説明

油圧緩衝器

【課題】 極めて簡単な構造によって外筒の開口部から離れた位置の摺動部材を、外筒の内周面に固定することが可能な油圧緩衝器を提供する。
【解決手段】 外筒2の開口部6から離れた位置に嵌合固定される摺動部材4を、合わせ目開度が15°〜25°のリング状に形成し、外筒2に圧入する際に合わせ目開度が小さくなるように変形させて外筒2の開口部6から離れた位置の外筒内周面に形成される嵌合凹部11に嵌合させて組み付けるので、合わせ目の間隔が比較的大きく形成されているため、摺動部材4を十分変形させて外筒2の開口部6から離れた位置に圧入することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外筒の内周面の上下2箇所に嵌合固定される摺動部材にロッド又は内筒を当接させて摺動自在とした油圧緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧緩衝器(例えば、ショックアブソーバ)等においては、外筒に対して上下に配置されるブシュ等のリング状の摺動部材を介在させてロッド又は内筒を摺動自在としている。この場合、一般的に、外筒が有底筒状に形成されているため、外筒の開口部から離れた位置に配置される摺動部材は、外筒の開口部からリング状の摺動部材を圧入する距離が長くなるため、圧入の際に外筒の内壁面を傷つけたりするおそれがあり、このため、外筒の開口部から離れた位置の摺動部材は、ロッド又は内筒の外周面に固着されている。一方、外筒の開口部に近い位置に配置される摺動部材は、外筒の開口部から圧入する距離が短いため、外筒の内周面に固着されている。
【0003】
上記のように構成される油圧緩衝器においては、外筒の開口部に近い位置に配置される摺動部材の摺動面は、ロッド又は内筒の外周面と摺動し、外筒の開口部から離れた位置に配置される摺動部材の摺動面は、外筒の内周面と摺動することになる。このため、2つの摺動部材と摺動するロッド又は内筒の外周面と外筒の内周面との表面粗さが摩耗量に大きく影響することになるが、特に、外筒は、上記したように有底円筒状に形成されるため、外筒の内周面の表面粗さを細かく加工することが困難であるという欠点があった。
【0004】
上記のような欠点を解消するためには、2つの摺動部材を外筒の内周面に固定するようにして、摺動部材の摺動面が表面粗さを細かくしやすいロッド又は内筒の外周面と摺動するような構造にすることが考えられる。そして、このような構造を示すものとして特開2000−179603号公報がある。
【特許文献1】特開2000−179603号公報(段落0013、図1の符号4,5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2000−179603号では、外筒(アウターチューブ2)の開口部から離れた位置に配置される摺動部材(ブッシュ4)が、外筒の内周面に固定されている旨が記載されているが、その摺動部材がどのような構造によって外筒に固定されるかについて、一切記載がない。本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、極めて簡単な構造によって外筒の開口部から離れた位置の摺動部材を、外筒の内周面に固定することが可能な油圧緩衝器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明においては、外筒の内周面の上下2箇所に嵌合固定される摺動部材にロッド又は内筒を当接させて摺動自在とした油圧緩衝器において、前記摺動部材のうち、少なくとも前記外筒の開口部から離れた位置に嵌合固定される摺動部材を、合わせ目開度が15°〜25°のリング状に形成し、前記外筒に圧入する際に前記合わせ目開度が小さくなるように変形させて前記外筒の開口部から離れた位置の外筒内周面に形成される嵌合凹部に嵌合させて組み付けることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明においては、前記摺動部材は、鋼裏金の内周面に樹脂層を設けたことを特徴とし、請求項3に係る発明においては、前記摺動部材は、鋼裏金の内周面に銅系若しくはアルミ系の軸受合金層を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、外筒の開口部から離れた位置に嵌合固定される摺動部材を、合わせ目開度が15°〜25°のリング状に形成し、外筒に圧入する際に合わせ目開度が小さくなるように変形させて外筒の開口部から離れた位置の外筒内周面に形成される嵌合凹部に嵌合させて組み付けるので、合わせ目の間隔が比較的大きく形成されているため、摺動部材を十分変形させて外筒の開口部から離れた位置に圧入することができる。この場合、合わせ目開度が15°未満であると外筒に圧入する際に十分な変形量が得られず、このため圧入時に外筒の内周面又は摺動部材自体が損傷してしまう場合があり、合わせ目開度が25°を超えると圧入後に合わせ目における隙間が大きくなり、このためロッド又は内筒との間のガタツキが多くなり結果的にスムーズな摺動がおこなわれないという場合がある。なお、摺動部材としては、圧入時の変形と圧入後の戻りを確実にするために、裏金として剛性のある鋼裏金を使用した摺動部材であることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、油圧緩衝器を示す模式図であり、図2は、摺動部材の正面図である。図1において、図示に示す油圧緩衝器1は、二輪車用のフロントフォークの模式図であり、車体側に取り付けられる外筒2内に車軸側に取り付けられる内筒3が摺動自在に挿入されている。外筒2の上下の内周面に形成される嵌合凹部11,12には、リング状の摺動部材4,5が固定され、前記内筒3の外周面と摺動するようになっている。また、外筒2の開口部6の内周に外筒2と内筒3の内部を密封するオイルシール材7が設けられている。
