油入電気機器の内部異常診断方法
【課題】油入電気機器における異常部分の特定、異常の状態が具体的に診断できる油入電気機器の異常診断方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】油入電気機器から絶縁油の試料を採取し、試料油中に溶解した低蒸気圧、高沸点の分解成分を検出し、検出した分解成分中に、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフラン、酢酸が検出された場合には、絶縁紙が巻回された通電部に250℃以上の過熱部が存在すると判定することを特徴とする油入電気機器の内部異常診断方法である。
【解決手段】油入電気機器から絶縁油の試料を採取し、試料油中に溶解した低蒸気圧、高沸点の分解成分を検出し、検出した分解成分中に、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフラン、酢酸が検出された場合には、絶縁紙が巻回された通電部に250℃以上の過熱部が存在すると判定することを特徴とする油入電気機器の内部異常診断方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は油入変圧器、油入リアクトルなどの油入電気機器内部の絶縁油に溶解した局部加熱あるいは内部放電等に起因する分解成分を分析することにより、異常の有無、異常の状態の推定を行う油入電気機器の内部異常診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油入変圧器、油入リアクトルなどの油入電気機器内部の局部加熱あるいは放電等の異常現象が発生していると、内部に使用されている絶縁油、絶縁紙等の絶縁材料が徐々に分解して絶縁耐力が低下し、ついには絶縁破壊事故に至ることが懸念される。油入電気機器の内部に部分放電、局部加熱等があると充填されている絶縁油、絶縁紙、その他の絶縁材料が熱分解して分解成分が生成し、生成した分解成分が絶縁油中に溶解する。この溶解した分解成分を定期的に分析して、内部異常の有無、異常箇所の特定、異常程度を診断し、診断結果に基づいて事故に至る前に対策を行えば、油入電気機器の信頼性が確保される。
【0003】
油入電気機器の局部加熱、部分放電等の異常を監視する従来から行われている方法は、電気協同研究、第54巻、第5号(1980)に報告されている方法(一般には電協研法と呼ばれている)、IEC規格による方法(IEC Pub.567:油中ガス分析方法、IEC Pub.599:診断方法)、ANSI規格による方法(ANSI/IEEE C57.104−1978)などが一般的であった。これらの方法は、油入電気機器内部の異常時に発生する沸点あるいは昇華点の低い一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)から経年劣化の進行状況、水素(H2)、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4)等の可燃性ガスから局部加熱、部分放電等の有無を識別するものであり、異常の有無、異常の程度は推定できるが、損傷部分の位置の特定、異常温度の推定は困難であった。
【0004】
油入電気機器は、JEC−168に巻線部分および絶縁油の最高許容温度が規定されており、規定された最高許容温度を超える場合に内部異常の存在が推測される。油入電気機器に使用された材料の熱分解が顕著になる温度は、絶縁油では350℃以上、固体絶縁材料では250℃以上とされている。
【0005】
油入電気機器の内部異常の早期発見には、規格に規定された許容温度以上の温度で生成する分解成分を検出することが有力な手段である。特に部分放電、局部加熱に起因する異常現象は、コイル周辺の絶縁材料から生成される分解成分を分析することが有効な方法である。
【0006】
しかし、油入電気機器の内部に使用された絶縁材料の部分放電、局部加熱による分解成分は、蒸気圧が低くて沸点が高くガス化しにくいので、上記の電協研法等の方法では困難であった。蒸気圧が低く高沸点の分解成分を分析する分析方法としては特開平9−72892号公報に開示された方法がある。
【0007】
特開平9−72892号公報に開示されたガス分析方法の装置の構成を図8に示す。図において、1は試料油を収納する試料油容器、2は試料油容器1の注油口、3は試料油容器1の排油口、4は排油バルブ、5は試料油、6はヘリウムガスなどの不活性ガスをキャリアガスとしてバブリングするキャリアガス給気管、7は試料油を加熱するためのヒータ、8はバブリングするキャリアガスを注入するキャリアガス注入管、9はキャリアガスの流量調節弁、10は二方コック、11はキャリアガス送気管、12はバブリングにより抽出された抽出ガスを取り出すガス抽出管、13は抽出ガスをキャリアガスとともに通気する抽出ガス通気管、14は三方コック、15はコールドトラップ容器、15aはコールドトラップ容器15の液体窒素等の冷却媒体の供給口および排出口、16は−130℃程度に冷却することにより分解成分を凝縮捕獲するコールドトラップ、17はコールドトラップ16を加熱するヒータ、18は三方コック、19はキャリアガスを供給するガス給気管、20はヘリウムガス等のキャリアガスが充填されたガスボンベ、21は流量調節弁、22は三方コック、23はガスクロマトグラフ分析器(以下GCMSと呼称する)であり、カラム23aと検出器23bとで構成されている。24は冷却媒体容器、25は液体窒素等の冷却媒体、26は冷却媒体25を供給するために冷却媒体容器24に圧力を加える加圧管、27は冷却媒体供給管、28は流量調節弁である。
