説明

油圧ブレーカ

【課題】騒音および振動を低減させ得る油圧ブレーカを提供する。
【解決手段】この油圧ブレーカ30は、先端側にフロントヘッド6を設けてなるブレーカ本体1と、フロントヘッド6内に往復移動可能に挿着されるチゼル3と、を備えている。このチゼル3は、フロントヘッド6よりも外側に位置する部分に、その径方向に張り出す径大部2を有しており、この径大部2とフロントヘッド6との間には、弾性体8が装着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ブレーカに係り、特に油圧ブレーカの実打撃時、または、実打撃時および被打撃物が破砕される際に生じる騒音および振動を低減させる構造に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧パワーショベル等の建設車両に取付けて使用される油圧ブレーカは、図7に示すように、ブレーカ本体100をブラケット20で支持し、このブラケット20を建設車両のアームに取付けるようになっている。ブレーカ本体100は、ピストン5を前後進可能に摺嵌したシリンダ4の軸方向での先端側にフロントヘッド160を有して構成されており、そのフロントヘッド160内に、その軸方向に往復移動可能なチゼル130が挿着されている。
【0003】
この種の油圧ブレーカにて破砕作業を行なう場合には、チゼル130を被破砕物70に押し付け、ブレーカ本体100の上側に内蔵されたピストン5でチゼル130を打撃する。これにより、チゼル130には、ピストン5での打撃によって被破砕物70の方向に進行する圧縮の応力波が発生し、チゼル3が被破砕物70の方向に前進する。そして、この応力波が被破砕物70に到達すると、応力波の一部は破砕に使用され、残りはチゼル130の下端で反射されてピストン5の方向へ戻っていく。この時の反射波は引張と圧縮がまざった複雑なものであるが、大別すれば破砕の程度が小さいときは圧縮の応力波によりチゼル130はピストン5の方向に後退し、破砕の程度が大きいときは引張の応力波によりチゼル130は被破砕物70の方向に前進する。このとき、騒音および振動が発生する。そこで、この種のブレーカでは、その騒音および振動を低減する試みがなされ、種々の技術が開示されている(例えば特許文献1および2参照)。
【0004】
例えば特許文献1に記載の技術では、チゼルを支持するブシュを、ナイロン、樹脂等の緩衝材、あるいは緩衝材と金属とを組合せて構成し、これにより騒音を低減させることを意図している。
また、例えば特許文献2に記載の技術では、チゼルから生じる騒音を、樹脂と金属環にて遮断することにより、騒音の放散を低減する提案がなされている。
【特許文献1】実開平06−50774号公報
【特許文献2】登録実用新案第3019178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、この種の油圧ブレーカでの騒音および振動が発生するメカニズム(機序)について考察する。
図7に示すように、チゼル130は、ピストン5の方向に後退する場合には、その後端周縁部130aでフロントヘッド160に衝突し、また、その後端面部130bでピストン5と衝突する。このとき、チゼル130、ピストン5およびフロントヘッド160は、一般的に合金鋼で製作されているので、このような衝突によって騒音および振動が発生する。一方、被破砕物70を破砕する場合には、チゼル130が被破砕物70の方向に前進し、チゼル130の移動を制限するストッパの役目を果たすロッドピン170に対し、その溝端部130cが衝突するので、やはり騒音および振動が発生する。
【0006】
特に、この種の油圧ブレーカは、そのブレーカ本体100内部では、油圧力によってピストン5が軸方向に沿って上下動しているが、このとき、ブレーカ本体100は、ピストン5の進行方向と逆向きの油圧反力を受けている。さらに、上述のチゼル130とフロントヘッド160およびピストン5との衝突による力なども加わるので、実際にはブレーカ本体100は上下に微動しながら打撃動作を行なっている。そして、この上下動が大きいときは、チゼル130の先端が被破砕物70から離れてしまうので、ピストン5による打撃エネルギを被破砕物70に有効に伝達することが難しくなってしまう。すなわち、ピストン5による打撃エネルギは破砕には使用されず、チゼル130先端でピストン5の方向に反射され、これにより、打撃エネルギは、騒音、振動あるいは発熱に浪費される結果となる。
【0007】
