説明

油圧ジャッキ用治具

【課題】汎用の油圧ジャッキを活用して、荷物、特に、重量物をジャッキアップするための治具と、それを用いたジャッキアップ方法を提供する。
【解決手段】ジャッキアップする荷物に設けられたジャッキアップ用のねじ穴の雌ねじ41に適合する雄ねじを外面に有する荷物係合部11と、汎用品の油圧ジャッキ3のシリンダー外面の雄ねじ31に適合する雌ねじを内面に有するシリンダー係合部12を同軸上に有する筒状部材1と、その中を摺動する油圧ジャッキのロッドの延長用丸棒2からなる油圧ジャッキ用治具、および、それを用いた重量物をジャッキアップする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汎用品の油圧ジャッキを用いて重量物をジャッキアップするときに用いる治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
荷物、特に、重量物を揚重するときには、クレーンやウインチによる吊り上げが一般的であるが、吊荷の姿勢を保ちながら、真っ直ぐ上に引き上げる必要があるときには、ジャッキアップ方式が多く用いられる。
【0003】
例えば、蒸気タービンの内部車室は、水平面のフランジにより上部内部車室と下部内部車室に分割されており、内部には精密に作られたローターや静翼が収納されている。原子力発電所や火力発電所で用いられる大型の蒸気タービンでは、いくつかに分割された上部内部車室の一個体の重量は40tonにも達する。
【0004】
内部車室は、その内部を流れる高圧の蒸気を封じ込めるとともに、ローターに取り付けられた動翼と内部車室に取り付けられた静翼等の相対位置を正確に保つために、下部内部車室のフランジ部には上部内部車室を固定するための多数のリーマボルトが設置され、そのリーマ部が長さ約50mmに渡り上部内部車室のフランジ部に嵌合し、位置決めしている。さらに、分割された隣り合う上部内部車室との間で100mmに渡ってメタルタッチ嵌合している部分があるなど、組立や開放の作業に当たっては厳しい精度が要求される。
【0005】
蒸気タービンを点検保守するためには、この上部内部車室を吊り上げて開放する必要がある。その際に、嵌合部での焼き付きを起こさないように、その姿勢を保ったまま、すなわち、フランジ部を水平に保ったまま嵌合部をクリアするまで真っ直ぐ上に引き上げることが肝要である。
【0006】
そのため、上部内部車室のフランジ部の四隅には、図4に示すように、あらかじめジャッキボルト用の雌ねじを切った穴が設けられており、ここに専用ジャッキボルトを取り付け、これをインパクトレンチやラチェットレンチで締め付けて少しずつ押し上げていく。揚重中の四隅の吊り上げ寸法のばらつきを3mm以内に保つと言った厳しい制限があるので、上記の嵌合部をクリヤするまでは、四隅のジャッキボルトを5mm程度ずつ徐々に押し上げ操作をし、そのたびに吊り上げ寸法を計測し、姿勢を確認していく必要がある。この吊り上げに当たってはクレーンも用いるが、基本的にクレーンでの吊り上げの役割は嵌合部をクリヤした後であり、それまではジャッキでの押し上げがメインであって、クレーンはジャッキボルトでの押し上げを補助するものである。
【0007】
この揚重作業にあたっては、ジャッキボルトや、インパクトレンチ、ラチェットレンチのみならず、空気源やコマなど数多くの工具が必要であり、また、内部車室の四隅にジャッキボルトの操作と吊り上げ寸法の計測のために、大勢の作業員を配置しなければならない。
【0008】
工具数が多いと車室の吊り上げに伴い開口部ができたときに、その中に異物が落ち込む危険性が増大し、狭い場所で大勢の作業員が作業をすると工具の落下など思わぬ危険が起きやすくなり、いずれの管理が困難になる。さらに、インパクトレンチを用いると騒音がひどく、作業環境が悪い。ラチェットレンチを使用すると、ボルト1本で10tonからの加重を押し上げるのであるから、作業員の負担が大きい。
【0009】
これらの問題を解決するために、油圧ジャッキを用いることが考えられる。特許文献1では、大型モータとそのモータで駆動するポンプの軸継ぎ手のアラインメント調整をするために、その装置に合わせて設計・製作された特製の油圧ジャッキを用いて大型モータのジャッキアップを行っている。
