説明

油入電気機器の劣化診断方法

【課題】隔膜における窒素ガス透過係数の劣化倍増係数でガス遮断性能を評価し、この劣化増倍係数を用いて絶縁油中の酸素消費量を定量評価することで、絶縁油特性の酸化劣化について信頼性及び精度の高い予測診断を行うことを目的とする。
【解決手段】油中窒素濃度と、絶縁油の温度の経時データと、未劣化のコンサベータの隔膜の窒素ガス透過係数の温度特性データとを用いて、未劣化の隔膜の窒素ガス侵入量を求め、前記未劣化の隔膜の前記窒素ガス侵入量と油入電気機器の油中窒素濃度の変化量と絶縁油体積との積で表される実際の前記窒素ガス侵入量と、前記未劣化の前記隔膜の前記窒素ガス侵入量との比からなる窒素ガス量評価係数により、前記油入電機器絶縁油で消費された酸素量を求めて油入電気機器の劣化を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入電気機器の劣化診断方法に係り、特に、絶縁油特性の劣化についての油入電気機器の劣化診断に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電力コンデンサや変圧器等の油入電気機器には、コンサベータが設けられている。コンサベータは、油入電気機器の内部に密封されている絶縁油が運転時の温度変化によって膨張・収縮を起こす際、その絶縁油の膨張・収縮を吸収し、油入電気機器内部の圧力を一定に保つ装置である。このコンサベータが気密不良を起こすと、油入電気機器内部に気体等(例えば空気)が侵入してしまい、油入電気機器に悪影響を及ぼす。特に、侵入した空気中の酸素が油入電気機器の内部の絶縁油に溶解すると、絶縁油の劣化を促進し、油入電気機器の寿命に大きな影響を及ぼすことが知られている。したがって、油入電気機器の絶縁油の劣化を診断することは、油入電気機器の寿命を予測する上で重要である。
【0003】
このような油入電気機器の絶縁油の劣化を診断する技術の1つとして、油入電気機器の絶縁油中の窒素ガス濃度から油入電気機器内の固体絶縁物の酸化状態を推定し、絶縁油の劣化診断を行う方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。これは、絶縁油の窒素ガス濃度の増加と絶縁油で消費される酸素量の増加とが定性的に一致することを利用して、窒素ガス濃度から絶縁油で消費される酸素量を評価し、絶縁油の劣化を診断する方法である。
【特許文献1】特開2005−223104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に開示の方法には以下の問題がある。
【0005】
すなわち、油入電気機器の窒素ガス濃度は、絶縁油の温度(以下、油温という)に対して温度依存性を有するため、外気温の上昇や変圧器の負荷増加による発熱によって油温が上昇した場合、これに伴い絶縁油中の窒素ガス濃度も上昇する。したがって、窒素ガス濃度の上昇が、絶縁油の劣化によるものなのか、油温の上昇によるものか正確には判定できなかった。絶縁油中に侵入する酸素量に対する評価も不明確であった。
【0006】
また、上記特許文献1の方法は、絶縁油中の窒素ガス濃度と絶縁油中で消費される酸素量との定性的な関係があることを前提とした技術であるが、実際に絶縁油中で消費される酸素量を定量的に評価する方法については解決されていない。