つまり、騒音および振動が発生する理由が、上述のメカニズム(機序)であることを考えると、特許文献1に記載の技術では、チゼルを支持するブシュ自体に緩衝材を用いているものの、チゼルとフロントヘッド内部との衝突を防止するものでなく、また、チゼルでの打撃時のブレ防止やチゼルの着岩性を増すことに対する寄与も少ない。そのため、この特許文献1に記載の技術では、騒音を低減する上で未だ不十分であり、検討の余地が残されている。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術では、チゼルから生じる騒音が放散することを低減させる提案がされているものの、これはチゼルから発生してしまった音を対処的に遮断するものである。つまり、騒音と振動メカニズムに鑑みて騒音を抜本的に断つ、ないしは直接的に低減させるものではないので、やはり検討の余地がある。また、この特許文献2に記載の技術では、チゼルまわりの装置が大掛かりになるので、コストアップにつながるとともに、チゼル有効長の短縮をもたらし、チゼルのコストと有効長比が増大することにもなる。
【0009】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、実打撃時、または、実打撃時および被打撃物が破砕される際に生じる騒音および振動を低減させ得る油圧ブレーカを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、ピストンを前後進可能に摺嵌したシリンダの軸方向での先端側にフロントヘッドを設けてなるブレーカ本体と、前記フロントヘッド内に前記軸方向に往復移動可能に挿着されるチゼルと、を備える油圧ブレーカであって、前記チゼルは、前記フロントヘッドよりも外側に位置する部位に、その径方向に張り出す径大部を有し、前記チゼルの径大部とフロントヘッドとの間には、前記チゼルが前記軸方向での基端側に移動した所定の位置で前記径大部およびフロントヘッドに対して当接する弾性体が装着されていることを特徴としている。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、チゼルの径大部とフロントヘッドとの間に、弾性体が装着されているので、相互に当接したときに、チゼルおよびフロントヘッド内面相互が、互いの摺動部以外の部分で非当接状態とすることが可能である。そのため、チゼルとフロントヘッドとの直接の衝突を避けることができる。したがって、油圧ブレーカの実打撃時、または、実打撃時および被打撃物が破砕される際に生じる騒音および振動を低減させることができる。
【0012】
さらに、ブレーカ本体が微振動しても、その振幅が弾性体の軸方向での変形量より小さければ、チゼルが被破砕物に押付けられた状態を保持(着岩性向上)できる。したがって、破砕効率が向上し被破砕物を打撃時の油圧ブレーカの騒音と振動を低減することができる。
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の油圧ブレーカであって、前記ブレーカ本体には、前記フロントヘッドの前端面に所定の距離を隔てて対向する弾性体装着部材が連結されており、当該弾性体装着部材には、前記チゼルが前記軸方向での先端側に移動した所定の位置で前記径大部に対して当接する弾性体がさらに装着されていることを特徴としている。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、チゼルの径大部の先端側にも弾性体が配置されるので、この先端側の弾性体とチゼルの径大部とは、互いが当接したときに、チゼルおよびロッドピン相互が、互いの摺動部以外の部分では非当接状態となるように設けることができる。そのため、例えばチゼルとロッドピンとの直接の衝突を避けることができる。したがって、油圧ブレーカの実打撃時、または、実打撃時および被打撃物が破砕される際に生じる騒音および振動をより低減させることができる。
【0014】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、ピストンを前後進可能に摺嵌したシリンダの軸方向での先端側にフロントヘッドを設けてなるブレーカ本体と、前記フロントヘッド内に前記軸方向に往復移動可能に挿着されるチゼルと、を備える油圧ブレーカであって、前記チゼルは、前記フロントヘッド内に位置する部位に、その径方向に張り出す径大部を有し、前記フロントヘッド内には、前記チゼルが前記軸方向での先端側および基端側の少なくとも一方に移動した所定の位置で前記径大部に対して当接する弾性体が装着されていることを特徴としている。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、チゼルの径大部の軸方向での先端側および基端側の少なくとも一方に、径大部に対して当接する弾性体が装着されているので、互いが当接したときに、チゼルとフロントヘッドとの直接の衝突を避けることができる。したがって、油圧ブレーカの実打撃時、または、実打撃時および被打撃物が破砕される際に生じる騒音および振動を低減させることができる。