【0010】
しかし、この方法では、ジャッキアップする対象物の設計時点でその揚重を考えて油圧ジャッキの設計も行う必要があり、後から油圧ジャッキの摘要を考える場合には、ジャッキアップする対象物やジャッキアップの反力を受ける部分の形状に応じて、油圧ジャッキをそれ専用に製作しなければならず、いずれも汎用の油圧ジャッキを活用することはできないので、手間がかかり、経済的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−250550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、汎用の油圧ジャッキを活用することにより、多数の工具・治具を用いず、少ない作業員で施工でき、騒音も立たず、作業員への負担も少なく、経済的な、荷物、特に、重量物をジャッキアップするための治具と、それを用いたジャッキアップ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ジャッキアップする荷物に設けられたジャッキアップ用のねじ穴の雌ねじに適合する雄ねじを外面に有する荷物係合部と、汎用品の油圧ジャッキのシリンダー外面の雄ねじに適合する雌ねじを内面に有するシリンダー係合部を同軸上に有する筒状部材の油圧ジャッキ用治具である。
【0014】
ジャッキアップする荷物に設けられたジャッキアップ用の穴には、その荷物を設計した際に使用を予定したジャッキボルト等の雄ねじに対応する雌ねじが切られている。その雌ねじは、手持ちの汎用の油圧ジャッキのシリンダー外面に切られた雄ねじとは必ずしもあわない。
【0015】
そこで、筒状部材の外面にジャッキアップ用のねじ穴の雌ねじに適合する雄ねじ切った荷物係合部を設ける。その一方、その筒状部材の内面に手持ちの汎用品の油圧ジャッキのシリンダー外面の雄ねじに適合する雌ねじを切ったシリンダー係合部を設け、両者を同軸上に配置する。
【0016】
筒状部材の外面にジャッキアップ用のねじ穴の雌ねじに合わせて、それに適合する雄ねじ切った荷物係合部を設けることにより、手持ちの汎用の油圧ジャッキのシリンダーに切られた雄ねじがジャッキアップする荷物に設けられたジャッキアップ用のねじ穴の雌ねじに適合しなくても、ジャッキアップを行うことができる。
【0017】
荷物係合部とシリンダー係合部とを同軸上に配置することにより、荷物に設けられたジャッキアップ用の穴の設計意図に合った力を荷物側に与えることができ、また、油圧ジャッキやその治具に偏った力を与えることがないので、安定した揚重が行える。
【0018】
なお、一般に荷物係合部とシリンダー契合部とは、同軸上に直列する形で設けられるが、ジャッキアップ用のねじ穴の雌ねじ径に比べてシリンダー外面の雄ねじ径が十分小さい場合などには、筒状部材の外面にジャッキアップ用のねじ穴の雌ねじに適合する雄ねじ切って荷物係合部とし、その内面に手持ちの汎用品の油圧ジャッキのシリンダー外面の雄ねじに適合する雌ねじを切ってシリンダー係合部として全体の長さを短くすることも可能である。
【0019】
本発明の油圧ジャッキ用の治具を用いることにより、手持ちの汎用の油圧ジャッキの中から、ジャッキアップする重量物の重量、および、必要なジャッキアップのストロークに適合したものを選んで活用することができる。基本的に必要なものは、油圧ジャッキの他には、その油圧源、油圧配管、その制御装置だけであるから、多数の工具・治具を作業場所付近に置く必要が無く、また、少ない作業員で施工できる。騒音も立たないので作業環境は良くなり、作業員への負担も少なくなる。そして、手持ちの汎用の油圧ジャッキを活用でき、また、本発明の治具は現場で容易に設計、製作することができるので、手間がかからず、経済的である。
【0020】
また、本発明は、請求項1記載の筒状部材と、該筒状部材の中を摺動する該油圧ジャッキのロッドの延長用丸棒からなる油圧ジャッキ用治具である。
【0021】