【0008】
絶縁油中にヘリウムガスなどのキャリアガスをバブリングして抽出した分解成分をコールドトラップさせる方法をPTI法(Purge and Trap Injector)と呼ばれ、このPTI法とGCMS(ガスクロマトグラフ分析器)で分析する方法をPTI−GCMS分析法と呼称されているので、以下図8に示した構成で行う分析法をPTI−GCMS分析法と呼称する。
【0009】
つぎに図8のように構成された分析装置で行うPTI−GCMS分析法について説明する。
(1)二方コック10および排油バルブ4を開き、キャリアガス送気管11からキャリアガスを流量調節弁9により流量調節して試料油容器1側の流路に流して流路の空気をブローアウトする。
(2)三方コック14および22をGCMS23側に開いてコールドトラップ16およびGCMS23の部分の空気をブローアウトする。
(3)冷却媒体容器24の加圧管26から圧力を加えて冷却媒体(液体窒素)25をコールドトラップ容器15に導き−130℃程度に冷却する。
(4)注射器等により試料油を数ミリリットル採取し、試料油容器1の注油口2より試料油容器1内に注入する。
(5)三方コック14を試料油容器1側に切換え、試料油容器1をヒータ6により、蒸気圧が53Paになる温度で加熱し、二方コック10を開いて圧力調節弁9により流量調節し、バブリング管6にキャリアガスを供給して数分間バブリングして試料油中に溶解している分解成分を抽出する。抽出された分解成分をキャリアガスとともにコールドトラップ容器15内のコールドトラップ16の内径部に導入し、分解成分をコールドトラップ16に凝縮捕獲する。
(6)コールドトラップ16をヒータ17により200℃以上に急速加熱し、凝縮捕獲した分解成分を気化させてキャリアガスを流しながらGCMS23bに導入して分析する。
【0010】
油入電気機器から採取した試料油を上記のPTI−GCMS分析法で分析すると、抽出された分解成分はコールドトラップ16で凝縮して捕獲され、200℃以上に急速加熱することにより、蒸発して瞬時にGCMS23に導入されるため、精度よく分析できる。その分析結果のグラフの例を図9、検出された分解成分を図10に示す。検出結果は低蒸気圧、高沸点の分解成分が多く検出されている。
【0011】
油入電気機器に使用されている代表的な絶縁材料を個別に絶縁油中に浸漬し、200℃で最大3日間過熱して絶縁油に溶解した分解成分をPTI−GCMS分析法により分解成分を検出した例が図11に示されている。その結果は、低蒸気圧、高沸点の分解成分が多く検出されている。
【0012】
【特許文献1】特開平9−72892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特開平9−72892号公報では、PTI−GCMS分析法により、低蒸気圧、高沸点の異常指標となる分解成分が高感度で検出され、検出された分解成分により油入電気機器の異常診断ができるとしているが、分解成分と油入電気機器内部の異常状態との対応がなされておらず、異常部分の位置の特定や異常の状態が具体的に把握できないという問題点があった。
【0014】
この発明は、上記問題点を解消するためになされたものであり、油入電気機器における異常部分の特定、異常の状態が具体的に診断できる油入電気機器の異常診断方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明の請求項1に係る油入電気機器の異常診断方法は、油入電気機器から絶縁油の試料を採取し、試料油中に溶解した低蒸気圧、高沸点の分解成分を検出し、検出した分解成分中に、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフランおよび酢酸が検出された場合には、絶縁紙が巻回された通電部に250℃以上の過熱部が存在すると判定する方法である。
【発明の効果】
【0016】
この発明の請求項1に係る油入電気機器の異常診断方法は、油入電気機器から
絶縁油の試料を採取し、試料油中に溶解した低蒸気圧、高沸点の分解成分を検出し、検出した分解成分中に、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフランおよび酢酸が検出された場合には、絶縁紙が巻回された通電部に過熱した部分が存在すると判定する方法であり、検出された分解成分より、通電部の加熱温度の推定が容易に行える方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
油入電気機器に使用されている絶縁油および絶縁材料が、局部加熱や放電の発生等の内部異常に晒されて生成した低蒸気圧、高沸点の分解成分は、上記従来の技術欄に示した特開平9−72892号公報に開示されたPTI−GCMS分析法により高感度で検出できるようになったが、分解成分を検出するのみでは異常部分の位置の特定や異常の状態が具体的に把握することはできない。この実施の形態1は、使用中の油入電気機器から絶縁油を採取してPTI−GCMS分析法によって検出した分解成分から、油入電気機器の内部異常の位置および異常の状態を適正に判定する判定基準を明確にするものである。
【0018】
油入電気機器の内部に充填された絶縁油は、350℃以上になると分解が顕著になり、その分解成分を検出することにより、油入電気機器内部の異常の状態を識別することができる。内部温度が350℃以下の場合は、固体絶縁材料から特徴的に生成する分解成分から内部温度を推定することができ、固定絶縁材料は使用箇所が明確なため、異常位置の特定も容易に行うことができる。