そこで本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、窒素ガス透過係数の劣化増倍係数を利用して、絶縁油で消費される酸素量を定量評価することで、絶縁油の劣化を予測診断し、油入電気機器について精度の高い劣化診断が可能な油入電気機器の劣化診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における油入電気機器の劣化診断方法は、隔膜を備えたコンサベータを有するとともにその内部に絶縁油を収納する油入電気機器において、前記絶縁油の油中窒素濃度と、前記絶縁油の油温の関数として与えられる未劣化の隔膜における窒素ガス透過係数とを用いて、未劣化の隔膜を透過して前記絶縁油へ侵入する窒素ガス侵入量を算出し、予め定められた期間における前記油中窒素濃度の変化量と前記絶縁油体積との積から算出される実際に前記絶縁油へ侵入した窒素ガス侵入量と、前記未劣化の隔膜を透過して前記絶縁油へ侵入する窒素ガス侵入量との比から算出される窒素ガス量評価係数を算出する一方、予め定められた期間内に前記絶縁油内で酸化に消費される酸素量を、前記窒素ガス量評価係数と未劣化の隔膜を透過して前記絶縁油へ侵入する酸素の侵入速度から求められる実際に絶縁油へ侵入した酸素の侵入量と、前記絶縁油に溶存する酸素濃度と前記絶縁油の体積との積とから求められる値、との差から求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、窒素ガス透過係数の劣化増倍係数を利用して、絶縁油で消費される酸素量を定量評価することで、絶縁油の劣化を予測診断し、油入電気機器について精度の高い劣化診断を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(実施例)
以下、本発明の実施形態を、油入電気機器の一例として油入変圧器に適用した場合について図を参照しながら説明する。
【0010】
油入変圧器1の概略構成図を図1に示す。図1において、油入変圧器タンク2の内部には、図示しない変圧器本体を収納するとともに、絶縁油10が満たされている。そして、この変圧器タンク2の上部にはコンサベータ3が設置され、互いに連通管4によって接続されている。このコンサベータ3の内部にはニトリルゴム等の耐油性ゴムを使用した隔膜5がフランジ6で固定設置されている。
【0011】
さらに、この隔膜5はフランジ6を介してコンサベータ3の外部に設けられた配管7と連通する一方、この配管7に取り付けられたブリーザ8を介して外気とも連通している。そして、隔膜5内の空気やその他のガス等の空気ガス(以下、空気という)9をコンサベータ3内の絶縁油10から遮断することで、絶縁油10の劣化を防止する役割を有する。 なお、隔膜5内の空気9の圧力は大気圧となっており、またブリーザ8内には、外気中の湿気が隔膜5内に侵入することを防ぐため、シリカゲル等の乾燥剤が装填されている。
【0012】
なお、図1で図示した油入変圧器1のコンサベータ3は、隔膜5を袋状にして内部に空気を満たした形式のコンサベータであるが、シート状にした隔膜5によりコンサベータ3のタンク内を上下に2分(上部側に空気を満たす)するように配置した形式のコンサベータであってもよい。
【0013】
ここで、コンサベータ3の機能について説明する。
【0014】
油入変圧器1の絶縁油10の油温は外気温の変動や負荷損による発熱増減によって絶えず変化し、その体積はこの油温の変化に依存する。このため、油入変圧器1では、変圧器タンク2が完全に密封されていると、絶縁油の体積が増加した場合、変圧器タンク2の圧力が上昇し、変圧器タンク2が破損したり、絶縁油10が漏油したりする虞がある。特に、漏油が原因で変圧器タンク2内に空気が進入すると、空気と接した絶縁油10は、スラッジ等の劣化生成物を発生し、絶縁油10の絶縁性能や冷却性能を低下させる。そこで、油入変圧器1では、変圧器タンク2に外気と連通する配管7を設けて外気の圧力(大気圧)と変圧器タンク2の内圧を平衡させるとともに、コンサベータ3内の油体積を変化させることで変圧器の絶縁油10の体積変動の緩衝を行っている。
【0015】
すなわち、コンサベータ3は絶縁油10の体積変化を隔膜5の体積変化に変換することによって、絶縁油10が空気9に曝されることなく変圧器タンク2内の圧力を一定に保ち変圧器タンク2を保護し、絶縁油10がタンクから外部に溢れ出ることを防いでいる。