手持ちの汎用の油圧ジャッキの中からその揚重に必要な耐荷重力とストロークを有する者を選んで使用するが、荷物の形状や反力を受ける部材の位置によって、油圧ジャッキのロッドの長さが不足する場合がある。その場合には、必要な荷重に耐える強度の延長用丸棒を油圧ジャッキのロッドの先に付けて使用すればよい。
【0022】
その延長用丸棒は、筒状部材の中で移動することとなるので、延長用部材の移動する部分の筒状部材の一部の内径を延長用丸棒の径よりわずかに大きく設定し、延長用丸棒が移動する際にその内面を摺動させる。これにより、延長用丸棒が筒状部材に中で傾いたり、曲がったりすることなく、安定した揚重を行うことができる。
【0023】
さらに、本発明は、請求項1あるいは請求項2いずれか記載の油圧ジャッキ用治具を用いて重量物をジャッキアップする方法である。
【0024】
まず、ジャッキアップする重量物の荷重、ジャッキアップ用に準備されているねじ穴の雌ねじを調べ、必要なジャッキアップのストロークを決定し、手持ちの汎用の油圧ジャッキの中から、条件に合うものを選び出す。つぎに、その選定された油圧ジャッキのシリンダーの外面の雄ねじを調べる。これらのデータをベースとして、筒状部材、および、必要があれば延長用丸棒を設計・製作する。
【0025】
製作した筒状部材を重量物のジャッキアップ用ねじ穴に固着し、延長用丸棒が必要な場合には、それを固着された筒状部材に中に挿入したあと、油圧ジャッキを筒状部材に固着する。油圧源、油圧配管、各種計測機器などを整え、作業員が配置についたら油圧ジャッキを作動させて揚重作業にかかる。
【0026】
従来のやり方同様、5mm程度ずつ徐々に押し上げて吊り上げ寸法を確認しながら作業をしても良いし、重量物の四隅にそれぞれ設けられた油圧ジャッキのストロークを集中制御して押し上げても良い。その場合には、油圧ジャッキを操作する作業員が減るばかりでなく、計測に関わっていた作業員も減り、吊り上げ時の焼き付きのリスクも減るという効果がある。
【発明の効果】
【0027】
本発明の油圧ジャッキ用治具を採用することにより、手持ちの汎用の油圧ジャッキを活用することができて、容易、かつ、経済的であり、多数の工具・治具を用いず、少ない作業員で施工でき、騒音も立たないので作業環境は良くなり、作業員への負担も少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の油圧ジャッキ用治具の筒状部材の一つの実施例を示す平面図および断面図である。
【図2】本発明の油圧ジャッキ用治具の筒状部材の中を摺動する油圧ジャッキのロッドの延長用丸棒の一つの実施例を示す側面図である。
【図3】本発明の油圧ジャッキ用治具を用いた揚重方法を示す説明図である。
【図4】従来のジャッキアップの要領を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明をする。なお、本発明はかかる実施の形態には限定されず、本発明の範囲内でその具体的構造に種々の変更を加えて良いことは言うまでもない。
【実施例1】
【0030】
図1は本発明の油圧ジャッキ用治具の筒状部材1の一つの実施例を示す。筒状部材1は、ジャッキアップする荷物に設けられたジャッキアップ用のねじ穴の雌ねじ、例えば、2インチ―ユニファイ8山ねじ、に適合する雄ねじを外面に有する荷物係合部11と、汎用品の油圧ジャッキのシリンダー外面の雄ねじ、例えば、2.5インチ―ユニファイ10山ねじ、に適合する雌ねじを内面に有するシリンダー係合部12を同軸上に有する。
【0031】
図3(a)に筒状部材1の設置状況を示す。筒状部材1の荷物係合部11は、ジャッキアップする荷物4に設けられた雌ねじ41にねじ込んで固定される。しっかりと固定するために筒状部材1の頭部13はボルトの頭のように六角形に形成される。一方、シリンダー係合部12には、選定された汎用の油圧ジャッキ3が、そのシリンダー外面に設けられた雄ねじ31により固定される。
【0032】
ジャッキアップする荷物に設けられたジャッキアップ用の穴に切られた雌ねじと合わない雄ねじをシリンダー外面に切られた手持ちの汎用の油圧ジャッキを、筒状部材1を用いることにより、容易に適用できる。
【0033】