【0016】
ここで、軸方向の両側に弾性体が装着されることは好ましい。軸方向の両側に弾性体が装着されていれば、チゼルの径大部に対し軸方向での先端側および基端側のそれぞれの位置で弾性体と径大部とが当接することで、チゼルの軸方向での往復移動範囲を制限することができる。そのため、チゼルの往復移動を制限するためのロッドピン、およびそのロッドピンを装着するための溝加工等を不要とすることができる。
【0017】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の油圧ブレーカであって、前記弾性体は、前記チゼルの径大部に対し前記軸方向での少なくとも基端側に配置されていることを特徴としている。
請求項4に記載の発明によれば、ブレーカ本体が微振動しても、その振幅が弾性体の軸方向での変形量より小さければ、チゼルが被破砕物に押付けられた状態を保持(着岩性向上)できる。したがって、破砕効率がより向上し被破砕物を打撃時の油圧ブレーカの騒音と振動を低減することができる。
【0018】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の油圧ブレーカであって、前記弾性体は、円環状に形成されており、その内周面が、前記径大部の当接による押付力が付与されたときに弾性変形することで前記チゼルに対して径方向から当接するようになっていることを特徴としている。
請求項5に記載の発明によれば、この弾性体は、径大部の当接によってその内径寸法が縮径する弾性変形をするので、チゼルが被破砕物に押しつけられた際に、チゼルの支持力を増やし、打撃時のチゼルのブレをより少なくすることができる。
【0019】
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の油圧ブレーカであって、前記弾性体は、第一の弾性部材と、その第一の弾性部材よりも弾性率の低い第二の弾性部材と、を備えて構成されており、前記第一の弾性部材は、前記径大部に当接する側に配置され、前記第二の弾性部材は、前記径大部に当接する側とは反対の側に配置されていることを特徴としている。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、第一の弾性部材は、第二の弾性部材よりも弾性率が高いので、第二の弾性部材を土砂による摩耗から保護するとともに、第二の弾性部材の接触面積を確保して面圧を低減し、耐久性を向上させることができる。そのため、チゼルの径大部の直径を小さくすることが可能となり、材料費や加工費を抑えることができる。
また、本発明のうち請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の油圧ブレーカであって、前記第二の弾性部材は、円環状に形成されており、その内周面が、前記第一の弾性部材への前記径大部の当接による押付力が付与されたときに弾性変形することで前記チゼルに対して径方向から当接するようになっていることを特徴としている。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、第二の弾性部材は、チゼルが被破砕物に押付けられた際に、フロントヘッドと第一の弾性部材とに挟まれて径方向に縮径するように弾性変形するので、チゼルが被打撃物に押しつけられた際に、チゼルの支持力を増やし、打撃時のチゼルのブレをより少なくすることができる。
また、本発明のうち請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の油圧ブレーカであって、前記ブレーカ本体の少なくともフロントヘッドの周囲を囲繞する周壁部材をさらに備え、当該ブレーカ本体の少なくともフロントヘッドと周壁部材との間には、緩衝部材が介装されており、当該緩衝部材が介装されない部分には隙間が設けられていることを特徴としている。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、ブレーカ本体の外側に、緩衝部材を介して周壁部材をさらに備え、この周壁部材とフロントヘッドとの間に隙間が設けられているので、当該構成がいわばサイレンサーとして機能する。したがって、被破砕物の打撃時および被破砕物を破砕時の油圧ブレーカの騒音と振動をより低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