【0019】
油入電気機器の主要材料の絶縁油、絶縁紙、および固体絶縁材料について、内部異常時に生成される分解成分と異常の状態との関係を明確にするために次の実験を行った。
(1)絶縁油の過熱分解成分の抽出。
(2)油入電気機器内部に使用されている主要絶縁材料の過熱分解成分の抽出。
(3)コイル、接続導体部分の絶縁紙の過熱分解成分の抽出。
【0020】
<絶縁油分解成分の抽出実験>
絶縁油の加熱試験は、表1の試験条件により実施した。試験の方法は絶縁油中に配置したステンレス製パイプヒータあるいはタングステン線に通電して局部的に加熱し、生成された分解成分をPTI−GCMS分析法により検出した。
【0021】
【表1】
【0022】
絶縁油中のタングステン線に電流を流して、500〜700℃、700℃、1000℃に加熱した場合のメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンの生成量を図1に示す。加熱温度が700℃、1000℃、部分放電、絶縁破壊1、絶縁破壊2におけるメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンとの濃度比率を図2に示す。メチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンとの濃度比率は、1000℃の加熱においては0.014であり、部分放電を発生させた場合、絶縁破壊させた場合のメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンの濃度比率は、その100倍の1.5以上となっている。
【0023】
また、絶縁油をパイプヒータにより300℃、350℃、400℃、450℃、500℃でそれぞれ30分間加熱した場合の1ブテン、1ペンテン、2ペンテンおよび1ヘキセンの検出濃度を図3に示す。この温度ではメチルビニルアセチレン、2メチル1,3ブタジエンは生成してしない。
【0024】
図1は、絶縁油の温度が500℃を超えると2メチル1,3ブタジエンの生成が顕著になり、700℃を超えるとメチルビニルアセチレンの生成が顕著になることを示すものであり、図2は、過熱した場合のメチルビニルアセチレンの発生に対して部分放電あるいは絶縁破壊が生じた場合のメチルビニルアセチレンは大量に発生することを示すものである。図3は、1ブテン、1ペンテン、2ペンテンおよび1ヘキセンは350℃を超えると生成が顕著になることを示している。
【0025】
正常に運転されている油入電気機器(内部異常が存在しない場合)のPTI−GCMS分析法で分析された上限濃度(ピーク面積値)は、1ブテンは90000、1ペンテンは540000、2ペンテンは250000、1ヘキセンは480000となっている。
【0026】
以上の実験結果から、絶縁油の分解成分のメチルビニルアセチレン、2メチル1,3ブタジエン、1ブテン、1ペンテン、2ペンテンおよび1ヘキサンの検出濃度により、次のように油入電気機器の内部異常を判定することができる。
【0027】
(1)検出された分解成分中のメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンの濃度比率が1.5以上の場合には放電が発生している部分が存在する。
(2)検出された分解成分中のメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエン濃度比率が0.014〜1.5の範囲にあるときは、700℃以上の局部加熱部または微小な放電部分が存在する。
(3)メチルビニルアセチレンが検出されないかまたはごく微量で、1ブテン、1ペンテン、2ペンテン、1ヘキセンおよび2メチル1,3ブタジエンが検出された場合には、500〜700℃の加熱部分が存在する。(メチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンの濃度比率が0.014以下の場合)
(4)メチルビニルアセチレン、2メチル1,3ブタジエンの双方が検出されないで、1ブテン、1ペンテン、2ペンテン、1ヘキセンが検出された場合には、350〜500℃の加熱部分が存在する。
【0028】
以上のように使用中の油入電気機器から採取した絶縁油の分解成分をPTI−GCMS分析法により検出し、検出した分解成分中にメチルビニルアセチレンが存在すると放電部分が存在することが明確に診断され、メチルビニルアセチレンが検出されないで、2メチル1,3ブタジエン、1ブテン、1ペンテン、2ペンテン、1ヘキセンが検出された場合には、油入電気機器内部の350℃以上の過熱部の有無、過熱部の温度、放電の有無などの異常状態を容易に診断することができる。
【0029】
<油入電気機器内部に使用されている主要絶縁材料の過熱分解成分の抽出>
油入電気機器内部に使用されている主要絶縁材料の耐熱紙、PVF線被覆、樹脂A〜C、フェノール樹脂、ガラスエポキシ樹脂について、絶縁油中で200℃で3日間過熱し、PTI−GCMS分析法により特徴的に生成する低蒸気圧、高沸点の分解成分を調査した。その結果を表2に示す。表2の分解成分が検出されたときには、対応する絶縁材料が過熱部であり、その使用位置が過熱位置であると特定することができる。
【0030】
【表2】
【0031】
