説明

油圧モータ及び油圧ポンプの斜板角度制御機構

【課題】油圧モータ及び油圧ポンプの斜板角度制御機構に関し、ピストンと斜板との接触による磨耗を防止することができるようにする。
【解決手段】ピストン9を変位させることによって斜板8の傾斜角度が制御される油圧モータ又は油圧ポンプにおいて、ピストン9が、ピストン本体部91と、ピストン本体部91に対して平面92aで摺動自在に接触するとともに斜板8に対して曲面92cで摺動自在に接触するパッド部92とを有し、斜板8のパッド部92に接触する接触面8aが、パッド部92の曲面92cと同じ曲率の曲面で形成されているように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧モータ及び油圧ポンプの斜板角度を制御する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図4に示すように、ピストン(プランジャ)式の油圧モータ10は、ハウジング11と、ハウジング11内に回動可能に軸支されたシャフト12と、シャフト12と一体に回動可能にシャフト12に連結されたシリンダバレル13と、シリンダバレル13に形成された複数のシリンダ14と、各シリンダ14の内部に摺動自在に挿入された複数のピストン(プランジャ)15と、ハウジング11に支持され、プランジャ15の一端部がシュー16を介して摺動自在に当接する斜板17と、プランジャ15とは別のピストンであって斜板17にその一端部が当接する斜板角度用ピストン18とを有して構成され、複数のシリンダ14内部に順に作動油が供給されプランジャ15が往復運動することで、シャフト12の回転運動を取り出すことができるようになっている。
【0003】
また、油圧モータ10は、斜板角度用ピストン18によって斜板17の傾斜角度が設定され、その傾斜角度を変えることによりプランジャ15のストロークを変えて、供給された作動油の圧力を制御し、取り出す回転運動のエネルギ(トルク)を制御することができるようになっている。
ここで、図5に拡大して示すように、斜板角度用ピストン18は、斜板17の面17aに対して点接触をしており、高圧となっている。また、斜板17の傾斜角度が変化するに伴い、斜板角度用ピストン18と斜板17との接触位置が変化するようになっている。
【0004】
なお、こうした斜板角度用ピストン18と斜板17との点接触については、油圧ポンプに関する技術ではあるが、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2005−315241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、斜板角度用ピストン18と斜板17とは、高圧で点接触するために、斜板17の傾斜角度が変化するに伴い、斜板角度用ピストン18が斜板17の面17a上を高圧で摺動して磨耗が発生しやすいという課題がある。また、斜板角度用ピストン18と斜板17とは、角度を持って接触するために、斜板角度用ピストン18からハウジング11へ径方向の力(ラジアル力)Fが発生して、そこにも磨耗が発生しやすいという課題がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みて案出されたもので、ピストンと斜板との接触による磨耗を防止することができるようにした、油圧モータ及び油圧ポンプの斜板角度制御機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の本発明の油圧モータ及び油圧ポンプの斜板角度制御機構は、ピストンを変位させることによって斜板の傾斜角度が制御される油圧モータ又は油圧ポンプにおいて、該ピストンが、ピストン本体部と、該ピストン本体部に対して平面で摺動自在に接触するとともに該斜板に対して曲面で摺動自在に接触するパッド部とを有し、該斜板の該パッド部に接触する接触面が、該パッド部の曲面と同じ曲率の曲面で形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の本発明の油圧モータ及び油圧ポンプの斜板角度制御機構によれば、斜板のパッド部に接触する接触面が、パッド部の曲面と同じ曲率の曲面で形成されているので、ピストンと斜板との接触は面接触となり、接触圧を低減して、斜板の傾斜角度の変更に伴うピストンと斜板との接触部の磨耗を防止することができる。
また、ピストンがピストン本体部とパッド部との2ピースに分割されているので、ピストンが斜板から受ける応力の下に発生する、ピストンからハウジングへ向かうラジアル力をピストンの分割構造で吸収し、従来の1ピース形状のときよりも低減することができる。さらに、この2ピースへの分割によって、ピストン本体部とパッド部とで材料や表面処理を別に設定して、パッド部及び斜板間、ピストン本体部及びハウジング間における、ピストン本体部とパッド部との接触部の性質をそれぞれ適切に高めて、磨耗を防止することができる。なお、ここで、背反として、ピストンにおいて、ピストン本体部及びパッド部間で摺動が発生するが、ピストン本体部及びパッド部間の接触は平面接触であるので、接触面積を確保しやすく、圧力(面圧)を低く設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
[一実施形態]
本発明の一実施形態について説明する。図1〜図3は本発明の一実施形態に係る油圧モータの斜板角度制御機構を示す図であって、図1はその斜板と斜板角度用ピストンとの接触部周辺を拡大して示す模式的な断面図、図2は図1のA−A矢視断面図、図3はその油圧モータの全体構成を示す模式的な断面図である。
【0010】
<構成>
図3に示すように、油圧モータ1は、ハウジング2と、ハウジング2内に回動可能に軸支されたシャフト3と、シャフト3と一体に回動可能にシャフト3に連結されたシリンダバレル4と、シリンダバレル4に形成された複数のシリンダ5と、各シリンダ5の内部に摺動自在に挿入された複数のピストン(プランジャ)6と、ハウジング2に支持され、プランジャ6の一端部がシュー7を介して摺動自在に当接する斜板8と、プランジャ6とは別のピストンであって斜板8にその一端部が当接する斜板角度用ピストン9とを有して構成され、複数のシリンダ5内部に順に作動油が供給されプランジャ6が往復運動することで、シャフト3の回転運動のエネルギを取り出すことができるようになっている。
