはない。
【0020】
実施の形態2.
上記本発明の実施の形態1では、変圧器本体1ならびに冷却機9の容器内から絶縁油4を抜油した。ところで、抜油時に変圧器本体1と冷却機9を接続する第1、第2バルブ100、200に備えられた第1開閉装置111、211を閉めることで、変圧器本体1の容器内の絶縁油4を抜き取れなくすることができる。また、第2開閉装置112、212を閉めることで、冷却機9の容器内の絶縁油4を抜抜き取れなくすることができる。従って、変圧器本体1もしくは冷却機9のいずれかの容器内の絶縁油4を残すことが可能である。
【0021】
補修工事の中には、予め補修すべき補修部位が決まっており、例えば変圧器本体1または冷却機9のいずれかの特定部位だけの場合がある。その際、必ずしも変圧器全体から絶縁油4を抜き取る必要性はない。要するに補修部位を有する変圧器本体1または冷却機9のいずれかの一方のみから抜油し、第1、第2バルブ100、200から取外しさえできればよい。言い換えれば、本発明の実施の形態2は、変圧器本体1もしくは冷却機9のいずれかの容器内の絶縁油4を残したまま一連の補修工事を実施するものである。
【0022】
変圧器本体1の容器内の絶縁油4を残したまま一連の補修工事を実施するための実施の形態2の第1手順について記す。実施の形態1での補修工事の実施手順に加えて、抜油前に第1、第2バルブ100、200の第1開閉装置111、211を閉め、補修作業中の手順で、変圧器本体1の容器内の圧力を減圧せずに維持し、注油後に第1、第2バルブ100、200の第1開閉装置111、211を開ける動作を実施する手順である。
【0023】
冷却機9の容器内の絶縁油4を残したまま一連の補修工事を実施するための実施の形態2の第2手順について記す。実施の形態1での補修工事の実施手順に加えて、抜油前に第1、第2バルブ100、200の第2開閉装置121、221を閉め、補修作業で、冷却機9の容器内の圧力を減圧せずに維持し、注油後に第1、第2バルブ100、200の第2開閉装置121、221を開ける動作を追加して実施するものである。
【0024】
以上の実施の形態2の第1または第2手順を実施することにより、変圧器本体1または冷却機9に絶縁油4を残したまま、一連の補修工事の実施が可能になるので、絶縁油4の抜油や注油に必要な時間を減らすことが可能になる。また、絶縁油4は不活性ガス以外と触れることが無いので、劣化することはない。
【0025】
上記実施の形態1、2においては、第3枝管230に設けられた密閉袋232は圧力タンク233に接続されて用いられているが、密閉袋232と入れ替えて第3枝管230に図示しない他の廃油配管に接続することで絶縁油を廃棄させることも可能である。また、注油時に第3枝管230に新しい絶縁油を収納したタンクにつながる図示しない給油配管に接続することも可能であり、上記実施の形態1、2と同様の手順の作業ができる。この場合、本発明の油入変圧器用バルブを適用することで、油入変圧器の補修工事だけではなく、廃棄工事や設置工事も実施できるという格別の効果が得られる。
【0026】
上記のように構成されたバルブ(油入変圧器用バルブ)を取付けた変圧器(油入変圧器)においては、変圧器本体もしくは周辺機器(冷却機等)、あるいはそれら両方から選択的に絶縁油を劣化させることなく抜油したり注油したりすることが可能となり、その結果、絶縁油の劣化を伴わない短時間の補修工事、廃棄工事、設置工事ができるようになる。
【符号の説明】
【0027】
1 変圧器本体、 4 第1絶縁油、
9 冷却機(周辺機器)、
100 第1バルブ、 110 第1枝管、
111 第1開閉装置、 120 第2枝管、
121 第2開閉装置、 130 第3枝管、
131 第3開閉装置、 132 レギュレ−タ
133 ボンベ、 140 第4枝管、
141 第4開閉装置、 143 脱気用液溜、
144 排気ポンプ、
200 第2バルブ、 210 第1枝管、
211 第1開閉装置、 220 第2枝管、
221 第2開閉装置、 230 第3枝管、
231 第3開閉装置、 232 密閉袋、
233 圧力タンク、 234 圧力調整ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油入変圧器本体をつなぐ第1枝管ならびに周辺機器をつなぐ第2枝管と、前記第1、第2枝管に不活性ガスを供給するボンベを備えた第3枝管と、前記第1、第2枝管から不活性ガスを排気する排気ポンプを備えた第4枝管と、前記第1、第2、第3、第4枝管の流路を特定する開閉装置とを備えた油入変圧器用バルブ。
【請求項2】
請求項1に記載の油入変圧器用バルブであって、第3枝管に減圧用のレギュレ−タが備えられ、第4枝管に脱気用の脱気用液溜が備えられていることを特徴とする油入変圧器用バルブ。
【請求項3】
油入変圧器本体をつなぐ第1枝管ならびに周辺機器をつなぐ第2枝管と、前記油入変圧器の絶縁油を回収する気密性の密閉袋を一端に接続した第3枝管と前記第1、第2、第3枝管の流路を特定する開閉装置とを備えた油入変圧器用バルブ。
【請求項4】
請求項3に記載の油入変圧器用バルブであって、密閉袋を保持する定型容器が備えられていることを特徴とする油入変圧器用バルブ。
【請求項5】
請求項4に記載の油入変圧器用バルブであって、定型容器が圧力調整ポンプを備えた気密性の圧力タンクであることを特徴とする油入変圧器用バルブ。
【請求項6】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の油入変圧器用バルブと、請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の油入変圧器用バルブとが、1対の油入変圧器用バルブであることを特徴とする油入変圧器用バルブ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の油入変圧器用バルブを備えたことを特徴とする油入変圧器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−142263(P2011−142263A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2945(P2010−2945)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】