上述のように、本発明によれば、実打撃時、または、実打撃時および被打撃物が破砕される際に生じる騒音および振動を低減させ得る油圧ブレーカを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1は、第一の実施形態に係る油圧ブレーカを搭載した作業車両を説明する図である。
同図に示すように、この作業車両50は、走行台車52と、その走行台車52上で旋回可能な旋回台54と、その旋回台54に起伏自在に支持されたアーム56と、を備えている。そして、この作業車両50には、そのアーム56の先端部にブラケット20が装着されており、このブラケット20に、油圧ブレーカ30が搭載されている。
【0025】
次に、上記油圧ブレーカについて詳しく説明する。
図2は第一の実施形態に係る油圧ブレーカを説明する図であり、同図は、図1でのA部を拡大するとともに、油圧ブレーカのフロントヘッドを、その軸線を含む断面にて図示している。
この油圧ブレーカ30は、ブラケット20に支持されるブレーカ本体1を備えている。このブレーカ本体1は、軸方向での中央部にシリンダ4を有し、シリンダ4の先端側にフロントヘッド6、また、後端側にバックヘッド40が連結されている。そして、シリンダ4内には、ピストン5が摺嵌され、公知の油圧打撃機構が構成されており、不図示の油圧供給源から切換弁を介してシリンダ4へ圧油を供給することにより、ピストン5が前後進可能になっている。
【0026】
そして、フロントヘッド6内には、先端側からチゼル3が挿着され、このチゼル3の後端側とピストン5との間に打撃室11が形成されている。また、フロントヘッド6の内周面の先端側には、フロントキャップ12が同軸に設けられている。そして、チゼル3は、このフロントキャップ12によりピストン5と同軸線上に保持されており、上記ピストン5の打撃によって軸方向に所定距離の往復移動が可能になっている。なお、チゼル3は、ロッドピン7によって、軸方向での移動が規制され、その往復移動範囲が制限されている。
【0027】
ここで、このチゼル3は、フロントヘッド6よりも外側の位置に、その径方向に張り出す径大部2を有している。この径大部2は、フロントヘッド6側が円環状をなし、先端側は、断面が先端側に向かうにつれて縮径する円錐面を有して形成されている。そして、フロントヘッド6には、このチゼル3の径大部2に対して軸方向での基端側で対向する位置に、弾性体8が装着されている。この弾性体8は、円環状のゴムから形成されており、その内径は、チゼル3の基端側の外径よりも僅かに大きい。そして、この弾性体8は、その内径寸法が、径大部2の当接による押付力が付与されたときに弾性変形することで縮径し、チゼル3に対して径方向から当接するようになっている。また、その外径はフロントヘッド6の先端部分の外径とほぼ同じ径になっており、その先端側を向く面の周囲には面取りが施されている。
【0028】
そして、この弾性体8とチゼル3の径大部2とは、チゼル3が後退した所定の位置で、径大部2のフロントヘッド6側を向く当接面2aが、弾性体8の端面8aに当接するようになっている。このとき、前記所定の位置として、当接面2aの軸方向での位置、および弾性体8の端面8aの位置は、フロントヘッド6内の打撃室11に形成されている鍔部11aに対し、チゼル3の後端周縁部3aが衝突しない位置にそれぞれ設定されている。つまり、チゼル3が後退した位置で、打撃室11の鍔部11aと、チゼル3の後端周縁部3aとの間には、その対向方向(同図での符号D)に隙間を有することで、チゼル3およびフロントヘッド6内面相互が、互いの摺動部以外の部分では非当接状態になっている。
【0029】
次に、この油圧ブレーカ30の作用・効果について説明する。
上述のように、この油圧ブレーカ30によれば、チゼル3には径大部2が形成されており、この径大部2とフロントヘッド6との間には、弾性体8が装着されているので、チゼル3の基端側とフロントヘッド6の先端側との直接の衝突を避けて騒音および振動を低減させることができる。
【0030】
すなわち、この油圧ブレーカ30によれば、この弾性体8、チゼル3の径大部2およびフロントヘッド6は、いずれもが相互に当接したときに、チゼル3およびフロントヘッド6内面相互が、互いの摺動部以外の部分では非当接状態になっており、打撃後にチゼル3がピストン5の方向に後退してもフロントヘッド6内の打撃室11に形成されている鍔部11aに衝突しないので、チゼル3とフロントヘッド6との直接の衝突をフロントヘッド6内部でも避けることができる。したがって、被破砕物70を打撃時の騒音および振動をより低減させることができる。また、チゼルとフロントヘッドとの直接の衝突をフロントヘッド6内部でも避けることができるので、チゼル3およびフロントヘッド6の消耗を軽減することができる。