油入電気機器には上記の表2以外の材料についても、個別に加熱してそれぞれの材料から特徴的に生成する分解成分を明確に把握し、その結果を例えば図4に示すようにマトリクスにまとめ、調査対象の油入電気機器に充填された絶縁油の分析により検出された低蒸気圧、高沸点の分解成分を図4に照合して絶縁材料を特定し、その使用位置から過熱位置を特定することができる。
【0032】
<コイル、接続導体部分の絶縁紙、ワニス処理紙等の過熱分解成分の抽出>
油入電気機器のコイル、接続導体の表面に巻回されている絶縁紙は通常の使用状態においても多くの分解成分が生成されるものであり、通常の状態における分解成分と温度が200〜300℃程度の過熱状態で生成される低蒸気圧、高沸点の分解成分を明確にしておけば、検出された分解成分より過熱の状態を判定することができる。
【0033】
コイル、接続導体の部分の過熱により生成される分解成分を明確にするため、コイルを模擬してパイプヒータを使用し、その表面に絶縁紙を巻回し、表面にワニス処理紙を巻回したコイルモデルを製作し、絶縁油中で150〜300℃に過熱し、生成される分解成分を調査した。その結果を図5に示す。
【0034】
図5において、絶縁紙が200〜300℃に過熱されたときのみに特徴的に生成する分解成分は、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフランおよび酢酸であり、250℃以上になると生成する結果となっている。この分解成分が検出された場合には、コイル部分が250℃以上の過熱と判定できる。
【0035】
実施の形態2.
実施の形態1において油入電気機器内の主要絶縁材料について加熱温度に対応して生成する分解成分を調査した結果を示したが、実施の形態2では、実際の変圧器を模擬した実規模モデル変圧器を用いて過負荷試験を実施し、実施の形態1における調査の妥当性を確認した。
【0036】
過負荷試験を行った実規模モデル変圧器の仕様を表3に示す。過負荷試験条件を表4に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
過負荷試験は負荷率を表4のように110〜170%として、各ケース毎に絶縁油試料を採油し、絶縁油中に溶解する分解成分を分析した。その検出成分の一覧表を図6、分解成分の推移を図7に示す。検出成分は図6に示すように、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、ベンゼン、1ブテン、1ペンテン、2ペンテン、および1ヘキセンは、試験前の絶縁油からも検出され、この成分は、元々の新油中にも微量含まれているものや、モデル変圧器の熱油乾燥時に生成したものである。負荷率の上昇にしたがって生成される分解成分の種類は増加しており、負荷率140%(試料E)からはギ酸メチル、フラン、酢酸メチル、2メチルフラン、フルフラールが検出され、150%−1(試料G)からは、ジアセチル、2,5ジメチルフラン、ジメチルサルファイドが検出され、150%−2(試料H)では酢酸、3ペンタノン、フェノールが検出されている。また、絶縁油の分解成分の1ブテン、1ペンテン、2ペンテン、1ヘキセンは負荷率150%−1から急激に増加している。特に負荷率170%では顕著に増加しており、この時点では局部的に350℃を超える温度に過熱されていることが推定される。2メチル1,3ブタジエン、メチルビニルアセチレンはこの負荷試験では検出されていないので加熱された温度は500℃を超えていないと推定される。
【0040】
この実器モデルにおける過負荷試験により、実施の形態1において示した絶縁紙の異常診断の指標となる分解成分の、ジメチルサルファイド、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフランおよび酢酸が絶縁紙を巻回したコイル部分の過熱状態を診断する指標分解成分として妥当であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】絶縁油を高温加熱した場合の加熱時間とメチルビニルアセチレン、2メチル1,3ブタジエンの生成状況を示す図である。
【図2】絶縁油の過熱条件と生成したメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンの濃度比率の関係を示す図である。
【図3】絶縁油を高温加熱した場合の過熱条件と1ブテン、1ペンテン、2ペンテンおよび1ヘキセンの生成濃度の関係を示す図である。
【図4】主要絶縁材料と過熱したときに生成する分解成分の対応を示すマトリクスの例である。
【図5】絶縁紙を150〜300℃に過熱した場合の過熱条件と分解成分の濃度の関係を示す図である。
【図6】実器モデル変圧器の過負荷試験における分解成分の生成状況を示す一覧表である。
【図7】実器モデル変圧器の過負荷試験における分解成分の生成濃度と負荷条件との関係を示す図である。
【図8】絶縁油中の溶解成分を検出するコールドトラップ分析装置の構成図である。
【図9】コールドトラップ分析装置で分析した分析例のグラフである。
【図10】図9の分析成分の一覧表である。
【図11】過熱実験による絶縁油から検出された分解成分の例を示す一覧表である。
【技術分野】
【0001】