【0011】
斜板角度用ピストン9は、図1に示すように、ピストン本体部91とパッド部92とを有している。つまり、斜板角度用ピストン9は、ピストン本体部91とパッド部92との2ピースに分割された構成になっている。
ピストン本体部91は、ハウジング2に形成されたシリンダ2aに摺動自在に嵌合するように略円筒状に形成されている。
【0012】
パッド部92は、ピストン本体部91の斜板8に対面する平らな面(平面)91a上に配置され、斜板8に対して摺動自在に接触する面92cが球面に形成されている。
そして、ピストン本体部91とパッド部92とは、溶接やボルト締結等の締結手段により結合されることなく、両者91,92間は油で潤滑され、相対的に摺動自在に平面91a,92aで接触するように構成されている。
【0013】
詳しくは、例えば、図2に示すように、ピストン本体部91の平面91aに溝91bが形成されるとともに、パッド部92のピストン本体部91aに対面する平らな面(平面)92aに、溝91bに嵌合する突部92bが形成され、これらの溝91bと突部92bとが遊びを持って嵌合して、ピストン本体部91とパッド部92とが連結するように構成されている。なお、ピストン本体部91とパッド部92とは、相対的に平面で摺動することが可能であれば、図2に示す構成に限定されない。
また、斜板8は、パッド部92に接触する部分の面(接触面)8aが、パッド部92の面92cと同じ又は略同じ径の球面に形成されている。
【0014】
<作用・効果>
本発明の一実施形態にかかる油圧モータの斜板角度制御機構は上述のように構成されているので、以下のような作用・効果がある。
斜板角度用ピストン9のパッド部92の面92cと斜板8の面8aとが同じ又は略同じ径の曲面で形成されているので、斜板角度用ピストン9と斜板8との接触は面接触となり接触圧が低減し、また、斜板8の傾斜角度の変更に伴う斜板角度用ピストン9と斜板8との引き摺りがなくなり油膜を保持しやすく、斜板8の傾斜角度の変更に伴う斜板角度用ピストン9と斜板8との接触部の磨耗を防止することができる。
【0015】
また、斜板角度用ピストン9が2ピースに分割されているので、斜板角度用ピストン9が斜板8から受ける応力の下に発生する、斜板角度用ピストン9からハウジング1へ向かうラジアル力を、斜板角度用ピストン9の分割構造で吸収し、従来の1ピース形状のときよりも低減することができる。さらに、この2ピースへの分割によって、ピストン本体部91とパッド部92とで材料や表面処理を別に設定して、パッド部92及び斜板8間、ピストン本体部91及びハウジング1間における、ピストン本体部91とパッド部92との接触部の性質をそれぞれ適切に高めて、磨耗を防止することができる。なお、ここで、背反として、斜板角度用ピストン9において、ピストン本体部91及びパッド部92間で摺動が発生するが、ピストン本体部91及びパッド部92間の接触は平面接触であるので、接触面積を確保しやすく、圧力(面圧)を低く設定することができる。
【0016】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
例えば、上記実施形態において、パッド部92の斜板8に接触する面92cは球面に形成されているとともに、斜板8のパッド部92に接触する面8aは、パッド部92の面92cと同じ又は略同じ径の球面に形成されているが、これらの面8a,92cは、球面で形成されることに限らず、互いに同じ曲率の曲面で形成されていれば良い。
【0017】
また、上記実施形態において、ピストン式の油圧モータ1について説明したが、油圧モータ1と同様の構造のピストン式の油圧ポンプに適用されてもちろん良い。このようにしても、同様の作用・効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る油圧モータの斜板角度制御機構を示す図であって、その斜板と斜板角度用ピストンとの接触部周辺を拡大して示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る油圧モータの斜板角度制御機構を示す図であって、図1のA−A矢視断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る油圧モータの斜板角度制御機構を示す図であって、その油圧モータの全体構成を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の従来技術に係る油圧モータの斜板角度制御機構を示す図であって、その油圧モータの全体構成を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明の従来技術に係る油圧モータ斜板角度制御機構を示す図であって、その斜板と斜板角度用ピストンとの接触に関して説明するための模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 油圧モータ
2 ハウジング
3 シャフト
4 シリンダバレル
5 シリンダ
6 プランジャ
7 シュー
8 斜板
8a 接触面
9 斜板角度用ピストン
91 ピストン本体部
92 パッド部
92a 平面
92c 曲面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを変位させることによって斜板の傾斜角度が制御される油圧モータ又は油圧ポンプにおいて、
該ピストンが、ピストン本体部と、該ピストン本体部に対して平面で摺動自在に接触するとともに該斜板に対して曲面で摺動自在に接触するパッド部とを有し、
該斜板の該パッド部に接触する接触面が、該パッド部の曲面と同じ曲率の曲面で形成されている
ことを特徴とする、油圧モータ及び油圧ポンプの斜板角度制御機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−31744(P2010−31744A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194817(P2008−194817)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】