【0031】
さらに、この油圧ブレーカ30によれば、弾性体8は、チゼル3を被破砕物70に押し付けることにより軸方向に弾性変形するので、その状態で、ブレーカ本体1が微振動しても、その振幅が弾性体8の変形量より小さければ、打撃時のチゼル3のブレを少なくするとともに、チゼル3が被破砕物70に押付けられた状態を保持(着岩性向上)できる。したがって、破砕効率が向上し被破砕物70を打撃時の油圧ブレーカ30の騒音と振動を、より低減することができる。
【0032】
また、この油圧ブレーカ30によれば、弾性体8をチゼル3の径大部2の基端側に配置しており、この弾性体8は、径大部2の当接によってその内径寸法が縮径する弾性変形をし、チゼル3に対して径方向から当接するので、チゼル3が被破砕物70に押しつけられた際に、チゼル3の支持力を増やし、打撃時のチゼルのブレをより少なくすることができる。そのため、ブレーカ本体1が微振動しても、被破砕物70を打撃時の油圧ブレーカ30の騒音と振動を、より低減することができる。
【0033】
次に、本発明の他の実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、以下説明する各実施形態では、上記第一の実施形態と異なる点について説明し、同様の構成についてはその図示並びに説明を省略する。
図3は第二の実施形態に係る油圧ブレーカを説明する図であり、同図は、油圧ブレーカのフロントヘッドを、その軸線を含む断面にて図示している。
【0034】
この第二の実施形態では、上記第一の実施形態に対し、弾性体8が、弾性率の高い(比較的硬い)第一の弾性部材9と、その第一の弾性部材9よりも弾性率の低い(比較的柔らかい)第二の弾性部材10と、を備えて構成されている点が異なっている。
そして、この弾性体8は、第一の弾性部材9が、前記軸方向での径大部2に当接する側に配置され、第二の弾性部材10が、径大部2に当接する側とは反対の側、つまり、前記軸方向でのフロントヘッド6の側に配置されている。さらに、第二の弾性部材10は、その内径寸法が、第一の弾性部材9への径大部2の当接による押付力が付与されたときに弾性変形することで縮径する弾性率をもつ材料から形成されている。なお、その他の構成については上記第一の実施形態同様である。
【0035】
この第二の実施形態の油圧ブレーカによれば、チゼル3が被破砕物70に押付けられたときに、この弾性体8は、その第二の弾性部材10が、フロントヘッド6と第一の弾性部材9とに挟まれて径方向に縮径する弾性変形をする。これにより、上記第一実施形態同様に、チゼル3が被打撃物70に押しつけられた際に、チゼル3の支持力を増やすことができる。
【0036】
さらに、その状態で、ブレーカ本体1が微振動しても、その振幅が第二の弾性部材10の変形量より小さければ、弾性体8の軸方向での弾性変形によって、チゼル3が被破砕物70に押付けられた状態を保持(着岩性向上)できる。したがって、破砕効率が向上し被破砕物70を打撃時の油圧ブレーカ30の騒音と振動を、より低減することができる。
また、第一の弾性部材9は、第二の弾性部材10よりも弾性率が高いので、第二の弾性部材10を土砂による摩耗から保護するとともに、第二の弾性部材10の接触面積を確保して面圧を低減し、耐久性を向上させることができる。そのため、チゼル3の径大部2の直径を小さくすることが可能となり、材料費や加工費を抑えることができる。
【0037】
次に、第三の実施形態に係る油圧ブレーカについて詳しく説明する。
図4は第三の実施形態に係る油圧ブレーカを説明する図であり、同図(a)は、油圧ブレーカのフロントヘッドを、その軸線を含む断面にて図示している。また、同図(b)は、同図(a)のF方向から見た図である。
この第三の実施形態では、チゼル3の径大部2に対し、その上側となるフロントヘッド6側に弾性体18を配置し、その下側となるフロントヘッド6とは反対の側に弾性体19を配置しており、さらに、上側の弾性体18と下側の弾性体19との間には、円筒状の遮音材15が配置されている。
【0038】
詳しくは、上側の弾性体18は、その基端側に円環状の鍔部18aを有しており、この鍔部18aが、フロントヘッド6の内周面に設けられ、フロントキャップ12の先端側の位置に形成された円環状の固定溝6mに嵌め込まれることで固定されている。なお、この弾性体18は、固定溝6mを設けることなく、上記実施形態のようにチゼル3の径大部2とフロントヘッド6との間に装着する構成でもよい。