【0010】
更に、外筒2と内筒3の内部に、その詳細を省略するが、ダンパシリンダとピストンロッドからなるダンパ8が内装されている。このダンパ8は、外筒2と内筒3の摺動に応じてダンパ8内の気体室と油室の圧力を調節して衝撃を吸収する構造となっている。また、外筒2と内筒3の摺動による衝撃を吸収する構造として、内筒3の内側上部であってダンパ8の外側に配置されてその上端が外筒2の有底面に当接しその下端が内筒3に形成されたスプリング止め部に当接するスプリング10がある。そして、スプリング10の伸縮をガイドするためにダンパ8の外側にはスプリングガイド9が固着されている。このように、図示の油圧緩衝器1は、ダンパ8とスプリング10とにより衝撃を吸収する構造となっている。
【0011】
ところで、油圧緩衝器1における外筒2と内筒3は、上記したように外筒2の内周面の上下に形成される嵌合凹部11,12に嵌合固定される摺動部材4,5によって摺動自在となっているが、特に、外筒2の開口部6から離れた位置の嵌合凹部11に嵌合される摺動部材4を外筒2の開口部6から圧入させるために、摺動部材4の構造は、図2に示すようになっている。
【0012】
即ち、摺動部材4は、鋼裏金20の内周面に多孔質銅系合金に樹脂層を含浸した樹脂摺動層(3層構造)や銅系若しくはアルミ系の軸受合金層(2層構造)等からなる摺動層21を積層したものからなり、その合わせ目の開度θが15°〜25°に設計されている。従来、リング状の摺動部材の合わせ目は、圧入後の間隔が零となるように設計されるのが一般的であったが、本実施形態においては、外筒2に圧入する際に、外筒2の開口部6から離れた位置まで移動させる際に外筒2の内周面や摺動部材4自体を破損させないために、合わせ目の大きさを圧入後であっても合わせ目の間隔が零とならないように設計されている。圧入後において合わせ目の間隔が零とならなくても、外筒2と内筒3の摺動がスムーズに行なわれることが実験により確認されている。ただし、合わせ目開度θが15°未満であると外筒2に摺動部材4を圧入する際に十分な変形量が得られず、このため圧入時に外筒2の内周面又は摺動部材4自体が損傷してしまう場合があり、合わせ目開度θが25°を超えると圧入後に合わせ目における隙間が大きくなり、このため内筒3との間のガタツキが多くなり結果的にスムーズな摺動がおこなわれないという場合があるので、合わせ目開度θは、15°〜25°で設計することが望ましい。なお、外筒2の開口部6に近い位置に固定される摺動部材5の構造として、図2に示す摺動部材と同じ構造のものであっても良いし、圧入後に合わせ目の間隔が零となる従来からの摺動部材を使用しても良い。
【0013】
以上、実施形態に係る油圧緩衝器1の構造について説明してきたが、図示した油圧緩衝器1は、外筒2と内筒3とが摺動する二輪車用のショックアブソーバを例にして説明したが、外筒とピストンロッドとが摺動する四輪者用のショックアブソーバのような油圧緩衝器にも適用することができる。更に、摺動部材4として、ある程度の剛性を必要とすることから鋼裏金を有する摺動部材について説明してきたが、ある程度の剛性が確保されるならば、摺動材のみからなるソリッド摺動部材、あるいは補強材を摺動樹脂でインサート成型した摺動部材であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る油圧緩衝器の模式図である。
【図2】油圧緩衝器に固定される摺動部材の正面図である。
【符号の説明】
【0015】
1 油圧緩衝器
2 外筒
3 内筒
4 摺動部材
5 摺動部材
6 開口部
11 嵌合凹部
12 嵌合凹部
20 鋼裏金
21 摺動層
θ 合わせ目開度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒の内周面の上下2箇所に嵌合固定される摺動部材にロッド又は内筒を当接させて摺動自在とした油圧緩衝器において、
前記摺動部材のうち、少なくとも前記外筒の開口部から離れた位置に嵌合固定される摺動部材を、合わせ目開度が15°〜25°のリング状に形成し、前記外筒に圧入する際に前記合わせ目開度が小さくなるように変形させて前記外筒の開口部から離れた位置の外筒内周面に形成される嵌合凹部に嵌合させて組み付けることを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
前記摺動部材は、鋼裏金の内周面に樹脂層を設けたことを特徴とする請求項1記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
前記摺動部材は、鋼裏金の内周面に銅系若しくはアルミ系の軸受合金層を設けたことを特徴とする請求項1記載の油圧緩衝器。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−9858(P2006−9858A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184977(P2004−184977)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】