荷物係合部11とシリンダー係合部12とは、同軸上に配置されているので、荷物4に設けられたジャッキアップ用の穴の設計意図に合った力を荷物側および反力を受ける基盤側に与えることができ、また、油圧ジャッキやその治具に偏った力を与えることがないので、安定した揚重が行える。
【0034】
図2は、筒状部材1の中を摺動する油圧ジャッキ3のロッド32の延長用丸棒2の一つの実施例を示す。筒状部材1の筒部14の長さは荷物4の形状、特に、ジャッキボルト用に穴の設けられた部分の厚さ、例えば、上部内部車室のフランジの厚さにより決定される。多くの場合、その長さは油圧ジャッキ3のロッド32の長さを超え、シリンダー係合部12に固定された油圧ジャッキ3のロッド32をのばしてもジャッキアップの反力を受ける基盤5、例えば、下部内部車室フランジ面に届かない。
【0035】
その場合に、不足長さを補うのが延長用丸棒2である。図3(a)に示すように、荷物4に筒状部材1を取り付け、延長用丸棒2を筒状部材1の中に挿入し、油圧ジャッキ3を取り付けた際に、油圧ジャッキ3の引き込められたロッド32と反力を受ける基盤5との間隔を埋めるように、延長用丸棒2の長さを決定する。
【0036】
図示されていない油圧源から継手33を通して圧油を導き油圧ジャッキ3を作動させて、ロッド32を延伸させれば、図3(b)に示すように、荷物4のその部分の厚さに関係なくジャッキアップを行うことができる。
【0037】
延長用丸棒2が、筒状部材1の中で移動する筒状部材の一部15の内径を延長用丸棒2の径よりわずかに大きく設定し、延長用丸棒が移動する際にその内面を摺動させる。これにより、延長用丸棒2が筒状部材1に中で傾いたり、曲がったりすることなく、安定した揚重を行うことができる。
【0038】
一方、シリンダー係合部に近い部分16の内径は、油圧ジャッキのロッド32に径に合わせて設定する。摺動する部分15の径よりやや大きく設定し、それに合わせた径の頭部21を延長用丸棒2の頂部に設ければ、筒状部材1を来持つ4に取り付ける前にその中に延長用丸棒2をセットしても、抜け落ちることが無く管理が容易である。
【0039】
上述のように、延長用丸棒2を筒状部材1と組み合わせることにより、手持ちの汎用の油圧ジャッキを用いてのジャッキアップ作業の適用範囲が広がるが、荷物の形状によっては、延長用丸棒2を必要とせず、筒状部材1だけで良い場合もある。
【産業上の利用可能性】
【0040】
工場や作業現場において、荷物、特に、重量物の揚重、その中でも、荷物の姿勢を保ちつつ真っ直ぐに引き上げる場合に、広く適用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 筒状部材
2 延長用丸棒
3 油圧ジャッキ
4 荷物
5 基盤
11 荷物係合部
12 シリンダー係合部
13 筒状部材の頭部
21 延長用丸棒の頭部
31 油圧ジャッキのシリンダーの雄ねじ
32 同 ロッド
33 同 継手
41 荷物の雌ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャッキアップする荷物に設けられたジャッキアップ用のねじ穴の雌ねじに適合する雄ねじを外面に有する荷物係合部と、汎用品の油圧ジャッキのシリンダー外面の雄ねじに適合する雌ねじを内面に有するシリンダー係合部を同軸上に有する筒状部材の油圧ジャッキ用治具。
【請求項2】
請求項1記載の筒状部材と、該筒状部材の中を摺動する該油圧ジャッキのロッドの延長用丸棒からなる油圧ジャッキ用治具。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2いずれか記載の油圧ジャッキ用治具を用いて重量物をジャッキアップする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−131972(P2011−131972A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291254(P2009−291254)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(593162361)日本建設工業株式会社 (9)