【0016】
コンサベータ3の隔膜5に使用されるゴム材は、ガス遮断性能や耐油性に優れるニトリルゴムを基材にしたものが一般的に使用されているが、隔膜5内の空気9を完全に絶縁油から遮断できるわけではない。隔膜5に穴等の欠陥部位がなくても、空気9の気体分子は、隔膜5のゴム材を透過して内部に拡散し、拡散した気体分子が油側に到達して放出されて絶縁油10と接触する。一般的に、コンサベータ3に使用される耐油性のニトリルゴム製隔膜の空気透過率は、ASTM(米国材料試験協会;American Society for Testing and Materials) D1434に記載される方法で測定を行うと10−6cm/cm・min・atmオーダの値である。
【0017】
電力用の油入変圧器は、20年以上の機器としての寿命が期待される。このため長期間の使用においては、隔膜5の空気透過率が微少であっても、その運転期間中の油入変圧器1への空気侵入量を積算すると、その量は無視できない。特に、空気9中の酸素の侵入は油入変圧器1内の絶縁油10の劣化、それによる油入変圧器1の寿命に大きく影響を及ぼす。
【0018】
よって、絶縁油10の劣化を予測するには、酸化劣化の原因となる油入変圧器1へ侵入する酸素量、すなわち絶縁油に侵入する酸素量を把握することは非常に重要となる。なお、図1で説明したように、変圧器タンク2内には絶縁油10が満たされており、隔膜5は直接絶縁油10と接触していることから、以下の説明において、「〜変圧器1へ侵入する〜」や「〜変圧器タンク2内に侵入する〜」なる記載は「〜変圧器1内の絶縁油10に侵入する〜」や「〜変圧器タンク2内の絶縁油10に侵入する〜」なる意であることを定義しておく。
【0019】
以下、窒素ガス量評価係数A<N2>を用いて、空気9中の酸素が隔膜5を透過して油入変圧器タンク2内に侵入する場合の侵入速度と侵入した酸素の絶縁油10での消費量を評価することで、絶縁油10の劣化診断を行う方法について説明する。
【0020】
まず、隔膜5の窒素ガス透過係数k<N2新>を算出する。窒素ガス透過係数k<N2新>とは、隔膜5が劣化していない状態でのガス透過係数である。ここで、劣化していない状態とは、隔膜に穴も傷も生じていない状態を意味しており、未使用であるか否かは問わない。
【0021】
コンサベータ3内での隔膜5の空気に接する表面積をS、隔膜5の厚さをdとする。油入変圧器1に対する、単位時間当たりの空気中の窒素ガスの侵入量、すなわち窒素侵入速度(F<N2>)は、以下で表される。
【0022】
F<N2> = k<N2新>・S/d・(P<N2空気>−P<N2油>)・・・・(1)
ここで、P<N2空気>、P<N2油>は、それぞれ空気中(1atm=101,325Pa)、油中の窒素のガス分圧であり、P<N2空気>は定数と見なせる。また、油中窒素ガス分圧P<N2油>は、油中窒素濃度[N2油]に比例し、絶縁油における窒素のオストワルドの吸収係数をC<N2>、空気中(1atm)の窒素濃度をそれぞれ[N2空気](定数)とすると、以下で表される。
【0023】
P<N2油> = (P<N2空気>/C<N2>)・([N2油]/[N2空気]空気)・・・・(2)
絶縁油10のオストワルドの吸収係数C<N2>については、例えばASTM D2779−92(2002)において窒素や酸素ガスに対する値が温度の関数として定式化されており、これを用いればよい。油中窒素ガス分圧P<N2油>を窒素侵入速度F<N2>の式に代入すると以下で表される。
F<N2>=S/d・P<N2空気>・k<N2新>・[1−[N2油]/(C<N2> ・[N2空気])]・・・・(3)