この発明は油入変圧器、油入リアクトルなどの油入電気機器内部の絶縁油に溶解した局部加熱あるいは内部放電等に起因する分解成分を分析することにより、異常の有無、異常の状態の推定を行う油入電気機器の内部異常診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油入変圧器、油入リアクトルなどの油入電気機器内部の局部加熱あるいは放電等の異常現象が発生していると、内部に使用されている絶縁油、絶縁紙等の絶縁材料が徐々に分解して絶縁耐力が低下し、ついには絶縁破壊事故に至ることが懸念される。油入電気機器の内部に部分放電、局部加熱等があると充填されている絶縁油、絶縁紙、その他の絶縁材料が熱分解して分解成分が生成し、生成した分解成分が絶縁油中に溶解する。この溶解した分解成分を定期的に分析して、内部異常の有無、異常箇所の特定、異常程度を診断し、診断結果に基づいて事故に至る前に対策を行えば、油入電気機器の信頼性が確保される。
【0003】
油入電気機器の局部加熱、部分放電等の異常を監視する従来から行われている方法は、電気協同研究、第54巻、第5号(1980)に報告されている方法(一般には電協研法と呼ばれている)、IEC規格による方法(IEC Pub.567:油中ガス分析方法、IEC Pub.599:診断方法)、ANSI規格による方法(ANSI/IEEE C57.104−1978)などが一般的であった。これらの方法は、油入電気機器内部の異常時に発生する沸点あるいは昇華点の低い一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)から経年劣化の進行状況、水素(H2)、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4)等の可燃性ガスから局部加熱、部分放電等の有無を識別するものであり、異常の有無、異常の程度は推定できるが、損傷部分の位置の特定、異常温度の推定は困難であった。
【0004】
油入電気機器は、JEC−168に巻線部分および絶縁油の最高許容温度が規定されており、規定された最高許容温度を超える場合に内部異常の存在が推測される。油入電気機器に使用された材料の熱分解が顕著になる温度は、絶縁油では350℃以上、固体絶縁材料では250℃以上とされている。
【0005】
油入電気機器の内部異常の早期発見には、規格に規定された許容温度以上の温度で生成する分解成分を検出することが有力な手段である。特に部分放電、局部加熱に起因する異常現象は、コイル周辺の絶縁材料から生成される分解成分を分析することが有効な方法である。
【0006】
しかし、油入電気機器の内部に使用された絶縁材料の部分放電、局部加熱による分解成分は、蒸気圧が低くて沸点が高くガス化しにくいので、上記の電協研法等の方法では困難であった。蒸気圧が低く高沸点の分解成分を分析する分析方法としては特開平9−72892号公報に開示された方法がある。
【0007】
特開平9−72892号公報に開示されたガス分析方法の装置の構成を図8に示す。図において、1は試料油を収納する試料油容器、2は試料油容器1の注油口、3は試料油容器1の排油口、4は排油バルブ、5は試料油、6はヘリウムガスなどの不活性ガスをキャリアガスとしてバブリングするキャリアガス給気管、7は試料油を加熱するためのヒータ、8はバブリングするキャリアガスを注入するキャリアガス注入管、9はキャリアガスの流量調節弁、10は二方コック、11はキャリアガス送気管、12はバブリングにより抽出された抽出ガスを取り出すガス抽出管、13は抽出ガスをキャリアガスとともに通気する抽出ガス通気管、14は三方コック、15はコールドトラップ容器、15aはコールドトラップ容器15の液体窒素等の冷却媒体の供給口および排出口、16は−130℃程度に冷却することにより分解成分を凝縮捕獲するコールドトラップ、17はコールドトラップ16を加熱するヒータ、18は三方コック、19はキャリアガスを供給するガス給気管、20はヘリウムガス等のキャリアガスが充填されたガスボンベ、21は流量調節弁、22は三方コック、23はガスクロマトグラフ分析器(以下GCMSと呼称する)であり、カラム23aと検出器23bとで構成されている。24は冷却媒体容器、25は液体窒素等の冷却媒体、26は冷却媒体25を供給するために冷却媒体容器24に圧力を加える加圧管、27は冷却媒体供給管、28は流量調節弁である。
【0008】
絶縁油中にヘリウムガスなどのキャリアガスをバブリングして抽出した分解成分をコールドトラップさせる方法をPTI法(Purge and Trap Injector)と呼ばれ、このPTI法とGCMS(ガスクロマトグラフ分析器)で分析する方法をPTI−GCMS分析法と呼称されているので、以下図8に示した構成で行う分析法をPTI−GCMS分析法と呼称する。
【0009】
つぎに図8のように構成された分析装置で行うPTI−GCMS分析法について説明する。
(1)二方コック10および排油バルブ4を開き、キャリアガス送気管11からキャリアガスを流量調節弁9により流量調節して試料油容器1側の流路に流して流路の空気をブローアウトする。
(2)三方コック14および22をGCMS23側に開いてコールドトラップ16およびGCMS23の部分の空気をブローアウトする。
(3)冷却媒体容器24の加圧管26から圧力を加えて冷却媒体(液体窒素)25をコールドトラップ容器15に導き−130℃程度に冷却する。
(4)注射器等により試料油を数ミリリットル採取し、試料油容器1の注油口2より試料油容器1内に注入する。
(5)三方コック14を試料油容器1側に切換え、試料油容器1をヒータ6により、蒸気圧が53Paになる温度で加熱し、二方コック10を開いて圧力調節弁9により流量調節し、バブリング管6にキャリアガスを供給して数分間バブリングして試料油中に溶解している分解成分を抽出する。抽出された分解成分をキャリアガスとともにコールドトラップ容器15内のコールドトラップ16の内径部に導入し、分解成分をコールドトラップ16に凝縮捕獲する。