【0039】
さらに、この油圧ブレーカは、ブレーカ本体1の周囲を囲む円筒状のベース13を備えて構成されている。ベース13は、ブレーカ本体1のフロントヘッド6を含むその周囲を囲繞する周壁部材であり、このベース13とブレーカ本体1のフロントヘッド6との間には、ゴム等の緩衝部材22が介装され、この緩衝部材22が介装されていない部分は隙間Sになっている。
【0040】
そして、このベース13が、ブラケット20に対し溶接で固定されており、ベース13の下端部分には、ブレーカ本体1の軸方向とは直角方向を向く円環状の装着板13tが設けられている。この装着板13tは、同図(b)に示すように、中央部にチゼル3の軸部を挿通可能な貫通孔13pを同軸に有し、その貫通孔13pの周囲に複数のタップ孔が形成されており、円環状のキャップ14が複数のボルト16によって装着されることで、ブレーカ本体1の軸方向での移動を拘束可能になっている。そして、このキャップ14の内周面には円環状の固定溝14mが形成されており、一方、上記弾性体19は、その先端側に円環状の鍔部19aを有しており、この鍔部19aが、キャップ14の固定溝14mに嵌め込まれることで保持されている。なお、上記遮音材15は、キャップ14に保持された弾性体19とフロントヘッド6の端面との間に介装されて、複数のボルト16によってキャップ14が装着される際に、同時に軸方向の位置が固定される。なおまた、遮音材15は、ボルトによる固定に代えてピン等によって固定してもよい。
【0041】
ここで、先端側の弾性体19とチゼル3の径大部2とは、互いが当接したときに、チゼル3の溝端部3cおよびロッドピン7相互が当接しないように設定されており、互いの衝突が防止されている。換言すれば、先端側の弾性体19とチゼル3の径大部2とは、互いが当接したときに、チゼル3およびロッドピン7は、互いの摺動部以外の部分では非当接状態となるように設けられている。なお、上記弾性体装着部材には、キャップ14が対応している。
【0042】
この第三の実施形態の油圧ブレーカによれば、上記第一の実施形態での作用・効果に加え、径大部2の下側にも弾性体19を備えており、この弾性体19は、チゼル3の径大部2に当接したときに、チゼル3およびロッドピン7との間には、その対向方向(同図での符号E)に隙間を有することで、互いの摺動部以外の部分では非当接状態となるように設けられている。そのため、被破砕物70の打撃時および被破砕物70を破砕時の油圧ブレーカの騒音と振動をより低減することができる。
【0043】
さらに、この第三の実施形態の油圧ブレーカによれば、ブレーカ本体1の外側に、緩衝部材22を介してベース13をさらに備え、このベース13とフロントヘッド6との間に隙間Sが設けられているので、この構成がいわばサイレンサーとして機能する。したがって、被破砕物70の打撃時および被破砕物を破砕時の油圧ブレーカの騒音と振動をより低減することができる。
【0044】
次に、第四の実施形態に係る油圧ブレーカについて詳しく説明する。
図5は第四の実施形態に係る油圧ブレーカを説明する図であり、同図は、油圧ブレーカのフロントヘッドを、その軸線を含む断面にて図示している。
同図に示すように、この第四の実施形態では、チゼル3は、径大部2をフロントヘッド6内に位置する部位に有している。そして、この径大部2の軸方向での先端側と基端側とに、弾性率の小さな円環状の弾性体17をそれぞれ配置している。
【0045】
詳しくは、フロントヘッド6内には、チゼル3の径大部2が往復移動する範囲に対応した位置に、径大部2よりも大きな内径をもつ弾性体収容部6aが形成されている。そして、この弾性体収容部6aの上下の端部それぞれに、円環状の固定溝6mが形成されている。一方、二つの弾性体17のうち、上側の弾性体17Uは、基端側に円環状の鍔部17tを有し、下側の弾性体17Lは、先端側に円環状の鍔部17tを有している。そして、各鍔部17tが、弾性体収容部6aの上下の固定溝6mにそれぞれ嵌め込まれることで固定されている。ここで、この例では、チゼル3の径大部2の外周面2gと弾性体収容部6aの内周面6kとの間には、対向する方向での隙間を比較的に広く確保している。なお、この例では、二つの弾性体17は、同一の弾性率の材質かつ形状のものを用いているが、相互の形状や弾性率が異なる構成としてもよい。
【0046】