このように、窒素ガス透過係数k<N2新>、オストワルドの吸収係数C<N2>、油中窒素濃度[N2油]が変数となる。上述のように、窒素ガス透過係数k<N2>、オストワルドの吸収係数C<N2>は油温の関数として求めるが、例えばASTMにおいて窒素に対する値が温度の関数として定式化されており、これを用いればよい。油中窒素濃度[N2油]は実際の絶縁油10をガス分析することによって求められる。
【0024】
変圧器への窒素ガス侵入量Q<N2>は、窒素侵入速度F<N2>を時間積分すればよく
Q <N2> = ∫F<N2> dt・・・・(4)
で求められる。この窒素ガス侵入量Q<N2>、窒素侵入速度F<N2>は、導出に使用した窒素ガス透過係数k<N2新>が、隔膜5が劣化していない状態の値であることから、それぞれ未劣化状態の隔膜5を透過して変圧器へ進入する際の窒素ガス侵入速度、及び侵入量である。
【0025】
ここで、ある期間における変圧器への窒素ガス侵入量は、式(4)についてはその期間の時間積分を行って求めることができる。
【0026】
また、実際の窒素ガス侵入量Q<N2実>については、その期間における油中窒素濃度の増加量Δ([N2油])を測定し、これに、油入変圧器の油体積Vとの積を取ることによって、以下で求めることができる。
【0027】
Q<N2実> = Δ([N2油])・V ・・・・(5)
窒素ガス侵入量Q<N2>に対する実際の窒素ガス侵入量Q<N2実>の比をA<N2>とし、以下に表す。
【0028】
A<N2> = Q<N2実>/Q<N2> = m・α<N2>・・・・(6)
このA<N2>を窒素ガス量評価係数とする。ここで、mは、油中窒素濃度[N2油]や油体積V等の測定誤差、評価誤差に関する係数であり、同一の変圧器では常数として扱い、誤差が無い理想的な場合にはm=1となる。
【0029】
α<N2>は、コンサベータ隔膜の劣化による窒素ガス透過係数の増倍率で、
α<N2> =k<N2劣>/k<N2新>・・・・(7)
となる。
【0030】
次に、油入変圧器1に対する酸素ガスの侵入速度F<O2>及び侵入量Q<O2>を考えるとき、式(1)(3)(4)における窒素ガスに関する項目を酸素ガスに置き換えれば良く、以下で表される。
【0031】
F<O2> = k<O2新>・S/d・(P<O2空気>−P<O2油>)
=S/d・P<O2空気>・k<O2新>・[1−[O2油]/(C<O2> ・[O2空気])]・・・(8)
Q<O2> = ∫F<O2> dt・・・・(9)
ここで、P<O2空気>、P<O2油>は、空気中(1atm=101,325Pa)、油中の酸素ガス分圧であり、P<O2空気>は定数である。C<O2>は絶縁油10における酸素のオストワルドの吸収係数であり、例えばASTMにおいて酸素ガスに対する値が温度の関数として定式化されているので、これを用いればよい。[O2空気]、[O2油]はそれぞれ空気中、絶縁油中の酸素濃度である。k<O2新>は、劣化していない隔膜5の酸素ガス透過係数とし、その値は温度に依存するため、変圧器で想定される油温度範囲の温度依存性のデータを予め取得しておく。ここで、Sはコンサベータ3内での隔膜5の空気に接する表面積を、dは隔膜5の厚さである。
【0032】
式(8)、(9)の酸素ガス透過係数k<O2>は、隔膜5が劣化していない状態の値を用いている。ここで、隔膜5が劣化した場合において、窒素ガス透過係数の増倍率が窒素ガスの場合と酸素ガスの場合とで変化がないものとすると、式(6)の窒素ガス量評価係数A<N2>を用いて、隔膜5の劣化を考慮した実際の酸素ガスの変圧器への侵入速度F<O2実>及び侵入量Q<O2実>は、以下で表される。
【0033】
F<O2実>=A<N2>・F<O2> ・・・・(10)
Q<O2実>=∫F<O2実>dt = ∫(A<N2>・F<O2>)dt・・・・(11)
ある期間に絶縁油中で酸化によって消費される酸素量E<O2>は、その期間で式(11)を時間積分するとともに、その期間における変圧器の酸素濃度の変化量Δ([O2油])から求められ、