(6)コールドトラップ16をヒータ17により200℃以上に急速加熱し、凝縮捕獲した分解成分を気化させてキャリアガスを流しながらGCMS23bに導入して分析する。
【0010】
油入電気機器から採取した試料油を上記のPTI−GCMS分析法で分析すると、抽出された分解成分はコールドトラップ16で凝縮して捕獲され、200℃以上に急速加熱することにより、蒸発して瞬時にGCMS23に導入されるため、精度よく分析できる。その分析結果のグラフの例を図9、検出された分解成分を図10に示す。検出結果は低蒸気圧、高沸点の分解成分が多く検出されている。
【0011】
油入電気機器に使用されている代表的な絶縁材料を個別に絶縁油中に浸漬し、200℃で最大3日間過熱して絶縁油に溶解した分解成分をPTI−GCMS分析法により分解成分を検出した例が図11に示されている。その結果は、低蒸気圧、高沸点の分解成分が多く検出されている。
【0012】
【特許文献1】特開平9−72892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特開平9−72892号公報では、PTI−GCMS分析法により、低蒸気圧、高沸点の異常指標となる分解成分が高感度で検出され、検出された分解成分により油入電気機器の異常診断ができるとしているが、分解成分と油入電気機器内部の異常状態との対応がなされておらず、異常部分の位置の特定や異常の状態が具体的に把握できないという問題点があった。
【0014】
この発明は、上記問題点を解消するためになされたものであり、油入電気機器における異常部分の特定、異常の状態が具体的に診断できる油入電気機器の異常診断方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明の請求項1に係る油入電気機器の異常診断方法は、油入電気機器から絶縁油の試料を採取し、試料油中に溶解した低蒸気圧、高沸点の分解成分を検出し、検出した分解成分中に、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフランおよび酢酸が検出された場合には、絶縁紙が巻回された通電部に250℃以上の過熱部が存在すると判定する方法である。
【発明の効果】
【0016】
この発明の請求項1に係る油入電気機器の異常診断方法は、油入電気機器から
絶縁油の試料を採取し、試料油中に溶解した低蒸気圧、高沸点の分解成分を検出し、検出した分解成分中に、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフランおよび酢酸が検出された場合には、絶縁紙が巻回された通電部に過熱した部分が存在すると判定する方法であり、検出された分解成分より、通電部の加熱温度の推定が容易に行える方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
油入電気機器に使用されている絶縁油および絶縁材料が、局部加熱や放電の発生等の内部異常に晒されて生成した低蒸気圧、高沸点の分解成分は、上記従来の技術欄に示した特開平9−72892号公報に開示されたPTI−GCMS分析法により高感度で検出できるようになったが、分解成分を検出するのみでは異常部分の位置の特定や異常の状態が具体的に把握することはできない。この実施の形態1は、使用中の油入電気機器から絶縁油を採取してPTI−GCMS分析法によって検出した分解成分から、油入電気機器の内部異常の位置および異常の状態を適正に判定する判定基準を明確にするものである。
【0018】
油入電気機器の内部に充填された絶縁油は、350℃以上になると分解が顕著になり、その分解成分を検出することにより、油入電気機器内部の異常の状態を識別することができる。内部温度が350℃以下の場合は、固体絶縁材料から特徴的に生成する分解成分から内部温度を推定することができ、固定絶縁材料は使用箇所が明確なため、異常位置の特定も容易に行うことができる。
【0019】
油入電気機器の主要材料の絶縁油、絶縁紙、および固体絶縁材料について、内部異常時に生成される分解成分と異常の状態との関係を明確にするために次の実験を行った。
(1)絶縁油の過熱分解成分の抽出。
(2)油入電気機器内部に使用されている主要絶縁材料の過熱分解成分の抽出。
(3)コイル、接続導体部分の絶縁紙の過熱分解成分の抽出。
【0020】
<絶縁油分解成分の抽出実験>
絶縁油の加熱試験は、表1の試験条件により実施した。試験の方法は絶縁油中に配置したステンレス製パイプヒータあるいはタングステン線に通電して局部的に加熱し、生成された分解成分をPTI−GCMS分析法により検出した。
【0021】
【表1】
【0022】
絶縁油中のタングステン線に電流を流して、500〜700℃、700℃、1000℃に加熱した場合のメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンの生成量を図1に示す。加熱温度が700℃、1000℃、部分放電、絶縁破壊1、絶縁破壊2におけるメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンとの濃度比率を図2に示す。メチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンとの濃度比率は、1000℃の加熱においては0.014であり、部分放電を発生させた場合、絶縁破壊させた場合のメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンの濃度比率は、その100倍の1.5以上となっている。