この第四の実施形態の油圧ブレーカによれば、径大部2の上下に、二つの弾性体17をそれぞれ配置したことにより、チゼル3が打撃後に前進又は後退してもフロントヘッド6と衝突することを防止することができる。そして、フロントヘッド6内に径大部2を設け、この径大部2を上下の弾性体17で挟み込むように支持しているので、ロッドピン7を不要とすることができる。また、この二つの弾性体17は、フロントヘッド6内に装着されているので、外部に装着されるものに比べて衝突音を減衰させ、騒音をより低減可能である。また、径大部2の上下の弾性体がフロントヘッド6に内装されているので、土砂や外気による影響から保護されるので、上記第一の実施形態のような外部装着型に比べて耐候性の点で優れている。
【0047】
次に、第五の実施形態に係る油圧ブレーカについて詳しく説明する。
図6は第五の実施形態に係る油圧ブレーカを説明する図であり、同図は、油圧ブレーカのフロントヘッドを、その軸線を含む断面にて図示している。
この第五の実施形態は、上記第四の実施形態に対し、チゼル3の径大部2の外周面2gと弾性体収容部6aの内周面6kとの間の隙間寸法を管理しており、内周面6kがチゼル3の軸方向での摺動面として機能するように構成されている点が異なっている。
【0048】
この第五の実施形態の油圧ブレーカによれば、二つの弾性体17とフロントヘッド6の内周面6kとの接触部がチゼル3の支持に寄与するので、チゼル3のブレをより低減することができる。そして、基端側の弾性体17Uに径大部2による押付力を加えて弾性変形させることにより、ブレーカ本体1が振動してもチゼル3が被破砕物70に押付けられた状態を保つこと(着岩性向上)ができるので、実打撃時、または、実打撃時および被打撃物が破砕される際に生じる騒音と振動を好適に低減することができる。
【0049】
以上説明したように、本発明に係る油圧ブレーカによれば、その実打撃時、または、実打撃時および被打撃物が破砕される際に生じる騒音および振動を低減させることができる。
なお、本発明に係る油圧ブレーカは、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能なことは勿論である。
【0050】
例えば、上記各実施形態では、チゼル3の径大部2に当接する弾性体は、円環状に形成された例で説明したが、これに限定されず、弾性体は、種々の形状とすることができる。また、個数についても、例えば周方向に離間的に複数設ける構成としてもよい。しかし、装着やメンテナンスの容易性等を考慮すれば、円環状に一体形成された弾性体を装着することは好ましい。なおまた、上記第二の実施形態の例のように、二つまたはそれ以上の弾性部材を組み合わせて弾性体を構成してもよい。
【0051】
また、上記各実施形態では、チゼル3の径大部2およびこれに当接する弾性体を、フロントヘッド外に設けた例(第一の実施形態)、およびフロントヘッド内に設けた例(第四、第五の実施形態)等を例示したように、チゼル3の径大部2およびこれに当接する弾性体は、フロントヘッド内外のいずれに対しても装備可能である。なお、例えば装着やメンテナンスの容易性等を考慮すれば、フロントヘッド外に装備することは好ましい。また、衝突音を減衰させてより低減し、土砂や外気による影響から保護する耐候性等を考慮すれば、フロントヘッド内に装備することは好ましい。
【0052】
また、例えば第四、第五の実施形態に対し、さらに、上記第三の実施形態の例のような、フロントヘッド6の周囲を囲繞するベース13のように周壁部材を備え、フロントヘッド6とベース13との間には、緩衝部材22を介装し、緩衝部材22が介装されない部分には隙間Sを設ける等によって、いわばサイレンサー機能をさらに装備してもよい。なお、このようなサイレンサー機能を奏する構成を付加する場合、チゼルまわりの装置が大掛かりになり、コストアップにつながるので、コストや使用条件等を適宜勘案して装備の採否を選択する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第一の実施形態に係る油圧ブレーカを搭載した作業車両を説明する図である。
【図2】第一の実施形態に係る油圧ブレーカを説明する図であり、同図は、図1でのA部を拡大するとともに、油圧ブレーカのフロントヘッド部分を縦断面にて図示している。なお、右半部はチゼルが前進した状態、左半部はチゼルが後進した状態を示している。
【図3】第二の実施形態に係る油圧ブレーカを説明する図である。
【図4】第三の実施形態に係る油圧ブレーカを説明する図である。
【図5】第四の実施形態に係る油圧ブレーカを説明する図である。
【図6】第五の実施形態に係る油圧ブレーカを説明する図である。