E<O2> = Q<O2実>−Δ([O2油])・V ・・・・(12)
として評価することが可能である。ここで、Vは油入変圧器1中の絶縁油10の油体積である。
【0034】
次に、具体的に、酸素消費量を用いた変圧器油の劣化診断方法を示したフローチャートを用いて、本実施形態の診断方法を説明する。まず、診断を開始する前に、予め、劣化していない隔膜5の酸素ガス侵入速度F<O2>と酸素ガス侵入量Q<O2>を測定しておく。
【0035】
測定を開始し(ステップS50)、始めに、窒素ガス量評価係数A<N2>を算出する(ステップS51)。その後、式(10)に基づいて実際の酸素ガス侵入速度F<O2実>(ステップS52)を、また、式(11)に基づいて実際の酸素ガス侵入量Q<O2実>(ステップS53)を算出する。これらの値を式(12)に代入して、酸素消費量E<O2>を算出する(ステップS54)。
【0036】
算出結果の時間変化を観察することにより、ある時期において酸素消費量E<O2>が増加していないか否か判定する(ステップS55)。酸素消費量E<O2>が増加していない場合、絶縁油10に劣化がないと判断する(ステップS56)。一方、ある期間において、酸素消費量E<O2>が増加している場合は、絶縁油10に劣化があると判断する(ステップS57)。なお、求めた酸素消費量と時間との関係を外挿することにより将来の絶縁油10の酸素消費量E<O2>を予測することもできる。
【0037】
さらに、増加した酸素消費量E<O2>を予め試験等によって得られたデータに基づいて定めた管理値を超えるか否かによって、油入変圧器1の寿命を判定することも可能である(ステップS58)。すなわち、酸素消費量E<O2>が管理値を超えていない場合には、油入変圧器1の絶縁油は寿命に至っておらず、継続して使用可能であると判定する(ステップS59)とともに、酸素消費量E<O2>が管理値を超えた場合には、絶縁油は寿命に至っていると判定するのである(ステップS60)。
【0038】
以上のステップより、酸素消費量E<O2>を用いた絶縁油10の劣化診断は終了する(ステップS61)。
【0039】
本実施の形態においては、次のような作用効果を生じる。
【0040】
油入変圧器1の絶縁油10の劣化度は、絶縁油10への実際の酸素ガスの侵入速度F<O2実>、侵入量Q<O2実>絶縁油10での酸素の消費量E<O2>は、[O2油]、油温Tと窒素ガス量評価係数A<N2>の経時データと、劣化していない隔膜5の酸素ガス透過係数k<O2新>の油温依存性が把握できていれば、評価することが可能となる。また、酸素ガスの侵入量Q<O2実>、酸素消費量E<O2>O2の経時変化を観察することにより、将来に渡る変圧器への酸素透過量や消費量を予測することも可能である。
【0041】
上述の酸素量を評価することと平行して、絶縁油10の各種特性(体積抵抗率、誘電正接、粘度、帯電度)と酸素消費量E<O2>との関係の経時変化を、予め加熱劣化試験等によってデータを取得することにより、今後の油入変圧器1の油特性変化の動向を予測することが可能となる。これによって、各種油特性の管理値を設けることが可能となり、その寿命診断を行うことが可能となる。
【0042】
なお、酸素消費量E<O2>と絶縁油10の各種特性の関係の経時変化を、予め加熱劣化試験等によって取得する際に使用する絶縁油10は、診断対象の油入変圧器と同一種類であることはもちろんであるが、対象変圧器から採油された経年油であれば絶縁油の劣化試験はより実際に即したものとなり、精度の高い診断を行うことが可能となる。
【0043】
なお、油温や酸素ガス濃度[O2油]の測定箇所であるが、式(7)〜(11)の導出においては、コンサベータ3内での酸素ガス透過に関する現象であることから、油入変圧器タンク2内の油温、油中酸素濃度とするのが望ましい。一方、式(12)中の変圧器の酸素濃度の変化量Δ([O2油])に関しては、変圧器タンク2の油中酸素濃度とするか、変圧器タンク2やコンサベータ3等の各部位の油体積を考慮した体積平均値を用いるのが好ましい。