【0023】
また、絶縁油をパイプヒータにより300℃、350℃、400℃、450℃、500℃でそれぞれ30分間加熱した場合の1ブテン、1ペンテン、2ペンテンおよび1ヘキセンの検出濃度を図3に示す。この温度ではメチルビニルアセチレン、2メチル1,3ブタジエンは生成してしない。
【0024】
図1は、絶縁油の温度が500℃を超えると2メチル1,3ブタジエンの生成が顕著になり、700℃を超えるとメチルビニルアセチレンの生成が顕著になることを示すものであり、図2は、過熱した場合のメチルビニルアセチレンの発生に対して部分放電あるいは絶縁破壊が生じた場合のメチルビニルアセチレンは大量に発生することを示すものである。図3は、1ブテン、1ペンテン、2ペンテンおよび1ヘキセンは350℃を超えると生成が顕著になることを示している。
【0025】
正常に運転されている油入電気機器(内部異常が存在しない場合)のPTI−GCMS分析法で分析された上限濃度(ピーク面積値)は、1ブテンは90000、1ペンテンは540000、2ペンテンは250000、1ヘキセンは480000となっている。
【0026】
以上の実験結果から、絶縁油の分解成分のメチルビニルアセチレン、2メチル1,3ブタジエン、1ブテン、1ペンテン、2ペンテンおよび1ヘキサンの検出濃度により、次のように油入電気機器の内部異常を判定することができる。
【0027】
(1)検出された分解成分中のメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンの濃度比率が1.5以上の場合には放電が発生している部分が存在する。
(2)検出された分解成分中のメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエン濃度比率が0.014〜1.5の範囲にあるときは、700℃以上の局部加熱部または微小な放電部分が存在する。
(3)メチルビニルアセチレンが検出されないかまたはごく微量で、1ブテン、1ペンテン、2ペンテン、1ヘキセンおよび2メチル1,3ブタジエンが検出された場合には、500〜700℃の加熱部分が存在する。(メチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンの濃度比率が0.014以下の場合)
(4)メチルビニルアセチレン、2メチル1,3ブタジエンの双方が検出されないで、1ブテン、1ペンテン、2ペンテン、1ヘキセンが検出された場合には、350〜500℃の加熱部分が存在する。
【0028】
以上のように使用中の油入電気機器から採取した絶縁油の分解成分をPTI−GCMS分析法により検出し、検出した分解成分中にメチルビニルアセチレンが存在すると放電部分が存在することが明確に診断され、メチルビニルアセチレンが検出されないで、2メチル1,3ブタジエン、1ブテン、1ペンテン、2ペンテン、1ヘキセンが検出された場合には、油入電気機器内部の350℃以上の過熱部の有無、過熱部の温度、放電の有無などの異常状態を容易に診断することができる。
【0029】
<油入電気機器内部に使用されている主要絶縁材料の過熱分解成分の抽出>
油入電気機器内部に使用されている主要絶縁材料の耐熱紙、PVF線被覆、樹脂A〜C、フェノール樹脂、ガラスエポキシ樹脂について、絶縁油中で200℃で3日間過熱し、PTI−GCMS分析法により特徴的に生成する低蒸気圧、高沸点の分解成分を調査した。その結果を表2に示す。表2の分解成分が検出されたときには、対応する絶縁材料が過熱部であり、その使用位置が過熱位置であると特定することができる。
【0030】
【表2】
【0031】
油入電気機器には上記の表2以外の材料についても、個別に加熱してそれぞれの材料から特徴的に生成する分解成分を明確に把握し、その結果を例えば図4に示すようにマトリクスにまとめ、調査対象の油入電気機器に充填された絶縁油の分析により検出された低蒸気圧、高沸点の分解成分を図4に照合して絶縁材料を特定し、その使用位置から過熱位置を特定することができる。
【0032】
<コイル、接続導体部分の絶縁紙、ワニス処理紙等の過熱分解成分の抽出>
油入電気機器のコイル、接続導体の表面に巻回されている絶縁紙は通常の使用状態においても多くの分解成分が生成されるものであり、通常の状態における分解成分と温度が200〜300℃程度の過熱状態で生成される低蒸気圧、高沸点の分解成分を明確にしておけば、検出された分解成分より過熱の状態を判定することができる。
【0033】
コイル、接続導体の部分の過熱により生成される分解成分を明確にするため、コイルを模擬してパイプヒータを使用し、その表面に絶縁紙を巻回し、表面にワニス処理紙を巻回したコイルモデルを製作し、絶縁油中で150〜300℃に過熱し、生成される分解成分を調査した。その結果を図5に示す。
【0034】
図5において、絶縁紙が200〜300℃に過熱されたときのみに特徴的に生成する分解成分は、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフランおよび酢酸であり、250℃以上になると生成する結果となっている。この分解成分が検出された場合には、コイル部分が250℃以上の過熱と判定できる。
【0035】
実施の形態2.