【図7】従来の油圧ブレーカの一例を説明する図である。
【符号の説明】
【0054】
1 ブレーカ本体
2 径大部
2a 当接面
3 チゼル
3a 後端周縁部
3b 後端面部
3c 溝端部
4 シリンダ
5 ピストン
6 フロントヘッド
7 ロッドピン
8a 端面
8 弾性体
9 第一の弾性部材
10 第二の弾性部材
11 打撃室
11a 鍔部
12 フロントキャップ
13 ベース
14 キャップ
15 遮音材
16 ボルト
17 弾性体
18 弾性体
19 弾性体
20 ブラケット
22 緩衝部材
30 油圧ブレーカ
40 バックヘッド
50 作業車両
52 走行台車
54 旋回台
56 アーム
70 被破砕物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを前後進可能に摺嵌したシリンダの軸方向での先端側にフロントヘッドを設けてなるブレーカ本体と、前記フロントヘッド内に前記軸方向に往復移動可能に挿着されるチゼルと、を備える油圧ブレーカであって、
前記チゼルは、前記フロントヘッドよりも外側に位置する部位に、その径方向に張り出す径大部を有し、前記チゼルの径大部とフロントヘッドとの間には、前記チゼルが前記軸方向での基端側に移動した所定の位置で前記径大部およびフロントヘッドに対して当接する弾性体が装着されていることを特徴とする油圧ブレーカ。
【請求項2】
前記ブレーカ本体には、前記フロントヘッドの前端面に所定の距離を隔てて対向する弾性体装着部材が連結されており、当該弾性体装着部材には、前記チゼルが前記軸方向での先端側に移動した所定の位置で前記径大部に対して当接する弾性体がさらに装着されていることを特徴とする請求項1に記載の油圧ブレーカ。
【請求項3】
ピストンを前後進可能に摺嵌したシリンダの軸方向での先端側にフロントヘッドを設けてなるブレーカ本体と、前記フロントヘッド内に前記軸方向に往復移動可能に挿着されるチゼルと、を備える油圧ブレーカであって、
前記チゼルは、前記フロントヘッド内に位置する部位に、その径方向に張り出す径大部を有し、前記フロントヘッド内には、前記チゼルが前記軸方向での先端側および基端側の少なくとも一方に移動した所定の位置で前記径大部に対して当接する弾性体が装着されていることを特徴とする油圧ブレーカ。
【請求項4】
前記弾性体は、前記チゼルの径大部に対し前記軸方向での少なくとも基端側に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の油圧ブレーカ。
【請求項5】
前記弾性体は、円環状に形成されており、その内周面が、前記径大部の当接による押付力が付与されたときに弾性変形することで前記チゼルに対して径方向から当接するようになっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の油圧ブレーカ。
【請求項6】
前記弾性体は、第一の弾性部材と、その第一の弾性部材よりも弾性率の低い第二の弾性部材と、を備えて構成されており、前記第一の弾性部材は、前記径大部に当接する側に配置され、前記第二の弾性部材は、前記径大部に当接する側とは反対の側に配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の油圧ブレーカ。
【請求項7】
前記第二の弾性部材は、円環状に形成されており、その内周面が、前記第一の弾性部材への前記径大部の当接による押付力が付与されたときに弾性変形することで前記チゼルに対して径方向から当接するようになっていることを特徴とする請求項6に記載の油圧ブレーカ。
【請求項8】
前記ブレーカ本体の少なくともフロントヘッドの周囲を囲繞する周壁部材をさらに備え、
当該ブレーカ本体の少なくともフロントヘッドと周壁部材との間には、緩衝部材が介装されており、当該緩衝部材が介装されない部分には隙間が設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の油圧ブレーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−114297(P2008−114297A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296779(P2006−296779)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(594149398)古河ロックドリル株式会社 (50)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】