【0044】
このように、窒素ガス透過係数の劣化増倍係数を利用して、油入電気機器の絶縁油10で消費される酸素量を定量評価することで、絶縁油10の劣化を予測診断することが可能となり、油入電気機器に対して精度の高い劣化予測診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態に係る油入変圧器を示す図。
【図2】酸素消費量を用いた変圧器油の劣化診断方法を示したフローチャート。
【符号の説明】
【0046】
1・・・・油入変圧器
2・・・・変圧器タンク
3・・・・コンサベータ
4・・・・連通管
5・・・・隔膜
6・・・・フランジ
7・・・・配管
8・・・・ブリーザ
9・・・・空気
10・・・・絶縁油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜を備えたコンサベータを有するとともにその内部に絶縁油を収納する油入電気機器において、
前記絶縁油の油中窒素濃度と、前記絶縁油の油温の関数として与えられる未劣化の隔膜における窒素ガス透過係数とを用いて、未劣化の隔膜を透過して前記絶縁油へ侵入する窒素ガス侵入量を算出し、
予め定められた期間における前記油中窒素濃度の変化量と前記絶縁油体積との積から算出される実際に前記絶縁油へ侵入した窒素ガス侵入量と、前記未劣化の隔膜を透過して前記絶縁油へ侵入する窒素ガス侵入量との比から算出される窒素ガス量評価係数を算出する一方、
予め定められた期間内に前記絶縁油内で酸化に消費される酸素量を、前記窒素ガス量評価係数と未劣化の隔膜を透過して前記絶縁油へ侵入する酸素の侵入速度から求められる実際に絶縁油へ侵入した酸素の侵入量と、前記絶縁油に溶存する酸素濃度と前記絶縁油の体積との積とから求められる値、との差から求めることを特徴とする油入電気機器の劣化診断方法。
【請求項2】
前記実際に絶縁油へ侵入した酸素の侵入量を、実際に絶縁油へ侵入する酸素の侵入速度を予め定められた期間で時間積分することにより算出し、
前記実際に絶縁油へ侵入する酸素の侵入速度を、前記窒素ガス量評価係数と未劣化の隔膜を透過して前記絶縁油へ侵入する酸素の侵入速度との積で算出することを特徴とする請求項1記載の油入電気機器の劣化診断方法。
【請求項3】
前記未劣化の隔膜を透過して前記絶縁油へ侵入する酸素の侵入速度を、前記絶縁油の油中酸素濃度と、前記絶縁油の油温の関数として与えられる未劣化の隔膜における酸素ガス透過係数とを用いて算出することを特徴とする請求項1または2に記載の油入電気機器の劣化診断方法。
【請求項4】
前記絶縁油内で酸化に消費される酸素量の値が増加した場合、前記絶縁油に劣化があるとすることを特徴とする請求項3記載の油入電気機器の劣化診断方法。
【請求項5】
前記絶縁油内で酸化に消費される酸素量の値が、予め実験により求められた所定の管理値を超過した場合、前記油入電気機器の寿命であるとすることを特徴とする請求項4記載の油入変圧器の劣化診断方法。
【請求項6】
前記実際に絶縁油に侵入した酸素の侵入量と、前記絶縁油内で酸化に消費される酸素量と、予め加熱劣化試験によりこれらの酸素量に対する絶縁油の劣化特性の経時データと、を用いて、前記油入電気機器の劣化を予測することを特徴とする請求項5記載の油入変圧器の劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−224579(P2009−224579A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67804(P2008−67804)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】