実施の形態1において油入電気機器内の主要絶縁材料について加熱温度に対応して生成する分解成分を調査した結果を示したが、実施の形態2では、実際の変圧器を模擬した実規模モデル変圧器を用いて過負荷試験を実施し、実施の形態1における調査の妥当性を確認した。
【0036】
過負荷試験を行った実規模モデル変圧器の仕様を表3に示す。過負荷試験条件を表4に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
過負荷試験は負荷率を表4のように110〜170%として、各ケース毎に絶縁油試料を採油し、絶縁油中に溶解する分解成分を分析した。その検出成分の一覧表を図6、分解成分の推移を図7に示す。検出成分は図6に示すように、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、ベンゼン、1ブテン、1ペンテン、2ペンテン、および1ヘキセンは、試験前の絶縁油からも検出され、この成分は、元々の新油中にも微量含まれているものや、モデル変圧器の熱油乾燥時に生成したものである。負荷率の上昇にしたがって生成される分解成分の種類は増加しており、負荷率140%(試料E)からはギ酸メチル、フラン、酢酸メチル、2メチルフラン、フルフラールが検出され、150%−1(試料G)からは、ジアセチル、2,5ジメチルフラン、ジメチルサルファイドが検出され、150%−2(試料H)では酢酸、3ペンタノン、フェノールが検出されている。また、絶縁油の分解成分の1ブテン、1ペンテン、2ペンテン、1ヘキセンは負荷率150%−1から急激に増加している。特に負荷率170%では顕著に増加しており、この時点では局部的に350℃を超える温度に過熱されていることが推定される。2メチル1,3ブタジエン、メチルビニルアセチレンはこの負荷試験では検出されていないので加熱された温度は500℃を超えていないと推定される。
【0040】
この実器モデルにおける過負荷試験により、実施の形態1において示した絶縁紙の異常診断の指標となる分解成分の、ジメチルサルファイド、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフランおよび酢酸が絶縁紙を巻回したコイル部分の過熱状態を診断する指標分解成分として妥当であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】絶縁油を高温加熱した場合の加熱時間とメチルビニルアセチレン、2メチル1,3ブタジエンの生成状況を示す図である。
【図2】絶縁油の過熱条件と生成したメチルビニルアセチレンと2メチル1,3ブタジエンの濃度比率の関係を示す図である。
【図3】絶縁油を高温加熱した場合の過熱条件と1ブテン、1ペンテン、2ペンテンおよび1ヘキセンの生成濃度の関係を示す図である。
【図4】主要絶縁材料と過熱したときに生成する分解成分の対応を示すマトリクスの例である。
【図5】絶縁紙を150〜300℃に過熱した場合の過熱条件と分解成分の濃度の関係を示す図である。
【図6】実器モデル変圧器の過負荷試験における分解成分の生成状況を示す一覧表である。
【図7】実器モデル変圧器の過負荷試験における分解成分の生成濃度と負荷条件との関係を示す図である。
【図8】絶縁油中の溶解成分を検出するコールドトラップ分析装置の構成図である。
【図9】コールドトラップ分析装置で分析した分析例のグラフである。
【図10】図9の分析成分の一覧表である。
【図11】過熱実験による絶縁油から検出された分解成分の例を示す一覧表である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油入電気機器から絶縁油の試料を採取し、試料油中に溶解した低蒸気圧、高沸点の分解成分を検出し、検出した分解成分中に、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフラン、酢酸が検出された場合には、絶縁紙が巻回された通電部に250℃以上の過熱部が存在すると判定することを特徴とする油入電気機器の内部異常診断方法。
【請求項1】
油入電気機器から絶縁油の試料を採取し、試料油中に溶解した低蒸気圧、高沸点の分解成分を検出し、検出した分解成分中に、3ペンタノン、ジアセチル、2,5ジメチルフラン、酢酸が検出された場合には、絶縁紙が巻回された通電部に250℃以上の過熱部が存在すると判定することを特徴とする油入電気機器の内部異常診断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−298531(P2007−298531A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218136(P2007−218136)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【分割の表示】特願2001−153464(P2001−153464)の分割
【原出願日】平成13年5月23日(2001.5.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2000年12月15日 社団法人電気学会開催の「電気学会静止器研究会」において文書をもって発表
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【分割の表示】特願2001−153464(P2001−153464)の分割
【原出願日】平成13年5月23日(2001.5.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2000年12月15日 社団法人電気学会開催の「電気学会静止器研究会」において文書をもって発表
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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